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裁判例


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○ 主文
昭和五四年四月二二日執行の和歌山県西牟婁郡白浜町議会議員一般選挙の当選の効
力に関するAらの審査申立に対し、被告が同年一二月二六日付でした裁決はこれを
取消す。
訴訟費用中補助参加により生じた分は補助参加人の負担とし、その余は被告の負担
とする。
○ 事実
(申立)
原告代理人は、主文第一項と同旨及び「訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
を求め、被告代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とす
る。」との判決を求めた。
(主張)
原告は、請求原因として次のとおり述べた。
一 原告は、昭和五四年四月二二日執行の和歌山県西牟婁郡<地名略>議会議員一
般選挙(以下、本件選挙という。)に立候補したものである。
本件選挙の結果、白浜町選挙管理委員会(以下、町選管という。)は、原告を含む
二二名の当選を告示したが、選挙人A外二名から当選の効力に関する異議申出がな
され、昭和五四年六月七日町選管は、この異議申出を棄却する決定をした。
これに対し、Aらから審査申立がなされ、被告はこれについて同年一二月二六日次
のような裁決(以下、本件裁決という。)をなし、同日これを告示した。
すなわち、本件裁決は、原告及び補助参加人にかかわる投票につき、選挙会におい
て原告の有効得票とされた後記二の一票及び無効票とされた後記三の一票を除いて
は、選挙会の決定を維持し、最下位当選人と決定された原告の得票数を選挙会の決
定より一票減じて三八九票、補助参加人の得票数を同じく一票増して三九〇票と
し、前記異議申出棄却決定を取消し、当選人原告の当選を無効としたものである。
二 しかし、被告が無効と判断した別紙投票1のとおりの記載のある投票(以下、
投票1という。投票2以下もこの例による。)は、原告の有効得票と解すべきであ
る。
1 被告は、右投票につき、候補者中原告(B)の氏とCの名を混記したもので、
いずれの候補者に対してなされた投票であるか判断し難い、として無効とした。
2 公選法六七条後段は、投票の効力の決定に当つては、無効投票の規定に反しな
い限り、その投票した選挙人の意思が明白であれば有効とするようにしなければな
らないと定めている。これは、民主主義の根幹である選挙制度において、主権者た
る国民の選挙権行使の意思を可能な限り尊重しようとするものである。したがつ
て、具体的な効力の判定に当つても諸般の事情を考慮し、個々具体的に実質的に判
断して投票者の意思が推測される場合は、誤記があつても有効と解すべきである。
3 (一)原告(B)は、通称「D」「E」と呼ばれており、一般にも「F」と呼
ばれて親しまれ、氏(姓)を中心に町民の間で記憶されているものの、名を正確に
記憶している町民は次のような事情により極めてまれである。
原告は国鉄職員であり、昭和五四年一一月まで国労や<地名略>、田辺市周辺地域
の組合役員をつとめていた。その主な役職は、国労田辺支部副委員長、同書記長、
同委員長、田辺地区労事務局長等であり、議員活動は、昭和二九年当時<地名略>
合併前の東富田村議会議員を一期つとめ、その後議員をやめ国労役員に専従した
が、昭和三三年白浜町議会議員(以下、町議という。)に当選し、その後四回当選
し本件選挙が五期目で、所属政党は日本社会党である。原告の地盤である居住地
は、<地名略>であるが、この<地名略>は三〇世帯、有権者約六五名の小さい部
落であるので、原告は、居住地の支持だけでは到底当選できず、組合組織や社会党
の組織を通じ金町的に浅く広く支持を集める方法をとつてきた。そのため原告の選
挙運動は、氏名を完全に有権者に訴えると複雑で覚えにくいので、氏のみを強調し
て有権者に働きかける方法をとつてきた。したがつて氏は完全に覚えているが名は
覚えていないという支持者も多かつた。特に<地名略>は観光客相手の旅館や飲食
店等が多く、ここに働く女性従業員等は転入、転出が激しいため投票しようと思う
候補者の氏は覚えていても名は知らない者が多い。
具体的な選挙運動においても、原告のポスターは「G」と氏が太字の平かなで大書
されており、選挙運動用自動車の看板は前、後面に「H」、両側面に「G」とのみ
大書していた。こうして、原告はもつぱら氏のみを強調して有権者に印象づける選
挙運動を行つたのであり、投票者も氏のみを強く意識し、記憶していたのである。
原告は、昭和四六年以来「津越のあゆみ」と題する議会報告を作成し、一年に約四
回支持者に配布しているものであるが、右議会報告は昭和五四年一〇月で三四号に
達した。このような活動は町議の中でも原告だけであり、町民と議会を結ぶ活動と
して高く評価されている。この表題も「H」という氏だけであつて名は出ておら
ず、支持者は氏の方をよく覚えている。
(二) Cは、<地名略>の温泉街の中の民間会社の社員寮の寮長であつて、昭和
四六年から町議を二期つとめ、今回が三期目の選挙であつたが、その地盤である居
住地は、<地名略>であり、温泉街の真中で、原告の居住地である農村部とは遠く
離れている。Cの所属政党は保守系無所属で、支持層は、湯崎地区の会社の寮関係
者や旅館関係者が多いから、投票者が原告とCとのいずれにするか迷うことはあり
得ない。
Cは一般に「I」、「J」と氏で呼ばれ、名を呼ぶのは隣近所の、Cの氏名を完全
に知つている人に限られている。Cのポスターは「C」と氏が太字の平かなで大書
されていて、その選挙運動用自動車の看板も氏のみを表示している。Cは、本件選
挙につき町選管に対し通称届をしていない。
このようにCの選挙運動も氏のみを訴えて行つたのであり、Cに投票した者は、C
の氏を意識して記憶していたものである。
したがつて、右投票の「K」の記載は、たまたまCの名と合致したというだけのこ
とであつて、投票者がCに投票する意思で名を書いたというものではない。
(三) 本件のように、地方の小町における町議選挙では、選挙人は氏を重視して
投票したものと考えられ、しかも、本件選挙では、原告及びCに対する投票は、い
ずれも氏名か、氏のみ(氏のみの記載は、原告につき約半数、Cにつき過半数)の
記載であつて、名のみの記載は皆無であつた。
(四) したがつて、以上のような選挙運動実態に鑑み、右投票の効力は「G」と
いう氏の方を重視して投票者の意思を推測し、ことに「G」という珍しい氏を明瞭
に記載している以上、これを原告の有効得票と認めるべきである。
4 投票者は名を誤記したものである。
(一) 本件選挙は、定員二二名に対し、立候補者は二七名という多数激戦であつ
た。
投票所の候補者氏名掲示には、上・下二段に分けて、上段には一四名、下段には一
三名の氏名が記載され、振りかなが付されていた。原告の氏名は下段の右から四番
目にあり、Cの氏名はその左隣りに並んでいた。
(二) 本件選挙は町長選挙(以下、町長選という。)と同時に行われた。投票者
は二枚の用紙を同時に渡され、一回で両方の用紙への記載を要求された。町議候補
者の氏名掲示は町長候補二名の掲示と並べて投票記載台の前方又は側方の壁又は衝
立になされていた。掲示用紙は縦〇・九メートル、横一メートルの大きさであり、
高さは投票所によつて異なるが、下端約一・七メートル、上端約二・六メートルで
ある。
(三) このような同時選挙では、投票者は二枚の用紙を渡されて気が急ぎ、早く
二枚の記載を済ませようとして誤記を犯し易いし、しかも掲示が前方にあつても多
数の氏名が記載されている場合には、氏名を見誤り易いものである。ところが、本
件では数箇所の投票所で、側方に掲示が置かれていたのであるから、斜め横から見
た場合、相並んでいる隣の候補者の名を誤つて記載する可能性は極めて高い。
(四) 前記投票者は、原告に投票する意思で「G」という氏まで正確に書いた
が、名が記憶になく、丁寧に名まで書こうとして、候補者の氏名掲示を見た際、欄
を見まちがえて「B」を左隣りの「K」と書き誤つたものである。
5 原告の二才違いの実弟Lは、昭和二八年まで原告と同居し、その後田辺市に居
住し、昭和四四年二月から昭和四七年三月まで白浜電報電話局に勤務し、この間昭
和四五年九月から一年間全電通労組白浜分会長もしており、組合活動を通じてB兄
弟の存在は<地名略>で広く知られていたものであるところ、Lは、選挙の度に原
告の応援を行つており、本件選挙運動期間中も常時選挙運動用自動車に乗つて走り
回つたり、投票依頼活動を行つていたが、その際容貌がよく似ているため、随所で
原告と間違えられたり或いはLが立候補しているものと思い込んでいる者も多かつ
た。
したがつて、右投票は、原告の名を弟の名と混記して「M」と記憶していた投票者
が原告に投票する意思で「N」と書こうとして名を「K」と誤記したものと見るべ
きである。
6 以上のとおり、右投票は、氏と名の混記ではなく、仮に混記としても、右投票
者は原告に投票する意思で氏を書き、名を記載する段階でそのを誤記したものであ
るから、原告の有効得票と認めるべきである。
よつて、右投票を無効とした本件裁決は、公選法六七条、六八条の解釈適用を誤つ
た違法なものである。
三 被告が補助参加人への有効投票と判断した投票2は無効と解すべきである。
1 被告は、右投票につき、本件選挙及び町長選における候補者の氏名等のうち補
助参加人の氏である「かぎ」と音感の点で近似し、他にこれに類似する氏名等を有
する候補者がない事実を考慮すれば、補助参加人の有効投票と解する、とした。
2 右投票は、単に「かじ、」とのみ記載されているだけであり、しかも、右文字
は明確に達筆で強く記載されている。
これを氏を指すものと解して漢字にあてはめれば、一字の氏だけでも梶・舵・損等
があり、二字になると鍛治・加地・加治・加持・家治・嘉地・嘉治等があるし、更
に「かじ」の下に文字がつく氏は、梶原・梶岡・樫原等多数にのぼる。
従つて、右投票を補助参加人の有効投票とみるのは牽強付会であつて、同投票は、
公職の候補者でない者の氏名を記載したもの(公選法六八条二号)ないしは、候補
者の何人を記載したかを確認し難いもの(同条七号)として無効である。
3 右投票には「かじ、」として記載文字の下に点印がつけられている。これは明
瞭に、太く、強く記載されており、単なる句読点とは異なる有意の印である。
被告は、本件裁決と同時になした町長選に関する裁決において、氏の次の「、」印
等が書かれた投票につき、無意識又は不用意に記載されたものとは認め難い、とし
て他事記載で無効としている。
この料断の趣旨からしても、右投票は、他事記載として無効と解すべきである(公
選法六八条五号)。
4 以上のとおり、右投票は無効であり、これを補助参加人の有効投票とした本件
裁決は公選法六七条、六八条の解釈適用を誤つた違法なものである。
四 本件裁決の個別判断の対象となつた前記二票の投票のほか、無効投票とされた
もののうち二票は原告の有効得票であり、補助参加人の有効得票とされたもののう
ち二票は無効投票である。すなわち、
1 無効投票とされたもののうち、原告の有効得票と認められるべきものは、前記
二のほか、次のとおりである。
(一) 投票3
被告はこれを単に記号、符号を記載したものとして無効と判断しているが、この記
載は「○G」と判読できる。
丸印は候補者への強い投票意志を表すためか、日常慣用的に使われている氏名の上
の丸印を何気なく付けたもので、他事記載とはならない。それ以下の記載は、老人
などで手の不自由な人が書いたかと思われるが、三字の有意の記載であつて、単な
る記号やいたずら書きではない。
むしろ震える手で懸命に書いた字である。そしてこのような字形に近似するのは、
この候補者中には原告以外にはない。
原告は、老人ホームの入寮者にも重点的に選挙運動をし、「G」と大書した選挙運
動用葉書を送付している。
(二) 投票4
「つしぼ」と読めるが、これは「G」を正確に覚えきれずに誤つて書いたものと思
われ、その投票者の意思が原告に投票するつもりであつたことは客観的に充分に認
められる。
全候補者中に頭文字が「つ」ではじまる候補者は他にないし、三文字中の「つ」と
「し」が一致し、「ご」と「ぼ」が違うだけである。語感の点から、他候補で三文
字のものと比較してみても、「つしぼ」と「G」が一番近似し、わざわざこのよう
ないたずら書きをするものはおらないし、また、「つしぼ」などという姓も他にあ
るとは思われないので、候補者以外の者の氏名でもなく、結局は「G」の誤記と認
めるのが妥当である。
2 補助参加人の有効得票とされたもののうち、無効票と認められるべきものは、
前記三のほか、次のとおりである。
(一) 投票5
右投票は、赤色インキのボールペンで記載されたものである。
公選法六八条五号が他事記載を無効とするのは投票の秘密を守るためである。とこ
ろが右のごとく少なくとも補助参加人の有効票及び無効の投票全部のうち、通常の
黒鉛筆以外の筆記用具をもちいた投票はこの一票だけであつて、これはど明瞭に投
票者の特定ができる手段はないわけである。氏名以外の点とか丸とかの記載さえ他
事記載として問題にされるのなら、このような投票の秘密が侵害される危険性の大
きいものを容認する合理的理由は存しない。もしこのような取扱を放置して投票者
の多数が自由に筆記用具を使いわけるといつた事態が生じたとしたならどのような
混乱が生ずるだろうか、それは秘密投票制度の根幹にかかわることである。
そして投票者の立場からしても、この票にも明らかなとおり、達筆な投票記載の能
力のあるものが、わざわざ備付の鉛筆を用いず赤いボールペンを用いるなどの必要
性は全くない筈である。これを禁止し無効とすることによつて被る投票者側の被
害、不便などは全く考えられないのに対し前述のような幣害や危険性のみが大きい
のである。
町選管は、備付けの鉛筆使用を指導し、他の筆記用具による投票を禁じている。
(二) 投票6
この票は一見「かき」と記載しているかのごとくであるが、「き」にあたる部分は
単なる書き消しであつて、投票者は途中で投票意思を放棄したものである。有意の
文字としては「か」のみであつて、頭文字が「か」にあたる候補者は他に「O」、
さらには町長候補者「P」があつて、この「か」の一字が一致するからといつてこ
れを補助参加人(かぎ)への投票とすることはできないはずである。同票は、開票
立会人一〇名中七名が無効としており、一般人がみれば到底判読不能のものであ
る。したがつて、この票はどの候補者への投票か確詔し難いものとして無効とすべ
きものである。
これらを公正に判断せずしてなした本件裁決は違法である。
なお、本件裁決において原告の得票とされたもので原告の得票とは認められないも
の、補助参加人の得票とされた以外のもので補助参加人の得票と認められるもの
は、いずれも存在しない。
五 以上によれば、原告の得票数は本件裁決におけるより三票増え三九二票とな
り、補助参加人の得票数はすくなくとも二票減り三八八票以下となるので、異議申
出を棄却した町選管の決定が正当であり、被告の本件裁決は違法である。
よつて、公選法二〇七条に基づき被告の本件裁決の取消しを求める。
被告は、答弁として次のとおり述べた。
一 請求原因一の事実は認める。
二 同二冒記の主張は争う。
同1、2の事実及び主張は認める。右1の被告の判断は正当である。すなわち、原
告の名「B」とCの名「C」は、文字・発音とも全く異質のものであつて、「Q」
の愛称で呼ばれることも多く本件選挙においても町選管にその旨の通称届をしてい
る原告の支持者が原告の名を誤つて「K」と書くことは到底考えられない。
同3の事実及び主張は争う。但し、Cが本件選挙において通称届をしていないこと
は認める。投票者の意思推認にあたつては、氏の記載を名の記載より重視して判断
すべきではない。
同4冒記の事実は争う。同(一)の事実は認める。同(二)ないし(四)の事実及
び主張は争う。右(四)の主張は、単なる憶測に過ぎない。
同5の事実及び主張は争う。候補者中に、Cがある以上、原告にDという弟があつ
ても、右弟の名は、右投票の効力になんら影響を及ぼすものではない。
同6の主張は争う。
三 同三冒記の主張は争う。
同1の事実は認める。被告の右判断は正当である。すなわち、「かぎ」、「かじ」
とも二音節から成る語で、関西とりわけ和歌山県地方では右両語句とも「か」にア
クセントがあり、「ぎ」「じ」とも口蓋音である意味で共通性があり、拡声機によ
る発声では「ぎ」「じ」の両音は極めて混同を生じやすい。本件選挙の候補者中に
は「か」ではじまる二音節の発音の者は、補助参加人のほかにはない。
同2ないし4の事実及び主張は争う。右投票の「かじ」の文字の下に点が付けられ
ているが、その位置、形状、筆勢等からみて、意識的な他事記載には該当しない。
四 同四の事実及び主張は、末尾のなお書を除きこれを争う。
同1(一)について。投票3の記載は、三文字もしくはそれ以上で構成されている
ようにみえ、下の二文字は「ごし」とは到底読めない。仮に、強いて末尾の文字を
「し」と読むにしても、本件選挙では氏の末尾が「し」の候補者は原告のほか、
「R」、「S」及び「T」の三名があるうえ、筆圧・運筆等からみても、手の震え
るような症状の人か書いたものとは考えられないので、投票を有効と推定すべき合
理的限界を超えるもので、公選法六八条七号の無効票である。
同(二)について。投票4の記載は、「つしぼ」とは読めるが、「G」の誤記とは
いえない。両者は、語の最終音を異にし、語感が全く異るうえ、町長選の候補者中
にPがあり、同人に対する投票中に「片田つしぼ」なる記載のものが存在するの
で、投票4は、右Pの名のつもりで書かれた可能性が最も大きい。よつて、右投票
は、公選法六八条二号あるいは同条七号の無効票である。
同2(一)について。投票5は、最高裁判所昭和三七年一一月一一日判決に照らし
有効というべきである。
同(二)について。投票6の二文字目の記載は、その全体の中で「き」と読むのに
必要な線の部分は比較的濃く、「き」の字を浮き上がらせて読むことが可能であつ
て、その表示を消すための線が特に加筆されている形跡もなく、また、横線の数が
「き」の文字より多いのは、記載の不明瞭さを正すためのものであると認められ、
結局「かき」の記載であつて、濁点を欠く不完全なところもあるが、補助参加人の
有効得票である。
五 同五の主張は争う。
補助参加人は、その主張として次のとおり述べた。
一 投票1は、姓と名の混記である。
原告の愛称が「E」「Q」「D」であることからしても、原告への投票とは考えら
れない。本件選挙において、「えのもとよしはる」なる記載の投票は、候補者Uと
同Vへの混記投票、「原しげる」なる記載の投票は、候補者Uと同Wあるいは同X
への混記投票としていずれも無効として処理されており、投票1も同様無効票であ
る。
二 投票2は、町議候補二九名中、「かじ」から連想、推定しうる候補は補助参加
人以外にはない。又、「ぎ」と「じ」は音感が極めて近似しており、本票が補助参
加人に対する投票の意思のあるものであることに疑いの余地がなく、なまりのある
者の投票によるものかも知れない。
三 投票3は、文字によるものとは到底考えられない。
仮に文字を表示しようとしたものとしても、文字の個数すら判然としない。
四 投票4は、投票者が原告を意図したものであるならば、「ぼ」なる文字が記載
されるはずがない。本件選挙と同時に行われた町長選の候補者「P」の名「P」を
間違つて「つしぼ」と記載したものと思われるから、本票は完全な無効票である。
五 投票6の二文字目は、平かな文字以外の表示と見ることはできない。平かな文
字とすれば「き」以外の文字でこれに近似する文字は他にないから、「き」の文字
である。補助参加人訴訟代理人が一般人五名にこれが何と読めるか聞いたところ、
全員が「ぎ」だと述べた。
この投票者は、投票前懸命に「かぎ」の文字を憶えていたが、投票所に臨場して記
憶が薄れたゝめ、先ず薄く下書きをして後、濃くなぞるように書いたので、自信の
ない文字となつて表現されたものと思われる。
同文字は「き」を鉛筆で消したものとは考えられない。消す意思をもつてしたもの
であれば濃く、明確に×印もしくは印等したであろう。
したがつて、同票が補助参加人への投票であることには疑念の余地がない。
六 選挙会・被告が無効票として処理した中には投票7が存し、同票は、補助参加
人に対する投票であることが明らかである。すなわち、補助参加人は、選挙運動用
自動車上の箱の四面に、各面とも横にかな表示で選挙宣伝を行つていたが、これを
昔流に右から読むと「ぎか」となる。又、連呼でカギ・カギ・カギ・・・・・・と
言つていると「ギカ」にも聞える。本票は補助参加人の姓の反対表示である。
たゞ濁点が「カ」にあつて「キ」にないが、投票2につき述べたようになまりのあ
る者の投票によるものと思われる。
(証拠)(省略)
○ 理由
一 請求原因一の事実は当事者間に争いがない。
二 検証(第一、二回)の結果並びに弁論の全趣旨によれば、本件選挙における投
票中に、投票1ないし7のように記載されたものが各一票存在し、本件裁決におい
てこれらの投票のうち、投票1、3、4及び7が無効票、投票2、5及び6が補助
参加人の有効得票とされたことが認められる。
そこで、これら投票の効力並びにこれらの投票を原告あるいは補助参加人に対する
有効投票とみるべきか否かについて順次判断する。
1 投票1について
(一) 本件選挙における候補者中に、原告(B)のほか、Cがいたことは、成立
に争いのない甲第二、第三号証により明らかであつて、同票の記載は、その前半が
原告の氏と、その後半がCの名とにそれぞれ合致する。
(二) 前掲甲第二号証、成立に争いのない甲第四号証、第六号証の一ないし三
三、第一三号証、本件選挙における原告の選挙運動用自動車の写真であることに争
いのない検甲第一号証、証人Yの証言並びに原告本人尋問の結果によれば、原告
は、<地名略>の出身で現に同所に居住するものであるが、右<地名略>は有権者
七〇ないし八〇名位の小部落であること、原告は国鉄職員であつて、かねてから国
鉄労働組合や地域労働団体の役員を歴任し、日本社会党に所属し、昭和三三年町議
に当選以来、続いて四期町議に当選した後、引続き本件選挙に立候補した者である
こと、原告は、本件選挙に日本社会党公認で立候補し、前記居住地の住民の票だけ
では到底当選できないため、同党及び労働組合の組織を通じて金町的に選挙運動を
展開し、これに用いたポスターには「G」と大書され、自動車には「G」「H」と
大書した看板が乗せられ、選挙運動用葉書の多くにも「G」と朱書するなど、選挙
運動中一貫して氏(G)を強調して有権者に印象づける方針をとつていたことが認
められる。
(三) 成立に争いのない甲第五号証、本件選挙におけるCの選挙運動用自動車の
写真であることに争いのない検甲第二号証の一ないし三並びに証人C、同Zの各証
言によれば、Cは、幼時から四十八、九年間<地名略>の温泉街・湯崎に居住し、
かねてから健康保険組合保養所の寮長や湯崎二丁目町内会長をしていること、同人
は、昭和四六年町議当選以来本件選挙を含め引続き三期町議に当選しており、政党
関係は無所属で自ら保守系と称していること、本件選挙において選挙運動用ポスタ
ーや自動車上の看板には、「P1」「P2」あるいは「C」と大書し、湯崎地区の
保養所・旅館関係者を重点に選挙運動を進めていたことが認められる。
(四) 証人C、同Yの各証言並びに原告本人尋問の結果によれば、原告及びCは
いずれも、<地名略>内において概ねその氏をもつて呼ばれ、極く少数の親しい者
を除いては、その名のみをもつて呼ぶ者は全くないこと(同姓者の多い山村部落な
どでは、広く名をもつて呼びあい、個人を識別記憶する例の多いことは公知の事実
ではあるが、<地名略>ではかような事実を認めるに足りる証拠はない。)、前掲
甲二号証並びに成立に争いのない甲第一二号証によれば、本件選挙及び町長選を通
じ、氏を同じくする候補者は皆無であつたこと、検証(第一回)の結果によれば、
本件選挙における投票中、原告あるいはCの名のみを記載したものは皆無であつた
ことがそれぞれ認められる。
(五) 請求原因二4(一)の事実は当事者間に争いがなく、前掲甲第三号証、証
人P3の証言及びこれにより真正に成立したと認められる甲第九号証の一、二、第
一〇号証によれば、本件選挙は町長選と同時に行われ、選挙人は町長選の投票後に
本件選挙の投票用紙を受取りこれに記載することとなつていたところ、投票所にお
ける本件選挙の候補者氏名の掲示紙の大きさは、縦約〇・八一メートル、横約〇・
九四メートルで、右掲示紙は、ほとんどの投票所では、記載台からみて正面に張ら
れていたが、小学校体育館など広い場所にあつたいくつかの投票所では、記載台か
らみて側方に張られていたことが認められる。
(六) 右(二)ないし(五)の事実によれば、原告・Cともに<地名略>内にお
いて通常その氏のみをもつて呼ばれ、本件選挙の運動においても、ほとんどその氏
のみをもつて選挙人らに働きかけていたところ、原告への投票者のなかには、原告
との個人的つながりが薄いことから固定的とはいえない選挙人がすくなくなく、し
かも原告の氏のみを記憶していても、その名までも知らない者がすくなくなかつた
ことが考えられ、一方、Cへの投票者のうち、その名に強い印象を有する者は、極
く近しい者に限られ、しかもその名を知つていて氏を知らない者のあることは考え
難いものであり、さらに、前記のような投票所における候補者氏名掲示の状況等か
らみると、原告の氏のみを記憶し名までも記憶していない原告に対する投票者が、
原告の名を候補者氏名の掲示紙の左隣に掲記された「K」と見誤ることも優に予想
されるところである。
してみると、公選法六七条後段の趣旨に照らし、投票1は、原告に対する投票の意
思をもつてなされ、単に原告の名のみが誤記されたにすぎないものとみるのが相当
であつて、原告に対する有効投票と認めるべきである。
(七) 前掲甲第六号証の二四、成立に争いのない乙第四号証の二、証人P4、同
Yの各証言並びに原告本人尋問の結果によれば、原告が「Q」の通称をも有し、本
件選挙において選挙長にあてその旨の届出をしていたことが認められるが、一方、
右各証言及び本人尋問の結果によると、右通称が<地名略>内において広く知られ
ていなかつたことが認められるので、原告が右のような通称を有し通称届をしてい
た事実は前記判断を左右せず、また、原告の弟(M)の存在も同判断に影響を及ぼ
すものではない。
2 投票2について
検証(第一回)の結果によれば、右投票の文字は明確に記載されていることが認め
られ、右記載は本件選挙の候補者中、補助参加人と神原の各頭文字「か」を含む
が、その他にはこれに近似した氏名を有する者のないことが前掲甲第二号証により
認められる。<地名略>地方において特に「かぎ」と「かじ」あるいは「ぎ」音と
「し」音が混同して使用されていた事実はこれを認めるに足りる証拠はない。
してみると、補助参加人の氏に対比して、同票の記載の字数及び頭文字が共通であ
り、下の文字がイ段の口蓋音・濁音である点で共通するからといつて、これを補助
参加人に対する有効投票と解することはできない。
3 投票3について
検証(第一、二回)の結果に照らし、同票の記載は、文字として判読することがで
きないので、原告に対する投票の意思で書かれたものとは認めることができず、強
いて判読すれば、「○G」にやや類似するところがあるといえないわけではない
が、この場合「O」はその以下の記載と対比し意識的な他事記載とみなければなら
ないので、いずれにしても、右投票は無効である。
4 投票4について
検証(第一回)の結果によれば、同票は「つしぼ」と明確に記載されていることが
認められるところ、「つしぼ」なる氏あるいは名は考え難く、「つ」で始まる候補
者が他になく、原告の氏に対比して、同票の記載の字数及び頭文字を共通にし、か
つ、「し」の文字及びオ段の濁音一字を含んでいるからといつて、これを原告に対
する有効投票と解することはできない。
5 投票5について
検証(第一回)の結果によれば、同票は赤インキのボールペンで記載されたものと
認められるところ、かような投票が投票者の特定につながりうる恐れのあることは
原告の主張するとおりであるけれども、右赤文字による投票が投票者識別の意図と
結びつきを有することを認めるに足りる証拠はなく、投票所備付の鉛筆を用いなか
つたことだけでは、かかる意思を推認することは相当でない。
よつて、公選法六八条五号を準用してこれを無効とすることはできない。
6 投票6について
検証(第一、二回)の結果によれば、同票の記載は、上の部分が明確に「か」であ
り、下の部分はその全体の感じからすると「き」と読むことができ、さらに仔細に
みると、薄く書かれた「き」に似た文字と、これより濃く書かれた「き」に似た文
字が重なつた場合におけるような形状であつて、記載の抹消とみるべき形状にはな
いことが認められる。
してみると、右投票者は、先ず「か」と書いたうえ、次いでその下に「き」と書く
意思で鉛筆を動かしたが、これが薄かつたため、さらにはつきり「き」と書く意思
で鉛筆を動かしたものとみることもできる。
結局、右投票は「かき」と書く意思に基く記載であつて、「き」の字について濁点
を欠くものの、補助参加人に対する有効投票とみるのが相当である。
前掲甲第一一号証並びに証人P5の証言によれば、本件選挙の開票立会人一〇人中
七人が右投票が無効であるとの意見を述べたことが認められるが、この事実も右判
断を左右しない。
7 投票7について
同票の記載は、補助参加人の氏に対比して、その文字順及び清濁音の別がそれぞれ
逆になつている。証人P6の証言及びこれにより本件選挙における補助参加人の選
挙運動用自動庫の写真であると認められる検乙第一、第二号証によれば、補助参加
人は右選挙運動用自動車上にかな文字左横書きで「かぎ」「カギ」(右から読むと
「ギカ」となる。)と大書した看板を掲げ、「カギ」、「カギ」と連呼していたこ
とが認められるけれども、その故をもつて、選挙人が補助参加人の氏を「ぎか」
「きが」等と誤認し、あるいは、投票に際しかように誤記することは考え難く、右
投票を補助参加人に対する有効投票と解することはできない。
三 検証(第一回)の結果に照すと、本件裁決において原告の有効得票とされた三
八九票中に他候補者への投票あるいは無効票とみるべきものはなく(検証(第一
回)番号一二〇ないし一二二、一二四、一二六、一二九、一三〇の各投票の原告氏
名の文字の右下の点「、」については、同結果により認められるその位置、形状及
び筆勢(特に強く書かれたものとは認められない。)に鑑み、原告の氏名の文字を
書き終え、他意なく付したものとみるのが相当であつて、公選法六八条五号の他事
記載には該当しない。)、また無効票とされたものの中に補助参加人に対する有効
投票とみるべきものは存しないこと、また、弁論の全趣旨によると、本件裁決にお
いて他候補者への有効投票とされた投票中に補助参加人への有効投票とみるべきも
のは存しないことがそれぞれ認められる。
四 以上によれば、本件選挙につき、選挙会において最下位当選人と決定された原
告の有効得票数は本件裁決における三八九票に一票(投票1)を加えた三九〇票で
あり、補助参加人の有効得票数は本件裁決における三九〇票から一票(投票2)を
減じた三八九票であるというべきであつて、原告の得票数は補助参加人のそれを上
回るから、公選法九五条一項(原告の得票数が同項但書四号の要件を充たすこと
は、前掲甲第二号証により計数上明らかである。)により、原告を当選人とした選
挙会の決定は正当であり、これと趣旨を異にする本件裁決は違法であつて取消さな
ければならない。
よつて、本件裁決の取消を求める原告の請求は正当としてこれを認容することと
し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九四条後段を適用して主文のとおり判決
する。
(裁判官 仲西二郎 高山 農 大出晃之)

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