弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       原決定を破棄し,原々決定のうち,抗告人の債権差押命令の申立て
を却下した部分を取り消す。
       同部分につき,本件を宇都宮地方裁判所に差し戻す。
         理    由
 抗告代理人中島章智及び同神原宏尚の抗告理由について
 1 記録によれば,本件の経緯の概要は,次のとおりである。
 (1) 東京高等裁判所は,平成17年2月21日,同裁判所平成16年(ラ)第
1313号婚姻費用分担の審判に対する抗告事件において,相手方に対し次の額の
金員を抗告人に支払うよう命ずる決定(以下「本件決定」という。)をし,その後
,本件決定は確定した。
 ア 平成15年3月から平成17年1月までの23か月分の婚姻費用分担額の未
払分119万6000円
 イ 平成17年2月から当事者の離婚又は別居状態の解消に至るまで,毎月末日
限り5万2000円ずつの婚姻費用分担額
 (2) 抗告人は,本件決定によって,民事執行法151条の2第1項2号に掲げ
る義務に係る確定期限の定めのある定期金債権(以下「本件債権」という。)を取
得したことになる。
 (3) 抗告人は,平成17年3月8日,本件決定の正本に基づいて,① 次のア
の債権及び執行費用(以下「本件期限到来債権等」という。)を請求債権として,
相手方が第三債務者である社会保険診療報酬支払基金(以下「支払基金」という。)
から支払を受ける平成17年3月4日から平成18年3月3日までの診療報酬に係
る債権(ただし,65万8650円に満つるまで)の差押えを,② 本件期限到来
債権等を請求債権として,相手方が第三債務者である栃木県国民健康保険団体連合
会から支払を受ける上記期間の診療報酬に係る債権(ただし,60万円に満つるま
で)の差押えを,③ 次のイの債権(以下「本件期限未到来債権」という。)を請
求債権として,相手方が第三債務者である支払基金から支払を受ける上記期間の診
療報酬に係る債権(ただし,本件期限未到来債権の確定期限の到来後に弁済期が到
来するものに限る。)の差押えを,それぞれ申し立てた。相手方は,診療所を開設
し,「甲歯科クリニック Y」の名義で支払基金から診療報酬の支払を受ける地位
を有する。
 ア 本件債権のうち確定期限が到来しているもの及び執行費用   125万8
650円
(ア) 124万8000円   平成15年3月から平成17年2月まで1か月5
万2000円の婚姻費用分担額の未払分
(イ) 1万0650円     執行費用
 イ 本件債権のうち確定期限が到来していないもの
 ただし,平成17年3月から当事者の離婚又は別居状態の解消に至るまで,毎月
末日限り5万2000円ずつの婚姻費用分担額
 (4) 原々審は,抗告人の上記申立てのうち,本件期限到来債権等を請求債権と
する上記(3)①及び②の申立て部分については,これを認容したが,本件期限未到
来債権を請求債権とする同(3)③の申立て部分については,強制執行の開始の要件
を満たさないとして,これを却下する旨の決定をした。原審も,次のとおりの理由
により,上記却下部分に係る抗告人の執行抗告を棄却する旨の決定をした。
 ア 民事執行法151条の2第1項に掲げる婚姻から生ずる費用の分担の義務等
に係る定期金債権については,確定期限の到来していないものについても債権執行
を開始することができるが,その場合,上記定期金債権について,その確定期限到
来後に弁済期が到来する「給料その他継続的給付に係る債権のみ」を差し押さえる
ことができるものとされている。
 イ 上記「給料その他継続的給付に係る債権」とは,同法151条に規定する継
続的給付に係る債権と同じく,給料債権や賃料債権のように同一の法律関係に基づ
いて継続的に発生する債権をいうものと解されるところ,社会保険診療報酬債権は
,保険医が被保険者を診療することによってその対価として受ける個別的な債権の
集合であって,同一の契約関係から継続的に発生するものではないから,「継続的
給付に係る債権」には該当しないものというべきである。したがって,本件期限未
到来債権を請求債権とする申立て部分について,強制執行の開始の要件を満たさな
いとしてこれを却下した原々審の決定は正当である。
 2 しかしながら,原審の上記1(4)イの判断は是認することができない。その
理由は,次のとおりである。
 法律の規定(健康保険法63条3項1号,国民健康保険法36条3項等)に基づ
き保険医療機関としての指定を受けた病院又は診療所は,被保険者に対して診察等
の療養の給付をした場合,法律の規定(社会保険診療報酬支払基金法1条,15条
1項,健康保険法76条,国民健康保険法45条等)に基づき,診療担当者として
,保険者から委託を受けた支払基金に対して診療報酬を請求する権利を取得するこ
とになる。そして,上記の診療担当者として診療報酬を請求し得る地位は,法律の
規定に基づき保険医療機関としての指定を受けることにより発生し,継続的に保持
される性質のものであるため,上記指定を受けた病院又は診療所は,被保険者に対
し診察等の療養の給付をすることにより,支払基金から定期的にその給付に応じた
診療報酬の支払を受けることができる。また,診療報酬債権に係る上記の法律関係
は,病院又は診療所が生活保護法に基づき指定医療機関として指定を受け同機関と
して療養の給付をした場合,児童福祉法に基づき指定育成医療機関として指定を受
け同機関として育成医療の給付をした場合等,支払基金が法律の規定に基づき委託
を受けて医療機関に対して診療報酬を支払うものとされている場合についても,基
本的に同様である(社会保険診療報酬支払基金法15条2項,生活保護法49条,
53条,児童福祉法20条,21条の3等)。
 そうすると,【要旨】保険医療機関,指定医療機関等の指定を受けた病院又は診
療所が支払基金に対して取得する診療報酬債権は,基本となる同一の法律関係に基
づき継続的に発生するものであり,民事執行法151条の2第2項に規定する「継
続的給付に係る債権」に当たるというべきである。
 3 以上によれば,原審の前記判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法
令の違反がある。論旨は,上記の趣旨をいうものとして理由があり,原決定は破棄
を免れない。そして,上記説示をしたところによれば,本件期限未到来債権に基づ
き,その確定期限到来後に弁済期が到来する診療報酬債権の差押えを求める申立て
部分を却下した原々決定は不当であるから,同部分について,原々決定を取り消し
た上,本件を宇都宮地方裁判所に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 藤田宙靖 裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田豊三 裁判官 堀籠
幸男)

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