弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主       文
        被告人を懲役6年に処する。
        未決勾留日数中90日をその刑に算入する。
理       由
(罪となるべき事実)
 被告人は,山梨県弁護士会に所属する弁護士として,甲府地方裁判所から,平成
7年4月27日に破産者有限会社Aの破産管財人に,平成8年11月8日に破産者
株式会社Bの破産管財人に,平成9年3月12日に破産者株式会社C,破産者有限
会社D及び破産者株式会社Eの破産管財人にそれぞれ選任され,各破産財団に属す
る財産の占有管理及び破産債権者への配当等の業務に従事していたほか,平成15
年4月ころ,株式会社F及び株式会社Gからそれぞれ破産申立て等の委任を受け,
両社の破産申立て及び予納金の保管並びに両社に支払われる請負工事代金精算金等
の代理受領等の業務に従事していたものであるが,
第1 山梨県甲府市ab丁目c番d号所在の当時の株式会社H銀行I支店に開設さ
れた前記破産者株式会社Bの破産財団に属する株式会社B破産管財人弁護士○○
(被告人名:掲載者注。以下同じ。)名義の普通預金口座(口座番号e)の通帳及
び届出印等を所持して,同預金を同破産財団のため業務上預かり保管中,前記裁判
所の許可を得ることなく,別表1記載のとおり,平成11年8月25日から平成1
4年7月2日までの間,前後23回にわたり,同支店において,自己の用途にあて
る目的で,ほしいままに,同口座から合計4041万7500円の払い戻しを受け
て着服し,
第2 前記の株式会社H銀行I支店に開設された前記破産者株式会社Cの破産財団
に属する株式会社C破産管財人弁護士○○名義の普通預金口座(口座番号f)の通
帳及び届出印等を所持して,同預金を同破産財団のため業務上預かり保管中,前記
裁判所の許可を得ることなく,別表2記載のとおり,平成12年8月25日,前後
3回にわたり,同支店において,自己の用途にあてる目的で,ほしいままに,同口
座から合計135万2000円の払い戻しを受けて着服し,
第3 前記の株式会社H銀行I支店に開設された前記破産者有限会社Dの破産財団
に属する有限会社D破産管財人弁護士○○名義の普通預金口座(口座番号g)の通
帳及び届出印等を所持して,同預金を同破産財団のため業務上預かり保管中,前記
裁判所の許可を得ることなく,別表3記載のとおり,平成13年2月9日から平成
14年7月22日までの間,前後14回にわたり,同支店において,自己の用途に
あてる目的で,ほしいままに,同口座から合計2048万3500円の払い戻しを
受けて着服し,
第4 前記の株式会社H銀行I支店に開設された前記破産者株式会社Eの破産財団
に属する株式会社E破産管財人弁護士○○名義の普通預金口座(口座番号h)の通
帳及び届出印等を所持して,同預金を同破産財団のため業務上預かり保管中,前記
裁判所の許可を得ることなく,別表4記載のとおり,平成13年7月24日から同
年8月27日までの間,前後4回にわたり,同支店において,自己の用途にあてる
目的で,ほしいままに,同口座から合計331万1500円の払い戻しを受けて着
服し,
第5 前記破産者株式会社Bの破産財団に属する在庫商品売却代金として,買主で
ある有限会社Jから受領した当時のK銀行L支店支店長M振出しに係る金額472
5万円の自己宛て小切手1通を同破産財団のため業務上預かり保管中,平成10年
6月4日ころ,前記の株式会社H銀行I支店において,自己の用途にあてる目的
で,ほしいままにこれを着服し,
第6 前記破産者株式会社Bの破産財団に属する在庫商品売却代金として,買主で
ある前記Jから受領した現金688万6950円を同破産財団のため業務上預かり
保管中,同月23日ころ,甲府市内において,自己の用途にあてる目的で,ほしい
ままにこれを着服し,
第7 前記の株式会社H銀行I支店に開設された前記破産者株式会社Bの破産財団
に属する株式会社B破産管財人弁護士○○名義の普通預金口座(口座番号e)から
現金合計1210万7100円の払戻しを受けて,同破産財団のため業務上預かり
保管中,同年7月2日ころ,甲府市内において,自己の用途にあてる目的で,ほし
いままに,このうち1177万6500円を着服し,
第8 前記破産者有限会社Dの破産財団に属する借家権補償費等として,N組合か
ら前記の株式会社H銀行I支店に開設されたO法律事務所弁護士○○名義の普通預
金口座(口座番号i)に振り込まれた預金2555万5347円を同破産財団のた
め業務上預かり保管中,平成13年1月31日,同支店において,自己の用途にあ
てる目的で,ほしいままに,同口座から現金655万3347円の払い戻しを受け
て着服し,
第9 前記の株式会社H銀行I支店に開設された前記破産者有限会社Aの破産財団
に属する破産者有限会社A破産管財人弁護士○○名義の普通預金口座(口座番号
j)の通帳及び届出印等を所持して,同預金を同破産財団のため業務上預かり保管
中,前記裁判所の許可を得ることなく,別表5記載のとおり,平成11年4月27
日から平成15年2月3日までの間,前後3回にわたり,同支店において,自己の
用途にあてる目的で,ほしいままに,同口座から合計669万9000円の払い戻
しを受けて着服し,
第・ 株式会社F代表取締役P及び株式会社G代表取締役Qをして,両社の破産申
立ての予納金650万円を含む800万円を,山梨県甲府市kl丁目m番n号所在
のI信用金庫R支店に開設された弁護士○○名義の普通預金口座(口座番号o)に
振り込ませ,平成15年4月28日に50万円の,同月30日に750万円の合計
800万円の払い戻しを受け,そのうち650万円を両社のため業務上預かり保管
中,同月30日,甲府市内において,自己の用途にあてる目的で,ほしいままにこ
れを着服し,
第・ Sから前記のI信用金庫R支店に開設された弁護士○○名義の普通預金口座
(口座番号o)に振り込まれた前記株式会社Gの請負工事代金精算金318万83
43円を,前記信用金庫の弁護士○○名義の定期預金(口座番号p)に預け替えた
上,同社のため業務上預かり保管中,自己の用途にあてる目的で,ほしいままに,
同年7月24日,前記信用金庫において,解約の上318万8368円の払い戻し
を受けて着服し,
第・ Tから前記のI信用金庫R支店に開設された弁護士○○名義の普通預金口座
(口座番号o)に振り込まれた前記株式会社Gの労働保険料還付金35万3752
円を,同社のため業務上預かり保管中,自己の用途にあてる目的で,ほしいまま
に,同年8月26日,山梨県甲府市kq丁目r番s号所在のI信用金庫U支店にお
いて,35万3752円の払い戻しを受けて着服し,
第・ V町から前記のI信用金庫R支店に開設された弁護士○○名義の普通預金口
座(口座番号o)に振り込まれた前記株式会社Fの請負工事代金精算金356万6
950円を,前記信用金庫の弁護士○○名義の定期預金(口座番号t)に預け替え
た上,同社のため業務上預かり保管中,自己の用途にあてる目的で,ほしいまま
に,同年9月18日,前記信用金庫において,解約の上356万7050円の払い
戻しを受けて着服し,
もって,それぞれ横領したものである。
(法令の適用)
 被告人の判示各所為はいずれも刑法253条に該当するところ,以上は同法45
条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により犯情の最も重い判示第
5の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役6年に処し,同法21
条を適用して未決勾留日数中90日をその刑に算入することとする。
(量刑の理由)
 本件は,弁護士であった被告人が,破産管財人として,あるいは債務者から破産
申立ての委任を受けた受任者として,業務を遂行するにあたり,預かり保管中の合
計1億5800万円余りもの多額の預金等を横領したという業務上横領の事案であ
る。
 被告人は,多額の遺産を相続したのを契機にギャンブルや女性との交際といった
遊興にのめり込み,収入に不相応な浪費を繰り返して多額の負債を抱えたあげく,
事務所経費や遊興費等に充てる金銭を捻出するため横領に手を染め,その横領の穴
埋めをし,これまで同様の浪費を続けるため更に横領を重ねたものであって,その
私利私欲に基づく自己中心的・自己保身的な動機には一片の酌量の余地もない。
 被告人は,弁護士に対する社会の信頼を悪用し,平成10年6月から平成15年
9月までの5年余りもの長期間にわたり横領行為を反復累行してきたばかりか,犯
行の発覚を困難とするため,本来ならば破産管財人名義の口座に入金させるべきと
ころを,小切手で支払わせて直接受領したり,自己名義の口座に入金させるなどの
工作までして横領に及んでおり,その犯行態様は悪質で,常習性も顕著に認められ
るから,弁護士の社会的使命に対する自覚と職業倫理が全く欠落し,規範意識が著
しく鈍磨していたと見るほかなく,厳しい非難を免れない。
 被害総額は判示のとおり莫大な金額に上っており,切実な債権回収を望む多数の
破産債権者や,なけなしの金銭を提供して破産申立てを依頼した債務者に対して多
大な経済的損害や精神的打撃を被らせたものである上,公的な使命を担う弁護士や
破産管財人,ひいては裁判所の行う破産手続に対する社会の信頼を著しく失墜させ
たもので,本件により生じた結果ないし影響はまことに重大である。被告人の現在
の経済状態にかんがみれば,被告人が十分な被害回復を行うことは到底期待できな
いところ,何の落ち度もないのに被告人に裏切られた関係者は,いずれも強い憤り
をあらわにし,被告人に対する厳重な処罰を求めている。
 以上の事情に照らすと,被告人の刑事責任は重大である。
 他方において,被告人のために酌むべき事情も存在する。すなわち,弁護人らの
尽力により合計1400万円強の現金が被害弁償の原資として確保されており,法
的手続を通じて,一部ではあるが被害の弁償が可能であるところ,被告人自身,今
後も可能な限りの被害弁償をするなど贖罪に努めたい旨述べていること,これまで
の関係機関の不適切な対応が被害の拡大を招いた面も否定できないこと,被告人が
自己の非を素直に認めて捜査機関による事案の解明に全面的に協力するなど反省悔
悟の情が顕著であること,本件が広く報道され,山梨県弁護士会から除名処分を受
けており,既に相当の社会的制裁を受けている上,本判決の確定によって法曹資格
を剥奪されることが見込まれること,被告人には前科前歴が一切ないこと,その
他,被告人が弁護士と
して長年にわたり社会に貢献してきたことなどの諸事情も認められる。
 しかしながら,社会的な使命と職責を負っている弁護士でありながら,本件のよ
うな背信行為に及んだ責任は極めて重く,以上のような被告人に有利な諸事情を最
大限に斟酌しても,なお,被告人を主文のとおりの刑に処するのが相当である。
(検察官千石奈央,佐藤方生,私選弁護人加藤啓二各出席)
(求刑 懲役10年)
  平成17年4月28日
     甲府地方裁判所刑事部
         裁判長裁判官   川  島  利  夫
            裁判官   肥  田     薫
     裁判官柴田誠は転補のため署名押印することができない。
         裁判長裁判官   川  島  利  夫・

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