弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、原判決中「被告Aに対するその余の請求を棄却する」とある部分
を除きその他の部分を取消す被控訴人の請求を棄却する訴訟費用は第一、二審共被
控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述は、被控訴代理人において、被控訴人の主張する建物
分与の性質は単純な贈与ではなく夫婦生活における永年の勤労に対する報酬夫婦生
活における助力に対する報酬、婚姻解消の慰藉料、将来の生活の補償という意味の
ものであると釈明した外、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
(立証省略)
         理    由
 被控訴人と控訴人Aが大正六年二月以降事実上の夫婦として同棲し、大正十二年
十月十九日婚姻届出をしたが、昭和二十二年十月二十七日協議上の離婚をした事実
は当事者間に争がない。原審及び当審証人B、原審証人C、Dの各証言及び原審及
び当審における被控訴人本人訊問の結果に当審証人Eの証言を参酌すると、控訴人
Aは、昭和十五年頃から単身aに渡つて事業に従事中、訴外Fを呼び寄せてこれと
同棲し、昭和二十二年七月頃同地を引揚げた際も同人を伴つて帰道したが、これと
別離することを欲せず、被控訴人に対し切に離婚を求めたため、被控訴人もこれを
承諾するに至つた事実及び右離婚の承諾をするについて、同控訴人は被控訴人に対
し、多年の夫婦生活中に同控訴人が取得したりまた共同で使用収益して来た控訴人
の財産中から原判決別紙第一目録記載の建物及び動産の半分を分与することを約し
た事実を認めることができるのであつて、同控訴人の供述中右認定に反する部分は
これを措信しない。もつとも成立に争のない乙第一号証(離婚届謄本)によると当
事者間の離婚届書には「妻の離婚要求により無条件協議離婚の事」との記載がある
けれども、当審被控訴人本人訊問の結果によると、被控訴人は右のような記載のめ
ることを知らずに離婚届に捺印した事実が認められ、その他同控訴人の提出援用す
る各証拠によつては前記認定を覆すに足りないのである。同控訴人は、仮に右建物
分与の契約があつても、それは贈与であつて書面によらないものであるから、本訴
において右契約を取消すと主張するけれども、書面によらない贈与を取消しうる<要
旨>ものと定めた民法第五百五十条の規定は軽卒な贈与者の利益を保護する趣旨に出
でたものであるところ、夫婦の協議離婚に際して夫が多年に亘つて苦楽を共
にした妻に対し財産を分与するのは、離婚される妻に対する慰藉を与え特に老後の
生活を保障するために行われるのが通例であつて、当事者間の財産の分与も、また
反証のない限り、この趣旨に出たものと認めるのが相当でありかようの分与につい
ては、もとより当事者間において相当の熟議考慮の下になされるものである以上、
これを単純な贈与契約と同視して、書面によらない限りこれを取消しうるものと解
するのは、正当でない。ゆえに、この抗弁は理由がない。
 よつて同控訴人は右分与契約により、被控訴人に対して右建物の所有権移転登記
手続をしなければならないことは明らかである。
 つぎに、右建物について控訴人Gのために被控訴人主張のような抵当権設定登記
の存在することは当事者間に争がなく、原審証人Dの証言及び被控訴人本人訊問の
結果によると、控訴人Aは控訴人Gに対し右登記にかかる債務を負担していないの
に控訴人Gにも計らずに右のような抵当権設定登記をした事実が認められ、右認定
に反する控訴人本人訊問の結果はこれを措信しない。従つて右抵当権設定登記は登
記原因のない登記であるから、被控訴人はその名義上の抵当権者となつている控訴
人Gに対し、その抹消登記手続を請求しうるものと解するを相当とする。
 つぎに、控訴人Aが原判決別紙第二目録記載の物件を占有している事実は当事者
間に争がなく、原審証人Dの証言及び被控訴人本人訊問の結果によると、右物件
は、いずれも被控訴人の所有であつて離婚に際し同控訴人の許に残して来たもので
あることを窺うに足りるので同控訴人は被控訴人に対しその引渡をしなければなら
ない。
 最後に、被控訴人と控訴人Aが離婚した後、同控訴人がシンガーミシン一台を占
有していたところ、盗難にかかつてその所在が不明となつてしまつた事実は、当事
者間に争がなく、成立に争のない甲第二号証及び原審被控訴人本人訊問の結果によ
ると、右ミシンは被控訴人の所有であつて離婚後被控訴人がその引渡を求めても同
控訴人がこれに応じないでいる間の被害である事実を認めうるのである。かように
同控訴人が被控訴人に対する引渡義務の遅滞中に生じた盗難による損害について
は、その盗難について同控訴人に過失があつたと否とを問わず、被控訴人に対しそ
の損害賠償の責任があるものと解すべきであり、そして右ミシンの時価が一万五千
円であることは当事者間に争のないところであるから、被控訴人は同控訴人の右物
件引渡義務不履行によつて右金額の損害を被むつたものであり、従つて同控訴人は
被控訴人に対し一万五千円を支払わなければならないことが明らかである。
 以上の説明の通りであるから、これと同趣旨に出で訴訟費用を控訴人等の負担と
した原判決は相当である。
 よつて民事訴訟法第三百八十四条、第八十九条、第九十五条を適用し、主文の通
り判決する。
 (裁判長裁判官 浅野英明 裁判官 藤田和夫 裁判官 猪股薫)

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