弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人大谷恭子,同吉原美由希の上告趣意のうち,憲法36条違反をいう点は,
その執行方法を含む死刑制度が憲法の同規定に違反するものでないことは当裁判所
の判例(最高裁昭和22年(れ)第119号同23年3月12日大法廷判決・刑集
2巻3号191頁,最高裁昭和26年(れ)第2518号同30年4月6日大法廷
判決・刑集9巻4号663頁,最高裁昭和32年(あ)第2247号同36年7月
19日大法廷判決・刑集15巻7号1106頁)とするところであるから理由がな
く,その余は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実
誤認,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお,所論にかんがみ記録を調査しても,刑訴法411条を適用すべきものとは
認められない。
付言すると,本件は,父親が経営する工務店等の資金繰りに窮するなどした被告
人が,(1)金品強取の目的でホテルの女性事務員(当時55歳)を殺害し,現金
約9500円等在中のセカンドバッグ1個等(物品時価合計約21万円相当)を強
取してその死体を遺棄し,(2)その約9か月後,借金を申し入れた女性薬剤師
(当時63歳)に,それを断られた上,借金を申し入れたことを口外すると言われ
たことなどから,同女の口を封ずるために同女を殺害し,その死体を遺棄した上,
同女が所持していたキャッシュカードを用いて,銀行の自動預入支払機から現金合
計200万円を引き出して窃取したという事案である。
上記(1)の犯行は,強盗殺人を行うことを決めてから,犯行対象とするのに適し
た者として被害者を選び出し,凶器とするロープを購入するなど周到に準備を調え
た上,被害者の勤務先の社長が倒れて病院に運ばれたなどという虚言を用いて被害
者をおびき出し,あらかじめ睡眠導入剤を入れておいた缶飲料を飲ませて眠らせて
からロープを頸部に巻き付け,確定的殺意により,これを強く絞め続けて殺害した
ものであり,犯行は,計画的で,こうかつな手段を用いている上,残忍かつ冷酷極
まりない。そして,被告人は,計画どおり所持金品を強取した上,死体を畑の中に
埋めて遺棄するなど終始強固な犯意の下に犯行を遂行している。
上記(2)の犯行は,上記のような口封じを目的に安易に殺害を企て,確定的殺意
により被害者の頸部を両手で強く絞め続けて殺害し,死体を杉林内に投棄して遺棄
するなどしたもので,犯行態様は,残忍かつ冷酷極まりない。殺害後には,被害者
の多額の預金を引き出すなどの行為にも及んでいる。
被告人は,比較的短期間のうちに相次いで2名を殺害し,被害者は,いずれもこ
れといった落ち度もないのに理不尽にも生命を絶たれた上,死体を埋められたり,
投棄されるなどして無惨な姿にされたものであって,結果は重大であり,遺族らの
処罰感情もしゅん烈である。また,本件が社会に与えた影響も軽視し得ない。
以上のような事情に照らすと,被告人の母親が,受取りは拒まれたものの遺族ら
に対し謝罪金として600万円を用意してその支払を申し出たこと,被告人には前
科がないことなど,被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても,被告人の刑事
責任は,極めて重大であるといわざるを得ない。
したがって,原判決が維持した第1審判決の死刑の科刑は,やむを得ないものと
して当裁判所もこれを是認せざるを得ない。
よって,刑訴法414条,396条,181条1項ただし書により,裁判官全員
一致の意見で,主文のとおり判決する。
検察官吉田統宏公判出席
(裁判長裁判官甲斐中辰夫裁判官横尾和子裁判官泉徳治裁判官
島田仁郎裁判官才口千晴)

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