弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人平林庄太郎及び被告人の各上告趣意は末尾添附の各書面記載のとおりであ
つてこれに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 弁護人平林庄太郎の上告趣意第一点について。
 本件は所論のごとき公訴事実について食糧緊急措置令第一〇条に該当するものと
して起訴され、第一審裁判所も右同一事実を認定し(但し第一審判決に犯罪日とし
て昭和二二年八月二三日より翌二三年一〇月八日迄及び昭和二三年三月四日より同
年一〇月八日迄とあるはいずれも同年一〇月一日迄の誤記と認める)同法条を適用
して被告人を処断したことは所論のとおりである。しかしながら裁判所はその基本
たる事実関係の同一性を害せざる限りは公訴事実として摘示せられた事実とその態
様において異り、従つて適用法条を異にする事実を認定してもすこしも差支えない
のである。もとより裁判所は検察官のつけた罪名に拘束せられることはない。本件
において起訴状記載の事実並びに第一審判決認定の事実は被告人が尼崎市役所A出
張所に不実の申告をし判示の各家庭用主要食糧購入通帳の交付を受け右通帳を利用
して判示の日時兵庫県食糧配給公団B支所C配給所から判示の主食等の不正配給を
受けたという事実であるけれども、原判決はその挙示の証拠によつて判示のごとく
被告人は右C配給所の係員を欺罔して前記の主食等を騙取したという事実を認定し
たのであつてその間毫も公訴事実の同一性を害するものではない。しかも右の場合
のごとく食糧緊急措置令第一〇条不正受配の罪にあたる事実が同時に刑法に正条あ
る罪にあたる場合においては刑法によつて処断すべきものであることは同条末段の
明定するところである。従つて原判決には所論のように旧刑訴法四一〇条一八号に
あたる違法はない。
 同第二点について。
 控訴審は公訴事実の同一性を害しない限り第一審判決の認定した事実と差異のあ
る事実を認定しても毫も差支えないこと前点説示のとおりである。そして、旧刑訴
法においては訴因罰条の変更により被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞れあ
るとき被告人又は弁護人の請求により被告人に充分な防禦の準備をさせるため必要
な期間公判手続を停止すべき旨の規定もないのである。しかも本件は詐欺罪にあた
る罪であつて、いわゆる必要的弁護事件でなく、かつ被告人において国選弁護人選
任の請求をした形跡もないのであるから原審が弁護人の立会なくして本件の審判を
行つても所論の違法はない。なお原審公判調書を調べてみるとその訴訟手続はすべ
て適法に行われていることがわかるのであつて論旨は理由がない。
 被告人の上告趣意は結局当裁判所に対し情状酌量の上御判決を賜るよう御願いし
度いというのであつて適法な上告理由とならない。
 よつて旧刑訴法四四六条により全裁判官一致の意見により主文のとおり判決する。
 検案官 竹内壽平関与
  昭和二六年四月一〇日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介

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