弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
       事   実
 控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人と第一審参加人らとの間の
都労委昭和四六年(不)第五六号事件につき、昭和五一年二月三日付でなした命令
を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求
め、被控訴代理人らはいずれも控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の主張と立証は、左記のほかは原判決事実摘示のとおりであるからこ
れを引用する。但し、原判決一九枚目裏四行目の次の行に「1丙第一ないし第六号
証」を加入し、同五、六行目の「1」及び「2」を「2」及び「3」と訂正する。
(主張)
一 控訴人
1 原判決は憲法に違反している。
 憲法第二八条は労働者に団体交渉権を保障したが、その趣旨は労働者の労働条件
は労使対等の原則のもとに団体交渉による自由な取引で決定すべきであるとすると
ころにある。しかしてこの法理は組合事務所等の便宜供与についても全く同様にと
いうよりもむしろより強くあてはまるのはいうまでもない。その反射的効果とし
て、使用者も便宜供与につき、団体交渉における自由な取引で決定する機会が与え
られるといえる。
 そうであるから、労働組合が自由取引を省略もしくは制限するような方法で団体
交渉で便宜供与を要求するがごときは、憲法第二八条の団体交渉権の行使とはいえ
ず、仮に行使といえるにしても憲法第一二条の権利の濫用に当るというべきであ
る。要するに、右のような要求は憲法第二八条の団体交渉権保障の趣旨に反するの
である。原判決は一企業内に甲、乙二組合が併存する場合につき、「使用者は各組
合に対して中立的な態度を保持し両組合を平等に取り扱うべきことが要求されてい
る」というが、甲、乙両組合が双生児的に全く同じ態度を使用者に対してとるなら
ば、右のような中立、平等扱の考え方も納得し得ないではないが、前者ができる限
り会社の経営方針に協力してきているのに対して、後者は常に会社の経営方針を非
難攻撃して非協力もしくは反対の状態を維持してきている状況下にあつて、便宜供
与につき会社に中立、平等扱を要求してもできるものではなく、しかも、最小限と
いえども事務所供与は法的には好ましくない現象であるから、甲組合との関係で、
この好ましくない現象が団体交渉による自由な取引の結果たまたま生じたからとい
つて、この好ましくない現象を乙組合にも直ちに波及させることを法が要求してい
るとは到底考えられない。二組合併存の場合に要求される便宜供与に関する使用者
の真の中立、平等扱とは、甲組合に対して団体交渉による自由な取引で決定すると
同様に、乙組合に対しても団体交渉による自由な取引で決定することである。原判
決の説示によると、甲組合が自由取引により苦心して組合事務所を獲得したのに、
乙組合は何ら労せずして供与が受けられるという不平等が、かえつて生ずるのであ
る。それは乙組合に関して自由な取引を省略制限するもので、憲法二八条に違反す
る。
2 さらに、原判決の誤りは、最高裁の判例に違反したところにある。
 前述のように使用者は乙組合に対しても甲組合に対してと同様に団体交渉による
自由な取引で決定し得るのであるから、たとえ組合事務所を甲組合に供与して乙組
合に対しては取引がまとまらないために供与に至らなかつたとしてもそのことは原
則として不当労働行為を構成しないのは当然である。ただ供与しないのが施設に対
して使用者が有する権利の濫用と認められる特段の事情があるときのみに不当労働
行為を構成する余地が生ずるというべきである。国鉄札幌運転区事件(昭和五四年
一〇月三〇日第三小法廷判決・民集三三巻六号一頁)の判例は「労働組合又はその
組合員が使用者の許諾を得ないで叙上のような企業の物的施設を利用して組合活動
を行うことは、これらの者に対して、その利用を許さないことが当該物的施設につ
き使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情のある場合を除
いては………正当な組合活動として許容されるところであるということはできな
い。」と説示するが、施設の供与は常に使用者の自由で、供与しないことが権利の
濫用になるときは不当労働行為の成立の余地があるというもので、控訴人の主張に
符合するものである。
 しかるところ、原判決の説示は、甲組合に組合事務所を供与した使用者が乙組合
にこれを供与しないことは原則として不当労働行為になるとし、但し、例外的に特
別の事情があると不当労働行為にならないが、その特別事情は使用者において立証
責任を負担するとするもののようで、まさに本末を顛倒した議論である。しかして
この説示は、甲組合に組合事務所を供与した使用者は、乙組合が同様の供与を求め
ることを受忍する義務を負うというにほかならず、いわゆる労働組合の施設利用に
ついての受忍義務説を採用しているのである。ところが最高裁の判例は前記のよう
に受忍義務説は採用せず権利濫用説を採用しているのであるから、原判決の説示は
明らかに右最高裁の判例に違反するものである。
 しかして、全金プリンス自工支部の組合事務所、掲示板の便宜供与要求について
は、会社は供与はやぶさかではなく、支部も全日産自動車労働組合と同様に会社の
経営方針に協力してもらいたいと要求しているのであるが、支部の方では会社は全
日産自動車労働組合に供与している限り支部にも同様に供与するのが当然として、
一向に態度を改めないでいる。このため会社は供与に気のりがせず、今もつて供与
するに至つていないが、それだからといつて前記の権利濫用には該当するというこ
とはできない。本件では既存施設を供与するのではなくわざわざ新規建築によつて
供与するのであるから、会社の反対給付の要求が勢い強大になつてもやむを得ない
ところであり、これを考慮すればますます権利濫用に該当しないことになるのであ
る。
3 命令主文の違法性
 本件命令の主文の中心は、全金プリンス自工支部に対して、組合事務所および掲
示板の貸与をなすべきことである。すなわち便宜供与を会社に義務づけるのである
が、その内容をさらに具体的にみると、すでに設置されてある組合事務所や掲示板
の供与を義務づけるのではなく、新に組合事務所や掲示板を会社の負担において設
置し、しかる後供与することを義務づけるものである。
 ところで、右のような義務づけは、民事裁判でいえば、給付判決の部類に属する
が、このような給付判決を裁判所がなし得ないことは明らかである。そもそも組合
事務所や掲示板を新に設置して供与すべきことを内容とする請求権の発生根拠とな
る実体法規は存在しないのである。
 してみれば、本件命令は裁判所もなし得ないような義務づけを会社に対してなし
たことになる。かかる命令は、労働委員会の裁量権を逸脱するものとして違法であ
る。
二 被控訴人(第一審参加人ら)
1 控訴人の右1の主張は、憲法二八条の労働基本権保障の意味を正当に理解して
いないところから生ずるものというべきである。すなわち憲法二八条は労働者にの
み労働者の経済的地位の向上をはかりうるために団結権、団交権等を保障したので
あるから、使用者に労働者の経済的地位を低下させるための権利や自由を認めえな
いことは理の当然である。したがつて労働者の団結活動の基礎となる組合事務所等
の供与につき、労使が団体交渉によつて自由に取り決めをすることがありうるとし
ても、使用者が労働者の団結権、団交権を否認もしくは著しく制限する形での自由
な取引までなしうるものではないということになるのである。つまり、使用者の取
引の自由といつても、アメリカのように労働者側の不当労働行為を規定せず、かえ
つて憲法によつて労働者に団交権等を保障しているわが国の法制の下では、労働者
の団結権・団交権保障の反射的効果としてのみそれが許されているにすぎないので
ある。したがつて労使の自由取引が制限されたとしても、それが即憲法二八条違反
とか権利の濫用などといいえないことは明らかである。
 ところで本件は、一企業内に二組合が併存する場合における使用者の団結活動の
平等取扱、中立保持義務違反と不当労働行為の成否という問題である。
 この点について原判決は、甲組合に組合事務所等を供与して乙組合にこれらを供
与しなければ、原則として不当労働行為に該当するとしているのであり、供与につ
いて乙組合との自由取引を省略しろなどとは一言も判示していない。ただ原判決が
いわんとする趣旨は、自由取引といつても無制約なものではなく、使用者が違法・
不当な条件を提示して供与を拒否するというような自由までも含むものではないの
であるから、乙組合に対して違法もしくは不当な条件を提示して、それを受け入れ
ない限り供与しないとして拒否することは取引の自由としても許されず、不当労働
行為になるとしているものと解されるのである。したがつて控訴人の批判はまつた
くの的はずれというべきである。
 控訴人はこのような原判決の判示に対し、控訴会社には日産労組と被控訴人全金
プリンス自工支部が併存しており、前者が会社の経営方針に協力しているのに対
し、後者は常に会社の経営方針を非難攻撃して非協力もしくは反対の状態を維持し
ているのであるから、このような状態下では便宜供与について会社に中立、平等取
扱を要求しうるものではない旨非難する。
 しかしながら、右のような控訴人の主張はまさに会社の不当労働行為意思の存在
を如実に示すもの以外の何ものでもない。
 なぜなら、ここでいう会社の経営方針とは、労働者が低賃金にもかかわらず残
業、夜勤等に従事して会社の生産性の向上に協力するという方針のことであり、日
産労組はこれに協力してきたにもかかわらず、被控訴人支部はこうした会社の経営
方針に盲従することは、労働者の利益にはならないものとして批判し、非協力の態
度をとつてきたというものであるから、控訴人の主張は要するに、被控訴人支部が
日産労組のように会社の言うことを聞くような組合にならなければ便宜供与などし
ないと言つていることに他ならないからである。
 これはとりもなおさず控訴人が、なぜ憲法二八条が労働者に団結権を保障し、労
組法七条が使用者に不当労働行為を禁止しているかを全く理解していないというこ
とである。
 したがつて使用者が、労働組合の団結活動の基礎をなす組合事務所等の供与につ
き、特段の合理的理由もなしに、被控訴人支部を日産労組と同等に取扱わないこと
が不当労働行為(労組法七条三号の支配介入)となることは多言を要しないのであ
る。
2 控訴人は、使用者が組合事務所を甲組合には供与しながら乙組合には供与しな
い場合であつても、乙組合との自由な取引が結果としてまとまらないために供与す
るに至らなかつたときは原則として不当労働行為を構成せず、ただ供与しないのが
権利の濫用と認められる特段の事情があるときにのみ不当労働行為を構成する余地
が生ずるが、使用者が乙組合に対して甲組合に対すると同様な条件を提示してそれ
を受け入れない限り供与しないとして拒否する場合は権利の濫用は成立しない、と
して昭和五四年一〇月三〇日の最高裁第三小法廷判決を援用する。
 しかしながら、右最高裁判例は使用者の施設管理権と組合の企業内組合活動の権
利の一般的な関係が争点となつた事案であつて、本件のように二つの組合が併存す
る企業において企業施設の利用に関して二組合のそれぞれに対して使用者が異なる
対応をしたことの不当性が争われたという事案ではないのであるから、右最高裁判
例は本件とはいちじるしく事案を異にしており本件の先例たりえないものである。
 そもそも本件は、控訴人が右立論の前提として主張する使用者が「乙組合に対し
ても甲組合に対してと同様に団体交渉による自由な取引で決定し」た場合とは全く
異なる事案であり、原判決もプリンス自工労組ないし全日産労組には供与したが被
控訴人支部「に対しては取引がまとまらないために供与に至らなかつた」とか、被
控訴人支部に対してプリンス自工労組ないし全日産労組「と同様な条件を提示して
それを受け入れない限り供与しないとして拒否」したというような事情が本件にお
いては存在しないことを認定しているのであるから、控訴人の右主張は前提におい
てすでに誤つているのである。
 甲、乙二組合併存下において、使用者が甲組合には組合事務所貸与等の便宜供与
をしながら、乙組合には供与を拒否するのは原則として不当労働行為となるのであ
るから、甲組合に便宜供与をしながら乙組合にはこれを拒否することが例外的に不
当労働行為に該らないことを使用者が主張するのであれば、その事由の存在の主
張・立証責任が使用者にあることは理の当然であつて、控訴人の主張が誤まりであ
ることは明白である。
 なお、控訴人は、本件命令を会社に新たに組合事務所や掲示板の設置と供与を義
務づけたものと解しているが、本件命令は単に会社に対して、被控訴人全金プリン
ス自工支部への組合事務所と掲示板の貸与を義務づけているのみであつて、新たに
設置しろなどとは一言も命じていない。したがつて控訴人が、従来から存在してい
る会社の施設の一部もしくはすでに全日産労組に供与してある組合事務所や掲示板
の一部等を供与すればそれで足りるのである。
 勿論会社が組合事務所等を新たに設置して供与することは会社の自由であるが、
本件命令は決してそこまでの義務づけをしたものではない。
 したがつて控訴人の批判は前提において誤まつているものというべきである。
3 不当労働行為に対する労働委員会の救済命令は、行政機関である労働委員会の
団結権侵害を除去するための行政処分としてなされるものであるから、広範な裁量
権限にもとづき目的実現のために適切なかつ妥当な救済命令を発しうるのである。
そしてそれをなしうる法律上の根拠は、労組法七条、二七条四項、労委規則四三条
に求めることができるのであり、控訴人がいうように法の根拠もなしに命令を発し
ているものではないのである。(ちなみに「法律による行政の原理」というのは、
個々の行政の細部まで法の明文がなければなしえないとするものではなく、行政は
窮極的には法にもとづいてなされなければならないということを意味するものにす
ぎない。)したがつて、労働委員会が裁判所もなしえないことをなしうるのは、司
法権の担い手たる裁判所と行政機関たる労働委員会の機能・権限が異なる以上極め
て当然のことなのである。
 勿論労働委員会が行政機関であるからといつて、いかなる救済命令を発しても違
法にはならないというものではない。そこには不当労働行為制度自体の趣旨・目的
からする制約があり、裁量権限の濫用にわたるような命令をなしえないという制限
も存する。しかしだからといつて、労働委員会が使用者の財産権や契約自由の原則
に対して全く介入できないということにはならないのである。けだし労働委員会が
団結権の侵害を回復するための救済命令を発すること自体、多かれ小なかれ使用者
の財産権や契約の自由を制限するのは必至だからである。
 そこで、本件命令が労働委員会の裁量権限を逸脱したり、濫用したものといえる
かが問題となるが、前記のように本件命令は、使用者である控訴人会社の財産権行
使の自由を完全に無にするものではなく、被控訴人支部の団結権侵害の回復(公共
の福祉の要請)に必要な限度で財産権行使の自由を若干制限することを命ずるもの
にすぎないものであるから、本件命令が適法な命令であることは明らかである。
(当審における証拠)(省略)
       理   由
一 当裁判所も、控訴人の本訴請求は棄却すべきものと判断するが、その理由は左
記に付加するほかは原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する。当裁判所
で取調べた控訴人提出の証拠も、右認定判断を動かすに足りるものではない。
 但し、原判決四四枚目表五行目から六行目の「他組合と異なる条件」の次に「そ
の他、組合の運営の自主性を損い、これに対する支配介入と認められるような不合
理な条件等」を、同四五枚目表一〇行目から一一行目の「認められる場合には」の
次に「右法制度を維持する必要上」を、それぞれ加入する。
二 控訴人の当審における主張に対する当裁判所の判断は次のとおりである。
1 憲法二八条違反の主張について
 控訴人は、本件救済命令は、労働者の労働条件は労使対等の原則のもとに自由な
取引で決定すべきであるとして使用者側にも効果をもたらす憲法二八条の団体交渉
権保障の趣旨に反する旨主張するけれども、それが控訴人の権利、自由についての
ものであるとすれば、憲法の右条規は、勤労者の団結権・団体交渉権その他団体行
動をする権利を保障したものであつて、団体交渉に関して使用者の権利、自由を保
障した規定ではないから、違憲の主張はその前提を欠くものといわざるを得ない。
元来、本件のように労働組合が併存する場合、事務所等の供与について差別がなさ
れ、それが不当労働行為に当るときに、その救済措置により、控訴人主張の自由取
引なるものが制約を被ることは、止むを得ないところであつて、何ら憲法二八条に
かかわる問題ではない。また、控訴人は、組合事務所の貸与は、組合に対する便宜
供与であつてもともと望ましいことではない上、被控訴人支部の如く会社の経営方
針を非難攻撃して、これに非協力もしくは反対の態度をとつている状況のもとにあ
つては、たとい労働組合併存の場合に事務所等貸与の便宜供与につき、中立・平等
扱いが要求されるとしても、自由な取引上、そのような組合に事務所等を貸与でき
るものではないと主張するけれども、最小限の広さの事務所の供与は、労組法七条
三号により禁止された組合に対する援助の例外とされており、原判決認定の事実関
係のもとにおいて、被控訴人支部に関する控訴人主張の事由が、被控訴人支部に対
する事務所等の供与を差別する合理的理由となりえないことは、引用の原判決理由
説示のとおりであるから、控訴人のこの点の主張も理由がないというべきである。
2 判例違反の主張について
 控訴人は、本件救済命令を支持することは昭和五四年一〇月三〇日最高裁判所第
三小法廷判決の趣旨に違反し、立証責任を転倒する違法を生ずるというが、右判決
は、企業者が所有・管理しその事業の用に供している物的施設の一部を構成してい
るロツカーに、当該企業の労働組合員が使用者の許諾を得ないで、組合活動の一環
として要求事項等を記入したビラを貼付する行為が正当な組合活動にあたらないと
された事例であり、その趣旨とするところは、使用者は職場環境を適正良好に保持
し、規律のある業務の運営態勢を確保しうるように、企業の物的施設を管理使用す
る権限を有するから、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで、この施
設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが
当該施設につき使用者の有する権利の濫用であると認められる特段の事情がある場
合を除いては許されないというもので、使用者の有する企業施設の管理権と組合活
動の関係について判示した事案であり、本件のように、同一企業内に自主性を有す
る複数の労働組合が併存する場合に、使用者が一方の組合に対して組合活動の本拠
である組合事務所、組合の情宣活動の重要な手段である掲示板を貸与しておきなが
ら、他方の組合のこれらに対する貸与要求を拒否し、貸与しないことが他方の組合
に対する支配介入にあたるとして不当労働行為を構成するかどうかという点が問題
となる事案とはその性質を異にし、前示判決が本件の適切な先例ということはでき
ず、立証責任に関して右判決のいわゆる権利濫用説を本件の場合に推及する所論の
見解は採用することができない。引用の原判決理由説示のように本件における控訴
人の行為が不当労働行為に該当すると認められる以上、その救済措置として、被控
訴人支部に事務所等を貸与することを控訴人に命ずる本件救済命令を是認したから
といつて、所論のようにいわゆる労働組合の施設利用についての受認義務説を採る
ことに、直ちになるものとはいえない。
3 命令主文の違法性について
 控訴人は、本件命令主文は裁判所といえどもなし得ないような義務づけを会社に
対してなしたものであり、労働委員会に認められた裁量権を逸脱した違法があると
主張する。一般に、労組法二七条に定める労働委員会の救済命令制度は、労働者の
団結権及び団体行動権等を保護し、これらの権利を侵害する使用者の一定の行為を
不当労働行為として禁止した同法七条の規定の実効性を担保するために設けられた
ものであつて、労働委員会には、この役割を果すために広い裁量権が与えられ、個
々の事案に応じた適切な是正措置を講じて被害の救済をはかることが期待されてお
り、訴訟において労働委員会の救済命令の内容の適法性が争われる場合において
も、裁判所は、労働委員会の右裁量権を尊重し、その行使が右の趣旨目的に照らし
是認される範囲を越え、又は著るしく不合理であつて濫用にわたると認められるも
のでない限り、当該命令を違法とすべきではないと解されている(昭和五二年二月
二三日最高裁判所大法廷判決・民集三一巻一号九三頁参照)。そして、前示認定の
本件事実関係及び弁論の全趣旨によれば、控訴人には被控訴人支部に組合事務所及
び掲示板の貸与ができる状況にあり、支部に対して日産労組と同様に会社の経営方
針に協力して貰いたいと要求しているのに、被控訴人支部が「一向に態度を改めな
い」ので、「会社は供与に気のりがせず、今もつて供与するに至つていない」とい
うのであり、右会社の措置は、使用者の中立性保持のわくを逸脱し、被控訴人支部
に対する支配介入として不当労働行為にあたると認められるのであるから、その端
的かつ適切な是正措置として、本件救済命令主文に掲記するような事項を会社に命
ずることも、労働委員会に認められた裁量権の範囲内の事項というべく、これをも
つて「法の趣旨に沿つて判断を行つた結果とは考えられないほど明白な不合理性を
有する場合」にあたり、労働委員会に認められた裁量権の限界を逸脱する違法があ
るものということはできない。なお、右命令主文が、控訴人に対して、被控訴人支
部に事務所を貸与するにあたり、特に既存施設を供与するのではなく、新規建築の
うえ供与を義務づけているものとは解されない。
三 以上のとおりであるから、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないか
ら、これを棄却することとし、民訴法三八四条、九五条、八九条を適用して、主文
のとおり判決する。
(裁判官 田中永司 安部剛 岩井康倶)

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