弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成19年3月28日判決言渡
平成18年(行ケ)第10392号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成19年3月19日
判決
原告株式会社親和製作所
訴訟代理人弁護士松本直樹
被告フルタ電機株式会社
訴訟代理人弁護士小南明也
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2005−80132号事件について平成18年7月19日
にした審決を取り消す。
第2争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
(1)原告は,平成6年11月24日,発明の名称を「生海苔の異物分離除去
装置」とする発明につき特許出願(特願平6−315896号。以下「本
件出願」という。)をし,平成9年6月20日,特許第2662538号
として特許権(請求項の数4。この特許権に係る特許を「本件特許」とい
う。)の設定登録を受けた。
本件特許の請求項2に係る発明についての特許に対し被告から平成17
年4月26日に無効審判請求がされ,特許庁は同請求を無効2005−8
0132号事件として審理し,その係属中の同年7月21日,原告は,本
件出願の願書に添付した明細書(以下,願書に添付した図面と併せて「本
件明細書」という。)について特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正
請求をしたが,特許庁は,平成18年6月21日,上記訂正請求を却下す
る決定をした。
そして,特許庁は,同年7月19日,「特許第2662538号の請求
項2に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審
決」という。)をし,その謄本は,同年8月8日,原告に送達された。
(2)なお,被告は,平成15年6月16日,本件特許の請求項1に係る発明
についての特許に対し無効審判請求をし,特許庁は,この請求を無効20
03−35247号事件として審理した結果,平成16年4月6日,請求
不成立の審決(以下「第1次審決」という。)をした。被告は,第1次審
決を不服として,その取消しを求める審決取消訴訟(東京高等裁判所平成
16年(行ケ)第214号)を提起し,東京高等裁判所は,平成17年2
月28日,第1次審決を取り消す旨の判決をし,同判決は確定した。その
後,特許庁は,更に審理をした結果,同年5月12日,本件特許の請求項
1に係る発明についての特許を無効とする旨の審決(以下「第2次審決」
という。)をした。
原告は,第2次審決を不服として,その取消しを求める審決取消訴訟(
当庁平成17年(行ケ)10530号)を提起し,当庁は,同年11月9
日,請求棄却の判決をし,同判決は確定し,平成18年4月11日,第2
次審決の確定登録がされた。
2特許請求の範囲
本件明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2の記載は,次のとお
りである(以下,請求項1に係る発明を「請求項1発明」,請求項2に係る
発明を「本件発明」という。)。
【請求項1】筒状混合液タンクの底部周端縁に環状枠板部の外周縁を連設
し,この環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリア
ランスを介して内嵌めし,この第一回転板を軸心を中心として適宜駆動手段
によって回転可能とするとともに前記タンクの底隅部に異物排出口を設けた
ことを特徴とする生海苔の異物分離除去装置。
【請求項2】前記第一回転板の表面を回転中心から周縁に向かうに従って
下がり傾斜にしたことを特徴とする請求項1の生海苔の異物分離除去装置。
3審決の内容
本件審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。
その理由の要旨は,本件発明は,本件出願前に頒布された刊行物である特
開昭51−82458号公報(甲2。以下「引用例」という。)記載の発
明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発
明をすることができたものであり,本件発明の特許は,特許法29条2項の
規定に違反してされたものであるから,同法123条1項2号に該当し,無
効とすべきであるというものである。
本件審決は,本件発明と引用発明との一致点及び相違点を次のとおり認定
した。
(一致点)
本体の底部周端縁に環状枠板部を設け,この環状枠板部の内周縁内に第一
回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし,この第一回
転板を軸心を中心として適宜駆動手段によって回転可能とするとともに前記
本体に異物排出口を設けたことを特徴とする混合液の異物分離除去装置であ
る点。
(相違点(a))
本件発明では,本体が,筒状混合液タンクであり,異物排出口がその底隅
部に設けられているのに対し,引用発明では,本体が,室(ハウジング)で
あり,異物排出口はその側部に設けられている点。
(相違点(b))
異物分離除去の対象となる混合液が,本件発明では「生海苔の混合液」で
あるのに対し,引用発明では「パルプ等の繊維懸濁液のような異なる物質」
である点。
(相違点(c))
第一回転板が,その表面を回転中心から周縁に向かうに従って,本件発明
では下がり傾斜にしているのに対し,引用発明では,その形状は特定されて
おらず,図面を見る限り平面状である点。
第3当事者の主張
1審決の取消事由に関する原告の主張
本件発明と引用発明との一致点の認定,相違点(a)の認定及び容易想到性
の判断,相違点(b)及び(c)の認定に誤りがないことは認める。
しかし,審決は,相違点(b)及び(c)の容易想到性の判断を誤り,本件発
明の進歩性の判断を誤ったものであるから,違法として取消しを免れない。
(1)相違点(b)及び(c)の容易想到性の判断の誤り
ア本件発明の特徴
(ア)本件発明は,深さのあるタンクを前提として,「下がり傾斜」の
回転板(相違点(c))の円周部の隙間(クリアランスないしスリッ
ト,以下「スリット」という場合がある。)を使った,生海苔用(相
違点(b))の異物除去装置であり,生海苔の塩水混合液をタンクに入
れて,上記隙間を通過させて良品の生海苔を得るというものである。
ところで,生海苔は,極薄のフィルム状であるため,まとまった分
量になると,スリットを通過させようとしても,直ちにスリットを塞
いでしまう。そこで,生海苔の薄片が塩水中にいわば「漂った状態」
で,スリット部分に移動するようにさせ,スリット部分に生海苔が留
まることがないように,通過しないものは直ちに浮遊したまま移動す
るのが良く,そのためには,深さのあるタンクにタップリと貯めた状
態で処理をする構造が相応しい。また,異物と絡み合ったものや,厚
手のものなどは,通過させずに廃棄する必要があるので,ある程度穏
やかにスリットを通過させるようにするのが望ましい。
本件発明は,回転板の上方に,分離前の混合液がある程度の深さで
貯まる構造とし(本件明細書(甲1)の図1参照),穏やかにスリッ
トを通過させるようにしたものである。
(イ)そして,上記(ア)の構造を前提とする本件発明の回転板(第一回
転板)の「下がり傾斜」の構造(相違点(c))には,次のような機能
がある。
a下がり傾斜の形状によって,混合液(選別前のもの)を貯めた状
態で,垂直の中心軸を中心とした回転する流れが生じると共に,遠
心力によって下部で外側に向かう流れが生まれ,回転板の回転に伴
う混合液の流れをスムーズにさせ,海苔のスリット通過と異物選別
を助け,スリットを通過すべきものを通過させ,通過しないものが
滞留するのを防ぐことができる。
b本件発明の装置においては,数分の間,選別前混合液を上から投
入しながら,下部で選別後の海苔を取り出す運転を続け,投入を止
めて水位が下がった後,タンク内に残った異物等を洗浄及び排出す
るという運転の仕方をする。その際,回転板が平面状であると異物
が回転板上に残ってしまい,十分な洗浄ができないが,下がり傾斜
とすることにより,これを避けることができる。
イ本件発明の非容易想到性
(ア)先行技術における本件発明の構成・効果の不開示
a本件審決が周知例として引用した甲8(特開昭61−27830
8号公報),甲9(実公平6−32201号公報),甲12(特開
昭52−67068号公報)には,回転板が「下がり傾斜」形状に
見える先行技術の記載も存在するが,いずれも回転板円周部の隙間
を通過させる異物除去とは全く無関係で,回転板の働きが全く異な
るから,甲8,9,12から本件発明の構成が示唆されることはな
い。
すなわち,甲8は,濾過装置とはされているが,中央部の隙間を
通過させようとするものであり,回転板円周部の動的な隙間を使う
ものとは無関係である。甲9と甲12は,比重の差によって分離を
しようとする一種の遠心分離機であり,隙間を通過させようという
技術思想は存しない。
また,本件審決が周知例として引用した参考資料1ないし6(甲
33ないし38)の各回転板は,いずれ単に攪拌等をするだけで,
良品海苔を隙間通過させるという技術思想は存しない。なお,甲3
3(特開昭57−136490号公報)は単なる洗濯機,甲34(
実願昭60−171302号(実開昭62−81292号)のマイ
クロフィルム)は単なる攪拌機にすぎない。
b前記ア(イ)のとおり,本件発明の「下がり傾斜」は,深さのある
タンクの中で,生海苔を回転板円周部の隙間を通過させるのに役立
たせ,残留異物を洗い流す効果を奏するものであるが,このような
効果は,どの先行技術にもみられられない本件発明独自のものであ
る。
(イ)引用発明における阻害要因の存在
引用発明の異物除去装置は,回転板構造があるが,回転板の上の空
間である「室4」が扁平な形状であって,狭いものであり,分離前の
混合液がある程度の深さで貯まる構造ではないから(甲2の図8,1
0,14),引用発明の回転板を,下がり傾斜の形状に変更すること
には阻害要因がある。
(ウ)したがって,引用発明に,上記(ア)aの先行技術を組み合わせる
ことはできないし,仮にこれを組み合わせたとしても,対象物を「生
海苔」とし,回転板を「下がり傾斜」の形状とする,相違点(b)及び(
c)に係る本件発明の構成を容易に想到することはできない。
(2)まとめ
以上のとおり,当業者が引用発明に基づいて本件発明を容易に発明する
ことができたものではないから,本件発明の進歩性を否定した本件審決の
判断は誤りである。
2被告の反論
(1)本件発明の特徴に関する主張に対し
ア本件発明は,請求項1発明と従属項の関係にあり,請求項1発明の第
一回転板について「第一回転板の表面を回転中心から周縁に向かうに従
って下がり傾斜」との構成を付加することによって限定(相違点(c))
したものである。そして,「下がり傾斜」との構成を加えたことによる
効果は,第一回転板の表面を水平状態にした場合と比較して,「異物を
遠心力によってタンクの底隅部に集積しやすい」(本件明細書の段落【
0010】,【0030】)という程度のものであって,請求項1発明
の作用,効果と実質的な相違はなく,原告主張のような特徴もない。本
件発明は,請求項1発明と実質的に同一発明であるといえる。
そして,本件と同じ引用発明及び周知技術に基づいて請求項1発明の
特許を無効とする第2次審決が既に確定している以上,相違点(b)の判
断についてはもはや争う余地がなく,請求項1発明と実質的に同一発明
である本件発明の特許が無効であることも明らかである。
イまた,本件発明について「深さのあるタンク」という構成を前提とし
た主張,及び「下がり傾斜」の効果に関する主張は,いずれも本件明細
書の記載に基づかないものであって失当である。
(2)本件発明の非容易想到性に関する主張に対し
ア本件発明における「下がり傾斜」の効果は,前記(1)ア記載の程度のも
のにすぎないこと,本件発明は,傾斜の特定をしたものではないことを
前提とすれば,本件審決が引用する先行技術における「下がり傾斜」形
状の回転板が,本件発明における「下がり傾斜」の構成と無関係である
とはいえない。
また,引用例(甲2)の図8,10,14で開示されている「室」(
104など)は扁平な形状ではなく,回転板の上部に相当な空間を備え
ている構造であるといえるから,引用発明の回転板を,下がり傾斜の形
状に変更することに阻害要因はない。
イしたがって,本件審決が,「本件発明の第一回転板の形状は,当業者
であれば攪拌用の回転体の形状として想起しうる程度のものであり,そ
のような変更により本件発明の目的及び効果に格別の相違が生じるもの
ではないから,この点は単なる形状の変更に過ぎない。また,この形状
の相違は,異物を分離するという課題を解決する手段における微差とい
うべきものでもある。したがって,引用発明を海苔の異物分離に転用す
る際に,回転板の形状をこのようなものとすることは,実質的な相違と
は認められないか,少なくとも,当業者であれば容易に想到しうること
に過ぎない。」(審決書14頁23行∼30行)として,相違点(c)に
係る本件発明の構成について,当業者が容易に想到し得たと判断したこ
とに誤りはない。
第4当裁判所の判断
1相違点(b)及び(c)の容易想到性の判断の誤りについて
(1)相違点(b)に係る容易想到性について
以下のとおりの理由から,引用発明における異物分離除去の対象となる
混合液について,「パルプ等の繊維懸濁液」を「生海苔の混合液」(相違
点(b)に係る本件発明の構成)とすることは容易想到であると解する。
ア事実認定(本件発明の特徴)
本件発明と引用発明とを対比すると,両者は,混合液の異物分離除去
装置であること,また,装置の基本的な構成(本体の底部周端縁に環状
枠板部を設け,この環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態
で僅かなクリアランスを介して内嵌めしたものであること,第一回転板
を軸心を中心として適宜駆動手段によって回転可能とするものであるこ
と,本体に異物排出口を設けたこと)において共通する。
そして,上記共通点に加えて,本件明細書(甲1)には,「この発明
に係る生海苔の異物分離除去装置は上記のように構成されているため,
第一回転板を回転させると混合液に渦が形成されるため生海苔よりも比
重の大きい異物は遠心力によって第一回転板と前記環状枠板部とのクリ
アランスよりも環状枠板部側,即ち,タンクの底隅部に集積する結果,
生海苔のみが水とともに前記クリアランスを通過して下方に流れるもの
である。」(段落【0009】)との記載があるのに対して,引用例(
甲2)にも,「この種の篩い分けを行う目的は,例えば懸濁液を連続的
に処理するに好適な粒径より大きな粒径の粒子の如き夾雑物を懸濁液か
ら分離することである。」(2頁右下欄4行∼7行),「この篩い分け
装置は,ほぼ円形の干渉間隙又は同心円状に配列した数個所の間隙を利
用することにより,スクリーンに流入する懸濁液が各スクリーン間隙に
達した瞬間に高度に流動化されて繊維が間隙を通過できる程度にまで流
動化させ,特に繊維濃度が高い物質から好ましくない不純物を分離する
ために用いることができる。静止部材又は可動によって流体中に適当な
強度及び形状を持つ攪乱を供給することにより流動化を起こすことがで
きる。」(3頁左下欄12行∼右下欄1行)との記載があることに照ら
すならば,本件発明と引用発明は,いずれも第一回転板を駆動させて混
合液を流動化させ,混合液中の生海苔(本件発明)又は繊維(引用発
明)はクリアランス(間隙)を通過させるが,クリアランスよりも粒径
の大きな異物は通過させずに異物排出口から排出させることにより,混
合液から異物を分離するものである点において共通する。
そして,引用例(甲2)には,「スクリーンの実効間隙は任意に設定
することができ,この間隙の幅以上の寸法の粒子の通過を妨げる手段が
画定されるから,全く自由に任意の寸法の粒子を除去することができ
る。」(5頁右上欄15行∼18行)との記載があり,この記載によれ
ば,引用例の異物除去装置の実効間隙は,除去すべき異物の粒子の大き
さ,あるいは通過させるべき対象物の大きさに応じて任意に設定するこ
とができるものと理解される。
イ容易想到性の判断
そうすると,「生海苔混合液中の細かく切断された生海苔が狭いスリ
ットを通過し得ること」は,本件出願時に,周知の技術事項であり(例
えば,甲3,43),パルプ等の繊維懸濁液と生海苔混合液とは,繊維
又は生海苔が狭いスリット(間隙)を通過し得るという点において相違
はないから,当業者であれば,引用例の異物除去装置の実効間隙を,通
過させるべき生海苔の大きさに合わせて設定することにより,引用例の
異物除去装置を「生海苔の混合液」に使用することは,容易に想到し得
たものと認められる。
(2)相違点(c)に係る容易想到性について
以下のとおりの理由から,引用発明に,周知技術(甲33ないし38)
を適用して,「第一回転板の表面を回転中心から周縁に向かうに従って『
下がり傾斜』の形状」(相違点(c)に係る本件発明の構成)とすること
は,容易想到であると解する。
ア事実認定
(ア)本件明細書(甲1)には,本件発明の第一回転板の表面を回転中
心から周縁に向かうに従って「下がり傾斜」の形状(相違点(c)に係
る本件発明の構成)とすることによる作用効果について,「なお,前
記第一回転板の表面を回転中心から周縁に向かうに従って下がり傾斜
にすれば,前記異物を遠心力によってタンクの底隅部に集積しやすい
ものである。」(段落【0010】,【0030】)との記載があ
る。
(イ)他方,引用例(甲2)の「この繰り返し試行は,回転部材によっ
て懸濁液中に惹き起こされる攪乱によるものである。」(5頁右上欄
10行∼11行)との記載があり,同記載によれば,引用発明の第一
回転板も懸濁液を攪拌する作用を有する点で共通する。
そして,甲33ないし38によれば,「タンク又は槽の底部に設け
られた,内部の液体を攪拌する作用を有する回転体において,その形
状をその表面を回転中心から周縁に向かうに従って下がり傾斜とした
もの」とすることは,海苔調合装置などの海苔処理装置(例えば,甲
35ないし37(本件審決の参考資料3ないし5))を含め,周知の
技術であったことが認められる。さらに,甲33には「例えばパルセ
ータ34の直上から沈降する異物は,・・・パルセータ34の上面に
案内されるようにしてパルセータ34と凹所17との間の隙間から遮
壁37の外側の案内路38に入り込み,・・・」(3頁右上欄15行
∼左下欄1行)との記載があり,この記載は,異物が攪拌板であるパ
ルセータ34の表面を中心から周縁に向かって「下がり傾斜」に従っ
て案内されることを示唆するものであると理解できる。
イ容易想到性の判断
そうすると,第一回転板の表面を回転中心から周縁に向かうに従っ
て「下がり傾斜」とすれば,異物が周縁に移動しやすくなり,本体の底
隅部に集積しやすくなることは当然予測できるものであるから,引用発
明に上記ア(イ)の周知技術を適用して,引用発明の第一回転板の表面を
回転中心から周縁に向かうに従って「下がり傾斜」の形状(相違点(c)
に係る本件発明の構成)とすることは,当業者であれば容易に想到し得
たものと認められる。
ウ原告の主張について
(ア)これに対し原告は,本件発明は,回転板の上方に,分離前の混合
液がある程度の深さで貯まる構造を前提とした上で,回転板(第一回
転板)を「下がり傾斜」の形状とするとの構成を採用したことによ
り,生海苔を回転板円周部の隙間を通過させるのに役立たせ,残留異
物を洗い流すという独自の効果を有するのに対して,引用発明の異物
除去装置は,その回転板の上の空間である「室4」が扁平な形状であ
って,狭いものであり,分離前の混合液がある程度の深さで貯まる構
造ではないから,引用発明において,対象物を「生海苔混合物」と
し,回転板を下がり傾斜の形状に変更することに阻害要因があるなど
と主張する。
(イ)しかし,原告の上記主張が失当であることは,前記(1)イ及び(2)
イで判示したとおりであるが,さらに理由を付加する。
原告は,回転板(第一回転板)を「下がり傾斜」の形状としたこと
により,生海苔を回転板円周部の隙間を通過させるのに役立たせ,残
留異物を洗い流すという,先行技術にはみられない独自の効果を有す
ると主張するが,原告主張の上記効果は,本件明細書(甲1)の記載
に基づくものではなく,本件明細書の記載から自明であるともいえな
い。そして,本件発明において回転板の表面を「下がり傾斜」の形状
としたことによる作用効果は,当業者が当然予測し得る程度のものに
すぎないことは,前記(2)イで判断したとおりである。(なお,本件明
細書には「更に,前記第二回転板の周縁部の表面を回転中心から周縁
に向かうに従って下がり傾斜にすれば,前記クリアランスにおける前
記生海苔と水との混合液の通過を更に促進させることができる。」(
段落【0012】,【0032】)との記載もあるが,回転板の表面
の「下がり傾斜」のどのような作用によりクリアランスにおける生海
苔と水との混合液の通過を更に促進させることができるかについての
具体的な説明はなく,上記記載から,相違点(c)に係る本件発明の構
成により格別な作用効果を奏するものと認めることはできない。)
また,引用例(甲2)の図1(FIG.1)に照らしても,「デイ
スク5」(回転部材)の上の空間である「室4」が液体を貯蔵するこ
とができる程度の深さを持った筒状の空間であり(原告は,引用例
の「室4」が本件発明の「筒状混合液タンク」に相当するとした本件
審決の相違点(a)の判断を争っていない。),「デイスク5」の表面
を回転中心から周縁に向かうに従って「下がり傾斜」の形状とするの
に支障があるものと認めることはできない。したがって,本件発明と
引用発明とが,分離前の混合液が貯まる構造(タンク)の深さに関し
実質的に差異があるものとはいえず,引用発明の第一回転板を「下が
り傾斜」の形状とすることに阻害要因はない。
(ウ)そうすると,相違点(b)及び(c)に係る本件発明の構成を容易に
想到することはできない旨の原告の上記主張は,その前提を欠くもの
として,採用することができない。
(3)まとめ
したがって,相違点(b)及び(c)に係る本件発明の構成が容易想到であ
るとした本件審決の判断に誤りはない。
2結論
以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がない。原告は,他にも本件審
決の認定判断の誤りを縷々主張するが,その主張自体審決の結論に影響を及
ぼすものではなく,本件審決を取り消すべき瑕疵に該当しない。
なお,本件審決は,相違点(a)及び(b)の容易想到性があるとした判断は
第1次審決を取り消した確定判決(前記第2の1(2))の拘束力に従ったもの
である旨を説示している(審決書8頁12行∼18行)。しかし,本件発
明(請求項2)とは異なる請求項1に係る特許についての審決を不服とした
別件取消訴訟の取消判決(確定判決)における理由中の判断が,本件発明の
特許の無効審判をする審判官(特許庁)を拘束するいわれはないので,本件
審決の上記説示部分は,行政事件訴訟法33条についての誤った理解に基づ
くものであって相当ではない。ただし,この点は,審決の結論を左右するも
のではない。
以上のとおりであるから,原告の本訴請求は理由がないから棄却すること
として,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官大鷹一郎
裁判官嶋末和秀

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛