弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
平成29年10月22日に行われた衆議院(小選挙区選出)議員選挙の福岡
県第1区ないし第11区,佐賀県第1区及び第2区,長崎県第1区ないし第4
区,熊本県第1区ないし第4区,大分県第1区ないし第3区における選挙を無
効とする。
第2事案の概要
1本件は,平成29年10月22日に施行された衆議院議員総選挙(以下「本
件選挙」という。)について,それぞれ小選挙区福岡県第1区ないし第11区,
佐賀県第1区及び第2区,長崎県第1区ないし第4区,熊本県第1区ないし第
4区,大分県第1区ないし第3区(以下併せて「本件各選挙区」という。)の各
選挙人である原告らが,衆議院小選挙区選出議員の選挙の選挙区割りに関する
公職選挙法の規定は憲法に違反し無効であるから,これに基づき施行された本
件選挙の本件各選挙区における選挙も無効であると主張して,公職選挙法20
4条に基づき提起した選挙無効訴訟である。
2前提となる事実
本件の前提として,当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全
趣旨により認定できる事実関係は,以下のとおりである。
本件選挙について
本件選挙の小選挙区選挙は,平成29年10月22日,公職選挙法(平成2
9年法律第58号による改正後のもの。以下「平成29年改正法」という。)
13条1項及び別表第1(以下,後記の改正の前後を通じてこれらの規定を併
せて「区割規定」といい,平成29年改正法による13条1項及び別表第1を
「本件区割規定」という。)による選挙区割り(以下「本件選挙区割り」とい
う。)の下で施行された。
原告らは,それぞれ,本件各選挙区のうち別紙当事者目録原告欄記載の選
挙区の選挙人である。
区画審設置法の定め(区割基準)について
平成6年に成立した衆議院議員選挙区画定審議会設置法(以下,後記の改
正の前後を通じて「区画審設置法」という。)によれば,衆議院議員選挙区画
定審議会(以下「区画審」という。)は,衆議院小選挙区選出議員の選挙区の
改定に関し,調査審議し,必要があると認めるときは,その改定案を作成し
て内閣総理大臣に勧告するものとされている(同法2条)。平成24年法律第
95号による改正前の区画審設置法3条(以下「旧区画審設置法3条」とい
う。)は,上記の選挙区の区割りの基準(以下,後記の改正の前後を通じて
「区割基準」という。)につき,①1項において,上記の改定案を作成するに
当たっては,各選挙区の人口の均衡を図り,各選挙区の人口のうち,その最
も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにする
ことを基本とし,行政区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的
に行わなければならないものと定めるとともに,②2項において,各都道府
県の区域内の選挙区の数は,各都道府県にあらかじめ1を配当することとし
(以下,「1人別枠方式」という。),この1に,小選挙区選出議員の定数に相
当する数から都道府県の数を控除した数を人口に比例して各都道府県に配当
した数を加えた数とすると定めていた(以下,この区割基準を「旧区割基
準」といい,この規定を「旧区割基準規定」ともいう。)。本件選挙について
の同制度の導入の際に上記の1人別枠方式を含む旧区画審設置法3条2項所
定の定数配分の方式を定めることについて,区画審設置法の法案の国会での
審議においては,法案提出者である政府側から,各都道府県への選挙区の数
すなわち議員の定数の配分については,投票価値の平等の確保の必要性があ
る一方で,過疎地域に対する配慮,具体的には人口の少ない地方における定
数の急激な減少への配慮等の視点も重要であることから定数配分上配慮した
ものである旨の説明がされていた。
選挙区の改定に関する区画審の勧告は,統計法5条2項本文(平成19年
法律第53号による改正前は4条2項本文)の規定により10年ごとに行わ
れる国勢調査の結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に
行うものとされ(区画審設置法4条1項),さらに,区画審は,各選挙区の人
口の著しい不均衡その他特別の事情があると認めるときは,勧告を行うこと
ができるものとされていた(後記平成28年法律第49号による改正前の同
条2項)。
旧区割規定の制定及び平成21年選挙
区画審は,平成12年10月に実施された国勢調査(以下「平成12年国
勢調査」という。)の結果に基づき,平成13年12月,衆議院小選挙区選出
議員の選挙区に関し,旧区画審設置法3条2項に従って各都道府県の議員の
定数につきいわゆる5増5減を行った上で,同条1項に従って各都道府県内
における選挙区割りを策定した改定案を作成して内閣総理大臣に勧告し,こ
れを受けて,平成14年7月,その勧告どおり選挙区割りの改定を行うこと
などを内容とする公職選挙法の一部を改正する法律(平成14年法律第95
号)が成立した。平成21年8月30日施行の衆議院議員総選挙(以下「平
成21年選挙」という。)の小選挙区選挙は,同法により改定された選挙区割
り(以下「旧選挙区割り」という。)の下で施行されたものである(以下,平
成21年選挙に係る衆議院小選挙区選出議員の選挙区を定めた上記改正後
(平成24年法律第95号による改正前)の公職選挙法13条1項及び別表
第1を併せて「旧区割規定」という。)。
平成21年選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差は,選挙人数
が最も少ない高知県第3区と選挙人数が最も多い千葉県第4区との間で1対
2.304であり,高知県第3区と比べて較差が2倍以上となっている選挙
区は45選挙区であった。
平成23年大法廷判決
このような状況の下で施行された平成21年選挙について,最高裁平成23
年3月23日大法廷判決・民集65巻2号755頁(以下「平成23年大法
廷判決」という。)は,選挙区の改定案の作成に当たり,選挙区間の人口の最
大較差が2倍未満になるように区割りをすることを基本とすべきものとする
旧区画審設置法3条1項の定めは,投票価値の平等の要請に配慮した合理的
な基準を定めたものであると評価する一方,平成21年選挙時において,選
挙区間の投票価値の較差が上記のとおり拡大していたのは,各都道府県にあ
らかじめ1の選挙区数を割り当てる同条2項の1人別枠方式がその主要な要
因となっていたことが明らかであり,かつ,人口の少ない地方における定数
の急激な減少への配慮等の視点から導入された1人別枠方式は既に立法時の
合理性が失われていたものというべきであるから,旧区割基準のうち1人別
枠方式に係る部分及び旧区割基準に従って改定された旧区割規定の定める旧
選挙区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたと判示
した。その上で,同判決は,これらの状態につき憲法上要求される合理的期
間内における是正がされなかったとはいえず,旧区割基準規定及び旧区割規
定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないと
した上で,事柄の性質上必要とされる是正のための合理的期間内に上記の状
態を解消するために,できるだけ速やかに旧区割基準中の1人別枠方式を廃
止し,旧区画審設置法3条1項の趣旨に沿って旧区割規定を改正するなど,
投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要があると判示した。
区画審設置法等の改正(平成24年改正法による区割基準の制定)及び平
成24年選挙
その後,平成23年大法廷判決を受けて行われた各政党による検討及び協
議を経て,平成24年6月及び7月に複数の政党の提案に係る改正法案がそ
れぞれ国会に提出され,これらの改正法案のうち,旧区画審設置法3条2項
を削除して1人別枠方式を廃止するとともに,いわゆる0増5減(各都道府
県の選挙区数を増やすことなく議員1人当たりの人口の少ない5県の各選挙
区数をそれぞれ1減ずることをいう。以下同じ。)を行うことを内容とする公
職選挙法及び区割審設置法の改正法案が,同年11月16日に平成24年法
律第95号(以下「平成24年改正法」という。)として成立した。上記の改
正により,旧区画審設置法3条1項が同改正後の区画審設置法3条(以下
「平成24年改正法による区画審設置法3条」という。)となり,同条におい
①の基準のみが区割基準として定められた(以下,この区割基準
を「平成24年改正法による区割基準」という。)。
平成24年改正法の成立と同日に衆議院が解散され,その1か月後の平成
24年12月16日に衆議院議員総選挙(以下「平成24年選挙」という。)
が施行されたが,同選挙までに平成24年改正法の内容に沿った新たな選挙
区割りを定めることは時間的に不可能であったため,同選挙は平成21年選
挙と同様に旧区割規定及びこれに基づく旧選挙区割りの下で施行された。
平成24年選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差は,選挙人数
が最も少ない高知県第3区と選挙人数が最も多い千葉県第4区との間で1対
2.425であり,高知県第3区と比べて較差が2倍以上となっている選挙
区は72選挙区であった。
平成25年改正法
区画審は,平成25年3月28日,内閣総理大臣に対し,選挙区割りの改
定案の勧告を行った。上記勧告を受けて,内閣は,同年4月12日,平成2
4年改正法に基づき,同改正法のうち上記0増5減を内容とする公職選挙法
の改正規定の施行期日を定めるとともに,上記0増5減を前提に,選挙区間
の人口の較差が2倍未満となるように17都県の42選挙区において区割り
を改めることを内容とする平成24年改正法の一部を改正する法律案を国会
に提出し,この改正法案は,平成25年6月24日,平成25年法律第68
号(以下「平成25年改正法」という。)として成立した。平成25年改正法
は同月28日に公布されて施行され,その1か月後の同年7月28日,同改
正法による改正後の平成24年改正法中の上記0増5減及びこれを踏まえた
区画審の上記改定案に基づく選挙区割りの改定を内容とする公職選挙法の改
正規定が施行された。これにより,各都道府県の選挙区数の0増5減ととも
に上記改定案のとおりの選挙区割りの改定が行われた(以下,上記改正後の
公職選挙法13条1項及び別表第1を併せて「平成25年改正法による区割
規定」といい,同区割規定に基づく上記改定後の選挙区割りを「平成25年
改正法による選挙区割り」という。)。
上記改定の結果,平成25年改正法による選挙区割りの下において,平成
22年10月1日を調査時とする国勢調査(以下「平成22年国勢調査」と
いう。)の結果によれば選挙区間の人口の最大較差は1対1.998となるも
のとされたが,平成25年3月31日現在及び平成26年1月1日現在の各
住民基本台帳に基づいて総務省が試算した選挙区間の人口の最大較差はそれ
ぞれ1対2.097及び1対2.109であり,上記試算において較差が2
倍以上となっている選挙区はそれぞれ9選挙区及び14選挙区であった。
平成25年大法廷判決
平成24年選挙につき,最高裁平成25年11月20日大法廷判決・民集
67巻8号1503頁(以下「平成25年大法廷判決」という。)は,同選挙
が平成21年選挙時に既に憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っ
ていた旧区割規定の定める旧選挙区割りの下で再び施行されたものであるこ
と,平成24年選挙時には選挙区間の較差は平成21年選挙時よりも更に拡
大して最大較差が2.425倍に達していたこと等に照らせば,平成24年
選挙時において旧区割規定の定める旧選挙区割りは,平成21年選挙時と同
様に憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったとした。そして,前
のような平成24年選挙までの間の国会における是正の実現に向けた取
組がされているところ,前記0増5減の措置における定数削減の対象とされ
た県以外の都道府県については,旧区割基準に基づいて配分された定数がそ
のまま維持されており,平成22年国勢調査の結果を基に1人別枠方式の廃
止後の平成24年改正法による区割基準に基づく定数の再配分が行われてい
るわけではなく,全体として平成24年改正法による区画審設置法3条の趣
旨に沿った選挙制度の整備が十分に実現されているとはいえず,そのため,
今後の人口変動により再び較差が2倍以上の選挙区が出現し増加する蓋然性
が高いと想定されるなど,1人別枠方式の構造的な問題が最終的に解決され
ているとはいえないものの,この問題への対応や合意の形成に様々な困難が
伴うことを踏まえ,平成24年改正法による区画審設置法3条の趣旨に沿っ
た選挙制度の整備については今回のような漸次的な見直しを重ねることによ
ってこれを実現していくことも,国会の裁量に係る現実的な選択として許容
されているところと解されることなどに鑑みると,国会における是正の実現
に向けた取組が平成23年大法廷判決の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使と
して相当なものでなかったとはいえないから,憲法上要求される合理的期間
内における是正がされなかったとはいえず,旧区割規定が憲法14条1項等
の憲法の規定に違反するものということはできないとして,平成24年選挙
時において,旧区割規定が憲法14条の憲法の規定に違反するものというこ
とはできないとした。そして,国会においては今後も平成24年改正法によ
る区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備に向けた取組が着実に続
けられていく必要があると判示した。
衆議院選挙制度に関する調査会の設置
平成25年大法廷判決後,衆議院議院運営委員会の議決に基づき,平成2
6年6月19日,衆議院に,衆議院選挙制度に関する調査・検討等を行うた
めの有識者による議長の諮問機関として衆議院選挙制度に関する調査会が設
置された。
同調査会では,同年9月11日から同年11月20日まで,合計4回の会
合が開かれ,一票の格差の是正等について議論がされた(乙8の1ないし
4)。
平成26年選挙
平成26年11月21日の衆議院解散に伴い,同年12月14日,前記0
増5減の措置による改定を経た平成25年改正法による選挙区割りの下にお
いて衆議院議員総選挙(以下「平成26年選挙」という。)が施行された。平
成26年選挙当日における選挙区間の選挙人数の較差は,選挙人数が最も少
ない選挙区(宮城県第5区)と比べて,選挙人数が最も多い選挙区(東京都
第1区)との間で1対2.129であり,その他12の選挙区との間で較差
が2倍以上となっていた(乙2の3。なお,平成26年選挙当日において,
東京都第1区の選挙人数は,宮城県第5区,福島県第4区,鳥取県第1区,
同第2区,長崎県第3区,同第4区,鹿児島県第5区,三重県第4区,青森
県第3区,長野県第4区,栃木県第3区及び香川県第3区の12選挙区の各
選挙人数のそれぞれ2倍以上となっていた。)。
平成27年大法廷判決
前記のような状況の下で施行された平成26年選挙について,最高裁平
成27年11月25日大法廷判決・民集69巻7号2035頁(以下「平成
27年大法廷判決」という。)は,平成26年選挙時には,選挙区間の最大較
差が2.129倍に達し,選挙人数が最も少ない宮城県第5区と比べて較差
が2倍以上となっている選挙区は13選挙区であり,このような投票価値の
較差が生じた主な要因は,前記0増5減の措置における定数削減の対象とさ
れた県以外の都道府県において,旧区割基準に基づいて配分された定数の見
直しを経ておらず,1人別枠方式を定めた旧区画審設置法3条2項が削除さ
れた後の平成24年改正法による区割基準に基づいた定数の再配分が行われ
ていないことから,いまだ多くの都道府県において,そのような再配分が行
われた場合とは異なる定数が配分されていることにあるというべきであり,
のとおり本件選挙当日において東京都第1区の選挙人数が
2倍以上となっていた選挙区として指摘した12選挙区がいずれも上記定数
削減の対象とされた県以外の都道府県に属しており,この12選挙区の多く
が旧区割基準により相対的に有利な定数の配分を受けているものと認められ
ることからも明らかであり,このような投票価値の較差が生じたことは,全
体として平成24年改正法による区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度
の整備が実現されていたとはいえないことの表れというべきであるとし,以
上のような本件選挙時における投票価値の較差の状況やその要因となってい
た事情などを総合考慮すると,平成25年改正法による選挙区割りの改定の
後も,平成26年選挙時に至るまで,同選挙区割りはなお憲法の投票価値の
平等の要求に反する状態にあったものといわざるを得ないとした。その上
で,平成26年選挙までに,2回の法改正を経て,一人別枠方式を定めた旧
区画審設置法3条2項の規定が削除されるとともに,直近の平成22年国勢
調査の結果によれば全国の選挙区間の人口の較差が2倍未満となるように定
数配分と選挙区割りの改定が行われ,平成26年選挙時の投票価値の最大較
差は前回の平成24年選挙時よりも縮小し,更なる法改正に向けて衆議院に
設置された検討機関において選挙制度の見直しの検討が続けられていること
が認められ,国会における是正の実現に向けた取組が平成23年大法廷判決
及び平成25年大法廷判決の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使として相当な
ものでなかったということはできず,平成26年選挙において憲法上要求さ
れる合理的期間を徒過したものと断ずることはできないから,平成25年改
正法による区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものという
ことはできないとした。そして,国民の意思を適正に反映する選挙制度が民
主政治の基盤であり,投票価値の平等が憲法上の要請であること等に照らせ
ば,より適切な民意の反映が可能となるよう,国会においては,今後も,前
記のとおり衆議院に設置された検討機関において行われている投票価値の較
差の更なる縮小を可能にする制度の見直しを内容とする具体的な改正案の検
討と集約が早急に進められ,平成24年改正法による区画審設置法3条の趣
旨に沿った選挙制度の整備に向けた取組が着実に続けられていく必要がある
というべきであると判示した。
平成28年改正法
衆議院選挙制度に関する調査会は,平成27年大法廷判決の前後を通じ
て,一票の較差の是正等について議論を重ね,平成28年1月14日,①衆
議院議員の定数を10人削減すること,②都道府県への議席配分を各都道府
県の人口を一定の数値で除し,それぞれの商の整数に小数点以下を切り上げ
て得られた数の合計数が小選挙区選挙の定数と一致する方式(いわゆるアダ
ムズ方式)により行うこと,③都道府県への議席配分の見直しは,制度の安
定性を勘案し,10年ごとに行われる大規模国勢調査の結果による人口に基
づき行うことなどを内容とする答申(以下「本件答申」という。)をした(乙
8の5ないし17,乙10)。
本件答申を受けて,平成28年5月20日,衆議院議員選挙区画定審議会
設置法及び公職選挙法の一部を改正する法律(平成28年法律第49号)が
成立した(以下,「平成28年改正法」といい,同法による改正を「平成28
年改正」という。乙11の1,乙12の1ないし7)。
平成28年改正法は,本件各大法廷判決及び本件答申を踏まえ(乙13の
2・11頁),その本則において,①衆議院小選挙区選出議員の選挙区間にお
ける人口較差について,各都道府県の区域内の選挙区の数を平成32年以降
10年ごとに行われる大規模国勢調査の結果に基づき,アダムズ方式により
配分した上で,各選挙区間の最大較差が2倍以上にならないようにする(改
正前は,2倍以上にならないようにすることを「基本とし」としていたのを
改正により厳格化した。)こと(平成28年改正後の区画審設置法3条1項,
2項,4条1項),②平成37年以降の簡易国勢調査の結果に基づく各選挙区
間の最大較差が2倍以上になったときは,選挙区の安定性を図るとともに較
差2倍未満を達成するため,各都道府県の選挙区数を変更することなく,区
画審が較差是正のために選挙区割りの改定案の作成及び勧告を行うものとす
ること(同区画審設置法3条3項,4条2項),③衆議院議員の定数を10人
削減すること(平成28年改正後の公職選挙法4条1項)を規定するととも
に,平成28年改正法の附則において,④平成32年大規模国勢調査までの
措置として,平成27年の簡易国勢調査の結果に基づき,各選挙区の人口に
関し,将来の見込人口を踏まえ,平成32年までの5年間を通じて較差2倍
未満となるよう区割りを行うなどの措置を行うこと(平成28年改正法附則
2条1項,3項),⑤小選挙区選挙の定数6減の対象県について,平成27年
の簡易国勢調査の結果に基づき,アダムズ方式により都道府県別定数を計算
した場合に減員対象となる都道府県のうち,議員一人当たり人口の最も少な
い都道府県から順に6県を対象とし,選挙区の数をそれぞれ1減するととも
に(同附則2条2項1号),将来的にも較差を2倍未満とするため,平成32
年見込人口を踏まえた都道府県における選挙区割りの基準を定め(同附則2
条3項),⑥平成28年改正法の施行後においても,全国民を代表する国会議
員を選出するための望ましい選挙制度のあり方については,不断の見直しが
行われるものとすること(同附則5条),を内容とするものである(乙11の
1,2,乙13の1,2)。
平成28年改正法は,同年5月27日に公布されて施行された。
平成29年改正法
区画審は,平成28年改正法の成立後,同法附則の規定に従って審議を行
い,平成29年4月19日,内閣総理大臣に対し,選挙区割りの改定案の勧
告をした(乙14の1,2)。同勧告は,平成28年改正法附則に基づき,各
都道府県の選挙区数の0増6減を前提に,平成27年の簡易国勢調査に基づ
く選挙区間の人口の最大較差を2倍未満とするのみならず,平成32年見込
人口に基づく選挙区間の人口の最大較差も2倍未満となるように選挙区割り
を改めることを内容とするものであり,同勧告を受けて,平成29年6月9
日,衆議院議員選挙区画定審議会設定法及び公職選挙法の一部を改正する法
律の一部を改正する法律(平成29年改正法)が成立した(乙16,乙17
の1ないし4,乙18の2ないし4)。
平成29年改正法は,同月16日に公布されて施行され,その1か月後の
同年7月16日,同改正法による改正後の平成28年改正法中の各都道府県
の選挙区数の0増6減及びこれを踏まえた区画審の改定案に基づく選挙区割
りの改定を内容とする公職選挙法の改正規定が施行された。
これにより,各都道府県の選挙区数の0増6減とともに区画審の改定案の
とおりの選挙区割りの改定が行われ,各選挙区の人口が,人口の最も少ない
都道府県(鳥取県)の区域内における人口の最も少ない選挙区の人口の2倍
未満となるように19都道府県の97選挙区で選挙区割りが改定されて,本
件選挙区割りが定められた。本件選挙区割りの下での平成27年の簡易国勢
調査の結果による選挙区間の人口の最大較差は,1.956倍であり,さら
に,平成32年見込人口においても,選挙区間の人口の最大較差は,1.9
99倍であった(乙14の1,乙18の1)。また,本件選挙当日における選
挙区間の議員一人当たりの選挙人数(有権者数)の最大較差は,最小の鳥取
県1区と最大の東京都第13区との間で1対1.979であり,鳥取県第1
区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区はなかった(乙1)。
3原告らの主張
本件選挙区割りは,憲法56条2項,1条,前文第1文が定める「人口比
例選挙(一人一票選挙)の要求」に反する配分となっているから,憲法に違
反しており,無効である。
すなわち,憲法56条2項の「両議院の議事は,この憲法に特別の定めの
ある場合を除いては,出席議員の過半数でこれを決し,」との定め,憲法1
条の「主権の存する日本国民」との定め,憲法前文第1文の「日本国民は,
正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し,」及び「ここに主権
が国民に存することを宣言し」との定めによれば,文理解釈として,憲法は
多数の人口の国民が多数の国会議員を選出する選挙制度である人口比例選挙
を要求していると解するべきである。少数の人口の国民が多数の国会議員を
選出することになる非人口比例選挙は,主権者が国民であることに反するも
のであり,「正当な選挙」とはいえない。
一票の不平等の議論は,憲法14条の「法の下の平等」の問題として議論
され,一票の格差を最大2倍未満とする2倍未満説が過去60年間,憲法学
会の支配的通説であったが,同説に憲法上の根拠はなく,今日では,一人一
票が基本であるとする考えが,圧倒的に有力である。
また,アメリカ合衆国のペンシルベニア州内では選挙区間の最大較差が
1.0倍であり,英国においても選挙区間の最大較差が約1.1倍であるよ
うに,諸外国においても人口比例選挙が国際的潮流であることからも,人口
比例選挙が採用されるべきである。
本件選挙区割りは,憲法の投票価値の平等の要求に反する1人別枠方式に
係る部分を廃止する区割配分になっていないので,憲法に違反し無効であ
る。
すなわち,平成23年,平成25年及び平成27年の各大法廷判決(以下
「本件各大法廷判決」という。)は,いずれも,1人別枠方式による各都道府
県への議員定数の配分は憲法の投票価値の平等の要求に反し合理的でない旨
判示しているところ,本件選挙区割りにおいては,「0増6減」により6つの
県において配分定数の見直しがされたにすぎず,仮に,平成22年の大規模
国勢調査に基づいて全面的に議席定数の再配分をした場合に再配分をすべき
都道府県のうち12都県においては,再配分が行われておらず,1人別枠方
式による旧区割基準に基づく違憲状態の議員の定数が維持されている。した
がって,本件選挙投票日である平成29年10月22日の時点において,上
記12都県の選挙区割りには,1人別枠方式の違憲状態の瑕疵があり,その
結果,各選挙区の有機的一体性の性質のため,全選挙区が1人別枠方式の違
憲状態の瑕疵を有することになる。
最高裁判決の「合理的期間の判例法理」は,それ自体が,憲法に違反して
おり,憲法98条1項により,その効力を有しないものである。
仮に上記の判例法理によるとしても,平成25年大法廷判決が合理的期間
の始期であるとした平成23年大法廷判決の言渡日である平成23年3月2
3日から,本件選挙の施行日である平成29年10月22日までには,6年
6か月30日が経過しており,既に合理的期間は徒過していると解すべきで
あるから,本件選挙は無効である。
4被告らの主張
選挙区間の最大較差が2倍未満となる区割規定の定める選挙区割りは,憲
法の投票価値の平等の要求に反するものとはいえないこと
憲法は,投票価値の平等を要求しているが,投票価値の平等は,選挙制度
の仕組みを決定する絶対の基準ではなく,国会が正当に考慮することのでき
る他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきもの
である。
そして,本件各大法廷判決は,平成24年改正法による区画審設置法3条
(諸般の事情を総合的に考慮して,選挙区間の人口の最大較差が2倍未満に
なるように区割りをすることを基本とする規定)について,一貫して,投票
価値の平等に配慮した合理的な基準を定めたものと評価してきたことからす
ると,選挙区間の最大較差が2倍未満となる区割規定の定める選挙区割り
は,国会において通常考慮し得る諸般の要素を斟酌した,一般に合理性を有
するものであって,憲法の投票価値の平等の要求に反するものとはいえない
というべきである。
本件選挙時において,本件区割規定の定める本件選挙区割りは,憲法の投
票価値の平等の要求に反する状態に至っていないこと
本件各大法廷判決は,平成24年改正法による区画審設置法3条につい
て,投票価値の平等に配慮した合理的な基準を定めたものと評価し,これを
前提として,国会に対し,同条の趣旨に沿った選挙制度の整備を求めてい
た。
そこで,国会は,平成23年3月以降,本件各大法廷判決に沿って,でき
る限りの検討及び協議を尽くすとともに,地方公共団体等から,人口比例の
みに偏った選挙制度に疑問を呈する意見や一連の選挙制度の改正に伴う弊害
等について様々な意見が寄せられる中でも,投票価値の平等の要求に反する
状態の是正が最も優先すべき議題であるとの認識の下,投票価値の較差の是
正措置に取り組み,公職選挙法に関する平成24年改正,平成25年改正,
平成28年改正及び平成29年改正(以下,これらを併せて「本件各改正」
という。)を達成したものである。
そして,公職選挙法に関する本件各改正の結果,平成27年の簡易国勢調
査の結果に基づく選挙区間の最大較差(人口)は,1.956倍(本件選挙
当時の議員一人当たりの選挙人数の最大較差は1.979倍)と2倍未満に
まで縮小されるに至った。
そうすると,このような選挙区間の最大較差(人口)のみをもってして
も,本件選挙当時,本件区割規定の定める本件選挙区割りが憲法の投票価値
の平等の要求に反する状態に至っていなかったことは明らかである。
なお,本件各改正においては,本件各大法廷判決に沿って,選挙区間の較
差を2倍未満とするため,1人別枠方式の廃止,区画審設置法3条の厳格
化,人口比例に基づく配分方式(アダムズ方式)や人口の将来推計の導入に
加えて過去最大の分割市区町等,都道府県別の議席配分段階及び都道府県内
の選挙区割りの決定段階の両段階において,これまでにない踏み込んだ立法
的措置が執られているのみならず,将来的には,平成32年の大規模国勢調
査を踏まえたさらなる較差の縮小に向けた立法的措置も予定されていること
からも明らかなとおり,本件各改正は,十分な合理性を有するものであっ
て,憲法の投票価値の平等の要求に沿うものである。
したがって,本件区割規定の定める選挙区割りは,憲法の規定に違反しな
い。
憲法上要求される合理的期間内に是正がされなかったとはいえないこと
憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったか否かは,裁
判所において投票価値の較差が憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に
至っているとの判断が示されるなど,国会が憲法の投票価値の平等の要求に
反する状態となったことを認識し得た時期を基準として,単に期間の長短の
みならず,是正のために採るべき措置の内容,そのために検討を要する事
項,実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して判断される
べきである。
これを本件についてみると,本件各改正は,本件各大法廷判決の趣旨に
沿って,1人別枠方式を廃止するとともに,将来的にも選挙区間の最大較差
を2倍未満とするための改正を行い,選挙区間の最大較差(人口)を1.9
56倍(本件選挙当時の議員一人当たりの選挙人数の最大較差は1.979
倍)と2倍未満にまで縮小させたものである。そして,本件選挙は,平成2
8年改正及び平成29年改正による公職選挙法により新たに定められた本件
区割規定の定める本件選挙区割りの下での初めての選挙であり,本件選挙に
おける選挙区間の最大較差は,衆議院議員の小選挙区選挙上,過去最小の数
値であるのみならず,小選挙区選挙に関する類似の最高裁判所の判決におい
て合憲とされた最大較差をも相当程度に下回るものであり,しかも,そのよ
うな選挙区間の最大較差は,平成23年大法廷判決が投票価値の平等に配慮
した合理的な基準であると評価した平成24年改正法による区画審設置法3
条の求める2倍未満の較差をまさに実現したものであった。
以上によれば,仮に本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反す
る状態であると評価されたとしても,国会において,本件選挙までの間に,
本件選挙区割りが違憲状態となったことを認識し得たものとはいえないし,
憲法上要求される合理的期間内に是正がされなかったともいえないものであ
る。
第3当裁判所の判断
1憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,投票価値の平等を要求している
ものと解される。他方,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する絶対
の基準ではなく,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理
由との関連において調和的に実現されるべきものであるところ,国会の両議院
の議員の選挙については,憲法上,議員の定数,選挙区,投票の方法その他選
挙に関する事項は法律で定めるべきものとされ(憲法43条2項,47条),選
挙制度の仕組みの決定について国会に広範な裁量が認められている。
そして,衆議院議員の選挙につき全国を多数の選挙区に分けて実施する制度が
採用される場合には,選挙制度の仕組みのうち定数配分及び選挙区割りを決定す
るに際して,憲法上,議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に
保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることが求められているというべ
きであるが,それ以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮することが
許容されているものと解されるのであって,具体的な選挙区を定めるに当たって
は,都道府県を細分化した市町村その他の行政区画などを基本的な単位として,
地域の面積,人口密度,住民構成,交通事情,地理的状況などの諸要素を考慮し
つつ,国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに,投票価値の平等
を確保するという要請との調和を図ることが求められているところである。した
がって,このような選挙制度の合憲性は,これらの諸事情を総合的に考慮した上
でなお,国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有するといえるか否かに
よって判断されることになり,国会がかかる選挙制度の仕組みについて具体的に
定めたところが,上記のような憲法上の要請に反するため,上記の裁量権を考慮
してもなおその限界を超えており,これを是認することができない場合に,初め
てこれが憲法に違反することになるものと解すべきである(最高裁昭和51年4
月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁,最高裁昭和58年11月7日大
法廷判決・民集37巻9号1243頁,最高裁昭和60年7月17日大法廷判
決・民集39巻5号1100頁,最高裁平成5年1月20日大法廷判決・民集4
7巻1号67頁,最高裁平成11年11月10日大法廷判決・民集53巻8号1
441頁,最高裁平成11年11月10日大法廷判決・民集53巻8号1704
頁,最高裁平成19年6月13日大法廷判決・民集61巻4号1617頁,及び
本件各大法廷判決参照)。
2旧区画審設置法3条1項及び平成24年改正法による区画審設置法3条は,
選挙区間の人口の最大較差が2倍未満となるように区割りをすることを基本と
すると定めていたところ,この定めは投票価値の平等の要請に配慮した合理的
な基準を定めたものであるといえる(本件各大法廷判決参照)。本件選挙区割り
時に施行されていた平成28年改正後の区画審設置法3条1項は,上記の規定
から「基本とする」との文言を削除して,選挙区間の人口の最大較差が2倍未
満となるように区割りをすることとする改正をしたものであって,同様に合理
的な基準を定めたものといえる。
そうすると,選挙区間の人口の最大較差が2倍未満となるようにする選挙区
割りについては,一般的に合理性があると認められ,他に当該選挙区割りが国
会の裁量権の限界を超える不合理なものであるとする事情が認められない限
り,国会の裁量権の行使として合理性を有すると解するのが相当である。
原告らは,憲法56条2項,1条,前文第1文によれば,人口比例選挙(一人
一票)が要求されると主張し,その趣旨とするところは,人口に比例して選挙
区間の投票価値の比率を1対1か,可能な限りこれに近いものにしなければな
らないというものであると解される。しかしながら,上記の憲法の各規定から
原告らの主張するような厳格な人口比例選挙が論理必然的に導き出されると解
することはできない。また,学説の大勢のいかんや諸外国の例から,直ちに原
告らの主張する人口比例選挙が憲法上要求されたものであるということができ
ないことも明らかである。したがって,原告らの上記主張は採用することがで
きない。
3前記のとおり,本件選挙区割りの下での平成27年の簡易国勢調査の結果に
よる選挙区間の人口の最大較差は1.956倍であり,平成32年見込人口に
おいても,選挙区間の人口の最大較差は1.999倍であった。また,本件選
挙当日における選挙区間の議員一人当たりの選挙人数(有権者数)の最大較差
は,最小の鳥取県1区と最大の東京都第13区との間で1対1.979であ
り,鳥取県第1区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区はなかったもの
である。このように,本件選挙区割りは,選挙区間の人口の最大較差が2倍未
満となるようにしたものであるから,平成28年改正後の区画審設置法3条1
項の趣旨に適合しており,他にこれが国会の裁量権の限界を超える不合理なも
のであるとする事情が認められない限り,国会の裁量権の行使として合理性を
有するものということができる。
4原告らは,本件選挙区割りが,憲法の投票価値の平等の要求に反する1人別
枠方式に係る部分を廃止する区割配分になっていないので,憲法に違反し無効
であると主張する。
前記のとおり,旧区画審設置法3条2項が定めていた1人別枠方式につい
て,平成23年大法廷判決は,既に立法時の合理性が失われており,投票価値
の平等に反する選挙区間の投票価値の較差が生じる主要な要因になっていると
判示した。また,平成25年大法廷判決は,1人別枠方式を廃止した平成24
年改正法の下での0増5減による定数配分の措置につき,これにより定数削減
の対象とされた県以外の都道府県については旧区割基準に基づいて配分された
定数がそのまま維持されており,1人別枠方式の廃止後の平成24年改正法に
よる区割基準に基づく定数の再配分が行われているわけではなく,全体として
平成24年改正法による区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備が十
分に実現されているとはいえず,そのため,今後の人口の変動により再び較差
が2倍以上の選挙区が出現し増加する蓋然性が高いと想定されるなど,1人別
枠方式の構造的な問題が最終的に解決されているとはいえないと判示し,平成
27年大法廷判決も,上記0増5減の措置における定数削減の対象とされた県
以外の都道府県については,旧区割基準に基づいて配分された定数が見直しを
経ていないため,本件選挙時には較差が2倍以上の選挙区が出現し増加してお
り,これは,全体として平成24年改正法による区画審設置法3条の趣旨に沿
った選挙制度の整備が実現されているとはいえないことの表れといわざるをえ
ない,と判示している。
上記の本件各大法廷判決の判示は,いずれも選挙区間の人口の最大較差が2
倍以上となっている事案について,そのような較差を生じさせた原因として1
人別枠方式の問題点を指摘したものであり,較差が2倍未満である本件に直ち
に妥当するものではないと考えられる。
もっとも,前記のとおり,本件選挙区割りは,平成27年の簡易国勢調査の
結果に基づき,アダムズ方式により都道府県別定数を計算した場合に減員対象
となる都道府県のうち,議員一人当たりの人口の最も少ない都道府県から順に
6県を定数6減の対象としたにとどまり(0増6減),その余については,上記
計算結果に基づく定数の再配分をしていないものであるため,再配分が行われ
るべき都県において1人別枠方式による旧区画基準に基づく議員の定数が維持
されており,このような定数配分は,1人別枠方式廃止の趣旨が徹底されてい
ない不十分な点を含むものであることは否定できない。
しかしながら,前記のとおり,本件選挙までの間に,平成28年改正によ
り,平成32年以降からではあるものの,10年ごとに行われる大規模国勢調
査の結果に基づき人口比例に基づく配分方式であるアダムズ方式により選挙区
の数を配分して選挙区間の最大較差が2倍以上とならないようにすることと
し,平成37年以降の簡易国勢調査の結果に基づく選挙区間の最大較差が2倍
以上になったときは,区画審が較差2倍未満を達成するための措置を講ずるこ
ととされたことにより,平成25年大法廷判決や平成27年大法廷判決が指摘
するような,1人別枠方式のために較差が2倍以上の選挙区が出現し増加する
という問題点は解消したということができる。また,本件選挙区割りは,平成
28年改正法の附則を受けて平成29年改正法により改定されたものであり,
平成32年大規模国勢調査までの措置として,平成27年の簡易国勢調査に基
づく選挙区間の最大較差を2倍未満とするのみならず,平成32年見込人口に
基づく選挙区間の最大較差も2倍未満とするため,19都道府県の97選挙区
で選挙区割りを改定したものであり,これによる選挙区間の人口の最大較差
は,平成27年の簡易国勢調査の結果においても,平成32年見込人口におい
ても,いずれも2倍未満であり,本件選挙の当日においても最大較差は2倍未
満であったものである。
そして,国会における議員定数の配分についての合意の形成に様々な困難が
伴うことを踏まえると,平成32年大規模国勢調査による選挙区割りが行われ
るまでの過渡的な措置として,較差2倍未満を達成する方法として,平成29
年改正法におけるような方法をとることも国会の裁量に係る現実的な選択とし
て許容されているところと解される。
したがって,本件選挙区割りについて前記のような不十分な点があったとし
ても,そのことをもって,本件選挙区割りが国会の裁量権の限界を超え,これ
を是認することができないものであるということはできず,原告らの上記主張
は採用することができない。
以上のとおりであるから,本件選挙当時において,本件選挙区割りが憲法の
投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたということはできない。
5よって,その余の点について判断するまでもなく,本件請求は理由がないから
いずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
福岡高等裁判所第3民事部
裁判長裁判官阿部正幸
裁判官坂本寛
裁判官横井健太郎
(別紙当事者目録省略)

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