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裁判例


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○ 主文
一 本件各控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
○ 事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が控訴人Aに対して昭和六三年七月二〇日付けでした昭和六一年七月
一一日相続開始に係る相続税の無申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
3 被控訴人が控訴人B、同C及び同Dの被相続人Eに対して昭和六三年七月二〇
日付けでした昭和六一年七月一一日相続開始に係る相続税の無申告加算税の賦課決
定処分を取り消す。
4 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文と同旨
第二 事案の概要
本件事案の概要は、後記一のとおり付加、訂正し、新たに後記二、三のとおり控訴
人らの主張とこれに対する被控訴人の反論を追加するほかは、原判決事実及び理由
第二 事案の概要(原判決二枚目裏三行目から同一〇枚目表五行目まで)のとおり
であるから、これを引用する。
一 付加、訂正
1 原判決三枚目表六行目から七行目にかけての「相続開始の日から六か月を経過
する昭和六二年一月一二日までに」を「相続の開始があったことを知った日の翌日
から六か月を経過する昭和六二年一月一二日(同月一一日が日曜日のため)まで
に」と改める。
2 原判決四枚目表末行の「棄却するする」を「棄却する」と改める。
3 原判決四枚目裏五行目の「国税通則法」の次に「(昭和六二年法律第九六号に
よる改正前のもの、以下同じ)」を加える。
二 控訴人らの当審における追加主張の要旨
1 控訴人A及びEは、法定申告期限内に相続税を申告するため、被控訴人に対
し、共同相続人の一人であるFが提出した申告書の内容の開示を要請したのに、被
控訴人は、違法にもこれを拒否し、右控訴人らの期限内申告の実施を違法に拒絶し
ておきながら、その一方で本件処分をしたものであるから、被控訴人のなした本件
処分は、信義誠実の原則に反し、無効である。
2 本件において「正当な理由」があると認められないとしても、賦課される無申
告加算税の額は、控訴人A及びEに認識可能であった相続財産を前提として算出し
た額に限定されるべきであるから、それを超えた本件処分は全体として無効である
か、又は右超過部分について一部無効である。
3 原審は、大阪国税不服審判所の審査官であるG及びH両名の証人申請を採用し
なかった点に違法がある。
三 被控訴人の反論の要旨
1 控訴人A及びEが被控訴人に対し、法定申告期限内にFの申告書の内容の開示
を要請した事実はない。被控訴人が右控訴人らから、Fの申告書の内容の開示を求
められた時期は昭和六三年二月二九日であり、被控訴人は、国家公務員法一〇〇条
一項(守秘義務)の規定に基づきこれを拒否したものであるから、何らの違法もな
い。
2 国税通則法六六条一項ただし書きの「正当な理由」とは、無申告加算税を課す
るか否かを決定づける要件であって、期限内申告書の提出がなかった場合の無申告
加算税の範囲を画するための要件ではないし、本件処分は実質的にも不当ではな
い。
3 控訴人ら主張の証人二名の尋問が不必要であることは明らかである。
第三 証拠(省略)
第四 争点に対する判断
一 当裁判所も、本件相続に関し、控訴人A及びEが法定申告期限内に相続税の申
告書を提出しなかったことについては、国税通則法六六条一項ただし書きに規定す
る正当な理由があるものと認めることかできないから、本件処分は適法であると判
断する。その理由は、以下のとおりである。
1 相続財産の全容が判明しない場合の納税申告について
相続税は、相続又は遺贈による財産の取得時に納税義務が成立する国税である(国
税通則法一五条一、二項)。そして、相続税の納税義務が成立した場合、納税者
は、相続税法により、納付すべき税額を申告すべきものと定められている(申告納
税方式、国税通則法一六条二項一号)。
そして、申告納税方式による国税の納税者は、国税に関する法律の定めるところに
より、納税申告書を法定申告期限までに税務署長に提出しなければならず(国税通
則法一七条一項)、相続税法二七条一項は、相続又は遺贈により財産を取得した者
は、その被相続人からこれらの事由により財産を取得したすべての者に係る相続税
の課税価格の合計額がその遺産に係る基礎控除額を超える場合で、その者の相続税
の課税価格に係る相続税額(同法一五条ないし一九条、一九条の三ないし二一条)
があるときは、相続の開始があったことを知った日の翌日から六月以内に申告書を
納税地の所轄税務署長に提出しなければならないと規定し、その際、右申告書に
は、課税価格、相続税額その他政令で定める事項を記載しなければならないと定め
ている。
してみろと、法定申告期限までに適正な相続税を自主申告するためには、納税者と
しては、相続財産の全容を正確に認識していることが必要であり、それゆえ、須ら
く相続財産を調査し、その全容を把握するよう努力すべきであるというのが右法条
の趣旨と解される。
しかしながら、常時法定申告期限内に相続財産の全容を把握することができるとは
限らないので、法は、申告後において、相続税額に不足を生じたり、過大となった
ときには、修正申告又は更正の請求をすることができるものとしているのであって
(国税通則法一九条、二三条、相続税法三一条、三二条)、相続財産の全容が判明
しない場合、その理由の如何によって申告書の提出義務を免除し、又は猶予する旨
を定めた規定は存しない。
以上の規定を通覧すると、納税者が相続財産の全容を把握するため、種々の調査を
し、情報入手の努力をした結果、相続財産の一部のみが判明し、その部分だけで遺
産に係る基礎控除額を超える場合には(したがって、その努力をしなかった場合に
は、以下の申告方法を安易に許すべきではない。)、判明した相続財産につき、と
りあえず自主的に申告しなければならず、これにより相続税の納税義務を確定させ
るべきであり、残余の相続財産が後日判明したときは修正申告によることとし、し
たがって、平均的な通常の納税者を基準としても、相続財産の全容が把握できない
からといって、それを理由に、法定申告期限までに相続税の申告をしないことは許
されないというのが税確保の観点からみて、立法の趣旨であるといわなければなら
ない。
それゆえ、相続財産の全容が判明しなければ相続税の申告ができないという控訴人
らの主張及びこれに副う甲第一一号証の見解は、当裁判所の採用しないところであ
る。
2 無申告加算税と「正当な理由」について
国税通則法は、納税者の行なうべき申告義務に違反した者に対し、行政上の制裁と
して、各種の加算税を課し(六五条、六六条、六八条)、これにより誠実な納税申
告書の早期提出を促し、間接的にせよ不正な申告事態を防止するとともに、国民の
納税義務の適正かつ円滑な履行を確保し(一条)、健全な申告秩序の形成を図ろう
としているものと解される。
ところで、申告が遅延するについては種々の理由があることであるから、無申告加
算税賦課の制裁を課するのが納税者に酷であるという特段の事情のある例外的な場
合が予想されるので、国税通則法は、六六条一項ただし書きにおいて、期限内申告
書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合には、無申告
加算税を課さないこととしている。したがって、これを相続税法に則していうと、
期限内申告書を提出しなかったことにつき、無申告としての行政制裁を課されない
のは、平均的な通常の納税者を基準として、当該状況下において、納税者が相続税
を申告することが期待できず、法定申告期限内に右の申告をしなかったことが真に
やもを得ない事情のある場合に限られるものと解するのが相当であり、後記認定の
とおり、本件のように、相続財産の一部とはいえ、これを把握し、納税者として相
続税の申告をしなければならないと認識すべきであった場合には、そもそも、国税
通則法六六条一項ただし書きの「正当な理由があると認められる場合」に当たらな
いのである。
控訴人らは、控訴人A及びEが本件相続財産の全容を把握するために様々の努力や
対応をしたことを適切に評価すれば、期限内に申告しなかったことについては、正
当な理由があったと評価されるべきであると主張するが、法定申告期限内に相続財
産の一部を認識し、それによれば、当然相続税を申告しなければならなかったので
あるから、無申告加算税賦課の制裁を受けるべきであり、右の主張は採用すること
ができない。
3 控訴人A及びEが期限内申告をしなかった理由について
控訴人らは、本件において、相続財産の全容を把握できる立場から除外されていた
うえ、Fが「未分割の財産はなく、すべての財産は自分が相続した。」と主張して
おり、その立場におかれた平均的な能力を有する通常人が未分割の財産はないと判
断しても無理でない状況にあり、現に、法定申告期限後に判明したところでは、土
地については、ほぼすべてをFが遺贈と生前贈与によって取得していたのであるか
ら、控訴人A及びEが、未分割の財産がなく申告義務がないと信じたことには何ら
の責任がなく、また、このような場合に申告義務を負うとしても、想定される申告
方法はすべて問題があるから、控訴人A及びEが法定申告期限内に申告書を提出し
なかったことについて「正当な理由」があると主張するが、この点に関する当裁判
所の判断は、原判決一五枚目裏一行目から同一八枚目表末行までの説示と同一であ
るから、これを引用する(但し、原判決一五枚目裏一行目の「5ところで、」を削
除する。)。
4 控訴人A及びEの相続財産に対する認識について
控訴人A及びEが法定申告期限までに、きくの相続財産につき、どの程度知ること
ができたかについての当裁判所の認定・判断は、次のとおり付加、訂正、削除する
ほか、原判決一八枚目裏末行から同二七枚目裏九行目までの説示と同一であるか
ら、これを引用する。
(1) 原判決一九枚目裏一行目の「九月ころ、」の次に「知人の税理士に実情を
話して相談し、アドバイスを受け、」を、同四行目の「原告」の前に「甲第九号
証、」をそれぞれ加える。
(2) 原判決二〇枚目裏三行目から四行目にかけての「二六日」を「二八日到達
の書面により」と改める。
(3) 原判決二一枚目表三行目の「乙第九」の前に「甲第一二号証の一ないし
五、第一三号証、」を加える。
(4) 原判決二一枚目裏末行の「一八万二五九六円」を「一八万九四八五円」
と、同二二枚目表四行目の「約三二四六万六五三一円」を「三二四六万六三五九
円」とそれぞれ改める。
(5) 原判決二二枚目裏一行目の「裏面路線」を「側方路線」と改める。
(6) 原判決二五枚目表五行目の「第二号証」を「第二号証の一、二、第一二号
証の一ないし五、第一三号証」と改める。
(7) 原判決二五枚目裏七行目から八行目にかけての「のうち二九六・〇五平方
メートル」を削除し、同九行目の「記載額は」を「評価額の記載額は、三〇番の土
地につき三〇八七万八〇一〇円〔但し、地積を二九六・〇五平方メートルとし
て〕、同番人の土地につき」と改め、同末行の「記載額は」の前に「評価額の」
を、同二六枚目表六行目の「第四号証、」の次に「第九号証、」をそれぞれ加え
る。
(8) 原判決二六枚目表七行目の「法定申告期限後」から同一〇行目までを「控
訴人A及びEは、法定申告期限後である昭和六二年四月頃、被控訴人から、期限後
申告の勧めを受けたので、知人の税理士に相談した結果、その法的見解に従い、被
控訴人からの右の指導・勧告に応じないこととした。なお、控訴人A及びEは、同
年六月頃、Fから同人の申告書の写しを入手した。(甲第一一号証、第一四号証、
乙第五、第六号証、証人Iの証言、
控訴人A本人尋問の結果)」と改める。
(9) 原判決二六枚目表末行の「2」を削除し、同裏六行目の「原告A」から同
八行目の「認められるから」までを「控訴人A及びEにつき、相続放棄の申述期間
が経過しているから」と、同二七枚目表一行目の「供述をしている。」を「供述を
し、甲第九号証にも同旨の記述がある。」と、同裏八行目の「できなかったことに
やむを得ない」を「できなかったことにつき、真にやむを得ない」とそれぞれ改め
る。
5 無申告加算税の課税対象について
控訴人らは、控訴人A及びEへの無申告加算税の賦課が免れないとしても、同人ら
が認識することができた相続財産は、きくの自宅敷地、三和銀行及び武園旅館に対
する貸地並びに三和銀行への預金の一部だけであり、他の相続財産については、こ
れを知ることができず、相続税を申告しなかったことに正当な理由があると認めら
れるにも拘らず、被控訴人が本件処分において、Fが未分割の相続財産として申告
したもの全部を無申告加算税の対象としているのは、その一部につき国民に不可能
を強いるものであり、違法であると主張し、更に、当審において追加主張2(無申
告加算税の課税対象の範囲)のとおり主張する。
ところで、期限内申告書を提出しなかった者に対し、無申告加算税を課するに当た
り、その対象の範囲ないし負担については、(例えば、納税者の責任の程度の差を
考慮したり、申告遅延の月数による累進的取り扱いをしたりする等の方法も一応考
えられるが、どの方法によるかは、)租税法律主義の見地から、法律の定めるとこ
ろによらなければならない。そして、無申告加算税の課税要件が備わった場合(納
税者が納税申告すべき場合であるにも拘らず全く申告しなかった場合)、国税通則
法六六条一項本文は、当該納税者に対し「納付すべき税額」に一律一〇パーセント
を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課することを規定しており(した
がって、これによらない課税は違法となる。)、期限内申告書の提出がなかったこ
とについての「正当な理由」があると認められない以上は、納税者が認識できなか
った相続財産に係る相続税額を無申告加算税額算出の基準額から除外するとの規定
はないのであって、税務署長には、この点に関する裁量はないというべきである。
すなわち、法は、無申告につき正当な理由がある場合には制裁を課さないが、納税
者に相続財産の一部が判明し、それが基礎控除額を超えて申告すべき場合には、判
明した分についてとりあえず申告をしたならば、その者に対し、全相続財産につい
ての無申告加算税を課さないこととする一方、右の判明した分さえ申告しない者に
対しては、残余の相続財産についての事情の如何を問わず、全相続財産を基にした
「納付すべき税額」に所定の率を乗じた金額の制裁を課すろこととしているのであ
って、これにより、無申告という事態を防止するための実効性をあげ、一部分だけ
でも期限内に誠実な納税申告書を提出するよう国民に促すとともに、その納税義務
の適正かつ円滑な履行を確保し、健全な申告秩序の形成を図ろうとしているもので
あって、控訴人らの主張するような限定的な制裁(当審における追加主張2)は採
用していないのである。
しかして、本件では、控訴人A及びEは、相続財産の一部とはいえ、相続税の基礎
控除額を超える相続財産を認識することができたにも拘らず、その部分についてさ
えも申告書を提出せず、納税者の自主的な申告に税金の徴収を委ねた申告納税方式
の趣旨に反する行為をしたのであるから、被控訴人のした本件処分は、右の納税方
式を維持するための制裁として適法なものというべきである。
6 控訴人らの当審における追加主張1(信義則違反)について
控訴人A及びEが被控訴人に対し、法定申告期限内に、Fの申告書の内容の開示を
要請したことを認めるに足りる証拠はない(かえって、証人Iの証言及び控訴人A
本人尋問の結果によれば、右控訴人らが被控訴人に対し、Fの申告書の内容の開示
を求めた時期は、法定申告期限後であることが窺われる。)。のみならず、たと
え、共同相続人の一人であっても、Fが提出した申告書の内容につき、同人の承諾
もないのに納税担当職員がこれを開示することは、国家公務員法第一〇〇条一項の
趣旨に照らして、許されないものというべきであるから、被控訴人がこれを拒否し
たことは正当である。したがって、本件処分が信義則に違反して無効であるとの控
訴人らの主張は理由がない。
7 控訴人らの当審における追加主張3(訴訟手続違反)について国税不服審判所
における審理についての違法は、本件処分の違法事由とはなりえないし、本件訴訟
の主たる争点である「正当理由」の存否についての審理上、同所審査官を証人とし
て尋問する必要はないものと認められるから、同所審査官を証人として採用しなか
った原審の訴訟手続には何らの違法もない。
二 以上によれば、控訴人らの本訴請求はいずれも理由がないから棄却すべきであ
り、これと同旨の原判決は正当であって、本件各控訴はいずれも理由がないから、
これを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五
条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 山本矩夫 笹村將文 山下郁夫)

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