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裁判例


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       主   文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 控訴人が被控訴人に対し平成8年3月22日付けでした審査決定中,原判決別
紙目録1記載の土地についての平成6年度固定資産課税台帳の登録価格のうち金1
0億1864万円を超える部分を棄却した部分を取り消す。
3 被控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は第1,第2審を通じてこれを10分し,その1を控訴人の,その余
を被控訴人の各負担とする。
       事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(一) 原判決を取り消す。
(二) 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
(三) 訴訟費用は第1,第2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
(一) 本件控訴を棄却する。
(二) 控訴費用は控訴人の負担とする。
第2 事案の概要及び争点
1 事案の概要
(一) 本件は,原判決「(別紙)」1記載の土地(以下「本件土地」という。)
の所有者である被控訴人が控訴人に対し,本件土地の平成6年度の固定資産課税台
帳の登録価格11億0432万円が適正な時価を上回るとして審査の申出をしたと
ころ,控訴人が被控訴人に対し,平成8年3月22日付け審査決定(以下,原判決
に倣い,「本件決定」という。)をもって,本件土地の平成6年度の登録価格を1
0億7576万円と一部減額変更した(以下,本件決定に係る価格を「本件決定価
格」という。)が,その余の審査申出を棄却したため,被控訴人は,本件決定価格
も適正な時価を上回るとして,控訴人に対し,同価格のうち,平成5年度の本件土
地の登録価格である9960万3000円を超える部分につき,または,これと選
択的に,平成6年度の本件決定価格の全部につき,そのいずれかの取消しを求めた
地方税法(以下「法」という。)434条に基づく審査決定取消請求行政事件であ
る。
(二) 原判決は,被控訴人の主張する本件決定の違法事由の主張を概ね排斥した
が,本件決定価格が本件土地の適正な登録価格か否かの判断において,登録価格
は,基準年度に係る賦課期日における適正価格であるとした上,本件土地の価格決
定過程において,平成4年7月1日時点(以下「価格調査基準日」という。)にお
ける鑑定評価額に同日から平成5年1月1日までの時点修正率を乗じ,更に7割評
価通達(その特定は後記のとおり。)に従い約7割を乗じて控訴人が算定した平成
6年1月1日時点での標準宅地の主要街
路路線価580万円は,平成5年1月1日から平成6年1月1日までの公示地及び
正面路線の各地価下落率に照らし,高きに過ぎると認められるところ,本件決定は
一体として不可分である上,上記標準宅地の正確な地価下落率を判定するに足りる
証拠がないから,上記標準宅地の路線価をもとに本件土地の価格を算定した本件決
定は全部違法であるとして,選択的併合に係る被控訴人の請求のうち,本件決定の
全部取消請求を認容したため,控訴人が控訴提起した。
2 前提となる事実
(一) 被控訴人は,平成6年度の固定資産税の賦課期日(平成6年1月1日)に
おいて,本件土地の所有者であった者で,平成6年度の本件土地の固定資産税の納
税義務者であった。
(二) 本件土地の平成5年度の土地課税台帳の登録価格は,9960万3000
円であったが,平成6年度は基準年度に当たり,その評価替えがされ,東京都知事
は,本件土地の平成6年度の価格を11億0432万円と決定し,東京都渋谷都税
事務所は,これを土地課税台帳に登録した。
(三) 被控訴人は,平成6年4月18日,控訴人に対し,上記登録価格を不服と
して審査の申出をし,控訴人は,平成8年3月22日,本件土地の平成6年度の登
録価格を10億7576万円と変更し,その余の審査申出を棄却する旨の本件決定
をした。
(四) 本件決定において準拠された告示,通達等は,以下のとおりである(乙1
ないし3)。
(1)① 固定資産評価基準(昭和38年12月25日自治省告示第158号,以
下「評価基準」という。)
② 自治事務次官依命通達「固定資産評価基準の取扱いについて」(昭和38年1
2月25日自治乙固発第30号,以下「取扱通達」という。)
③ 自治事務次官通知「『固定資産評価基準の取扱いについて』の依命通達の一部
改正について」(平成4年1月22日自治固発第3号,以下「7割評価通達」とい
う。)
④ 自治省税務局資産評価室長通知「平成6年度評価替え(土地)に伴う取扱いに
ついて」(平成4年11月26日自治評第28号,以下「時点修正通知」とい
う。)
(2) 東京都特別区においては,東京都知事が固定資産の価格を決定するものと
され,評価の方法については,上記(1)の評価基準,7割評価通達等の内容を取
り込んだ「東京都固定資産(土地)評価事務取扱要領」(昭和38年5月22日主
課固発第174号主税局長決裁,以下「取扱要領」という。)及び東京
都土地価格比準表(以下「比準表」という。)によることとされている(乙4,
8。以下,評価基準,取扱通達,7割評価通達,取扱要領及び比準表を「評価基準
等」という。)
(五) 本件決定価格の具体的算定根拠は,以下のとおりである(上記評価基準等
のほか,甲1,乙5,6,9)。
(1) 控訴人は,本件土地が登記簿上及び現況ともに宅地であり,主として市街
地的形態を形成する地域における宅地に該当するところから,市街地宅地評価法に
より評価した。
(2) 本件土地付近は日常生活圏の中心地で,概して街路沿いのみに多種類の店
舗が連なっているが,高度商業地区,繁華街に比べ投下資本量が少ない店舗が連な
っている地区に該当するところから,控訴人は,本件土地が属する地域の用途地区
区分を普通商業地区として評価した。
(3) 控訴人は,(2)の状況類似地区ごとに区分した上,本件土地の所在する
地区の標準宅地を渋谷区α12番5に所在する土地(以下「本件標準宅地」とい
う。)と選定した。
(4) 控訴人は,本件標準宅地に沿接する主要な街路の路線価を,価格調査基準
日である平成4年7月1日時点での不動産鑑定価格988万円を活用し,平成5年
1月1日までの地価動向を勘案し,マイナス16・0パーセントの時点修正を行
い,その7割程度の580万円をもとに580万点とした。
(5) 控訴人は,(4)の主要街路と本件土地の正面に沿接する正面路線とを比
較し,街路条件81パーセント,交通・接近条件103パーセント,環境条件10
0パーセント,行政条件94パーセントを乗じた格差率78パーセントを(4)の
主要街路路線価に乗じて,本件土地の正面路線の路線価を452万点と付設した。
(6) 正面路線からの本件土地の奥行は15・5メートルであるから,奥行価格
補正率は1・00となるところ,控訴人は,(5)の正面路線の路線価にこれを乗
じて本件土地の単位地積当たりの評点を452万点と算出した。
 更に,控訴人は,この評点に本件土地の地積238・00平方メートルを乗じて
本件土地の総評点を10億7576万点と算出し,評点1点当たりの価格1円を乗
じて本件土地の評価額を10億7576万円と算定した。
3 争点
 本件争点は,原審以来の(一)ないし(四)であるが,原判決が被控訴人の選択
的併合に係る請求中,本件決定の全部を取り消したことから,(五)が当審におけ
る新たな争点となった。
(一) 時点修正通知に基づく本件土地の評価の適法性の有無(争点1)
(二) 7割評価通達に基づく本件土地の評価の適法性の有無(争点2)
(三) 評価基準等の合理性の有無(争点3)
(四) 本件土地の評価の個別的違法の有無(争点4)
(五) 本件決定の一部取消しの可否(争点5)
4 当事者の主張
 争点に係る当事者双方の主張は,次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び
理由」中の「第二 事案の概要」のうち「四 当事者双方の主張」欄に記載のとお
りであるから,これを引用する。但し,原判決28頁4行目の「従っているといっ
て」を「従っているからといって」と改める。
(一) 控訴人
(1) 争点1について
① 法349条1項は,「『登録価格』を基準年度に係る賦課期日における価格」
と規定しているものではなく,「『課税標準』を基準年度に係る賦課期日における
価格」と規定しているに過ぎないから,「『登録価格』を基準年度に係る賦課期日
における価格」と規定していることを前提とする原判決は,同条の文理に反するほ
か,本訴の審理対象が,課税標準(法附則による負担調整措置により登録価格より
も相当低額となる。)が賦課期日の価格として相当か否かに限定されていることを
看過するものである。
② 法附則17条の2,18条は,平成5年3月31日に改正され,平成6年度の
固定資産税額を決定するに当たり設けられた措置であることからすれば,立法者
は,改正時点において不動産の価格傾向を全国的に把握し,価格調査基準日の価格
を基礎にして,平成6年度から平成8年度までの固定資産の課税標準を決定するこ
とを予定していたことは明らかである。
③ 価格を登録しなければならない平成6年2月末日の時点では,地価公示価格は
公表されていない。この公示価格は鑑定によって定めることとなるが(乙1),鑑
定自体,鑑定時点における価格を評価するもので,将来の価格変動を評価の要因と
して含まないことは当然であるから,登録価格を基準年度に係る賦課期日における
価格とする解釈は,不動産鑑定士にすら不可能な将来(価格調査基準日である平成
4年7月1日から平成6年1月1日まで)の価格変動の推定を求めることになり,
不当である。
(2) 争点5について
 仮に,本件土地の固定資産税の評価額が,適正な時価を上回るとしても,その上
回る部分のみが違法となり,当該部分を取り消せば足りると解すべきである。
① 原判決は,行政事件訴訟法33条2項が,裁決が取り消されたとき,裁決をし
た行政庁は,判決の趣旨に従い,改めて審査請求に対する裁決をしなければならな
いところ,一部取消の判決がなされた場合には,改めて行った決定と,訴訟の対象
とならなかった残部の両方が存在し,この間の理論的整合性が期し難い結果を招来
することを根拠としている。
 しかし,取消判決の拘束力とは,司法審査を実効あらしめるため,同一処分の蒸
し返しを禁止するものであり,取消の対象を全部とするか,一部とするかとは無関
係である。一部取消判決がされた場合にも,この判決の趣旨に従い,判断内容を尊
重した新たな裁決をすることは当然に許される。
 評価自体の違法(価格の違法)を主張して,そのうちの一部についてのみ不服を
主張し取消しを求めることは,処分権主義にもかない,これまでの学説,判例がこ
ぞって肯定するところ,全部取消判決により,評定すべき価格が一義的に定まらな
い場合には,紛争が裁判所と固定資産評価審査委員会との間を往復することになっ
て,紛争の早期かつ抜本的解決を図ることができなくなる。控訴人においては,裁
判所がその裁決の一部を違法とする判断を示した場合,実務処理上現実に,判決の
説示するところに基づき,その趣旨を尊重して改めて裁決を行っていることは,原
審以来繰り返し主張し,また,その結果を申出人及び評価庁である東京都知事に通
知する取扱を現実に行い,これを実務上定着させていることが窺える(乙71)。
これによれば,訴訟の対象となった取消に係る部分,取り消されなかった部分と,
訴訟の対象とならなかった残部との間に整合性を欠く事態を生ぜしめることはない
であろうことが予測できる。
 この点について,原判決の疑念は理論的には否定できないとしても,少なくとも
現実には,上記にみたように,控訴人において,改めて判決を遵守した裁決が必ず
なされている実務が定着していることに鑑みて,払拭されてよいと考える。
② 仮に,本件土地の固定資産税評価額が,平成6年1月1日時点における適正な
時価であるべきだとしても,以下のとおり,本件決定価格は適正な時価を超えない
から,本件決定に違法性はない。
(ア) 本件標準宅地に近接する地価公示地は(渋谷5-9)ではなく,(渋谷5
-2)である。都市計画法上の用途地域は商業地域であり,(渋谷5-2)と同一
だからである。
 この(渋谷5-
2)の平成5年1月1日から平成6年1月1日までの下落率は,1350万円から
945万円でマイナス30パーセントである。
(イ) 地価公示地である(渋谷5-9)の下落率だけでは本件標準宅地の具体的
な下落率を認定できないとしても,本件土地を中心とした半径500メートルない
し1キロメートル内にある地価公示地及び東京都基準地(商業地)の地価動向が参
考にされるべきところ,これによれば,地価の下落率は以下のとおりである(乙3
5,36)。
a 半径500メートル以内の地価公示地6地点の平均・・マイナス33・3パー
セント
b 同5地点平均・・マイナス32・7パーセント
c 半径1キロメートル以内の地価公示地9地点平均・・マイナス33・1パーセ
ントないし33・4パーセント
d 半径500メートル以内の東京都基準地2地点平均・・マイナス28・0ない
し28・2パーセント
e 半径1キロメートル以内の東京都基準地7地点平均・・マイナス30・6パー
セント
f 同上8地点平均・・マイナス30・5パーセント
g 以上aないしfの平均値・・マイナス31・2パーセント
 ところで,これらの中には,マイナス30パーセントを超えるものがあるが,地
価変動率がマイナス30パーセントを超えても直ちに評価額は違法となるものでは
ない。評価の性質上,鑑定士の鑑定にもある程度の裁量があり,10パーセント程
度の開差が存する場合も少なくないこと,土地の価格の形成要因には各種のものが
あり,適正な時価は一義的に定まらないことなどによる。
③ 仮に,30パーセントの下落率を超える部分が違法となるとしても,地価下落
率のうち上記gの31・2パーセントを採用すれば,本件標準宅地の主要街路路線
価は,980万円×(1-0・160)×(1-0・312)=570万円とな
り,本件土地の評価額は10億5672万円となるから,本件決定のうち,これを
超える部分のみが違法となるにすぎないというべきである。
(二) 被控訴人
(1) 争点2,4について
 7割評価通達の直接の目的は,土地基本法16条の趣旨を踏まえて,地価公示価
格等の公的土地評価の均衡化を目指すものであって,賦課期日までの時点修正を直
接の目的とするものではない。すなわち,土地の価格が下落しても適正な時価を超
えないようにとの配慮から定められたものではなく,7割評価通達の適用による時
価との差額の3割を価格調査基準日から
賦課期日までの地価の下落を穴埋めするために使用することは許されないのであ
る。
 したがって,賦課期日における適正な時価を算定するためには,平成4年7月1
日の価格調査基準日の価格に,平成6年1月1日までの時点修正を加えて算定され
た価格に,更に7割評価通達を適用すべきなのである。
(2) 争点5について
 登録価格が適正な時価を超えていて違法である場合,審査決定の取消判決の拘束
力として,価格の決定者の措置を介在させるか否かの問題とは別に,そもそも,審
査決定の一体不可分性が検討されなければならない。
 審査決定は特定の土地の価格評価が適法であるか否かを認定するものであり,評
価は1つである。次に,裁決主義が採用されている下で,審査決定が判決により取
り消されると,行政事件訴訟法33条2項により裁決がされていない前の状態に戻
り,固定資産評価審査委員会は改めて審査請求につき審理をすることになるが,こ
の審理の対象は審査請求そのものであり,審査請求の全部であってその一部ではな
いのである。
 審査決定は不可分であり,その取消判決の効力も,審査請求全部を不可分のもの
として審理の対象とすることになるのであるから,原判決の立場は相当であり,審
査決定を可分なものとしている裁判例は,法434条,行政事件訴訟法33条2項
の解釈を誤っている。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所は,被控訴人の請求は,本判決主文1の(一)の限度で理由があるが,
その余は理由がないものと判断する。
 すなわち,当裁判所は,原判決と同様,本件土地の固定資産税評価額は,平成6
年1月1日時点における適正な時価でなければならないと判断するものであるが,
その価格は,本件土地に最も接近した本件標準宅地をもとに算定すべきであり,7
割評価通達の適用によっても補えない部分すなわち,下落率が30パーセントを超
える部分については,7割評価通達を適用するのではなく,現実の地価下落率に基
づく減価計算を要するものと判断する。そして,原判決と異なり,裁決に対する行
政取消請求事件であるとの点を考慮しても,本件訴訟のように,本件不動産の価格
の評価が問題とされているような場合には,本件決定のうち,上記によって算定さ
れた価格を超える部分につき審査申出を棄却した部分についての一部取消を認める
ことを相当と判断するものである。
 その理由は,以下のとおり付加,訂正するほか,原判決の「事
実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」欄に記載のとおりであるから,これ
を引用する(なお,この判断と矛盾する原判決の「事実及び理由」の「第一 請
求」欄のうち,原判決3頁6行目から同8頁6行目までも削除する。)。
1 原判決72頁7行目から73頁2行目までを次のように改める。
「(1) そこで,平成5年1月1日から平成6年1月1日の賦課期日までの本件
土地の地価の下落率につき検討するに,乙35,36(枝番を含む。)及び前記検
討結果は以下のとおりである。
① 公示地(渋谷5-9)・・・マイナス40パーセント
② 公示地(渋谷5-2)・・・マイナス30パーセント
③ 本件標準宅地に沿接する正面路線の相続税路線価・・・マイナス34・6パー
セント
④ 半径500メートル以内の地価公示地6地点の平均・・マイナス33・3パー
セント
⑤ 同5地点平均(①を除く)・・マイナス32・7パーセント
⑥ 半径1キロメートル以内の地価公示地9地点平均・・マイナス33・1パーセ
ントないし33・4パーセント
⑦ 半径500メートル以内の東京都基準地2地点平均・・マイナス28・0ない
し28・2パーセント
⑧ 半径1キロメートル以内の東京都基準地7地点平均・・マイナス30・6パー
セント
⑨ 同上8地点平均・・マイナス30・5パーセント
⑩ 以上④ないし⑨の平均値・・マイナス31・2パーセント
(2) このうち,⑦及びこれを含む平均値である⑩が採用できないことは前示し
たとおりであり,当裁判所は,③,④又は⑥のいずれかを採用すべきであり,この
うち,本件土地に最も近接する本件標準宅地の主要街路の相続税路線価の下落率で
ある34・6パーセントを採用すべきものと判断する。その理由は,相続税路線価
も価格そのものの正確性については地価公示価格に劣るものの,地価公示価格の標
準水準を反映しているものであり,それのおよそ8割とされているものであるか
ら,その下落率については正確性を有しているものと解されるところ,その下落率
は,周辺数地点の地価公示価格の平均下落率(④,⑥)とわずかの隔たりがあるに
過ぎないこと,個別的な土地の適正な時価が問題とされる場合において,土地の用
途,利用状況,環境など地域としての同質性が重要視されるところ,本件土地に最
も近接するのは本件標準宅地であることなどである。
 これによれば,本件土地の平成6年度の価格は,価格調査基準日に
おける本件標準宅地の主要街路路線価988万円をもとに,平成5年1月1日まで
の地価動向マイナス16・0パーセント,平成5年1月1日から平成6年1月1日
までの地価動向マイナス34・6パーセント,本件標準宅地と本件土地との交通,
街路,環境,行政各条件を考慮して決定されるべきであり、これによれば,本件土
地の価格は,10億1864万円と算定される。
(計算式) 988万点×(1-0・16)×(1-0・34)=547万点(上
位3桁有効)
547万点×0・81×1・03×1・00×0・94=428万点(上位3桁有
効)
428万点×238=10億1864万点
10億1864万点×1円=10億1864万円
(3) 控訴人は,① 法349条1項は,『登録価格』を基準年度に係る賦課期
日における価格と規定しているものではなく,『課税標準』を基準年度に係る賦課
期日における価格と規定しているに過ぎないから,『登録価格』を基準年度に係る
賦課期日における価格と規定していることを前提とする上記の判断は,同条の文理
に反するほか,審理対象が,法附則による負担調整措置により登録価格よりも相当
低額となる課税標準が賦課期日の価格として相当か否かに限定されていることを看
過するものである,② 立法者は,改正時点において不動産の価格傾向を全国的に
把握し,価格調査基準日の価格を基礎にして,平成6年度から平成8年度までの固
定資産の課税標準を決定することを予定していたから,3割以上の土地下落があっ
た場合でも7割評価通達を適用すれば足りる,③ 手続的に,価格を登録しなけれ
ばならない平成6年2月末日の時点では,地価公示価格は公表されていないし,こ
の公示価格は鑑定によって定めることとなるが,鑑定自体,将来の価格変動を評価
の要因として含まないことは当然である,などと主張して,登録価格を基準年度に
係る賦課期日における価格とする解釈は,誤りであると主張する。
 しかしながら,前記「法令の定め等」にみたとおり,固定資産の課税標準は,当
該固定資産の基準年度に係る賦課期日における価格であり,右の価格とは適正な時
価であって,土地課税台帳等に登録されたものであり,現行法のもとでは,暫定的
に,法附則17条,18条2項による負担調整措置により課税標準となるべき額が
これに一定割合を乗じて求められることとなってはいるものの,この負担調整措置
が存在しないとすれば,
課税標準,登録価格は適正な時価として原則として同一となるはずのものである。
本訴が,この登録価格を争うものであることは,法434条の規定から明らかであ
る。
 また,手続的,時間的制限から,賦課期日における適正な時価の算定を不要とす
る控訴人の主張は,前記の法の明文規定に明らかに反し,採用できない。評価基準
等により,価格調査基準日を賦課期日より前に遡らせることは,技術的理由により
許容されるが,この技術的,手続的な便宜措置により,課税標準,登録価格が当該
固定資産の基準年度に係る賦課期日における適正な時価でなければならないとする
法の大前提が破られてよいとする道理は全くない。
(4) 被控訴人は,7割評価通達は,土地の価格が下落しても適正な時価を超え
ないようにとの配慮から定められたものではなく,価格調査基準日から賦課期日ま
での地価の下落を穴埋めするために使用することは許されず,平成4年7月1日か
ら平成6年1月1日までの時点修正を加え,適正な時価として算定された価格に更
に7割評価通達を適用すべき旨主張する。
 確かに,被控訴人主張のとおり7割評価通達の直接の目的は,土地基本法16条
の趣旨を踏まえて地価公示価格等の公的土地評価の均衡化を目指すものであって,
賦課期日までの時点修正を直接の目的とするものではない。しかし,7割評価通達
の適用の結果算出された価格が,個別的な固定資産の賦課期日における客観的価格
を上回らなければ,当該固定資産の価格は適法と認められると解されるほか,本件
では,上記のとおり土地の下落率という客観的な時点修正のための数値を適用して
本件土地の賦課期日における価格を求めたものであるから,7割評価通達の適用の
違法は本件に関してはそもそも判断の限りではないことに帰する。」
2 争点5について
 当裁判所は,審査決定に対する行政取消請求事件であるとの点を考慮しても,本
件訴訟のように,固定資産の価格の評価が問題とされているような場合には,本件
決定のうち,上記によって算定された適正な時価を超える部分につき審査申出を棄
却した部分についての一部取消を認めることを相当と判断するものである。
 その理由は,以下のとおりである。
(一) 本件訴訟の訴訟物は,審査決定の違法性一般であるが,具体的な審理の対
象は,被控訴人の主張によれば,審査決定に係る本件決定価格の適否である。
(二) このように,審査決定の価
格が金額で示され,その適否が金額の高低をもって争われる場合には,訴訟物は審
査決定の違法性一般であるとはいえ,審理の直接の対象は,審査決定に係る価格の
適否に限定され,この判断の結果を踏まえて,審査決定の違法性の有無が判断さ
れ,主文に掲げられるという論理的過程をたどることになる。
(三) ところで,この種の訴訟において,納税義務者は,適正な時価として自ら
が主張する価格を超える部分のみの審査決定の取り消しを求め,これを超えない部
分を審理の対象としないこととして,審理対象及び勝訴の範囲を画することができ
ることはいうまでもないところである。
(四) これに反し,納税義務者が,審査決定の全部について取消を求めている場
合で,裁判所が審査決定に係る価格中,一部適正な時価を超えている部分があると
判断した場合,審査決定の不可分一体性から,違法部分を理由中の判断で示し,審
査決定の全部を取り消す判決をすることも論理的に矛盾することはなく,これを肯
定する見解も成り立ち得るものであって,このような見解を直ちに誤りであるとす
る積極的な理由は見出せない。
(五) しかしながら,全部取消判決は,一見,審査決定中,時価を上回らない適
法な価格の認定判断部分まで結果的には取り消すこととなるかに誤解されるおそれ
があるほか,審査決定という包衣をまとってはいるが,審理の直接対象が価格の適
否という可分なものとなっていることからすれば,理由中の判断を主文にも反映
し,審査決定中違法部分を明らかにすると共に,これにより取消の範囲を宣明する
こととなる一部取消判決を肯定することもまた合理的な見解として是認されてよい
ものと解され,少なくとも,このような見解を否定し切る理由も見い出し難いので
ある。
(六) なお,控訴人は,原審以来,一部取消判決が出された場合にも,必ず当該
判決を尊重して当該判決の説示に従った審査決定を行うのが現状である旨繰り返し
主張しているところ,当審において,当裁判所の釈明に応じて控訴人から提出され
た乙71(決定書)によれば,控訴人においては,裁判所がその審査決定の一部を
違法と判断した場合には,判決の説示に基づき,その趣旨に沿った審査決定を改め
て行い,申出入及び評価庁である東京都知事に通知する取扱を行っていることが審
査手続実務の中で定着していることが推察され,また,事実上とはいえ,そのよう
な取扱の実施は,控訴人に限ら
ず,全国の固定資産評価審査委員会において広く行われているものと推察される。
 もとより,上記の取扱は,事実上判決尊重の趣旨で控訴人内部でされる取扱処理
でしかないとはいえ,この取扱処理の実務への定着化により,一部取消判決に拘束
力を持たせるに近い効果を生ぜしめているとみることもできるのである。
 このようにみていくと,判決が一部取消に止まるか,全部取消をするかに拘わら
ず,訴訟の対象とならなかった残部がある場合にも,再度の審査決定において取消
判決の判断が反映され,その間に整合性を欠く事態はおそらく生じ得ないであろう
と思われるし,また,現実に,控訴人において今後ともそのような取扱の定着が持
続していくことも確実なものとして予測されるのである。
(七) そこで,全部取消判決をするか,一部取消判決をするかは,上記検討のう
ち,審査決定の一体不可分性を貫くか,直接の審理対象の可分性を肯定し,(五)
の付随的効果を重視するかの政策的判断によるものという他はないが,価格の違法
を主張して,そのうちの一部についてのみ不服を主張し,その取消を求めること
は,処分権主義の趣旨にもかない,納税義務者が全部取消を求める場合でも,一部
取消判決ができるとすることも,長年に亘り実務において採られてきた選択肢であ
り,これが定着していることをも考慮すれば,敢えて,一部取消判決が可能な場合
に,全部取消判決をするまでの必要性及び合理的根拠はないものと判断される。
第4 結語
 よって,被控訴人の請求は,主文2の限度で理由があるからこれを認容するが,
その余は理由がないからこれを棄却することとし,これと一部異なる原判決を主文
のとおり変更することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第12民事部
裁判長裁判官 伊藤瑩子
裁判官 秋武憲一
裁判官 三代川俊一郎
(別紙)
       目録
1 東京都渋谷区α七番一 宅地 二三八・〇〇平方メートル
2 平成五年度登録価格         九九六〇万三〇〇〇円
3 平成六年度登録価格      一一億〇四三二万〇〇〇〇円
4 審査決定後の価格       一〇億七五七六万〇〇〇〇円

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