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平成30年1月30日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成29年(ワ)第5074号特許権に基づく差止等請求事件
口頭弁論の終結の日平成29年11月10日
判決
原告大洋化学株式会社
同訴訟代理人弁護士山本俊
同戸田一成
同恩田俊明
被告有限会社寿
同訴訟代理人弁護士笠原基広
同坂生雄一
同中村京子15
同田久保敦子
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。20
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙被告製品目録記載の各自動麻雀卓(以下これらを併せて「各被告
製品」という。)を生産し,譲渡し,貸し渡し若しくは輸入し,又は生産,譲渡,
貸渡し若しくは輸入の申出をしてはならない。25
2被告は各被告製品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,408万円及びこれに対する平成29年2月22日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,発明の名称を「自動麻雀卓」とする特許権を有する原告が,被告にお
いて各被告製品を輸入・販売する行為が原告の上記特許権を侵害すると主張して,5
被告に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,各被告製品の輸入・販売等
の差止め及び各被告製品の廃棄を求めるとともに,民法709条,特許法102
条2項に基づき,損害賠償金408万円及びこれに対する平成29年2月22日
(不法行為後である本件訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分
の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。10
1前提事実(証拠等を掲げた事実以外は,当事者間に争いがない。)
当事者
原告は合成樹脂成形品及び自動麻雀卓の製造販売等を業とする株式会社で
あり,被告は自動麻雀卓の販売等を業とする者である。
原告の特許権等15
原告は,発明の名称を「自動麻雀卓」とする特許第4367956号(出願
日・平成18年7月28日,登録日・平成21年9月4日。以下「本件特許」
といい,本件特許に係る明細書を「本件明細書」という。)に係る特許権(以下
「本件特許権」という。)を有している。なお,本件特許は,平成14年8月9
日に出願された原出願(特願2002-232279)からの分割出願として20
出願されたものである。
本件特許の特許出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1の記載は,
本判決添付の本件特許に係る特許公報の該当項記載のとおりである(以下,同
請求項に係る発明を「本件発明」という。)。
(甲1,2)25
被告の行為
被告は,業として,各被告製品を輸入し,日本国内において販売している。
本件発明の構成要件
ア本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した構
成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件A」のようにいう。)。
A各場へ牌を供給するための4つの開口が設けられている天板を有する5
本体と,
B磁性体を埋設した牌を攪拌するため前記本体内に設けられた攪拌装置
と,
C前記各場の開口に対応してそれぞれ前記攪拌装置から牌を取り上げる
汲上機構と,10
D該汲上機構によって取り上げられた牌を一方向に整列して送り出すた
めの整列機構と,
E該整列機構から牌を受け取り所定の整列牌を形成して待機させるため
の形成・待機機構と,
F該形成・待機機構で形成され待機している前記整列牌を対応する開口か15
ら天板上に上昇させる機構とを備えた自動麻雀卓であって,
G前記攪拌装置は回転するターンテーブルと外壁とが設けられ,攪拌され
た牌は前記ターンテーブルの回転により外壁に向かって移動させ,
H前記牌を取り上げる汲上機構は円筒回転体が設けられ,
I該円筒回転体の周面部位には前記円筒回転体の一側端から牌の横幅ほ20
どの幅をもつ吸着面を配設し,
J前記吸着面の中心には磁石を埋没し,前記吸着面に磁気力により牌を吸
着して下方から上方に吸い上げるように円筒回転体を回転させ,
K前記整列機構は,前記円筒回転体に吸い上げられた牌の方向を揃えるた
め前記吸着面の外側の軌道に沿って配設した案内部材と,25
L該案内部材の延長上であって前記円筒回転体の頂上付近には前記円筒
回転体の吸着面から牌を剥離して前記形成・待機機構に導くための誘導
路を設け,
M前記円筒回転体によって下方位置にて取り上げられた牌は,前記案内部
材にそって牌の向きを揃えながら上方に移動するとともに前記誘導路
の一端に捕捉されて前記円筒回転体から離脱するようにした5
Nことを特徴とする自動麻雀卓。
イ各被告製品は,本件発明の構成要件A,B,E,F,G,Nをいずれも充
足する。なお,被告は,各被告製品が本件発明の構成要件C,D,H,Jを
それぞれ充足することについても,明らかに争わない。
2争点10
各被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか否か
ア各被告製品が構成要件Iを充足するか否か(争点1)
イ各被告製品が構成要件Kを充足するか否か(争点2)
ウ各被告製品が構成要件Lを充足するか否か(争点3)
エ各被告製品が構成要件Mを充足するか否か(争点4)15
オ構成要件Mについての均等侵害の成否(争点5)
原告の損害額(争点6)
3争点に関する当事者の主張
争点1(各被告製品が構成要件Iを充足するか否か)について
[原告の主張]20
構成要件Iは,吸着面の幅長につき具体的な数値限定をしていない。本件明
細書によれば,本件発明は「攪拌装置から牌を取り上げ,形成・供給機構に供
給する機構を簡単にし,機構自体を小型にし,自動麻雀卓をコンパクトで経済
的にする」(段落【0007】)ためのものであり,構成要件Iにおける吸着面
の幅長はこの本件発明の目的に適合するよう解釈されるべきである。25
各被告製品の吸着面の幅はおよそ32mmと各被告製品に用いられる牌の
短辺(23mm)より9mmほど長めであるにすぎず,機構自体の大型化を招
くような差とは評価し難いし,そもそも本件明細書には円筒回転体につき「ス
ペース的には従来の水平方向に回転する汲上方式とは異なり円筒回転体の幅
は牌の縦幅と略等しい寸法で」(段落【0009】)よいとの記載があり,円筒
回転体の幅が牌の縦幅(各被告製品においてはそれぞれ33mmと32mm)5
と略等しい場合にも構成要件Iを充足することが強く示唆されている。したが
って,各被告製品の吸着面は「牌の横幅ほどの幅をもつ」といえるから,各被
告製品は構成要件Iを充足する。
[被告の主張]
各被告製品の吸着面の幅は約32.6mmであり,牌の横幅(約24.0mm)10
よりはるかに大きく,牌の縦幅(32.9mm)にほぼ等しいから,「円筒回転体
の一側端から牌の横幅ほどの幅」であるとは到底いえず,各被告製品は構成要
件Iを充足しない。
また,構成要件Iが吸着面の幅を牌の横幅ほどとしたことの技術的意義は,
円筒回転体の吸着面上で,縦方向以外の状態で円筒回転体に取り上げられた牌15
を案内部材に接触させることによって牌の方向を揃えることにある。しかし,
各被告製品においては,吸着面の幅と縦幅との差は0.3mmと吸着面の幅のほ
うがわずかに短いだけであるので,牌を案内部材に接触させても,牌を確実に
縦向きに揃えることはできず,牌の方向を揃えるための付加的な機構(例えば
搬送コンベア)が必要となるから,本件発明の課題(機構の簡略化,機構の小20
型化及び自動麻雀卓をコンパクトで経済的にすること)を解決できない。
争点2(各被告製品が構成要件Kを充足するか否か)について
[原告の主張]
「沿う」の語には「長く続いているものに,離れないように付き従う」,「何
かに並行した形で続いている」という意味があり,空間的な近接性は求められ25
るものの物理的な接着性までは求められない。また,「並行した形」とは隣り
合って連なるように位置することである。各被告製品の案内部材は,円筒回転
体の外側の軌道との間で,空間的な近接性を有して,隣り合って連なるように
配設されているから,各被告製品は構成要件Kを充足する。
被告は,構成要件Kの案内部材について,少なくともその一か所の内壁面が
吸着面の外側の軌道と平行で,かつ,吸着面の幅と吸着面の一側端から案内部5
材内壁面の間の幅が等しくなるような位置に配設される必要があると主張す
るが,案内部材の内壁と誘導路の内壁の幅長をどのように設計するかは,吸着
面の幅長にかかる技術的事項ではないし,案内部材の内壁の幅長と吸着面の幅
長が異なる各被告製品においても牌の向きを揃える機能は問題なく稼働して
いるから,被告の主張は失当である。10
[被告の主張]
構成要件Iは,吸着面の幅が牌の横幅ほどであるとしているから,牌に円筒
回転体の一側端と案内部材の間を通過させ,かつ,牌の向きを揃えられるよう
にするためには,案内部材の少なくとも一箇所の内壁面が,吸着面の外側の軌
道と平行かつ吸着面の幅と吸着面の一側端から案内部材内壁面の間の幅が等し15
くなるような位置に配設される必要がある。このように,構成要件Kは,案内
部材を「吸着面の外側の軌道に沿って」配設することを必須の要件としている
もので,このことは本件明細書の記載からも明らかである。しかし,各被告製
品の案内部材は,吸着面の外側の軌道より内側に配設されており,吸着面のい
かなる軌道にも「沿って」配設されていないから,「吸着面の外側の軌道に沿っ20
て」配設されたものとはいえない。したがって,各被告製品は構成要件Kを充
足しない。
これに対し,原告は,「沿う」の語義について,空間的な近接性は求められて
いるものの物理的な接着性までは求められていないと主張するが,「沿う」なる
語は一般語であってその語だけで意義を確定できないから,本件明細書を参酌25
したうえで解釈すべきである。そして,上記のとおり,本件明細書を参酌すれ
ば,各被告製品の案内部材が「吸着面の外側の軌道に沿って」配設されている
ということはできない。
争点3(各被告製品が構成要件Lを充足するか否か)について
[原告の主張]
各被告製品において,ローラーの周囲を巻くように配された緑色のベルトコ5
ンベアのベルトのうち,ローラーを離れてから形成・待機機構に至るまでの部
分を両端とする領域(通路)は,ローラーの吸着面から牌が剥離される部分を
一端としており,構成要件Lの「誘導路」に相当する。したがって,各被告製
品は,構成要件Lを充足する。
なお,被告は,上記「通路」においては牌の吸着面からの剥離は既に完了し10
ており,通路によって牌が剥離されるわけではないと反論する。しかしながら,
各被告製品においては,牌の吸着面からの剥離とベルトコンベアの吸着面から
の剥離が同時に起こるのであって,まさにベルトコンベアが誘導路たる性質を
有することになる瞬間に牌が吸着面から剥離されるのであるから,誘導路が
「牌を剥離して」いるといえる。15
[被告の主張]
各被告製品においては,牌が吸着面上から掛けられたベルトコンベアの上で
移送され,ベルトコンベアが吸着面から剥離するのと同時に,牌が吸着面から
剥離する。そのため,ベルトコンベアのうちローラーから離れてから形成・待
機機構に至るまでの部分を両端とする領域,すなわち原告のいう「通路」とな20
った段階では既に牌の吸着面からの剥離は完了しているのであって,「誘導路」
が「吸着面から牌を剥離して」いるとはいえない。したがって,各被告製品は,
構成要件Lを充足しない。
争点4(各被告製品が構成要件Mを充足するか否か)について
[原告の主張]25
各被告製品においては,牌が案内部材と接している時点では牌の中心が上方
に移動しきっておらず,ローラーの回転方向に対してわずかに上昇しているし,
下記模式図のとおり,牌の前端が吸着面から剥離され後端のみ吸着している状
態になると,牌の前端・後端のいずれも剥離されていない状態と比べ牌の中心
が上方に移動する。なお,各被告製品の牌がさらに上方に移動する前にいった
ん平行となった時点で,牌と案内部材が接触しないこともあるが,これは,牌5
が吸着面の中心より後方に吸着している場合に限った一事象にすぎない。
また,ベルトコンベアが誘導路たる性質を有するようになる部分,すなわち
誘導路の端部では,それまで吸着面の作用下にあった牌が剥離されることによ
り誘導路による移動という作用下に置かれるから,かかる機能を捉えれば,牌
が「誘導路の一端に捕捉されて」いるといえる。10

したがって,各被告製品は,構成要件Mを充足する。
[被告の主張]
本件発明が機構の簡略化という課題達成のために吸着面上で牌の向きを
揃える構成を採用したことなどからすると,構成要件Mの「上方に移動」は,20
牌が円筒回転体によって下方位置にて取り上げられてから,地平面と水平に
至るまでの移動をいうと理解すべきである。また,案内部材が吸着面の外側
の軌道に沿って配設されること(構成要件K)からすると,構成要件Mの案
内部材も,円筒回転体の側面,すなわち円筒回転体の下部から頂点に至る直
前までの位置に配設されることが必要である。25
他方,各被告製品では,牌は,上方に移動する間,いずれかの部材に接触
して方向を変えることはなく,牌が頂上に達して地平面と平行となった後の
段階で案内部材に接触することにより初めて牌が縦方向に揃えられるので
あるから,「案内部材にそって牌の向きを揃えながら上方に移動する」に当
たらない。
加えて,各被告製品[被告の主張]のとおり,ベルト5
コンベアが吸着面から剥離するのと同時に牌が吸着面から剥離する。このよ
うに,各被告製品では,誘導路に至る前である円筒回転体が頂点に達する付
近で牌が円筒回転体から離脱するから,「誘導路の一端に捕捉されて前記円
筒回転体から離脱する」に当たらない。
したがって,各被告製品は,構成要件Mを充足しない。10
争点5(構成要件Mについての均等侵害の成否)について
[原告の主張]
被告の主張する構成要件Mに係る各被告製品との相違点は,牌が案内部材に
沿って牌の向きを揃えながら上方に移動するのか(本件発明),牌が上方に移
動しきって地平面と平行になった後に牌が案内部材に接触するのか(各被告製15
品)という点(以下「本件相違点」という。)にすぎない。各被告製品につき,
仮に本件相違点によって構成要件Mを文言上充足せず,本件特許権の文言侵害
が否定されたとしても,以下のとおり,各被告製品は特許請求の範囲に記載さ
れた構成と均等なものとして,均等侵害が成立する。
ア第1要件20
本件明細書に「攪拌装置から牌を取り上げ,形成・供給機構に供給する機
構を簡単にし,機構自体を小型にし,自動麻雀卓をコンパクトで経済的にす
る」(段落【0007】)と記載されていることからすると,「牌を取り上
げる汲上機構を,円筒回転体と吸着面を設けて,吸着面の牌を磁気力により
吸着して下方から上方に吸い上げるように円筒回転体を縦方向に回転させ25
たので,スペース的には従来の水平方向に回転する汲上方式とは異なり・・・
汲上機構を小型にすることができ,結果として,自動麻雀卓の全体が小型,
軽量,コンパクトとなり経済的に有利となる」(同【0009】)という部
分が本件発明の本質的特徴である(なお,被告は,「吸着面上で牌が案内部
材にそってその向きを揃えながら上方に移動する」点も本件発明の本質的部
分に含まれると主張するが,この点は単に牌の向きを揃える一構成にすぎず,5
本件発明の本質的部分ではない。)。本件相違点は,牌の向きを揃えるタイ
ミングに関する相違点であって,各被告製品の案内部材をより円筒回転体側
にわずかに延長すれば解消してしまうものにすぎず,攪拌装置から牌を取り
上げ,形成・供給機構に供給する機構の小型化のために円筒回転体を縦方向
に回転させるという本件発明の本質的部分に当たらないことは明らかであ10
る。したがって,各被告製品は均等論の第1要件(非本質的部分)を充足す
る。
これに対し,被告は,各被告製品の構成では,ベルトコンベア等の装置が
必要となるから,機構の簡略化,小型化という本件発明の課題が達成できな
いというが,従来技術において,単にベルトコンベアが配設されることのみ15
から機構の簡略化や小型化が阻害されていたわけではないし,本件発明にあ
えて大型のベルトコンベアを付加するいわゆる改悪実施が本件発明の技術
的範囲から外れるわけでもないから,被告の主張は失当である。
イ第2要件
本件相違点は,案内部材の配設位置に関するごくわずかな違いにすぎない。20
案内部材が僅かに吸着面から離隔し,牌が地平面と平行になった後に接触す
るとしても,結局,牌は当該案内部材に接触してその向きを揃えることにな
るから,本件発明の構成要件と同一の作用効果を奏するのであって,置換可
能性を有する。したがって,各被告製品は均等論の第2要件(置換可能性)
を充足する。25
なお,機構の簡略化・小型化という本件発明の課題は,円筒回転体を縦に
することによって解決を図ることができるから,ベルトコンベアの存在は,
当該課題解決との関係で,置換可能性に影響を及ぼすものではない。
ウ第3要件
本件相違点は,案内部材と吸着面との配設間隔に関するごくわずかなもの
である。また,本件発明の時点で,牌の移動にベルトコンベアを用いる構成5
が多く採用されていたことは被告も認めているし,ベルトコンベアの具体的
な構成として,各被告製品に装填されているような薄い板状形状のものを採
用することについても,特段目新しくはない公知の技術である。したがって,
各被告製品の製造時点において,本件相違点に係る各被告製品の構成を採用
することは当業者が容易に想到できる事項であったといえ,各被告製品は均10
等論の第3要件(置換容易性)を充足する。
エ第5要件
本件特許の出願人は,審査段階で,審査官から拒絶理由通知を受けて補正
を行ったが,これは単に不明確な記載を明確にして指摘された拒絶理由を解
消する目的のためにのみ行われたもので,本件相違点に係る各被告製品の構15
成を特許請求の範囲から除外する意図のもとで行われたものではない。した
がって,各被告製品は均等論の第5要件(非意識的除外)を充足する。
[被告の主張]
各被告製品は,以下のとおり,均等論の第1ないし第3要件及び第5要件
を充足しないから,均等侵害は成立しない。20
ア第1要件
本件発明の課題は,機構を簡略化,小型化することによって,自動麻雀卓
をコンパクトで経済的にすることにあるから,本件発明の本質的部分は,そ
れ自体簡単で小型である円筒回転体の吸着面上で,牌のこれよりはみ出た部
分に案内部材が接触することにより,吸着面上で牌が案内部材にそってその25
向きを揃えながら上方に移動する構成を採用することによって,搬送コンベ
アのような機構を複雑化する装置を付加せず,牌の方向が揃えられる点にあ
る。しかるに,各被告製品のようにベルトコンベアといった更なる装置を必
要とすれば,機構の簡略化,小型化という課題達成ができなくなる。
したがって,本件相違点は本件発明の非本質的部分ではなく,各被告製品
は均等論の第1要件を充足しない。5
イ第2要件
ベルトコンベアのような複雑かつ大型の機構を配設すると,機構の簡略
化及び小型化という本件発明の課題が達成できなくなる。したがって,本
件相違点について置換可能性はなく,各被告製品は均等論の第2要件を充
足しない。10
ウ第3要件
置換容易性は置換可能性を前提とするから,置換可能性がない以上,置
換容易性も否定される。加えて,吸着面の外側の軌道に沿って案内部材を
配設するという簡易な手段を,複雑な機構であるベルトコンベアに置換す
ることは当業者にとって容易ではないし,ベルトコンベアの配設に当たっ15
ては,円筒回転体との関係やモータの位置及び全体の大きさなど多数の要
素を検討する必要があるから,容易に想到できるものではない。したがっ
て,各被告製品は,均等論の第3要件を充足しない。
エ第5要件
本件特許の出願人が行った審査段階での補正は,請求項の範囲の減縮を20
伴うものであり,かつ,特許請求の範囲に示されていた他の実施態様を減
縮によって除外するものであった。したがって,補正により減縮した範囲
は,特許請求の範囲から意識的に除外したものと考えるべきであり,各被
告製品は,均等論の第5要件を充足しない。
争点6(原告の損害額)について25
[原告の主張]
被告は,遅くとも,原告が本件特許権を譲り受けた平成28年2月より以前
から現在に至るまで,継続的に各被告製品を輸入し,日本国内で販売している
ところ,同年3月から10月までの間における各被告製品の平均単価は8万5
000円を,毎月の平均売上台数は20台を,同期間における各被告製品の利
益率は30%を,それぞれ下回らない。したがって,特許法102条2項に基5
づく原告の損害額は,408万円(計算式は,8万5000円×20台×8か
月×30%)を下らない。
[被告の主張]
争う。
第3当裁判所の判断10
1争点1及び2について
事案に鑑み,まず,各被告製品が構成要件I及びKを充足するか否か(争点1,
2)について判断する。
本件明細書には,以下の各記載がある。
ア【背景技術】15
また,前掲の特許文献2に開示された自動麻雀卓の洗牌技術は,磁石を埋
没した水平回転体を各場毎に設けて,攪拌装置内の牌を取り出すため大き
なコンベヤは不要であるが,2段積み牌が水平回転体の吸着面より下に設
けなければならないこと,及び,水平回転体が昇降台の下方にはみだすの
で昇降台を水平回転体以下には下げられず,このため,特許文献5に開示20
されているように,2段積み牌を天板上に押し出すとき,待機台上の2段
積み牌を昇降台の降下位置まで持ち上げて昇降台に移載しなければなら
ず,2段積み牌を天板上に押し出す機構が複雑で大型化してしまう。
更に,前掲の特許文献4に開示された技術は,同報第3図,及び,第5図
に示されるように,磁石を埋没した水平回転体とその横に設けた小型搬送25
コンベヤによって牌を取り出しているが,水平回転体と搬送コンベヤ等の
攪拌装置の周辺が複雑で場所をとり,やはり複雑で大型化してしまう。
【特許文献1】特開昭54-40741号公報
【特許文献2】特開昭61-244384号公報
【特許文献3】特開昭62-49879号公報
【特許文献4】特開昭62-68479号公報5
【特許文献5】特開昭61-244385号公報
(段落【0006】)
イ【発明が解決しようとする課題】
本発明は,これらの問題点に鑑みてなされたもので,自動麻雀卓において,
攪拌装置から牌を取り上げ,形成・供給機構に供給する機構を簡単にし,10
機構自体を小型にし,自動麻雀卓をコンパクトで経済的にすることを課題
とするものである。(段落【0007】)
ウ【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための請求項1の発明は,各場へ牌を供給するための
4つの開口が設けられている天板を有する本体と,磁性体を埋設した牌を15
攪拌するため前記本体内に設けられた攪拌装置と,前記各場の開口に対応
してそれぞれ前記攪拌装置から牌を取り上げる汲上機構と,該汲上機構に
よって取り上げられた牌を一方向に整列して送り出すための整列機構と,
該整列機構から牌を受け取り所定の整列牌を形成して待機させるための
形成・待機機構と,該形成・待機機構で形成され待機している前記整列牌20
を対応する開口から天板上に上昇させる機構とを備えた自動麻雀卓であ
って,
前記攪拌装置は回転するターンテーブルと外壁とが設けられ,攪拌された
牌は前記ターンテーブルの回転により外壁に向かって移動させ,前記牌を
取り上げる汲上機構は円筒回転体が設けられ,該円筒回転体の周面部位に25
は前記円筒回転体の一側端から牌の横幅ほどの幅をもつ吸着面を配設し,
前記吸着面の中心には磁石を埋没し,前記吸着面に磁気力により牌を吸着
して下方から上方に吸い上げるように円筒回転体を回転させ,前記整列機
構は,前記円筒回転体に吸い上げられた牌の方向を揃えるため前記吸着面
の外側の軌道に沿って配設した案内部材と,該案内部材の延長上であって
前記円筒回転体の頂上付近には前記円筒回転体の吸着面から牌を剥離し5
て前記形成・待機機構に導くための誘導路を設け,前記円筒回転体によっ
て下方位置にて取り上げられた牌は,前記案内部材にそって牌の向きを揃
えながら上方に移動するとともに前記誘導路の一端に捕捉されて前記円
筒回転体から離脱するようにしたことを特徴とする。(段落【0008】。
ただし抜粋。)10
エ【発明の効果】
請求項1の発明によれば,牌を取り上げる汲上機構を,円筒回転体と吸着
面を設けて,吸着面の牌を磁気力により吸着して下方から上方に吸い上げ
るように円筒回転体を縦方向に回転させたので,スペース的には従来の水
平方向に回転する汲上方式とは異なり円筒回転体の幅は牌の縦幅と略等15
しい寸法でよく,かつ,水平方向の移動は円筒回転体の幅があれば良いか
ら,これらにより,攪拌装置から牌を取り上げる汲上機構を小型にするこ
とができ,結果として,自動麻雀卓の全体が小型,軽量,コンパクトとな
り経済的に有利となる。(段落【0009】。ただし抜粋)
本件発明に係る特許請求の範囲の記載に加え,本件明細書の各記載,20
特に【課題を解決するための手段】として「該円筒回転体の周面部位には前記
円筒回転体の一側端から牌の横幅ほどの幅をもつ吸着面を配設し,」,「前記円
筒回転体に吸い上げられた牌の方向を揃えるため前記吸着面の外側の軌道に
沿って配設した案内部材」「を設け,前記円筒回転体によって下方位置にて取
り上げられた牌は,前記案内部材にそって牌の向きを揃えながら上方に移動す25
る」(段落【0008】)との記載を勘案すると,本件発明の構成要件I及びK
は,それぞれ円筒回転体の周面部位に配設された「円筒回転体の一側端から牌
の横幅ほどの幅をもつ吸着面」上で,吸着面からはみ出た牌の部分に「前記吸
着面の外側の軌道に沿って配設した案内部材」を当接させることによって,牌
の向きを揃えるという技術的意義を有するものと認められる(なお,本件明細
書の「図10及び図11を参照して、吸着面401Bに様々な角度にて吸着し5
た牌10が、整列機構500により縦長方向に整列する動作について説明する。
案内部材501の入り口付近で吸着面401Bからはみ出た側面が、案内部材
先端502に接触して抵抗を受けるが、牌10に埋設されている磁石11の中
心が、円筒回転体401に埋設されている磁石401Cの中心に吸引されて回
転しながら向きを変え、当該側面が案内部材501の内壁面501Aと並行状10
態になって整列機構500の内部に進入する。」との実施例の記載(段落【00
33】)も上記認定を裏付けるものといえる。)。
そうすると,本件発明の構成要件Iの「円筒回転体の一側端から牌の横幅ほ
どの幅をもつ吸着面」は,吸着面の幅が,牌の横幅(短辺)と同一か,牌の吸
着面からはみ出た部分に案内部材を接触させることによって牌の方向を揃え15
ることができる程度に狭くなっていることを意味し,少なくとも牌の縦幅に近
似した幅を有する吸着面はこれに含まれないと解するのが相当である。また,
構成要件Kの「前記吸着面の外側の軌道に沿って配設した案内部材」は,吸着
面の幅が上記のようなものであることを前提として,吸着面からはみ出した牌
の部分に当接して牌の向きを揃えることができる位置に案内部材を配設する20
ことを意味し,少なくとも吸着面の外側の軌道に近似する線よりも内側に配設
された案内部材はこれに含まれないと解するのが相当である。
そこで,まず,構成要件Iの充足性について検討するに,各被告製品の吸着
面の幅(円筒回転体の一側端からの幅)が32.6mmであるのに対し,牌の横
幅は24.0mm,牌の縦幅は32.9mmであって(乙4及び当事者間に争い25
がない事実),各被告製品の吸着面の幅はむしろ牌の縦幅に近似するものと認
められるから,構成要件Iの「円筒回転体の一側端から牌の横幅ほどの幅をも
つ吸着面」を充足しない。
これに対し,原告は,①吸着面の幅は牌の横幅より9mmほど長めであるに
すぎない,②本件明細書の段落【0009】の記載からすると,円筒回転体の
幅が牌の縦幅と略等しい場合にも構成要件Iを充足することが強く示唆され5
ているなどと主張する。
しかしながら,まず,上記①について,各被告製品は,吸着面の幅が牌の横
幅より9mmも長い一方で牌の縦幅よりわずかに0.3mm短いにすぎないの
であるから,円筒回転体の周面部位に配設された「円筒回転体の一側端から牌
の横幅ほどの幅をもつ吸着面」上で,吸着面からはみ出た牌の部分に「前記吸10
着面の外側の軌道に沿って配設した案内部材」を当接させることによって,牌
の向きを揃えるという本件発明
ない。また,上記②について,被告が指摘する本件明細書の段落【0009】
の記載は,「円筒回転体の幅は牌の縦幅と略等しい寸法でよく」としているに
すぎず,吸着面の幅が牌の縦幅とほぼ等しい場合に構成要件Iを充足すること15
の根拠となるものとは認め難い(なお,本件明細書の段落【0021】及び図
7には,円筒回転体の幅が牌の縦幅と略等しい長さ(lL)であるのに対し,
吸着面の幅が牌の横幅分の長さ(ls)である実施例が開示されている。)。し
たがって,原告の主張はいずれも採用の限りでない。
次に,構成要件Kの充足性について検討するに,乙2の写真3及び4並びに20
弁論の全趣旨によれば,各被告製品の案内部材は吸着面の外側の軌道から約5.
6mmも内側に配設されていると認められるから,
よれば,各被告製品は,構成要件Kの「前記吸着面の外側の軌道に沿って配設
した案内部材」も充足しない。
2結論25
以上のとおり,各被告製品は,構成要件I及びKをいずれも充足しないから,
その余の点について検討するまでもなく,被告が各被告製品を製造,販売等する
ことが本件特許権を侵害するものとは認められない(なお,構成要件Mに関する
均等についての原告の主張は,上記結論を左右するものとはいえない。)。
よって,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして,
主文のとおり判決する。5
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官沖中康人
裁判官矢口俊哉
裁判官瀨達人
(別紙)
被告製品目録
1全自動麻雀卓悟空(座卓脚)黒色
2全自動麻雀卓悟空(座卓脚)紅色
3全自動麻雀卓悟空(四本脚)黒色5
4全自動麻雀卓悟空(四本脚)紅色
5全自動麻雀卓悟空(角立脚)黒色
6全自動麻雀卓悟空(角立脚)紅色
7全自動麻雀卓悟空(折畳脚)黒色
8全自動麻雀卓悟空(折畳脚)紅色10

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