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平成26年2月14日判決言渡
平成23年(行ウ)第56号一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の変更
認可申請却下処分取消等請求事件
主文
1本件訴えのうち一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の設定認可申請
に係る認可処分の義務付けを求める部分を却下する。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1近畿運輸局長が平成23年3月28日付けで原告に対してした一般乗用旅客
自動車運送事業の運賃及び料金の設定認可申請を却下する旨の処分を取り消す。
2近畿運輸局長は,原告の平成22年4月9日付け一般乗用旅客自動車運送事
業の運賃及び料金の設定認可申請に係る認可処分をせよ。
第2事案の概要
大阪市及びその周辺区域においてタクシー事業を営む原告が,中型車及び小
型車の初乗運賃を2.0㎞まで500円などと設定する一般乗用旅客自動車運
送事業の運賃及び料金の設定認可の申請(以下「本件申請」という。)をした
ところ,近畿運輸局長は,本件申請は道路運送法9条の3第2項1号に適合す
るものと認められないとして,本件申請を却下する旨の処分(以下「本件処分」
という。)をした。本件は,原告が,本件処分は裁量権の範囲の逸脱又はその
濫用があるから違法であると主張して,被告に対し,本件処分の取消し及び近
畿運輸局長において本件申請に係る認可処分をすることの義務付けを求める事
案である。
1法令の定め
(1)一般乗用旅客自動車運送事業者は,旅客の運賃及び料金(旅客の利益に及
ぼす影響が比較的小さいものとして国土交通省令で定める料金を除く。)を
定め,又はこれを変更しようとするときは,国土交通大臣の認可(以下「運
賃等設定認可」という。)を受けなければならない(道路運送法9条の3第
1項)。
(2)国土交通大臣は,運賃等設定認可をしようとするときは,次の基準によっ
て,これをしなければならない(同条2項)。
ア能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超え
ないものであること(同項1号)。
イ特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものでないこと(同項2号)。
ウ他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすことと
なるおそれがないものであること(同項3号)。
エ運賃及び料金が対距離制による場合であって,国土交通大臣がその算定
の基礎となる距離を定めたときは,これによるものであること(同項4号)。
(3)上記(2)アの規定の適用については,当分の間,「加えたものを超えな
いもの」とあるのは,「加えたもの」とする(附則2項。なお,同項は,特
定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特
別措置法(平成21年法律第64号。以下「特措法」という。)附則5項に
よる改正により設けられたものである。)。
(4)運賃等設定認可に関する国土交通大臣の権限は,地方運輸局長に委任する
(道路運送法88条2項,道路運送法施行令1条2項)。
2前提となる事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によ
り容易に認めることができる。
(1)当事者等
ア原告は,大阪市及びその周辺区域において一般乗用旅客自動車運送事業
(タクシー事業)を営む株式会社である。
イ近畿運輸局長は,大阪府等における運賃等設定認可に関する国土交通大
臣の権限の委任を受けた地方運輸局長である。
(2)審査基準公示
近畿運輸局長は,道路運送法9条の3第2項の審査基準として,「一般乗
用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の認可申請の審査基準について」(平
成14年近運旅二公示第11号。以下「審査基準公示」という。)を定め,
これを公示しているところ,審査基準公示のうち本件に関係する部分の概要
は,以下のとおりである(甲20)。
ア自動認可運賃に該当する運賃の申請について
申請運賃が特定の地域の自動認可運賃(近畿運輸局長が特定の地域(以
下「運賃適用地域」という。)ごとに一定の方法で算定した上限運賃及び
下限運賃により設定する運賃をいう。以下同じ。)に該当する運賃等設定
認可の申請については,速やかに運賃等設定認可を行う(審査基準公示4
(1),別紙4第2。なお,本件処分当時の大阪地区(大阪府全域)にお
ける自動認可運賃は,中型車の初乗運賃が2.0㎞まで640~660円
であり,小型車の初乗運賃が2.0㎞まで620~640円であった(乙
3,弁論の全趣旨)。)。
イ自動認可運賃に該当しない運賃の申請について
申請運賃が当該運賃適用地域の自動認可運賃に該当せず,かつ,運賃改
定(当該運賃適用地域において普通車の最も高額の運賃よりも高い運賃を
設定することをいう。以下同じ。)に当たらない運賃等設定認可の申請に
ついては,次の要領により,適正な原価に適正な利潤を加えたものである
こと等の認可要件を個別に審査する(審査基準公示4(2),別紙4第3)。
(ア)原価及び収入の査定
a申請者は,実績年度(最近の実績年度1年間をいう。以下同じ。)
の原価及び収入を基に所定の方法により算定し,又は合理的な理由を
付してこれに準じた方法で算定した原価及び収入を記載した書類を作
成の上,これを申請書に添付して提出する。
b近畿運輸局長は,上記aの書類を基に平年度(実績年度の翌々年度
1年間をいう。以下同じ。)における申請者の原価及び収入を査定す
る。ただし,人件費については,運転者一人当たり平均給与月額(基
準賃金,基準外賃金及び賞与(一時金を含む。)の年間総額を12で
除したものをいう。以下同じ。)が標準人件費(後記ウの要領で選定
される原価計算対象事業者の運転者一人当たり平均給与月額の平均の
額をいう。以下同じ。)を下回るときは標準人件費により査定し,人
件費以外の原価については,燃料油脂費,車両償却費,車両リース料,
役員報酬,営業外費用及び適正利潤は実績値により,上記以外は原価
計算対象事業者の走行キロ当たり原価(ただし,実績値により査定す
ることに十分な合理性が認められる場合には,実績値によることも妨
げられない。)によりそれぞれ査定する。
(イ)運賃査定額の算定
近畿運輸局長は,上記(ア)による査定に基づき,平年度における収
支率が100%となる変更後の運賃額(以下「運賃査定額」という。)
を算定する。ただし,運賃査定額が自動認可運賃となる場合にあっては
申請に係る運賃の額に最も近い自動認可運賃額をもって運賃査定額とす
る。
(ウ)申請に対する処分
a近畿運輸局長は,申請に係る運賃の額が運賃査定額以上である場合
は,申請額で運賃等設定認可をする。
b近畿運輸局長は,申請に係る運賃の額が運賃査定額に満たない場合
は,運賃査定額を申請者に通知し(申請者は通知後2週間以内に申請
額を運賃査定額に変更することができる。),申請者から申請額を運
賃査定額に変更する旨の申請がない場合は,当該申請を却下する。
ウ標準能率事業者及び原価計算対象事業者の選定について
(ア)標準能率事業者
近畿運輸局長は,運賃適用地域内において,運賃改定の申請事業者の
中から,①原価標準基準(1人1車制個人タクシー事業者及び小規模個
人経営者(5両以下),3年以上存続していない事業者等),②サービ
ス標準基準(事業用自動車の平均車齢が当該運賃適用地域の全事業者の
平均値に比較して特に高いと認められる事業者,タクシーサービスの著
しく不良な事業者及び安全運行を怠り事故を多発している事業者)又は
③効率性基準(運賃適用地域の事業者のうち年間平均実働率又は生産性
(従業員1人当たりの営業収入)の水準が,当該地域内の全事業者の上
位から概ね80%の順位にある水準以下の事業者)に該当する者を除き,
標準的経営を行っている事業者を標準能率事業者として選定する(審査
基準公示別紙1第1)。
(イ)原価計算対象事業者
近畿運輸局長は,運賃適用地域の事業者のうち前記(ア)の標準能率
事業者の中から,①車両規模別にそれぞれ50%を抽出すること,②そ
の抽出に当たっては,各運賃額別,車両数規模別に申請事業者全体に対
する車両数比率を算出し,その比率をもって事業者を抽出すること,③
抽出事業者数の最低は10社とし,30社を超える場合は30社を限度
とすること及び④抽出事業者の実績加重平均収支率が標準能率事業者の
実績加重平均収支率を下回らないように抽出することという基準により,
原価計算対象事業者を抽出する(審査基準公示別紙2第1)。
(3)本件処分の経緯等
ア原告は,平成20年2月27日付けで,近畿運輸局長に対し,営業区域
を大阪市域交通圏(大阪市及びその周辺区域)とする一般乗用旅客自動車
運送事業の許可並びに中型車及び小型車の初乗運賃を2.0㎞まで500
円などと設定する運賃等設定認可の申請をし,近畿運輸局長は,同年6月
27日付けで,原告に対し,上記申請に係る一般乗用旅客自動車運送事業
の許可及び運賃等設定認可(以下「本件原認可」という。)をした(甲1,
乙1)。
イ原告は,平成21年9月15日付けで,近畿運輸局長に対し,本件原認
可と同じ初乗運賃等を設定する運賃等設定認可の申請をし,近畿運輸局長
は,平成22年2月10日付けで,上記申請を却下する旨の処分をした(甲
2,8)。
ウ原告は,同月15日付けで,近畿運輸局長に対し,中型車及び小型車の
初乗運賃を1.0㎞まで320円などと設定する運賃等設定認可の申請を
し,近畿運輸局長は,同年3月15日付けで,上記申請に係る運賃等設定
認可(以下「本件変更認可」という。)をした(甲9,10)。
エ原告は,同年4月9日付けで,近畿運輸局長に対し,中型車及び小型車
の初乗運賃を2.0㎞まで500円などと設定する本件申請をした(甲1
4)。
オ近畿運輸局長は,平成23年3月11日付けで,原告に対し,本件申請
に係る中型車及び小型車の初乗運賃の運賃査定額が2.0㎞まで590円
である旨及び2週間以内に運賃申請額を大阪地区の中型車及び小型車の上
限運賃から上記運賃査定額の間の額に変更することができるが,同変更の
申請がない場合には本件申請を却下する旨を通知した(甲18)。
カ近畿運輸局長は,原告から上記オの変更の申請がされなかったことから,
同月28日付けで,本件申請は道路運送法9条の3第2項1号に適合する
ものと認められないとして,本件申請を却下する旨の本件処分をした(甲
19)。
キ原告は,同年4月1日,本件訴訟を提起した(顕著な事実)。
(4)本件申請に係る添付書類の概要
原告は,本件申請の際,本件の実績年度(平成21年3月1日~平成22
年2月末日)の収支(その概要は,別紙「原価・収入計算表」の「平成21
年度」欄に記載のとおりである。)及び平年度(平成23年3月1日~平成
24年2月末日)の収支予測(その概要は,同別紙「事業者申請値」欄に記
載のとおりである。)を記載した収支見積書を含む「平成22年度一般乗用
旅客自動車運送事業原価計算書」(以下「本件原価計算書」という。)を提
出した(甲17,26,弁論の全趣旨)。
(5)近畿運輸局長による査定の概要
近畿運輸局長が本件処分の際に本件申請について審査基準公示の定めによ
り行った平年度における原告の原価及び収入の査定の結果(本件申請に係る
運賃の額を前提としたもの)は,別紙「原価・収入計算表」の「査定数値」
欄に記載のとおりであり,そのうち本件において査定の合理性について争い
のある運送収入,人件費,一般管理費及び営業外費用の算定過程は,以下の
とおりである(甲17,26,乙4,5,弁論の全趣旨)。
ア運送収入2億2055万7000円
以下のとおり,車種区分別の車キロ当たり収入(実績値)に実車走行距
離(査定値)を乗じたものを合計して求めた。
中型車262.94円×798,881㎞≒210,057,770円
小型車256.15円×40,986㎞≒10,498,564円
合計210,057,770円+10,498,564円≒220,557,000円
なお,上記の車キロ当たり収入(実績値)は,以下のとおり,車種区分
別の実績年度運送収入を実績年度実車走行距離で除して求めた。
中型車212,656,000円÷808,764㎞≒262.94円
小型車7,936,000円÷30,982㎞≒256.15円
また,上記の実車走行距離(査定値)は,以下のとおり,実働1日1車
当たり実車距離に実働車両数(査定値)及び車種別車両数比を乗じて求め
た(なお,実働1日1車当たり実車距離は,実車距離(申請値)を実働車
両数(実績値)で除して求めた。)。
中型車85.50㎞×9,823両×95.12%≒798,881㎞
小型車85.50㎞×9,823両×4.88%≒40,986㎞
(85.50㎞≒844,484㎞÷9,877両)
イ人件費1億6399万9000円
以下のとおり,運転者人件費と技工・事務員等人件費を合計して求めた。
149,312,000円+14,687,000円=163,999,000円
(ア)運転者人件費1億4931万2000円
以下のとおり,平均給与月額(福利厚生費を含む。以下同じ。)(申
請値)に支給延人員数(査定値)を乗じて求めた。
280,661円×532人≒149,312,000円
なお,上記の平均給与月額については,総人件費(実績年度総給与月
額から一定の方法で算出した平年度の平均給与月額に支給延人員数(査
定値)を乗じ,さらに,一定の方法で算出した退職金支給率及び厚生費
支給率を加味したもの)を支給延人員数(査定値)で除して査定値を求
めたところ,以下のとおり申請値が査定値及び標準人件費を上回ったこ
とから,より高い申請値を採用した。
申請値280,661円
査定値132,406,000円÷532人≒248,883円
標準人件費259,121円
また,上記の支給延人員数(査定値)は,以下のとおり,実績年度支
給延人員数(実績値)に,実働車両数(査定値)を実績年度延実働車両
数(実績値)で除して得た数値を乗じて求めた(なお,実働車両数(査
定値)は,実在車両数に実働率(申請値は申請後の実績に照らし実現困
難と認め,実績値を採用した。)を乗じて求めた。)。
480人×(9,823両÷8,859両)≒532人
(9,823両≒14,965両×65.64%)
(イ)技工・事務員等人件費1468万7000円
以下のとおり,原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価に走行距離
(査定値)を乗じて求めた。
7.67円×1,914,896㎞≒14,687,000円
ウ一般管理費2428万7000円
以下のとおり,人件費(役員報酬その他),諸税及びその他経費を合計
して求めた。
12,874,000円+900,000円+10,513,000円=24,287,000円
なお,上記の人件費(1287万4000円)のうち役員報酬について
は,申請値は0円であるが,経理上の実績値(515万7000円)を計
上し,その他の管理部門人件費(771万7000円)については,以下
のとおり,原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価に走行距離(査定値)
を乗じて求めた。
4.03円×1,914,896㎞≒7,717,000円
エ営業外費用403万1000円
以下のとおり,金融費用,車両売却損及びその他を合計して求めた。
3,918,000円+113,000円+0円=4,031,000円
なお,上記の金融費用については,申請値は0円であるが,実績年度の
実績値を基にした査定値(391万8000円)を計上した。
3争点及び当事者の主張
本件の主たる争点は,本件処分の違法性(具体的には,近畿運輸局長が本件
申請を却下したことに裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるか)であり,こ
の点についての当事者の主張は以下のとおりである。
(原告の主張)
近畿運輸局長による原告の平年度における原価及び収入の査定は,以下のと
おり不合理であるから,近畿運輸局長が本件申請は道路運送法9条の3第2項
1号に適合する(能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた
ものである)と認められないとして本件申請を却下したことには裁量権の範囲
の逸脱又はその濫用があり,本件処分は違法である。そして,本件申請は認可
されるべきものであるから,本件処分を取り消した上,近畿運輸局長において
本件申請に係る認可処分をすることを義務付けるべきである。
(1)運送収入の査定について
ア原告が申請した運送収入(2億5186万4000円)は,原告が,実
績年度の運送収入(実績値)を基に過去の実績から実働1日1車当たり2
万5500円の運送収入を上げ得ると見込み,これに,延実在車両数(実
在車両数41両に365日を乗じた1万4965両)に実績年度を参考に
算出した実働率(66%)を乗じた9877両を乗じて算出したものであ
り,原告と同一場所において本件申請と同じ運賃で営業していたA株式会
社B営業所(以下「別会社営業所」という。)の平成22年度の実績(実
働1日1車当たり運送収入2万5615円)に照らしても,将来の予測値
としてそれなりに合理的である。そうすると,原告の上記申請値を採用し
なかった近畿運輸局長の査定は,不合理というべきである。
イまた,運送収入の査定に用いられた実車走行距離(査定値)の前提とな
っている実車距離(申請値)は,近畿運輸局長の指導により,実績年度で
はなく翌年度のうちの6か月(平成22年3月1日~同年8月末日)の実
績に基づく数値を申告させられたものであるところ,原告においては,同
年4月以降,本件変更認可に伴う値上げの影響により,多くの乗務員が退
職して実働率が低下し,客離れが起きて実車率及び走行距離が低下してい
たため,上記申請値は不当に低くなっている。よって,上記申請値を,値
上げ前の本件原認可と同じ運賃を設定する本件申請の査定の根拠にするこ
とは,不合理というべきである。
さらに,原告においては,同年1月以降,近畿運輸局長がした日勤勤務
運転者の1乗務当たりの乗務距離の最高限度を250㎞とする定め(以下
「本件乗務距離規制」という。)を含む公示により,乗務距離が抑制され
ていたため(誤差の大きいメーターによる乗務距離測定によって処分を受
けることを恐れた運転者が走行距離をかなり抑えていた。),上記申請値
は低く抑えられている(なお,近畿運輸局長は,実車距離の査定において
も,実績値から上記乗務距離の最高限度を超えた部分を日報調査修正とし
て差し引いている。)が,本件乗務距離規制については,これを違法であ
るとする判決が確定しているのであるから,上記申請値を採用すること(及
び上記のとおり日報調査修正を行った査定値を採用すること)は不合理と
いうべきである。
(2)人件費の査定について
ア運転者人件費について
近畿運輸局長は,運転者人件費の基礎となる運転者の平均給与月額につ
いて,原告の申請値を採用しているが,当該申請値は,運送収入の査定に
おいて合理性がないとして否定された高い運送収入(申請値)を前提とす
る高いものであるから,運送収入について申請値を認めないのであれば,
平均給与月額について申請値を採用することは不合理であり,査定値又は
標準人件費によるべきである(原価計算対象事業者は,勤続年数の長い乗
務員を多く抱えていることが想定され,年功序列制の下,手当や退職金も
多く,平均給与月額も高くなるはずであるから,原告のように開業間もな
い事業者とは状況が異なるし,赤字の者や既に廃業した者も含まれている
など,効率的な営業をしているか不明であり,その平均給与月額である標
準人件費により査定するのも本来不当であるが,少なくともこれによるべ
きである。)。
また,支給延人員数の査定値(532人)は,平成22年度の給与支給
対象となる運転者が484人であることに照らすと,過大である。申請値
(516人)は,保有する41両の車両を運転者43人で運用することを
目安に算出した数字であって,実績に照らし十分達成可能であり,当該数
値が特に不合理でない以上は,申請値が採用されるべきである。原告は,
平成20年度には少ない運転者で高い実働率(75.5%)をあげており,
実働車両数の増加の割合を平年度支給延人員数に直ちに反映させる理由は
ない。また,支払延人員数の基礎となる実働車両数を査定する際に用いる
実働率は,本件変更認可に伴う値上げにより本件申請の後に低下している
のであるから,実績年度の実績値を採用するのは不合理である。
イ技工・事務員等人件費について
近畿運輸局長は,原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価に原告の走
行距離(査定値)を乗じて技工・事務員等人件費を算出しているが,原価
計算対象事業者は,いずれも自動認可運賃で営業しており,少ない走行距
離で収入を得られるため,原価が同じでも走行キロ当たりでは割高になる
から,その走行キロ当たり原価に,低い運賃で比較的長い距離を走行する
ことを前提とする原告の走行距離(査定値)を乗じては,原価計算対象事
業者とはビジネスモデルが異なる原告について,不当に過大な原価が査定
される結果となりかねない。このような査定方法は,申請事業者の合理的
な経費削減に向けた経営努力を全く無視するものであり不合理である(低
額運賃で営業している事業者だからといって安全やサービス,労働条件が
おろそかになっているという傾向は認められず,初乗運賃を2.0㎞まで
500円を下回るものとするような運賃値下げ競争も存在しないから,労
働条件の確保や安全性・サービスの低下防止のために原価計算対象事業者
の数値に基づいて原価を査定すべきとはいえない。)。むしろ,個別申請・
個別審査・個別認可方式を採用している道路運送法の下では,申請値に特
段不合理な点がなければ申請値に基づいて原価を査定すべきである(申請
者が自ら赤字になるような運賃を申請するとは考えられないから,申請値
には合理性があるといえる。)。
また,近畿運輸局長は,実績年度直近の平成21年度の原価計算対象事
業者の走行キロ当たり原価を用いず,それよりも高い平成20年度の数値
を用いて査定をしており,不合理である。
(3)一般管理費の査定について
ア役員報酬について
近畿運輸局長は,一般管理費のうちの役員報酬について,実績値(51
5万7000円)を計上しているが,原告の役員は,運行管理者及び整備
管理者を兼務してその給与を受け,他方,役員報酬を受領していない(運
行管理者等を役員が兼務することは法律上禁じられていないから,このよ
うな取扱いは企業努力として認められるべきである。)から,前記前提と
なる事実(5)イ(イ)のとおり,技工・事務員等人件費(運行管理者,
整備管理者等の人件費)として査定値(1468万7000円)を計上し
ながら,別途,実績値を役員報酬として計上することは,二重計上であり,
不合理である。
イその他の管理部門人件費について
近畿運輸局長は,原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価に原告の走
行距離(査定値)を乗じて役員以外の管理部門人件費を算出しているが,
この点は,前記(2)イのとおり,不合理である。
(4)営業外費用の査定について
近畿運輸局長は,翌年度(実績年度の翌年度1年間をいう。以下同じ。)
である平成22年度以降は借入金の利息の支払がないにもかかわらず,実績
年度の実績値(391万4000円)に基づく査定値(391万8000円)
を計上しており,不合理である。原告は,当該借入れの元本を,平成23年
10月25日及び平成24年1月25日の2回に分けて返済しているが,利
息については,平成22年度以降は支払わない旨を債権者と合意している。
(被告の主張)
近畿運輸局長による原告の平年度における原価及び収入の査定は,以下のと
おり合理的であり,近畿運輸局長が本件申請は道路運送法9条の3第2項1号
に適合する(能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたもの
である)と認められないとして本件申請を却下したことに裁量権の範囲の逸脱
又はその濫用はないから,本件処分は適法であり,その取消請求は棄却される
べきである。そして,本件申請に係る認可処分の義務付けを求める訴えは,行
政事件訴訟法3条6項2号の申請型義務付けの訴えであるところ,本件処分の
取消請求は上記のとおり認容されるべきものではないから,上記義務付けの訴
えは,同法37条の3第1項2号の要件を満たさず不適法である。
(1)運送収入の査定について
ア近畿運輸局長は,原告の申請後の経営状況を勘案しつつ,申請値及び実
績値に基づき運送収入を査定しており,その査定は合理的である。他方,
原告の申請値は,その達成に必要な実車キロ当たり運送収入(298.2
5円)が実績年度の実績値(262.69円)とかけ離れており,別会社
営業所の実績と比較しても,前提となる実働1日1車当たり実車距離が別
会社営業所の実績(95.85~96.60km)と原告の実車距離(申請
値)に基づく値(85.50㎞)とでは大きく異なるから,合理的な予測
を基にした数値であるということはできない。
なお,審査基準公示は,申請者独自の算式による運送収入の算出を認め
ているが,その場合には,審査基準公示の算式ではなく自己の算式による
ことの「合理的な理由」を付さなければならないとされているところ,本
件申請については,そのような「合理的な理由」も付されていないのであ
るから,仮に,原告の算定方法に合理性が認められるとしても,これを採
用しなかった査定が不合理ということにはならない。
イまた,近畿運輸局長は,運送収入の算定に用いる実車距離について,原
告に対し,平成22年3月1日~同年8月末日の実績を申請値とするよう
に指導したことはなく,申請値を採用したことが不合理ということはでき
ない(そもそも自ら申請した申請値が採用されたことを論難すること自体
不合理というべきである。)。
そして,実働1日1車当たり実車距離に係る申請値(85.50㎞)は,
査定値(87.74㎞)と比べても大きな乖離がないところ,この査定値
は,値上げ前である実績年度(平成21年3月1日~平成22年2月末日)
の実績値から本件乗務距離規制違反等の法令違反に係る走行距離を差し引
いた上,統計学上合理的な手法であるとされる最小二乗法により数値化さ
れた変動傾向を乗じて計算した合理的なものであるから,上記申請値を採
用したことが不合理であるとはいえない(なお,仮に,本件乗務距離規制
を超える走行部分を実績から差し引かずに算定すると,原告の実働1日1
車当たり実車距離は90.40㎞となるが,その場合も,自ら申請した申
請値がこれを下回っており達成可能と判断される以上,申請値を採用する
ことが不合理であるとはいえない。)。
(2)人件費の査定について
ア運転者人件費について
運転者の労働条件確保という政策的要請(特措法の趣旨)からすれば,
申請者が充てる用意があるとして申請した人件費(申請値)が運転者の収
入の改善に資するものであればこれを尊重し,そのような人件費の裏付け
となるだけの収入を確保できる運賃水準を査定すべきである(逆に,申請
値が実績値や標準人件費を下回るものであった場合には,運転者の労働条
件確保の観点から,実績値や標準人件費を採用して査定すべきである。)
から,平均給与月額について,実績値や標準人件費より高い申請値を採用
したことは合理的である。運送収入の低下に連動して運転者人件費を低下
させることは,上記の政策的要請に反するから,運送収入を申請値よりも
低く査定するのであれば平均給与月額も低く査定する必要があるとはいえ
ないし,運送収入の低下が人件費の低下に単純に連動するものでもない。
なお,原価計算対象事業者は,実働率や従業員一人当たりの営業収入額の
面で効率性が悪い事業者を除くといった基準で選定されているから,当該
運賃適用地域において標準的・能率的な経営を行っている事業者であると
いえる(一部の原価計算対象事業者は赤字であるが,大阪地区全体におい
て赤字傾向が見られるので,赤字というだけで直ちに標準的・能率的な経
営を行っていないということはできない。)。
また,支給延人員数は,実働車両数とある程度相関関係にあると考えら
れるから,実働車両数の増減の割合を平年度支給延人員数に反映させる査
定方法は合理的である。そして,労働条件の確保の観点から必要な運転者
人件費を確保できるような運賃を査定するためには,事業者の最近の営業
の状況を端的に反映している実績年度の実働車両数と運転者数(支給延人
員数)の比率と同程度以上になるよう計算すべきであるし,原告の平成2
2年3月~平成23年1月頃の乗務員数は41~50名であり,隔勤・昼
勤の乗務員も増員予定であったというのであるから,査定値が過大である
とはいえない。
イ技工・事務員等人件費について
運転者の労働条件の確保及び安全性やサービスの低下防止という政策的
要請(特措法の趣旨)に照らせば,下限割れ運賃の認可申請に係る査定に
おいて,競争を促進することが望ましくない費目につき,事業者の申請値
を採用せず,原価計算対象事業者(前記アのとおり,当該運賃適用地域に
おいて標準的・能率的な経営を行っている事業者であるといえる。)の平
均値を採用することは合理的である(タクシー事業は,運賃原価を構成す
る要素がほぼ共通と考えられる上,人件費が原価の相当部分を占めるもの
であり,同一地域では賃金水準や一般物価水準といった経済情勢はほぼ同
じと考えられるから,同一地域内では適正な原価に事業者による差異が生
ずる余地が少ないし,走行距離が長ければ一般に多くの費用が必要となる
から,走行距離の短い事業者の走行キロ当たり原価が割高になるともいえ
ない。そして,低額運賃事業者が安全やサービス面で問題の少ない事業者
であるとはいえないし,大阪地区においては運賃競争が存在するから,コ
スト削減競争に歯止めをかける必要があるといえる。)。他方,申請者は,
希望額で運賃等設定認可を受けられるよう,収入を高く,支出を低く予測
するインセンティブが働きやすいので,その申請値が最も確からしい数値
であるとは限らない。
なお,本件申請の査定に平成20年度の原価計算対象事業者の走行キロ
当たり原価を用いたのは,査定が終了した平成23年3月までに平成21
年度分の集計(平成23年6月頃完成)ができていなかったからにすぎな
い上,平成20年度~平成22年度の各原価合計に大きな差異はない。
(3)一般管理費の査定について
ア役員報酬について
役員のうち1名以上は専従であることが必要であるから,原告が役員報
酬を支払っていないとは考え難いところ,原告が運行管理者及び整備管理
者各1名の給与として申請している額は,経理上役員報酬として支払われ
ているというのであるから,同額を役員報酬として査定することは合理的
であり,他方,運行管理者及び整備管理者の人件費については,安全性や
サービスの確保に必要な経費であるから,実績値や申請値を前提とせず,
原価計算対象事業者の平均値に基づき査定するのが合理的である。よって,
役員報酬に上記実績値を計上した上で,運行管理者及び整備管理者の人件
費を,同額又は0円と査定せず,原価計算対象事業者の平均値により査定
することが不合理であるとはいえない(なお,少なくとも,運行管理者に
ついては,役員との兼務は,利益相反の可能性や兼務に伴う業務量増加に
より運行管理業務の適切な実施が困難になるおそれを生じさせ,安全管理
上不適切といえるから,役員との兼務を認めない前提での査定は不合理で
はない。)。
イその他の管理部門人件費について
近畿運輸局長は,原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価に原告の走
行距離(査定値)を乗じて役員以外の管理部門人件費を算出しているが,
この点は,前記(2)イのとおり,合理的である。
(4)営業外費用の査定について
原告は,実績年度(平成21年度)には391万4000円の利息を支払
っており,その翌年度・平年度に元本が完済されるとは考え難いことから,
これに基づいて利息支払を見込んだものである。原告は新たに借入れをして
いないというのみであり,本件処分までに従前の借入金を完済していなかっ
たから,実績年度の利息支払額に基づく査定値を計上することは合理的であ
る。
第3当裁判所の判断
1判断枠組み
(1)証拠(乙6~16)及び弁論の全趣旨によれば,特措法の制定の経緯に関
し,以下の事実が認められる。
ア平成12年法律第86号による改正前の道路運送法9条2項1号は,運
賃等設定認可の認可基準の一つとして,「能率的な経営の下における適正
な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むもの」との基準を定めていたとこ
ろ,上記改正後の同法9条の3第2項1号においては,上記基準は,利用
者の経済的利益の保護を図る観点から,「能率的な経営の下における適正
な原価に適正な利潤を加えたものを超えないもの」と改められた。
イ上記アの改正後,タクシー事業については,待ち時間の短縮,多様なサ
ービスの導入等の効果が現れる一方で,長期的な需要の減少傾向の中,タ
クシーの経営環境は総じて非常に厳しい状況に置かれ,特に運転者の賃金
等の労働条件の著しい悪化傾向がタクシーの安全性や利便性を低下させて
いるのではないかといった指摘がされ,交通政策審議会の小委員会におい
て検討が行われるなどした。
ウ交通政策審議会は,国土交通大臣の諮問を受け,平成20年12月,タ
クシーの運賃について,過度な低額運賃競争が行われた場合,運転者の労
働条件や安全性の確保のための経費の削減が生じやすく,安全性やサービ
スの質の低下を通じて利用者に不利益をもたらすおそれがあるとした上,
適正な運賃水準の下限を下回るいわゆる下限割れ運賃については,ガイド
ライン等の形で基準を明確化した上で,その適否を個々に判断する必要が
あるなどとする答申をした。
エ政府は,平成21年2月,上記ウの答申を受けて,特措法に係る法案を
第171回国会に提出したが,同法案には,道路運送法9条の3第2項1
号所定の基準を変更する規定は含まれていなかった。
オ上記エの法案は,同年6月10日,衆議院国土交通委員会において,過
当な競争によって利用者の安全性や利便が損なわれる事態を防ぐためには
道路運送法9条の3第2項1号所定の基準を改める必要があるといった議
論を踏まえ,同号の規定の適用については,当分の間,能率的な経営の下
における適正な原価に適正な利潤を加えたものとすること等を内容とする
修正を加えた上で可決され(タクシーの安全を確保するための適切な運賃
水準が確保されるよう下限割れ運賃の審査を厳格化する措置を講ずること
等を政府に求める附帯決議がある。),同月11日,衆議院本会議におい
て可決された。さらに,同法案は,同月18日,参議院国土交通委員会に
おいて可決され(適切な運賃水準の趣旨を逸脱した下限割れ運賃等の防止
に必要な措置を講ずること等を政府に求める附帯決議がある。),同月1
9日,参議院本会議において可決され,特措法が成立した。
(2)上記(1)のような特措法の制定の経緯等に照らすと,特措法による改正
後の道路運送法附則2項によって読み替えられる同法9条の3第2項1号が,
運賃等設定認可の認可基準の一つとして,「能率的な経営の下における適正
な原価に適正な利潤を加えたもの」との基準を定めている趣旨は,一般旅客
自動車運送事業の有する公共性・公益性に鑑み,安定した事業経営の確立を
図るとともに,運転者等の労働条件を確保し,安全性や利用者に対するサー
ビスの質の低下を防止することにあると解するのが相当である。そして,同
号の基準は抽象的,概括的なものであり,同基準に適合するか否かは,行政
庁の専門技術的な知識経験と公益上の判断を必要とし,ある程度の裁量的要
素があることを否定することはできない(最高裁平成11年7月19日第一
小法廷判決・裁判集民事193号571頁参照)。
そうすると,上記基準に適合すると認められないことを理由として運賃変
更に係る運賃等設定認可の申請を却下する処分は,変更に係る運賃の額が能
率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものと認められな
いとする地方運輸局長の判断が,上記の規定の趣旨等に照らして合理性を欠
くこと等により,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものと認
められる場合に違法となると解するのが相当である。
2検討
(1)運送収入の査定について
ア申請値を採用しなかった点について
(ア)原告は,本件申請において原告が申請した運送収入(2億5186万
4000円)は将来の予測値としてそれなりに合理的であり,これを採
用しなかった近畿運輸局長の査定は不合理であると主張する。
(イ)しかしながら,原告の上記申請値を達成するために必要な実車キロ当
たり収入(上記申請値を実車距離(申請値)である84万4484㎞で
除したもの)は,約298円(実車距離につき,後記イのとおり,実績
年度の実績値に基づき本件乗務距離規制の最高限度を超える走行距離を
除かずに算出した88万7999㎞を前提としても,約284円)と算
出されるところ,証拠(甲21,乙27)によれば,原告が本件申請に
係る運賃と同じ運賃(本件原認可に係る運賃)で営業していた平成21
年3月~平成22年2月の各月の実車キロ当たり収入は,おおむね26
0円程度で推移していたものと認められる。そうすると,上記申請値は,
実績と大きく乖離しているというべきであり,達成可能性が十分に認め
られる合理的な予測値であるということはできない。
この点,原告は,原告と同一場所において本件申請に係る運賃と同じ
運賃で営業していた別会社営業所は,平成22年度に実働1日1車当た
り2万5615円の運送収入を得ていたから,上記申請値(実働1日1
車当たり2万5500円の運送収入を前提とする。)は合理的であると
主張する。しかしながら,その前提となる実働1日1車当たり実車距離
を見ると,証拠(甲29)によれば,別会社営業所の平成22年度の実
績値は96.60㎞であると認められるのに対し,原告の実車距離(申
請値)に基づく値は,85.50㎞(後記イのとおり,実績年度の実績
値に基づき本件乗務距離規制の最高限度を超える走行距離を除かずに算
出しても,90.40㎞)にとどまるのであるから,原告が同一場所に
おいて同一運賃で営業したとしても,直ちに別会社営業所と同程度の実
働1日1車当たり運送収入を得られるということはできない。よって,
原告の上記主張は,採用することができない。
(ウ)そして,証拠(甲17)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件申
請の際に,その申請する運送収入の算出方法について,実働1日1車当
たり運送収入2万5500円に実働車両数9877両を乗じた旨を本件
原価計算書に記載するのみで,当該算出方法の合理性について何ら説明
していないものと認められるのであり,この点をも併せ考慮すれば,近
畿運輸局長が上記申請値を採用しなかったことが不合理であるというこ
とはできない。
イ実車距離について
(ア)前記前提となる事実のとおり,近畿運輸局長は,本件申請に係る運送
収入の査定に用いる実車距離として,原告の申請値(84万4484㎞)
を採用しているところ,証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば,以下
の事実が認められる。
a近畿運輸局長は,乗務距離の最高限度を定める旅客自動車運送事業
運輸規則に基づき,平成21年12月16日付けで,大阪市域交通圏
等を指定地域とし,当該地域における日勤勤務運転者の乗務距離の最
高限度を1乗務当たり250㎞とする本件乗務距離規制を含む公示を
し,原告は,平成22年1月以降,本件乗務距離規制の適用を受けて
いたところ,大阪地方裁判所は,平成25年7月4日,近畿運輸局長
が上記公示をしたことが,本件乗務距離規制を定めた点等において裁
量権の範囲を逸脱し,違法であるなどとして,原告を含むタクシー事
業者らと被告との間において,当該タクシー事業者らが,その営業所
に属する日勤勤務運転者を,それぞれ,1乗務当たりの乗務距離が2
50㎞を超えても事業用自動車に乗務させることができる地位にある
ことを確認する旨の判決を言い渡し,同判決は,その後,確定した(甲
40,41)。
b原告が本件申請において申請した実車距離(84万4484㎞)は,
平成22年3月1日~同年8月末日の実績に基づき,かつ,本件乗務
距離規制の存在を考慮して算出されたものである(甲17,証人C)。
c近畿運輸局長は,本件申請の査定において,原告の平年度における
実車距離につき,実績年度(平成21年3月1日~平成22年2月末
日)の実績値(実働1日1車当たり94.79㎞)に,本件乗務距離
規制の最高限度を超えないものの割合(97.06%)を乗じた上で,
一定の統計学的手法により算出された変動傾向を乗じて査定値(実働
1日1車当たり87.74㎞)を算出したところ,申請値(実働1日
1車当たり85.50㎞)が,上記査定値を下回り,その達成が可能
であると判断されたことから,申請値を採用した(乙5,52~54)。
d上記cの実績年度の実績値から本件乗務距離規制の最高限度を超え
る走行距離を除かずに実車距離を算出すると,実働1日1車当たり9
0.40㎞となる(乙5,52~54)。
(イ)前記認定のとおり,原告が本件申請において申請した実車距離(実働
1日1車当たり85.50㎞)は,原告が本件乗務距離規制により走行
距離を制限されることを前提に算出されたものであるところ,原告につ
いては,被告との間で,日勤勤務運転者に本件乗務距離規制の最高限度
を超える乗務をさせることができる地位にあることを確認する旨の判決
が確定している。そして,原告の実績年度の実績値に基づいて,本件乗
務距離規制の最高限度を超える走行距離を除かずに一定の統計学的手法
(その手法に特に不合理な点があるとは認められない。)により数値化
された変動傾向を乗じて算出される実車距離の予測値が,前記認定のと
おり,実働1日1車当たり90.40㎞であることからすれば,上記申
請値はもともと過小であったというべきであり,上記予測値を採用せず,
申請値を採用することは,合理性を欠くものといわざるを得ない。
(ウ)この点,被告は,原告自らが申請した申請値を採用することが不合理
であるということはできないと主張するが,上記申請値は,上記のとお
り,本件乗務距離規制により走行距離が制限されることを前提とするも
のであるところ,本件申請後,原告が日勤勤務運転者に本件乗務距離規
制の最高限度を超える乗務をさせることができる地位にあることを確認
する旨の判決が確定していることからすれば,原告自らが申請した申請
値であるからといって,これを採用することは,事後的・客観的には不
当であったというほかない。よって,被告の上記主張は,採用すること
ができない。
他方,原告は,本件申請における実車距離(申請値)は,近畿運輸局
長の指導により,平成22年3月1日~同年8月末日の実績に基づく数
値を申告させられたものであるところ,当該数値は,本件乗務距離規制
のほか,本件変更認可に伴う値上げの影響によっても低く抑えられてい
るから,値上げ前の運賃を前提とする実車距離は更に高く査定されるべ
きと主張する。しかしながら,上記のような近畿運輸局長の指導があっ
たと認めるに足りる証拠はないし,上記(イ)のとおり採用すべき実車
距離の予測値は,本件変更認可前である実績年度の実績に基づくもので
あるから,原告の上記主張は,採用することができない。
ウ小括
以上によれば,運送収入の査定のうち,前提となる実車距離につき,実
績年度の実績値に基づき本件乗務距離規制の最高限度を超える走行距離を
除かずに算出した予測値(実働1日1車当たり90.40㎞)を採用せず,
当該規制により走行距離が制限されることを前提とする申請値(実働1日
1車当たり85.50㎞)を採用した点は,合理性を欠くものというべき
であるが,その他に不合理な点は認められない。
(2)人件費の査定について
ア運転者人件費について
(ア)平均給与月額について
a前記前提となる事実のとおり,近畿運輸局長は,運転者人件費の基
礎となる運転者の平均給与月額について,原告の申請値(28万06
61円)を採用しているところ,証拠(甲17)及び弁論の全趣旨に
よれば,当該申請値は,実働1日1車当たり2万5500円の運送収
入があることを前提に算出されたものであり,原告の実績に基づく査
定値(24万8883円)及び標準人件費(25万9121円)より
も高額であることが認められる。そうであるところ,近畿運輸局長は,
前記のとおり,運送収入の査定において,原告が申請した実働1日1
車当たり2万5500円の運送収入を高額すぎるとして否定している
のであるから,原告が当該運送収入を前提として申請した平均給与月
額を採用し,運転者人件費を高く査定することは,恣意的な操作であ
るといわざるを得ない。
bこの点,被告は,運転者の労働条件の確保という政策的要請からす
れば,申請者が充てる用意があるとして申請した人件費(申請値)が
運転者の収入の改善に資するものであればこれを尊重すべきであり,
運送収入の低下に連動して運転者人件費を低下させるべきではないな
どと主張する。しかしながら,タクシー運転者の給与は歩合制を中心
とし(弁論の全趣旨),運転者の平均給与月額が運送収入の増減にあ
る程度連動すること自体は否定できないから,その申請値を,運送収
入の査定に関係なく人件費として充てる前提で申請されたものと見る
ことはできない。そして,運転者の労働条件の確保を含む道路運送法
9条の3第2項1号の趣旨に照らせば,運送収入にかかわらず確保す
べき平均給与月額を査定することは合理的ということができるとして
も,その下限は,当該運賃適用地域において標準的・能率的な経営を
行う原価計算対象事業者の運転者一人当たり平均給与月額の平均の額
である標準人件費(実績に基づく査定値がこれを上回る場合は,現状
維持の観点から,当該査定値)であると考えられるから,これを上回
る申請値を,運送収入にかかわらず,労働条件確保の観点から採用す
べきということもできない(なお,原告は,原価計算対象事業者の平
均給与月額は原告のように開業間もない事業者より高くなるはずであ
るし,原価計算対象事業者が効率的な営業をしているかも不明である
から,標準人件費により査定することは不当であると主張するが,原
価計算対象事業者は,後記イ(ア)bのとおり,当該運賃適用地域に
おいて標準的・能率的な経営を行う事業者であると認められ,その平
均給与月額が開業間もない事業者よりも類型的に高いと認めるに足り
る証拠もないから,標準人件費によって査定を行うことが不合理であ
るとはいえない。)。
cそうすると,運送収入の査定において原告の申請値を否定した近畿
運輸局長が,平均給与月額の査定において,より低額の標準人件費を
採用するなどせず,当該運送収入を前提とする申請値を採用した点は,
合理性を欠くというほかない。
(イ)支給延人員数について
a原告は,運転者人件費の基礎となる支給延人員数の査定値(532
人)は,平成22年度の実績に照らすと過大であり,特に不合理でな
い以上は申請値(516人)が採用されるべきであると主張する。
bしかしながら,支給延人員数と実働車両数の間にある程度の相関関
係があること自体は否定することができないから,実績年度の支給延
人員数(実績値)に実働車両数の増減の割合を乗じて平年度の支給延
人員数を算出する査定方法が不合理であるとはいえないし,証拠(乙
40)によれば,原告の平成22年3月~同年9月の各月の乗務員数
は平均41人(年換算492人)であったものが,同年10月~平成
23年1月の各月の乗務員数は平均48.5人(年換算582人)と
なるなど増員傾向にあったと認められること等に照らすと,査定値(5
32人)が過大ということもできない。
cこの点,原告は,平成20年度には少ない運転者で高い実働率をあ
げており,実働車両数の増加の割合を平年度支給延人員数に直ちに反
映させる理由はないと主張するが,仮にその主張するような事情があ
るとしても,上記の査定方法の合理性自体を否定するに足りるもので
はないというべきである。また,原告は,支給延人員数の基礎となる
実働車両数を査定する際に用いる実働率は,本件変更認可に伴う値上
げの影響で本件申請の後に低下しているから,実績年度の実績値を採
用するのは不合理であると主張するが,本件申請に係る運賃の査定に
おいて,当該運賃と同じ運賃(本件原認可に係る運賃)で営業してい
た実績年度の実績値を採用し,本件変更認可後である本件申請後の実
績値を採用しなかったことが,不合理であるということはできない。
よって,原告の上記各主張は,いずれも採用することができない。
dそして,証拠(甲17)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件
申請の際に,その申請する支給延人員数の算出方法について,43人
に12か月を乗じた旨を本件原価計算書に記載するのみで,当該算出
方法の合理性について何ら説明していないものと認められること等を
も併せ考慮すれば,近畿運輸局長が,上記申請値を採用せず,査定値
を採用したことが不合理であるとは認められない。
イ技工・事務員等人件費について
(ア)原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価を用いた点について
a原告は,原価計算対象事業者は,いずれも自動認可運賃で営業して
おり,少ない走行距離で収入を得られるため,原価が同じでも走行キ
ロ当たりでは割高になるから,その走行キロ当たりの原価に,低い運
賃で比較的長い距離を走行することを前提とする原告の走行距離(査
定値)を乗じて技工・事務員等人件費を算出すると,不当に過大な原
価が査定される結果となりかねないと主張する。
b運転者等の労働条件を確保し,安全性や利用者に対するサービスの
質の低下を防止するという道路運送法9条の3第2項1号の趣旨に照
らせば,タクシーの運行に携わる運行管理者,整備管理者等に係る技
工・事務員等人件費について,一定の適正な額が確保されるように査
定を行うことは合理的というべきである。
そうであるところ,原価計算対象事業者は,前記前提となる事実の
とおり,運賃適用地域内の事業者からサービス,効率性等に着目した
基準によって不適当な事業者を除外した標準能率事業者の中から選定
されており,その基準に不合理な点があるとは認められないから,当
該運賃適用地域において標準的・能率的な経営を行う事業者であると
いうことができる(仮に,一部の原価計算対象事業者が赤字経営状態
であるとしても,証拠(乙39)及び弁論の全趣旨によれば,大阪地
区においては法人タクシー事業者全体に赤字傾向が認められるから,
赤字経営であるというだけで直ちに標準的・能率的な経営を行ってい
ないということはできない。)。そして,同じ運賃適用地域内では,
賃金水準や一般物価水準といった経済情勢はほぼ同じであると考えら
れるから,適正な人件費に事業者による差異が生ずる余地は少ないし,
走行距離が長くなれば一般に多くの費用が必要となるといえること等
からすれば,原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価が,走行距離
が短いことによって割高になるとも認められない。
そうすると,技工・事務員等人件費について,原価計算対象事業者
の走行キロ当たり原価を査定に用いた点が不合理であるということは
できない。
cこの点,原告は,低額運賃で営業している事業者だからといって安
全やサービス,労働条件がおろそかになっているという傾向は認めら
れず,運賃値下げ競争も存在しないから,労働条件の確保や安全性・
サービスの低下防止のために原価計算対象事業者の数値に基づいて原
価を査定すべきとはいえないと主張し,「低額運賃事業者」の車両1
00両当たりの事故件数等が全事業者のそれよりも少ない旨の調査結
果(甲35)を提出する。しかしながら,同調査結果においても,監
査10件当たりの行政処分件数や車両100両当たりの苦情件数は,
「低額運賃事業者」の方が全事業者よりも多いとされている上,ここ
でいう「低額運賃事業者」は,「上限運賃以外の運賃を適用している
事業者」を広く含むものであるから,上記調査結果によって,適正な
原価を支出せずに下限割れ運賃で営業している事業者に限ってみた場
合にも問題がないということはできず,一定の原価を原価計算対象事
業者の走行キロ当たり原価により査定することの合理性が否定される
ものでもない。
また,原告は,申請者が自ら赤字になるような運賃を申請するとは
考えられないから申請値には合理性があり,個別申請・個別審査・個
別認可方式を採用している道路運送法の下では,申請値に特段不合理
な点がなければ申請値に基づいて原価を査定すべきであると主張する。
しかしながら,申請値が安全性やサービスの質を確保する上で問題が
ないか否かを個別に把握することは性質上困難であるところ,低額運
賃の申請者には,赤字となることを避けるために,安全性やサービス
の質の確保に必要な経費を削減する誘因があるといえるから,原価に
係る申請値が適正であると推定することはできないし,個別の申請に
ついて上記のような査定を行うことが個別審査であることと矛盾する
ものでもない。
よって,原告の上記各主張は,いずれも採用することができない。
(イ)平成20年度の数値を用いた点について
原告は,近畿運輸局長は,実績年度直近の平成21年度の原価計算
対象事業者の走行キロ当たり原価を用いず,それよりも高い平成20
年度の数値を用いて査定をしており,不合理であると主張する。
しかしながら,弁論の全趣旨によれば,大阪地区の平成21年度の
原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価の集計が完了したのは,本
件処分よりも後の平成23年6月頃であると認められる。そうすると,
本件申請の査定において,平成20年度の原価計算対象事業者の走行
キロ当たり原価を用いた点が不合理であるとは認められない。
ウ小括
以上によれば,人件費の査定のうち,運転者人件費の前提となる平均給
与月額につき,より低額の標準人件費(25万9121円)を採用するな
どせず,申請値(28万0661円)を採用した点は,合理性を欠くとい
うべきであるが,その他に不合理な点は認められない。
(3)一般管理費の査定について
ア役員報酬について
(ア)被告は,原告が運行管理者及び整備管理者各1名の給与として申請し
ている額は,経理上役員報酬として支払われているから,同額を役員報
酬として査定することは合理的であり,他方,運行管理者及び整備管理
者の人件費については,安全性やサービスの確保に必要な経費であるか
ら,原価計算対象事業者の平均値に基づき査定するのが合理的であると
主張する。
(イ)証拠(甲17,37,証人C)及び弁論の全趣旨によれば,原告にお
いては,実績年度において,役員1名が運行管理者及び整備管理者を兼
務しており,当該役員は,合計515万7000円の給与(決算書上は
役員報酬として計上されている。)を受領したが,他に給与・報酬等を
受領していないことが認められる。
ところで,前記(2)イのとおり,運転者等の労働条件を確保し,安
全性や利用者に対するサービスの質の低下を防止するという道路運送法
9条の3第2項1号の趣旨に照らせば,タクシーの運行に携わる運行管
理者,整備管理者等に係る技工・事務員等人件費について,一定の適正
な額が確保されるように査定を行うことは合理的というべきであり,近
畿運輸局長が,上記の実績値ではなく,これを上回る査定値(原価計算
対象事業者の走行キロ当たり原価に走行距離(査定値)を乗じたもの)
を計上した点が不合理であるということはできない。しかしながら,役
員報酬については,上記のような適正額確保の要請があるということは
できないところ,原告は,上記のとおり,運行管理者及び整備管理者を
兼務する役員に対して,上記の実績値以外に給与・報酬等を支給してい
ないのであるから,上記の実績値を上回る査定値を技工・事務員等人件
費に計上しながら,更に実績値を役員報酬として計上することは,二重
計上というべきであり,当該実績値が決算書上は役員報酬とされている
としても,合理性を欠くものといわざるを得ない。
(ウ)この点,被告は,少なくとも運行管理者については,役員との兼務は,
利益相反の可能性や兼務に伴う業務量増加による運行管理業務の適切な
実施が困難になるおそれを生じさせ,安全管理上不適切といえるから,
役員との兼務を認めない前提での査定は不合理ではないと主張する。
しかしながら,役員が運行管理者を兼務することを禁止する法令の規
定は見当たらず,兼務によって直ちに運行管理業務の適切な実施が困難
になるということもできない。そうすると,車両数,運転者数,他の運
行管理者の有無等の事情を考慮することなく,一律に,役員が運行管理
者を兼務することを認めず,それを前提として技工・事務員等人件費と
役員報酬の査定を行うことは,不合理というべきである。
よって,被告の上記主張は,採用することができない。
イその他の管理部門人件費について
原告は,近畿運輸局長が,一般管理費のうち役員報酬以外の管理部門人
件費を原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価を用いて査定することは
不合理であると主張するが,前記(2)イのとおり,この点を不合理であ
るということはできない。
ウ小括
以上によれば,一般管理費の査定のうち,人件費(役員報酬)につき,
実績値(515万7000円)を計上した点は,合理性を欠くものという
べきであるが,その他に不合理な点は認められない。
(4)営業外費用の査定について
ア原告は,近畿運輸局長が,平成22年度以降は借入金の利息の支払がな
いにもかかわらず,実績年度の実績値に基づいた額を金融費用として計上
しており,不合理であると主張する。
イしかしながら,証拠(甲37~39,証人C)によれば,原告は,実績
年度である平成22年度に借入金利息391万4000円を支払っている
ところ,当該借入金の元本を,本件処分よりも後である平成23年10月
25日及び平成24年1月25日の2回に分けて返済したことが認められ
る。そうすると,本件処分の時点においては,上記利息に係る借入金元本
は返済されていなかったのであるから,近畿運輸局長が,原告について,
平年度に実績年度の実績値に基づいた額の利息支払があるものとして金融
費用を査定したことは,事実誤認に基づく不合理なものであるということ
はできない。
この点,原告は,当該借入金利息について平成22年度以降は支払わな
い旨を債権者と合意したと主張し,これに沿う証言(証人C)もある。し
かしながら,上記証言は,元本返済時期が最後に利息を支払ったとする時
期から相当後である点等において不自然である上,原告が,本件処分前に
利息の支払について近畿運輸局から問合せを受けた際には,当該合意の存
在に何ら言及していないこと(乙35の3)等に照らして信用することが
できず,他に上記合意を認めるに足りる証拠はない。よって,原告の上記
主張は,採用することができない。
(5)まとめ
以上のとおり,近畿運輸局長による本件申請の査定は,①運送収入の査定
の前提となる実車距離について,申請値(実働1日1車当たり85.50㎞)
を採用した点,②人件費のうちの運転者人件費の前提となる平均給与月額に
ついて,申請値(28万0661円)を採用した点及び③一般管理費のうち
の人件費(役員報酬)について,実績値(515万7000円)を計上した
点において合理性を欠くといわざるを得ないが,他にその算定過程に不合理
な点があるとは認められない(なお,原告は,審査基準公示自体が合理性を
欠くとも主張するが,その実質は,既に判示した審査基準公示による具体的
な査定の合理性に関する主張と同旨であると解されるところ,これらの主張
をいずれも採用することができないことは,前記のとおりである。)。
そうであるところ,仮に,上記①の実車距離について,実績年度の実績値
に基づき本件乗務距離規制の最高限度を超える走行距離を除かずに算出した
予測値(実働1日1車当たり90.40㎞)を採用し,上記②の平均給与月
額について,標準人件費(25万9121円)を採用し,上記③の役員報酬
を0円とした上で,前記前提となる事実2(5)の方法により,運送収入,
人件費及び一般管理費を算出し,これらを前提とする収入合計,原価等合計
及び収支率を計算した場合,各数値は,それぞれ別紙「原価・収入計算表」
の「備考」欄に記載のとおりとなるのであって,本件申請に係る運賃の額を
前提とした場合の収支率は,いずれにしても,100%に満たないことにな
る。そうすると,本件申請に係る運賃の額が能率的な経営の下における適正
な原価に適正な利潤を加えたものと認められないとの地方運輸局長の判断は,
結論において不合理なものということはできないから,その裁量権の範囲を
逸脱し,又はこれを濫用するものと認めるに足りないというべきである。
よって,本件処分が違法であるということはできず,その取消しを求める
原告の請求は,理由がない。
3義務付けの訴えについて
本件訴えのうち本件申請に係る認可処分をすることの義務付けを求める部分
は,行政事件訴訟法3条6項2号の申請型義務付けの訴えであるところ,前記
2(5)のとおり,本件処分の取消請求は認容されるべきものではない。そう
すると,上記義務付けの訴えは,同法37条の3第1項2号の要件を満たさな
いから不適法であり,却下を免れない。
4結論
以上のとおりであって,本件訴えのうち本件申請に係る認可処分をすること
の義務付けを求める部分は不適法であるから却下し,その余の部分に係る原告
の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官西田隆裕
裁判官山本拓
裁判官佐藤しほり
別紙
原価・収入計算表
(単位:千円)
平成21年度事業者申請値査定数値備考
運送収入220,592251,864220,557233,196
運送雑収000
営業外収益9,9433,0001,373
収入合計230,535254,864221,930234,569
人件費124,148153,101163,999152,539
燃料油脂費17,51118,42020,099
車両修繕費12,26415,25212,466
車両償却費8,6941,8481,014
その他運送費29,10931,07733,385
一般管理費30,73729,64524,28719,130
営業外費用3,91404,031
適正利潤1,0781,450
原価等合計226,377250,421260,731244,114
収支率101.84101.7785.1296.1

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