弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1被告は,原告有限会社Aに対し,361万1089円及びこれに対する平
成12年3月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告は,原告Bに対し,126万5305円及びこれに対する平成12年
3月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告は,原告Cに対し,58万9438円及びこれに対する平成12年3
月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4被告は,原告Dに対し,18万7135円及びこれに対する平成12年3
月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
6訴訟費用は,これを10分し,その1を被告の負担とし,その余は原告ら
の負担とする。
7この判決は,第1項ないし第4項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は,
①原告有限会社Aに対し,2848万1191円,
②原告Bに対し,1357万2975円,
③原告Cに対し,1133万1833円,
④原告Dに対し,277万5751円
及びこれらに対する平成12年3月24日から支払済みまで年5分の割合によ
る金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,観光地引き網,しらす漁等を営む原告らが,神奈川県藤沢市KL丁
目所在の被告藤沢工場(以下「藤沢工場」という)内に設置された廃棄物焼。
却炉の排ガス洗浄施設の排水管が雨水管に誤接続されたこと(以下「本件誤接
続」という)により,平成4年11月ころから平成12年3月23日にかけ。
て,上記排ガス洗浄施設からダイオキシン類を含む排水が藤沢市内を流れて江
ノ島の西側約1.5キロメートルの相模湾に注ぐ引地川に排出され続けた(以
下「本件ダイオキシン事故」という)結果,この事実が,同月24日(以下。
「本件報道日」という)以降,テレビ等によって全国的に報道されたことに。
より,引地川河口付近での観光地引き網の予約キャンセル,しらすの販売減少
等により営業損害等を被ったと主張して,被告に対し,民法709条又は71
7条1項に基づき,原告有限会社A(以下「原告A」という)につき284。
8万1191円,原告Bにつき1357万2975円,原告Cにつき1133
万1833円,原告Dにつき277万5751円及びこれらに対する不法行為
後の日である平成12年3月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金の支払を求めた事案である。
これに対し,被告は,本件誤接続につき工作物責任を負うことについては争
わないものの,原告らに損害が生じたこと及び損害と本件誤接続との間に相当
因果関係があることを否認しかつ原告らの委任を受けた各漁業協同組合以,,(
下「漁協」という)の組合長との間で,本件ダイオキシン事故に関する補償。
契約を締結し,同契約に基づいて6300万円の補償金(以下「本件補償金」
という)を支払ったので本件誤接続に関する原告らとの紛争は解決済みであ。
る旨主張して,原告らの請求を争った。
1争いのない事実等(証拠によって認定した事実については,当該認定事実の
末尾に証拠を摘示する)。
(1)当事者等
ア原告A(甲14,49,98,原告A代表者本人,弁論の全趣旨)
原告Aは,地引き網漁,水産物の加工販売等を目的とする有限会社であ
り,引地川の河口付近において観光地引き網,しらす漁,ながらみ漁を行
い,しらすの加工販売等を営む者である。
原告Aは,M漁業協同組合(以下「M漁協」という)に所属している。
イ原告B(甲99,証人F)
原告Bは,引地川の河口付近においてしらす漁を行い,しらすの加工販
売等を営む者である。
原告Bは,N漁業協同組合(以下「N漁協」という)に所属している。
ウ原告C(甲14,49,100,原告C本人)
原告Cは,引地川の河口付近において観光地引き網を営む者である。
原告Cは,N漁協に所属している。
エ原告D(甲3の24,32,101,原告D本人)
,。原告Dは引地川の河口付近で捕れたしらす鰻の仲買業を営む者である
オ被告(甲3の1,弁論の全趣旨)
被告は,風水力機械の製造販売等を目的とする株式会社である。
被告は,神奈川県藤沢市KL丁目に藤沢工場を設置している。
カM漁協及びN漁協(以下「両漁協」という)の組合長。
(ア)M漁協の平成12年3月ないし平成14年5月17日における代表
理事組合長は,Hであった。
(イ)N漁協の平成12年3月ないし平成14年5月17日における代表
理事組合長は,Iであった。
(2)河水のダイオキシン類に関する環境庁の基準値(甲3の1ないし24,
乙14)
河水のダイオキシン類に関する環境庁の基準値は,本件ダイオキシン事故
の発生当時,1pg-TEQ/L(2-3-7-8四塩化ジベンゾダイオキ
シン換算で1リットル当たり1兆分の1グラム)であった。
(3)本件ダイオキシン事故の発生等
ア本件誤接続(甲1,2)
藤沢工場は,工場内の排水管の誤接続により,平成4年11月ころから
平成12年3月23日まで,同工場に設置された廃棄物焼却炉の廃ガス洗
浄施設の排水(ダイオキシン類が含まれている)を,未処理のまま,引。
地川水系稲荷雨水幹線を通じて,引地川(高名橋の橋脚下)に排出してい
た。
イ環境庁の調査(甲1)
環境庁は,平成11年9月24日,引地川の富士見橋(高名橋の下流)
で,以下の(ア)及び(イ)のとおり,高濃度のダイオキシン類が検出されたこ
とを発表した。
(ア)平成10年8月24日採水4.5pg-TEQ/L
(イ)同年12月10日採水2.5pg-TEQ/L
ウ藤沢市の調査(甲1)
(ア)平成11年10月から同年12月まで
藤沢市は,平成11年10月6日,引地川の水を3か所で採水し,業
者に分析を依頼した。
その結果,同年12月6日,業者から,長後天神添橋及び蓼中橋(い
ずれも高名橋より上流)のダイオキシン濃度が,それぞれ0.33及び
1.1pg-TEQ/Lであり,富士見橋のダイオキシン濃度が,8.
1pg-TEQ/Lであるとの報告を受けた。
(イ)平成12年1月から同年3月まで
藤沢市は,引地川の水を,平成12年1月26日に6か所で,同年2
月16日に7か所で採水し,業者に分析を依頼した。
その結果,同年3月21日,業者から,稲荷雨水幹線出口のダイオキ
シン濃度が,速報値であるものの,平成12年1月26日採水分が32
00pg-TEQ/L,同年2月16日採水分が8100pg-TEQ
/Lであるとの報告を受けた。
(ウ)平成12年3月21日及び同月22日
藤沢市は,稲荷雨水幹線に入り込んでいる枝管を調査し,被告の藤沢
工場と接続していると思われる枝管を発見した。
エ神奈川県及び藤沢市の立入調査(甲1)
神奈川県及び藤沢市は,平成12年3月23日,藤沢工場に立入調査を
行い,同工場の廃棄物焼却炉の廃ガス洗浄施設の排水が,未処理のまま,
引地川水系稲荷雨水幹線に流れ込んでいることを発見した。
神奈川県及び藤沢市は,被告に対し,藤沢工場の廃棄物焼却炉及び廃ガ
ス洗浄施設の排水の排出停止を命じ,併せて,当分の間の同施設の運転停
止を命じた。
オ環境庁,神奈川県及び藤沢市の立入調査(甲1)
環境庁,神奈川県及び藤沢市は,平成12年3月24日,再び藤沢工場
に立入調査を行い,廃棄物焼却炉及び廃ガス洗浄施設が停止していること
を確認した。
なお,藤沢市は,業者から,同日,平成12年1月26日及び同年2月
16日採水のダイオキシン濃度が,速報値であるものの,以下のとおりで
あるとの報告を受けた。なお,以下の採水地点のうち,富士見橋以外は,
すべて稲荷雨水幹線より上流である。
(ア)平成12年1月26日採水
a土棚雨水3号幹線0.35pg-TEQ/L
b小糸川1.0pg-TEQ/L
c一色川2.2pg-TEQ/L
d不動川0.81pg-TEQ/L
e富士見橋9.7pg-TEQ/L
(イ)平成12年2月16日採水
a土棚雨水3号幹線0.13pg-TEQ/L
b小糸川0.22pg-TEQ/L
c一色川1.2pg-TEQ/L
d不動川0.55pg-TEQ/L
e石川橋2.6pg-TEQ/L
f富士見橋4.4pg-TEQ/L
カ環境庁,神奈川県及び被告の記者会見(甲1)
環境庁,神奈川県及び被告は,平成12年3月24日午後8時ころ,本
件ダイオキシン事故に関する記者会見を行った。
キ藤沢市の記者会見(甲1)
藤沢市は,平成12年3月25日午前9時30分ころ,本件ダイオキシ
ン事故に関する記者会見を行った。
同市は,本件ダイオキシン事故に関し「引地川ダイオキシン汚染庁内,
対策本部」を設置した。
ク市民への注意喚起(甲1)
藤沢市は,平成12年3月25日から,少なくとも同月27日まで,引
地川でパトロールを行い,釣り人,川遊びをしている児童等に対して注意
喚起を行った。
ケ環境庁らの連絡調整会議(甲1)
環境庁,神奈川県及び藤沢市は,平成12年3月26日,本件ダイオキ
シン事故に関し「引地川ダイオキシン汚染事件対応連絡調整会議(以,」
,「」。)。下この会議のことを環境庁らの連絡調整会議というを設置した
コ速報値の確定(甲3の11)
藤沢市は,平成12年3月31日,同年1月26日及び同年2月16日
に採水した稲荷雨水幹線及び富士見橋のダイオキシン類濃度の確定値が,
速報値のとおりであると発表した。
(4)マスコミによる報道
本件ダイオキシン事故は,本件報道日のテレビ報道を初めとして,同日以
降,新聞,テレビ,ラジオ等により,全国的に報道された(甲3の1ないし
24。)
なお,新聞各紙は,本件ダイオキシン事故が周辺の魚介類や漁業関係者の
営業に及ぼす影響に関して,次のように報道した。
ア平成12年3月25日付け朝日新聞(朝刊,夕刊)
(ア)見出し(甲3の1,3の2,3の4及び3の5)
「高濃度ダイオキシン流出「E藤沢工場基準の8000倍雨」,
水路に「泥や魚類への蓄積を懸念ダイオキシン汚染「漁協など」,」,
に不安広がる「ダイオキシン流出E藤沢」」,
(イ)内容
a環境庁と神奈川県は,平成12年3月24日,藤沢工場付近の雨水
路の水から,最高で環境庁の基準の8100倍にあたる1リットル中
8100ピコグラムのダイオキシン類を検出したと発表した。公共水
域で検出された濃度としては過去最高だ(甲3の1)。
b排水は92年夏から流されていたらしい。引地川は相模湾に注いで
おり,河口近くには漁港や海水浴場がある(甲3の1)。
c排水は約8年間にわたって,海水客でにぎわう湘南海岸へと流れて
いた(甲3の5。ただし湘南版)。
d環境科学の専門家の話(甲3の1)
かりに排水としても1リットルあたり1000ピコグラムを超える
ダイオキシン類汚染というのは聞いたことがない。非常に高い値だ。
問題なのは,まわりの環境への汚染の広がりだ。川底や海底の泥など
と魚類の汚染実態を調べる必要がある。魚の体内には水の5000倍
から1万倍に濃縮されて蓄積される。調査の結果,高濃度であれば,
対策が必要になるだろう。
e解説(甲3の2)
被告藤沢工場からの高濃度のダイオキシン類流出について,専門家
は,排出直後の濃度より,川底や海底の泥での蓄積,魚類の体内での
濃縮を心配している。ダイオキシン類はごみの焼却で煙突から排出さ
れる印象が強いが,水を通じた汚染も広がりと蓄積の点で影響は大き
い。
イ平成12年3月25日付け読売新聞(甲3の3)
(ア)見出し
「超高濃度ダイオキシン「藤沢市の工場近くの川基準の810」,
0倍検出」
(イ)内容
環境庁は(平成12年3月)24日夜,神奈川県藤沢市のプラントメ
ーカー「E」の藤沢工場近くの引地川の水から,環境基準の最高810
0倍に当たる8100ピコ・グラムと超高濃度のダイオキシン類が検出
されたと発表した。これまで川や海など公共用水域で測定されたダイオ
キシン類の最高値は津市の岩田川で98年に検出された25ピコ・グラ
ムで,過去最悪の汚染事例となった。
ウ平成12年3月26日付け朝日新聞(甲3の6)
(ア)見出し
「長期汚染に住民不安「地元に「風評被害」なし」」,
(イ)内容
地元の魚や野菜などの売り上げに「風評被害」は見られず,小売業者
らはほっと胸をなでおろした。
エ平成12年3月28日付け読売新聞(甲3の7)
(ア)見出し
「緊急対策本部設置漁協,被害状況提出へ」
(イ)内容
a風評被害では,R地区漁業連絡協議会の参加する,Sほか7漁協に
よると,問屋にシラスやカマスを卸そうとしたところ「安全宣言が,
出るまでは引き取れない」と断られるケースがあり,キロ当たり30
,。円のマルアジが10円から20円で買いたたかれた例も出たという
このほか,釣り客を乗せる遊漁船や観光引き網でも「ダイオキシン,
が心配だ」と予約の取り消しも出ている。
b環境庁は(平成12年3月)27日,昨年9月から今年2月まで行
った調査結果を発表したが,そのなかで,鎌倉市由比ガ浜沖のシラス
のダイオキシン濃度は1グラム当たり0.4ピコグラムと低い値で,
「特別に心配される状況ではない」としている。
オ平成12年3月30日付け読売新聞(甲3の9)
(ア)見出し
「藤沢ダイオキシン流出農作物,魚の影響調査へ」
(イ)内容
環境庁と神奈川県,藤沢市で構成する「連絡調整会議」の第1回会合
が(平成12年3月)29日,県庁内で開かれ,来月上旬までに周辺の
農作物や地下水,相模湾の魚などの影響調査を行うことを決めた。
カ平成12年4月1日付け朝日新聞(甲3の10)
(ア)見出し
「」,「「」」消えぬ不安解消祈るみんなに安心を切実漁業関係者の声
(イ)内容
a神奈川県は(平成12年3月)27日に「シラスは安全」との見解
を出した。環境庁も・・・海水は安全で海の魚も問題ない」と発表「
した。
b神奈川県水産課長は「調査で安全性の再確認をしたい」と話す。た
だ,引地川のコイからは1998年度の環境庁調査で1グラム当たり
12ピコグラムのダイオキシンが出たことから「川魚は食べない方が
いい」という。
c神奈川県大気水質課の担当者は「川の水に触ったら,念のために手
を洗った方がいい。井戸水をいつも飲んでいる人は少ないだろうし,
,,農作物が水からダイオキシンを吸収することも少ないので両方とも
大きな危険性はないと考えている。」
キ平成12年4月2日付け読売新聞(甲3の13)
(ア)見出し
「市民集会で改めて謝罪「E健康相談の電話開設」」,
(イ)内容
a藤沢工場のダイオキシン排水流出問題で・・・市民集会が(平成1
2年4月)1日,藤沢市本町の市労働会館で開かれた。
b引地川に流出したダイオキシンの総量が依然として不明なことや,
焼却炉排水の雨水マス誤接続の原因がまだ解明できないことなどに対
する市民の不満は強く,会場には約200人が詰めかけた。
c出席者からは「引地川が流れ込む海の魚を食べて大丈夫か「サ」,
ーファーの安全は保障できるのか」などといった質問が続出。
ク平成12年4月13日付け朝日新聞(甲3の19)
(ア)見出し
「漁業に深刻な被害「市側報告漁価2割減,客足にも」」,
(イ)内容
a「漁業を中心に深刻な被害が広がっている・・・平成12年4。」(
月)12日,藤沢市議会の環境・災害対策特別委員会が開かれ,地元
経済への影響を聞かれた市側は,市内の2つの漁業協同組合から聞き
取った内容について報告したうえでそう答えた。
それによると,かま揚げシラスは大手の取引業者から「安全宣言が
出るまで取引を控える」と言われ,4月に入ってからも,2日と3日
,。に水揚げしたシラスのうち売れたのは3分の1にとどまったという
・・・観光客向けの地引き網でも,5月の連休にかけて一部でキャン
セルが出て,3月29日,30日の2日間でも400人規模のキャン
セルがあったとされる。
b魚類へのダイオキシンの影響について藤沢市は市報の臨時号で,特
にシラスなどの回遊魚については環境庁のデータなどをもとに「ダ,
イオキシン濃度は低く問題はない」との見解を示している。
(5)環境庁らの連絡調整会議による報告
環境庁らの連絡調整会議は,平成12年5月31日「引地川水系ダイオ,
キシン汚染事件への対応(甲2,乙14)と題して,以下の発表をした。」
ア引地川水系稲荷雨水幹線のダイオキシン類汚染の原因は,被告の藤沢工
場に設置された廃棄物焼却炉の廃ガス洗浄施設の排水が,未処理のまま雨
水管を通じて排出されていたことにある。
イ廃棄物焼却炉の運転が始まった平成4年11月から平成12年3月まで
に,藤沢工場から環境中に排出されたダイオキシン類の量は,水系に3.
0g-TEQ,大気に1.4g-TEQの合計4.4g-TEQと推計さ
れる。
,,ウ周辺環境調査の結果や利水実態等から判断して周辺地域での日常生活
周辺海域での海水浴等のレジャー活動及び周辺海域で水揚げされる魚介類
の摂取によって,健康に影響が生じるおそれはないものと判断される。
ただし,引地川の魚類は比較的高濃度のダイオキシン類が検出されてい
ることから,食用に供さないことが望ましい。
(6)ダイオキシン対策協議会と被告との交渉
アダイオキシン対策協議会の結成(甲3の24,乙4)
R地区の10の漁協(M漁協及びN漁協を含む。以下同じ)が加盟す。
るR地区漁協連絡協議会(以下「連絡協議会」という)は,遅くとも平。
成12年3月30日ころまでに,ダイオキシン対策協議会(以下「対策協
議会」という)を結成した。対策協議会の会長は,T漁業協同組合の代。
表理事組合長であるGであった。
イ被告に対する申入れ(乙4)
対策協議会は,被告に対し,平成12年3月30日,本件ダイオキシン
事故により取引拒否がされるなど漁業者の業務に被害が及んでいるとし,
被告に誠意のある対応を望むこと等を申し入れた。
(,,)ウ補償手続に関する被告からの申入れ乙5の15の2弁論の全趣旨
被告は,対策協議会及び神奈川県漁業協同組合連合会(以下「県漁連」
という)に対し,平成12年11月10日,本件ダイオキシン事故の補。
,,,償に関する方針を示し各組合員ごとに損害が生じたとする営業の内容
期間,金額等を回答するよう求めるとともに,各組合員の確定申告書等の
提出を求めた。
エ対策協議会からの回答(乙6)
対策協議会は,被告に対し,平成13年2月13日,各漁協単位で損害
の調査を進めてきたので,被告から要請された方法による書類の提出は困
難であること,被害額については後日提示すること等を回答した。
オ両漁協における議決
(ア)通常総会の開催(乙13)
,,(「」aN漁協は平成13年2月27日通常総会以下本件通常総会
。),「」。というを開催し第10号議案その他を満場一致で可決した
本件通常総会の議事録には第10号議案その他に関してダ,「」,「
イオキシン委任の件「H12,3,25」突然発生し組合をはじ」,「
め県漁連藤沢市の御協力御努力により補償問題も進んでおります。R
地区10組合長の会議も再々開き大変尽力をつくしていられます。総
会においても,ダイオキシン問題はI組合長に委任致しますのでよろ
しくお願いします。組合員から満場一致で可決成立致しました」と。
の記載が存在している。
b本件通常総会には,総正組合員52名のうち32名が出席していた
(出席者には委任状による出席者11名を含む。)
c原告Bは,本件通常総会に出席し,第10号議案に賛成し「組合,
長におまかせします。よろしくおとりはからいをして下さい」と発。
言した。
,,「」d本件通常総会の開催通知には第10号議案についてはその他
としか記載されていなかった。
(イ)臨時総会の開催(乙12)
,,(「」aM漁協は平成13年3月15日臨時総会以下本件臨時総会
という)を開催し,第1号議案である「被告の)引地川水系ダイ。(
オキシン類流出汚染事故の損害補償に関する一切の権限を代表理事組
合長への委任に関する件」を,賛成多数で可決した。
b本件臨時総会には,総正組合員34名のうち31名が出席していた
(出席者には委任状による出席者13名を含む。)
カ対策協議会からの金額の提示(乙7)
対策協議会は,被告に対し,平成13年3月19日,本件ダイオキシン
事故の補償金として,合計6億6360万円(直接の漁業被害6億400
0万円,事務費1360万円,見舞金1000万円)の支払を請求した。
キ被告からの回答(乙8)
被告は,対策協議会に対し,平成13年3月23日,同月19日に提示
を受けた金額について,金額の根拠が確認できないとして,再度,各組合
員が受けた個々の損害に関する書類の提出を求めた。
また,被告は,対策協議会に対し「補償要求の根拠となる漁業協同組,
合の関係規則等による委任関係の書類(総会議事録,規約,定款,理事会
議事録等」の提出を求めた。)
クサンプル調査(甲98ないし100,証人J,原告D)
被告は,平成13年12月ころ,補償金額の算定のため,対策協議会を
構成する各漁協において,当該漁協の組合員等の一部につき,サンプル調
査を行った。
サンプル調査に参加した組合員等のうち,一部の者は,被告の求めに応
じて,税務申告書等の資料を提出した。
原告らは,全員,このサンプル調査に参加し,被告に対し,税務申告書
等の資料を提出した。
ケ被告からの金額の提示(乙9)
被告は,対策協議会に対し,平成14年3月6日,本件ダイオキシン事
故の補償金として,合計4500万円を支払う旨申し入れた。
コ対策協議会からの金額の提示(乙10)
対策協議会は,被告に対し,平成14年4月22日,本件ダイオキシン
事故の補償金として,合計8726万円の支払を請求した。
(7)弁護士からの受任通知(甲6)
原告訴訟代理人らは,原告らから,本件ダイオキシン事故の補償請求に関
する一切の件を受任し,平成14年5月10日,被告に対し,本件ダイオキ
シン事故の補償請求に関する受任通知(以下「本件受任通知」という)を。
発送し,同通知は,同月11日,被告に到達した。
なお,同通知には「平成14年5月7日,通知人らは,貴社に対する本,
件の補償請求に関する一切の件を当職らに委任し,法的な救済を求めること
と致しました。つきましては,今後,本件に関する一切を当職らが代理人と
して,対応致しますので,よろしくお願い致します」との記載がある。。
(8)補償契約の締結(乙1,2,11,証人J,同I,同G)
ア被告とR地区の10漁協及び県漁連の代表理事らは,平成14年5月1
7日,本件ダイオキシン事故につき,R地区の10漁協のすべての組合員
及び準組合員の有する損害賠償請求権を総額で6300万円とする内容の
補償契約を締結した(以下,この補償契約のことを「本件補償契約」とい
う。本件補償契約の当事者は,契約書上は,G(対策協議会)及び被告と
なっているが,R地区の10漁協の代表理事らも,同日ころには,本件補
償契約の内容について了承していたと認められる。。)
イ本件補償契約に係る契約書には,以下のような条項がある。
甲(R地区の10漁協及び県漁連を指す)は,本契約(本件補償契約。
を指す)に先立ち,次の各号に掲げる書類を乙(被告を指す)に提出。。
するものとする。
①各漁業協同組合代表理事組合長の印鑑証明書
②各漁業協同組合員(準組合員を含む)の印鑑証明書(但し,甲は,本
証明書を代理人保管とすることを認める)
③各漁業協同組合員(準組合員を含む)の各漁業協同組合代表理事組合
長に対する委任状
④甲のうちT漁業協同組合を除く各漁業協同組合代表理事組合長のT漁
業協同組合代表理事組合長に対する委任状
ウ本件では,上記イ②及び③で要求されているR地区の10漁協の組合員
(準組合員を含む)の各漁協代表理事組合長に対する委任状及び印鑑証明
書は,被告及び各漁協代表理事組合長のいずれに対しても,提出されてい
なかった(証人J)。
(9)本件補償金の支払及び分配
被告は,R地区の10漁協及び県漁連の代表理事らに対し,平成14年5
月24日,本件補償契約につき,6300万円の本件補償金を支払った。
本件補償金は,各漁協において各組合員に分配された。しかし,原告A,
原告B及び原告Cは,現在まで,本件補償金の分配を受けることを拒絶して
おり原告Dに関しては組合員ではないため分配の対象とされなかった証,。(
人I,証人F,原告A代表者本人,原告C本人)
(10)原告ら以外の漁協組合員の動向
R地区の10漁協の組合員のうち,原告ら以外には,本件補償金の分配額
につき,現在まで,被告に対して異議を述べた者はいない。
(11)本件補償契約の内容の開示について(甲98ないし100,弁論の全趣
旨)
原告らは,本件補償契約の締結以前には,本件補償金の金額を知らされて
いなかった。
また,原告らは,本訴訟に至るまで,本件補償契約の詳しい内容(契約文
言等)を知らされていなかった。
2争点及び争点に対する当事者の主張
(1)原告らは,両漁協の代表理事組合長らに対し,本件補償契約に先立ち,
本件補償契約の締結権限を授与したか。
ア被告の主張
原告らは,各漁協の代表理事組合長らに対し,次のとおり,本件補償契
約に先立ち,本件補償契約の締結権限を授与した。各漁協の代表理事組合
長らは,上記代理権に基づき,被告との間で本件補償契約を締結し,被告
から本件補償金6300万円の支払を受けたので,本件誤接続に関する原
告らと被告との紛争は解決済みである。
(ア)漁協の総会決議による委任
M漁協代表理事組合長であるH及びN漁協代表理事組合長であるI
は,本件臨時総会及び本件通常総会の各決議により,原告らから,本件
補償契約の締結に関する包括的な権限を与えられた。
aM漁協
原告Aが所属するM漁協は,平成13年3月15日,本件臨時総会
を開催し,第1号議案である「被告の)引地川水系ダイオキシン類(
流出汚染事故の損害補償に関する一切の権限を代表理事組合長への委
任に関する件」を,賛成多数で承認可決した。
b原告B
原告B,原告C及び原告Dの所属するN漁協は,平成13年2月2
7日,本件通常総会を開催し,第10号議案で「ダイオキシン委任の
件」として,本件ダイオキシン事故に関する損害補償についての一切
の権限を組合長であるIに委任する旨,満場一致で可決した。
c決議の効力
上記a及びbの各議決(以下「本件各決議」という)の効力は,。
両漁協のすべての組合員を拘束するものである。なぜなら,漁業協同
組合は,組合員の経済的地位の改善のために,団体協約の締結やこれ
に附帯する事業を行う権限があり(水産業協同組合法11条1項14
号,同16号,本件補償契約の締結も,団体協約締結交渉又はこれ)
に準ずる事業として,その権限の範囲にあるからである。
また,両漁協は,過去にも,本件と類似の補償契約を締結したこと
があるところ,その際にも,補償契約に関する委任は,総会決議によ
って行われており,両漁協には,補償交渉及び補償契約締結の委任に
関し,総会の決議によって決定するという慣行が存在していたといえ
る。
したがって,本件各決議により,両漁協の組合長らは,本件補償契
約の締結に関する包括的な権限を与えられたといえる。
(イ)原告らによる個別的な委任
仮に,本件各決議の効力が原告らに及ばないとしても,原告らは,両
漁協の代表理事組合長らに対し,明示又は黙示の意思表示により,本件
補償契約の締結権限を授与した。
a原告B
(a)総会決議への賛成
原告Bは,N漁協における本件通常総会において,本件ダイオキ
シン事故の損害補償に関する一切の権限をIに委任するという議案
を協議する際「組合長におまかせします。よろしくおとりはから,
いをして下さい」と発言し,上記議案に賛成している。。
そして,①本件通常総会の議事録には,補償交渉の権限と補償
契約締結の権限とを区別したような記載はないこと,②補償契約
の締結権限のない補償交渉権限は何ら紛争の解決に資するものでは
ないこと,③各漁協の組合員は合計約700名に達しており,損
害賠償請求を漁協に委任する必要性は高かったこと,④原告らを
含む各漁協の組合員らの補償交渉は,当初から,一貫して各漁協を
通じて行われていたこと,⑤被告は,本件補償契約締結後,原告
ら以外の各漁協の組合員から抗議を受けたことはなかったこと,⑥
N漁協の理事長であったIも,原告Bから契約締結権限を委任さ
れていると認識していたこと等からすれば,原告Bは,I組合長に
対し,本件通常総会決議によって,被告との間の補償交渉のみでな
く,組合員個人としての本件補償契約の締結権限を授与したことは
明らかである。
(b)サンプル調査への協力
原告Bは,本件通常総会の後,Iらが被告との間で補償交渉を行
っていることを認識しつつ,1年以上の長期間にわたり,個別的な
補償請求交渉を行わなかった。
また,原告Bは,被告が,対策協議会等との補償交渉において,
補償金額を算定するために実施したサンプル調査に参加し,資料を
提出する等積極的に協力している。
このサンプル調査は,各漁協主催の下,各漁協事務所で行われて
おり,被告担当者も,その際に,この調査が,漁協全体の補償額を
算定するためのものであることを説明している。
原告Bが,この調査に協力している事実は,同原告が,本件通常
総会の際に,Iに本件補償契約の締結権限を授与したことを示す重
要な間接事実である。
(c)以上のとおり,原告Bが,Iに対し,原告Bを代理して本件補
償契約を締結する権限を授与したことは明らかである。
b原告A
(a)個別的に補償交渉を行わなかったこと
原告Aは,本件臨時総会の後,Hらが被告との間で補償交渉を行
っていることを認識しつつ,1年以上の長期間にわたり,個別的な
補償請求交渉を行わなかった。
(b)サンプル調査への協力
原告Aも,被告が,漁協全体の補償金額を算定するために実施し
たサンプル調査に参加し,資料を提出する等積極的にこれに協力し
ている。
(c)以上のとおり,原告Aは,Hに対し,黙示の意思表示により,
原告Aを代理して本件補償契約を締結する権限を授与したものとい
うべきである。
c原告C
(a)個別的に補償交渉を行わなかったこと
原告Cは,本件通常総会の後,Iらが被告との間で補償交渉を行
っていることを認識しつつ,1年以上の長期間にわたり,個別的な
補償請求交渉を行わなかった。
(b)サンプル調査への協力
原告Cも,被告が,漁協全体の補償金額を算定するために実施し
たサンプル調査に参加し,資料を提出する等積極的にこれに協力し
ている。
(c)以上のとおり,原告Cは,Iに対し,黙示の意思表示により,
原告Cを代理して本件補償契約を締結する権限を授与したとものと
いうべきである。
d原告D
(a)組合員に準ずる者であること
原告Dは,N漁協の組合員である原告Cの妻で原告Cと共に漁業
に従事するものであり,原告Cと実質的に同一の営業主体,又は,
同漁協の組合員に準ずる者である。
(b)個別的に補償交渉を行わなかったこと
原告Dは,本件通常総会の後,Iらが被告との間で補償交渉を行
っていることを認識しつつ,1年以上の長期間にわたり,個別的な
補償請求交渉を行わなかった。
(c)サンプル調査への協力
原告Dも,被告が,漁協全体の補償金額を算定するために実施し
たサンプル調査に参加し,資料を提出する等積極的にこれに協力し
ている。
(d)以上のとおり,原告Dは,Iに対し,黙示の意思表示により,
原告Dを代理して本件補償契約を締結する権限を授与したとものと
いうべきである。
イ原告らの主張
原告らは,各漁協の代表理事組合長らに対し,本件補償契約の締結権限
を授与してはいない。
(ア)漁協の総会決議に権限がないこと
水産業協同組合法11条は,漁協に対し,組合員からの個別授権なし
に本件補償契約の締結権限のような権限を付したものではない。
本件誤接続により損害を受けたことに基づく損害賠償請求権は,個々
。,の組合員の純然たる個別的権利であるそのような個別的権利の処分が
漁協の総会決議によって,反対者,欠席者を含め,漁協に委ねられるこ
とはない。
(イ)原告らによる個別的な委任がないこと
a対策委員会による交渉を黙認していたわけではないこと
原告らは,被告と対策委員会との間の交渉経過につき,被告から対
策委員会に対して総額4500万円の提示があったこと,対策委員会
が被告に対して総額8726万円の請求をしたこと,被告と対策委員
会とが総額6300万円で本件補償契約を締結したこと等の事実を,
何も知らされなかった。
むしろ,被告は,対策委員会に対し,交渉内容を個々の組合員に口
外しないよう求めていたのである。
また,原告らは,本件補償契約が締結される前に,被告に対し,代
理人弁護士を通じて交渉する旨通知し,個別交渉の意思を明確に伝え
ている。
なお,サンプル調査についても,原告らは,被告との個別交渉の一
貫としてされたものであると理解している。
付言するに,原告ら以外の各漁協の組合員は,本件補償契約に対し
,,て異議を唱えなかったとしても引地川河口付近で操業する原告らと
他の組合員とでは,全く損害の状況が異なっているといえる。
b原告Bについて
本件通常総会における第10号議案の議決は,飽くまでも,組合の
意思決定としてされたものであり,個別的授権を含むものではない。
本件通常総会の招集通知にも,本件補償契約に関する記載は何ら存
在せず,また,同議案の議決に個別委任の趣旨が含まれているのであ
れば,同総会の欠席者に対し,後日,個別的授権に関する意思確認が
されるはずであるが,そのような意思確認がされた事実もない。
したがって,原告Bが上記議決に賛成したとしても,それは,個別
的授権を意味するものではない。
なお,原告Bが,本件通常総会において「組合長におまかせしま,
す。よろしくおとりはからいをして下さい」と発言した点に関して。
も,①この発言の趣旨は交渉の促進を促すものにすぎず,②同総
会における決議は欠席者がいても行い得たものである以上,本件補償
契約の締結権限の委任は含まれないとみるべきであり,③仮に上記
発言の趣旨が個別的委任であったとしても,委任の範囲は不明確であ
り,④個々の組合員の損害額については,組合員自身が被告と交渉
するのが合理的であるから,上記発言についても,本件補償契約の締
結を委任したものとはいえない。
(2)本件誤接続と原告らの営業損害との間には相当因果関係があるか。
ア原告らの主張
以下に述べる事情を総合すれば,本件誤接続と原告らの営業損害との間
には,相当因果関係があるというべきである。
(ア)ダイオキシン類について
ダイオキシン類は,猛毒物質であり,特に,ベトナム戦争において米
軍が散布した枯葉剤に含まれていたこと「二重体児ベトちゃんドクち,
ゃん」の例にみられるような催奇形性を有すること等が広く知られてい
た。
(イ)本件ダイオキシン事故の報道
被告がダイオキシン類を排出していた事実は,本件報道日の夕方のテ
,,,,,レビ報道を初めとして新聞ラジオ等も含め連日重大事件として
全国的な報道がされた。
この報道では,①汚染濃度が国の環境基準値1pg-TEQ/Lの
8100倍と過去最高であり,従前の最高値(25pg-TEQ/L)
の324倍であること,②排出が長期に及び,総量が水系に3.0g
-TEQ,大気に1.4g-TEQと莫大であったこと,③①及び②
の数値は行政庁による科学的な検査結果に基づくこと,④被告が環境
設備のトップ企業であること,⑤原因が排水管の誤接続であること,
⑥行政庁の発表が引地川産の魚類摂取への警告を含むこと等が全国的
に広く報道され,引地川河口付近で操業する原告らの営業に重大な影響
を与えた。
なお,これらの報道は,誇張のない客観的な報道であった。
また,神奈川県及び藤沢市も,広報等により,情報提供,注意喚起を
行った。
(ウ)本件ダイオキシン事故の報道から生ずる損害について
本件のようなダイオキシン汚染事故が発生した場合,風評被害が生ず
ることは経験則上明らかである。
,,消費者は市場において多様な商品を選択することができるのであり
ダイオキシン汚染の報道に接した消費者が,現場近くにおいて海産品の
購入を避けたり,レジャーを回避したりすることは当然の行動である。
(エ)環境庁らの連絡調整会議による発表について
被告は,環境庁らの連絡調整会議が,平成12年5月31日,発表し
た引地川河口付近の魚介類の調査結果により,原告らが扱う魚介類が安
全なものであることが明らかとなった旨主張する。
しかし,この検査の検体数はわずか10であり,しかも,同調査結果
は「平成12年3月23日以降の流動床炉の運転停止以降」も「稲荷,
雨水幹線及び引地川のダイオキシン類は・・・なお水質環境基準を超え
る状況にある」とした上,引地川の魚類については,依然として「食用
に供さないことが望ましい」と評価しているのであり,この調査結果に
より,原告らが扱う魚介類の安全が確認されたとはいえないし,ダイオ
キシン排出に関する報道の影響が払拭されたともいえない。
イ被告の主張
以下に述べる事情を総合すれば,原告らには,本件ダイオキシン事故に
より,損害は生じていないし,仮に,風評被害により何らかの減収が生じ
ていたとしても,それは,本件誤接続と相当因果関係を欠くというべきで
ある。
(ア)魚介類が安全であったこと
環境庁らの連絡調整会議による「引地川水系ダイオキシン汚染事件へ
の対応(平成12年5月31日発表」によれば,引地川河口付近の海)
水に含まれるダイオキシン類の濃度レベルは環境水準に合致しており,
魚介類のダイオキシン濃度レベルも,全国調査の範囲内であった。
これらの調査結果から,原告らが扱う魚介類が,ダイオキシン類に汚
染されていたということは全くなく,したがって,人体に有害なもので
はなく,他水域の魚介類と比較してもむしろ安全なものであることが明
らかとなった。
調査報告書も「周辺海域で水揚げされる魚介類の摂取によって,健,
康に影響が生じるおそれはないものと判断される「本件ダイオキ。」,(
シン事故の)引地川河口周辺の相模湾への影響は小さかったものと考え
られる」としている。。
(イ)マスコミの誤った報道
本件ダイオキシン事故に関するマスコミ報道の内容は,一般の視聴者
等に対し,あたかも引地川本流から基準の8100倍(8100pg-
TEQ/L)のダイオキシン濃度レベルが検出されたような誤解を与え
るものであった。
この基準の8100倍という数値は,地下水路である引地川水系稲荷
雨水幹線の出口で検出されたものであり,引地川水系稲荷雨水幹線は暗
渠とされていて住民等が流水に直接接触することはあり得ず,さらに,
この出口は,橋脚の下にあるから,住民が立ち入る場所ではない。
また,引地川水系稲荷雨水幹線は,雨水等を集めるための小規模な水
路であり,引地川本流に流入した後は,ダイオキシン類の濃度も大幅に
希釈される。実際,引地川本流のダイオキシン濃度レベルは,平均する
と約5.97pg-TEQ/L程度であった。
このような報道が適切にされていれば,風評被害が生ずることはなか
った。
(ウ)市場関係者の誤った判断
本件ダイオキシン事故の後,一般消費者は,特に同事故に反応を示し
ていない者が多かったが,一部の魚市場,スーパー等の市場関係者は,
一般消費者の動向を見誤り,本件ダイオキシン事故に過度に反応して,
自らの判断で取引中止等の措置を講じてしまった。
しかし,上記(ア),(イ)で述べたダイオキシンのレベルからすれば,そ
のような措置は誤りであった。
(エ)消費者の個別的心理状態の介在
仮に,本件ダイオキシン事故の後,原告らが取り扱う魚介類の購入を
回避した一般消費者がいたとしても,従前どおり購入し続けた一般消費
者も多数存在していたのであり,両者は,単に個人的心理状態の介在に
よって判断が異なったにすぎない。
原告らが取り扱う魚介類のダイオキシン類濃度レベルは,他の海域の
魚介類と比較しても低い水準であったのであるから,魚介類の購入を回
避した消費者の個別的心理状態は「安全であっても食べない」という,
極めて主観的な心理状態であり,同一条件のもとで,常に同様の結果に
なるとはいえないものである。
(3)原告らの損害額
ア原告らの主張
(ア)原告Aの損害額
a観光地引き網の売上減
原告Aには,本件ダイオキシン事故のニュース報道以降,観光地引
き網の予約のキャンセルが23件27網生じ,申込みも減少し,これ
により売上げが減少した。
()平成12年の観光地引き網売上高114網1388万4199円
と,平成11年の売上高(147網1627万3909円)及び平成
13年の売上高(165網1900万6787円)の平均額との差額
は,375万6149円となる。
b直営店舗の売上減
原告Aの直営店舗では,本件ダイオキシン事故の報道以降,客足が
遠のき,売上げが減少した。
報道後1年間(平成12年3月25日ないし同13年3月24日)
の粗利2579万7847円と,その前年の粗利4342万6045
円及び翌年の粗利4262万6134円の平均額との差額は,172
2万8243円となる。
なお,被告は,直営店舗における粗利減が,市場への出荷によって
補てんされた旨主張するが,平成12年は豊漁であり,市場へ1日1
30キログラムのしらすを出荷した上で,風評被害がなければ直営店
舗で通常売れる量(1日50キログラム)のしらすを販売することは
容易であった。
原告Aは,平成12年3月ないし同年4月当時,1,2回の網で2
00キログラム程度のしらすを漁獲しており,通常どおり昼まで操業
すれば1日800キログラム程度のしらすを漁獲していた。
c市場の取引停止による損害
(a)O魚市場による取引停止等による損害
原告Aは,O魚市場との間で,平成12年度より,生しらすを毎
日1キログラム当たり1150円で100キログラムを取引する旨
契約していた。
ところが,本件ダイオキシン事故の報道により,O魚市場は,原
告Aからの生しらすの仕入れを,平成12年3月25日から同年4
月6日まで13日間停止した。
また,同年4月7日から9日まで,出荷量が制限された(合計1
74キログラム。)
これらの措置により,原告Aは,169万5100円の損害を被
った。
(b)P魚市場による取引停止等による損害
原告Aは,P魚市場に対し,平成12年3月より,生しらすを毎
日1キログラム当たり1000円で30キログラム以上を出荷して
きた。
ところが,本件ダイオキシン事故のニュース報道により,P魚市
場は,原告Aからの生しらすの仕入れを,平成12年3月25日か
ら27日,29日及び30日の5日間停止した。
また,平成12年3月28日,同月31日から4月12日まで,
出荷量が制限された(合計164.5キログラム。)
これらの措置により,原告Aは,31万4500円の損害を被っ
た。
dながらみ漁ができなかったことによる損害
M漁業協同組合理事会は,平成12年のながらみ漁の特別採捕申請
に関する議決を差し控えた。その結果,原告Aは,平成12年6月な
いし7月のながらみ漁ができず,塩ゆでながらみの売上げを失った。
平成11年6月から7月までのながらみ漁による売上高は,253
万8000円であったが,原告Aは,消費者が貝類がダイオキシンの
影響を受けやすいと思っていると考えたことから,平成12年以降も
ながらみ漁を中止しており,原告Aが受けた損害は,289万800
0円を下回ることはない。
e経費減
平成12年における原告Aの経費のうち,給与手当,雑給,福利厚
生費,通信費,交際費,水道光熱費,消耗品費,運賃,荷造包装費,
事務用品費,広告宣伝費及び組合納入金の各金額が売上げの減少に伴
い減少しているところ,上記各費目の平成11年及び同13年の平均
額と平成12年の金額の差額の合計額(すなわち,平成12年におけ
る経費の減少額)は,597万6070円である。
したがって,これらの経費減を上記aないしdの合計2589万1
992円から差し引いた金額1991万5922円が,原告Aの営業
損害となる。
f慰謝料
原告らは,湘南の地に生まれ,湘南の海や川の恵みを受け,これら
,,を愛しむ者であるが本件ダイオキシン事故が発生したことによって
自らの生業を失うことへの不安を余儀なくされる等,精神的損害を被
った。
したがって,原告Aの慰謝料は,少なくとも,上記eの経費減と同
額とみるのが相当である。
g弁護士費用
弁護士費用としての損害額は,上記合計額2589万1992円の
1割である合計258万9199円である。
h合計
以上を合計すると,原告Aの損害額は,2848万1191円とな
る。これらの損害額を基礎付ける各数値は,別表1及び6(省略)の
とおりである。
(イ)原告Bの損害
a得られるはずであったしらすの売上げ
原告Bは,漁獲したしらすを加工した上,市場への出荷,宅配便で
の地方発送及び直営店における販売(かま揚げしらす1キログラム当
たり2300円,乾ししらす1キログラム当たり3000円)を行っ
てきた。
平成12年はかつてないほどの豊漁の年であり,漁の始まった3月
11日から24日に至るまでの間の水揚量は3550キログラムに上
った(平成11年,同13年の同時期の水揚げ高はそれぞれ945キ
ログラム,40キログラムであった。。)
しかし,平成12年3月24日の本件報道日以降,大量の売れ残り
が発生した(3月25日から同月末日まで372.5キログラム,4
月2206.5キログラム,5月1648キログラム。)
そのため,原告Bは,同年8月まで,稼働時間を大幅に減らすこと
となった。
平成12年3月25日から8月までの稼働時間が,平成11年及び
平成13年の同時期の稼働時間のとおりであれば,原告Bには,2万
2619キログラムのしらすの水揚げがあったはずである。
一方,平成11年,同13年及び同14年の総売上高を水揚高で割
ると,1キログラム当たりの売上高は1155円となる。
したがって,本件ダイオキシン事故がなければ,原告Bには,2万
2619.152キログラム×1155円=2612万5121円の
売上高があったはずであり,実際の売上高である1378万6052
円との差額は,1233万9069円となる。
なお,平成12年の売上高とその前後1年の売上高の平均を比較し
た場合でも,損害額(粗利)は449万5308円であり,ここから
売上減に伴って生じた経費減83万0824円を控除した金額を,豊
漁であることを考慮して1.25倍した金額は,458万0605円
となる(甲52。)
b経費減
平成11年及び平成13年の原告Bの売上高の平均額と,平成12
年の売上高との差額は,449万5308円である。
,,,,,一方平成12年の原告Bの経費のうち通信費燃料費交際費
旅費,専従者給与,雑給及び広告費の各金額が売上げの減少に伴い減
少しているところ,上記各費目の平成11年及び同13年の平均額と
平成12年の金額の差額の合計額(すなわち,平成12年における経
費減少額)は,83万0824円である。
したがって,原告Bの売上減に対応した経費の減少率は,約18パ
ーセントであり,原告Bの営業損害は,上記aの1233万9069
円からその18パーセントを控除した1011万8036円を下らな
い。
c慰謝料
原告Bの慰謝料は,少なくとも,上記bの経費減と同額とみるのが
相当である。
d弁護士費用
弁護士費用としての損害額は,上記aないしcの合計1233万9
069円の1割である123万3906円である。
e合計
以上を合計すると,原告Bの損害額は,1357万2975円とな
。,,()るこれらの損害額を基礎付ける各数値は別表34及び6省略
のとおりである。
(ウ)原告Cの損害
a観光地引き網の売上減
原告C方の観光地引き網は,平成11年当時,原告Aと比較して,
観光地引き網の実施回数が相当に少なく,売上げを伸ばす余地が大き
かった。
しかし,本件ダイオキシン事故の報道以降,原告C方には,9網8
1万円のキャンセルが入り,その後の申込みも減少した。平成13年
の売上げの伸びも,本来期待し得た程ではなかった。
原告Cの売上減は,少なくとも,平成11年,同14年及び同15
年の売上平均から同12年及び同13年の売上平均を引き,これを2
倍した709万5000円に上る。
b経費減
平成12年及び同13年の原告Cの経費の平均のうち,代分け,雑
費,消耗品費,通信費及び修繕費の各金額が売上げの減少に伴い減少
しているところ,上記各費目の同11年,同14年及び同15年の平
均額と平成12年及び同13年の原告Cの経費の平均額との差額の合
計額は,481万2702円となる。
したがって,これらの経費減を上記aの金額709万5000円か
ら差し引いた金額228万2298円が,原告Cの営業損害となる。
c慰謝料
原告Cの慰謝料は,少なくとも,上記a及びbの合計金額を超えて
1030万1667円に満つるまでの金額(801万9369円)と
同額とみるのが相当である。
d弁護士費用
弁護士費用としての損害は,上記aないしcの合計額1030万1
667円の1割に当たる103万0166円である。
e合計
以上を合計すると,原告Cの損害額は,1133万1833円とな
る。これらの損害額を基礎付ける各数値は,別表2及び6(省略)の
とおりである。
(エ)原告Dの損害
a採捕人の減少
原告Dは,しらす鰻の仲買業を営むものであるが,本件ダイオキシ
ン事故により,引地川に入るしらす鰻の採捕人が減少した。
その結果,原告D方に持ち込まれるしらす鰻の数も減少し,同原告
の収入も減少した。
なお,平成12年は,4月以降,黒潮の流れが南方より相模湾へ北
上するという良好な状況であり,豊漁が期待される状況であった。
平成9年から平成12年3月までの原告Dの各月の粗利の平均か
ら,平成12年4月から平成15年までの各月の粗利の平均を差し引
き,これを合計した金額は,84万5890円である。
b経費減
,,平成12年4月から平成14年までの原告Dの経費のうち運送費
消耗品費,水道光熱費及び通信費の各金額が売上げの減少に伴い減少
しているところ,上記各費目の平成10年1月から平成12年3月ま
での平均額と平成12年4月から平成14年までの原告Dの経費の平
均額との差額の合計額は,13万2525円となる。
したがって,これらの経費減を上記aの金額84万5890円から
,。差し引いた金額である71万3365円が原告Dの営業損害となる
c慰謝料
原告Dの慰謝料は,少なくとも,上記a及びbの合計金額を超えて
252万3410円に満つるまでの金額(181万0045円)と同
額とみるのが相当である。
d弁護士費用
弁護士費用としての損害は,上記aないしcの合計額252万34
10円の1割に当たる25万2341円である。
e合計
,,。以上を合計すると原告Dの損害額は277万5751円となる
これらの損害額を基礎付ける各数値は,別表5及び6(省略)のとお
りである。
(オ)損害についての補足
a増収傾向の理由
近年,水産物に関する消費者の「鮮度志向「本物志向「安全」,」,
志向「健康志向」は顕著である。」,
また,旅行に関する消費者の「安・近・短傾向「自然志向「体」,」,
験学習」や「地域学習重視傾向」は顕著である。
原告らの増収傾向は,このような理由に基づくものであった。
bしらすの豊漁について
平成12年はしらす豊漁の年であり,特に同年3月は,過去に類を
見ないほどの漁獲高であった。
原告A及び原告Bも,風評被害による売れ残りを心配して出漁を削
減したにもかかわらず,例年と遜色のない漁獲があった。
神奈川県全体でみても,本件ダイオキシン事故に基づくしらす漁従
事者の出漁回避があったにもかかわらず,平年以上の漁獲があった。
なお,平成12年は,全国的には,神奈川県ほど顕著な豊漁ではな
かった。
cしらす鰻の豊漁について
しらす鰻は,黒潮が相模湾に北上する流形となるときに,豊漁にな
る傾向がある。
,,平成12年は1月ないし2月は黒潮の流形が悪く不漁であったが
3月には若干持ち直し,4月には良好な流形となった。
,,。したがって4月にはしらす鰻の豊漁が期待できる状況であった
d豊漁と価格について
,「」,原告ら生産者は市場の需要-供給曲線の支配から逃れるべく
商品の付加価値を高めたり,直売の拡充,出荷契約の締結に努力して
いる。
したがって,豊漁が価格低下を意味するものではない。
e損害の算定方法について
原告らは,営業形態がそれぞれ異なり,損害額の算出についても,
個々の原告にとって最も合理的な方法で行われる必要がある。
したがって,原告ごとに損害額の算定方法が異なる点は,何ら問題
ではない。
f継続する損害
本件ダイオキシン事故以降,被告が環境に排出したダイオキシン類
が除去されたわけではないのであり,現在まで,危険を感じて原告ら
の商品,サービスを敬遠している消費者は存在しており,原告らの損
害は,今もなお,継続しているといえる。
また,本件ダイオキシン事故における基準の8100倍という数値
は過去最大であり,今後,同種の事故が起きるたびに引き合いに出さ
,,。れるのでありそのたびに新たに風評被害が発生するおそれがある
イ被告の主張
(ア)損害の算定方法
原告らに生じた損害の算定方法については,少なくとも過去3年間程
度の売上高との比較において売上減少が認められる場合に,その減少額
に過去の純利益率を乗じて算出すべきである。
原告らは,本件事故後の売上高を損害算定の基礎としているが,それ
では,事故後の売上高の増減に応じて,損害の算定の基礎とするかどう
かを選択できることになってしまい,恣意的に損害を高く主張すること
を認めることになって不当である。
(イ)原告Aについて
a算定方法について
原告Aは,本件における損害を,観光地引き網の売上減,直営店舗
,,。の売上減取引停止による損害等個々の項目に分けて主張している
しかし,本件ダイオキシン事故が原告Aの営業に影響を与えたとい
うのであれば,原告Aの売上げはすべてが相模湾で行う漁業によるも
のであるから,損害額は,営業全体として判断すべきである。
そして,平成12年の原告Aの売上高は,過去3年分の売上高と比
較して,むしろ増加している。したがって,原告Aには,損害は発生
していない。
b観光地引き網について
損害額を算定するに当たっては,過去3年間の数値の平均と比較す
べきであるところ,観光地引き網の売上高について個別に見た場合で
も,原告Aの売上高の減少は,多くとも27万9185円となる。
これは,平成12年の観光地引き網の総売上が1388万4199
円であることからして,特段,本件誤接続と相当因果関係のある損害
ということはできない。
また,原告Aの純利益率は,過去いずれもマイナスとなっているこ
とから,純利益の減少も,ゼロか,極めてゼロに近い金額であるとい
える。
なお,観光地引き網のキャンセルは,毎年相当数,相当割合で生じ
ているのであって,どの程度が本件誤接続と相当因果関係を有するの
か判然としない。
c直営店舗の売上減について
原告Aは,市場への魚介類の出荷に関する売上高と,直営店舗にお
ける魚介類の販売に関する売上高の双方を含む「加工売上」のうち,
,,直営店舗において販売した分のみを取り上げてこの粗利の減少額が
本件誤接続によって生じた損害に当たるとしている。
しかし,Aの平成12年の「加工売上」全体の売上高が,過去最高
になっていることからすれば,原告Aに,仮に,直営店舗における売
上げの減少が生じていたとしても,原告Aが,その分を市場に売却す
る等していたために,損害は発生していなかったと考えられる。
したがって,直営店舗における粗利減少額を請求することはできな
い。
d市場の取引停止について
原告Aは,O魚市場との間で,生しらすを毎日1キログラム当たり
1150円で100キログラムを取引する旨契約したと主張する。
しかし,原告Aの主張するような事実は,証拠上認められないし,
そもそも契約として拘束力を有するのかどうか疑わしい。
また,仮に,原告Aが,O魚市場から,取引を停止,制限されてい
たとしても,本件では,生しらすを他の市場等に売却する等して,損
害の発生が回避された可能性が高い。したがって,原告Aに損害は発
生していない。
原告AがP魚市場から取引を停止,制限されたという主張について
も,同様のことがいえる。
eながらみ漁について
M漁協は,ながらみ漁について,平成9年度から同11年度まで,
。,5月から7月までの期間で実施することを決議しているこれに対し
平成12年度及び同13年度においては,9月から10月の期間で実
施する旨を決議している。
ながらみ漁がこれまでどおりの時期に実施されなかったからといっ
て,それを本件誤接続と相当因果関係のある損害であると主張するの
は困難である。
(ウ)原告Bについて
原告Bの主張する損害の算定方法は,期待水揚量,期待売上高等を基
礎とし,豊漁を前提としながら豊漁による供給過剰等に基づく売上高の
減少要素等を全く考慮していないものであって,極めて不自然なもので
あることは明白である。
また,過去3年間の売上高の平均と平成12年とを比較した場合,売
上高の減少は135万5432円であるが,これは売上高の5パーセン
ト程度にすぎず,本件誤接続と相当因果関係のある損害とはいえない。
(エ)原告Cについて
原告Cは,観光地引き網につき,売上高の減少があったと主張してい
るところ,同原告は,平成13年にも損害が発生していると主張してい
るが,平成13年の売上高は平成11年の売上高を大きく上回っている
上,原告Aの観光地引き網の損害が平成13年以降発生していないこと
を考慮すると,損害が発生しているとはいえない。
平成12年の売上高についても,平成11年の売上高と遜色がなく,
本件誤接続と相当因果関係のある損害が発生しているとはいえない。
なお,原告Cは,平成12年に8件の観光地引き網のキャンセルがあ
ったと主張するが,平成11年にも16件のキャンセルが発生しており
同年の方がキャンセル数,キャンセル割合とも高いことからすれば,平
成12年のキャンセルは,本件誤接続と相当因果関係を有するものでは
ない。
(オ)原告Dについて
原告Dの粗利については,過去3年間と比較した場合に,確かに,平
成12年は減少しているようである。
しかし,もともと,平成11年12月から平成12年3月までの仕入
量は,例年に比べて極端に少なかったのであり,これは不漁に基づくも
のである。
なお,原告Dは,黒潮の流れからしてしらす鰻が豊漁になる直前に本
件ダイオキシン事故が発生した旨主張するが,何の客観的,科学的根拠
もない。
第3争点に対する判断
1争点(1)(本件補償契約締結権限の授与)について
(1)漁協の総会決議による委任はあったか
ア被告は,両漁協による本件各決議が,議決に参加しなかった者,議決に
反対した者を含めて,両漁協のすべての組合員(及び原告D)を拘束し,
本件ダイオキシン事故に関する損害補償についての一切の権限を組合長に
委任するものであると主張し,その根拠として,水産業協同組合法11条
1項14号及び同16号が,漁協は「組合員の経済的地位の改善のため,
にする団体協約の締結」及び「前各号の事業に附帯する事業」を行うこと
ができると定めていることを挙げる。
しかし,漁協等の水産業協同組合の目的は,事業を行うことによって,
組合員のために直接の奉仕をすること(水産業協同組合法4条)であり,
漁協が団体協約(組合と相手方との間で結ばれる一種の契約)を締結する
ことができると定めた同法11条1項14号の趣旨も,経済的に弱い立場
にある個々の組合員が,組合を通じて,相手方との間で魚介類の取引価格
や代金の支払方法に関する集団契約を結ぶことにより,相手方と対等な地
位を確保することができるようにすること等によって,組合員の「経済的
地位」を改善することにあるから,漁協が,既に発生している個々の組合
員の個別的権利を,多数決の原理に基づき,総会決議によって第三者に委
,,。ね処分することは同条項の意図するところではないというべきである
本件においても,本件ダイオキシン事故により,漁協「自体」が,何ら
かの損害を被ったのであれば,漁協が,多数決による総会決議によってそ
の損害賠償請求権を処分することができると言い得るかもしれないが,本
件ダイオキシン事故により個々の組合員が被った損害に関する損害賠償請
求権は,飽くまで組合員が個人として有する権利であるから,これを,漁
協が,組合員から委任を受けることなく,総会決議に欠席した者や反対し
た者の権利も含めて,多数決の原理に基づく総会決議によって処分するこ
とができるとは認め難い。
イ被告は,両漁協には,補償交渉及び補償契約締結の委任に関し,総会の
決議によって決定するという慣行が存在していたから,本件各決議の効力
は組合員を拘束する旨主張する。しかし,補償交渉及び補償契約締結の委
任に関し,総会の決議によって決定された例が多数存在するとの証拠は存
在せず,仮に,そのような方法を執った事例において問題が生じなかった
ことがあったとしても,それはたまたま不満が出ず問題化しなかったとい
うにすぎないのであり,組合員が法的に総会決議に拘束されるとの慣行が
成立していると認めるには不十分であり,当該補償契約の締結の後,組合
員らが補償契約の内容につき追認をするなどの特段の事情がなければ,総
会の決議がその意に反して組合員を拘束することはできないというべきと
ころ,本件の原告らについては,本件各決議に関し,そのような事情が存
在したとは認められないから,被告のこの点での主張も,本件各決議によ
って原告らの権利を処分できる根拠とはなり得ないというべきである。
ウよって,これらの点に関する被告の主張はいずれも採用できない。
(2)原告らによる個別的な委任はあったか
ア原告Bについて
被告は,原告Bが,Iに対し,本件補償契約の締結に先立ち,原告Bを
代理して本件補償契約を締結する権限を個別的に授与したと主張し,その
根拠として,原告Bが本件通常総会に出席し「ダイオキシン問題」をI,
に委任する旨の決議に賛成し,本件通常総会において「組合長におまか,
せします。よろしくおとりはからいをして下さい」と発言したこと等を。
挙げている。
しかし,本件のように多数の損害賠償請求権者が代表者を立てて相手方
との間で補償契約を締結しようとする場合には,通常,代表者と相手方と
の間の交渉の過程で,一応の契約案がまとまった段階で,代表者が,各損
害賠償請求権者に対し,いったん,契約案を開示して,各損害賠償請求権
者の同意を得た上で最終的な契約締結に至るのが一般的な手続であるな,(
お,本件では,本件補償契約の締結まで,原告らに対し,本件補償契約の
内容は知らされていない。。)
,,,,これに対し被告が主張するように原告らが本件補償契約に関して
契約締結のために交渉を行う権限のみならず,補償金額を決定する権限ま
でも一任してしまうということは,当該権利の処分に関して,ほとんどそ
のすべてを当該第三者に任せてしまうということであり,全面的な権限を
委任することに当たるというべきであるから,仮に,そのような委任が行
われるとすれば,委任の際には,極めて慎重,確実に,委任者の意思確認
が行われ,その旨明示されるのが通常であると考えられる。
,「」,ところが本件通常総会の第10号議案その他に関する議事録には
「ダイオキシン委任の件「H12,3,25」突然発生し組合をはじ」,「
め県漁連藤沢市の御協力御努力により補償問題も進んでおります。R地区
10組合長の会議も再々開き大変尽力を尽くしていられます。総会におい
ても,ダイオキシン問題はI組合長に委任致しますのでよろしくお願いし
ます。組合員から満場一致で可決成立致しました」との記載が存在する。
のみであるところ「ダイオキシン問題はI組合長に委任致します」とい,
う程度の上記記載では,本件ダイオキシン事故に関する原告らの損害賠償
請求権に関して,いかなる権限が,いかなる範囲で授与されたのかが,全
く不明確であるというほかなく,上記決議を受けてされた原告Bの上記発
言についても,被告が主張するような全面的な権限を授与するという意思
でされたのかどうか判然としないといわざるを得ない。
さらに,上記決議において,仮に,本件補償契約の締結権限のような全
面的な権限の授与が,個別的にせよ行われたのであれば,後々,組合員の
うち誰が本件補償契約の締結権限を授与し,誰が授与していないのかが問
,,()題となり得ると考えられるが本件では本件通常総会の議事録乙13
を見ても,組合員のうち誰が同総会に出席し上記決議に賛成したのかは記
,,「」載されていない上本件では個々の組合員から組合長に対してその他
という案件についての決議の委任を超えて,本件補償契約締結権を個別に
授権することを委任することを前提とした委任状等の書面が提出されたよ
うな事実もないのであるから,本件で,本件通常総会に参加して,個別授
権をする意思で決議に賛成した者を特定することは不可能であるというほ
かなく,上記決議の手続は,被告が主張する授権内容の重要さに比べて,
あまりにも杜撰であったといわざるを得ない。
加えて,本件通常総会の開催通知には,上記議決の内容について「その
」,,,他としか記載されておらず各組合員には本件通常総会の開催以前に
上記のような全面的な権限を委任するかどうかについて検討する機会も与
えられていなかったものと考えられる(なお,本件通常総会に実際に出席
した組合員の数も,結果的には,全52名中21名にすぎず,同総会にお
いて,上記決議の内容を知ってこれに賛同した組合員の数も,組合員全体
の4割程度にすぎなかった。。)
このように,上記決議が,被告が主張するような全面的な授権内容と比
較して,その内容が極めてあいまいであり,かつ,手続が杜撰であること
等からすれば,原告Bが,たとえ上記決議に賛成していたとしても,その
際の同原告の意思が,本件補償契約の締結に向けた交渉権限のみならず,
いくらの金額で同契約を締結するかという全面的な権限を一任する意思で
あったとまでは,認め難いといわざるを得ない。
なお,被告は,原告Bが,上記決議以降,同人が弁護士を通じて受任通
知を送るまで,何ら被告との間で個別的な交渉を行わず,また,漁協にお
いて行われたサンプル調査にも参加し,協力したこと等の事実を挙げ,こ
れらの事実が,本件補償契約の締結権限の授与が行われたことを基礎付け
る重要な事実である旨主張する。しかし,原告らは,対策協議会と被告と
が,本件補償契約の締結に向けて交渉すること自体は,これを容認してい
たというべきであるから,Iが組合長として被告と補償交渉をするにつき
上記のような協力をすることは自然なことであり,したがって,上記のよ
うな事情があるからといって,原告らが,Iに対し,被告と補償交渉をす
ることを超えて,本件補償契約の締結を一任するという全面的な授権を行
ったということまで認めることはできない。
なお,被告は,補償契約の締結権限のない補償交渉権限は何ら紛争の解
決に資するものではない旨主張するが,補償契約の締結権限のない補償交
渉権限であっても,各漁協の組合員が合計700名以上に達していたこと
(証人J)を考えれば,そのような交渉権限も,十分,紛争の早期解決に
資するものであったというべきであり,被告の主張は,採用できない。
以上のとおりであるから,本件では,原告Bが,Iに対し,本件補償契
約の締結権限を授与したと認めることはできない。
イ原告A,原告C及び原告Dについて
被告は,原告A,原告C及び原告Dについても,同原告らが,本件各決
議以降,弁護士を通じて受任通知を送るまで,何ら被告との間で個別的な
交渉を行わず,また,漁協において行われたサンプル調査にも参加,協力
していること等を根拠に,同人らから両漁協の組合長らに対し,本件補償
契約の締結権限が授与されたと主張する。
しかし,上記アで述べたとおり,原告らは,対策協議会と被告とが,本
件補償契約の締結に向けて交渉すること自体は,これを容認し,協力して
いたというべきものの,被告が主張するような事情だけでは,補償金額の
合意を含めた全面的な契約締結権限まで組合長らに授権したと認めること
はできない。
したがって,原告A,原告C及び原告Dが,I又はHに対し,本件補償
契約の締結権限を授与したと認めることはできない。
(3)まとめ
以上のとおり,原告らが,両漁協の代表理事組合長らに対し,本件補償契
約の締結権限を授与したと認めることはできず,この点に関する被告の主張
には理由がない。
2争点(2)(相当因果関係)について
原告らは,本件ダイオキシン事故が発生し,それがマスコミによって報道さ
れたことにより,原告らに営業損害が発生したと主張する。
(1)まず,本件ダイオキシン事故に関してどのような報道が行われたかを検
討する。
前記第2,1,(4)のとおり,本件ダイオキシン事故の発生は,環境庁ら
の記者会見が行われた本件報道日以降,新聞,雑誌,テレビ,ラジオ等にお
いて大きく取り上げられ,全国的に広く報道された(甲3の1ないし3の。
24)
その報道内容は「高濃度ダイオキシン流出「被告藤沢工場基準の8,」,
000倍雨水路に「超高濃度ダイオキシン「藤沢市の工場近くの川」,」,
基準の8100倍検出」等のショッキングな見出しが付けられたものであ
り,少なくとも平成12年3月25日ころの新聞記事には,環境科学に関す
る専門家等により,相模湾の魚介類にダイオキシン類が蓄積されているおそ
れがある旨のコメントや解説記事が掲載されていた。
(2)ところで,ダイオキシン類の毒性が極めて強いことは平成12年当時に
おいて一般的に広く知られていたものであり(公知の事実である,ダイ。)
オキシン類の流出が7年以上という長期間続いていたこと等を考え合わせる
と,一般の消費者が,上記(1)のような報道に接すれば,一時的にせよ,引
地川近くで採れた海産物を買うことを控えたり,引地川近くで行われる観光
地引き網への参加を見合わせたりすることは,消費者の心理として極めて高
い蓋然性をもって予想されるというべきである。
(3)上記(1)の報道内容に加え,原告らの業務がいずれも引地川の河口付近に
おいて行われ,又は,同河口付近で捕れた魚介類に関して行われていたこと
や,本件報道日から1週間も経たないうちに,各漁協によって対策協議会が
結成され,被告に対して補償を求め始めていること等の事情に照らせば,本
件ダイオキシン事故を理由に観光地引き網の予約のキャンセル等が生じたと
いう原告A代表者及び原告Cの供述,市場からしらす等の引き取りを断られ
たという原告A代表者の供述,しらす等の販売に関する客足が減ったという
原告A代表者の供述及び証人Fの証言,しらす鰻の採捕人が漁に出なくなっ
たという原告Dの供述は,いずれも,その件数や金額は別としても,少なく
ともそのような事実があったという点に関しては,信用できるというべきで
ある。
(4)その後,平成12年3月27日には,環境庁及び神奈川県により,相模
湾のしらすは安全である旨の発表がされており,同年5月31日には,環境
庁らの連絡調整会議により,正式に「周辺環境調査の結果や利水実体等か,
ら判断して,周辺地域での日常生活,周辺海域での海水浴等のレジャー活動
及び周辺海域で水揚げされる魚介類の摂取によって,健康に影響が生じるお
それはないものと判断される」旨の安全宣言が出されていること等からす。
れば,同日以降,上記報道が原告らの営業に及ぼす影響は,暫減していった
ものと考えられる。
しかし,環境庁らの連絡調整会議による上記発表においても「引地川の,
魚類は比較的高濃度のダイオキシン類が検出されていることから,食用に供
さないことが望ましい」と発表されていること等から考えれば,上記発表。
があったからとって,直ちにその効果が現れたと考えるべきではなく,原告
らの営業に対する影響は,上記発表の後も,一定期間,継続したものと考え
られる。
(5)以上を総合すると,少なくとも,本件では,本件ダイオキシン事故が生
じなければ,同事故の報道を原因とする観光地引き網の予約キャンセル,市
場からのしらす等の引取り拒否,しらす等の販売額の減少,しらす鰻の漁の
中断等は生じなかったというべきであり,これらを原因とする原告らの営業
損害も生じなかったというべきである。
(6)被告は,本件ダイオキシン事故に関するマスコミ報道が,あたかも引地
川本流から基準の8100倍のダイオキシン類が検出されたような誤解を与
える内容であり,報道が適切にされていれば,原告らに風評被害が生ずるこ
とはなかったと主張し,また,一部の市場関係者が,本件ダイオキシン事故
に過度に反応して,自らの判断で取引中止等の措置を講じてしまったと主張
するので検討する。
確かに,平成12年3月25日の読売新聞の「環境庁は・・・藤沢工場近
くの引地川の水から,環境基準の最高8100倍に当たる8100ピコ・グ
ラムと超高濃度のダイオキシン類が検出されたと発表した」という記事の。
うち「引地川の水から」と記載されている部分は,正確には「雨水路(引,,
地川水系稲荷雨水幹線)の水から」と記載すべきであり,報道内容が正確で
はなかったという点は存在する。
しかし,本件ダイオキシン事故に対する報道の大多数は,適切に行われて
いたと認められる上,環境基準の8100倍というダイオキシン類の量は,
たとえこれが雨水路において検出された数値であったとしても,付近住民に
十分に脅威を与えるものであり,現に,上記雨水路の下流にある引地川の富
士見橋付近においても,本件ダイオキシン事故の発生当時の環境庁の基準値
である1pg-TEQ/Lを超える濃度のダイオキシン類が検出されている
ことを考慮すると,消費者に対し,引地川河口付近で採れた魚介類の買い控
えを生じさせ,観光地引き網への参加をちゅうちょさせ得る数値であったと
考えられる。
なお,市場関係者らの反応についても,本件のような報道が行われれば,
公衆衛生を維持するという重大な責務を負っている市場関係者らが,仕入れ
を拒絶し,又は仕入れの量を減らすことは,通常かつ適切な判断であって,
これが不当であるとは認められない。
(7)以上を総合すれば,本件誤接続がなければ,本件ダイオキシン事故の報
道を原因とする観光地引き網の予約キャンセル,市場からのしらす等の引き
取り拒否,しらす等の販売額の減少,しらす鰻の漁の中止等は生じず,これ
らを原因とする原告らの営業損害も生じなかったというべきであるから,本
件誤接続と,原告らの営業損害との間には,相当因果関係があると認められ
る。
3争点(3)(原告らに発生した損害額)について
(1)まず,原告らの営業状況につき検討する。
前記争いのない事実等に下記の各項中に掲記した各証拠及び弁論の全趣旨
を総合すると,次の各事実が認められる。
ア原告Aの営業状況について(甲16の1ないし16の3,17,18の
1,18の2,70の2ないし70の9,71,88,98,114ない
し116,乙16ないし19,原告A代表者本人)
(ア)原告Aの平成9年から同15年までの営業状況は,別表7(省略)
のとおりであった。すなわち,原告Aは,青色申告を行っているから,
各事業年度ごとに,当該事業年度に係る帳簿書類を備え付け,これに基
づき申告をしていることが推認されるので,その青色申告書の記載は原
告Aの営業実態をほぼ正確に記載していると認められる。そして,原告
らの平成9年から同15年までの確定申告書の内容(原告Bについては
平成9年から同12年まで)は,別表7(省略)のとおりであり,した
がって,原告Aの平成9年から同15年までの営業状況は,別表7(省
略)のとおりであると認められる。
(イ)原告Aの総勘定元帳の記載(甲16号証の1を例にすると「水揚,
げ売上」欄の「P魚市場」を除くその余の売上げの合計額が観光地引き
網の売上高となる)を基に,弁論の全趣旨を総合すると,原告Aの平。
成9年4月から同15年12月までの観光地引き網売上高は別表1省,(
略)のとおりであったと認められる。
(ウ)原告Aの総勘定元帳の記載(甲16号証の1を例にすると「加工,
売上」欄の「有)Q」を除くその余の売上げの合計額を売上高とし,(
「仕入高」欄の「有)Q」からの仕入額を仕入高とし,売上高から仕(
入高を控除した残額を粗利益とする)を基に,弁論の全趣旨を総合す。
ると,原告Aの平成9年3月25日から同15年3月24日までの直営
店舗における売上高及び粗利は,別表1(省略)のとおりであったと認
められる。
(エ)原告Aは,O魚市場との間で,平成12年3月1日,生しらすを毎
日1キログラム当たり少なくとも1150円で100キログラムを買い
取る旨の契約を結んだ。
(オ)O魚市場は,原告Aからの生しらすの出荷受入を,平成12年3月
25日から同年4月6日まで,合計13日間,本件ダイオキシン事故の
魚介類への影響を懸念して,停止した(甲17)。
また,O魚市場は,平成12年4月7日から同月9日まで,生しらす
につき,合計174キログラムの出荷制限を行った(甲88)。
(カ)P魚市場は,原告Aからの生しらすの出荷受入を,平成12年3月
25日から同月27日まで,同月29日及び同月30日,合計5日間,
本件ダイオキシン事故の魚介類への影響を懸念して,停止した(甲1。
8の1)
また,P魚市場は,平成12年3月28日,同月31日から平成12
,,。()年4月12日まで生しらすにつき出荷制限を行った甲18の2
(キ)原告Aの平成11年6月から同年7月までのながらみ漁による売上
高は,240万円(消費税を含めて252万円)であった(甲70の。
。「」「」2ないし70の9なお甲16の1の加工売上欄8頁の8月6日
の「289万8000円」の一部として入金〔甲71)。〕
(,,,イ原告Bの営業状況について甲26ないし3177ないし8099
105ないし107,証人F)
原告Bの平成9年3月25日から同15年3月24日までの売上高は,
別表4(省略)のとおりであった。このことは,原告Bが日常つけている
帳簿(甲31)の記載と確定申告書(甲77,78)の記載とがおおよそ
合致していることから認めることができる。
ウ原告Cの営業状況について(甲20ないし24,54,55,73ない
し76,100,102ないし104,原告C本人)
原告Cの平成10年4月から同15年11月までの観光地引き網売上高
は,別表2(省略)のとおりであった。このことは,確定申告書類(甲7
,)(,,3ないし76102ないし104と帳簿類甲21ないし2354
55)とが一応の整合性を有していることから信用することができる。な
お,確定申告における平成14年及び平成15年の売上額(甲103,1
04)は,代分け分60パーセントが除外して計上されているので,別表
2(省略)にはその額を加えている。
(,,,エ原告Dの営業状況について甲32ないし375682ないし86
101,109ないし111,原告D本人)
(ア)原告Dは,漁協には所属していない。
(イ)原告Dの平成9年から同15年までの営業状況は,別表7(省略)
のとおりであった。このことは,確定申告書類(甲83ないし86,1
09ないし111)と帳簿類(甲33ないし37,56)とが整合性を
有することから信用することができる。
(ウ)原告Dの平成9年から同15年までの各3月及び4月のしらす鰻の
売上高は,別表5(省略)のとおりであった。
(2)原告Aの損害について
ア売上高全体の検討
原告Aについては,平成9年から同15年までの売上高全体の推移をみ
る限り,売上高は順調に伸びて来ており,本件ダイオキシン事故が発生し
た平成12年の売上げは全体として平成11年の売上げの8.25パーセ
ント増となっており,本件ダイオキシン事故を原因として,大きな損害が
生じているものとは認められない(別表7省略)。
また,原告Aの売上高を,水揚げ売上(観光地引き網の売上高等)と加
工売上(直営店舗における売上高,市場への売上高等)に分けた上で,そ
の推移を検討してみても,加工売上は,平成9年から同13年にかけて,
売上高が順調に伸びている一方,水揚げ売上についても,平成12年は,
前後1年に比べて若干売上高が少ない(平成12年の売上げは平成11年
の売上げの8.52パーセント減)ものの,平成9年から同15年までの
水揚げ売上の推移をトータルとして見れば,売上高は上下を繰り返しなが
らも,全体として増加傾向で推移していることが認められる(別表7。
省略)
イ観光地引き網の売上減について
上記アのとおり,原告Aの売上高の増減を年単位でみた場合には,売上
高の顕著な減少は見られないが,観光地引き網の売上高の変動を月単位で
見た場合,平成12年の4月及び5月の売上高は,平成9年から同15年
までの同時期の売上高と比較して,いずれも最少金額であり,平成12年
6月の売上高も,平成9年から同11年までの同時期の売上高の平均額を
大きく下回っており,平成12年4月から6月までの売上高の減少は顕著
であると認められる(別表1省略)。
そして,上記2で検討したとおり,原告Aに,本件ダイオキシン事故の
報道に伴い,一定数の観光地引き網の予約のキャンセルがあったことを考
えれば,平成12年4月から6月までの観光地引き網売上高の減少は,本
件誤接続と相当因果関係のある損害というべきである。
なお,平成12年7月以降の観光地引き網の売上高については,売上高
の顕著な減少は見られず(別表1省略,また,同年5月31日には,)
環境庁らの連絡調整会議により,引地川河口近くにおける観光地引き網の
実施を含めた安全宣言が出されていることから考えれば,この安全宣言以
降,本件ダイオキシン事故の報道の影響は,暫減していったものと考えら
れる。
これらの事情を総合すれば,本件誤接続によって減少したと認められる
観光地引き網の売上高は,平成12年の前後各2年の4月ないし6月の合
計売上高の平均額である642万7939円から,平成12年の4月ない
し6月の合計売上高である451万7359円を差し引いた差額である1
91万0580円と認めるのが相当である。
そして,この金額から,経費として,65パーセント(原告Aと同種の
営業を営んでいる原告Cが,観光地引き網を行う際に乗組員に支払う賃金
(代分け)が,観光地引き網の売上高の6割であることや,この代分け以
外にも経費が生じていると認められること(甲22,原告C本人)等を考
慮すると,原告Aの観光地引き網売上高の減少に伴って減少する経費は,
売上高の65パーセントと解するのが相当である)を差し引いた金額で。
ある66万8703円が,Aの観光地引き網の売上減少につき,本件誤接
続と相当因果関係を有する損害というべきである。
ウ直営店舗の粗利減について
原告Aは,本件ダイオキシン事故の報道以降,直営店舗における売上げ
の粗利が大きく減ったと主張している。
この点,原告Aの主張するとおり,原告Aの「加工売上」のうち,市場
に出荷したものを除いた直営店舗における売上高や粗利は,本件報道日以
降の1年間の売上高をみると,前後の1年間と比較して,減少が顕著であ
ると認められる(別表1省略)。
しかし,市場に出荷した生しらす等を含む「加工売上」全体の売上高を
みると,これらの売上高は,平成12年においても,前年から順調に増加
(前年比13.33パーセント増加)している(別表7省略)。
これは,平成12年に,直営店舗の売上高が減少した額を大きく上回る
金額の生しらす等が,市場へと出荷され,加工売上全体の売上高を増加さ
せたことを表している。
この事実に,原告Aが,本件ダイオキシン事故が発生する前の時点で,
既に,O魚市場との間で,平成12年3月以降,O魚市場に対し毎日10
0キログラム以上の生しらすを継続して出荷する旨の契約をしていたこと
を考え合わせれば,原告Aの直営店舗における売上高が減少したように見
える部分のしらす等の多くは,市場に売却されて,加工売上の一部となっ
たものと推認することができる。
なお,原告Aは,平成12年はしらすが豊漁であったから,本件ダイオ
キシン事故によって直営店舗の売上高が減少しなければ,市場への出荷量
を増やすとともに,直営店舗でも前年どおりの量を販売することが可能で
あったと主張する。
しかし,①そもそも,原告Aは,平成12年においても,過去最高額
の加工売上高(その大半がしらすに関係するものであると認められる。別
表7)を記録しているのであるし,②しらすの豊漁に伴ってしらすの消
費量まで増加するわけではなく,仮に豊漁であれば,その分,しらす漁に
かける時間を減らすこともあったと考えられること(証人F,③平成)
9年から同14年までの間で神奈川県全体で最大量のしらす水揚げがあっ
た年とされる平成9年(甲69)にも,原告Aの「加工売上」の金額は多
(),額になっているわけではないこと別表7省略等の各事情からすると
「平成12年はしらすが豊漁であったから,本件ダイオキシン事故によっ
,,て直営店舗の売上高が減少しなければ市場への出荷量を増やすとともに
直営店舗でも前年どおりの量を販売することが可能であった」という原告
。,Aの主張をそのまま採用することはできないといわざるを得ないただし
平成13年及び同14年の加工売上の額は同12年の加工売上の額よりも
.,.,それぞれ1566パーセント1054パーセント増加しているから
本件ダイオキシン事故による風評被害がなければ,市場への出荷量を保っ
た上で,直営店舗における売上げを実際の売上げより一定程度増加させる
余地はあったものと認められる。
以上によれば,本件ダイオキシン事故の報道の直後に,消費者によるし
らす等の買い控えが生じ,それに伴って原告Aの直営店舗売上高が一定程
度減少したことは否定し難いものの,それによって原告Aに生じたといえ
る損害は,上記のような事情を考慮すると,平成12年3月25日から同
13年3月24日までの1年間の前後各2年間における直営店舗の粗利の
平均額4143万6611円から,平成12年3月25日から同13年3
月24日までの1年間の直営店舗の粗利の金額2579万7847円を差
し引いた金額1563万8764円のうち,少なくとも1割に当たる15
6万3876円と認めるのが相当である。
エ市場への出荷制限等について
上記(1),アのとおり,本件では,原告Aが,平成12年3月から4月
にかけて,O魚市場から,生しらすの出荷を制限(契約どおり出荷したと
仮定すれば1474キログラム)された事実が認められる。
,,,,そして原告Aが少なくともO魚市場との間で平成12年3月以降
毎日100キログラムの生しらすを,1キログラム当たり少なくとも11
,,50円で卸す旨の契約を結んでいたことからすればこの出荷制限により
原告Aには,一定の営業損害が生じたものと認められる。
しかし,本件では,出荷制限等がなければ原告AからO魚市場に対して
実際に出荷されていたと予想される生しらすの量は,平成12年の出荷が
制限されていない時期における実際の出荷量と比較すると,契約出荷量の
9割程度であったと認められること(甲16の2)や,生しらすが市場に
出荷できなくても,それらの一部を加工保存して時期を見て売るという方
法もあったこと(原告A代表者本人,市場に対して出荷する量が減少す)
れば,それに伴って経費も減少すること,直営店舗の売上げに対する粗利
益の割合は概ね70パーセントから80パーセントであること(別表1
省略)等の諸事情を考慮すると,O魚市場の出荷制限により生じたと認め
られる損害は,契約どおりの量及び価格で出荷したと仮定した場合の売上
高である1474キログラム×1150円=169万5100円のうち,
少なくとも6割である101万7060円と認めるのが相当である。
なお,P魚市場による出荷制限についても,原告Aに何らかの営業損害
が生じたことは否定し難いがAと同市場との間には契約関係はなく原,,(
告A代表者本人,また,出荷を制限した日の具体的な制限量に関する証)
明もないこと等からすれば,P魚市場による出荷制限によって生じたと認
められる損害は,原告の主張する売上高の1割である3万1450円と認
めるのが相当である。
オながらみ漁の中止について
(ア)原告Aは,M漁協の理事会が,平成12年の6月から7月のながら
み特別採捕申請決議を差し控えたことにより,ながらみ漁ができず,損
害を被ったと主張するので検討する。
(イ)各項中に掲記した各証拠によれば,ながらみ漁について以下の事実
を認めることができる。
,,,aM漁協は平成9年4月14日ながらみの特別採捕申請に当たり
採捕期間を同年5月6日から7月31日までの間の20日間とする旨
の理事会決議をした(甲89)。
,,,bM漁協は平成10年4月9日ながらみの特別採捕申請に当たり
採捕期間を同年6月1日から7月31日までとする旨の理事会決議を
した(甲90)。
cM漁協は,平成11年5月31日,ながらみの特別採捕申請に当た
り,採捕期間を同年6月10日から7月31日までとする旨の理事会
決議をした(甲91)。
,,,dM漁協は平成12年8月2日ながらみの特別採捕申請に当たり
採捕期間を同年9月1日から10月31日までとする旨の理事会決議
をした(甲93)。
なお,同漁協は,平成12年4月17日の理事会では,ながらみの
特別採捕申請に関する決議を行わなかった(甲92)。
,,,eM漁協は平成13年6月21日ながらみの特別採捕申請につき
採捕期間が夏場の暑い時期では出荷の面で難しいので,9月ころ様子
を見て申請することとする旨の理事会決議をした(甲94)。
(ウ)上記(イ)で認定したとおり,本件では,M漁協の理事会において明確
にながらみ漁の中止が決議された旨の議事録は存在せず,むしろ,平成
12年8月2日の理事会では,前年と採捕時期は変わっているものの,
,,同程度の長さの期間についてながらみの特別採捕申請が行われており
翌年の平成13年においても,採捕期間が夏場の暑い時期では出荷の面
で難しいという理由から,平成12年と同様の時期を採捕期間として,
ながらみの特別採捕申請をすることとしているのであるから,このなが
らみ漁に関して,M漁協の理事会が,平成12年の6月から7月のなが
らみ特別採捕申請決議を差し控えたことにより原告Aに損害が生じたと
いう事実は認められないものである。
カ弁護士費用33万円
上記損害額328万1089円の合計の約1割である33万円を相当因
果関係のある弁護士費用と認める。
キ合計361万1089円
(3)原告Bの損害について
アしらす等の売上減について
原告Bの損害については,平成12年前後の売上高の変動を月単位でみ
た場合,平成12年の4月から6月までの売上高は,平成10年から同1
4年までの同時期の売上高の平均額を大きく下回っており,減少が顕著で
あると認められる(別表4省略)。
そして,本件ダイオキシン事故の報道の直後に,しらす等の買い控えが
一定程度生じたと認められることを考慮すれば,平成12年4月から6月
までの原告Bの売上高の減少は,本件誤接続と相当因果関係のある損害と
認められる。
しかし,原告Bの平成12年7月以降の売上高には,目立った減少はみ
られず,同年5月31日に環境庁らの連絡調整会議による安全宣言が出さ
れていること等も考慮すれば,この安全宣言以降,本件ダイオキシン事故
による影響は暫減していったものと考えられる。
したがって,本件誤接続によって原告Bに生じたといえる損害は,平成
12年3月25日から同13年3月24日までの1年間の前後各2年間の
4月から6月までの売上高の平均額968万8623円(別表4省略)
から,平成12年3月25日から同13年3月24日までの1年間の4月
から6月までの売上高777万9781円(別表4省略)を差し引いた
金額である190万8842円に,売上高が減少するに伴って経費も減少
することや,しらすの直売による売上高が減少しても,その一部を市場へ
出荷して補てんするという方法も考えられたこと,しらすの一部を加工保
存して時期を見て売るという方法も存在したこと(証人F)等の事情を考
慮して,少なくとも,上記売上高の6割である114万5305円を損害
と認めるのが相当である。
なお,原告Bは,損害額の算定に関して「平成12年は,豊漁であっ,
たにもかかわらず,本件ダイオキシン事故が報道され,原告Bの売上高が
減ったために,同原告は,平年に比べてしらす漁の稼働時間を大幅に減ら
さざるを得なかった。仮に,本件ダイオキシン事故が発生せず,原告Bが
平年どおり操業していたとすれば,稼働時間に比例した売上高の増加が期
待できたはずである」という趣旨の主張をしている。。
しかし,仮に平成12年が豊漁であり,かつ,本件ダイオキシン事故が
なかったとしても,しらすの消費量は,豊漁に比例して増加するわけでは
なく,仮に豊漁であれば,その分,しらす漁にかける時間を減らすことも
あったと考えられること(証人F)等に照らせば,本件ダイオキシン事故
がなかった場合に例年以上に利益が上がるとまで認めることはできず,原
告Bの上記主張は採用できない。
イ弁護士費用12万円
上記損害額の約1割である12万円を相当因果関係のある弁護士費用と
認める。
ウ合計126万5305円
(4)原告Cの損害について
ア観光地引き網の売上減について
原告Cの損害については,平成12年前後の観光地引き網の売上高の変
動を月単位でみた場合,平成12年の4月から6月までの売上高は,平成
10年から同14年までの同時期の売上高の平均額を大きく下回ってお
り,減少が顕著であると認められる(別表2省略)。
したがって,平成12年4月から6月までの観光地引き網の売上高の減
少は,本件誤接続と相当因果関係のある損害と認められる。
しかし,原告Cの平成12年7月以降の売上高は,いずれも過去最高額
を記録しており(別表2省略,同年5月31日に環境庁らの連絡調整)
会議による安全宣言が出されていること等も考慮すれば,この安全宣言以
降,本件ダイオキシン事故による影響は暫減していったものと考えられ,
少なくとも,平成12年に加え,平成13年にも営業損害が生じていたと
いう原告Cの主張は採用できないといわざるを得ない。
したがって,原告Cの平成12年の前後各2年の4月から6月までの観
光地引き網売上高の平均298万1250円から,平成12年4月から6
月までの観光地引き網売上高144万円を差し引いた金額154万125
0円のうち,経費65パーセントを差し引いた53万9438円を損害と
認めるのが相当である。
イ弁護士費用5万円
上記損害額の約1割である5万円を相当因果関係のある弁護士費用と認
める。
ウ合計58万9438円
(5)原告Dの損害について
アしらす鰻の粗利減
原告Dは,毎年12月から翌年の4月にかけて,しらす鰻の仲買業を行
っているところ,同原告の売上高には,年ごとに大きなばらつきがみられ
るものの,平成12年4月の売上高は,他の年の4月の売上高に比べて,
減少が顕著であると認められる(別表5省略)。
しかし,原告Dの売上高が減少する場合,それに伴ってしらす鰻の仕入
代金(平成9年から同15年までの利益率を平均すると約3割であると認
められる。別表7省略)を含む諸費用も減少することや,平成12年に
おいては2月までしらす鰻が不漁であったこと(原告D本人,別表5省
略)等の諸事情を考慮すると,本件では,本件ダイオキシン事故により,
しらす鰻の仕入れが一時的に困難になったことは否定し難いものの,それ
によって原告Dに生じた損害は,平成12年の前後各3年(原告Dについ
ては,年ごとの売上高のばらつきが大きいため,前後各3年の売上高を基
準とする)の3月及び4月の売上高の平均額90万1565円から,平。
成12年の3月及び4月の売上高合計34万4450円を差し引いた金額
55万7115円のうち,少なくとも3割である16万7135円と認め
るのが相当である。
なお,原告Dは,平成12年当時の黒潮の流形を根拠に,平成12年4
月にはしらす鰻が豊漁になるはずであったと主張するが,同原告の供述以
外にその具体的な根拠は存在せず,また,実際にしらす鰻が豊漁であった
平成11年1月の黒潮の流形は,同原告が証言するような豊漁を示す黒潮
の流形ではなかったのであるから,この事実に照らしても,同原告が主張
する根拠は弱いといわざるを得ず,同原告の主張は採用できない。
イ弁護士費用2万円
上記損害額16万7135円の約1割である2万円を相当因果関係のあ
る弁護士費用と認める。
ウ合計18万7135円
(6)慰謝料について
原告らは,本件ダイオキシン事故が発生したことによって,自らの生業を
失うことへの不安を余儀なくされる等,精神的損害を被ったと主張する。
しかし,上記認定のとおり,原告らの営業損害は,原告らの通常の売上高
に比べれば,決して多額とはいえないものであり,この損害についても,発
生した者については補償を受けられることを考慮すると,本件では,原告ら
が,このような営業損害に加えて,さらに,慰謝料請求権を発生させるよう
な精神的損害を受けたと認めることはできない。
4被告の責任
被告は,原告らに対し,不法行為の工作物責任に基づき,上記3,(2)ない
し(5)の損害金及びこれらに対する不法行為日の後である平成12年3月24
日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を
負う。
5結論
以上のとおり,原告らの請求は,被告に対し,原告Aにつき,361万10
89円,原告Bにつき,126万5305円,原告Cにつき,58万9438
円,原告Dにつき,18万7135円及びこれらに対する平成12年3月24
日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由
があるからその限度で認容し,その余は理由がないから棄却することとし,訴
訟費用について民事訴訟法61条及び同法64条,65条を,仮執行宣言につ
いて同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
横浜地方裁判所第4民事部
裁判長裁判官小林正
裁判官志田原信三
裁判官髙倉文彦

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