弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役16年に処する。
未決勾留日数中130日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,Aと共謀の上,内縁の夫B(当時36歳)を殺害しようと企て,Aに
おいて,平成20年4月13日午前8時27分ころ,大阪府東大阪市ab丁目c番
d号付近路上で,普通乗用自動車を運転し,対向車線上を同方向に歩行していたB
に後方から接近し,自車を時速約60キロメートルに加速して,自車前部を同人の
背後から衝突させ,同人を跳ね上げて自車のフロントガラスに激突させた後,路上
に転倒させ,よって,そのころ,同所において,同人を頭蓋骨骨折等による外傷性
くも膜下出血により死亡させて殺害した。
(証拠の標目)
省略
(法令の適用)
被告人の判示所為は刑法60条,199条に該当するところ,所定刑中有期懲役
刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役16年に処し,同法21条を適
用して未決勾留日数中130日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181
条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
1本件における事実経過
(1)被告人は22歳のころ,前の夫と結婚し,二人の子供をもうけたが,夫と
の折り合いが悪くなり,平成15年5月別居した。平成16年5月ころ,子供たち
と一緒に東大阪市のアパートに入居した。その際,電器店で電気製品を買ったが,
店員として担当したのがBであり,被告人はBと交際を始めた。前の夫とは離婚し
た。
被告人は,Bと交際を続け,同年11月,上記の被告人方にBが入って一緒に住
むようになった。Bとの間では結婚の話も出ていたが,同人のギャンブル好きのこ
となどもあって,入籍するには至らなかった。
Bは,収入が減ってきたことからコンビニ店をやることを考え,平成18年5月
から大阪市e区でコンビニ店を始め,被告人も副店長となり,アルバイト店員も
雇って経営を始めた。Bは週末は電気店の仕事をしていた。
,(2)平成18年9月,Aが,コンビニ店の夜勤アルバイトとして応募してきて
同店で働くようになった。
Bと被告人は,Aを自宅に招くなど親しい間柄になったが,被告人がAにBにつ
いての愚痴をこぼし,Aに相談に乗ってもらっているうちに,Aに好意を持って交
際するようになり,平成19年3月からは,男女の関係となった。
被告人は,Aから,Bと別れるように言われ,Aと一緒になり,Bと別れようと
考えるに至り,コンビニ店をやめた4月末に,Bを自宅から閉め出した。Bは実家
に戻った。Aが被告人方に入って半同居生活をするようになった。ところが,Aの
怒りっぽさを知り,Bがやり直したいというのを受け入れ,6月にはBが被告人方
に戻ることになった。Aは自分のマンションに戻っていった。それでもなお,被告
人はAとの関係を続けており,このころ,Bが,被告人とAの関係を知るに至った。
被告人は,Bに対し,Aとは別れると話す一方,Aに対してはBと別れてAと一緒
)。になると話していた。7月,被告人は子供を出産した(Bはその子供を認知した
9月,被告人はBから「Aを呼べ」と言われてAに連絡し,やってきたAがBか
ら暴行を受けるということがあった。そのとき,Aから,自分のマンションへ来る
ように言われたが,被告人はBと別れるつもりはなく,Aのマンションへは行かな
かった。
Aから,知り合いの暴力団組員に頼んで,Bを拉致して脅迫し,被告人と別れる
ようにし向ける話をされ,更には,殺し屋にBを殺してもらうことを頼む話をして
きた。被告人は,Aに対しては,Bと別れたいのに別れてくれないとしていたため,
Aに話を合わせていたが,怖くなって中止を求め,結局,この話は,Aが先方にキ
ャンセルしたということで終わった。
(3)平成20年1月,被告人は自分が妊娠していることに気付いた。Bとの間
の子供であると考えたが,Aに対してはAとの間の子供であると話した。BとAは
いずれも被告人が出産することを望んだが,被告人は,Bとの生活を続けようと考
え,4人の子供を育てるのは大変だと判断して,中絶することとし,3月初め,中
絶手術を受けた。
Bが中絶手術を受ける身を心配してくれず,手術後も「勝手に手術したのはお前
だ」などと言われて,被告人は腹を立て,それまでの3人の関係を清算し,Aと一
緒になろうと考えるに至った。そこで,被告人は,Aに「掃除屋さん(殺害を請け
負う者のこと)を頼めないか」という話を持ちかけた。
,,Aは「以前に殺し屋を怒らせたのでもう頼むことはできない」と答えていたが
数日後,自分でBを殺害すると言ってきた。被告人はその話を受け入れて賛成し,
Aとの間でBを殺害する方法について相談を始めた。
Aは,交通事故に見せかけて殺害するという話を始め,Bが使っている自動車の
タイヤのねじを外すなどの工作をしたが,Bは事故を起こすには至らなかった。A
がBの車に細工するために,被告人は,Bの車のカギをAに渡している。3月末に
は,Bは通勤に自動車を使わなくなった。
(4)4月に入り,Aから,道路を歩いているBを自動車で跳ねて殺害し,その
まま逃げるという方法を提案され,被告人も賛成した。
Aは,4月5日及び6日,Bを跳ねて殺すために被告人方の近くでBを待ち伏せ
たが,Bが帰ってこなかったり,待ち伏せている道を通らなかったりしたため,計
画を実行することができなかった。
4月12日夜も,AがBを待ち伏せた。被告人もBから帰るとの連絡があったこ
とをAにメールしたものの,結局,Bが他の者に車で送ってもらって帰ってきたた
め,計画を実行することができなかった。
Bが帰宅した後も,被告人は,Aと直接会ったり,メールで連絡を取り合うなど
し,Aから,その晩は自動車内で寝て待機し,翌朝,Bが出掛けるのを待つとの連
絡を受けた。
(5)被告人は,翌13日朝,Aとの間でメールを交換しており,午前8時26
分,Bが家を出た後「今いったわ」とのメールを送った。,
Aは,被告人方近くの路上で車に乗って待ち伏せていたが,被告人からのメール
を受け,その直後に道路に出てきたBの姿を認め,その後をつけ,速度を上げて近
付き,Bに衝突させて跳ねた。
(6)被告人は,Aからかかってきた電話で,計画を実行したと聞いた。Bは病
院に運ばれたが,即死の状態であった。Bが跳ねられたのは交通事故として取り扱
われ,被告人は,交通事故被害者の家族を装って行動していた。Bの遺体に対面し
た後,Aに「Bが死んだ」旨のメールを送っている。
Bの仮通夜の日に,Aが被告人方に来て,一緒に住むようになった。
7月14日に逮捕されて以降は,率直に事実関係を供述している。
なお,被告人は,Aとの間の子を妊娠していたが,本件で勾留中の10月,中絶
手術を受けている。
(7)弁護人は,本件犯行に至る経緯において,終始Aが主導しており,被告人
は,Aの犯行計画は冗談半分であると考え,現実的なものとしてとらえていなかっ
たという側面がある,と主張する。
上記の経緯を見ると,Bを殺害する話は,Aと被告人のそれぞれの心情の変化に
伴って形を変えながら進んでいたのであるが,3月の妊娠中絶の後は被告人からA
に働きかける形になった。AがBの自動車に細工をするために,被告人は,自動車
のカギを渡したりしている。4月に入ってからは,Aが道路を歩いているBを自動
車で跳ねるという方法として具体的なものになり,被告人は,待ち伏せをしている
Aに,Bの行動をメールで伝えることをした。4月12日の夜,計画が実行できな
かった際に,Bが浮気している証拠をつかんでBと別れるとか,弁護士に入っても
らうなどの話がメールのやりとりの中に出てきており,この時点でなお,殺害計画
を回避できれば回避したいとの思いがあったことも事実であるが,結局,翌13日
朝に殺害の機会をうかがうことにし,実際に13日朝,待ち伏せているAに対し,
「Bが家を出た」旨のメールを送った。本件犯行において,被告人がBを殺害する
ことに深くかかわり,重要な役割を果たしたことは否定しようがない。被告人が,
Bの殺害を意欲し,そのための行動をしていたことは優に認められる。
被告人は,自動車に対する細工はいたずらにすぎないと思っていたなどと供述す
るが,被告人は,Aがタイヤのねじを緩めたり,ブレーキを利きにくくしたりする
ことを事前に知っていた。車にそのような細工を行えば,重大な事故を引き起こし
かねないことは容易に想像できることである。
被告人は,Aが本当にBを自動車で跳ねて殺害すると思っていなかったとも供述
しているが,それまでの経緯やAの言動を踏まえて考えれば,Aが被告人自身との
相談の結果,Bを自動車で跳ねて殺害する計画を実行しようとしていることを現実
的なものとして認識していたことは明らかである。
2被告人に対する量刑
被告人は,内縁の夫である被害者を殺害してAと一緒になろうと考えて,Aと共
謀の上,被害者を殺害した。その動機に酌量の余地があるはずがない。自動車を加
速させ,後方から衝突させるという態様は,非常に危険かつ悪質なものである。被
告人らは,事前の打合せに基づき,被害者を待ち伏せた上で,本件犯行を実行した
もので,計画的な犯行である。被害者は,被告人がAとの交際を続けることに苦し
み,ときにはけんかをしながらも,被告人との関係を修復しようと努力していたに
もかかわらず,幼い娘を残して殺害されたのであって,その無念さは察するに余り
ある。被害者の遺族らの悲嘆も深く大きい。母親は,被害者を失った悲しみや被告
人らに対する憎しみを強く訴え,厳重処罰を求めている。被告人は,遺族に対して
謝罪の言葉を述べているが,特段の慰謝の措置は講じていない。殺害の犯行自体は
Aが実行したものであるにせよ,被害者の行動をメールで知らせるなどしたのは被
告人であり,被告人が担った役割も大きい。
以上によれば,被告人の刑事責任は重大である。
他方,被告人は一応の反省の弁を述べている。これまで道路交通法違反以外に前
科はない。母親は公判廷に出廷して被告人のために証言した。
そこで,これら諸般の事情を考慮した上,被告人を主文の刑に処するのが相当で
あると判断した。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑懲役18年)
平成21年1月16日
大阪地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官秋山敬
裁判官栗原保
裁判官荒井格

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