弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 昭和三五年審判第二六一号事件について、特許庁が昭和四二年五月一二日にし
た審決を取り消す。
2 訴訟費用中、原告らと被告との間に生じたものおよび原告ら補助参加人の参加
によつて生じたものは被告の負担とし、被告補助参加人の参加によつて生じたもの
は、同参加人の負担とする。
3 被告のため、この判決に対する上告の附加期間を三か月と定める。
       事   実
第一、双方の求めた裁判
 原告ら訴訟代理人は、主文第一項と同旨ならびに「訴訟費用は被告の負担とす
る」旨の判決を求め、被告訴訟代理人は「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原
告らの負担とする」との判決を求めた。
第二、原告らの請求原因
一、被告は、特許第二一四、一八三号「有機塑性材料より中空の品物を造る方法」
(後記訂正審判により「有機熱可塑性材料より中空の品物を造る方法」と訂正され
た。)の特許権者である。この特許は、訴外プラツクス・コーポレーシヨンにおい
て、昭和一六年二月一二日および同年五月九日にアメリカ合衆国においてした特許
出願にもとづき、(連合国人工業所有権戦後措置令により)優先権を主張して昭和
二六年三月二六日特許出願され、昭和三〇年二月二八日に出願公告、同年六月一三
日に特許されたもので、被告は同訴外会社から昭和三六年九月二七日右特許権を譲
り受け、昭和三七年六月一九日その旨の登録を経たものである。
二、右特許発明の明細書(後記訂正審判による訂正以前のもの)の「特許請求の範
囲」の項の記載は、つぎのとおりであつた。
 熱可塑性材料を管の形にて押出だすこと、この押出された材料の周りに分割式の
鋳型を閉じ合せ同時に該熱可塑性材料の一端を鋳型の合せ目中において挾んで一つ
の泡の形となすこと、およびこの泡を一つの中空の塑性材料製の品物に吹き膨らま
せることよりなる有機熱可塑性材料より中空の品物を造る方法。
三、原告らは、昭和三五年三月三一日特許庁に対し、右本件特許を無効とする旨の
審判を請求した(同年審判第二六一号)。
 この無効審判において、原告らは、審判請求の理由として、
1、本件特許発明が米国特許第一、九八一、六三六号明細書その他の原告ら提出の
刊行物に記載された公知技術から容易に推考しうるもので、旧特許法(大正一〇年
法律第九六号)第五七条第一項第一号に該当すること
2、本件特許は、明細書中の「発明の詳細なる説明」の項の記載と「特許請求の範
囲」の項の記載の間に矛盾があるから、同条同項第三号に該当すること
の二点を主張した。
四、被告は、右無効審判係属中の昭和三九年八月一七日本件特許につき訂正審判の
請求をし(同年審判第四、一二三号)、同年一一月二一日この訂正審判請求につき
審判請求公告がなされた。そして、この訂正審判請求書に添付された明細書による
「特許請求の範囲」の記載は、つぎのとおりである。
 熱可塑性材料を押出し装置によつて管の形に押出すこと、この押出された材料の
周りに分割式の鋳型を閉じ合せ、同時に該熱可塑性材料の管状をなす一端を鋳型の
合せ目中において挾んで一つの泡の型となすこと、この場合鋳型の合せ目中の材料
は非常に薄い鰭片に圧搾するかあるいは挾み切ること、この泡を一つの中空の塑性
材料製の品物に吹き膨らませることならびにこれらの操作を前の品物が切取られた
非連結の状態において行うことを特徴とする有機熱可塑性材料より中空の品物を造
る方法。
五、特許庁は、昭和四二年四月二八日右訂正審判事件について、本件特許の明細書
を審判請求書に添付された明細書のとおり訂正することを許可する旨の審決をする
とともに、同日をもつて原告らの請求にかかる前記本件特許無効審判事件につき審
理を終結したうえ、同年五月一二日請求人らの申立ては成り立たない旨の審決(以
下本件審決という。)をし、その謄本は同年六月三日原告らに送達された。なお、
右訂正審判の審決謄本が被告に送達されたのは同年五月一七日である。
六、本件審決の理由の要旨は、
(一)、まず、本件特許については別件である右訂正審判によりその明細書の訂正
が認められたとして、その特許発明の要旨を、訂正後の明細書における前掲「特許
請求の範囲」の項に記載されたとおりのものであると認定し、
(二)、原告らが公知例として引用した米国特許第一、九八一、六三六号明細書
(以下引例という。)に記載の発明と本件特許発明とは、「熱可塑性材料を管状に
成形し、この管状体を分割式の鋳型で閉じ合わせ、同時に管の一端を鋳型の合わせ
目で挾み、つぎに鋳型内の一端が閉塞された管状体内に空気を圧入してこれを吹膨
して中空の物品を製造する」点において両者は一致するが、(1) 成形対象物で
ある材料が、本件発明では有機熱可塑性材料であるのに対し、引例では無機ガラス
である点
(2) 材料を管状に成形するにさいして、本件発明ではこれを押出装置によつて
押出し、鋳型で挾むさい合わせ目中の材料は非常に薄い鰭片に圧搾するかあるいは
挟み切るもので、その成型操作は前の品物が切り取られた非連結の状態において行
なうもの(いわゆる一個取り)であるのに対し、引例では材料を環状通路から下方
に流出させ、吹膨後割型を開いたとき管状部は前に吹膨された品物と連続したまま
でその重さで管を垂下させつつ操作が続けられる点
で明らかに異つていると認定し、
(三)、右の相違点については、原告らが提出引用したいかなる刊行物にも全然こ
れら技術についての記載はなく示唆するところもないから、本件発明はこの相違点
に創意工夫があり、かつ明細書に記載の作用効果を奏するものと認め、
(四)、また、本件発明は、明細書の記載に原告ら主張のような矛盾はなく、他に
その実施を不能または困難ならしめると認めるに足る理由も見出しえない、
というものである。
七、しかしながら、本件審決はつぎの理由により違法であるから、その取消しを求
める。
(一) 審判の対象を誤つた違法について。
 以上の事実関係、ことに特許庁における審判手続の経過から明らかなとおり、原
告らが本件特許の無効審判の請求にあたり、その対象としたものは前記訂正審判に
よる訂正前の明細書における特許発明であつて、その審判手続における当事者双方
の攻撃防禦もすべて当然に訂正前の明細書における特許発明のみについてなされた
ものであるのに(訂正審判の審決がなされた日には前記のとおり無効審判の審理は
終結されたのである。)、本件審決は、これについては何も判断せず、かわりに、
審決の当時まだ訂正の効力を生じていない前記訂正審判による訂正後の明細書にお
ける特許発明を本件無効審判の対象として取り上げ、これについて前記のとおりの
判断をしたのであるから、無効審判の対象とすべき特許発明の認定を誤つた違法が
ある(特許法第一二八条によれば、訂正をすべき旨の審決が確定したときは、その
訂正後の明細書または図面により特許出願、出願公告、特許をすべき旨の査定また
は審決および特許権の設定の登録がされたものとみなす、とされており、したがつ
て訂正審決はその確定前において右の「みなす」効力を発生することはない。訂正
審決の確定の時期については学説上争いがあるが、その送達のとき-本件について
いえば昭和四二年五月一七日-より前に確定するという見解はなく、現に特許庁
は、本件訂正審決について、謄本送達後三〇日を経過した同年六月一六日に確定し
たとの取扱いをしている。)。
(二) 審判手続の違法について。
(1) 特許の無効審判においては-特許法施行法第二〇条第二項の規定により、
本件無効審判に適用される旧特許法の定めるところによつても-、請求人は特許法
に定める特許を無効とすべき理由を記載した審判請求書を提出すべく、審判長はこ
れを受理したときはその副本を被請求人に送達して答弁書提出の機会を与え、また
被請求人から答弁書を受理したときはその副本を請求人に送達しなければならず、
また審判は口頭審理によるものとされている。すなわち、特許無効審判は、請求人
被請求人が対立し、口頭審理を開き、請求人の主張する無効事由の有無について当
事者双方の主張を十分聞いて、政令で定める資格を有する三人の審判官が民事訴訟
法に準じた形式をもつてなすべき手続きであつて、準司法手続と呼ばれるものであ
る。そして、請求人の主張する無効事由は、当然に現に有効に存在する特許明細書
によつて把握される発明についてのものであるのはいうまでもないことであるし、
また明細書が変更された場合、特許無効の原因も、したがつて変りうべきものであ
ることも、当然である。
 無効審判の係属中訂正審判の審決が確定し、特許権の内容が適法に変更された場
合には、訂正された明細書にもとづいて当該特許を無効とすべき原因なるものが存
在しうるはずであるし、すくなくとも無効審判請求人には、かかる無効原因の有無
を検討し、これを主張しうべき機会が与えられなければならないことは、右の特許
無効審判手続の有する準司法的性格にかんがみ自明の理である。
(2) しかるに本件審決は、前記のとおり、別件の訂正審判について訂正を認め
る旨の審決をしたその日に無効審判についての審理を終結しえたうえ、その訂正さ
れたところにもとづいて前記の判断をしたものであつて、すなわち請求人の不知の
間に、しかもまた確定しない訂正審判審決によつて許可しようとする訂正明細書の
記載を基礎とし、これについて当事者に主張の機会を与えないのはもとより、その
存在すら知らしめないで、突如として請求人の請求を排斥したわけである。原告ら
は、別件の訂正審判により訂正が認められたならば、あらたな特許無効事由の主張
および証拠の提出をすべく準備していたのに、それらを提出する機会が与えられな
かつた。そしてまた、もとより、前記のとおり訂正された明細書による本件特許に
ついての無効事由たるべき主張や証拠のうちには、原告らが従前の無効審判手続に
おいてすでに提出したものもあり、なかには本件審決において判断を示されたもの
もないではないけれども、それは訂正前の特許を無効とする意味において主張、立
証されたにすぎないのであるから、これらの主張、証拠についても、訂正後の特許
の関係ですでに提出の機会をえたものとみることはできない。けだし、同じような
主張や同一物たる証拠であつても、その向けられる対象がかわれば、これに対応し
た別個の見地から、その趣旨とするところを新らたにする必要があることは、いう
までもないからである。
(3) 本件審決は、旧特許法第五七条第一項第一号の無効事由の判断において、
本件発明と前記引例の発明との相違点として指摘した点、すなわち、本件発明にお
ける、
1 押出し装置によつて材料を管状に形成すること
2 鋳型を閉じ合わせた場合、鋳型の合わせ目中の材料が薄い鰭片に圧搾される
か、あるいは挟み切られること
3 操作が非連結(いわゆる一個取り)に行なわれることの三点については、原告
らが提出した刊行物中に「全然記載がなく、示唆するところもない」と説示してい
るのであるが、これらの三点は、いずれも訂正審判によつて訂正前の明細書にあら
たに附加されたものであるから、これについて特段の主張立証がなされなかつたの
はむしろ当然のことである。これらの点について原告らは、その機会が与えられた
ならば、公知例として少なくとも英国特許第四四五、九七四号明細書のほか英・
米・仏の特許明細書数通を提出しえたはずである。
(4) さらに、プラスチツク成形の技術において、
(イ) 先端の閉じた管状のものを押し出して、これを泡状のものにしたうえで吹
膨成形する方式、と
(ロ) 先の開いた管を押し出して、その先端を鋳型で挾むとともに吹膨し、管か
ら一気に所望の形に成形する方式
とはまつたく異なつた技術方式であり、本件特許は出願以来一貫して(イ)の方式
に関するものである。訂正前の明細書の「特許請求の範囲」の項に(ロ)の方式を
含むかのような記載があり、これと「発明の詳細なる説明」の項の記載との間に矛
盾が存在するとして、原告らは無効審判において旧特許法第五七条第一項第三号に
もとづく特許無効を主張したのであるが、明細書の訂正による「特許請求の範囲」
の記載の訂正の結果、いつそう本件特許発明が(ロ)方式を含むかのごとく解釈さ
れるものとなり、したがつて本件訂正明細書は(ロ)方式について当然開示すべき
必要な記載を欠くもので、同条同号に該当する違法の程度はより重大化するにいた
つたのである。原告らは本件無効審判手続において、訂正後の本件特許のもつ右の
無効事由をさらに明確、詳細に主張し、その証拠として米国特許第二、二三〇、一
八八号明細書その他多くの刊行物を提出しえたはずであるのに、その機会を与えら
れなかつたのである。
(5) このように、無効審判請求人に、審判の対象につきなんら主張、立証の機
会を与えないでその請求を排斥したことは、審判の手続に重大な違法があり、かつ
その手続の違法が審決に影響を及ぼすこと明らかな場合にあたるから、審決自体を
違法ならしめるものというべきである。
(三) 審決における実体上の判断の誤りについて。
(1) 原告らは本件特許の無効事由として本件発明が引例を含む原告ら提出の刊
行物に記載された公知技術から容易に推考しうるものであることを主張したのに対
し、本件審決は、前記のとおり本件発明の前掲引例に記載のものとの相違点を挙
げ、この相違点については原告ら提出のその他の刊行物にはその記載がなく示唆す
るところもないとして、この主張をしりぞけた。原告らは、右のとおり、提出の刊
行物から当業者ならば発明力を要しないで推考できると主張しているのであつて、
審決のいうように「記載」や「示唆するところ」の有無を問題にしているのではな
い。すなわち、右相違点のうち、
(イ) 材料が、本件発明では有機熱可塑性材料であるのに対し、引例では無機ガ
ラスであるという点は、吹膨成形に関する発明の進歩性を考える場合にまつたく問
題にならない相違であり、
(ロ) 材料を管状に成形するにさいし、本件発明では押出装置によつて押し出し
ているのに対し、引例では材料を環状通路から下方に流出させているという点は、
双方の材料の比重・粘性の差異によるものであつて、自然に流出しなければ何らか
の押出装置を用いることは、常識上容易に推考しうる程度のことであり、
(ハ) 本件発明において鋳型の合わせ目中の材料を非常に薄い鰭片に圧搾するか
あるいは挾み切るという点は、発明の進歩性を考えるうえでまつたく考慮の必要の
ない程度の微差にすぎず、
(ニ) 本件発明ではいわゆる一個取りであるのに対し、引例では連結式であると
いう点は、後者は重いガラスの比重を利用し垂下させるために連結式を採用したも
ので、ガラスより比重のはるかに小さい有機熱可塑性材料では一個取りでも二個取
りでも実質上の大差はない。従来二個取りで行なつていた操作を一個取りにするこ
とがなぜ当業者に容易に推考できないのか理解できないところである。
このように、審決が、原告ら提出、引用の公知技術と本件発明との間の進歩性の有
無について示した判断は誤りである。
(2) 原告らが主張したもうひとつの無効事由、すなわち本件特許が旧特許法第
五七条第一項第三号に該当するという点について、審決は、 これら各号証(本件
発明の公報掲載明細書等)を検討するに「管状材料を押出す」「有機塑性材料の一
端を閉じた管とする」その他押出しによる管(チユーブ)状物の形成についての記
述があり、管(パイプ)自体をそのまま鋳型で挾んで吹膨することは示していな
い。この記述から図面に示されるような、なおほぼ管(チユーブ)状をなしたもの
を挾むこと、これを泡とするものであることは理解できるところである。本件発明
の要旨も、この点については逸脱していないもので、矛盾はないものと認められ
る、
 といつている、「管自体をそのまま鋳型で挾んで吹膨すること」(すなわち、前
記(二)、(4)における(ロ)方式を思わせる記載)が明細書の「特許請求の範
囲」の項に明らかに示されているのである。審決のこの説示は、請求人の主張を故
意に看過して、漠然たる見解を示すにとどまり、しかもその内容に誤りがある。
第三、被告の答弁
一、原告らの請求原因一ないし六の事実(被告の本件特許権取得にいたる経過、そ
の特許請求範囲の記載、無効審判および訂正審判の経過、本件審決の理由の要旨
等)は認めるが、本件審決を違法であるとする七の主張は、これを争う。
二、審決が審判対象を誤つたという原告らの主張について。
 訂正を許可する審決に対して不服申立ては許されないから、該審決は、審決謄本
が審判請求人に送達された時に確定するものと解され、本件についていえば訂正審
判の審決は、昭和四二年五月一七日に確定したものといえる。したがつて、本件審
決がなされた同月一二日から僅か五日後に訂正審判の審決が確定し、訂正の効果を
生じる関係にあつたのであるから、本件審決をなすにあたり、訂正許可の審決が間
もなく確定するはずであることを前提とし、訂正された明細書にもとづいて判断を
したからといつて、形式的論理からすれば瑕疵があるとしても、実質的には正し
く、瑕疵は存しない。このことは、離婚した後にはじめて発生する財産分与請求権
について、離婚判決の確定前に、同判決においてこれを認容する扱い等と軌を一に
する。訂正許可の審決の確定を待つたうえでなければ無効審判の審決をなし得ない
とする明文の規定はなく、実際上もそのような扱いは関係者になんらの利益を与え
ないばかりか、審判遅延の結果をもたらすにすぎない。かりに本件審決にその点の
誤りがあつたとしても、審決後に前記のように訂正許可の審決が確定したことによ
り、その瑕疵は治癒されたとみるべきである。さらに、かりに本件審決をこの点で
違法であるとして、その理由のみで取り消したとしても、訂正審決はすでに確定し
ているのであるから、再度同じ内容の審決がくり返えされるほかなく、訴訟経済上
無意味であり、民事訴訟法第三八四条第二項の規定の趣旨からしても本件審決は取
り消さるべきではない。
三、審判手続に違法があるとの原告らの主張について。
(一) 特許無効審判の手続は準司法手続と呼ばれながらも、その手続の進行、証
拠調べおよび審理の範囲等について職権主義が採用され、民事訴訟手続とはその性
格をまつたく異にしており、審判官の心証形成は当事者の申立事実とは無関係に行
なわれうる。(旧)特許法が、本件のような場合に、無効審判請求人にあらためて
意見を述べる機会を与えるべきか否かについてなんら規定を設けていないのは、そ
の結論を、かかる職権主義的審理体制のもとにおいて審判官の心証に委ねているか
らであると考えられる。
 訂正審判において訂正を許可するためには、訂正が「特許請求の範囲の減縮」、
「誤記の訂正」、「明瞭でない記載の釈明」のいずれかに該当し、かつ右の「特許
請求の範囲の減縮」に該当する場合には、訂正後における発明が出願時に特許要件
を具備するものでなければならない(特許法第一二六条第一項および第三項)ので
あり、そして本件における訂正許可の審決は、請求にかかる明細書の訂正が「特許
請求の範囲の減縮」およびそれに伴なうものを含む右の記載の「釈明」に相当する
としてなされたものである。したがつて、
(イ) 本件につき訂正を許可する審決がなされたことは、審判官において、訂正
後の発明が特許要件を具備することにつき十分な心証を得たことによるものであ
り、それと同一審判官によつて審理されている本件無効審判において同じ心証が得
られたことは当然である。
(ロ) 訂正が適法であれば、訂正のために訂正前の特許発明に加えられる実質的
な変更は、特許請求の範囲の減縮にとどまる。原告らは無効審判請求人として減縮
前の特許発明について無効原因を論議したのであり、かような場合に、減縮後の特
許発明についてあらたな無効原因の主張、立証が必要となることは、原則としてあ
りえない。かりに、それがあるとしても、かかる新たな無効原因の存否は、当事者
の申立てをまつまでもなく、審判官が訂正前に取り調べた証拠にもとづき容易に審
理することができる。
 以上のとおりであるから、審判官が長期間にわたる審理の結果、訂正後の本件特
許発明に無効原因の存しないことの心証を十分得たとしても不思議はなく、そうで
あれば訂正後あらためて当事者に意見を述べる機会を与えることは無意味であり、
ただちに結審して審決をすべきものである。
(二) また、原告らには、訂正後の本件特許発明について無効原因の主張をする
機会があつた。すなわち、(イ) 本件訂正審判について昭和三九年一一月二一日
審判請求公告がなされ、これによつて何人も訂正につき異議の申立てができたので
あるから、訂正後の発明が特許要件を具備しないことを由として異議の申立てをす
る機会があつた。現に、原告らのうち東方化学工業株式会社は、本訴における原告
ら代理人であり、無効審判においても請求人らの代理人であつた者を代理人として
訂正異議の申立てをしたのであつて(なお原告らと共に無効審判の請求人であつた
訴外積水化学工業株式会社も訂正異議の申立てをしている。)、その理由はまさ
に、原告らが本件無効審判において提出引用している公知技術から右訂正後の発明
も容易に類推しうるものであるから、前記特許法第一二六条第三項の規定により訂
正は許されない、というのであつた。すでにこの段階で訂正後の特許の無効につい
て意見を述べる機会があつた以上、無効審判の場において重ねて同じ意見を述べる
機会を与える必要はない。そして、原告らのうちに訂正につき異議申立てをしない
者があつたとしても、それはその者の懈怠であり、かかる者にあらためて意見陳述
の機会を与えなければならないというのは、特許権者の犠牲において怠慢な無効審
判請求人を救済しようとするものであり、失当である。
(ロ) また、訂正審判請求公告がされたことにより、原告らは本件特許につき訂
正を許可する審決がされる可能性が大きいこと、および訂正後の特許発明がいかな
る内容のものであるかを、知り、または知りえたはずである。したがつて原告ら
は、本件無効審判の審理終結までの間、無効審判の場において、訂正許可を前提と
し、訂正後の特許がやはり無効である旨を主張し、立証すべきであつたし、またこ
れをなしえたのである。
 事実、本件無効審判における請求人側の参加人であつた訴外住友電気工業株式会
社は、昭和四一年一一月四日付審判参加申請理由補充書を提出して、本件特許明細
書が訂正審判請求公告のとおりに訂正されたとしても特許は無効とされるべきであ
るとして詳細な主張をした。この旧特許法下の無効審判における参加人の行為の法
律的効力については、明文の規定はないが、参加の法律的性質にかんがみ、民事訴
訟法第六九条に準じ被参加人の行為と牴触しないかぎり被参加人のなした行為と同
じ効力を生じると解されるから、右訴外会社が右の主張をしたことは、原告らが本
件無効審判手続において訂正許可を前提とした主張、立証を行なつたと同じ法律的
効力をもつものと解しなければならない。そうとすれば本件無効審判において、明
細書の訂正許可がなされた後に、原告らに対し、あらためて訂正後の発明につき、
主張、立証をする機会が与えられなかつたからといつて、原告らに格別の不利益が
生じたわけでもない。
(三) さらに、本件無効審判において訂正後の特許について意見陳述の機会が与
えられたとしても、原告らには、つぎに説明するとおりあらたに提出しえた主張、
立証はなかつたのであり、したがつて、かりに意見陳述の機会を与えなかつたこと
が違法であるとしても、それは審決に影響を及ぼすものではないから、審決取消し
の理由とはならない。すなわち、
(イ) 原告らが訂正前の特許について、一定の無効事由を主張し、立証したその
主張および証拠は(原告らがそれらを提出した主観的意図が、訂正前の特許を無効
とする意味に限定されたものであつたとしても、)、訂正後の特許についても審判
官が同一無効事由の有無を認定するための資料となるものであることは当然である
から、訂正後の特許に関し重ねて同一の主張、立証を提出する意味はない。原告ら
は、訂正後の特許発明につき旧特許法第五七条第一項第一号および第三号の無効事
由を主張し、立証し得たはずであるというけれども、その主張、立証は本件無効審
判においてすでに提出され、審判官により判断されているものである。
(ロ) 原告らが請求原因七、(二)、(3)に挙げる三点について。本件無効審
判において、被請求人側参加人株式会社吉野工業所(本訴被告補助参加人)は、本
件特許発明にこれら三点の特徴があることを主張しており、これに対し原告らは何
らの弁駁もしていない。これによつてみれば、原告らが、その機会が与えられたな
らば右三点についてあらたな主張、立証をするはずであつたというのが根拠のない
ものであることがわかる。そして、右の点の公知例として原告らが挙げる英国特許
第四四五、九七四号明細書等の証拠は、すでに無効審判に提出されて検討ずみのも
のであるか、あるいは原告ら主張の趣旨の公知例として不適切または無意味のもの
ばかりである。
(ハ) 原告らが請求原因七、(二)、(4)に主張する点について。主張のよう
に、本件特許発明が(イ)方式に限られるか、(ロ)方式を含むかに関連して、明
細書の「発明の詳細なる説明」の項と「特許請求の範囲」の項との間に記載の矛盾
があるとする無効事由の存否は、訂正前の特許についてすでに当事者双方により十
分に論じられた点であり、訂正後にはじめて生じた問題ではない。原告らのかかる
主張じたい、原告らが訂正後の本件特許につき、訂正に関連して新たに主張しうべ
かりし何らの意見を有しなかつたことを示すものといえる。
第四 証拠(省略)
       理   由
一、原告らが請求原因一ないし六で主張する被告の本件特許権取得にいたる経過、
その特許請求範囲の記載、特許庁における本件無効審判と訂正審判の各手続の経過
および本件審決の理由の要旨等に関する事実については、当事者間に争いがない
(なお、本訴において、双方当事者およびその各補助参加人の提出した甲、乙、丙
各号書証の成立についても、同様である。)。
二、原告ら主張の、本件審決の違法事由-請求原因七、(一)-について。
 特許法第一二八条によれば、「願書に添附した明細書又は図面の訂正をすべき旨
の審決が確定したときは、その訂正後における明細書又は図面により特許出願……
…特許権の設定の登録がされたものとみな」されるのであるから、このような「み
なす」効果は、訂正審判の審決が確定したときにはじめて発生するものであること
は疑いがない。そして、訂正を許可する審決に対しては不服申立ての方法がないか
ら、該審決は審判請求人にその謄本が送達されたときに確定すると解するのが相当
である。
 ところで本件において、被告の訂正審判請求にもとづき、願書に添附した明細書
を請求書に添附された明細書のとおり訂正することを許可する旨の審決がなされ
て、その謄本が被告に送達されたのは昭和四二年五月一七日であるから、右審決は
同日確定し、その確定により本件特許は訂正後の明細書により特許出願、特許権の
設定の登録等がされたものとみなされる効果を発生したことになるのである。そう
すると、本件特許の無効審判につき本件審決がなされた同年五月一二日当時は、ま
だ右の訂正の効果発生以前にあたり、したがつて、本件審決が訂正前の明細書によ
る特許発明を対象とせず訂正後の明細書による特許発明を審判の対象として審決し
たことは、訂正審決による訂正の効果発生の時期についての判断を誤り、ひいて無
効審判の対象たる特許発明の認定を誤つた違法があるといわなければならない。
 しかし、本件においては、右のようにすでに、同年五月一七日に訂正審決が確定
し訂正の効果が発生したことにより、その後においては、改めて本件無効審判につ
き審決するとすれば、その対象に関する限り本件審決と同様に、右訂正にかかる特
許発明についてしなければならないこととなつたのであるから、審決取消事由とし
ての右の違法は、右訂正審決の確定によつて治癒されたものと考えるのが相当であ
り、したがつて原告らのこの点を理由として本件審決を取り消すべきものとする主
張は、採用できない。
三、原告ら主張の、本件審決の違法事由-請求原因七、(二)-について。
(一) 前記当事者間に争いのない事実、ことに無効審判および訂正審判について
の特許庁における各手続の経過によれば、特許庁は、本件特許の明細書の訂正を許
可する旨の審決をしたその日に、本件無効審判の審理を終結し、右訂正の効果発生
前に訂正後の明細書による特許発明を対象として本件審決をしたものであることが
わかり、そしてまた、無効審判の審理手続中においても、とくに審判官から、訂正
が許可される場合に備えて、予備的に、当事者になんらかの意見陳述の機会を与え
る措置がとられたこともないことは、弁論の全趣旨により明らかである。したがつ
て本件審決は、その対象についての無効事由につき、審判請求人らに、訂正後に改
めて主張、立証の機会を与えることもなければ、訂正前に予備的に意見陳述の機会
を与えることもなくしてなされたものということができる。そこで以下、この点に
審決を取り消すべき違法があるかどうか検討する。
(二) 特許法施行法第二〇条第二項の規定により、本件無効審判に適用される旧
特許法(大正一〇年法律第九六号)の定める特許無効審判の手続については、
1 手続は審判の請求によつて開始され、その審判請求書には審判請求の理由を記
載すべきこと(同法第八六条)、
2 審判長は、審判請求書を受理したときは、その副本を被請求人に送達し、期間
を指定して答弁書を提出する機会を与え、答弁書を受理したときは、その副本を請
求人に送達すべきこと(同法第八八条第一項)、
3 審理は原則として公開の審判廷における口頭審理によること(同法第九七条第
一項、第三項)、
4 当事者または参加人の申し立てない理由についても審理することができるが、
この場合は、その理由につき、これらの者に期間を指定して意見申立ての機会を与
えるべきこと(同法第一〇三条)、がそれぞれ定められており、その他審判官とな
るべき者の資格、合議体の構成、審判官の除斥・忌避、確定審決のいわゆる一事不
再理の効力などについての諸規定とあいまつて、その手続は裁判所の訴訟手続に類
似したいわゆる準司法手続の性格をもつものであること、そこには手続の進行や審
理の範囲等について職権主義が採用され、その限りでは民事訴訟との相違があるけ
れども、審理の内容については、審判官の行なう判断資料の探知は、当事者の提出
によるものであれ、職権探知によるものであれ、それについて必らず関係当事者に
意見陳述の機会を与えたうえでなされるべきものとする当事者対立構造、双方審尋
主義が採用されていることが規定上明らかである。すなわち、法は、特許権のもつ
公共的性格、特許無効の審判が第三者に及ぼす影響の大きいこと等の特異性にかん
がみ、実体的真実発見に資するため、一方において職権探知主義を採用するととも
に、他方において審判官の行なう探知、判断が合理性、客観性をもつことを保障す
るため当事者対立構造、双方審尋主義を採用したものと解されるのである。
(三) ところで、本件におけるように、無効審判の係属中に当該特許について訂
正を許可する審決が確定し訂正の効果が生じた場合(もつともすでに前記したとお
り、本件においては、無効審判の係属中に訂正許可の審決が確定したのではなく、
実際にはこの確定前にすでに無効審決がなされたのである。しかし、この点の違法
は、すでに治癒されたものとみるべきこと前記のとおりであるから、原告らの七
(二)の主張の当否を判断するうえでは、無効審判の係属中に訂正許可の審決が確
定した場合として判断すべきであり、それで足りる。)、無効審判の手続において
あらためて訂正後の明細書および図面による特許発明につき、無効審判請求の理由
の有無に関し、審判請求人(および被請求人)に意見陳述の機会を与えなければな
らないかどうかについて、これを必要とする旨の直接の規定はない。
 しかしながら、法が無効審判の手続について当事者対立構造、双方審尋主義を採
用していること、およびその理由が前記のとおりであることを考えれば、審判手続
の係属中に訂正審決によつて審判の対象に変化が生じた場合には、従前なされてき
た当事者の無効原因の存否に関する攻撃防禦になんらかの修正、補充を必要とする
にいたるのが通常であつて、そのような修正、補充を必要としないことの明白な格
別の事情がある場合(明細書の何ぴとにも一見きわめて明白な誤記の訂正などはあ
るいはこれにあたるであろうか。)を除いて、審判官は変更後の審判対象について
当事者双方に弁論の機会を与えなければならず、原告らについていえば、前記旧特
許法第八六条の趣旨に準じ、変更後の審判対象につき改めて無効事由の主張、立証
をする機会(すくなくともその時間的余裕)を与えなければならないものと解すべ
きである(なお訂正許可前審判官において訂正に備えて予備的に、訂正後のものに
つきとくに意見陳述を促し、その機会を与え、これをもつて右訂正後の機会付与に
代えることも、許される措置とみてよいであろう。)。
 以下ふえんしつつ、本件の場合について考える。訂正審判が、特許請求の範囲の
減縮、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明を目的とする場合に限つて許されること
は特許法第一二六条第一項に規定するところであるが、たとえ適正にこの規定にし
たがつた訂正審決がなされた場合であつても、つねに、訂正前の特許について適切
であつた無効事由が訂正後の特許についてもそのまま無効事由として妥当し、訂正
後の特許について、異なつた、少なくとも態様を異にした無効事由を生じないとは
限らないのであつて、例えば、本件に関係のある「特許請求の範囲の減縮」におい
て(甲第五号証によれば、本件の訂正審決は、訂正が「特許請求の範囲の減縮」お
よびそれに伴なつて生じる場合を含む「明瞭でない記載の釈明」に該当する、と認
定したものであることが明らかである。)、それが発明の構成要件の増加によつて
なされる場合(そして、本件の訂正もそれにあたることつぎに説明するとおりであ
る。)、訂正によりあらたに附加された構成要件自体あるいはこれと既存の要件と
の組み合わせが公知であること、ないしは公知技術から容易に推考しうるものであ
ることなどについて新しい無効事由、争点が生じ、無効審判請求人としては、あら
たに事実および証拠を提出し、あるいはすでに提出してある事実、証拠について新
しい観点から補正した意見陳述をする必要が(また相手方としてはこれに反駁する
必要が)生じてくることは、みやすいところである。またかりに、特許法第一二六
条第一項または第三項により訂正を許すべき場合に該当しないのに訂正の審決がさ
れたような場合には、無効審判においても、その訂正にかかる事項をめぐり新しい
争点が生じ当事者としてあらたな主張、立証の必要が生じるのは自明というべきで
あろう(この場合に、訂正無効の審判を請求できることは、また別の問題である、
なお、附言するならば、訂正無効審判と特許無効審判とは、それぞれその目的を異
にした別個の制度であつて、同一事項が両者の場において、それぞれに審理される
のを妨げるべき理由も、規定もない。したがつて「特許請求の範囲の減縮」にかか
る訂正の無効審判において、特許法第一二六条第三項所定要件の存否が審理される
からといつて、同一事項が特許無効審判においても審理の対象とされるのを妨げる
ものではない。)。
 ところで本件の訂正審決による明細書の訂正が、「特許請求の範囲」の項の記載
の訂正を含むことは当事者間に争いがなく、その訂正の内容が、
1 「押出し装置によつて」材料を管の形に押出すこと
2 鋳型を閉じ合わせた場合、「鋳型の合せ目中の材料は非常に薄い鰭片に圧搾す
るかあるいは挾み切ること」
3 「操作を前の品物が切取られた非連結の状態において行うこと」
の三点をあらたに「特許請求の範囲」に加えることを主要な内容とするものである
ことも、前記争いのない事実から明らかである。そして、これらの事項が訂正前の
明細書の「発明の詳細なる説明」の項あるいは図面にすでに記載されていたもので
あつたとしても、その記載が「特許請求の範囲」の項にとりいれられたことによ
り、それが単なる実施例の記載でなく発明構成の必須の要件であることが明らかに
されたとみるべきであるから、その事項の持つ意義の重要性はいちじるしくその比
重を増したことは否定できない。したがつて、その事項に関連する当事者の攻撃防
禦の方法も、訂正前とはおのずから異なつたものとなるべきことは自明であつて
(本件審決がこれらの点をとりあげて公知技術にない創意工夫の存在を認めたこと
-その事実は甲第一号証により明らかである。-は、審決も、訂正にかかる右の三
点が本件特許発明の必須の構成要件となつたことを認めていることを示すものとい
える。)、このような訂正が、前記の、訂正により当事者が従前の攻撃、防禦に修
正、補充を必要としないことの明白な事情がある場合にあたらないことは、その内
容にてらし、明らかである。
 してみれば、本件訂正審決による訂正は、訂正後の特許の無効事由の有無につい
て、あらためて無効審判の当事者に攻撃防禦方法の修正ないし補充のため主張、立
証の機会を与える必要があつたものというべく、これを怠つた本件無効審判手続
は、審決に影響を及ぼす違法をもつものというのほかはない。
(四) 被告の主張三、(一)について。
 この点の被告の主張が理由のないことは以上の説示によつて明らかである。一言
附加するに、(イ)の理由については、審判官の訂正審判における、訂正後の特許
発明の特許要件の具備(この特許発明が無効でないこと)についての心証がいかに
十分なものであつても(そしてその審判官が本件無効審判に当るにしても)、その
心証の十分さが問題なのではなく、訂正後の特許発明について無効審判当事者の関
与をまたないままで、その心証が直ちに無効審判の場において適法な心証となりう
るかが問題とされている本件において、単に審判官の-右関与を経ず一方的に形成
された-心証が十分であることを強調しても、本末を誤つた立論というほかなく、
また(ロ)の理由については、特許法が無効審判においてとる前記の構造を無視す
るとともに、「特許請求の範囲の減縮」にかかる訂正が、無効審判において、いか
にも算数的数量の減少におけるような形式的観念で措置できるものであるかのごと
く立論するもので、この場合に生じる前記のような複雑な事案の実態を無視するも
のというのほかなく、いずれも採用できない。
(五) 被告の主張三、(二)について。
(イ)について。
 右のように訂正後の特許の無効原因につきあらたに無効審判の当事者に主張、立
証の機会を与えなければならないということは、無効審判の手続の性質から、無効
審判の審決の適正を保障するために要求されているのであるから、無効審判当事者
が、例えば訂正審判請求公告に対する異議の申立てをすること等により、その無効
審判の手続以外の場で、別の資格と目的で、その訂正を許すべきでないこと、ひい
て、本件訂正における場合のようにその内容として、訂正をしても特許要件がない
ことにつき、主張、立証する機会があつたかどうかは、まつたく別の問題である。
そのような訂正の結果あらたな審理の必要が生じ、無効審判の手続が多少長びくこ
とがあつても、なんら特許権者に不当な犠牲を強いるものではない(もし、右のよ
うな機会があつたことが、無効審判請求人の、訂正後の特許発明についての無効事
由の主張、立証の機会を封じる理由となりうるとすると、「特許請求の範囲の減
縮」にかかる訂正を経た特許発明については-そこでは、すでに請求公告があり、
何ぴとも異議申立てによつて訂正後の発明の特許要件不備を主張、立証できたので
あるから、--、もはや特許無効審判請求はできなくなると解すべきことになろう
が、その失当なことは明らかである。そしてこの場合無効審判請求をして、訂正後
の特許発明の特許要件不具備を主張、立証しうると解すべき以上、無効審判請求後
に訂正審判請求公告があつた本件原告らについても、同様の主張、立証が許され、
その機会が与えられるべきは、当然である。)。
(ロ)について。
 また、訂正審判の請求につき請求公告がされた場合、訂正が許される蓋然性が大
きく、かつ、その訂正の内容を知りうるとしても、それは単なる蓋然性であるにと
どまり、法によつて訂正の効果が発生するのは前記のとおり訂正審決の確定のとき
である。したがつて、訂正審判請求公告がされたというだけで、無効審判請求人
に、訂正許可を予想しこれを前提とした主張、立証をすべき機会が与えられたと解
することはできない(もつともこの段階で、審判官から右の機会付与のなんらかの
措置があつたというなら格別、本件においてそのことがなかつたことは前記認定の
とおりである。)。また、右の段階で無効審判請求人の参加人が訂正を前提とする
意見の陳述をしたとしても、審判における参加の法律的性質の故に、それによつ
て、請求人が(被請求人も同様)当事者として主張、立証する機会を閉ざされてよ
い理由はない(旧特許法における参加人の性格、その行為の効力について問題があ
るが、参加人は独立して審判請求人たる地位を有するものではなく(大審院昭和一
五年(オ)第五七四号昭和一六年四月一九日言渡判決参照)、またその行為は被参
加人たる請求人の利益においてその効力を生じるというのを限度とする。したがつ
て、本件無効審判において、参加人がした被告主張の行為は、請求人たる原告らに
その効力を及ぼすといえるだけであつて、参加人が、右の請求公告がなされたとい
う段階で、任意にした、訂正後の発明についての意見陳述が、当事者(請求人)で
ある原告らに対して、訂正後の特許発明についての主張の全部となる-換言すれば
当事者たる請求人らは、参加人がした以上にはもはや主張、立証できなくなる-と
いう効力をもたらすと解すべき根拠はない。)。
したがつて、この点に関する被告の主張はいずれも採用できない。
(六) 被告の主張三、(三)について。
 訂正前の特許の無効事由に関する当事者の主張、立証が、訂正後の特許の無効事
由の有無についても、審判官の判断の資料となりうることはいうまでもないが、だ
からといつて、訂正後あらためて主張、立証の提出の機会を与えることが無意味で
あるとはいえないこと前記説示のとおりである。そしてこのことは、審判請求人の
主張する無効事由が、訂正の前後を通じて同一の法条に基づくものであるとして
も、変りはない。
 また、原告らが無効審判においてその機会を与えられたならば、訂正後の特許の
無効事由につき、あらたにいかなる主張、立証を現実に提出し得たか、そしてそれ
らが実際に審決の判断を動かすに足る有効適切なものであつたかどうかの点は、い
まこれを想定、せんさくできることでもないし、本訴においては無用のことであつ
て、まず特許庁においてその審理が行なわれ審決の判断を経たのちに裁判所の審査
に服するべきことがらであつて、もともと本訴において争点とすべき事項ではな
い。本訴においては、審決の対象となつた訂正後の特許につき主張、立証の機会を
与えないで審決をしたという無効審判手続に存する違法が、その性質上審決に影響
を与えるような違法であるかどうかを問題とすれば足るのであつて、本件の場合こ
れを肯定すべきものであること以上の説明によつてすでに明らかである。
したがつて、被告のこの項の主張も採用できない。
四、以上のとおり、本件審決はその審判の手続に違法があり、それが審決に影響を
及ぼすことが明らかな場合にあたるから、その取消しを求める原告らの請求は、そ
の他の点につき判断するまでもなく、正当としてこれを認容すべく、訴訟費用の負
担等につき民事訴訟法第八九条、第九四条、第一五八条第二項を適用して、主文の
とおり判決する。
(裁判官 古原勇雄 杉山克彦 楠賢二)

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