弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
 被申請人が申請人に対し、昭和四四年九月一一日付で発付した収容令書に基づく
収容は当裁判所昭和四四年(行ウ)第一九四号収容令書発付処分取消請求事件の判
決確定に至るまでこれを停止する。 訴訟費用は被申請人の負担とする。
       理   由
一 申請人の申請の趣旨ならびに申請の理由は、別紙一記載のとおりであり、これ
に対する被申請人の意見は、別紙二記載のとおりである。
二 当裁判所の判断
 出入国管理令三九条が、入国警備官が退去強制事由該当容疑者を収容するには、
その者に右の容疑があることを疑うに足りる相当の理由があると認められるほか、
所属官署の主任審査官の発付する収容令書によらなければならない旨規定している
のは――もつとも、司法官憲の発する令状によらしめていない点において、違憲の
問題が生ずるであろうが、この問題はしばらくおくこととし、少なくとも――収容
すべきかどうかを主任審査官の判断に委ねることによつて、容疑者の人身の自由を
保障せんとする趣旨に出たものというべきである。したがつて、主任審査官は、収
容令書の発付にあたつては、単に容疑者が退去強制事由に該当すると疑うに足りる
相当の理由があるかどうかを判断するばかりでなく、さらに収容の必要の有無につ
いても判断をなすべきであり、収容を必要とする合理的理由の認められない場合又
はその理由が消滅するに至つたと認められる場合においては、当該収容又は収容の
継続は、それが収容令書によつてなされているとはいえ、違法たるを免かれないも
のと解するのが相当である。もつとも、収容の必要の有無の判断にあたつては、外
国人という特殊性と違反調査の円滑な遂行を考慮しうることは、いうまでもない。
被申請人は、同令四五条を引用して違反調査にあたつては容疑者を収容することが
法の建前であるかのように主張する。しかし、入国審査官が同令四五条に基づいて
行なう審査も、容疑者の身柄を拘束していなければ進められないものではないの
で、被申請人の主張をもつて右の解釈を左右するに足る資料とは到底なしえない。
 疏明によれば、申請人は、米国籍を有し、ネブラスカ・ウエスリアン大学在学
中、一たん州兵となつたが、その後兵役の登録にあたり兵役につくことを忌避し、
その代替的義務として三年間キリスト教宣教師たる活動を選択し、昭和三六年一〇
月一〇日日本に入国し、青山学院等においてキリスト教の宣教に従事していたが仏
教特に禅に関心を抱くようになり、キリスト教宣教師としての義務を果した後、昭
和四〇年八月禅宗に改宗し、僧籍にはいつてAと名のり、昭和四一年四月から一年
間永平寺において雲水の修業をなし、現在駒沢大学大学院仏教学科において身元引
受人でもあるBに師事して昭和四五年一月までに「現代中国における仏教」なる修
士論文を提出することとなつており、同年三月同大学院卒業後、さらに禅寺におい
て修業をかさねたうえ、将来は米国において禅の布教に生涯を棒げようとしている
ものである。
 ところで、申請人は、前叙のごとく昭和三六年一〇月一〇日宣教師として入国以
来、約八回にわたり期間の更新を受けて適法に本邦に在留してきたが、昭和四四年
六月一二日文化大革命以後における中国仏教の実情を視察するため、再入国の許可
申請が容れられないままで、中国に向けて出国し、同年七月二日頃再び長崎港に帰
来し、交渉の結果、同月七日付で、政治活動を行なつたという理由で在留期間を六
〇日と限定されて上陸を認められ、同年八月六日付で在留期間更新許可の申請をな
し、不許可となり、該不許可処分取消訴訟の係属中、東京入国管理事務所入国警備
官から調査のための呼出を受け、同年九月一一日指定の時刻に出頭したところ、本
件収容令書により同事務所収容場に収容されるにいたつたことが、一応認められ
る。
 しかして、前叙のごとき申請人の容疑の態様と同人の地位、経歴、性格、特に身
元引受人がいて現に学業中の身であることを彼此勘案すれば、本件収容令書発付当
時は格別、収容してから相当の日時を経過した今日においては、さらに収容を継続
する必要があるものとは認め難く、この認定の妨げとなる疏明はない。
 また、前叙のごとく本案につき理由がないものとは認められない以上、収容が人
身の自由を拘束する処分であることに鑑み、処分の執行により回復の困難な損害が
生じ、且つ、これを避けるため処分の執行を停止する緊急の必要があるものと認め
るのが相当である。
 よつて、本件申請を正当と認め、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民
訴法八九条を適用して、主文のとおり決定する。
 なお、申請人は、本件収容令書の発付自体が憲法三二条および三一条に違反する
と主張している。しかし、法令審査権は裁判所が国会や政府の定めた法律、命令等
が憲法に適合しているかどうかを判断する極めて重大な権限であり、結果の如何に
よつては深刻な影響をもたらすのであるから、この権限の行使は、つとめて慎重で
なければならないところ、本件が仮りの判断を示す執行停止申請事件であることか
らみて、すでに他の論点の判断により申請認容の結論が出されている以上、右違憲
の主張については、敢えて、判断を加わえないこととした。
(裁判官 渡部吉隆 中平健吉 渡辺昭)
(別紙一)
 申請人の申立
申請の趣旨
 申請人に対する被申請人の昭和四四年九月一一日付収容令書発付処分に基く執行
は東京地方裁判所昭和四四年(行ウ)第一九四号収容令書発付処分取消請求事件の
判決確定に至るまでこれを停止する。
 申請費用は被申請人の負担とする。
との裁判を求める。
申請の理由
第一、(行政処分の存在)
一、(申請人の地位、経歴及びわが国における生活等)
 申請人は一九三九年アメリカ合衆国ネブラスカ州に出生し、ネブラスカ・ウエス
リアン大学在学中、良心的徴兵拒否者として兵役義務に就くことを拒否したが、そ
のみかえりの奉仕として、国外におけるキリスト教の宣教師たる活動を選択して、
昭和三六年一〇月キリスト教伝導の目的で来日した。
 その後申請人は、日本キリスト教団に所属し、青山学院大学で英語の教授をしな
がらキリスト教布教活動をつづけたが、次第に禅に興味を持つようになり、禅寺で
坐禅の修業をつみ、昭和四〇年八月「得度」の儀式を行つて剃髪、僧衣の身とな
り、Aと名のり、昭和四一年四月から一年間福井県の大本山永平寺において雲水の
修業をつとめた。
 さらに昭和四二年四月には駒沢大学大学院仏教学科に入学し、C教授の指導の下
で仏教を研究するとともに、断食托鉢するなど仏徒としての修業も続けて現在に至
つている。
 なお、昭和四五年一月までに現在とりまとめ中の修士論文「現代中国における仏
教」を提出し、同年三月右大学院を卒業したその暁には四月から七月まで永平寺時
代の師D師(現在は福井県霊泉寺住職)の指導、監督のもとに百日間の″首僧″と
しての修業を行い、″立身″を遂げ、始めて曹洞宗僧侶の資格を得るに至る予定で
ある。
 そのうえは明年八月頃までにわが国を出国し、米国において禅の布教に生涯を捧
げる所存である。
二、(在留資格と従来の在留期間更新)
 申請人は昭和三六年入国時においては、宗教活動を行うために派遣された者とし
て在留資格を有していたが、その後仏教研究、大学院就学に及び出入国管理令(以
下単に令)第四条第一項第一六号、特定の在留資格及びその在留期間を定める省令
第一項第三号により、いわゆる「四―一六―三」として特別の在留資格を有するに
至つた。
 在留期間は従前一八〇日と定められており、例外なく更新許可をうけていたとこ
ろ、昭和四四年三月二四日付更新申請に対し、同年五月一九日法務大臣は突如これ
を九〇日に短縮し、あわせて同年四月四日付でなした再入国申請に対して違法にも
不許可処分をなした。
 そのため申請人が予定どおり同年六月一二日出国し、中国領域から戻つて来た六
月二七日頃、長崎入国管理事務所は、再入国の手続をしないので、やむなく申請人
は在留目的については従前と同様仏教研究と大学院修学の必要を記載して入国(上
陸)許可申請をなしたところ、法務大臣は同年七月七日付で在留資格は従前同様、
「四―一―一六―三」在留期間は同日より九月五日までの六〇日間と定め、令第一
二条第一項第三号にもとずき許可した。
三、(在留期間更新申請と不許可処分)
 申請人は前記のとおり駒沢大学大学院における学問の研究を続け、さらに僧侶と
して修業を果す必要があり、その事情は全く中国渡航前と変わらないので、昭和四
四年八月六日付で法務大臣に対し仏教研究と大学院での学習継続の必要を記載して
在留期間の更新を許可するよう令第二一条、同法施行規則第二〇条に則り申請した
ところ、法務大臣は何ら理由を付さないまま不許可処分とした旨同月二三日付で申
請人に通知した。
 そこで申請人は、同年九月三日法務大臣に対し、右不許可処分の取消を求めて東
京地方裁判所に訴を提起し、右事件は現に民事第三部に係属中である。
四、(本件収容令書発付処分とその執行)
 申請人は東京入国管理事務所入国警備官より調査のため同年九月一一日午前一〇
時に同事務所に出頭するよう通知があつたので、その日時に出頭したところ、被申
請人は同日申請人に対し収容令書を発付し、入国警備官は右令書に基き直ちに申請
人を収容した。
第二、(本件収容令書発付処分の違法性)
一、本件収容令書発付処分は、令三九条の定める要件を欠き違法である。
(一) すなわち申請人が令「第二四条各号の一に該当すると疑うに足りる相当の
理由」はない。即ち、申請人のなした前記在留期間更新許可申請は適法であるのに
対し以下詳述するとおり法務大臣のなした前記在留期間更新不許可処分は違法であ
つて、申請人の在留期間の更新は許可さるべきであるから、申請人は令第二四条第
四号ロに該当する者ではない。
(1) 令第二一条は「本邦に在留する外国人は、現に有する在留資格の変更をす
ることなく、在留期間の更新をうけることができ………(第一項)………、法務大
臣は………更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り、これを許可
することができる(第三項)」と規定している。
 これにつき更新を許可するもしないも全く法務大臣の自由裁量に属するとの主張
があるかも知れないがこの見解は誤りである。
 すなわち、入国(上陸)許可によつて、当該外国人は本邦内において生活の本拠
を置き、諸権利、諸自由を享受しうる権能を与えられるのに至るのであるからこの
利益を失わしめるには客観的に合理的と判断される事由が存しなければならない。
勿論入国許可申請の際短期間をもつて在留が終了する旨、在留目的が記載され、か
つこのことが何人にも明らかである場合は原則として更新を不許可としても違法で
はなかろう。例えば一時的観光客や特定の講演、演奏等のためにのみ入国した外国
人などの場合である。
 しかし、これに反し入国の目的、資格から或程度長期に及ぶ滞在が予定され、客
観的にもそれが認められる場合には入国審査官が上陸の際決定した在留期間の到来
によつてただちに本邦に在留する資格を失い、退去強制をうけるものとは解されな
い。
 一般に免許、許可等の処分に期限が附されている場合において、その期限の到来
によつて当然に右処分が失効すると解するのは妥当ではなく、免許、許可の目的、
性質に照らしその附された期限が不相応に短期である場合には、その期限は処分権
者に免許等を受けた者がその目的に沿い、条件どおり行為しているかどうかを確認
し、あるいは条件等の変更をなす必要があるかどうかを考慮するための機会を与え
た趣旨であると解すべきである。
 したがつて期限の到来前に適法な更新申請がなされており、状況に著しい変化が
ある等客観的に明白な合理的事由がない限り、行政庁は更新を許可すべき義務があ
る。
(2) ところで申請人は、第一の一記載のとおり、少くとも昭和四四年三月末ま
では大学院学生として論文提出、修士号取得のため研究をつづけ、講義に出席する
必要があり、かつ卒業後七月末までは首僧としての百日の勤行を果す必要がある。
(ちなみに得度後五年以内にこの勤行を了しなければ僧侶の資格を得ることはでき
ない)
 この事情はここ数年の更新時、さらには昭和四四年六月中国より帰日の際の入国
(上陸)申請時といささかも変化して居らず、前記更新申請にあたつても、この事
由は申請書に記載して明らかにしている。
 かかる状況を先分に知悉しながら、あえて更新申請に対し不許可処分をなした法
務大臣の行為は違法であるといわなければならない。
(二) 本件の収容はその必要性を欠き違法である。
 収容は出入国管理令第三九条によれば同令二四条の一に該当すると疑うに足りる
相当の理由があるときは、入国警備官の請求により主任審査官が発付することにな
つており法文上必要性の要件を明定していないけれども、そもそもこの収容は、人
身に対する拘束であり、もつとも基本的な人間の自由を奪うものであるから違反容
疑さえあれば行政官の自由裁量によりいつでも収容できるものではなくその必要性
がある場合に限定してなさるべきものである。
 すなわち収容は、違反調査の円滑な進行を確保するためになされるものであつ
て、このことは仮放免の条件を定めた五四条が「住居及び行動範囲の制限呼出に対
する出頭の義務その他必要な条件」を附することを収容所長又は主任審査官に認め
ていることからも明らかである、従つて収容は、右の目的の範囲でなされねばなら
ず、被収容者が住居を有し逃亡の虞がなく、又いつでも出頭に応ずる状況が認めら
れる限り執行すべからざるものである。然らざる限り行政官吏は制度本来の目的を
超えて恣意的に人間の基本的自由に高度の制限を加えうることになり、憲法一三条
同三一条に反する。
 ところで申請人は定まつた住居を有し、駒沢大学大学院の学生として勉学してお
りかつ、日本の法律には完全に従うとの信念を有し、入国警備官による出頭要求に
もその日時通り直ちに応じているのであつて、かりに申請人に違反容疑の相当の事
由があるとしてもその調査をするために身柄を拘束し収容する必要は毫も存しな
い。
 しかも申請人の在留資格の存否は、裁判所において現に審理が行われており、そ
の事情は裁判官の目の前にすべて呈示されているのであつて行政官吏が別に身柄を
拘束して調査する必要はない。
 然らば本件収容令書発付処分は、その要件を欠くか少くも裁量権の乱用であつて
違法である。
二、本件収容書発付処分は、憲法三三条および三一条に違反する。
 出入国管理令三九条は、外国人が令二四条各号の一に該当すると疑うに足りる相
当の理由があるときは、入国警備官は当該外国人を収容令書により収容することが
できるとし、右収容令書は当該入国警備官の所属する官署の主任審査官が発付する
ものとしている。
 この収容は人身に対する拘束であり、最も基本的な人間の自由を奪うものである
のにかかわらず、そこには司法官憲の判断によるチエツクは全くない。
 そして本件収容令書もまた右規定に従い発布されたものである。ところで憲法三
三条は、何人も司法官憲の発する令状によらなければ逮捕されないとして人身の拘
束について令状主義を規定している。この規定はその趣旨からして、刑事手続上の
逮捕のみならず、その他人身の自由の制限、剥奪についても適用または準用さるべ
きものであり、またこれは人間の基本的自由の保障規定であるところからして、日
本国にあつてその主権に服する全ての外国人にも適用されるべきものである。
 さらに憲法三一条は、いわゆる適正手続の原理を規定し、人身の自由等の制限、
剥奪につき、手続的な保障を要求している。これは刑事手続のみならず行政手続に
も適用または準用さるべきものであり(最高裁昭和四一年一二月二七日大法延判決
(民集二〇巻一〇号二二七九頁)参照)、また憲法三三条同様、その性質上外国人
にも適用されるべきである。
 これらの憲法条項に照すと、現行の前記収容令書発付および執行手続ならびにそ
れに基く本件収容令書発付処分は令状主義に違反し、かつ適正手続に反するものと
して、憲法三三条、三一条に違反するものである。
三、以上のように本件収容令書発付処分は違法違憲なものであるから、取消さるべ
きものである。
第三、(保全の必要)
 申請人は現に身柄を拘束され東京入国管理事務所の収容所に収容されている。こ
のような状態は人間にとつて最大の苦痛であり、後に確定判決によつて本件収容処
分が取消されても、既に収容の執行を続行してしまえばその損害の回復は不可能で
ある。(このような場合金銭による損害賠償は無意味に近い)
 しかも申請人は前述のとおり駒沢大学院仏教学科で仏教の勉学に励んでいるので
あり、自らの生活は托鉢によつてまかなつているのであるから収容の継続はその勉
学及び生活に回復し難い損害を与えることとなる。
 よつて申請人は本件収容令書発付処分の取消を求めて本訴を東京地方裁判所に提
起するとともに本件収容令書に基く執行の停止を求めて本申立に及んだ。
(別紙二)
 被申請人の意見
      意   見
 本件申請はこれを却下する。
 申請費用はこれを申請人の負担とする
との裁決をなすべきものと思料する。
      理   由
第一 本件収容処分に至るまでの経緯
一、申請人は一九三九年一一月一日アメリカ合衆国ネブラスカ州において出生し、
昭和三六年一〇月一一日キリスト教布教の目的で来日、日本キリスト教団に所属す
る宣教師として青山学院大学で英語の教師をしながら、キリスト教布教活動を続け
た。その後昭和四一年四月から一年間福井県の大本山永平寺において雲水の修業を
し、昭和四二年四月駒沢大学大学院修士課程(仏教専攻)に入学し、日本名をAと
名乗つているものである。
二、申請人は昭和三六年一〇月一一日在留資格四―一―一〇(宗教活動者)として
入国し、同三九年三月一七日出国、同月二七日同様四―一―一〇を付与され入国し
在留中仏教研究のため昭和四〇年一二月七日在留資格およびその在留期間を四―一
―一六―三(一八〇日)に変更許可された。その後六回にわたり在留期間更新を許
可された後、七回目の期間更新申請に対し昭和四四年五月一九日在留期間を九〇日
として許可されたが、同年四月四日付でなした再入国許可申請に対し法務大臣は不
許可とした。しかるに申請人は同年六月一二日長崎港から出国し同年六月二四日長
崎港に入港し同月二五日同港において仏教研究継続のためとの入国目的で上陸申請
をしたが、福岡入国管理事務所長崎港出張所入国審査官は申請人が有効な入国査証
を所持しないところから出入国管理令(以下令という。)七条一項一号に規定する
上陸のための条件に適合していないものと認め同日同所特別審理官に引き渡し、特
別審理官が同日申請人につき口頭審理を行なつた結果、申請人が同令七条一項一号
に規定する上陸のための条件に適合していないと認定し、その旨申請人に通知した
ところ、同月二六日申請人は右認定に異議があるとして法務大臣に対し異議の申出
を行ない、法務大臣は同年七月二日付出国準備のためとして令一二条一項三号に基
き上陸特別許可(在留資格四―一―一六―三在留期間六〇日)し同月七日長崎港出
張所審査官は申請人の所持する旅券に右上陸特別許可の証印をなした。なお、同審
査官は右証印に際し申請人に対し本件許可は出国準備のためであるから許可期間内
に必ず出国するよう口頭で告知している。
三、申請人は昭和四四年八月六日仏教研究と大学院での学習継続のためという理由
で在留期間更新の申請をなしたが、法務大臣は前記上陸特別許可の経緯から同月二
三右日申請を不許可と決定し同日申請人にそ旨の通知したところ、同年九月三日申
請人は、法務大臣に対し右不許可処分取消請求の訴訟を東京地方裁判所に提起し、
同所民事第三部に係属しているものである。
四、申請人は東京入国管理事務所入国警備官から同年九月一一日午前一〇時までに
出頭するよう通知を受けて右日時に出頭したので、被申請人は同日申請人に対し収
容令書を発付し、同所入国警備官が右令書に基き同所に申請人を収容したものであ
る。
第二 本件申請は執行停止の要件を欠くものである。
一、本件は本案について理由のないことが明らかである。
(一) 申請人は令二四条四号ロに該当する。
(1) 在留期間更新許可は、令二一条三項により明らかなように法務大臣は、当
該外国人が提出した文書により在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由
があるときに限りなされるものであつて、申請があれば簡単に許されるというもの
でなくその許否の処分は法務大臣の自由裁量に委ねられ同令には許可されなかつた
からといつて不服申立を認める旨の規定もなく、他に不服申立の途はない(行政不
服審査法四条一項一〇号参照)のであるから、在留期間の満了する日までに在留期
間の更新が許可されない以上その後の残留は当然不法となるものと解すべきであ
る。そして外国人の入国及び在留の許否はもつぱら当該国家の自由裁量により決定
し得るものであつて、特別の条約の存しない限り、国家は外国人の入国又は在留を
許可する義務を負うものでないというのが国際慣習上認められた原則で、わが国の
出入国管理令の各規定にもこの原則が反映されているのであつて、外国人には自己
を在留させよと国家に対して要求する権利はないのである。
 従つて、右に述べたことから明らかなように令二一条が外国人に対し在留期間の
更新の申請をすることができると規定しているからといつても、同令は外国人に対
し、在留期間延長を権利として付与したものでなく、法務大臣の自由裁量によつて
恩恵的に在留期間の延長が許されるものであるから、右申請をした外国人は単に更
新があり得るという事実上の期待を持つにすぎない(昭和四三年四月九日大阪高等
裁判所第二刑事部判決参照)のである。
 ところで、前述のとおり申請人が昭和四四年八月六日東京入国管理事務所に出頭
してなした在留期間更新許可申請は同月二三日法務大臣より不許可と決定され同日
申請人に通知されたものであり、申請人はその所持する旅券に記載された在留期間
である昭和四四年九月五日までは適法な在留といえるが申請人は同日を超えて残留
しているものであり令二四条四号ロに該当することは明らかである。
(2) 法務大臣のなした在留期間更新申請不許可処分には違法はない。
 なお、かりに、外国人が在留期間更新許可の申請権を有するとしても在留期間更
新の許否は法務大臣の自由裁量に属するものであるから、裁量を誤つたことによ
り、不許可処分が不当とされることはあつても違法となることはない。のみなら
ず、法務大臣が申請人に対し本年七月七日になした上陸特別許可は申請人の出国準
備のためであり、右処分に定める六〇日の期間は出国準備の為には相当の期間であ
つて、申請人が本件在留期間更新の理由とする仏教研究と大学院での学習継続の必
要は本件在留期間更新の許否にあたつて考慮すべき事情には当らないのであるか
ら、右不許可処分には裁量権の範囲をこえ又はその濫用はないというべきである。
(3) のみならず、令三九条に定められている収容令書発付の要件は、退去強制
事由の一に「該当すると疑うに足りる相当の理由」の存在であるところ、外観上申
請人が上陸許可で定められた在留期間を経過して残留する者であることは明白であ
る以上、かりに本件在留期間更新申請不許可処分の違法事由として申請人の主張す
るところがにわかに排斥しがたいものであるとしても、その当否ひいては令二四条
四号ロの退去強制事由の存否は違反調査及びその後の手続において検討されるべき
ものであつて、これをもつて、右の収容令書発付の要件の存在を否定されるもので
はない。
(二) 本件収容令書発付処分ならびに収容は適法である。
(1) 申請人は、住居を有し、逃亡の虞がなく、またいつでも出頭に応ずる状況
が認められ、収容の目的は違反調査の円滑な進行を確保するためになされるもので
あるところから、本件収容は違法である旨主張する。
 出入国管理令上、退去強制手続は令二四条各号の一に該当すると疑いのある外国
人につき退去強制手続を進めるにあたり、これを収容して行なうことが原則であ
る。すなわち入国警備官は令二四条各号の一に該当すると思料する外国人があると
きは、当該外国人(以下容疑者という。)につき違反調査をすることができ(令二
七条)、入国警備官は、必要があれば、容疑者の出頭を求めてこれを取り調べ(令
二九条一項)、もしくは証人の出頭を求めて、取り調べ(三〇条一項)、裁判官の
許可を得て臨検、捜索もしくは押収なども行ない(令三一条一項)、その結果容疑
者につき、令二四条各号の一に該当すると疑うに足りる相当の理由があると認めた
ときは、主任審査官の発付する収容令書によりその者を収容できるのである(令三
九条)。加えて、令二四条各号の一に明らかに該当する者が収容令書の発付をまつ
ていては逃亡の虞があると信ずる相当の理由があるときは、収容令書の発付をまた
ずにその者を収容することもできるのである(令四三条)。このようにして収容さ
れた容疑者は、入国審査官に引渡され令第五章第三節に定める審査、口頭審理及び
異議の申出などの手続を受けることができるのである。
 しかも、令上、令二四条各号の一に該当すると疑うに足りる相当の理由がある容
疑者につき、退去強制手続を行なうにあたり、容疑者が刑事訴訟に関する法令、刑
の執行に関する法令又は少年院もしくは婦人補導院の在院者の処遇に関する法令の
規定による手続が行なわれている場合に限り、その者を収容しないときでも令第五
章の規定に準じて退去強制手続を行なうことができるのであり(令六三条)、右以
外の容疑者については、入国警備官は必ず容疑者を収容しなければ入国審査官に引
渡すことはできず(令四四条)、引渡しを受けた入国審査官はすみやかに審査を行
なうなど、退去強制手続は容疑者を原則的に収容したうえでこれを進めることとな
つているのである。
 さらにこのことは入国審査官が、審査の結果、容疑者が令二四条各号のいずれに
も該当しないと認定したとき、特別審理官が口頭審理の結果、入国審査官の令四五
条二項による認定が事実に相違すると判定したとき、及び法務大臣が異議の申出が
理由があると裁決したときは、入国審査官、特別審理官及び主任審査官は、当該容
疑者を直ちに放免しなければならないと規定されていること(令四七条一項、四八
条六項、四九条四項)からみても明白である。
(2) かりに、収容令書による収容にあたつては、収容の必要性を要すると解す
べきものであるとしても、収容令書は退去強制事由の存否の調査のために身柄を確
保する目的で発付されるものであり、かつ、収容後において、保証金を納付させ、
かつ、住居及び行動範囲の制限、呼出に対する出頭の義務その他必要と認める条件
を附すことによつて、違反調査のための出頭を確保する具体的方法を講じた上で釈
放する仮放免の制度が認められていることに照らせば、収容令書による収容の必要
性が否定されるのは、何等具体的な方法を講じないでも出頭が確保できることが明
白である場合に限られるものと解すべきである。申請人は、逃亡の虞はなく、ま
た、いつでも出頭に応ずるものであると主張するが、申請人の疏明をもつてして
は、いまだ十分とはいえないものと考える。
(三) 収容令書発付処分は、憲法三三条および三一条に違反しない。
(1) 憲法三三条違反について
 申請人の趣旨とするところは、令三九条は収容令書の発付者を当該入国警備官の
所属する官署の主任審査官と規定しているが右主任審査官は憲法三三条に規定する
司法官憲に該らないから右令三九条は違憲であり、従つて同条に従つてなされた本
件収容令書発付処分は違憲であるというにある。
 しかしながら憲法三三条は、その文言からして明らかに刑事手続における被疑者
らの身柄の拘束の開始すなわち逮捕について規定しているものであつて、本件の如
き行政手続である強制退去手続の一連の手続としての身柄の拘束すなわち収容につ
いてまで司法官憲による抑制まで要求しているものとは到底理解し難く、したがつ
て令三九条が収容令書の発付を主任審査官に委ねていることをもつて違憲のそしり
を受けるいわれはない。
(2) 憲法三一条違反の主張について
 憲法三一条は、その規定の位置および文言(「………その生命若しくは自由を奪
われ、又はその他の刑罰を科せられない」)からみて、刑事手続に関する規定であ
ると解すべきであるから本件収容処分のような行政手続には適用がないものであ
る。
 かりに、憲法三一条が行政手続に適用があるとしても、申請人の主張は失当であ
る。けだし、本件収容処分は法律である出入国管理令に定める手続に従つてなされ
たものであるからである。
二、回復の困難な損害を避ける緊急の必要性を欠く。
 令四一条によれば、収容令書による収容期間は三十日以内を原則とし、やむを得
ない事由のあるときに限つて三十日以内の延長がなされうるのである。しかして、
申請人の協力が得られれば、三十日に及ばないで退去強制事由の存否についての審
査、口頭審理及び異議申立の手続を終えることは可能である。このような点を考慮
すれば、申請人主張の事由によつては、いまだもつて収容令書発付処分の執行停止
の要件である回復の困難な損害を避ける緊急の必要性を認めるには至らないものと
いうべきである。

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