弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
    一 原判決中上告人株式会社A1総業に対する建物明渡請求に関する部分
を破棄し、右部分
    につき第一審判決を取り消す。
      右請求中被上告人のDに代位する明渡請求及び抵当権に基づく明渡請
求をいず
    れも棄却する。
      上告人株式会社A1総業のその余の上告を却下する。
    二 上告人A2の本件上告を却下する。
    三 上告人株式会社A1総業と被上告人との間では、訴訟の総費用は、こ
れを二分し、その一を同上告人の、その余りを被上告人の負担とし、上告人A2被
上告人との間では、上告費用は同上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人阿部幸孝の上告理由について
一 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
 1 D(以下「D」という。)は、昭和五九年七月二九日株式会社Eリース(以
下「Eリース」という。)から二五七〇万円を借り受け、同年八月一〇日右借受金
の支払を担保するため、自己の所有する第一審判決添付物件目録(一)記載の土地(
以下「本件土地」という。)、同目録(二)記載の建物(以下「本件建物」という。)
に抵当権を設定し、同日右抵当権設定登記が経由された(以下「本件抵当権」とい
う。)。
 2 Dは、昭和六〇年四月二二日ころF(以下「F」という。)に対し、本件土
地・建物を期間三年の約定で賃貸し、同年一〇月一四日第一審判決添付登記目録(
一)、(七)記載の賃借権設定仮登記が経由され、また、同年八月二七日ころG(以
下「G」という。)に対し、同じく本件土地、建物を期間三年の約定で賃貸し、同
年一〇月一四日同目録(二)、(八)記載の賃借権設定仮登記が経由された(以下「本
件各短期賃貸借」という。)。
 3 F及びGは、同年一二月五日ころ各自の賃借した本件土地、建物を上告人A
2(以下「上告人A2」という。)に対し、いずれも期間三年の約定で転貸し、同
月一一日Fから上告人A2に対する前記登記目録(三)、(九)記載の仮登記賃借権移
転の付記登記及びGから上告人A2に対する同目録(四)、(一〇)記載の仮登記賃借
権移転の付記登記が経由された。
 4 上告人A2は、昭和六一年三月二〇日ころその転借した本件土地、建物を上
告人株式会社A1総業(以下「上告人A1総業」という。)に対し、期間三年の約
定で転貸し、同月二七日上告人A2から上告人A1総業に対する前記登記目録(五)、
(六)、(二)、(三)記載の仮登記賃借権移転の付記登記が経由され、本件建物は現在
上告人A1総業が占有している。
 5 被上告人は、昭和六〇年一一月一五日Dの連帯保証人として、Eリースに対
し、Dの前記借受金の残元金二五三〇万四五四三円及びこれに対する利息、損害金
を支払い、本件抵当権移転の付記登記が経由された。
 6 本件抵当権の実行に係る大阪地方裁判所昭和六一年(ケ)第一三五七号不動
産競売事件における本件土地、建物の鑑定評価額は一〇二七万円であるが、本件各
短期賃貸借が付着することを前提にすると八二〇万円であって、本件各短期賃貸借
の存在は抵当権者である被上告人に損害を及ぼすことになる。
二 被上告人は、第一審において、DとF及びGとを共同被告として、民法三九五
条ただし書に基づき、本件各短期賃貸借の解除を求めると共に、その解除を命ずる
判決の確定を条件に、本件抵当権に基づく妨害排除請求として、上告人らに対して
前記仮登記賃借権移転の付記登記の抹消登記手続及び上告人A1総業に対して本件
建物の明渡しを求め、第一審は、本件各短期賃貸借の解除を命じた上、被上告人の
上告人らに対する右請求を認容したところ、上告人らが第一審判決に対して控訴を
申し立て、被上告人は、原審において、本件建物の明渡請求につき、第一審におけ
る本件抵当権に基づく妨害排除請求として明渡しを求める訴え(以下「物上請求」
という。)と選択的に、本件抵当権の被担保債権を保全するため、債務者であるD
の上告人A1総業に対する本件建物の所有権に基づく返還請求権を代位行使して明
渡しを求める訴え(以下「代位請求」という。)を追加し、原審は、被上告人の上
告人らに対する抹消登記手続請求及び上告人A1総業に対する代位請求を認容すべ
きものと判断して、右抹消登記請求及び物上請求を認容した第一審判決に対する上
告人らの控訴を棄却している。
三 しかしながら、本件建物の明渡請求に関する原審の判断は是認することができ
ない。その理由は次のとおりである。
 1 抵当権は、設定者が占有を移さないで債権の担保に供した不動産につき、他
の債権者に優先して自己の債権の弁済を受ける担保権であって、抵当不動産を占有
する権原を包含するものではなく、抵当不動産の占有はその所有者にゆだねられて
いるのである。そして、その所有者が自ら占有し又は第三者に賃貸するなどして抵
当不動産を占有している場合のみならず、第三者が何ら権原なくして抵当不動産を
占有している場合においても、抵当権者は、抵当不動産の占有関係について干渉し
得る余地はないのであって、第三者が抵当不動産を権原により占有し又は不法に占
有しているというだけでは、抵当権が侵害されるわけではない。
 2 いわゆる短期賃貸借が抵当権者に損害を及ぼすものとして民法三九五条ただ
し書の規定により解除された場合も、右と同様に解すべきものであって、抵当権者
は、短期賃貸借ないしこれを基礎とする転貸借に基づき抵当不動産を占有する賃借
人ないし転借人(以下「賃借人等」という。)に対し、当該不動産の明渡しを求め
得るものではないと解するのが相当である。けだし、民法三九五条ただし書による
短期賃貸借の解除は、その短期賃貸借の内容(賃料の額又は前払の有無、敷金又は
保証金の有無、その額等)により、これを抵当権者に対抗し得るものとすれば、抵
当権者に損害を及ぼすこととなる場合に認められるのであって、短期賃貸借に基づ
く抵当不動産の占有それ自体が抵当不動産の担保価値を減少させ、抵当権者に損害
を及ぼすものとして認められているものではなく(もし、そうだとすれば、そもそ
も短期賃貸借すべてが解除し得るものとなり、短期賃貸借の制度そのものを否定す
ることとなる。)、短期賃貸借の解除の効力は、解除判決によって、以後、賃借人
等の抵当不動産の占有権原を抵当権者に対すで関係のみならず、設定者に対する関
係においても消滅させるものであるが同条ただし書の趣旨は、右にとどまり、更に
進んで、抵当不動産の占有関係について干渉する権原を有しない抵当権者に対し、
貸借人等の占有を排除し得る権原を付与するものではないからである。そのことは、
抵当権者に対抗し得ない、民法六〇二条に定められた期間を超える賃貸借(抵当権
者の解除権が認められなくても、当然抵当権者に対抗し得ず、抵当権の実行により
消滅する賃借権)に基づき抵当不動産を占有する貸借人等又は不法占有者に対し、
抵当権者にその占有を排除し得る権原が付与されなくても、その抵当権の実行の場
合の抵当不動産の買受人が、民事執行法八三条(一八八条により準用される場合を
含む。)による引渡命令又は訴えによる判決に基づき、その占有を排除することが
できることによって、結局抵当不動産の担保価値の保存、したがって抵当権者の保
護が図られているものと観念されていることと対比しても、見やすいところである。
以上、要するに、民法三九五条ただし書の規定は、本来抵当権者に対抗し得る短期
賃貸借で抵当権者に損害を及ぼすものを解除することによって抵当権者に対抗し得
ない賃貸借ないしは不法占有と同様の占有権原のないものとすることに尽きるので
あって、それ以上に、抵当権者に貸借人等の占有を排除する権原を付与するもので
はなく(もし、抵当権者に短期賃貸借の解除により占有排除の権原が認められるの
であれば、均衡上抵当権者に本来対抗し得ない賃貸借又は不法占有の場合にも同様
の権原が認められても然るべきであるが、その認め得ないことはいうまでもない。)、
前記の引渡命令又は訴えによる判決に基づく占有の排除を可能ならしめるためのも
のにとどまるのである。
 3 したがって、抵当権者は、短期賃貸借が解除された後、貸借人等が抵当不動
産の占有を継続していても、抵当権に基づく妨害排除請求として、その占有の排除
を求め得るものでないことはもちろん、賃借人等の占有それ自体が抵当不動産の担
保価値を減少させるものでない以上、抵当権者が、これによって担保価値が減少す
るものとしてその被坦保債権を保全するため、債務者たる所有者の所有権に基づく
返還請求権を代位行使して、その明渡しを求めることも、その前提を欠くのであっ
て、これを是認することができない。
 4 これを本件についてみるに、上告人A1総業は、F及びGの本件各短期賃貸
借を基礎として本件土地、建物を転借した上告人A2との間の前記転貸借契約に基
づき本件建物を占有してきところ、民法三九五条ただし書に基づく本件各短期賃貸
借の解除により上告人A1総業の本件建物の占有権原は消滅するに至るが、被上告
人が、物上請求として、又は代位請求として、A1総業に対し、本件建物の明渡し
を求め得るものではないというほかない。
 5 以上と異なり、被上告人の代位請求を容認すべきものとした上、被上告人の
物上請求を認容した第一審判決に対する上告人A1総業の控訴を棄却した原審の判
断は、抵当権の効力ないし民法三九五条ただし書の解釈を誤った違法があり、右違
法は、原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、本件
建物の明渡請求に関する部分については、原判決は破棄を免れず、第一審判決は取
り消されるべきである。そして、以上説示したところによれば、被上告人の上告人
A1総業に対する代位請求及び物上請求はいずれも棄却すべきものである。
 6 なお、上告人らは、原判決中抹消登記手続請求に係る部分について、上告理
由を記載した書面を提出しない。
 よって、民訴法四〇八条一号、三九九条ノ三、三九六条、三八六条、九六条、九
五条、八九条、九二条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    香   川   保   一
            裁判官    藤   島       昭
            裁判官    中   島   敏 次 郎
            裁判官    木   崎   良   平

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