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平成27年5月28日判決言渡
平成24年(行ウ)第152号所得税決定処分等取消請求事件
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
処分行政庁が原告に対して平成22年6月30日付けでした,平成17年分な
いし平成20年分の所得税の各決定処分及び無申告加算税の各賦課決定処分をい
ずれも取り消す。
第2事案の概要
本件は,所得税法上の非居住者として,アメリカ合衆国(以下「米国」という。)
から本邦に輸入した自動車用品を,インターネットを通じて専ら日本国内の顧客
に販売する事業(以下「本件販売事業」という。)を営んでいた原告が,処分行
政庁から,本件販売事業の用に供していたアパート及び倉庫(以下,併せて「本
件アパート等」という。)は,所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱
税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約(平成16年条
約第2号。以下「日米租税条約」という。)5条の規定する「恒久的施設」に該
当し,原告は本邦において所得税を納税すべき義務があるとして,原告の平成1
7年分ないし平成20年分(以下「本件各係争年分」という。)の所得税につい
ての各決定処分(以下,併せて「本件各所得税決定処分」という。)及び無申告
加算税の各賦課決定処分(以下,併せて「本件各賦課決定処分」といい,本件各
所得税決定処分と併せて「本件各処分」という。)を受けたことに対し,本件ア
パート等は恒久的施設に該当せず,原告が本邦において所得税を納税すべき義務
はないとして,本件各処分の取消しを求める事案である。
1関係法令の定め
本件に関係する法令の定めは,別紙2「関係法令の定め」記載のとおりであ
る(同別紙において定義した略語等は,本文においても用いることとする。)。
2前提事実(証拠等を掲げていない事実は,当事者間に争いのない事実である。)
(1)原告
ア原告は,「P1」との屋号で本件販売事業を個人で営む者である(以下,
原告が上記屋号で営む企業を原告個人と区別して「本件企業」ともいう。)。
イ原告は,平成16年10月23日,米国に向けて本邦を出国し(以下,
この出国を「本件出国」という。),同日以降少なくとも平成20年末ま
での間,米国に居住しており,平成17年ないし平成20年(以下「本件
各係争年」という。)において,所得税法上の非居住者(同法2条1項5
号)であった。
(2)本件販売事業の概要
ア原告は,平成14年以降,専ら日本の顧客を対象として,本件販売事業
を営んでおり,本件企業の営業所を兵庫県高砂市α×番29-208号所
在のアパート(以下「本件アパート」という。),本件企業の連絡先電話
番号を「×」(以下「本件電話番号」という。)として,インターネット
上に自動車用品を販売するホームページ(以下「原告ホームページ」とい
う。)を開設するほか,P2株式会社が運営するインターネット上の電子
商店街であるP3に出店し(以下,原告がP3に掲載する本件企業のウェ
ブページを「P3ウェブページ」といい,原告ホームページと併せて「原
告ホームページ等」という。),P4株式会社が運営するインターネット
を介して競売を行うウェブサイトのP5に出品していた。
イ(ア)原告は,平成14年1月14日,P5を利用するための「P6」を
取得し,遅くとも同年3月23日までに,原告ホームページを開設した。
(イ)原告は,平成16年7月1日から,P3ウェブページ上に出店して
いる。
ウ(ア)原告は,平成13年11月16日,本件アパートを賃借し,同月1
7日,本件アパートに本件電話番号を設置し,平成16年4月22日,
本件アパートに電話番号「×」(以下「本件ファックス番号」といい,
本件電話番号と併せて「本件電話番号等」という。)を設置した。本件
電話番号は,原告ホームページ等において,本件企業の連絡先電話番号
として掲載されており,また,本件ファックス番号は,P3ウェブペー
ジにおいて,本件企業のファックス番号として掲載されている。
(イ)原告は,本件出国後である平成18年11月29日,兵庫県高砂市
β×番8号所在の倉庫(以下「本件倉庫」という。)を賃借した。なお,
本件アパートに設置された本件ファックス番号は,本件倉庫の賃借に伴
い,本件倉庫に移設された。
エ(ア)本件企業は,米国において仕入れた自動車用品を,本件アパート等
(本件アパート及び本件倉庫)に保管しておき,日本国内の顧客からイ
ンターネットを通じて注文を受けた場合には,その商品を本件アパート
等から当該顧客に向けて発送するという方法により,本件販売事業を行
っており,注文商品を発送する際,独自の日本語版取扱説明書(以下「日
本語取説書」という。)を同梱することもあった。
(イ)原告は,本件販売事業のうち本件アパート等における業務に従事す
る従業員(以下「本件従業員」という。)を雇用しており,本件従業員
が同業務に従事していた。なお,本件企業が本件アパート等から顧客に
向けて発送する商品は,全てP7株式会社(以下「P7」という。)が
集荷して顧客に配達している。[乙22,弁論の全趣旨]
(3)原告の本件出国前後における確定申告等の状況
ア原告は,平成16年10月23日,本件出国をした。
イ原告は,平成16年11月19日,処分行政庁に対し,所得税法施行規
則98条1項3号の規定に基づき,米国へ移住することを理由として,同
年10月23日に本件販売事業を廃業した旨の「個人事業の開廃業等届出
書」(以下「本件廃業届出書」という。)を提出するとともに,通則法1
17条1項及び2項の規定に基づき,平成16年分の所得税の確定申告を
行うために納税管理人としてP8税理士を選任する旨の「所得税の納税管
理人の届出書」を提出した。
ウ原告は,本件廃業届出書を提出する一方で,本件各係争年において,本
件アパート等を本件販売事業の用に供して,本件販売事業を継続して営ん
でいた(なお,原告が本件倉庫を賃借した後において,本件企業が本件ア
パートを本件販売事業の用に供していたといえるかどうかについては,当
事者間に争いがある。)。
(4)本件訴訟に至る経緯等
ア(ア)原告は,平成17年3月10日,処分行政庁に対し,平成16年分
の所得税の確定申告書を提出したが,その後は,本件各係争年分の所得
税の確定申告書を提出しなかった。
(イ)原告は,消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)につ
いて,平成17年1月1日から平成20年12月31日までの各課税期
間(以下「本件各課税期間」という。)に係る消費税等の確定申告書を
提出しなかった。
イ(ア)加古川税務署の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)
は,平成20年10月8日,原告に対し,所得税及び消費税等の調査(以
下「本件税務調査」という。)を実施し,同日から平成21年11月9
日までの間,本件アパート等に赴くなどして,繰り返し本件税務調査へ
の協力及び帳簿書類等の提示を要請した。しかし,原告は,本件各係争
年分に係る帳簿書類等を提示することはしなかった。
(イ)原告は,平成21年1月23日,本件倉庫において,本件調査担当
職員からの質問に応じており(以下,この調査を「本件訪問調査」とい
う。),本件調査担当職員の一人であるP9は,このときのやり取りに
ついて,問答形式により「質問調査応答内容」と題する書面(乙7〔4
ないし10枚目〕。以下「本件訪問調査記録」という。)を作成した(な
お,原告は,本件訪問調査記録に記載された内容の信用性を争っている。)。
[乙7,弁論の全趣旨]
ウ(ア)処分行政庁は,原告から帳簿書類等の提示がなく,本件各係争年分
に係る原告の所得金額等を実額により把握することができなかったため,
やむを得ず,原告の平成16年分の事業所得に係る青色申告特別控除前
の所得金額の総収入金額に占める割合(以下「原告所得率」という。)
を本人比率として算出して,本件税務調査により把握した本件各係争年
分における原告の事業所得の総収入金額に原告所得率を乗じて原告の所
得金額を推計し,平成22年6月30日付けで,本件各処分を行った。
(イ)なお,処分行政庁は,平成22年1月29日付けで,消費税等につ
いて,本件税務調査の結果に基づき,本件各課税期間に係る消費税等の
決定処分及び無申告加算税賦課決定処分を行った。
エ(ア)原告は,平成22年8月27日,処分行政庁に対し,本件各処分に
対し,異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)をしたが,処分
行政庁は,同年11月12日付けで,本件異議申立てを棄却する旨の異
議決定をした。なお,原告は,同年10月13日及び同月29日,加古
川税務署内において,本件調査担当職員による質問調査に応じ(以下,
これらを「本件各質問調査」という。),本件各質問調査に係る各質問
てん末書(以下,同月13日の質問調査に係る質問てん末書を「本件原
告てん末書」という。)に署名押印した。[乙24,25,弁論の全趣
旨]
(イ)原告は,平成22年12月9日,国税不服審判所長に対し,本件各
処分について審査請求をしたが,国税不服審判所長は,平成23年11
月25日付けで,当該審査請求を棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」
という。)をした。なお,本件各処分の課税の経緯については別表1「課
税の経緯(所得税)」記載のとおりである。
オ原告は,平成24年3月16日,本件訴訟を提起した。
3被告が本件訴訟において主張する本件各処分の根拠及び適法性
被告が本件訴訟において主張する本件各処分の根拠及び適法性は,別紙3「本
件各処分の根拠及び適法性(被告の主張)」記載のとおりである。
4争点
(1)実特法省令9条の2第1項又は7項の定める届出書を提出しなければ,日
米租税条約7条1項による税の軽減又は免除を受けることができないのか否
か。[争点1]
(2)本件アパート等は,日米租税条約5条の規定する恒久的施設に該当するか
否か(本件アパート等は,同条4項(a)号により恒久的施設から除外すべきも
のに該当するか否か。)。[争点2]
(3)本件アパート等が恒久的施設に該当する場合において,日米租税条約7条
に基づき課税できる所得の範囲はどこまでか。[争点3]
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(実特法省令9条の2第1項又は7項の定める届出書を提出しなけれ
ば,日米租税条約7条1項による税の軽減又は免除を受けることができないの
か否か。)について
(1)被告の主張
ア相手国の居住者である個人が,所得税法165条の規定の適用を受ける
国内源泉所得に対する所得税につき当該相手国居住者に係る相手国との間
の租税条約の特定規定に基づき軽減又は免除を受けようとする場合には,
その適用を受けようとする年分の所得税の確定申告書に,実特法省令9条
の2第1項1号から9号までに掲げる事項を記載した届出書を添付するか,
当該年分の所得税の確定申告書を提出していない場合は,上記事項に準ず
る事項を記載した届出書を,その年の翌年3月15日までに,所轄税務署
長に提出しなければならない(同条1項及び7項)。
しかしながら,原告は,本件アパート等を管轄する処分行政庁に対し,
実特法省令9条の2第1項又は7項の定める届出書(以下「実特法省令に
基づく届出書」という。)を一切提出していないから,租税条約の特定規
定による軽減又は免除を受けられないこととなる。そして,日米租税条約
における特定規定とは,日米租税条約の規定のうち特典条項(日米租税条
約22条1項,2項及び4項)の適用がある規定をいうところ(本件総務
大臣等告示),日米租税条約7条1項は,特典条項(日米租税条約22条
1項)の適用がある規定といえるから,特定規定に当たる。
したがって,原告は,実特法省令に基づく届出書を一切提出していない
以上,特定規定である日米租税条約7条1項による軽減又は免除を受けら
れないこととなり,本件販売事業から生じた所得については,本邦の国内
法である所得税法によって課税されることとなる。
イ本件アパート等は,後述するとおり(後記2(1)ウ参照),商品を保管・
管理するほか,商品に日本語取説書を同梱し,P7を介して顧客に商品を
引き渡し,顧客から不良品の返品を受けて代替品を引き渡すなど,本件販
売事業における本質的かつ重要な活動を行う場所であるから,所得税法施
行令289条2項に規定する恒久的施設の除外規定に該当せず,所得税法
164条1項1号及び所得税法施行令289条1項3号に規定する恒久的
施設に該当する。
したがって,原告の本件販売事業に係る全ての所得は,国内源泉所得に
該当することとなり,非居住者に対する所得税の総合課税の規定(所得税
法165条)に基づき,日本国内で課税されることとなる。
ウ(ア)この点,原告は,実特法省令により課税に関して義務を課すること
自体が,租税法律主義(憲法84条)に違反して無効であるなどと主張
している。しかしながら,実特法は,その制定時から,租税条約による
特典の適用を受けるに当たっての届出の書式や方法等については,法律
ではなく省令によって定めることを予定していたのであり,実特法12
条は,その規定どおり,租税条約の実施を前提として,租税条約による
特典の適用を受けるに当たっての手続的な事項の定めを省令に委任する
ことを定めた委任規定である。また,日米租税条約による特典の適用を
受けるための実体的要件そのものは日米租税条約によって明確に規定さ
れているのであり,実特法省令9条の2は,実特法12条の委任を受け
て,日米租税条約による特典の適用を受けるための実体的要件の存否,
内容を確認するための手続的な事項を規定したものにすぎない。よって,
実特法省令9条の2の規定に従うことは,租税法律主義に反するもので
はなく,原告の上記主張には理由がない。
(イ)原告は,実特法省令に基づく届出書の提出は,税務当局が納税義務
者の判断が正しいかどうか(租税条約の特典条項の適用により税が軽減
又は免除されるかどうか)の調査を効率的に実施できるようにしたにと
どまり,当該納税義務者がその義務を履行するか否かが,租税条約の適
用の可否には影響しない旨主張している。
しかしながら,日米租税条約22条の特典条項は,平成16年に発効
された日米租税条約において新たに設けられたものであるところ,その
趣旨については,日米租税条約が投資所得に対する源泉地国免税の範囲
を拡大したことから,第三国居住者が形式的に締約国の居住者となるこ
とにより条約特典を濫用することを防止するため,日米租税条約に基づ
く特典を享受しようとする締約国の居住者に対し,その者が真に特典を
受けるべき立場にあることに関する所定の条件を具備するように求めた
ものである(乙38〔364頁〕)。また,日米租税条約が新たに特典
条項を設けたことを踏まえ,実特法12条の委任を受けた実特法省令9
条の2において,届出等の手続に関する規定が設けられたものであると
ころ,同条1項の趣旨については,特典条項のある租税条約の特典の適
用を受ける場合に当たり,その特典条項に定められた条約を満たすこと
を明らかにするための届出書を提出することとしたものである(乙38
〔282,283頁〕)。
日米租税条約22条の上記趣旨に鑑みれば,同条は,特典条項の適用
がある租税条約の規定に基づく税の軽減又は免除の特典が,条件なく誰
でも当然に適用できることとしたものではなく,同条の適用に当たって
は,居住者適格の確認が当然に予定されているものということができ,
実特法省令9条の2の上記趣旨等からすれば,実特法省令に基づく届出
書を提出することによって初めて,適格者基準等を満たしていることを
明らかにすることができるのであり,その提出がなければ,特典条項に
定める条件を満たす者であるかどうかを判断することはできない。
したがって,原告が特典条項の適用がある租税条約の規定に基づき税
の軽減又は免除を受けるためには,実特法省令に基づく届出書を提出す
る必要があるというべきであり,その提出いかんによって租税条約の適
用の可否に影響しないとする原告の上記主張には理由がない。
(ウ)原告は,日米租税条約上認められた特典を国内法規により排除する
ことは,憲法98条2項に違反して無効である旨主張している。しかし
ながら,同項の解釈上,租税条約が国内法規に優先して適用されるとし
ても,国内法の立法による手当ないし補充が必要なものについては,そ
の部分は国内法に従うこととなるのであり,実特法は,租税条約の規定
のうち,国内法による手当ないし補充が必要なものを具体的に規定した
ものである。日米租税条約22条が設けられた趣旨は,条約濫用の防止
にあり,日米租税条約に基づく特典を享受しようとする締約国の居住者
に対し,その者が真に特典を受けるべき立場にあることに関する所定の
条件を具備するよう求めたものである。そして,我が国では,本来租税
条約の定める税の軽減又は免除の特典を享受する資格のない者が,不当
にもこれを享受することのないようにするため,国内法として租税条約
の適用に関する実特法及びその委任を受けた実特法省令を定めて,税の
軽減又は免除を受けるには一定の手続を要するとしたのであり,正に同
条の趣旨(条約濫用の防止)を達成するために設けられたものである。
したがって,実特法12条及びその委任に基づく実特法省令9条の2は,
日米租税条約22条を補充するものであり,同条による特典の適用を制
約するものではないから,原告の上記主張には理由がない。
⑵原告の主張
ア(ア)国際条約である租税条約は,国内法規に優先して適用される(憲法
98条2項)。条約の中には,プログラム規定として,国内の立法措置
を待って初めて適用されるものもあるが,我が国が締結している租税条
約は,条文の規定が不明確な場合又は条文の規定上国内の立法措置を想
定していることが明らかな場合を除き,一般に,国内の立法措置を待た
ずに直接適用されることとなる。そして,租税条約上の軽減又は免除の
規定は,明確かつ完全であり,国内法規による措置を待たずして,かつ,
国内法規に優先して適用されることとなるから,国内法規によって,日
米租税条約による特典を排除して課税を行うことは許されない。
(イ)この点,被告は,条約濫用の防止という日米租税条約22条の趣旨
に照らせば,実特法省令9条の2は日米租税条約22条による特典の適
用を制約するものではない旨主張している。しかしながら,同条は,条
約の特典を享受しようとする締約国の居住者に対し,日米租税条約の条
文に規定された一定の実体的な条件を満足することを求めることによっ
て,その者が真に特典を受けるべき立場にあることを求める規定であり,
それに付け加えて,何らかの手続要件を求めるものではない。また,実
特法省令に基づく届出書の提出がなくとも,税務当局は税務調査によっ
て同条の定める条件を満たすか否かを判断することは十分に可能であり,
実特法省令に基づく届出書の提出が租税条約の適用の要件ではないと解
することによって,同条の趣旨が損なわれることもない。
イ(ア)実特法省令に基づく届出書の提出を規定しているのは,法律よりも
下位の規定である実特法省令であるところ,課税に関する規定を省令に
よって定めるためには,法律上の根拠がなければならず(憲法84条),
課税要件に関する定めを省令に委任する場合においても,個別・具体的
な委任に限って許容されるものである(課税要件法定主義)。しかしな
がら,実特法省令の上位規定である実特法には,租税条約の適用を受け
るための条件として届出書を提出する義務を省令によって定めることを,
具体的,個別的に委任した規定は含まれていない。したがって,実特法
省令によって,租税条約による特典を受けるための要件を設定するなど,
課税に関する義務を課することは,それ自体が憲法84条(租税法律主
義)に違反して無効であると解すべきである。
(イ)この点,実特法省令9条の2第1項及び第7項は,相手国居住者等
に対し,実特法省令に基づく届出書を添付し又は提出しなければならな
いとしているが,実特法省令や,その上位規定である実特法には,実特
法省令に基づく届出書を期限内に提出しなかった場合において,租税条
約の規定に基づく税の軽減又は免除を受けることができないとは規定し
ておらず,実特法省令に基づく届出書を提出しなければ,租税条約に基
づく税の軽減又は免除を受けることができない旨の被告の主張は,租税
法律主義(憲法84条)に加えて,実特法省令の文理解釈にも反する。
なお,被告は,一方において,実特法省令9条の2が手続的な事項を規
定したものにすぎず,課税に関する義務を課するものではないと主張し
ているが,他方において,実特法省令に基づく届出書を提出せずに日米
租税条約による特典の適用を受けることはできないと主張しており,こ
れらの主張は明らかに矛盾している。
(ウ)実特法省令9条の2第1項及び第7項については,条約優先主義(憲
法98条2項)や租税法律主義(憲法84条)の要請と整合的に解する
ならば,納税義務者が租税条約の特典条項の適用により国内源泉所得に
対する所得税が軽減又は免除されると判断した場合には,実特法省令に
基づく届出書を提出させることによって,税務当局が当該納税義務者の
判断が正しいかどうか(租税条約の特典条項の適用により,所得税が軽
減又は免除されるのかどうか)の調査を効率的に実施できるようにした
ものであり,当該納税義務者が実特法省令に基づく届出書の提出義務を
履行するか否かは,租税条約の適用の可否や税の軽減又は免除の結果に
は影響しないと解すべきである。
2争点2(本件アパート等は,日米租税条約5条の規定する恒久的施設に該当
するか否か。)について
(1)被告の主張
ア日米租税条約5条1項の規定する恒久的施設が存在するというためには,
①「事業を行う場所」があること,②事業を行う場所が「一定」である
こと,③事業が一定の場所を「通じて」なされることの要件を充足する必
要がある。原告は,本件出国後も,本件販売事業における商品の保管や発
送を行う拠点として,本件アパート等を利用していたから,本件アパート
等は,いずれも上記①ないし③を満たし,同項に規定する恒久的施設に該
当する。なお,本件出国から本件倉庫が賃借されるまでの間は,本件アパ
ートが恒久的施設に該当し,その後は,本件アパート等が一体として恒久
的施設に該当する。
イ(ア)日米租税条約5条4項各号は,同条1項に規定する恒久的施設の一
般的定義に対する例外として,その活動の機能の側面から恒久的施設と
されない場合を規定しているところ,同項(a)号ないし(d)号は,それぞ
れ「準備的又は補助的な性格の活動」を例示したものであり,事業を行
う一定の場所における活動が上記「準備的又は補助的な性格の活動」で
あるか否かを判断するに当たっては,事業を行う一定の場所での活動が,
本来,企業の全体としての活動の本質的かつ重要な部分を形成するか否
かということを規準にすべきである。また,同項(a)号ないし(d)号は,
それぞれに規定された活動のみを行っている場合を指し,これ以外の活
動については,同項(e)号により,また,同項(a)号ないし(e)号に掲げる
活動を組み合わせた活動については,同項(f)号により,いずれも準備的
又は補助的な性格を維持しているか否かによって,恒久的施設に該当す
るか否かを判断することとなる。
(イ)aこの点,原告は,日米租税条約5条4項(a)号ないし(d)号に該当
するためには,当該活動が準備的又は補助的な性格の活動であること
を要しない旨主張している。しかしながら,日米租税条約5条1項,
2項及び4項は,OECDモデル租税条約5条1項,2項及び4項と
同様の規定振りとなっており,OECD理事会勧告により,加盟国は,
二国間条約の規定の解釈適用において,OECDモデル租税条約のコ
メンタリー(以下「OECDコメンタリー」といい,その年度を特定
する場合には「OECDコメンタリー(2003年)」などと表記す
る。)に従うべきものとされているところ,OECDコメンタリーは,
同項全体が準備的又は補助的な性格の活動について規定したものであ
ることを明確に示しており,日米租税条約の逐条解説にも同様の規定
がある。さらに,日米租税条約5条4項各号の規定振りなどに照らせ
ば,同項(a)号ないし(d)号は,準備的又は補助的な性格の活動を例示
したものであると解すべきである。
b原告は,国連モデル租税条約とOECDモデル租税条約を比較して,
OECDモデル租税条約に準拠した日米租税条約5条4項(a)号が,「引
渡し」のための施設を恒久的施設にしないとの政策的判断をしたなど
と主張しているが,前述のとおり(上記a),OECDモデル租税条
約5条4項(a)号は,OECDコメンタリーに従って解釈されるのであ
り,国連モデル租税条約の規定内容と比較することは無意味である。
c原告は,OECDの検討チームが,2012年(平成24年)10
月19日に公表した報告書(甲24。以下「2012年報告書」とい
う。)において,OECDモデル租税条約5条4項(a)号ないし(d)号
の適用に関し,当該場所で行われている活動が準備的又は補助的な性
格の活動に限られる必要はないとの見解を明らかにしており,日米租
税条約5条4項(a)号についても,同様に解釈すべきである旨主張して
いる。しかしながら,OECDは,現時点の条文解釈について検討を
行っているにすぎず,その一時点における検討状況のみを取り出して,
本件各係争年における適用条文の解釈指針とすることはできず,条文
改正や新たな見解によって,OECDモデル租税条約及び日米租税条
約の従前の解釈やそれが通用していた当時の適用関係が変更されるこ
とにはならない。
ウ本件アパート等における活動は,以下述べるとおり,商品を保管・管理
するほか,商品に日本語取説書を同梱して,P7を介して顧客に商品を引
き渡し,顧客から不良品の返品を受けて顧客に代替品を引き渡すことなど
であり,日米租税条約5条4項(a)号の活動のみに限定されるものではない
上,これらの一連の活動は,本件販売事業の本質的かつ重要な部分を形成
する一連の事業活動であり,同項(e)号及び(f)号の準備的又は補助的な性
格の活動を超えたものである。したがって,本件アパート等は,同項各号
のいずれにも該当せず,同条の規定する恒久的施設に該当する。
(ア)a本件販売事業は,インターネット等を使った方法により売買契約
の申込みを受けて行う商品の販売,すなわち通信販売である(特定商
取引法2条2項参照)ところ,商品の引渡しのための発送等の活動は,
通信販売の本質的かつ重要な部分を形成している。また,通信販売に
おいては,対面取引と比べて商品の返品の可能性が高く,返品に関す
る手続等も重要な部分を形成している。
b原告は,インターネット又はファックスを通して顧客から注文を受
けると,在庫確認の上,本件アパート等に設置されたパソコンに注文
内容のデータを送付し,本件従業員に,本件アパート等において,同
データを商品管理システム(マクロ機能を読み込んだ○ファイル。以
下「本件受注ソフト」という。)に取り込ませて自動的に納品書を作
成させ,商品を日本語取説書と共に梱包させ,P7を介して宅配の方
法で顧客に引き渡していたのであり,本件アパート等においては,通
信販売の本質的かつ重要な部分を形成する発送等の活動が行われてい
た。さらに,原告は,顧客から返品を受ける際には,原告ホームペー
ジ等に記載された本件アパートの住所に宛てて商品を送らせ,転送届
により本件アパートから転送された商品を本件倉庫において受け取っ
ていたのであり,本件アパート等は,通信販売の重要な部分を形成す
る返品等に関する手続において,顧客に返品先として認識される場所
(本件アパート)及び顧客からの返品を受ける場所(本件倉庫)とし
て,それぞれ利用されていた。
cこの点,原告は,本件倉庫を賃借した平成18年12月以降,本件
アパートが無人であり,本件アパートと本件倉庫における一連の活動
を一体とみることはできない旨主張している。しかしながら,本件ア
パートは,同月以降も,原告ホームページ等において,本件企業の住
所として表示されるなどしていたのであり,本件アパート宛てに返品
された商品が本件倉庫に転送されていた。また,P3は,本邦に事業
所がなければ出店することができず,後述する事情(後記(イ)ないし(エ))
を併せ考えれば,本件アパート等は,原告ホームページ等上で本邦内
の事業所として周知され,現実に本邦内の事業所としての機能・役割
を果たし,有機的に一体的に機能していたものというべきである。
(イ)原告は,原告ホームページにおいて,商品を国内最安値の低価格で
販売することを本件販売事業の特徴として宣伝しているところ,このよ
うに販売価格を抑えることができるのは,原告があらかじめある程度の
数量の商品をまとめて本邦に輸入することで運送料等を節減しているた
めである。また,原告は,原告ホームページ等において,商品の注文か
ら引渡しまでが短期間であることを商品販売の条件として表示している
ところ,このように短期間で商品の引渡しができるのは,原告があらか
じめ輸入した在庫商品を本件アパート等に確保しているためである。以
上によれば,本件アパート等に商品を確保しておき,本件アパート等か
ら商品を発送するという活動は,低価格の代金設定や短期間の引渡条件
の実現にとって不可欠であって,本件販売事業の本質的かつ重要な部分
を形成しているということができる。
(ウ)a本件従業員は,本件アパート等において,商品の出入りを確認し,
在庫数等の情報を本件受注ソフトに入力して,米国にいる原告に同情
報を提供していたと認められる(乙7,24)。原告は,上記情報に
より,顧客から注文を受けた商品を即座に発送できるか(売買契約を
成立させるか)を判断する指標を得ていたのであり,このような在庫
管理は,単に在庫をその場に保管することとは一線を画し,準備的又
は補助的な性格を超えるものである。
b原告は,売上げの増加を図るために日本語取説書を無料で添付する
こととし,その旨を原告ホームページ等で広く宣伝するなどしている
ところ,本件従業員が本件アパート等において日本語取説書を商品と
組み合わせて引き渡すという行為は商品価値を高める重要な事業活動
であって,上記活動は,準備的又は補助的な性格を超えるものである。
c本件従業員は,本件アパート等において,顧客からの返品を受け取
り,代替商品を発送していたところ,これらは,本件販売事業におけ
る事後的な補完措置(アフター・サービス)としての機能を有する活
動であって,準備的又は補助的な性格を超えるものである。
d原告は,原告ホームページ等に掲載する商品等の写真を,米国の自
宅のみならず,本件倉庫においても本件従業員に撮影させていたとこ
ろ(乙7),顧客に提供する商品情報として商品等の写真を撮影する
という活動は,準備的又は補助的な性格を超えるものである。
(エ)本件受注ソフトを作成したP10に対する調査(以下「本件P10
調査」といい,本件P10調査に係る質問てん末書〔乙28〕を「本件
P10てん末書」という。)によれば,本件受注ソフトは,原告が本件
倉庫を賃借する前はもとより,本件倉庫を賃借した平成18年12月以
降も,本件アパートのデスクトップパソコンに入れられていたことが認
められ,本件受注ソフトが本件販売事業における情報を集中して処理し
ていることに鑑みれば,上記パソコンはホストコンピュータであったと
いうことができる。さらに,本件販売事業においては,顧客に対して確
認メールを送信した時点で契約が成立するところ,上記確認メールの送
信に先立ち在庫確認をするためには上記システムが必要不可欠であって,
本件アパートに設置された上記パソコン(ホストコンピュータ)は,販
売契約の締結において,不可欠かつ中心となる役割・機能を担っていた
ものと認められる。
(2)原告の主張
ア被告は,ある施設が日米租税条約5条4項(a)号ないし(d)号に該当する
ためには,当該施設における活動が「準備的又は補助的な性格の活動」で
あることを要する旨主張している。しかしながら,以下述べるとおり,同
項各号が適用されるためには,ある施設における活動が同項各号に規定さ
れた活動であれば足り,それに加えて,当該活動が「準備的又は補助的な
性格の活動」であることを要しない。
(ア)被告の主張は,日米租税条約5条4項(a)号ないし(d)号に記載され
ていない要件を解釈で読み込むものであり,文理解釈に反する。また,
ある施設が「準備的又は補助的な性格の活動」に該当するならば,当該
施設は同項(e)号によって恒久的施設から除外されるのであるから,被告
の主張によれば,同項(a)号ないし(d)号には全く存在意義がないことと
なってしまい,極めて不合理である。
(イ)国際的に広く使用されている租税条約のモデルには,OECDモデ
ル租税条約のほか,国連モデル租税条約が存在しているところ,国連モ
デル租税条約が物品又は商品の「引渡し」を行う施設(倉庫)を恒久的
施設から除外していないのに対し,OECDモデル租税条約は,上記施
設(倉庫)を恒久的施設から除外している。日米租税条約5条4項は,
OECDモデル租税条約5条4項と同文であるが,日米租税条約5条4
項(a)号及び(b)号に物品又は商品の「引渡し」が含まれているのは,「引
渡し」が準備的又は補助的な性格の活動であるという理論的な根拠によ
るものではなく,「引渡し」を行う施設(倉庫)があることだけを理由
としては,源泉地国に課税権を帰属させないという政策的判断をしたこ
とによるものと解すべきである。また,被告の主張によれば,国連モデ
ル租税条約5条4項(a)号とOECDモデル租税条約5条4項(a)号は,
全く同じ結論を導くこととなってしまい,国連モデル租税条約が発展途
上国の課税権を広く認めるものとされ,租税条約の締約国が国連モデル
租税条約とOECDモデル租税条約とを使い分けている事実を説明する
ことができない。
(ウ)被告は,OECDコメンタリーの記載内容等を根拠として,OEC
Dモデル租税条約5条4項(a)号ないし(d)号が「準備的又は補助的な性
格の活動」の例示である旨主張している。しかしながら,OECDコメ
ンタリーは,準備的又は補助的な性格を有する活動のみを行う場所は恒
久的施設に当たらないということを述べているにすぎず,恒久的施設か
ら除外される場所が,準備的又は補助的な性格を有する活動のみを行う
場所に限られるとは述べていないのであって,上記主張は,OECDコ
メンタリーを誤読するものである。
(エ)OECDの検討チームは,OECDモデル租税条約5条について,
条文やコメンタリーの改訂作業を進め,OECDの見解を記載した報告
書の原案を公表するなどしており,2012年報告書が現時点で最新の
ものである。2012年報告書は,同条4項各号に規定されている活動
は準備的又は補助的な性格の活動でなければならないのか否かという問
題点を掲げた上で,同項(a)号ないし(d)号の適用に関し,当該場所で行
われている活動が「準備的又は補助的な性格の活動」に限られる必要は
ないという統一見解を明らかにしており,日米租税条約5条4項(a)号な
いし(d)号の解釈においても,上記見解を採用するべきである。なお,2
012年報告書は,最終版ではないが,その趣旨は,現在国際的に通用
している理解をコメンタリーに明示するものであって,原告の主張を裏
付けるものである。
イ(ア)原告は,原告が本邦を出国してから本件倉庫を賃借するまでの間,
本件アパートを商品の倉庫として使用し,本件倉庫を賃借した後は,本
件倉庫を商品の倉庫として使用していた。したがって,本件アパート等
における活動は,日米租税条約5条4項(a)号の定める「企業に属する物
品又は商品の保管,展示又は引渡しのためにのみ施設を使用すること」
に当たり,本件アパート等は「恒久的施設」に該当しない。
(イ)本件アパートは,本件倉庫を賃借した平成18年12月以降の期間
において,基本的に無人であり,原告が時折帰国した際に宿泊するため
に使用していたにすぎず,後述するとおり(後記(ウ)b),本件アパー
トに本件受注ソフトの入ったデスクトップパソコンが置かれていたとい
う事実もない。したがって,本件アパートは,上記期間において,本件
販売事業を行う「一定の場所」(日米租税条約5条1項)として使用さ
れておらず,「恒久的施設」に該当しない。
この点,被告は,本件アパート等が一体として一連の事業活動を行う
場所であったなどと主張している。しかしながら,ある場所が恒久的施
設に該当するか否かは,当該場所において行われる活動に照らして判断
するべきであり,当該場所で行われたのではない活動を理由として,当
該場所が恒久的施設に該当すると判断することはできないのであって,
上記主張は,日米租税条約5条4項の趣旨を没却するものである。なお,
被告は,原告ホームページ等に本件アパートの住所等が記載されている
ことを指摘しているが,単に原告ホームページ等に住所等が記載された
こと自体は,本件アパート等における活動ではなく,日米租税条約5条
4項(a)号の適用に際して考慮すべき要素には当たらない。
(ウ)a被告は,本件訪問調査記録に基づき,本件販売事業における本件
アパート等の使用態様等について主張している。しかしながら,本件
訪問調査記録は,本件調査担当職員と原告との間の会話内容を記録し
たものではなく,本件訪問調査の際に見聞した内容と想像に基づき杜
撰に作成された虚偽の証拠であり,その内容が不正確であることは,
本件原告てん末書の内容と食い違っていることからも明らかである。
例えば,本件訪問調査記録には,原告が米国から本件従業員に対して
メールで発送指示を行い,本件従業員がメールデータを発送に関する
伝票に出力させる(乙7・問13),本件従業員が原告からのメール
を確認し,本件倉庫のパソコンを操作して原告から送信されたデータ
を本件受注ソフトに取り込み,納品書等を出力する(乙7・問14)
などと記載されているが,原告が本件従業員にメールで発送指示をし
たり,本件従業員が本件アパート等のパソコンに入力したりすること
はなく,これらの記載内容は事実と異なる。
b被告は,本件P10てん末書を根拠として,原告が米国に移住した
後も,本件受注ソフトが入っているデスクトップパソコンが,本件ア
パートにおいて,ホストコンピュータとしての役割・機能を担ってい
た旨主張している。しかしながら,本件受注ソフトを入れたデスクト
ップパソコンは,本件出国の際にアメリカに移送され,米国にある原
告の事務所において,本件販売事業に使用されていたのであり,被告
の上記主張は事実に反する。本件P10てん末書は,P10に対して
書類の作成目的を知らせず(P10は自身に対する税務調査と思い込
んでいた。),読み聞かせなどもせずに杜撰に作成されたものであっ
て信用できない。
なお,P10は,本件P10調査の際,本件P10てん末書の写し
を交付されず,内容を精査して訂正することもできなかったが,陳述
書(甲6。以下「本件P10陳述書」という。)において,本件P1
0てん末書における主な誤りを指摘して説明している。
ウ(ア)原告は,本件出国をした後,米国において,①商品及び商品仕入れ
先の開拓,②原告ホームページ等の作成,③日本語取説書の作成,④商
品の仕入れ(発注)及び決済,⑤顧客からの注文メールの受信及び同メ
ールに対する返信による契約締結,⑥上記メールの加工による商品発送
資料の作成,⑦顧客への出荷完了メールの発信及びP7への発送データ
の送信,⑧顧客からの返品申入れに対する対応,⑨顧客からの質問メ
ール(その多くが自動車や自動車部品の専門的知識を要するものである。)
に対する対応,⑩顧客業者からの見積依頼に対する回答,⑪市場調査,
⑫上記⑪に基づく販売価格の設定といった業務を行っており,これらの
業務は,いずれも本件販売事業の運営上極めて重要であり,代替性のな
いものであった。
(イ)本件アパート等で働いていたのは,特段の研修や訓練を受けていな
いパートタイマー(本件従業員)である。本件従業員が本件アパート等
で行っていた活動は,①仕入れ商品の受入れ(米国から国際宅急便等で
配送された商品を開梱して原告が作成した商品リストと照合し,棚に並
べるなどの作業),②商品の発送(原告が用意した商品発送資料に従い,
棚から商品をとって梱包し,P7が荷物を受け取りに来た際に引き渡す
作業),③返品された商品を受け入れ,米国へ発送するといった作業で
あり,その内容は,専門知識や経験を要しない単純なものに限定されて
いた。
(ウ)以上のとおり,本件販売事業における中核的な業務は,原告が米国
で行っており,本件アパート等において本件従業員が行っていたのは,
商品の受取り(返品を含む。),保管及び発送という機械的な単純作業
だけである。したがって,仮に,日米租税条約5条4項(a)号を適用する
ためには,本件アパート等における活動が「準備的又は補助的な性格の
活動」であることを要するとの解釈(被告の主張)を採用したとしても,
本件アパート等における活動は重要性に欠けるのであって,日米租税条
約5条の規定する恒久的施設には該当しない。
エ(ア)被告は,本件従業員が商品に日本語取説書を同梱する活動が準備的
又は補助的な性格を超えるものである旨主張している。しかしながら,
日本語取説書は,原告が米国で作成し,日本の印刷業者に外注して本件
アパート等に納入させたものであり,日本語取説書も別個独立の商品で
ある。本件従業員は,商品(自動車用品)を発送用の段ボールに梱包す
る際,原告の発送指示書に従い,日本語取説書も当該段ボールに入れて
いるのであって,日本語取説書を同梱して発送すること自体が日米租税
条約5条4項(a)号に該当する。そして,複数の商品(自動車用品及び日
本語取説書)を同梱して同時に発送することは,同号に該当する行為を
組み合わせたものにすぎず,同号の適用によって恒久的施設から除外さ
れ,同項⒡号は問題にならないと解すべきである。
(イ)被告は,顧客から返品を受け入れ,代替品を発送することが,準備
的又は補助的な性格を超えるものである旨主張している。しかしながら,
顧客から返品される商品は,既に顧客の所有権を離れ,原告の所有する
「企業に属する物品」となっており,本件従業員が当該商品を受け取っ
て保管し,米国に運送するため原告の手配する宅配業者に引き渡すこと
は,いずれも日米租税条約5条4項(a)号の「保管」又は「引渡し」に該
当するのであり,同号の範囲を超える活動には当たらない。なお,原告
は,本件アパート等において,OECDコメンタリーが「アフターセー
ル」と呼ぶような活動(保守や修理作業と補修部品の提供を合わせて行
うこと)は全く行っていない。
(ウ)被告は,原告が原告ホームページ等において本件アパートの住所等
を記載したことにより,本件アパート等をアフターサービス(顧客から
の返品の受取り及び代替商品の発送)を行う場所として利用し,本件ア
パート等が一体として本邦内の事業所としての役割・機能を果たしてい
たなどと主張する。
しかしながら,前述のとおり(上記(イ)),本件従業員が本件アパー
ト等で行っていた返品の受取りや代替品の発送は,アフターサービスで
はなく,単なる「保管」及び「引渡し」にすぎず,本件アパート等をア
フターサービスを行う場所として利用していたという事実はない。また,
原告は,原告ホームページやメールにおいて,本件販売事業に関する連
絡先として本件アパートの住所等を記載していたが,これらの記載は,
米国にある原告の事務所において行われたものであり,本件アパート等
における活動には当たらない。OECDモデル租税条約5条4項は,あ
る場所で事業活動が行われていることを前提とし,事業活動が行われて
いない場所が何らかの抽象的な「機能」のゆえに恒久的施設になるわけ
ではない(なお,OECDコメンタリーには,ウェブサイト自体が恒久
的施設に該当しない旨の結論が明記されている。)。さらに,本件アパ
ートは,前述のとおり(前記イ(イ)),本件倉庫を賃借して以降,無人
であり,本件アパート宛ての郵便物は原告が帰国するまで放置され(た
だし,本件アパート宛てに配送される荷物は,原告が宅配業者に対し転
送の手配を行った結果,本件倉庫に転送されていた。),本件販売事業
に関する顧客からの連絡は,全て電子メール及びファックスによって行
われ,いずれも原告が米国の事務所において処理していたのであるから,
本件アパートの住所等が原告ホームページ等に記載されていたことは,
顧客が実際に原告に連絡する方法とは全く関係がない。なお,本件アパ
ートの住所等が原告ホームページ等に記載されていることに何らかの宣
伝広告的な機能があったとしても,それは本件アパートの機能ではなく,
原告ホームページ等の記載の機能である。
3争点3(本件アパート等が恒久的施設に該当する場合において,日米租税条
約7条に基づき課税できる所得の範囲はどこまでか。)について
(1)被告の主張
ア(ア)非居住者は,国内源泉所得を有する場合において,所得税を納める
義務があり(所得税法5条2項1号),課税の前提として,国内源泉所
得の範囲を決定する必要があるところ,事業所得に関する源泉所得地に
ついては,日米租税条約に規定がないため,同法の規定により決定する
こととなる。そして,同法及び所得税法施行令の各規定によれば,本件
においては,原告の商品(たな卸資産)の購入者(譲受人)に対する引
渡しの時の直前において,その引渡しに係るたな卸資産が国内(本件ア
パート等)にあったといえるから,所得税法施行令279条4項により,
国内において譲渡があったものと認められ,同条1項1号により,その
国内における譲渡により生ずる全ての所得が所得税法161条1号の国
内源泉所得に該当することとなる
(イ)国内源泉所得のうちいかなる範囲が課税対象となるかについて,所
得税法164条1項1号は,非居住者が国内に支店等の恒久的施設を有
する場合には,全ての国内源泉所得を対象として総合課税を行うことを
規定し,当該所得が当該恒久的施設に帰属するか否かを問わず課税を行
うとの考え方(総合主義)を採用しているが,日米租税条約7条1項第
2文は,恒久的施設を通じて事業を行う相手国の企業につき,その利得
のうち恒久的施設に帰属する部分に対してのみ課税できるという考え方
(帰属主義)を採用しており,当該恒久的施設に帰属しない国内源泉所
得については同第2文により源泉地国での課税が直接禁止され,当該恒
久的施設に帰属する部分のみが課税対象となる。また,同条2項は,「3
の規定に従うことを条件として,一方の締約国の企業が他方の締約国内
にある恒久的施設を通じて当該他方の締約国内において事業を行う場合
には,当該恒久的施設が,同一又は類似の条件で同一又は類似の活動を
行う別個のかつ分離した企業であって,当該恒久的施設を有する企業と
全く独立の立場で取引を行うものであるとしたならば当該恒久的施設が
取得したと見られる利得が,各締約国において当該恒久的施設に帰せら
れるものとする」と規定している(以下,この所得金額の算定基準を「独
立企業原則」という。)。
イ(ア)原告による販売活動の全ては,日本国内の恒久的施設である本件ア
パート等を通じて行われており,国内源泉所得は全て本件アパート等に
帰属することとなる(日米租税条約7条1項第2文)。そこで,本件ア
パート等及び米国における各活動について,独立企業原則に基づき,国
内源泉所得のうちいかなる範囲が本件アパート等に配分されるか(課税
対象となるか)を検討することとなるが,本件アパート等及び米国にお
ける各活動が所得発生に寄与した役割や機能等に照らし,本件アパート
等が取得したとみられる利得が本件アパート等に配分される所得(課税
金額)になるものと解される。
(イ)原告は,本件税務調査において,本件調査担当職員から再三にわた
り調査への協力及び帳簿書類等の提示を求められたにもかかわらず,帳
簿書類等を提示せず,本件訪問調査における質問に応じたのみであった
(原告は,本件異議申立て後の調査においても,当初は帳簿書類を提出
する用意がある旨申述したが,その後の提示要請には応じず,本件訴訟
における求釈明にも応じていない。)。このため,本件調査担当職員は,
本件各処分までに,原告が米国において取得したとみられる利得が存す
るとの資料を入手することはできなかった(なお,原告は,米国におい
て,本件販売事業につき何ら税務申告を行っていない〔乙30〕。)。
(ウ)被告が本件税務調査によって把握し得た事情に基づき,本件アパー
ト等と米国における各活動の役割や機能等をみるに,原告は,前述のと
おり(前記2(1)ウ),本件アパート等において,本件従業員をして,本
件販売事業の本質的かつ重要な部分を形成する一連の事業活動を行って
いた。これに対し,米国での活動については,原告が顧客との間で販売
契約の締結に関するメールのやり取りを行い,商品の仕入れをしていた
ことがうかがわれるのみである。さらに,前述のとおり(上記(イ)),
本件調査担当職員が再三求めたにもかかわらず,原告は,帳簿書類等を
提示せず,本件アパート等及び米国における具体的な活動内容を自ら明
らかにしなかった。
(エ)以上によれば,本件販売事業に係る所得の全てが日米租税条約7条
1項の規定により本件アパート等に帰属すると認められることはもとよ
り,本件アパート等及び米国における各活動が所得発生に寄与した役割
や機能等に鑑み,米国に配分される所得はなく,国内源泉所得の全てが
本件アパート等に配分されるものというべきである。
ウ日本国内にある恒久的施設に帰属する事業所得の存在及び金額について
は,原則として課税庁側が立証責任を負う。しかしながら,恒久的施設の
関与なく,本国において本店直取引をするなどして得た国内源泉所得の存
在は,必要経費や損金と同様,納税者にとって有利な事柄であり,納税者
がこれを認識し,証拠資料を整えておくことは困難ではなく,その主張・
立証は,通常の場合,納税者の方が課税庁側に比べてはるかに容易である。
したがって,これを納税者が積極的に主張・立証しないということは,
事情によっては,恒久的施設の関与なく得た国内源泉所得の不存在につい
て事実上の推定が働くものというべきである。
本件においても,日米租税条約7条1項は本邦における恒久的施設の関
与なくして得た国内源泉所得について本邦の課税を減免する規定である上,
本件税務調査における協力度合い及び証拠との距離等の諸事情を考慮する
と,本件アパート等に帰属しない所得(原告が米国内にあるとする事務所
に帰属する所得)については,原告が,その存在及び金額を合理的に推認
させるに足りる程度に主張・立証すべきであり,これをなし得ない場合に
は,そのような所得が存在しないものと推定されるというべきである。そ
して,本件アパート等及び米国における各活動の役割や機能等(前記イ(ウ))
に加え,原告が本件アパート等に帰属しない事業所得の存在等を具体的に
主張立証しないことに鑑みれば,そのような事業所得は存在しないものと
推定されるべきである。
エ(ア)この点,原告は,日米租税条約7条2項によれば,恒久的施設に帰
属すべき所得とは,本件アパート等において行われたものと同内容の業
務を請け負った独立の倉庫業者の利益に相当する金額であるなどと主張
している。しかしながら,同項は,恒久的施設に帰属すべき所得配分に
関する具体的な算定方法を明らかにしているわけではなく,本件アパー
ト等及び米国における各活動の役割や機能等(前記イ(ウ))からすれば,
米国に配分される所得はなく,その全てが本件アパート等に配分される
ものというべきであり,上記主張には理由がない。
(イ)原告は,日米租税条約7条2項について,OECDコメンタリー(2
008年)に従った解釈をすべきであるなどと主張している。OECD
コメンタリー(2008年)は,恒久的施設に配分される利得について,
遂行された機能,使用された資産及び引き受けられた危険を基に,関係
企業間における独立企業原則の適用について展開されてきた原則の類推
適用によって算定すること(いわゆる機能的分離企業アプローチ)を説
明しているが,OECDコメンタリーがこのような説明をしたのは,こ
の時が初めてであり,その後,2010年(平成22年)のOECDモ
デル租税条約の改訂において,いわゆるOECD承認アプローチ
(AuthorizedOECDApproach。以下「AOA」という。)として,機能
的分離企業アプローチが採用された。このような経緯に照らせば,原告
の上記主張が,2010年以前のOECDモデル租税条約7条2項や日
米租税条約7条2項の解釈において,機能的分離企業アプローチ又はA
OAに従うべきであるという趣旨であるならば,これを採用することは
できない。
(2)原告の主張
ア(ア)原告が日本国内に恒久的施設を有し,その恒久的施設を通じて事
業を行った場合には,我が国は,もし当該恒久的施設が別個の分離独
立した企業であって,独立の企業として当該恒久的施設と同一又は類
似の活動を行った場合において当該恒久的施設が取得したとみられる
利得に対してのみ課税することができる(日米租税条約7条2項)。
(イ)本件アパート等が恒久的施設に該当すると仮定しても,日米租税
条約7条2項によれば,我が国は,本件販売事業によって得られた所
得全体に課税できるわけではなく,日本にある独立した倉庫業者が,
非居住者である原告から,本件アパート等で行われたような活動(商
品の受入れ,保管,発送等の作業)を請け負った場合に得ることので
きる所得(当該活動について支払われる手数料から人件費・固定費・
その他諸費用を差し引いた僅かな額)についてのみ課税することがで
きると解すべきである。この点,国連モデル租税条約のコメンタリー
(2001年版)においては,倉庫が恒久的施設に該当する場合であ
っても,当該倉庫に帰属するとして,源泉地国で課税することのでき
る所得は極めて少額であることが指摘されている。
なお,本件アパート等で行われていた活動を独立した企業が行ったと
した場合に,その独立企業が得るべき利得の額を検討するに当たっては,
本件販売事業のうち,本件アパート等がどのような機能を有し,どのよ
うな活動をしていたのかなどを考える必要があるものの,前述のとおり
(前記2(2)ウ),米国における原告の活動が本件販売事業にとって必
要不可欠であるのに対し,本件アパート等における本件従業員の活動が
単純作業であることに鑑みても,本件アパート等に帰属するものとして
課税できる所得は極めて限定的であると解すべきである。
(ウ)a日米租税条約7条2項は,OECDモデル租税条約7条2項と
同文であるところ,OECDコメンタリー(2008年)は,同項
について,「本項は,恒久的施設に帰属する利得は,当該恒久的施
設が当該企業の他の部門と取引するのではなく,通常の市場におけ
る条件及び価格で完全に別個の企業と取引する場合に当該恒久的施
設が得たであろう利得である,という見解を具体化している。」と
述べており(甲27),これに従って解釈すべきである(なお,2
008年以前のOECDコメンタリーにも同旨の記述がされている。)。
bこの点,被告は,原告の上記主張について,OECDモデル租税条
約(2010年)が採用した機能的分離企業アプローチが日米租税条
約にも適用されるという趣旨であるならば,これを採用することはで
きないと指摘している。
OECDが2008年7月17日付けで発表した「REPORTONTHE
ATTRIBUTIONOFPROFITSTOPERMANENTESTABLISHMENTS」(以下「P
E報告書」という。)には,OECDモデル租税条約7条1項の解釈
として,機能的分離企業アプローチと関連事業活動アプローチの2つ
が加盟国の間で用いられていたこと,関連事業活動アプローチを採用
した場合には,恒久的施設に帰属する利得は,企業全体の利益を超え
ることができないという上限が設けられることがあること,機能的分
離企業アプローチが妥当であると考えられること等が記載されている
(甲37)。そして,OECDは,OECDコメンタリー(2008
年)において,機能的分離企業アプローチをいわゆるAOAとして採
用し,さらに,2010年のOECDモデル租税条約の改訂により,
同アプローチを採用することを明確にした。
しかしながら,機能的分離企業アプローチと関連事業活動アプロー
チの対立は,OECDモデル租税条約7条1項の「企業の利得」につ
いての解釈の対立であり,同条2項についての解釈の対立ではない。
原告は,これらのアプローチのいずれを採用するかに関係なく,同条
2項(独立企業原則)に従って,所得を配分すべきであり,本件アパ
ート等が商品の受入れ,保管,発送等のみを行う独立した業者である
としたならば取得したとみられる利得のみが本件アパート等に帰属す
る旨主張しているのであって,被告の指摘は,原告の主張を曲解する
ものである。
イ(ア)被告は,本件アパート等における活動の重要度を考慮して,本件
販売事業による所得の全てが本件アパート等に帰属するなどと主張し
ている。しかしながら,日米租税条約7条2項は,本店における活動
と恒久的施設における活動の重要性を比較して,その重要度に応じて
所得を配分するなどという規定ではなく,被告の上記主張は,同項の
規定を全く無視するものである。
なお,独立企業原則を適用した結果として,恒久的施設に全ての利得
が帰属するのは,当該恒久的施設がそれだけで独立した企業として完結
した機能を有しており,非居住者や他の事業所の活動が全く存在しなく
とも,当該恒久的施設だけでも同じ利得を得ることができ,かつ,当該
事業から損失が生じた場合のリスクを負担する能力をも有しているよう
な場合(例えば,海外の小売業者が日本国内に支店を有しており,本店
の支援を受けないで独立して事業を行っているような場合)に限られる
ものと解される。しかしながら,本件は,そのような場合ではなく,前
述のとおり(前記ア(イ)),本件アパート等が有している機能のみでは,
商品の受入れ,保管,発送等の手数料程度の利得しか得ることができな
いというべきである。
(イ)a被告は,本件販売事業から得られた所得を推計しているところ,
これはあくまで,非居住者が国内に恒久的施設を有している場合に
おいて,所得税法164条1項1号に基づいて課税できる所得(原
告の全所得)を推計するものにすぎない。本件において日米租税条
約7条2項に基づき課税できる所得の範囲は,租税条約が適用され
ない場合において,所得税法164条1項1号に基づいて課税する
ことができる所得よりも狭い範囲に限定されるはずであり,前述の
とおり(前記2(2)ウ(イ)),本件アパート等の機能が極めて限定的
であることに鑑みても,その差異は著しいというべきである。した
がって,被告の主張する課税所得については,日米租税条約7条2
項に沿って計算されたものであるということはできない。
bこの点,被告は,本件アパート等に帰属しない所得(米国に帰属す
る所得)については,原告がその存在及び金額を合理的に推認させる
程度に主張・立証すべきであり,これをなし得ない場合には,本件ア
パート等に帰属しない所得は存在しないものと推定されるなどと主張
している。しかしながら,被告が主張立証責任を負っているのは,原
告の恒久的施設(本件アパート等)に帰属する所得の存在及び金額で
あって本件アパート等に帰属しない所得(米国の事務所に帰属する所
得)の有無や金額は,本邦における課税所得に影響を及ぼすものでは
なく,その主張立証は問題とならない。被告は,端的に本件アパート
等に帰属する所得(本件アパート等における活動と同内容の業務を請
け負った倉庫業者の利益に相当する額)の存在と金額を主張立証すべ
きであるにもかかわらず,これをしていないのであり,課税所得につ
いての主張立証を尽くしていないというべきである。
第4当裁判所の判断
1認定事実
前提事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件販売事業の概
要,本件アパート等の使用状況,本件税務調査の経緯等について,以下の(1)
ないし(4)の事実を認めることができ,これらの認定を覆すに足りる事実ないし
証拠はない。
(1)本件販売事業の概要等
ア(ア)原告は,平成14年以降,インターネットを通じ,本件販売事業を
営んでおり,本件販売事業の内容は,概要,①米国で自動車用品(カー
セキュリティ用品及びカーオーディオ用品)を仕入れて本邦に輸入し,
日本国内において保管する,②原告ホームページ等を運営し,インター
ネット(原告ホームページ,P3ウェブページ,P5等)を通じて,上
記自動車用品の注文を受ける(なお,商品代金の決済は,日本国内にあ
る銀行への振込み又は代金引換の方法により行う。),③顧客の注文を
受けて,日本国内の保管先から顧客に対し,P7を介して,注文商品を
配送するというものであった。[前提事実⑵ア・イ,甲2,3,乙1,
2,弁論の全趣旨]
(イ)原告は,平成16年4月15日付けで,加古川市長に対し,同月1
2日に米国籍の女性と婚姻した旨の届出書を提出し,同年10月23日,
本件出国をして,同日以降少なくとも平成20年末までの間,米国に居
住していたが,本件販売事業の内容(上記(ア))は,原告が米国に居住
している間においても同様であった。なお,原告の平成16年6月6日
から平成22年9月11日までの間における本邦への入国及び本邦から
の出国の状況は,別表3「原告の日本への入出国状況」記載のとおりで
あった。[前提事実(1)イ,甲3,弁論の全趣旨]
イ本件企業は,原告ホームページ等を運営して,インターネット上の電子
商店街であるP3やP5に出品するなどの方法により,本件販売事業を行
っていたが,①P2株式会社は,P3について,日本国内に事業所がない
場合には出店することができないこととし(なお,外国に居住する個人が
日本国内に事業所を持つ場合であっても,外国の住所を基に出店すること
はできない。),②P4株式会社は,外国居住者であっても,18歳以上
の日本語を理解し,読み書きができる者であって,利用規約を順守するこ
とを約束した者であれば,P5に出品することができることとしているが,
「日本国外との間で商品発送または代金支払が行われた取引または行われ
ることが予定されていた取引」については,同社の設けるトラブル発生時
の補償制度(以下「P5補償制度」という。)に基づく補償金支払の対象
外としていた。[前提事実⑵ア・イ,乙15ないし17,21]
ウ(ア)本件企業が運営する原告ホームページ等は,全て日本語で作成され
ており,本件企業の所在地,連絡先等について,次の内容が掲載されて
いた(なお,原告が米国に居住している間も,原告ホームページ等の上
記掲載内容に変更はなかった。)。[前提事実(2)イ,ウ(ア),乙1,2,
弁論の全趣旨]
a原告ホームページの「法定表示」欄
「事業者名:P1
発送元:兵庫県高砂市α×-29
連絡先:×(お問い合わせはメールでお願いします)」
bP3ウェブページの「会社概要」欄
「P1
〒×兵庫県高砂市α×-29
TEL:×FAX:×
店舗運営責任者:P11
店舗セキュリティ責任者:P11
店舗連絡先:○」
(イ)a本件企業は,原告ホームページ等において,取扱商品を他の業者
より低い価格で販売している旨を宣伝しており,例えば,原告ホーム
ページには,「当店では定期的に価格チェックを実施し,ほとんどの
商品を国内最安値に設定しています。ご注文予定の商品一式を消費税,
送料込みで当方より安く販売しているところがあればメールにてご連
絡ください。可能な限り検討させていただきます。」などと掲載され
ていた。[乙14,18,弁論の全趣旨]
b本件企業は,原告ホームページ等において,国内から国内各地の顧
客に配送した際に要する通常の期間内に取扱商品を引き渡すことを,
本件販売事業の条件として表示しており,例えば,原告ホームページ
には,「在庫有りと記載された商品は基本的にご注文の翌日発送いた
します。」と掲載され,P3ウェブページには,「代引きの場合は注
文確認後3日以内,銀行振込の場合は入金確認後3日以内に配送しま
す」と掲載されていた。また,本件企業は,原告ホームページ等にお
いて,取扱商品の送料を顧客が負担する旨を表示し,例えば,P3ウ
ェブページには,①個別に送料を設定している商品を除き,送料を「全
国一律800円」とし,②「まとめ買い時の扱い」について「1配送
先につき,送料別の商品を複数ご注文いただいた場合,送料は上記料
金表1個分送料になります。」と掲載されていた。[乙2,14,弁
論の全趣旨]
c本件企業は,原告ホームページ等において,配送した商品に初期不
良があった場合には,本件企業が送料を負担した上で,顧客からの返
品に応じる旨を表示していた。なお,原告は,(本件出国後である)
平成19年3月19日,返品を検討している旨を連絡してきた顧客に
対し,電子メールにより,キャンセルする場合には本件アパート宛て
に着払いで発送してもらいたい旨を申し入れ,本件アパートの住所及
び本件電話番号を連絡していた。[乙2,39,弁論の全趣旨]
d本件企業の取扱商品の中には,自動車への取付けに専門的な知識を
要し,日本語の取扱(取付)説明書がなければ,取付けが困難なもの
も含まれていた。原告は,顧客満足度の向上(販売促進)の観点から,
そのような商品に日本語取説書を添付することとし(ただし,日本語
取説書を添付しない商品もある。),原告ホームページ等において,
商品に日本語取説書を無料で添付することを宣伝していた。本件企業
は,例えば,原告ホームページにおいて,「もともと英文取説しかつ
いていません。ただし商品名の横に日本語取説つきと記載のあるもの
は,当方作成のオリジナル日本語取説をつけており,取り付け,調整,
使用方法などをわかりやすく記載しております。(コピー,転売等は
ご遠慮ください。)」と掲載し,最新情報欄に商品発売の告知と併せ
て,当該商品の日本語取説書が本件企業独自のものであり,日本初で
あることを宣伝するなどしていた。[乙14,19,20,弁論の全
趣旨]
⑵本件販売事業に係る施設(本件アパート等)の状況等
ア(ア)原告は,平成13年11月16日,本件アパートを賃借し,平成1
4年以降,本件販売事業における商品の保管,梱包,発送等の業務を行
う場所として,本件アパートを使用していた。なお,原告は,本件アパ
ートに本件電話番号等を設置した。[前提事実(2)ウ(ア),甲2,3]
(イ)原告は,平成16年頃,P10に対し,本件販売事業の効率化を図
るため,本件受注ソフトの作成を依頼し,同年4月頃,本件アパートに
あるデスクトップパソコンに本件受注ソフトが組み込まれた。なお,原
告は,その後,P10に対し,複数回にわたり,本件受注ソフトの修正,
本件販売事業に使用する別のシステムの作成等を依頼し,P10は,原
告に対し,電子メールにより,修正プログラムや新しいシステムファイ
ルを送信していた。[甲6,7,8の1・2,弁論の全趣旨]
イ(ア)原告は,取扱商品が増加したことなどから,(本件出国後である)
平成18年11月29日,本件倉庫に係る賃貸借契約を締結し,本件企
業は,この頃以降,商品の保管,梱包,発送等の業務を行う場所として,
本件倉庫を使用していた。なお,原告は,上記賃貸借契約に係る入居申
込書において,勤務先の会社名を「P1」と記載し,原告の住所地及び
勤務先(本件企業)の所在地として,本件アパートの住所を記載してい
た。[前提事実(2)ウ(イ),乙12,24,弁論の全趣旨]
(イ)本件倉庫には,ファックス機能付電話機(本件ファックス番号を本
件アパートから本件倉庫に移設したもの),パソコン,プリンター,商
品撮影用のカメラ機器,商品運搬用のフォークリフト,商品の陳列棚,
梱包に用いる材料(緩衝材)等が備え付けられていた。[甲2,3,乙
24,弁論の全趣旨]
ウ(ア)原告は,本件販売事業における商品の保管,梱包,発送等の業務に
従事させるため,勤務時間を13時から15時として,パートタイマー
(本件従業員)を二,三人雇用しており,原告が米国に居住している間
も同様であった。[甲3,乙24,弁論の全趣旨]
(イ)本件従業員は,本件倉庫が賃借された後は,本件倉庫において,商
品の保管,梱包,発送等の業務に従事していた。なお,本件倉庫には,
監視カメラが設置され,原告は,同カメラにより,本件従業員が業務に
従事している状況を確認し得るようになっていた。[甲2,3,乙24,
弁論の全趣旨]
⑶原告が米国に居住している間における本件販売事業の流れ等
ア原告が米国に居住している間における本件販売事業の流れ(顧客が原告
ホームページ等を通じて商品を注文し,本件企業が顧客に対して商品を発
送するまでにおける具体的業務の内容)は,概要,以下のとおりである(本
項(ア)ないし(キ)及び後記イ(ア)・(イ)に「本件倉庫」とあるのは,平成
18年11月以前においては,本件アパートを意味するものとする。)。
[甲2,3,9,乙24,弁論の全趣旨]
(ア)原告ホームページ等において,顧客が注文ボタンをクリックすると,
注文票画面が表示される。顧客(購入者)が,住所,氏名,電話番号,
支払方法,配達希望日等を入力し,「注文する」ボタンをクリックして
注文内容を確定させると,①原告に対しては,注文が入ったことを知ら
せる電子メールが送信され,②顧客に対しては,注文された商品の在庫
を確認した上で確認メールを送信する旨の電子メールが自動送信される。
(イ)原告は,上記電子メールを受信した後,本件受注システムを用いて,
本件倉庫に在庫があることを確認の上,顧客に対して確認メールを送信
するとともに,本件倉庫にあるパソコンに対し,発送指示を行う(上記
指示により,本件倉庫にあるパソコンの印刷ボタンを押せば,注文され
た商品に係る送り状〔配送伝票〕を印刷することができる状態となる。)。
(ウ)本件従業員は,本件倉庫にあるパソコンの印刷ボタンを押して,注
文された商品に係る送り状(配送伝票)を印刷する。なお,この送り状
には,配達依頼主である本件企業の住所等として,本件アパートの住所
及び本件電話番号が記載されている。
(エ)本件従業員は,印刷された送り状(配送伝票)に対応する商品を,
本件倉庫の陳列棚から取り出して,緩衝材で包み,発送用の段ボールで
梱包する。本件従業員は,その際,日本語取説書のある商品については,
日本語取説書を同梱する。
(オ)本件従業員は,送り状(配送伝票)が印刷された全ての商品の梱包
を終えた後,本件倉庫にあるパソコンを用いて,本件倉庫における在庫
状況が記載された紙(以下「在庫一覧書面」という。)を印刷し,在庫
一覧書面の内容と実際の在庫状況を突き合わせることによって,梱包作
業に誤りがなかったかを確認する。
(カ)本件従業員は,P7に対し,発送準備を整えた全ての商品を引き渡
し,その後,本件倉庫の施錠をして,その日の業務を終了する。
(キ)なお,本件販売事業における注文の多くは,原告ホームページ等を
通じてされていたが,顧客がファックス(本件ファックス番号)により
注文をした場合には,当該ファックスの内容が自動的に電子データ化さ
れ,電子メールにより原告に送信される仕組みとなっていた。また,顧
客が本件電話番号に電話を掛けた場合,当該電話は,インターネット回
線を通じて,原告の電話に転送された上,常に留守番電話が対応するよ
うに設定されており,原告又は本件従業員が本件電話番号等を通じて顧
客と直接やりとりをすることはない。
イ(ア)本件従業員が本件倉庫において行っていた主な業務の内容は,概ね
次のとおりである。なお,本件従業員が本件出国後に本件倉庫で行って
いた業務は,本件出国以前と比較して特段の変更点はない。[甲2,3,
5,9,乙7,24,弁論の全趣旨]
a商品の受取り・保管業務
本件従業員は,国際航空宅急便等により日本に輸入され,P12株
式会社が本件倉庫に配送した商品を受け取り,本件倉庫の陳列棚に並
べて保管する。
b商品の梱包・発送業務
本件従業員は,①本件倉庫のパソコンを用いて,発送すべき商品の
送り状(配送伝票)を印刷し(前記ア(ウ)),②この送り状に従い,
商品を緩衝材で包み,日本語取説書のあるものについては日本語取説
書を同梱するなどして梱包作業を行い(前記ア(エ)),③在庫一覧書
面を用いて梱包作業に誤りがないかを確認し(前記ア(オ)),④梱包
した全ての商品をP7に引き渡して,商品を発送する(前記ア(カ))。
c返品された商品の受取り,代替商品の発送業務等
本件企業は,顧客が商品を返品する場合,本件アパートに向けて商
品を返品してもらうようにしており,本件従業員は,転送届に基づき
本件アパートから転送された商品を受け取り,また,顧客が代替商品
を希望している場合には,代替商品を陳列棚から取り出して,上記b
の業務を再度行う。なお,顧客から返品された商品は,国際航空宅急
便を利用して原告に配送する。
d商品写真の撮影
本件従業員は,原告が取扱商品の写真(原告ホームページ等に掲載
するためのもの)を撮影し忘れた場合には,これを撮影して,当該写
真データを原告に送信する。なお,原告は,平成20年3月頃,本件
従業員が上記撮影に使用するための照明器具等を購入して本件倉庫に
郵送しており,本件従業員は,同年4月頃以降,必要に応じ,商品の
撮影業務を行っていた。
(イ)原告が,米国に居住している間,本件販売事業について行っていた
主な業務の内容は,概ね次のとおりである。なお,本件販売事業は,全
て日本国内の顧客を相手にしたものであり,米国内に顧客はいない。ま
た,原告は,米国において,本件販売事業に係る所得(本件各係争年分)
を申告していなかった。[甲2,3,5,7,9,17,18の1ない
し5,甲19,乙22,24,25,30,39,弁論の全趣旨]
a市場動向の調査等
原告は,日本のP5に出品されている自動車用品の種類と落札記録
をインターネットから取り込んで集計し,市場動向を調査し,その結
果を踏まえて,商品の販売価格を決定する。
b商品の仕入れ及び支払業務
原告は,米国の仕入れ業者を訪問し,仕入価格等についての交渉を
行い,商品の仕入れ及び仕入れた商品の代金の決済を行う。なお,仕
入れた商品は,原則として,仕入業者が国際航空宅急便を利用して日
本国内に輸入し,本件倉庫に配送していたが,原告自身が国際航空宅
急便等を利用して本件倉庫に配送することもあった。
c原告ホームページ等の管理(記事掲載等)
原告は,商品の写真を加工し,商品説明とともに原告ホームページ
等に掲載するなどして,商品の宣伝を行う(なお,原告は,原則とし
てメーカーから商品写真を入手していたが,写真のないものは独自に
写真を撮影して原告ホームページ等に使用していた。)。
d電子メールによる顧客とのやり取り
(a)原告は,顧客から注文が入った場合には,本件受注システムを用
いて,本件倉庫における在庫を確認した上,確認のメールを顧客に
送信し,本件倉庫のパソコンに対して発送指示を行う(前記ア(イ))。
(b)原告は,顧客からの問合せ,見積依頼等については,全て電子メ
ールで受け付けることとし,これらの問合せ等に対し,電子メール
で回答する。
e日本語取説書の作成業務
原告は,一部の商品について,日本語取説書を作成する。なお,原
告は,日本語取説書について,日本国内の印刷業者に依頼し,同業他
社が日本語取説書をコピーして使用できないような加工(コピーする
と「○」の文字が表示される加工)を施したものを本件倉庫に納入さ
せていた。
⑷本件訴訟に至る経緯等
ア(ア)原告は,本件各係争年において,本件販売事業による所得があった
にもかかわらず,処分行政庁に対し,本件各係争年分の所得税の確定申
告書を提出しなかった。[前提事実(4)ア(ア)]
(イ)本件調査担当職員は,平成20年10月8日から平成21年11月
9日までの間,本件税務調査を行い,原告に対し,繰り返し,帳簿書類
の提示等を要請した。しかしながら,原告は,本件訪問調査において,
本件調査担当職員の質問に応じたものの,それ以外の協力はせず,帳簿
書類の提示も拒否した。[前提事実(4)イ,弁論の全趣旨]
イ(ア)処分行政庁は,前記アの経緯において,本件各係争年分に係る原告
の所得金額等を実額により把握することができなかったため,原告の平
成16年分の事業所得に係る青色申告書類に基づき原告所得率を算定し,
本件税務調査により把握した原告の事業所得の総収入金額に原告所得率
を乗じて原告の所得金額を推計した(処分行政庁が行った推計の内容等
は,別紙3記載2(1)ないし(4)のとおりである。)。[前提事実⑷ウ(ア),
甲2,3,弁論の全趣旨]
(イ)処分行政庁は,平成22年6月30日付けで,上記推計の結果に基
づき,本件各処分を行った。[前提事実(4)ウ(ア)]
ウ(ア)原告は,本件異議申立て後,平成22年10月13日に実施された
質問調査において,本件調査担当職員に対し,原告が,本件企業の開業
以来,帳簿書類を付けており,日本国内と米国内の経費についても帳簿
に付けていること,本件販売事業に係る帳簿書類を提出する用意もある
ことなどを説明したが,結局,帳簿書類を提出しなかった。[甲2,3,
乙24,弁論の全趣旨]
(イ)原告は,本件異議申立て後,原告の米国における経費が控除されな
いことは不当であるという趣旨の主張もしていたが,米国における経費
を算定するための客観的資料等を提出しなかった。[甲2,3,乙24,
弁論の全趣旨]
エ(ア)原告は,平成24年3月16日,本件訴訟を提起した。[前提事実
(4)オ]
(イ)被告は,原告に対し,平成24年12月14日付け書面により,①原
告が米国において所得税の申告を行っているか否か,②原告が米国にお
いて事業を行う上での何らかの登録等を行っているか否かについて釈明
を求め,当裁判所が上記釈明に応じるよう促したが,原告は,これに応
じなかった。[顕著な事実]
2検討
(1)争点1(実特法省令9条の2第1項又は7項の定める届出書を提出しなけ
れば,日米租税条約7条1項による税の軽減又は免除を受けることができな
いのか否か。)について
ア国民は,民主主義の下,その総意を反映する租税立法に基づいて納税の
義務を負うものとされており(憲法30条参照),その反面において,新
たに租税を課し,又は現行の租税を変更するには,法律又は法律の定める
条件によることを必要とされていること(憲法84条)に鑑みれば,納税
義務者,課税標準等の課税要件はもとより,租税の賦課,納付,徴収等の
手続についても,全て法律により規定すべきものである(最高裁大法廷昭
和30年3月23日判決・民集9巻3号336頁,最高裁大法廷昭和37
年2月21日判決・刑集16巻2号107頁)。そして,法律により,政
令などの下位の法令に課税要件等の定めを委任することは可能ではあるも
のの,その委任の方法は,当該法律において委任の内容を個別的・具体的
に限定するなどして,租税法律主義(憲法84条)の本質を損なわないも
のでなければならず,委任の内容を何ら限定することなく,包括的・一般
的に委任することは,憲法84条に反するものとして許されないというべ
きである。
イ原告は,本件各係争年における国内源泉所得について,実特法省令に基
づく届出書を提出していない(当事者間に争いがない。)ところ,被告は,
実特法省令に基づく届出書を提出していない以上,日米租税条約7条1項
による税の軽減又は免除を受けることはできない旨主張している。
そこで検討するに,実特法省令9条の2は,租税条約の特定規定に基づ
き,税の軽減又は免除を受けようとする場合には,実特法省令に基づく届
出書を提出しなければならない旨を定めており,日米租税条約7条1項は,
上記特定規定に該当するから(実特法12条,本件総務大臣等告示),実
特法省令9条の2によれば,原告は,国内源泉所得について,日米租税条
約7条1項による税の軽減又は免除を受けるに当たり,実特法省令に基づ
く届出書を提出すべきであったということができる。
しかしながら,実特法省令9条の2は,実特法省令に基づく届出書を提
出しなかった場合において,租税条約に基づく税の軽減又は免除を受ける
ことができない旨を具体的に規定しているわけではない。また,実特法省
令は,実特法12条の委任規定に基づくものであるところ,同条は,「租
税条約の実施及びこの法律の適用に関し必要な事項は,総務省令,財務省
令で定める。」とのみ規定しており,その委任の方法は,一般的,包括的
なものであって,租税法律主義(憲法84条)に照らし,実特法12条が
課税要件等の定めを省令に委ねたものと解することはできない。そうであ
る以上,同条が,実特法省令に対し,届出書の提出を租税条約に基づく税
の軽減又は免除を受けるための手続要件として定めることを委任したもの
と解することはできないというべきである。
ウこの点,被告は,日米租税条約による特典を受けるための実体的要件は,
日米租税条約が定めており,実特法省令9条の2は,実特法12条による
委任を受けて,上記実体的要件の存否等を確認するための手続的な事項を
定めたものにすぎないなどと主張している。しかしながら,実特法省令に
基づく届出書を提出しなければ,租税条約による特典を受けることができ
ないとするならば,実特法省令に基づく届出書を提出することは,租税条
約の特典を受けるための手続要件になるものと解さざるを得ない。前記検
討のとおり,実特法12条の委任規定の内容は,一般的,包括的なもので
あるところ,同条が法律よりも下位の省令に対し,租税条約及び実特法を
実施するための手続的細則を定めることを委任したものと解することはで
きるとしても,省令の定める手続を経なければ,租税条約の特典を受ける
ことができないという意味での手続要件を定めることを委任したものと解
することはできないというべきである。これに反する被告の主張は採用す
ることができない。
エ以上によれば,原告が日米租税条約7条1項による税の軽減又は免除を
受けることができるか否かについては,同項に基づき判断されるべきもの
であって,原告が実特法省令に基づく届出書を提出しなかったことをもっ
て,同項の適用を否定することはできない。
⑵争点2(本件アパート等は,日米租税条約5条の規定する恒久的施設に該
当するか否か。)について
ア(ア)日米租税条約は,ある場所が日米租税条約5条1項の規定する恒久
的施設に該当する場合であっても,同条4項各号のいずれかに該当する
場合には,恒久的施設から除外する旨を規定しているところ,原告は,
本件アパート等が同項(a)号の定める「企業に属する物品又は商品の保管,
[中略]引渡しのためにのみ施設を使用すること」に該当する旨主張し
ていることから,まず,同項各号の意義について検討する。
(イ)a日米租税条約5条4項各号の文言についてみるに,同項(e)号は,
「企業のためにその他の準備的又は補助的な性格の活動を行うことの
みを目的として,事業を行う一定の場所を保有すること」と規定して
おり,上記「その他の」準備的又は補助的な性格の活動という規定振
りに鑑みれば,同号に先立つ同項(a)号ないし(d)号は,文理上,「準
備的又は補助的な性格の活動」の例示であると解することができる。
また,同項⒡号は,「(a)から(e)までに掲げる活動を組み合わせた活
動を行うことのみを目的として,事業を行う一定の場所を保有するこ
と。ただし,当該一定の場所におけるこのような組合せによる活動の
全体が準備的又は補助的な性格のものである場合に限る。」と規定し
ているところ,同号が同項(a)号ないし(e)号所掲の活動を組み合わせ
た活動について,あえて「準備的又は補助的な性格」であるとの限定
を付しているのは,同項(a)号ないし(e)号所掲の活動が「準備的又は
補助的な性格」の活動であることを前提とした上で,各号を組み合わ
せることによって,その活動の全体が「準備的又は補助的な性格」を
超える場合には,恒久的施設の対象から除外しない旨を規定したもの
と解するのが合理的である。
以上によれば,日米租税条約5条4項(a)号ないし(d)号は,「準備
的又は補助的な性格の活動」の例示であり,ある場所が同項各号に該
当するとして恒久的施設から除外されるためには,当該場所での活動
が準備的又は補助的な性格であることを要するものと解すべきである。
b日米租税条約5条4項は,OECDモデル租税条約5条4項と同文
であり,OECDモデル租税条約に準拠して定められたものであると
ころ,OECD理事会は,OECDの加盟国(日本及び米国を含む。)
が二国間条約の締結又は改訂に際して,OECDコメンタリーによっ
て解釈されるものとしてのOECDモデル租税条約に従い,その課税
当局は,OECDモデル租税条約に基づく二国間条約の規定の解釈適
用においてOECDコメンタリーに従うべきとの勧告を行っているこ
とが認められる(乙9)。そこで,OECDコメンタリーの内容をみ
るに,OECDコメンタリーにおいては,OECDモデル租税条約5
条4項各号につき,「これらの活動の共通の特徴は,一般に,準備的
又は補助的な活動であることである。これは(e)で定められる例外とし
て明文によって定められている。(e)は,実際には,第1項が規定して
いる定義の適用範囲に対する一般的な制限である。[中略]したがっ
て,第4項の規定は,一方の国の企業が,純粋に準備的又は補助的な
性格の活動を他方の国で行う場合には,当該他方の国で租税を課され
ることがないように企図されているのである」,「第4項は準備的又
は補助的な性格を有する活動を遂行する事業を行う一定の場所に関し
て,第1項の一般的定義に対する例外を規定しようとするものである。」
と記述されている(乙9)。これらの記述に鑑みれば,OECDコメ
ンタリーは,OECDモデル租税条約5条4項各号の活動の共通の特
徴が準備的又は補助的な性格であって,同項全体が準備的又は補助的
な性格の活動を恒久的施設から除外するための規定であるとの解釈を
示しており,日米租税条約5条4項(a)号ないし(d)号に係る当裁判所
の解釈(上記a)に符合したものであるということができる。なお,
原告は,OECDコメンタリーについて,OECDモデル租税条約5
条4項各号に該当する活動が準備的又は補助的な性格の活動でなけれ
ば,同項(a)号ないし(d)号が適用されないと述べているわけではない
旨主張するが,前記指摘したOECDコメンタリーの記述内容に照ら
し,上記主張を採用することはできない。
(ウ)aこの点,原告は,日米租税条約(OECDモデル租税条約)5条
4項各号が「準備的又は補助的な性格の活動」であると解釈した場合,
同項(e)号とは別に,同項(a)号ないし(d)号を定めることは無意味であ
って,不合理であるなどと主張している。しかしながら,「準備的又
は補助的な性格の活動」との文言自体から,その内容が一義的に明ら
かになるわけではなく,「準備的又は補助的な性格の活動」の具体例
(同項(a)号ないし(d)号)を挙げた上で,具体的例示の方法によって
網羅しきれない場合に備えて包括的な定め(同項(e)号)を置くという
規定の仕方が特段不自然,不合理であるということはできない。
b原告は,国連モデル租税条約との比較によれば,OECDモデル租
税条約(日米租税条約)5条4項(a)号が「引渡し」のための施設(倉
庫)を恒久的施設から除外したものと解すべきである旨主張している
ところ,国連モデル租税条約5条4項(a)号は,発展途上国の課税権限
を広く認めるという観点から,同号に「引渡し」を含めなかったもの
と解される(甲4)。しかしながら,同号が「引渡し」を含めなかっ
たからといって,OECDモデル租税条約(日米租税条約)5条4項(a)
号が「準備的又は補助的な性格の活動」の例示であることを否定すべ
きであるということはできず,原告の上記主張を採用することはでき
ない。
c原告は,OECDモデル租税条約(日米租税条約)5条4項(a)号な
いし(d)号について,2012年報告書の見解に沿った解釈をすべきで
ある旨主張しているところ,証拠(甲24)によれば,OECDの検
討チームは,OECDモデル租税条約5条4項8(a)号ないし(d)号につ
いて,「準備的又は補助的な性格を有する活動」であることを要しな
いとの解釈を示していることが認められる。しかしながら,2012
年報告書は,その記載内容に照らせば,同項(a)号ないし(d)号につい
て,従来,「準備的又は補助的な性格を要する活動」であるとの解釈
がされていたことを前提とした上で,OECDコメンタリーの改訂に
より,上記解釈を変更することを提案したものと解されるのであり,
2012年報告書が従来の解釈の変更を提案したからといって,本件
各係争年における日米租税条約5条4項の解釈につき,2012年報
告書に従わなければならないということはできない。なお,原告は,
OECDモデル租税条約5条4項について,自己の主張に沿った見解
等が記載されている文献を複数指摘しているものの,日米租税条約5
条4項の文理解釈として,同項(a)号ないし(d)号が「準備的又は補助
的な性格を有する活動」の例示であると解すべきことは,前記検討の
とおりであって(前記(イ)a),これと異なる解釈をすべき理由を認
めることはできない。
(エ)以上のとおり,日米租税条約5条4項(a)号ないし(d)号は,「準備
的又は補助的な性格の活動」の例示であると解すべきである。したがっ
て,本件アパート等が恒久的施設に該当するためには,同条1項の規定
する「恒久的施設」に当たり,かつ,同条4項各号の規定する「準備的
又は補助的な性格の活動」を行う施設には当たらないことを要するとい
うべきである。
イ(ア)前記アを踏まえて検討するに,前記認定のとおり,本件アパート等
は,原告が米国に居住している間も,①本件販売事業の商品を保管して
おき,②顧客の注文を受けて,個別に商品を梱包した上で顧客向けに発
送し,また,③顧客からの返品があった場合には,返品された商品を受
け取り,代替商品を発送するなどの業務を行う場所であった(認定事実(1)
ア(ア),(3)ア,イ(ア))のであるから,本件アパート等が本件販売事業
の全部又は一部を行う一定の場所であったことは明らかであり,本件ア
パート等は,日米租税条約5条1項の規定する「恒久的施設」に該当す
る。
(イ)この点,原告は,本件アパートが,本件倉庫を賃借した後は無人で
あり,事業を行う一定の場所(日米租税条約5条1項)に該当しない旨
の主張をしているところ,原告及び本件従業員が,本件倉庫が賃借され
た後,本件アパートにおいて,本件販売事業に係る具体的な作業を行っ
ていたことを認めるに足りる事実ないし証拠はない。
しかしながら,①本件アパートは,本件倉庫が賃借された後も,原告
ホームページ等において,本件企業が所在する場所として掲載され(認
定事実(1)ウ(ア)),②本件企業は,本件倉庫において商品の保管,梱
包,発送等の業務をしていたにもかかわらず,本件アパートを発送元と
して,商品を発送していた(認定事実(3)ア(ウ))のである。さらに,③
本件企業は,顧客が返品を希望した場合には,あえて本件アパート宛て
に商品を発送させ,本件倉庫において,転送届により本件アパートから
転送された商品を受け取っていたのである(認定事実(1)ウ(イ)c,(3)
イ(ア)c)。
これらの事実関係によれば,本件アパートは,本件倉庫が賃借され,
原告及び本件従業員による具体的な作業の場所が本件倉庫に移転した後
においても,本件倉庫と一体となって,本件企業としての活動を行う場
所としての機能・役割を担っていたということができる。なお,ある場
所が日米租税条約5条1項の定める恒久的施設に該当するか否かは,企
業としての活動(事業)の有無及び内容によって判断すべきものである
から,原告及び本件従業員が本件アパートにおいて具体的な作業を行っ
ていなかったことは,上記認定・判断を覆す事情には当たらない。
ウ次に,本件アパート等が日米租税条約5条4項各号のいずれかに該当す
るか否かを検討するに,以下述べるとおり,本件アパート等における活動
が「準備的又は補助的な性格」のものであるということはできず,本件ア
パート等は,上記各号のいずれにも該当しないというべきである。
(ア)a本件販売事業の事業形態は,日本国内の顧客に対し,インターネ
ット(原告ホームページ,P3ウェブページ,P5等)を通じて,本
件アパート等にある在庫商品を販売するというものであるところ,本
件企業は,原告が米国に居住している間も,原告ホームページ等にお
いて,本件企業の所在地及び連絡先として,本件アパートの住所及び
本件電話番号等を掲載し,販売活動を行っていた(認定事実(1)ウ(ア))。
b(a)インターネットによる通信販売を利用する者は,通常,インター
ネット上の情報等を通じ,当該企業が取引の相手として信頼できる
者であるかどうかなどを判断しており,企業のホームページに掲載
された情報は,当該者にとって極めて重要な情報であると考えられ
る。また,通信販売を利用する者が取引の相手となる企業を選ぶに
当たっては,当該企業が日本国内の企業であるかどうかを重要な判
断要素の一つとしているものと考えられる(なお,特定商取引法1
1条1項5号及び特定商取引法施行規則8条1項1号は,通信販売
を行う販売業者が広告を行う際に住所及び電話番号を表示すること
を義務付けている。)。インターネットによる通信販売の上記特質
に鑑みれば,本件企業の顧客は,本件企業の所在地及び連絡先が日
本国内(本件アパート)にあることを取引する際の重要な判断要素
の一つとし,かつ,これを前提として,本件企業と取引を行ってい
たものと推認することができる。
(b)また,本件企業が,顧客に対し,原告が米国に居住しているとの
情報を公表していたことをうかがわせる事実ないし証拠はなく,原
告が,前述のとおり(前記イ(イ)),本件倉庫を賃借した後も,原
告ホームページ等において,本件企業の所在地等として,本件アパ
ートの住所等を掲載し続けた上,あえて本件アパートを商品の発送
元とし,商品の返品先も本件アパートに指定していたことを併せ考
えれば,原告は,顧客に対し,本件企業が日本国内(本件アパート)
にある企業であると認識させた上で,本件販売事業における販売活
動を行っていたものと推認することができ,同認定を覆すに足りる
事実ないし証拠はない。
(c)さらに,本件企業は,P3及びP5を通じて販売活動を行ってい
るところ(前提事実(2)ア・イ),前記認定のとおり,①P3が,
日本国内に事業所があることを出品の条件とし,②P5が,日本国
内の事業者が出品していることを,P5補償制度を利用するための
条件としていたこと(認定事実(1)イ)に鑑みれば,本件企業の所在
地が日本国内(本件アパート)であることは,本件販売事業が行わ
れているインターネット市場との関係においても,取引の前提条件
となる重要な要素であったということができる。
c本件企業は,前述のとおり,本件アパートを所在地として販売活動
を行っていたところ,本件販売事業における販売活動が全てインター
ネットを通じて行われており,本件販売事業が本件アパート等に保管
された在庫商品を販売するという事業形態であることを併せ考えれば,
本件アパートは,本件販売事業における唯一の販売拠点(事業所)と
しての役割・機能を担っていたということができる。また,原告が本
件倉庫を賃借した後においては,前記イ(イ)で検討した事情に鑑みれ
ば,本件倉庫も,本件アパートと一体となって,本件企業の販売拠点
(事業所)としての役割・機能を担っていたということができる。
(イ)本件販売事業は,インターネットを通じた通信販売であるところ,
通信販売という事業形態に鑑みれば,対面取引に比して,商品の購入者
に対する商品の配送(発送)業務が事業の重要な部分を占めていること
は明らかである。また,通信販売を利用して商品を購入した者は,商品
の配送を受けた時点で初めて,実際の商品を確認することができるので
あって,通信販売においては,その性質上,配送後における契約解除(返
品)の可能性が,対面取引に比して高く,顧客からの返品に対応するこ
とも重要な業務であるということができる。
本件従業員は,前記認定のとおり,本件アパート等において,商品を
保管しておき,顧客の注文を受けて,個別に商品を梱包した上で顧客に
向けて発送し,また,顧客からの返品を受け取り,代替商品を発送する
などの業務を行っており(認定事実(3)イ(ア)),これらの業務は,通信
販売である本件販売事業にとって,重要な業務であったというべきであ
る。
さらに,本件企業は,原告ホームページ等において,米国から仕入れ
た自動車用品を低価格で販売し,注文された商品を速やかに顧客に配送
する旨を掲載している(認定事実(1)ウ(イ)a・b)ところ,これらは,
原告が米国で仕入れた商品を本件アパート等に在庫商品として保管し,
本件アパート等から顧客に対して配送するからこそ実現できるのであっ
て,本件販売事業における契約条件の実現という観点からも,本件アパ
ート等における保管及び発送業務は重要なものであったということがで
きる。
(ウ)前記検討のとおり,本件企業は,本件アパート等を販売拠点(事業
所)として,本件販売事業における販売活動を行い,かつ,本件従業員
が,本件企業の事業所である本件アパート等において,通信販売である
本件販売事業にとって重要な業務(商品の保管,梱包,配送,返品の受
取り等)を実際に行っていたことに鑑みれば,本件アパート等が本件販
売事業にとって「準備的又は補助的な性格の活動」を行っていた場所で
あるということはできない。そうである以上,本件アパート等は,日米
租税条約5条4項各号のいずれにも該当しないというべきである。
エ(ア)a原告は,本件アパート等は,「企業に属する物品又は商品の保管,
[中略]引渡しのためにのみ」使用する場所であって,日米租税条約
5条4項(a)号に該当する旨主張しているところ,本件従業員が本件ア
パート等において行っていた業務の内容は,前記認定のとおりであっ
て,その主な活動が商品の「保管」及び「引渡し」としての性格を有
するものであったことは否定できない。
bしかしながら,前記検討のとおり(前記ウ(イ)),通信販売という
事業形態の特質に鑑みれば,本件従業員が本件アパート等で行ってい
た業務は,本件販売事業にとって重要なものであったというべきであ
る。
c(a)また,本件従業員は,商品を個別に梱包する際,日本語取説書の
ある商品については,日本語取説書を同梱する作業をしていた(認
定事実(3)ア(エ))ところ,本件企業が日本語取説書を無料で添付す
る旨を宣伝していたこと(認定事実(1)ウ(イ)d)に照らしても,上
記作業は,本件企業が販売している商品(自動車用品)の経済的価
値を高める活動であり,単なる「保管」又は「引渡し」の範囲を超
えるものというべきである。
この点,原告は,日本語取説書も独立の商品であり,上記作業も
日米租税条約5条4項(a)号に該当する旨主張している。しかしなが
ら,原告が米国から輸入して本件アパート等に保管していた商品は,
その段階では,飽くまで米国内で流通していたままの商品であり,
その後,本件従業員が個別に日本語取説書と組み合わせることによ
って,日本国内の顧客向けの商品としての価値が付加されるものと
解されるから,原告の上記主張を採用することはできない。
(b)さらに,本件従業員は,本件アパート等において,①原告ホー
ムページ等に掲載するための商品の写真を撮影する業務を行い(認
定事実(3)イ(ア)d),②顧客が商品を返品した場合には,本件ア
パート等において,返品された商品を受け取り,その代替商品を顧
客に対して発送し,返品された商品を米国にいる原告に対して発送
するといった業務を行っていた(認定事実(3)イ(ア)c)ところ,こ
れらの業務についても,単なる「保管」又は「引渡し」の範囲を超
えるものと解すべきである。
この点,原告は,上記②について,顧客から返品される商品が「企
業に属する物品」であり,これを受け取り,代替商品を発送するな
どの業務は,いずれも日米租税条約5条4項(a)号の「保管」又は「引
渡し」に該当する旨主張している。しかしながら,前述のとおり(前
記ウ(イ)),顧客からの返品に対応する業務は,通信販売において
重要な業務であると解されるところ,原告が,顧客に対し,初期不
良品の返品を受け取る旨を申し入れ,本件企業の事業所である本件
アパートを返品先として,本件企業の負担において返品を受け取る
という一連の活動全体が,商品を購入した顧客に対する事後的なサ
ービスを形成していると解されるのであって,このようなサービス
の一部分を切り取って,同号の規定する「保管」又は「引渡し」と
して単純化すべきものではない。原告の上記主張は採用することが
できない。
d以上に加えて,前記検討のとおり(前記ウ(ア)),本件企業が,本
件アパート等を販売拠点(事業所)として販売活動を行っていたこと
を併せ考えても,本件アパート等が商品の保管又は引渡しのみのため
に使用する場所であるということはできず,日米租税条約5条4項(a)
号に該当するということはできない(なお,既に検討したところによ
れば,本件アパート等が日米租税条約5条4項(e)号の規定する「準備
的又は補助的な性格の活動」を行う場所に該当しないことも明らかで
ある。)。
(イ)a原告は,本件販売事業における中核的な業務は,全て原告が米国
で行っており,本件従業員が本件アパート等で行っていた作業は,機
械的な単純作業のみであるから,本件アパート等における活動は「準
備的又は補助的な性格の活動」に該当する旨主張している。
bそこで検討するに,前記認定によれば,本件従業員が本件アパート
等において行っていた主な業務(認定事実(3)イ(ア))は,機械的な単
純作業であったということができる。また,本件従業員が,本件アパ
ート等において,本件販売事業(本件企業)の管理又は経営に関与し
ていたことを認めるに足りる事実ないし証拠はない。
なお,被告は,本件訪問調査記録を根拠として,本件従業員が本件
受注ソフトの運用(在庫管理)に関与していたという趣旨の主張をし
ているが,本件訪問調査記録には原告の署名等はされておらず,原告
がその内容を争う陳述書(甲9)を提出し,その内容に特段不自然な
点もないことに照らせば,本件従業員が在庫管理に関与していた事実
を認めることはできない。また,被告は,本件P10てん末書を根拠
として,本件アパートに本件受注システムが組み込まれたパソコンが
設置され,本件販売事業の管理を担っていたという趣旨の主張をして
いるが,本件P10てん末書においても,原告が米国に居住している
間において,上記パソコンが本件アパートに設置されていたことを直
接裏付ける記載はなく,P10が,本件P10陳述書により,本件P
10てん末書の記載内容を一部訂正していることを併せ考えれば,被
告の主張する事実を認めることはできない。
cしかしながら,既に検討したとおり,本件企業は,本件アパート等
を販売拠点(事業所)として,本件販売事業における販売活動を行っ
ていたのであり,通信販売の特質に鑑みても,本件従業員が本件アパ
ート等で行っていた業務が「準備的又は補助的な性格の活動」である
ということはできない(ある業務が準備的又は補助的な性格のもので
あるか否かは,事業全体における役割・機能に鑑みて判断すべきもの
であり,本件従業員の業務が機械的な単純作業であったことは上記判
断を覆す事情には当たらない。)。さらに,原告は,本件倉庫の使用
状況について,「当初から,作業の簡素化を考えていましたので,平
成18年以前と変わりません。私が,日本に居たか,米国に居たかの
違いです。」と説明しているところ(乙24),原告が本件販売事業
の効率化,合理化を進めた結果として,本件従業員が定型的な業務を
行えば足りる人的・物的体制が構築されたものと解することもできる。
dよって,本件アパート等における活動が「準備的又は補助的な性格
の活動」に該当する旨の原告の主張を採用することはできない。
オ以上によれば,本件アパート等は,本件各係争年において,本件販売事
業の全部又は一部を行う一定の場所(日米租税条約5条1項)であり,か
つ,同条4項各号のいずれにも該当しないから,同条の規定する「恒久的
施設」に該当するというべきである。
⑶争点3(本件アパート等が恒久的施設に該当する場合において,日米租税
条約7条に基づき課税できる所得の範囲はどこまでか。)について
ア(ア)我が国の国内法によれば,非居住者は,国内源泉所得を有する場合
において,所得税を納める義務があるところ(同法5条2項1号),個
人が国外で譲渡を受けたたな卸し資産を国内において譲渡する場合には,
当該譲渡により生ずる全ての所得が国内源泉所得に該当し(所得税法1
61条1号,所得税法施行令279条1項1号),譲受人に対する引渡
しの時の直前に,その引渡しに係るたな卸資産が国内にあった場合には,
これを国内において譲渡する場合に当たる(同条4項1号)こととなる。
そして,本件販売事業は,原告が米国において仕入れた商品(たな卸し
資産)を本件アパート等に保管しておき,国内の顧客からの注文に応じ
て,本件アパート等に保管している取扱商品を国内の顧客に引き渡すと
いうものであるから(認定事実(1)ア(ア),(3)ア・イ),本件販売事業
により生ずる全ての所得が国内源泉所得に該当するというべきである。
(イ)a他方において,日米租税条約は,我が国の国内法に優先して適用
されることから,①本件販売事業により生ずる所得が課税対象となる
か否か,②課税対象となる所得の範囲については,いずれも日米租税
条約を適用することによって判断されることとなるところ,日米租税
条約は,一方の締約国の企業が他方の締約国内にある恒久的施設を通
じて当該他方の締約国内において事業を行う場合には,その企業の利
得のうち当該恒久的施設に帰せられる部分に対してのみ,当該他方の
締約国において租税を課することができる旨を定め(日米租税条約7
条1項第2文),さらに,当該範囲(恒久的施設に配分される利得)
については,当該恒久的施設が,同一又は類似の条件で同一又は類似
の活動を行う別個のかつ分離した企業であって,当該恒久的施設を有
する企業と全く独立の立場で取引を行うものであるとしたならば当該
恒久的施設が取得したとみられる利得であり(同条2項),当該恒久
的施設のために生じた費用は,当該恒久的施設が存在する締約国外で
生じたものも控除対象となる(同条3項)旨を定めている。
b日米租税条約の上記各規定の内容に鑑みれば,本件においては,①原
告の所得のうち本邦において課税対象とされる所得は,日本国内の「恒
久的施設」を通じて行われた事業による部分であり(日米租税条約7
条1項第2文),また,②当該所得については,当該恒久的施設を原
告と独立の立場にある企業と擬制した上で,原告の所得を当該恒久的
施設に配分することによって算定する(同条2項及び3項)ことにな
るものと解すべきである。
(ウ)本件アパート等は,前記検討のとおり(前記(2)),日米租税条約5
条1項の規定する恒久的施設に該当するというべきであり,本件販売事
業の具体的内容(認定事実(1)ア(ア),(3)ア・イ)に照らせば,本件販
売事業は,全て本件アパート等を通じて行われたものであるということ
ができるから,日米租税条約7条に基づき課税できる所得の範囲は,同
条2項及び3項に基づき,本件アパート等を原告と独立の立場にある企
業と擬制した上で(以下,同条2項及び3項の適用に当たって擬制する
上記企業を「本件擬制企業」という。),本件販売事業により生じた国
内源泉所得を本件擬制企業に配分することによって算定される所得金額
であると解すべきである。
イ(ア)そこで検討するに,日米租税条約7条2項及び3項に基づき本件擬
制企業に配分されるべき国内源泉所得を算定するに当たっては,本件ア
パート等が本件販売事業において担っている役割・機能を前提とすべき
であるところ,本件アパート等は,前記検討のとおり(前記(2)ウ(ア)),
本件販売事業における唯一の販売拠点(事業所)としての役割・機能を
担っていたというべきである。
したがって,日米租税条約7条2項及び3項に基づき本件擬制企業に
配分されるべき国内源泉所得は,日本国内にある本件擬制企業が,本件
アパート等を販売拠点(事業所)として事業活動(販売活動)をした場
合において取得したとみられる利得であるというべきであり,同認定判
断を覆すに足りる事実ないし証拠はない。
(イ)この点,原告は,本件アパート等は,本件販売事業において,「保
管」及び「引渡し」(発送)の業務を行っている場所であり,本件アパ
ート等を独立の倉庫業者と擬制して,当該業者が原告から本件アパート
等における活動を委託された場合の収益が本件アパート等に帰属すべき
所得である旨主張している。
しかしながら,前記検討のとおり,本件販売事業の事業態様は,本件
アパート等に保管された在庫商品を,インターネットを通じて国内の顧
客に販売するというものであるところ,本件企業が,本件アパート等を
販売拠点(事業所)として販売活動を行っている以上,本件アパート等
を単なる倉庫業者として擬制することはできないというべきであり(な
お,本件の事案は,例えば,米国に居住する個人が,米国に存在する小
売業者として,日本国内の顧客と取引を行った上,商品の保管及び引渡
しのみを日本国内でしていたような事案とは異なるというべきである。),
原告の上記主張を採用することはできない。
なお,原告は,米国に居住している間,本件販売事業について,原告
ホームページ等の管理,電子メールによる顧客とのやりとりといった業
務を行っている(認定事実(3)イ(イ))が,これらの業務は,原告が,イ
ンターネット等を用いることにより,米国にいながらにして,本件アパ
ート等における事業活動を行っていたというべきものであるから,原告
が米国において上記業務を行っていたことは,本件擬制企業(原告)が
本件アパート等を販売拠点(事業所)として事業活動を行っていたこと
を否定すべき事情には当たらない。
ウ(ア)上記検討を前提として,本件販売事業につき課税対象となる所得
金額を算定するに,原告は,本件販売事業における所得金額等を申告
せず,本件調査担当職員が帳簿書類等の提出を繰り返し要求してもこ
れを拒絶していた(認定事実(4)ア)のであるから,本件擬制企業に配
分されるべき所得金額については,実額で計算することはできず,推
計の方法によって算出せざるを得ない。なお,日米租税条約7条4項
は,課税庁が税務調査によっても恒久的施設に配分されるべき所得金
額を決定することができない場合において,課税庁の国の国内法に基
づいて当該所得金額が計算されることになる旨を定めたものであって,
課税庁が当該所得金額を推計して課税することを予定しているという
べきである。
(イ)そこで,本件販売事業につき課税対象となる所得金額,すなわち,
本件擬制企業に配分されるべき所得金額の推計方法の合理性について
みるに,被告は,本件販売事業における収入金額(売上金額)に原告
所得率を乗じる方法によって,上記所得金額を推計している(認定事
実(4)イ(ア))。そして,本件擬制企業に配分されるべき所得金額は,
本件擬制企業が,本件アパート等を販売拠点(事業所)として事業活動
をした場合において取得したとみられる利得であるところ,原告所得率
は,原告が日本国内に居住しながら本件アパートを販売拠点として本
件販売事業を営んでいた当時(平成16年分)の青色申告特別控除前
の所得金額の総収入金額に占める割合であるから(前提事実(4)ウ(ア)),
上記所得金額を推計するに当たって,原告所得率を基礎とすることに
は合理性があるということができる。そして,上記収入金額が本件税
務調査によって把握した実額であり,原告所得率が平成16年分所得
税青色申告書に基づき算出されたものであること(認定事実(4)イ(ア))
に加えて,平成16年分と本件各係争年分において,本件販売事業の
基本的内容に変化はないこと(認定事実(1)ア(イ))を併せ考えれば,
本件販売事業における収入金額(売上金額)に原告所得率を乗じる方
法によって,本件擬制企業が,本件アパート等を販売拠点(事業所)と
して事業活動をした場合において取得したとみられる利得を推計する方
法には合理性があるということができる。
(ウ)aこの点,本件擬制企業が本件アパート等を販売拠点(事業所)と
して事業活動をした場合において取得したとみられる利得を推計する
に当たっては,原告が米国において本件アパート等(本件擬制企業)
による事業活動のために支出した費用を考慮に入れる必要があるので
はないかが問題となる。
しかしながら,原告が,米国に移住することによって,取扱商品の
選択や仕入れに係る業務を効率的に行うことができるようになったこ
とは明らかであり,証拠(甲2,3,9,乙24)及び弁論の全趣旨
によれば,原告が米国に移住することは,本件販売事業にとって経済
的合理性があったものと推認することができる。さらに,原告が米国
に移住したことにより,平成16年当時よりも経費率が増加するなど,
課税所得の計算において原告にとって有利に働く事情があったならば,
原告としては,当該事情を裏付ける客観的資料を提出するのが自然で
あるにもかかわらず,原告が帳簿書類等の提出を拒否し(認定事実(4)
ア(イ),ウ(ア)),実際,米国における経費を控除すべきであると主
張しながら客観的資料を提出していなかったこと(認定事実(4)ウ(イ))
を併せ考えれば,原告が米国に移住したことによって,本件販売事業
における経費率が増加するなどの事情は存在しないものと事実上推定
することができ,これを覆すに足りる事実ないし証拠はない。そうす
ると,原告の収入金額に原告所得率を乗じることによって所得金額を
推計する方法は,いわば控え目な方法による推計であるということが
できるから,米国における経費等を個別具体的に考慮していないこと
は,上記推計の合理性を否定する事情には当たらないというべきであ
る。
bまた,日米租税条約7条2項に基づき本件擬制企業に配分される所
得を算定するに当たっては,本件擬制企業が米国にいる原告と取引を
したものと擬制することになるから,本件擬制企業が米国にいる原告
に対し,原告の仕入原価に粗利分を加えた対価を支払うものと観念す
ることになるとも解し得る。
しかしながら,上記対価は,飽くまで日米租税条約7条2項に基づ
いて観念し得るものであり,仮にこれを算定する場合には,本件アパ
ート等及び米国における事業活動及び経理の具体的状況を把握するこ
とが必要不可欠であるところ,原告が,本件税務調査に対し,本件訪
問調査における質問以外の協力をせず,帳簿書類等の客観的資料の提
出を拒否していたこと(認定事実(4)ア・ウ)に鑑みれば,本件におい
て上記対価を試算することは不可能であるといわざるを得ない。この
ことを前提にした上で,本件販売事業における事業活動(販売活動)
は,全て本件アパート等を販売拠点(事業所)としてされたものであ
り,原告は,インターネット等を用いることにより,米国にいながら
にして本件アパート等における事業活動を行っていたという本件販売
事業の実態を考慮し,また,原告が米国において本件販売事業に係る
所得を申告しておらず(認定事実(3)イ(イ)),前記検討のとおり,原
告の収入金額に原告所得率を乗じることによって所得金額を推計する
方法は,いわば控え目な方法による推計であることを併せ考えれば,
本件擬制企業に配分される所得の算定(推計)に当たり,本件擬制企
業が米国にいる原告に支払うべき対価を個別具体的に考慮していない
ことは,上記推計の合理性を否定する事情には当たらないというべき
である。
エ以上によれば,本件については,推計の必要性及び合理性が認められ,
被告の主張する所得金額等(別紙3記載2(1)ないし(4))は,適正であ
るということができる。
3本件各処分の適法性について
(1)前記検討によれば,本件各係争年分における原告の課税総所得金額及び納
付すべき税額は,別紙3記載2(1)ないし(4)の各ウ・エ記載のとおりの金額
であると認められ,上記認定に係る納付すべき税額は,いずれも本件各所得
税決定処分における納付すべき税額と同額であるから,本件各所得税決定処
分はいずれも適法である。
⑵上述のとおり,本件各所得税決定処分はいずれも適法であるところ,本件
の全証拠を精査しても,原告が本件各係争年分の所得税について期限内申告
書を提出しなかったことについて通則法66条1項の「正当な理由」がある
と認めるに足りる事実ないし証拠はない。そして,原告の本件各係争年分に
おける無申告加算税の額は,別紙3記載5(1)ないし(4)のとおりであると認
めることができ,これらの金額は,いずれも本件各賦課決定処分の無申告加
算税の額と同額であるから,本件各賦課決定処分は適法である。
第5結論
以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することと
し,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官増田稔
裁判官村田一広
裁判官不破大輔は,転補につき,署名押印することができない。
裁判長裁判官増田稔
(別紙2)
関係法令の定め
第1日米租税条約
1第1条
(1)1項
この条約は,この条約に特別の定めがある場合を除くほか,一方又は双方
の締約国の居住者である者にのみ適用する。
(2)2項ないし5項[省略]
2第3条
(1)1項
この条約の適用上,文脈により別に解釈すべき場合を除くほか,
(a)ないし(f)[省略]
(g)「企業」は,あらゆる事業の遂行について用いる。
(h)「一方の締約国の企業」及び「他方の締約国の企業」とは,それぞれ
一方の締約国の居住者が営む企業及び他方の締約国の居住者が営む企業
をいう。
(i)ないし(k)[省略]
(l)「事業」には,自由職業その他の独立の性格を有する活動を含む。
(m)[省略]
(2)2項
一方の締約国によるこの条約の適用に際しては,この条約において定義さ
れていない用語は,文脈により別に解釈すべき場合又は両締約国の権限のあ
る当局が第25条の規定に基づきこの条約の適用上の用語の意義について別
に合意する場合を除くほか,この条約の適用を受ける租税に関する当該一方
の締約国の法令において当該用語がその適用の時点で有する意義を有するも
のとする。当該一方の締約国において適用される租税に関する法令における
当該用語の意義は,当該一方の締約国の他の法令における当該用語の意義に
優先するものとする。
3第5条
(1)1項
この条約の適用上,「恒久的施設」とは,事業を行う一定の場所であって
企業がその事業の全部又は一部を行っている場所をいう。
(2)2項
「恒久的施設」には,特に,次のものを含む。
(a)事業の管理の場所
(b)支店
(c)事務所
(d)工場
(e)作業場
(f)鉱山,石油又は天然ガスの坑井,採石場その他天然資源を採取する場所
(3)3項〔省略〕
(4)4項
1項から3項までの規定にかかわらず,「恒久的施設」には,次のことは,
含まないものとする。
(a)企業に属する物品又は商品の保管,展示又は引渡しのためにのみ施設を
使用すること
(b)企業に属する物品又は商品の在庫を保管,展示又は引渡しのためにのみ
保有すること
(c)企業に属する物品又は商品の在庫を他の企業による加工のためにのみ保
有すること
(d)企業のために物品若しくは商品を購入し又は情報を収集することのみを
目的として,事業を行う一定の場所を保有すること
(e)企業のためにその他の準備的又は補助的な性格の活動を行うことのみを
目的として,事業を行う一定の場所を保有すること
(f)(a)から(e)までに掲げる活動を組み合わせた活動を行うことのみを目的
として,事業を行う一定の場所を保有すること。ただし,当該一定の場所
におけるこのような組合せによる活動の全体が準備的又は補助的な性格の
ものである場合に限る。
(5)5項ないし7項〔省略〕
4第7条
(1)1項
一方の締約国の企業の利得に対しては,その企業が他方の締約国内にある
恒久的施設を通じて当該他方の締約国内において事業を行わない限り,当該
一方の締約国においてのみ租税を課することができる。一方の締約国の企業
が他方の締約国内にある恒久的施設を通じて当該他方の締約国内において事
業を行う場合には,その企業の利得のうち当該恒久的施設に帰せられる部分
に対してのみ,当該他方の締約国において租税を課することができる。
(2)2項
3項の規定に従うことを条件として,一方の締約国の企業が他方の締約国
内にある恒久的施設を通じて当該他方の締約国内において事業を行う場合に
は,当該恒久的施設が,同一又は類似の条件で同一又は類似の活動を行う別
個のかつ分離した企業であって,当該恒久的施設を有する企業と全く独立の
立場で取引を行うものであるとしたならば当該恒久的施設が取得したとみら
れる利得が,各締約国において当該恒久的施設に帰せられるものとする。
(3)3項
恒久的施設の利得を決定するに当たっては,経営費及び一般管理費を含む
費用で当該恒久的施設のために生じたものは,当該恒久的施設が存在する締
約国内において生じたものであるか他の場所において生じたものであるかを
問わず,控除することが認められる。
(4)4項
一方の締約国の権限のある当局が入手することができる情報が恒久的施設
に帰せられる利得を決定するために十分でない場合には,この条のいかなる
規定も,当該恒久的施設を有する者の納税義務の決定に関する当該締約国の
法令の適用に影響を及ぼすものではない。ただし,当該情報に基づいて恒久
的施設の利得を決定する場合には,この条に定める原則に従うものとする。
(5)5項
恒久的施設が企業のために物品又は商品の単なる購入を行ったことを理由
としては,いかなる利得も,当該恒久的施設に帰せられることはない。
(6)6項及び7項〔省略〕
5第22条
(1)1項
一方の締約国の居住者で他方の締約国において所得を取得するものは,こ
の条約の特典を受けるために別に定める要件を満たし,かつ,次の(a)から(f)
までに掲げる者のいずれかに該当する場合に限り,各課税年度において,こ
の条約の特典(この条約の他の条の規定により締約国の居住者に対して認め
られる特典に限る。以下この条において同じ。)を受ける権利を有する。た
だし,この条約の特典を受けることに関し,この条に別段の定めがある場合
は,この限りでない。
(a)個人
(b)ないし(f)〔省略〕
(2)2項ないし5項〔省略〕
第2租税条約の実施に伴う所得税法,法人税法及び地方税法の特例等に関する法
律(平成22年法律第6号による改正前のもの。以下「実特法」という。)
第12条(実施規定)
第2条から前条までに定めるもののほか,租税条約の実施及びこの法律の適
用に関し必要な事項は,総務省令,財務省令で定める。
第3租税条約の実施に伴う所得税法,法人税法及び地方税法の特例等に関する法
律の施行に関する省令(平成22年総務省,財務省令第1号による改正前のも
の。以下「実特法省令」という。)
第9条の2(申告納税に係る所得税又は法人税につき特典条項に係る規定の適
用を受ける者の届出等)
(1)1項
相手国居住者等は,その有する国内源泉所得(〔括弧書き内省略〕)の
うち,所得税法第165条又は法人税法第142条の規定の適用を受ける
もの(以下この条において「申告対象国内源泉所得」という。)に対する
所得税又は法人税につき当該相手国居住者等に係る相手国との間の租税条
約の規定(特典条項の適用があるものに限る。以下第9条の9までにおい
て「特定規定」という。)に基づき軽減又は免除を受けようとする場合に
は,その適用を受けようとする年分の所得税法第2条第1項第37号に規
定する確定申告書(〔中略〕以下第9条の4までにおいて「所得税確定申
告書」という。)又は事業年度の法人税法第2条第30号に規定する中間
申告書で同法第72条第1項各号に掲げる事項を記載したもの(〔括弧書
き内省略〕)若しくは同法第2条第31号に規定する確定申告書(〔括弧
書き内省略〕)に,次の第1号から第9号までに掲げる事項を記載した届
出書(次の第10号及び第11号に掲げる書類の添付があるものに限る。
以下この条において「適用届出書等」という。)を添付しなければならな
い。
一ないし十一〔省略〕
(2)2項
前項に規定する特典条項とは,非居住者又は外国法人の有する国内源泉
所得に対する租税の軽減又は免除を定める租税条約の規定の適用に関する
条件を定める当該租税条約の規定であって総務大臣及び財務大臣が定める
ものをいう。
(3)3項ないし6項〔省略〕
(4)7項
相手国居住者等である個人で,その有する申告対象国内源泉所得に対す
る所得税につき第1項に規定する租税条約の特定規定に基づき免除を受け
ようとするものは,その適用を受けようとする年分の所得税確定申告書を
提出している場合を除き,同項第1号から第9号までに掲げる事項に準ず
る事項を記載した届出書(特典条項関係書類の添付があるものに限る。次
項において「特例届出書等」という。)を,その年の翌年三月十五日まで
に,その者の所得税の納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
(5)8項ないし10項〔省略〕
第4租税条約の実施に伴う所得税法,法人税法及び地方税法の特例等に関する法
律の施行に関する省令第9条の2第2項の規定に基づき,同項に規定する総務大
臣及び財務大臣が定める規定(平成16年総務省,財務省告示第2号。平成22
年総務省,財務省告示第1号による改正前のもの。以下「本件総務大臣等告示」
という。)
租税条約の実施に伴う所得税法,法人税法及び地方税法の特例等に関する法
律の施行に関する省令(昭和44年大蔵省/自治省令第1号)第9条の2第2
項の規定に基づき,同項に規定する総務大臣及び財務大臣が定める規定を次の
ように定め,平成16年4月1日から適用する。
一所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国
政府とアメリカ合衆国政府との間の条約第22条1,2及び4
二ないし四〔省略〕
第5所得税法
1第2条(定義)
(1)1項
この法律において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めると
ころによる。
一国内この法律の施行地をいう。
二国外この法律の施行地外の地域をいう。
三居住者国内に住所を有し,又は現在まで引き続いて1年以上居所を有
する個人をいう。
四[省略]
五非居住者居住者以外の個人をいう。
六ないし四十八[省略]
(2)2項[省略]
2第5条(納税義務者)
(1)1項
居住者は,この法律により,所得税を納める義務がある。
(2)2項
ア平成19年法律第6号による改正前のもの(平成17年分及び平成18
年分について)
非居住者は,第161条(国内源泉所得)に規定する国内源泉所得(以
下この条において「国内源泉所得」という。)を有するときは,この法律
により,所得税を納める義務がある。
イ平成19年法律第6号による改正後のもの(平成19年分及び平成20
年分について)
非居住者は,次に掲げる場合には,この法律により,所得税を納める義
務がある。
一第161条(国内源泉所得)に規定する国内源泉所得([括弧内省略])
を有するとき([括弧内省略])
二[省略]
(3)3項及び4項[省略]
3第7条(課税所得の範囲)
(1)1項
所得税は,次の各号に掲げる者の区分に応じ当該各号に定める所得につい
て課する。
一及び二[省略]
三非居住者第164条第1項各号(非居住者に対する課税の方法)に掲
げる非居住者の区分に応じそれぞれ同項各号及び同条第2項各号に掲げる
国内源泉所得
四及び五[省略]
(2)2項[省略]
4第86条(基礎控除)
(1)1項
居住者については,その者のその年分の総所得金額,退職所得金額又は山
林所得金額から38万円を控除する。
(2)2項
前項の規定による控除は,基礎控除という。
5第156条(推計による更正又は決定)
税務署長は,居住者に係る所得税につき更正又は決定をする場合には,その
者の財産若しくは債務の増減の状況,収入若しくは支出の状況又は生産量,販
売量その他の取扱量,従業員数その他事業の規模によりその者の各年分の各種
所得の金額又は損失の金額(その者の提出した青色申告書に係る年分の不動産
所得の金額,事業所得の金額及び山林所得の金額並びにこれらの金額の計算上
生じた損失の金額を除く。)を推計して,これをすることができる。
6第161条(国内源泉所得)
この編において「国内源泉所得」とは,次に掲げるものをいう。
一国内において行う事業から生じ,又は国内にある資産の運用,保有若しく
は譲渡により生ずる所得(次号から第12号までに該当するものを除く。)
その他その源泉が国内にある所得として政令で定めるもの
二ないし十二[省略]
7第162条(租税条約に異なる定めがある場合の国内源泉所得)
日本国が締結した所得に対する租税に関する二重課税防止のための条約にお
いて国内源泉所得につき前条の規定と異なる定めがある場合には,その条約の
適用を受ける者については,同条の規定にかかわらず,国内源泉所得は,その
異なる定めがある限りにおいて,その条約に定めるところによる。この場合に
おいて,その条約が同条第2号から第12号までの規定に代わって国内源泉所
得を定めているときは,この法律中これらの号に規定する事項に関する部分の
適用については,その条約により国内源泉所得とされたものをもってこれに対
応するこれらの号に掲げる国内源泉所得とみなす。
8第164条(非居住者に対する課税の方法)
(1)1項
非居住者に対して課する所得税の額は,次の各号に掲げる非居住者の区分
に応じ当該各号に掲げる国内源泉所得について,次節第一款(非居住者に対
する所得税の総合課税)の規定を適用して計算したところによる。
一国内に支店,工場その他事業を行う一定の場所で政令で定めるものを有
する非居住者すべての国内源泉所得
二ないし四[省略]
(2)2項[省略]
9第165条(総合課税に係る所得税の課税標準,税額等の計算)
前条第1項各号に掲げる非居住者の当該各号に掲げる国内源泉所得について
課する所得税(以下この節において「総合課税に係る所得税」という。)の課
税標準及び所得税の額は,当該各号に掲げる国内源泉所得について,政令で定
めるところにより,前編第一章から第四章まで(居住者に係る所得税の課税標
準,税額等の計算)([括弧内省略])の規定に準じて計算した金額とする。
10第168条(更正及び決定)
前編第7章(居住者に係る更正及び決定)の規定は,非居住者の総合課税に
係る所得税についての更正又は決定について準用する。
第6所得税法施行令
1第279条(国内において行なう事業から生ずる所得)
(1)1項
国内及び国外の双方にわたって事業を行なう個人については,次の各号に
掲げる場合の区分に応じ当該各号に掲げる所得は,その個人の法第161条
第1号(国内源泉所得)に規定する国内において行なう事業から生ずる所得
とする。
一その個人が国外において譲渡を受けたたな卸資産(動産に限る。以下こ
の条において同じ。)につき国外において製造,加工,育成その他の価値
を増加させるための行為(以下この条において「製造等」という。)をし
ないで,これを国内において譲渡する場合(当該たな卸資産につき国内に
おいて製造等をして,その製造等により取得したたな卸資産を譲渡する場
合を含む。)その国内における譲渡により生ずるすべての所得
二ないし七[省略]
(2)2項[省略]
(3)3項
第1項に規定する個人が次に掲げる行為をする場合には,当該行為からは
所得が生じないものとして,同項の規定を適用する。
一その個人が国内又は国外において行なう事業のためにそれぞれ国外又は
国内において行なう広告,宣伝,情報の提供,市場調査,基礎的研究その
他当該事業の遂行にとつて補助的な機能を有する行為
二その個人が国内又は国外において行なう事業に属する金銭,工業所有権
その他の資産をそれぞれその個人が国外又は国内において行なう事業の用
に供する行為
(4)4項
第1項第1号若しくは第2号又は第2項に規定するたな卸資産について次
に掲げる事実のいずれかがある場合には,国内において当該資産の譲渡があ
ったものとして,これらの規定を適用する。
一譲受人に対する引渡しの時の直前において,その引渡しに係るたな卸資
産が国内にあり,又は譲渡人である個人の国内において行なう事業(その
個人の法第164条第1項第1号(国内に恒久的施設を有する非居住者)
に規定する事業を行なう一定の場所を通じて国内において行なう事業又は
同項第2号若しくは第3号に規定する事業をいう。)を通じて管理されて
いたこと。
二譲渡に関する契約が国内において締結されたこと。
三譲渡に関する契約を締結するための注文の取得,協議その他の行為のう
ちの重要な部分が国内においてされたこと。
(5)5項及び6項[省略]
2第289条(非居住者の有する支店その他事業を行なう一定の場所)
(1)1項
法第164条第1項第1号(非居住者に対する課税の方法)に規定する政
令で定める場所は,次に掲げる場所とする。
一支店,出張所その他の事業所若しくは事務所,工場又は倉庫(倉庫業者
がその事業の用に供するものに限る。)
二鉱山,採石場その他の天然資源を採取する場所
三その他事業を行なう一定の場所で前二号に掲げる場所に準ずるもの
(2)2項
次に掲げる場所は,前項の場所に含まれないものとする。
一非居住者がその資産を購入する業務のためにのみ使用する一定の場所
二非居住者がその資産を保管するためにのみ使用する一定の場所
三非居住者が広告,宣伝,情報の提供,市場調査,基礎的研究その他その
事業の遂行にとつて補助的な機能を有する事業上の活動を行なうためにの
み使用する一定の場所
第7国税通則法(以下「通則法」という。)
1第66条(無申告加算税)
(1)1項
ア平成18年法律第10号による改正前のもの(平成17年分について)
次の各号の一に該当する場合には,当該納税者に対し,当該各号に規定
する申告,更正又は決定に基づき第35条第2項(期限後申告等による納
付)の規定により納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算し
た金額に相当する無申告加算税を課する。ただし,期限内申告書の提出が
なかったことについて正当な理由があると認められる場合は,この限りで
ない。
一期限後申告書の提出又は第25条(決定)の規定による決定があった
場合
二期限後申告書の提出又は第25条の規定による決定があった後に修正
申告書の提出又は更正があった場合
イ平成18年法律第10号による改正後のもの(平成18年分ないし平成
20年分について)
次の各号のいずれかに該当する場合には,当該納税者に対し,当該各号
に規定する申告,更正又は決定に基づき第35条第2項(期限後申告等に
よる納付)の規定により納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて
計算した金額に相当する無申告加算税を課する。ただし,期限内申告書の
提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合は,この
限りでない。
一期限後申告書の提出又は第25条(決定)の規定による決定があった
場合
二期限後申告書の提出又は第25条の規定による決定があった後に修正
申告書の提出又は更正があった場合
(2)2項[平成18年法律第10号による改正後のもの(平成18年分ないし
平成20年分について)]
前項の規定に該当する場合において,同項に規定する納付すべき税額(同
項第2号の修正申告書の提出又は更正があったときは,その国税に係る累積
納付税額を加算した金額)が50万円を超えるときは,同項の無申告加算税
の額は,同項の規定にかかわらず,同項の規定により計算した金額に,当該
超える部分に相当する税額(同項に規定する納付すべき税額が当該超える部
分に相当する税額に満たないときは,当該納付すべき税額)に100分の5
の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする。
(3)3項ないし6項[省略]
2第118条(国税の課税標準の端数計算等)
(1)1項
国税(印紙税及び附帯税を除く。以下この条において同じ。)の課税標準
(その税率の適用上課税標準から控除する金額があるときは,これを控除し
た金額。以下この条において同じ。)を計算する場合において,その額に1
000円未満の端数があるとき,又はその全額が1000円未満であるとき
は,その端数金額又はその全額を切り捨てる。
(2)2項[省略]
(3)3項
附帯税の額を計算する場合において,その計算の基礎となる税額に1万円
未満の端数があるとき,又はその税額の全額が1万円未満であるときは,そ
の端数金額又はその全額を切り捨てる。
第8特定商取引に関する法律(平成20年法律第74号による改正前のもの。以
下「特定商取引法」という。)
1第2条(定義)
(1)1項[省略]
(2)2項
この章[中略]において「通信販売」とは,販売業者又は役務提供事業者
が郵便その他の経済産業省令で定める方法(以下「郵便等」という。)によ
り売買契約又は役務提供契約の申込みを受けて行う指定商品若しくは指定権
利の販売又は指定役務の提供であって電話勧誘販売に該当しないものをいう。
(3)3項及び4項[中略]
2第11条(通信販売についての広告)
(1)1項
販売業者又は役務提供事業者は,通信販売をする場合の指定商品若しくは
指定権利の販売条件又は指定役務の提供条件について広告をするときは,経
済産業省令で定めるところにより,当該広告に,当該商品若しくは当該権利
又は当該役務に関する次の事項を表示しなければならない。ただし,当該広
告に,請求により,これらの事項を記載した書面を遅滞なく交付し,又はこ
れらの事項を記録した電磁的記録([括弧内省略])を遅滞なく提供する旨
の表示をする場合には,販売業者又は役務提供事業者は,経済産業省令で定
めるところにより,これらの事項の一部を表示しないことができる。
一商品若しくは権利の販売価格又は役務の対価(販売価格に商品の送料が
含まれない場合には,販売価格及び商品の送料)
二商品若しくは権利の代金又は役務の対価の支払の時期及び方法
三商品の引渡時期若しくは権利の移転時期又は役務の提供時期
四商品の引渡し又は権利の移転後におけるその引取り又は返還についての
特約に関する事項(その特約がない場合には,その旨)
五前各号に掲げるもののほか,経済産業省令で定める事項
(2)2項[省略]
第9特定商取引に関する法律施行規則(平成20年経済産業省令第74号による
改正前のもの。以下「特定商取引法施行規則」という。)
第8条(通信販売についての広告)
(1)1項
特定商取引法11条1項5号の経済産業省令で定める事項は,次のとおり
とする。
一販売業者又は役務提供事業者の氏名又は名称,住所及び電話番号
二ないし十[省略]
(2)2項[省略]
以上
(別紙3)
本件各処分の根拠及び適法性(被告の主張)
1推計課税の必要性について
本件調査担当職員は,平成20年10月8日に本件調査を開始して以後,原
告に対し,調査協力及び帳簿書類等の提示を再三にわたり求めたにもかかわら
ず,原告は,本件各係争年分に係る帳簿書類等を提示しなかった。したがって,
処分行政庁は,本件各係争年分に係る原告の所得金額を実額で把握することが
できなかったのであり,本件について,推計課税の必要性が認められることは
明らかである。
2本件各所得税決定処分の根拠について
被告が本件訴訟において主張する原告の本件各係争年分の所得税額等は,次
のとおりである。
(1)平成17年分
ア総所得金額1801万5586円
上記金額は,事業所得の金額であり,その算出過程は次のとおりである。
事業所得の金額は,事業所得の総収入金額1億2685万9852円に,
原告の平成16年分所得税青色申告決算書(乙26)の事業所得に係る総
収入金額8231万1987円に占める青色申告特別控除前の所得金額1
175万6853円の割合(原告所得率)14.28%(小数点第2位未
満切捨て)を乗じて算出した金額から青色申告特別控除の額10万円を差
し引いた金額である(別表2「事業所得の金額」の「平成17年分」欄参
照)。
イ所得控除の額38万円
上記金額は,所得税法165条の規定により非居住者に準用される同法
86条に規定する基礎控除の金額である。
ウ課税総所得金額1763万5000円
上記金額は,上記アの総所得金額1801万5586円から上記イの所
得控除の額38万円を控除した後の金額(ただし,通則法118条1項の
規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。)である。
エ納付すべき税額381万0500円
上記金額は,次の(ア)の金額から(イ)の金額を差し引いた後の金額であ
る。
(ア)課税総所得金額に対する税額406万0500円
上記金額は,上記ウの課税総所得金額1763万5000円に所得税
法(平成18年法律第10号による改正前のもの)89条1項の税率を
乗じて算出した金額である。
(イ)定率減税額25万円
上記金額は,経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び
法人税の負担軽減措置に関する法律(平成17年法律第21号による改
正前のもの。なお,上記の負担軽減措置に関する法律〔以下「負担軽減
措置法」という。〕は,平成18年法律第10号により廃止された。)
6条2項により算出した金額である。
(2)平成18年分
ア総所得金額1649万7524円
上記金額は,事業所得の金額であり,事業所得の総収入金額1億162
2万9166円に,原告所得率14.28%を乗じて算出した金額から青色
申告特別控除の額10万円を差し引いた金額である(別表2の「平成18
年分」欄参照)。
イ所得控除の額38万円
上記金額は,所得税法165条の規定により非居住者に準用される同法
86条に規定する基礎控除の金額である。
ウ課税総所得金額1611万7000円
上記金額は,上記アの総所得金額1649万7524円から上記イの所
得控除の額38万円を控除した後の金額(ただし,通則法118条1項の
規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。)である。
エ納付すべき税額348万0100円
上記金額は,次の(ア)の金額から(イ)の金額を差し引いた後の金額であ
る。
(ア)課税総所得金額に対する税額360万5100万円
上記金額は,上記ウの課税総所得金額1611万7000円に所得税
法(平成18年法律第10号による改正前のもの)89条1項の税率を
乗じて算出した金額である。
(イ)定率減税額12万5000円
上記金額は,負担軽減措置法6条2項により算出した金額である。
(3)平成19年分
ア総所得金額1547万0424円
上記金額は,事業所得の金額であり,事業所得の総収入金額1億090
3万6587円に,原告所得率14.28%を乗じて算出した金額から青色
申告特別控除の額10万円を差し引いた金額である(別表2の「平成19
年分」欄参照)。
イ所得控除の額38万円
上記金額は,所得税法165条の規定により非居住者に準用される同法
86条に規定する基礎控除の金額である。
ウ課税総所得金額1509万円
上記金額は,上記アの総所得金額1547万0424円から上記イの所
得控除の額38万円を控除した後の金額(ただし,通則法118条1項の
規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。)である。
エ納付すべき税額344万3700円
上記金額は,上記ウの課税総所得金額1509万円に所得税法(平成2
5年法律第5号による改正前のもの)89条1項の税率を乗じて算出した
金額である。
(4)平成20年分
ア総所得金額1299万0510円
上記金額は,事業所得の金額であり,事業所得の総収入金額9167万
0241円に,原告所得率14.28%を乗じて算出した金額から青色申告
特別控除の額10万円を差し引いた金額である(別表2の「平成20年分」
欄参照)。
イ所得控除の額38万円
上記金額は,所得税法165条の規定により非居住者に準用される同法
86条に規定する基礎控除の金額である。
ウ課税総所得金額1261万円
上記金額は,上記アの総所得金額1299万0510円から上記イの所
得控除の額38万円を控除した後の金額(ただし,通則法118条1項の
規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。)である。
エ納付すべき税額262万5300円
上記金額は,上記ウの課税総所得金額1261万円に所得税法(平成2
5年法律第5号による改正前のもの)89条1項の税率を乗じて算出した
金額である。
3推計課税の合理性について
本件における推計の方法は,原告の平成16年分の事業所得に係る青色申告
特別控除前の所得金額の総収入金額に占める割合を本人比率(原告所得率)と
して算出して,本件調査により把握した本件各係争年分における原告の事業所
得の総収入金額に当該本人比率(原告所得率)を乗じて原告の所得金額を算出
するというものである。そして,①平成16年分の原告の申告が所得税法14
3条に規定する青色申告であって,申告内容に正確性が認められること,②平
成16年分に係る本件販売事業の総収入金額は,8231万1987円であっ
て,本件各所得税決定処分の各総収入金額(別表2の各年分の「①総収入金額」
欄参照)との間に大差がないこと,③本件販売事業は,平成16年10月23
日に原告が出国する前後において,本件アパート等を賃借して在庫販売形態に
より外国製自動車用品をインターネットを通じて販売するという基本的内容,
態様の変更がないことからすると,原告所得率を用いた本件における推計の方
法は合理的である。
4本件各所得税決定処分の適法性について
被告が,本訴において主張する原告の本件各係争年分の所得税の納付すべき
税額は,それぞれ,①平成17年分381万0500円(前記2(1)エ),②
平成18年分348万0100円(前記2(2)エ),③平成19年分344
万3700円(前記2(3)エ),④平成20年分262万5300円(前記2
(4)エ)であるところ,これらの金額は,いずれも本件各所得税決定処分におけ
る納付すべき税額(別表1の本件各係争年分の「決定処分等」の「納付すべき
税額」欄参照)と同額であるから,本件各所得税決定処分は,いずれも適法で
ある。
5本件各賦課決定処分の根拠及び適法性について
上記4で述べたとおり,本件各所得税決定処分はいずれも適法であるところ,
原告が本件各係争年分の所得税について期限内申告書を提出しなかったことに
つき通則法(平成17年分につき平成18年法律第10号改正前のもの。)6
6条1項の「正当な理由」があるとは認められない。
被告が本訴において主張する原告の本件各係争年分の無申告加算税の額は,
次の(1)ないし(4)記載のとおりであるところ,これらの金額は,いずれも本件
各賦課決定処分の無申告加算税の額(別表1の本件各係争年分の「決定処分等」
の「無申告加算税の額」欄参照)と同額であるから,本件各賦課決定処分は適
法である。
(1)平成17年分57万1500円
上記金額は,通則法(平成18年法律第10号による改正前のもの)66
条1項の規定に基づき,原告の平成17年分の所得税の決定処分に係る納付
すべき税額381万円(ただし,同法118条3項の規定により1万円未満
の端数を切り捨てた後のもの)に100分の15の割合を乗じて計算した金
額である。
(2)平成18年分67万1000円
上記金額は,通則法66条1項の規定に基づき,原告の平成18年分の所
得税の決定処分に係る納付すべき税額348万円(ただし,同法118条3
項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の15
の割合を乗じて計算した金額52万2000円と,同法66条2項の規定に
基づき上記納付すべき税額348万0100円のうち50万円を超える部分
に相当する税額298万円(ただし,同法118条3項の規定により1万円
未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の5の割合を乗じて計算した
金額14万9000円との合計額である。
(3)平成19年分66万3000円
上記金額は,通則法66条1項の規定に基づき,原告の平成19年分の所
得税の決定処分に係る納付すべき税額344万円(ただし,同法118条3
項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の15
の割合を乗じて計算した金額51万6000円と,同法66条2項の規定に
基づき上記納付すべき税額344万3700円のうち50万円を超える部分
に相当する税額294万円(ただし,同法118条3項の規定により1万円
未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の5の割合を乗じて計算した
金額14万7000円との合計額である。
(4)平成20年分49万9000円
上記金額は,通則法66条1項の規定に基づき,原告の平成20年分の所
得税の決定処分に係る納付すべき税額262万円(ただし,同法118条3
項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の15
の割合を乗じて計算した金額39万3000円と,同法66条2項の規定に
基づき上記納付すべき税額262万5300円のうち50万円を超える部分
に相当する税額212万円(ただし,同法118条3項の規定により1万円
未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の5の割合を乗じて計算した
金額10万6000円との合計額である
以上

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