弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を左のとおり変更する。
     被控訴人は控訴人に対し金四六二、一七七円およびこれに対する昭和四
一年一〇月一〇日以降支払済に至るまで年六分の割合の金員を支払え。
     控訴人のその余の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審を通じこれを三分し、その一を控訴人の、その余
を被控訴人の負担とする。
     この判決の主文第二項は仮に執行することができる。
         事    実
 控訴人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金七六九、一九六円および
これに対する昭和四一年一〇月一〇日以降支払済に至るまで年六分の割合による金
員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決と仮執
行の宣言を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担
とする。」との判決を求めた。
 当事者双方の事実上、法律上の主張は次のとおりである。
 (控訴人の請求原因)
 一、 控訴人は別紙目録記載為替手形三〇通(以下本件手形又は目録番号に従い
本件(1)手形の如く呼称する。)の所持人である。
 二、 よつて、控訴人は、本件手形の所持人として、引受人である被控訴人に対
して、本件手形金合計金七六九、一九六円とこれに対する本件訴状送達の翌日であ
る昭和四一年一〇月一〇日以降完済まで商法所定年六分の割合の遅延損害金との支
払を求める。
 (被控訴人の答弁と抗弁)
 一、 本件手形について被控訴人が引受をしたこと、本件手形につき訴外Aが裏
書をしたこと、本件(12)ないし(30)の手形につき同人が振出をしたことは
いずれも否認する。
 二、 本件手形は元々、訴外亡Bの手によつて、訴外靏タオル工場、下中寿タオ
ル工場およびCらに渡すため作成されたものであるが、裏書の連続を欠き無効なの
で、紙屑として放置せられていたところ、昭和四一年五月二日頃、訴外Dが、株式
会社佐々木商店事務所内から、被控訴人が拒否するにかかわらず無理に持ち去つた
後、(一)本件(1)ないし(11)の手形についでは、振出人欄および振出地欄
が白地であつたところへ、擅に神谷タオル有限会社および今治市と記載し、また受
取人欄には靏タオル工場と記載されていたのを勝手に抹消して、まず神谷タオル有
限会社と記載し、更に之を抹消してAと記入し、(二)本件(12)ないし(3
0)の手形については、同じく受取人欄の下中寿タオルおよびCを勝手に抹消して
Aと記入し、振出地欄に今治市を記入したものである。
 三、 右の様に本件手形は、初め、受取人欄は靏タオル工場、下中寿タオルおよ
びCの名が記載せられているのに裏書人はAであつて、裏書の連続を欠く無効な手
形であつた。訴外Dはこれを各支払期日後に無理に持ち去つて右裏書が連続する様
にして控訴人に裏書譲渡したのであるから、そのため本件手形が有効となることな
く、依然として無効手形である。
 四、 裏書人Aの裏書は同人が真正になしたものではないから、裏書の連続を欠
き、控訴人は適法な手形所持人たり得ない。
 五、 前記Dが振出地欄に今治市と記入したのは、適法な補充権に基づかない無
効な記載であるから、本件手形は未完成手形であり控訴人は手形上の権利を有しな
い。
 六、 本件(12)ないし(30)の手形には被控訴人の記名はある(自署では
ない)が押印はない。よつてこれについては引受義務がない。
 (右に対する控訴人の反論)
 一、 本件手形は、D(訴外神谷タオル有限会社の代理人)が、昭和三九年八月
頃、訴外佐々木商店の事務所で被控訴人から、被控訴人の引受を得たものを受取つ
たものである。これを昭和四一年五月二日とする主張は誤りであるし、同人が無理
に持ち去つたものではない。
 すなわち、訴外神谷タオル有限会社(以下神谷タオルという)は、かねて佐々木
商店と取引があつたが、佐々木商店は昭和三八年三月頃内整理に入り、同年六月頃
営業停止し、一〇月頃支払不能となつた。そこで、前記日時にDは右佐々木商店に
対する売掛金につき、被控訴人の個人引受を求め、被控訴人がこれに応じ、金庫か
ら本件手形を出して同人に交付したものである。
 二、 本件手形が被控訴人から神谷タオルに交付されたとき、その効力に欠くる
ところはなく、ただ被控訴人指摘の裏書人と受取人との不一致、振出地、振出人欄
の白地等のことはあつたが、右の様に効力ある手形を交付した以上、その補充、訂
正権を神谷タオルに付与したものである。
 三、 因みに、控訴人は神谷タオルから本件手形の裏書を受けるに際し、昭和四
一年六月二八日、Dを同行して被控訴人宅を訪ね、その引受を確認した。その際、
被控訴人は一ヶ月の猶予を得れば分割払いの具体的約束をする旨約していた位であ
る。
証拠(省略)
         理    由
 一、 その成立の真否に関する判断はしばらく措いて、甲第一ないし第三〇号証
の存在と当審における控訴本人の供述によると、控訴人は現に本件手形を所持する
ことが認められる。控訴人は本件手形には被控訴人の引受がなされていると主張
し、右甲第一ないし第三〇号証によると、本件(1)ないし(11)の手形にはそ
の引受欄に被控訴人の氏名の記載と丸の中に「E」と顕出された押印があり、(1
2)ないし(30)の手形には被控訴人の氏名の記載があるが何ら押印はない。
 二、 そこで、まず、右(12)ないし(30)の手形の引受の効力につき判断
する。
 <要旨>為替手形の引受は、引受(支払)人が「署名」してこれをなすべきである
(手形法二五条)ところ、本件(12)ないし(30)の手形上の被控訴人
の氏名の記載が被控訴人の自署であると認めるに足りる証拠はなく、かえつて後記
(1)ないし(11)の手形の成立に関する説示に示すように、これらも被控訴人
が自署したものではないことが認められる。されば右引受は、引受(支払)人が署
名してしたものではないから、右法定の要式を欠くものであつて、有効な引受があ
つたものとすることができない。
 すなわち、手形法八二条によれば、署名には記名捺印を含むが、これは「記名し
且つ捺印する」ことを要求したものであることは疑いなく、ただその記名が本人の
手書即ち署名である場合は押印が不要とせられるに過ぎないからである。尤も、後
記本件手形の成立に関する事情に照らせば、右記載は、被控訴人に代つてその名を
用いて手形行為をすることを許された者が、被控訴人に代つてその名を手書した場
合と同一視できないでもなく、若しその様な署名の代行が有効であるとするなら
ば、右の結論も変更せざるを得ない。しかし乍ら、当裁判所は、その様な押印がな
く署名のみによつて手形行為が有効とせられるための署名は、純粋な意味での自署
のみを有効とし、署名代行形式によるものは含まないと解する。この点、従来の判
例が「代理人が直接に本人の名を署し又はこれに代わる記名捺印を為すも、手形行
為として有効であつて、本人に対し効力を生ずる」旨を判示しているところは、本
件の如き純粋な署名の代行(他人の手書による氏名の記載のみがあつて押印のない
もの)による場合については、多くの学説が批判するようになお検討の余地がある
のではないかと考える。なぜならば、かかる狭義の署名代行についても署名として
の効力を認めるとなると、まず、記名と署名との区別がかなりあいまいとなる。つ
まり、手形法八二条の法意は、本人がした場合であつても、記名だけて押印のない
もの(例えば記名印を押捺したのみて、印章の押捺を欠くもの)に広義の署名の効
力を認めることを許すものではないであろう。しかも、記名それ自体は、右の様に
必ずしも記名印等機械的方法にようず、人の手書であつても一向にさしつかえない
のであるから、本件の様に人の手書による氏名の記載のみがある場合、それが、第
三者(機関)の手書による氏名の記載で押印を欠くものなのか、或は権限を有する
代行機関による署名の代行なのかは一見しただけでは全く不明であり、外観表示の
優位を認めなければならない手形行為にこの様なあいまいな領域の存在を許すこと
は好ましくない。そして、手形行為について署名が必要とされる理由の一つとし
て、手形行為者をして手形上の責任を負担すべきことを自覚せしめるためとも説か
れているが、これを要するに、それが本人の自署であることによつて、本人の責任
が手形上にも客観的に表示されるからこそ、本人の手形上の責任を追求し得るのだ
と理解すれば、手形法八二条は、容易に第三者によつて行われ得る記名の場合には
更に本人の印鑑が押捺されていることが、右本人の責任が手形上に客観的に表示さ
れる要素として欠き得ないものとしたものと考えられ、従つて前記のように、機関
による記名なのか、権限を有する者の代行署名なのかの区別があいまいで、その記
載それ自体では本人の責任が顕現されているかどらかを推知できない押印を欠く第
三者の手書による氏名の記載に、たやすく署名代行としての有効性を認めることは
相当でない。
 尤も、その点(手書した者の署名代行権の存在)の立証責任を所持人に負わせれ
ば、この様に引受(振出)形式にこだわる必要性に乏しい様にも考えられるが、そ
れは本来外観要件を重んずる手形行為にあまりにも実質を持ち込むものであり、ま
た、物理的にも第三者により容易に代行せられ得る記名捺印についての法理をもつ
て、本来物理的には第三者によることのできない署名(自署)の場合を律すること
となり、ひいて純粋な意味での署名概念に不当な混乱をもたらす結果となるから、
右理由があつてもたやすく狭義の署名代行を手形行為に認める論拠には賛し難い。
 三、 次に前記(1)ないし(11)の手形の引受について判断する。
 当審における被控訴本人尋問(第一回)の結果によると、右(1)ないし(1
1)の手形(甲第一ないし一一号証)の引受人欄に押捺されている印は被控訴人の
印であることが認められるから、その引受人欄は真正に成立したものと推定でき、
これを覆えすに足りる証拠はない。
 かえつて、当審証人Dの証言と当審証人Aの証言および当審における被控訴本人
尋問(第一、二回)の結果の各一部とを総合すると次の事実が認められる。
 「訴外株式会社佐々木商店は昭和三八年四月頃倒産したので、その代表取締役で
ある訴外A(被控訴人の父)は、その債権者らとの間に同商店の整理についての協
議をし、その際被控訴人を代理して、以後同商店の債務は被控訴人がこれを重畳的
に引受ける約束をし、その支払の方法として、本件外にも債権者らに対し被控訴人
名義の約束手形を振出したりした。本件為替手形はその頃、更に佐々木商店の事業
を継続していくために、被控訴人がその債務を引受ける趣旨で、訴外・タオル工場
ほか佐々木商店の取引先に対し交付すべく、受取人欄に各右取引先名を記入し、引
受人欄および名宛人欄に従業員をして被控訴人の氏名を記載させ、うち(1)ない
し(11)の手形については被控訴人が自分で押印し、(12)ないし(30)の
手形の振出人欄にはAの記名押印をしておいたが、(1)ないし(11)の手形の
振出人欄は白地のままとして作成し、何らかの都合で右取引先へ交付しないまま佐
々木商店の事務所に置いておいたものであるところ、昭和三九年七、八月頃、佐々
木商店の他の取引先である訴外神谷タオル有限会社の代理人Dがやつて来て、同会
社の売掛金の決済を強く要求したため、被控訴人は前記債務引受の趣旨に従い、そ
の支払の方法として本件手形を同会社に交付した。その際(1)ないし(11)の
手形の振出人欄および振出地欄は白地のままであり、また裏書人欄にはAの記名押
印のある白地裏書が顕出されていた。」
 以上の事実が認められ、被控訴人は、右は訴外Dが奪取したものであると主張
し、当審における被控訴人尋問の結果中これに副う供述も存するが、右は当審証人
Dの証言に照らしたやすく措信し難く、他に前認定を覆えすに足りる証拠はない。
 そうすると、本件(1)ないし(11)の手形については、被控訴人は、訴外神
谷タオル有限会社(以下神谷タオルと略称する)が振出人となることを知り乍ら自
己の引受にかかる為替手形を交付したのであるから、被控訴人にはその引受意思が
あつたものと認められ、他にこれに反する証拠はない。
 四、そこで(1)ないし(11)の手形につき、被控訴人の抗弁について判断す
る。
 (一) 被控訴人は、神谷タオルは、その後擅に本件手形の前認定の白地であつ
た振出人欄に自己の署名(記名押印)をし、振出地欄に今治市と記載したのは、適
法な補充権にようずしたものであると主張し、当審証人Dの証言と甲第一ないし第
一一号証の記載によれば、神谷タオルがその様に記載したことは認められる。しか
し前認定の事実によれば、被控訴人は、為替手形用紙にその振出人欄および振出地
欄白地のまま、自己の引受の署名(記名押印による署名)をして、神谷タオルに交
付したものであつて、いわゆる白地引受をしたものである。そして、その際、神谷
タオルに対し同会社が自己を振出人として補充し、併せて振出地をも補充する権限
をも授与したものと認めるべきである。
 (二) 次に被控訴人は、本件手形は元来裏書の連続がなかつたところ、神谷タ
オルが擅に受取人を訂正したことによつて形式上連続するに至つたものであるが、
右訂正によつて、元来欠けていた連続の欠缺が治癒されるものではないと主張し、
当番証人Dの証言によると右訂正の事実は認められるが、右受取人欄は本来振出人
が記載すべき文言であるところ、右白地引受された為替手形に自己を振出人とする
補充権を与えられた以上、受取人の訂正をすることも許されるものと解すべきであ
る。
 (三) 更に被控訴人は、本件手形上のA名義の裏書は偽造であるから裏書の連
続を欠くと主張するが、裏書の連続の問題としては、形式上有効な裏書の連続のあ
るかぎり連続ありというべきであつて、実質的に無効な裏書が介在することは裏書
の連続を害するものではない。
 以上、被控訴人の抗弁はいずれも失当として排斥を免れない。
 五、 されば、被控訴人は、本件(1)ないし(11)の手形については、その
適法な所持人である(甲第一ないし一一号証により、その裏書の形式的連続に欠く
るところはない)控訴人に対し引受人としての義務を負うべきであるから、控訴人
の本訴請求は、右(1)ないし(11)の手形金の合計額である金四六二、一七七
円とこれに対する本件訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四一年一〇月
一〇日以降支払済に至るまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度に
おいてはこれを正当として認容すべきであるが、その余の請求((12)ないし
(30)の手形に関する請求)は、被控訴人に対し引受人としての責任を問うこと
のできない場合であるから、これを失当として排斥を免れない。
 よつて、控訴人の請求全部を棄却した原判決は一部不当であるから民事訴訟法第
三八六条に従いこれを変更し、訴訟費用につき同第九六条、第九二条を、仮執行の
宣言につき同第一九六条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 村上喜夫 裁判官 賀集唱 裁判官 潮久郎)
別 紙
<記載内容は末尾1添付><記載内容は末尾2添付>

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