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平成20年6月12日判決言渡
平成20年(行ケ)第10053号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成20年4月24日
判決
原告シー・コム株式会社
訴訟代理人弁理士矢野寿一郎
被告三井化学株式会社
訴訟代理人弁理士庄子幸男
主文
1特許庁が無効2006−80082号事件について平成20年1月
8日にした審決中,特許第3784398号の請求項1に係る発明に
ついての特許を無効とした部分を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文第1項と同旨
第2争いのない事実等(証拠を掲げた事実以外は,当事者間に争いがない。)
1手続の経緯
(1)原告は,発明の名称を「保形性を有する衣服」とする特許第37843
98号の特許(平成16年7月15日に特許出願した特願2004−20
8966号の一部を分割して,平成17年3月29日に新たな特許出願と
し〔甲9〕,平成18年3月24日に設定登録されたもの。請求項の数は
3である。以下,この特許を「本件特許」といい,本件特許の願書に添付
した特許請求の範囲,明細書及び図面〔いずれも登録時のもの〕を併せ
て「本件明細書」という場合がある。)の特許権者である。
(2)被告は,本件特許の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効
とすることを求めて,平成18年5月9日付け(同月10日受付)の審判
請求書(甲10)により,審判(無効2006−80082号事件。以
下「本件審判」という。)を請求した。
その審理の過程において,原告は,平成18年7月28日,本件明細書
の記載を訂正(以下,この訂正を「前訂正」という。)する請求をした(
甲12)。
特許庁は,平成19年1月5日,「訂正を認める。特許第378439
8号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以
下「前審決」という。)をし(甲19),同年3月6日,前審決中,「特
許第3784398号の請求項に係る発明についての特許を無効とす
る。」との部分を「特許第3784398号の請求項1∼3に係る発明に
ついての特許を無効とする。」と更正する決定をした(甲20)。
原告は,平成19年2月13日,前審決を不服として,知的財産高等裁
判所に審決取消訴訟を提起し(甲21),同年5月10日,本件特許につ
き,特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判を請求したところ(甲
27),同裁判所は,同年6月29日,特許法181条2項により前審決
を取り消す旨の決定をした(甲31)。
(3)特許庁は,上記決定が効力を生じたので,本件審判の審理を再開したと
ころ,原告は,平成19年7月26日,本件明細書の記載を訂正(以下,
この訂正を「本件訂正」といい,本件訂正後の本件特許の特許請求の範
囲,明細書及び図面を併せて「訂正明細書」という。)する請求をし(甲
33),これにより,前訂正の請求は取り下げられたものとみなされた(
特許法134条の2第4項)。
特許庁は,原告に対し,平成19年10月30日起案の無効理由通知
書(甲35)により,本件訂正は,特許法134条の2第5項で準用する
同法126条3項及び4項に規定する要件を満たしていないから却下され
るべきであり,本件訂正前の請求項1ないし3に係る発明についての特許
は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものであるから,同法1
23条1項2号の規定により,無効にすべきである旨の通知をした。
原告は,平成19年12月3日付け意見書(甲36)を提出したが,特
許庁は,平成20年1月8日,本件訂正を認めないとした上,「特許第3
784398号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とす
る。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,同月18日,その謄
本を原告に送達した。
(4)なお,本件審決は,本件訂正を認めないとしたものの,本件訂正後の請
求項2に係る発明及びこれを引用する本件訂正後の請求項3に係る発明に
ついて,実質的に進歩性を否定する判断を示しているところ,原告は,本
訴の第1回弁論準備手続期日(平成20年4月24日)において,本件審
決中,特許第3784398号の請求項2及び3に係る各発明についての
特許を無効とした部分の取消しを求めた部分について,審決取消事由を主
張することなく,当該部分について訴えを取り下げ,被告はこれに同意し
た(第1回弁論準備手続調書)。これにより,本件審決中,特許第378
4398号の請求項2及び3に係る各発明についての特許を無効とした部
分は,確定した。
2特許請求の範囲
(1)本件明細書(甲9)の特許請求の範囲の請求項1ないし3の各記載は,
次のとおりである(以下,これらの請求項に係る発明を項番号に対応し
て,「本件発明1」などといい,これらをまとめて「本件発明」とい
う。)。
「【請求項1】衣服の身頃,襟,襟口,ポケット又はポケットフラップの
周縁に沿って袋を形成し,該袋に曲げたり波立たせたり変形自在であってそ
の変形形状を保持可能なワイヤを挿通したことを特徴とする保形成を有する
衣服。
【請求項2】前記ワイヤは,該ワイヤの端部を折り返し,該折り返し部分
に樹脂製の筒状部分を被せて熱溶着することによって端部処理されたもので
あることを特徴とする,請求項1に記載の保形成を有する衣服。
【請求項3】前記ワイヤを,樹脂製ワイヤとすることを特徴とする,請求
項1又は請求項2に記載の保形成を有する衣服。」
(2)訂正明細書の特許請求の範囲(甲33添付の全文訂正特許請求の範囲)
の請求項1ないし3の各記載は,次のとおりである(以下,これらの請求項
に係る発明を項番号に対応して,「訂正発明1」などという。下線部は訂正
箇所を示す。)。
「【請求項1】衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿っ
て,衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して袋を形成し,該袋に
曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能なワイヤを
挿通したことを特徴とする保形性を有する衣服。
【請求項2】衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋
が形成され,該袋に曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を
保持可能なワイヤが挿通された保形性を有する衣服であって,
前記ワイヤは,該ワイヤの端部を折り返し,該折り返し部分を樹脂製の筒
状部材に挿嵌し,前記ワイヤの折り返し部分に前記筒状部材を熱溶着するこ
とによって端部処理されたものであることを特徴とする,保形性を有する衣
服。
【請求項3】前記ワイヤを,樹脂製ワイヤとすることを特徴とする,請求
項1又は請求項2に記載の保形性を有する衣服。」
3本件審決の理由
別紙審決書写し記載のとおりである。要するに,下記(1)の理由により,本
件訂正は,特許法134条の2第5項で準用する同法126条3項,4項に
規定する要件を満たしていないから却下されるべきであり,下記(2)の理由に
より,本件発明1ないし3についての特許は,特許法29条2項の規定に違
反してなされたものであるから,同法123条1項2号の規定により,無効
にすべきである,というものである。
(1)本件訂正は,後記訂正事項1及び5を含むところ,「衣服の襟,ポケッ
ト又はポケットフラップの周縁に沿って,衣服の表側を構成する主布の裏
側に別布を縫合して,袋を形成」することは,本件特許の願書に添付され
た明細書及び図面に記載されておらず,当該明細書又は図面の記載から自
明の事項ということもできないから,訂正事項1は,特許請求の範囲の減
縮を目的にしたものでなく,願書に添付した明細書又は図面に記載されて
いない事項を要件とするものであり,かつ実質的に特許請求の範囲を拡張
又は変更するものであり,また,訂正事項5は,訂正事項1に伴って生じ
た明細書の訂正であって,訂正事項1と同様,特許請求の範囲の減縮を目
的にしたものでなく,願書に添付した明細書又は図面に記載されていない
事項を要件とするものであり,かつ実質的に特許請求の範囲を拡張又は変
更するものであるから,本件訂正は,特許法134条の2第5項で準用す
る同法126条3項,4項に規定する要件を満たしていない。
ア訂正事項1
請求項1の「衣服の身頃,襟,襟口,ポケット又はポケットフラップ
の周縁に沿って袋を形成し」を「衣服の襟,ポケット又はポケットフラ
ップの周縁に沿って,衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合し
て,袋を形成し」と訂正する。
イ訂正事項2
請求項1の「保形成」を「保形性」と訂正する。
ウ訂正事項3
請求項2の「前記ワイヤは,該ワイヤの端部を折り返し,該折り返し
部分に樹脂製の筒状部材を被せて熱溶着することによって端部処理され
たものであることを特徴とする,請求項1に記載の保形成を有する衣
服」を「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋が
形成され,該袋に曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状
を保持可能なワイヤが挿通された保形性を有する衣服であって,前記ワ
イヤは,該ワイヤの端部を折り返し,該折り返し部分を樹脂製の筒状部
材に挿嵌し,前記ワイヤの折り返し部分に前記筒状部材を熱溶着するこ
とによって端部処理されたものであることを特徴とする,保形性を有す
る衣服」と訂正する。
エ訂正事項4
請求項3の「保形成」を「保形性」と訂正する。
オ訂正事項5
段落【0006】の「衣服の身頃,襟,襟口,ポケット又はポケット
フラップの周縁に沿って袋を形成し」を「衣服の襟,ポケット又はポケ
ットフラップの周縁に沿って,衣服の表側を構成する主布の裏側に別布
を縫合して袋を形成し」と訂正する。
カ訂正事項6
段落【0007】の「前記ワイヤは,該ワイヤの端部を折り返し,該
折り返し部分に樹脂製の筒状部材を被せて熱溶着することによって端部
処理されたものとするものである」を「衣服の襟,ポケット又はポケッ
トフラップの周縁に沿って袋が形成され,該袋に曲げたり波立たせたり
変形自在であってその変形形状を保持可能なワイヤが挿通された保形性
を有する衣服であって,前記ワイヤは,該ワイヤの端部を折り返し,該
折り返し部分を樹脂製の筒状部材に挿嵌し,前記ワイヤの折り返し部分
に前記筒状部材を熱溶着することによって端部処理されたものである」
と訂正する。
(2)本件発明1は,下記引用例2,4及び5に記載された発明に基づいて,
本件発明2は,下記引用例2及び4ないし8に記載された発明に基づい
て,本件発明3は,下記引用例1ないし8に記載された発明に基づいて,
それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものである。
ア引用例1
特開平7−238417号公報(甲1)
イ引用例2
実願昭59−49518号(実開昭60−161123号公報)のマ
イクロフィルム(甲2)
ウ引用例3
登録実用新案第3063552号公報(甲3)
エ引用例4
特開2002−309422号公報(甲4)
オ引用例5
実願昭60−106196号(実開昭62−15508号)のマイク
ロフィルム(甲5)
カ引用例6
特開平8−170206号公報(甲6)
キ引用例7
実願平4−4536号(実開平5−56905号)のCD−ROM(
甲7)
ク引用例8
実願平5−63424号(実開平7−28905号)のCD−RO
M(甲8)
第3当事者の主張
1原告の主張
本件審決は,以下のとおり,本件訂正の適否の判断を誤った違法があるか
ら,本件審決中,本件発明1についての特許を無効とした部分は取り消され
るべきである。
(1)訂正事項1の判断の誤り
ア特許法134条の2第5項で準用する同法126条3項について
本件審決は,「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿
って,衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して,袋を形成」
することは,本件特許の願書に添付された明細書及び図面に記載されて
おらず,当該明細書又は図面の記載から自明の事項ということもできな
いと認定判断した。
しかし,以下のとおり,本件審決の上記認定判断は誤りである。
本件明細書の段落【0017】,【0019】ないし【0022】,
【図2】,【図7】,【図9】(a),【図10】(a)の記載によれ
ば,ワイヤ20を衣服の表側に露出しないように裏側に取り付ける形態
の例として,段落【0019】に明記されている「衣服の表側を構成す
る主布17の裏側に,別布19を縫合して袋を形成し,該袋の内部にワ
イヤ20を挿通させる」という態様を,「衣服の襟,ポケット又はポケ
ットフラップの周縁」に適用することができることは,明らかである。
すなわち,本件明細書の段落【0017】,【0021】,【0022
】は,ワイヤの取付位置を説明し,段落【0019】は,ワイヤの取付
構造(方法)を説明していることから,当業者であれば,「衣服の襟,
ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って,衣服の表側を構成する
主布の裏側に別布を縫合して,袋を形成する」という技術的事項を自明
なものとして理解することができる。
イその余の点について
訂正事項1により,特許権の効力の範囲,発明の内容・思想の同一性
につき,第三者に不測の不利益を生じるような変動を生じるものではな
い。
(2)訂正事項5の判断の誤り
本件審決の訂正事項5の判断も,訂正事項1と同様に,誤りである。
2被告の反論
(1)訂正事項1の判断の誤りに対し
本件明細書の段落【0019】に記載された取付形態は,【図7】及び
【図8】からも理解されるように,「衣服の身頃」に形成される構成であ
って,「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁」に付設される
構成ではない。また,本件明細書の段落【0021】及び【0022】に
は,ポケット又はポケットフラップの周縁にワイヤを挿通する形態が説明
されているにとどまり,「衣服の見頃,襟,襟口,ポケット又はポケット
フラップの周縁に沿って袋を形成」することは記載されていないし,この
取付形態が「衣服の表側を構成する主布の裏側に,別布を縫合して袋を形
成し,該袋の内部にワイヤを挿通させる」という取付形態を意味するもの
でもない。
(2)訂正事項5の判断の誤りに対し
本件審決の訂正事項5の判断も,訂正事項1と同様に,誤りはない。
第4当裁判所の判断
1本件訂正の適否について
(1)特許法134条の2第5項で準用する同法126条3項該当性について
ア訂正が,当業者によって,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべて
の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新
たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,「明細
書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するも
のということができ,特許請求の範囲の減縮を目的として,特許請求の
範囲に限定を付加する訂正を行う場合において,付加される訂正事項が
当該明細書又は図面に明示的に記載されている場合や,その記載から自
明である事項である場合には,そのような訂正は,特段の事情のない限
り,新たな技術的事項を導入しないものであると認められ,「明細書,
特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内において」するものである
ということができる(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第105
63号事件・平成20年5月30日判決参照)。
以上を前提として,訂正事項1及び5について,「明細書,特許請求
の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものであるか否
かを検討する。
イ本件明細書(甲9)には,次の記載がある。
(ア)「【請求項1】衣服の身頃,襟,襟口,ポケット又はポケット
フラップの周縁に沿って袋を形成し,該袋に曲げたり波立たせたり変
形自在であってその変形形状を保持可能なワイヤを挿通したことを特
徴とする保形成を有する衣服。」
(イ)「【0017】シャツ10には,保形性を備えるために,すな
わち,衣服の立体的形状を自在に変化させ,その形状を保持させるた
めに,適宜位置に,変形自在且つ形状保持可能なワイヤ20・20・
・・が取り付けられている。
例えば,図2や図4に示す如く,襟付きシャツ10では,襟13
と,襟口(襟の開き部分)14,袖12の下部,身頃11の下部,ポ
ケット15の縁,ポケットフラップ15aの縁に,ワイヤ20・20
・・・が取り付けられ,Tシャツ40では,袖12の下部,身頃11
の下部に,ワイヤ20・20・・・が取り付けられている。」
(ウ)「【0019】前記ワイヤ20は,衣服の表側に露出しないよ
うに,裏側に取り付けられる。
例えば,図7に示す如く,衣服の表側を構成する主布17の裏側
に,別布19を縫合して袋を形成し,該袋の内部にワイヤ20を挿通
させることにより,衣服にワイヤ20を取り付けることができる。
本実施例では,図8に示す如く,布地のボーダー柄の副布16の裏
側に別布19をあてて,副布16と別布19との間に袋を形成し,こ
こにワイヤ20を挿通させることにより,衣服にワイヤ20を取り付
けている。」
(エ)「【0021】シャツ10の襟13の近傍においては,図9(
a)に示す如く,襟13の周縁と,襟口14の周縁とに,ワイヤ20
が取り付けられる。これにより,図9(b)に示す如く,襟13を立
てた状態で保持させることができる。また,襟13の一部を曲げた
り,襟口14を波立たせたり,シャツを立体的に整形し,その状態を
保持することができる。」
(オ)「【0022】シャツ10のポケット15部分では,図10(
a)に示す如く,ポケット15の開口の周縁と,ポケットフラップ1
5aの周縁とに,ワイヤ20が取り付けられる。これにより,図1
0(b)に示す如く,ポケット15を身頃11から浮き立たせて立体
的に整形し,また,ポケットフラップ15aを上方へ反り上がった状
態に立体的に整形し,これらの立体的に整形された状態を状態を保持
することができる。」
ウ本件明細書の前記イの各記載によれば,【請求項1】には,衣服の身
頃,襟,襟口,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成
することが記載されており(前記イ(ア)),段落【0017】には,ワ
イヤの取付位置として,襟,襟口(襟の開き部分),袖の下部,身頃の
下部,ポケットの縁,ポケットフラップの縁が記載されており(前記イ(
イ)),段落【0019】には,ワイヤの取付構造(方法)として,衣服
の表側を構成する主布の裏側に,別布を縫合して袋を形成し,この袋の
内部にワイヤを挿通させることが記載されており(前記イ(ウ)),段落
【0021】には,ワイヤの取付位置として,襟の周縁,襟口の周縁が
記載されており(前記イ(エ)),段落【0022】には,ワイヤの取付
位置として,ポケットの開口の周縁,ポケットフラップの周縁が,それ
ぞれ記載されている(前記イ(オ))と認められる。
すなわち,本件明細書には,①「衣服の襟,ポケット又はポケットフ
ラップの周縁に沿って袋を形成」することが記載され(【請求項1
】),②ワイヤの取付位置として,「衣服の襟,ポケット又はポケット
フラップの周縁」が記載され(段落【0017】,【0021】及び【
0022】),③ワイヤの取付構造(方法)として,「衣服の表側を構
成する主布の裏側に別布を縫合して,袋を形成」すること,この袋の内
部にワイヤを挿通させることが記載されている(段落【0019】)と
いえる。
そうすると,「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿
って袋を形成」して,「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周
縁」にワイヤを取り付けるに当たり,「衣服の表側を構成する主布の裏
側に別布を縫合して,袋を形成」し,この袋の内部にワイヤを挿通させ
るようにすることは,本件明細書の記載を総合することにより導かれる
技術的事項であり,当業者であれば,本件明細書の記載から自明である
事項として,認識することができるというべきである。
被告は,本件明細書の段落【0019】は,専ら「衣服の身頃」に関
する記載である旨主張するが,上記説示に照らし,採用することができ
ない。
エ上記検討したところによれば,訂正事項1及び5は,いずれも「明細
書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するも
のと認められる。
したがって,本件審決が,本件訂正は,訂正事項1及び5を含むか
ら,特許法134条の2第5項で準用する同法126条3項に規定する
要件を満たしていないと判断したことは,誤りというべきである。
(2)その余の点について
ア本件審決は,訂正事項1及び5は,特許請求の範囲の減縮を目的にし
たものでなく,かつ実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するもので
あり,本件訂正は,訂正事項1及び5を含むから,特許法134条の2
第5項で準用する同法126条4項に規定する要件を満たしていないと
判断したが,そのように判断した理由を具体的に示しておらず,理由不
備の違法がある。
イ念のため,上記の点について判断する。
訂正事項1は,本件明細書の特許請求の範囲の【請求項1】におけ
る「衣服の身頃,襟,襟口,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿
って袋を形成し」との記載を,「衣服の襟,ポケット又はポケットフラ
ップの周縁に沿って,衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合し
て,袋を形成し」と訂正することを内容とするものであり,「袋を形
成」する箇所を,「衣服の身頃,襟,襟口,ポケット又はポケットフラ
ップの周縁」から「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁」
に限定するとともに,「袋」を「衣服の表側を構成する主布の裏側に別
布を縫合して・・・形成」したものに限定するものであって,特許請求
の範囲の減縮を目的とするものであることは,明らかである。
また,上記のとおり訂正することにより,発明の実施態様は限定され
るものの,発明の課題ないし目的が異なるものとなるわけではなく,全
く別個の発明と評価されるものではないから,実質的に特許請求の範囲
を拡張又は変更するものということはできない。
なお,本件審決は,原告が,本件審判の第1回口頭審理において,本
件明細書の特許請求の範囲の【請求項1】の「袋」は「両端が閉じられ
た状態の筒状部材を指す。」ものであると主張したこと,また,当該袋
は「衣服の身頃,襟,襟口,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿
って」形成されているものであることを指摘するが,その構成を上記の
とおり限定することが,実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するも
のとはいえない。
また,訂正事項5は,訂正事項1に伴ってなされた明細書の訂正を内
容とするものであって,明りょうでない記載の釈明を目的とすること,
実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでないことは,いずれ
も明らかである。
ウ上記検討したところによれば,本件審決が,本件訂正は,訂正事項1
及び5を含むから,特許法134条の2第5項で準用する同法126条
4項に規定する要件を満たしていないと判断したことは,誤りというべ
きである。
2結論
以上検討したところによれば,本件訂正は,訂正事項1及び5を含むか
ら,特許法134条の2第5項で準用する同法126条3項,4項に規定す
る要件を満たしていないとした本件審決の判断には誤りがあり,この誤り
が,本件訂正を認めないことを前提として,本件発明1についての特許を無
効とすべきであるとした本件審決の結論に影響することは明らかである。
したがって,原告の本訴請求は理由があるから,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官齊木教朗
裁判官嶋末和秀

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〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
時給 当社規定による
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シフトは週40時間以上
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