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裁判例


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○ 主文
一 被告が原告に対し、昭和五一年七月二四日付でした、原告の昭和三五年四月一
日から昭和三六年三月三一日までの事業年度及び昭和三六年四月一日から昭和三七
年三月三一日までの事業年度にかかる各更正の請求に対する更正をすべき理由がな
い旨の各行政処分を取り消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
主文と同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 原告の請求原因及び主張
一 本件更正をすべき理由がない旨の処分の経緯等について
1 原告は青色申告の承認を受けた株式会社であるが、被告は原告に対し、昭和三
六年三月三一日付で、昭和三四年四月一日から昭和三五年三月三一日までの事業年
度(以下、昭和三五年度という。)以降青色申告の承認を取り消す旨の処分(以
下、本件青色申告取消処分という。)及び右事業年度の法人税について更正処分を
した。
2 原告は、右各処分を争い、右係争は所定の不服手続を経て、第一審岡山地方裁
判所昭和三八年(行)第四号事件において原告の全部勝訴、被告控訴に係る第二審
広島高等裁判所岡山支部昭和四六年(行コ)第二号事件で控訴棄却となり、被告
(控訴人)が上告して最高裁判所昭和四九年(行ツ)第二五号事件として係属した
が、昭和四九年八月一二日被告(上告人)が上告を取り下げて第一審判決が確定し
(以下、この訴訟を前訴という。)、原告は昭和三五年度以降も青色申告の承認を
受けた法人となつた。なお、右上告取下書は、昭和四九年八月一九日被上告代理人
に送達された。
3 原告は、昭和三五年四月一日から昭和三六年三月三一日までの事業年度(以
下、昭和三六年度という。)及び昭和三六年四月一日から昭和三七年三月三一日ま
での事業年度(以下、昭和三七年度という。)についても、青色申告の承認を受け
ている法人として税務申告をしたが、被告は、本件青色申告取消処分以降であると
して、右昭和三六年度及び昭和三七年度分(以下、右両年度を、本件係争年度とい
う。)についていずれも白色申告法人として取り扱い、昭和三六年度分については
昭和三七年四月三〇日に、昭和三七年度分については昭和三八年六月一一日に、そ
れぞれ別表一記載のとおり更正処分をした。
4 原告は、被告の前訴の上告取下によつて、本件係争年度も青色申告の承認を受
けた法人となつたので、本件係争年度について、白色申告に基づく納税額と青色申
告に基づく法人税額の差額について減額更正をすべきであるとして、昭和四九年一
〇月一八日に本件係争年度の法人税額の更正の請求をしたが、被告は、昭和五一年
七月二四日付で本件係争年度についていずれも更正をすべき理由がない旨の行政処
分(以下、本件処分という。)をした。そこで原告は、被告に対し、昭和五一年九
月二〇日付でそれぞれにつき異議申立をしたが、被告は昭和五一年一二月一六日付
で各異議申立をいずれも却下したので、原告は、昭和五二年一月一一日付で広島国
税不服審判所長に対し審査請求をした。しかし、その翌日の昭和五二年一月一二日
から三か月を経過するも裁決がないので、国税通則法(以下、通則法という。)一
一五条一項一号により本訴を提起した。
二 本件各更正の請求が許される根拠について、原告の主張は次のとおりである。
1 青色申告の承認が取り消されたことを前提としてなされた更正処分は、青色申
告法人を否定されたことから必然的に生ずる各種の特典の否認を追認して明確にす
るための形式的な処分であり、一応別途な形式にはなるが、その実質は青色申告の
承認の取消処分と一体をなしているものである。したがつて、青色申告の承認を取
り消す旨の処分が取り消されれば、その判決の効力により、爾年度以降も青色申告
の承認を受けた法人であつたことになるのであるから、その年度以降において、青
色申告の承認の取消の結果白色申告法人として取り扱われて納税をしておれば、青
色申告をした場合の税額との差額分については、当然何らかの方法で救済がされる
べきである。
ところで、このように青色申告と白色申告との相違分の税額について救済する手段
としては、次のような方法が考えられる。
(一) 当然その部分を無効として不当利得で返す。
(二) 更正の請求によつて相違分の税額について減額更正を求める。
(三) 白色申告法人扱いの処分に対し取消訴訟によつて解決する。
原告は、本件において、右(二)の方法を正当な救済方法と考える。蓋し、行政処
分は重大かつ明白な瑕疵がない以上無効ではないところ、本件係争年度当時におい
て白色申告法人扱いとして各更正処分は重大かつ明白な瑕疵があるとはいえないか
ら右(一)の方法は妥当でなく、また、白色申告法人扱いの更正処分の取消訴訟に
よるのでは、出訴の除斥期間制限によつて提訴が困難だからである。これらに比
べ、更正の請求による方法は、次項以下で主張するとおり、本件における無理のな
い救済の方法である。
2 ある申告額を増額する場合の是正原因は大別して三つある。
(一) 当該年度の課税標準又は税額等の計算が国税の規定に従つていない場合
(通則法二四条・一九条・二三条一項)
(二) 右計算の基礎となつた事実が後日異つたことになり計算をし直す場合(通
則法七一条二項・二三条二項・所得税法一五二条)
(三) ある年度の更正・決定・修正申告書の提出・不服手続による原処分の異動
等により、その年度以外の年度の課税標準等又は税額等の計算に影響を与えること
から生ずる場合(通則法七一条一項、法人税法八二条、所得税法一五三条)
原告は、本件が右(三)の場合に該当すると考えて、被告に対し、更正の請求をす
るものである。以下、詳論する。
3 通則法七一条は、同法七〇条の例外として、特殊な場合における税務当局の賦
課権の除斥期間の特例を規定する。特殊な場合とは、右七一条一号の規定によれ
ば、原処分が争訟になり、その争訟の確定による原処分の異動に伴い、争訟対象年
度以外の年度分等について更正をすべきときである。
この争訟の意義については、法人税取扱通達一五七(昭三二直法一-一三〇)にお
いて「通則法第七一条第一号に規定する『裁決、決定若しくは判決・・・・・・に
よる原処分の異動』は課税標準若しくは法人税額又は欠損金額の取消による異動だ
けではなく、事業年度の指定、たな卸資産の評価方法の変更申請の却下、固定資産
の減価償却方法の変更申請の却下、又は青色申告書の提出の承認の取消による異動
を含むのであるから留意する」と明記されており、右通達を本件に適用すれば、被
告がした本件青色申告取消処分を取り消す旨の判決の確定によつて、当該昭和三五
年度以降(まさに本件係争年度)も原告は青色申告法人であつたことになり、した
がつて、被告は本件係争年度の増減額の更正処分をすべき場合に該当する。
4 右に述べたところは、税務当局における賦課権の特例であるが、これに対し、
申告人側にも賦課権の発動を促すべく認められたのが、法人税法八二条の更正の請
求の規定である。即ち、同条は「その修正申告書の提出又は更正若しくは決定に伴
い、次の各号に掲げる場合に該当することとなるときは、その修正申告書を提出し
た日又はその更正若しくは決定の通知を受けた日の翌日から二か月以内に限
り・・・・・・」と規定するが、ここにいう「更正若しくは決定に伴い」とは、
「税務当局の更正若しくは決定が有つたことに伴い」という意味と同時に、「税務
当局の更正若しくは決定が有つたが、その更正若しくは決定が無かつたことになつ
たということに伴い」という意味をも含むのである。このことは、通則法七一条一
項に対応して法人税法八二条が規定され、通則法七一条二項に対応して同法二三条
が規定された立法の趣旨にも合致する。
5 ところで、本件においては、税務当局(被告)が前訴の上告の取下をしたこと
によつて本件青色申告取消処分の取消が確定しているが、このような上告の取下を
したこと自体が通則法七一条の裁決等に該当し、かつ、法人税法八二条にいう「修
正申告書を提出し、又は更正若しくは決定を受けたこと」に該当する。蓋し、訴訟
の場において、原告の請求を税務当局が認諾することは、訴訟外で自ら更正処分等
を取り消し、原告が訴えを取り下げることと同じ意味をもつものであり、また、第
一、二審で原告の請求が認められ、税務当局(被告)が上告中の場合、税務当局
(上告人)が上告を取り下げて原告勝訴の判決が確定することは、右同様に税務当
局が自ら更正処分を取り消し、原告が訴えを取り下げることと同じ意味をもつので
ある。それゆえ、訴訟外において更正処分等の取消処分をする場合に法人税法八二
条が適用される以上、経済的に全く同一であり、しかも、より厳格にして既判力が
生ずる上告の取下という訴訟行為に、同条の適用があるのは当然である。
三 なお、原告が主張する本件係争年度に関する増減額は別表二及び三の原告が主
張する青色申告法人としての再計算額欄記載のとおりである。
付言するに、本件更正の請求に基づく加算・減算額については、原告の確定申告が
基本とされるべきである。即ち、本件青色申告取消処分の取消が確定したことに伴
い、本件係争年度について青色申告法人でないものとして更正処分をした部分は違
法であつたことになるから、青色申告以外の要件を仮に被告が審査しなかつたとし
ても、それは止むを得ないことであり、また、その要件に疑義があれば、現在審査
すれば足りるのである。そして、それが仮に書類の紛失等で事実上不能となつたと
しても、申告納税方式の租税においては、課税標準・税額の確定権は原則的には納
税者にあり、税務署長の処分はあくまで第二義的・補助的な地位にあるから、原告
のしたところでまず確定しているのであり、青色申告を要件としない加算金額があ
るならば、それは被告において主張・立証すべきであり、これが不能であるなら
ば、右の原則に従つて、原告の申告を基本として更正の請求に対する減額の処分を
すべきである。
四 よつて、原告の各更正の請求に対して、更正をすべき理由がないとした被告の
処分は違法であるから、原告はその取消を求める。
第三 請求原因に対する被告の認否及び主張
一 請求原因に対する被告の認否
請求原因事実一のうち、被上告代理人が上告取下書の送達を受けた日は不知、その
余の事実は認める。原告の主張は争う。
二 被告の主張
1 通則法七一条の趣旨について
(一) 通則法七一条一号の争訟に伴う更正の特例は、争訟が長期にわたつて係属
し、その結果ある年度の課税処分に変動を生ずる結果、それ以外の年度の処分にも
必然的な変動を生ずるときに、右争訟年度以外の年度についても、同法七〇条の期
間にかかわらず、更正ないし賦課決定をし得る余地を認めたものである。
したがつて、同条にいう「伴う」というためには、争訟の対象となつた原処分の変
動により、必然的に次年度以降の処分が変動する場合に限られる。例えば、法令
上、その年度の課税標準等又は税額等が他の年度の課税標準等の計算の基礎となつ
ており、それと異なる計算が許されないような関係がある場合ないしは争訟の対象
となつている増額更正等の処分のときに、その更正等に伴つて他の年度の減額更正
がされている場合に、その増額更正等の取消に伴い、原状回復のため、他の年度に
ついて更正をする場合などである。
(二) 原告は、前訴にかかる昭和三五年度以降の本件係争年度についても減額更
正すべきであると主張するが、被告のした本件青色申告取消処分と右処分以降の法
人税の更正処分とは全く別個の処分である。即ち、前者は、納税義務者の資格に関
する処分であり、後者は、当該事業年度の納税義務を確認し、納付すべき税額を具
体的に確定する処分である。
また、原告は青色申告の承認の取消処分の取消によつて青色申告者として申告し得
る資格を回復するが、右青色申告をしうる資格を有するということは、青色申告の
特典を受けるための一要件でしかない。例えば、繰越欠損金の特典を受けるために
は、法人税法五七条に規定する(1)当該事業年度開始の日前五年以内に開始した
事業年度に欠損金額が生じること(2)繰越控除される欠損金額は繰もどし還付の
基礎とならなかつたものであること(3)繰越控除される欠損金額はその欠損金額
を生じた事業年度以後において一度も控除されなかつたこと(4)繰越控除される
欠損金額はその繰越控除をする前における当該事業年度の所得の金額を限度とする
こと(5)欠損金額を生じた事業年度以降当該事業年度まで連続して確定申告書を
提出していること、以上の要件をも充足することが必要であり、これらはすべて当
該法人が有効に青色申告の承認を受けていたか否かには関係しない事実によつて要
件充足の有無が判断されるのみならず、特に(1)の要件充足の有無を判断するた
めには、欠損金額が生じたとされる事業年度の益金及び損金の額を、その事業年度
を通じて多数の事実の存否を確定したうえ、これを総合し、これに会計上の処理を
して行わなければならないのである。
次に、青色申告の特典の効果を受けるための前提事実の存否がすべて確定でき、そ
の受けることのできる特典の種類及びその額が確定できたとしても、当該事業年度
の課税標準・税額は容易に算出できない。蓋し、法人税の課税標準は、当該事業年
度の益金の額から損金の額を控除したものであるが、このような所得の額は、事業
年度を通じての多数の事実を総合し、これに会計上の処理を経てはじめては握し得
るものだからである。
したがつて、青色申告の承認の取消が、当該取消処分を行つた事業年度以後の事業
年度の課税標準・税額を必然的に変動させるものでないことは明らかである。
(三) 特に、本件青色申告取消処分は、理由付記という手続的事由により取り消
されたものであつて、このような手続の瑕疵に起因する処分の取消は、課税標準又
は税額を何ら確定するものではない。手続的瑕疵を理由とする原処分の取消が確定
したならば、確定申告がされたのち何ら更正処分がされていない状態と同じにな
る。この場合、取消判決の確定が更正の除斥期間内であれば、税務署長は当然再更
正処分を行うことができる。ところが、取消判決の確定が更正の除斥期間後であれ
ば、税務署長は再更正処分を行うことができない。この当該事業年度の課税標準・
税額等が確定申告額どおり確定するのは、更正の除斥期間の経過という事実に基づ
くものであり、判決によるものではない。
したがつて、手続の瑕疵のみを理由とする判決による原処分の取消は、通則法七一
条一号にいう原処分の異動には含まれない。
(四) なお、原告は通則法七一条一号の解釈について、法人税取扱通達一五七
(昭三二直法一-一三〇)において「通則法第七十一条第一号に規定する裁決、決
定若しくは判決・・・・・・による原処分の異動は・・・・・・青色申告書の提出
の承認の取消しによる異動を含むものであるから留意する。」と規定していると主
張する。確かに同通達において原告主張のような記載がなされていたことは認める
が、同通達は、昭和四四年五月一日直審(法)二五(例規)国税庁長官通達により
廃止されている。右通達が廃止されたのは、前記(二)で主張したとおり、青色申
告の承認の取消処分と課税処分とは別個のものであることが認識されたためであ
る。
2 原告は、法人税法八二条により更正の請求が理由があるとするが、右主張は次
のとおり失当である。
(一) 法人税法八二条は、更正の請求の原則である通則法に対し特例を設けてい
るが、その立法趣旨は次のとおりである。
即ち、法人税法においては、法人の貸借対照表について税務上の修正を加えた結果
としての税務対照表というべきものが存在し、この税務対照表は企業の貸借対照表
と密接な関連を有する。例えば、法人が一事業年度の売掛金等を、その事業年度の
貸借対照表に計上せず、翌事業年度の貸借対照表に計上したとすると、この場合に
は、税務計算においては、その売掛金をその生じた事業年度の貸借対照表に属すべ
きものとして更正等を行うこととなる。しかして、その更正が行われた場合に、既
に次の事業年度の申告書が提出されていた場合には、その申告の基礎となる貸借対
照表には、前の事業年度で除外された売掛金等が計上されているはずであり、した
がつて、確定申告書に記載された税額は、その売掛金等が含まれているだけに、税
務計算上の税額よりも過大となることは明らかである。しかるに、既に確定申告書
が提出されているので、その一般の更正の請求の期間は徒過したことになるので、
これを行うことが許されない。しかし、この修正は、法人税法の一貫した適用を考
える場合には当然必要なことであり、税務署においては、このような決定を行つた
場合には、その後の事業年度において計上されている部分に限りこれを減算する処
置をとつているのが普通である。しかし、このような場合には、法人からも当然に
更正の請求を行わせることが実務上は便宜でもあり、また、納税者の利益にも合致
する。これを認めるのが、法人税法八二条の趣旨である。
(二) 右立法趣旨及び同条の「修正申告書の提出又は更正若しくは決定」という
文言によれば、更正の請求が同条に該当するためには、少なくとも次の要件を満た
すことが必要である。
(1) 当該更正の請求の対象となつている事業年度より前の事業年度の課税標
準・税額等につき変動が生ずること。
(2) その変動は、修正申告書が提出されるか、更正又は決定がなされることに
より生ずるものであることに限定される。
(3) 前の事業年度の課税標準・税額等が変動したことによつて、必然的に当該
更正の請求の対象となつている事業年度の課税標準・税額等が過大となること。
(三) 右の要件を本件にあてはめてみるに、
(1) 本件更正の請求は、本件青色申告取消処分の取消が確定したことをその理
由としているが、本件各事業年度より前の事業年度の課税標準・税額等につき変動
が生じたことをその理由としていない。この場合には、両処分は別個であり、更正
の請求を認めるべきではないことは、前記1で主張したとおりである。
(2) 本件更正の請求の理由である本件青色申告取消処分の取消が確定したの
は、修正申告書の提出、更正又は決定のいずれによるものでもない。なお原告は、
被告による前訴の上告取下が、法人税法八二条の「更正若しくは決定」に当たる旨
主張するが、同条は厳格に解釈されるべきであつて、原告の主張するように安易に
拡張解釈されるべきではない。蓋し、同条の立法趣旨及び同法二条四三号、四四号
の定義規定の存在からして、同法八二条にいう「更正若しくは決定」とは、通則法
二四条、二六条の更正及び同法二五条の決定のみを意味すると解すべきであり、ま
た、法人税法八二条と同じく更正の請求について規定した通則法二三条及び同法七
一条には、「判決」「判決と同一の効力を有する和解その他の行為」などという文
言があるから、税法が意識的に「更正」又は「決定」の文言と、「判決」等の文言
を使い分けていることが明らかであるからである。
したがつて、本件各更正の請求は、前記(二)(3)の要件について吟味するまで
もなく(1)及び(2)の要件を欠くので、法人税法八二条に該当しない。
3 本件におけるような場合の現行税法が予定する争訟方法は、青色申告の承認の
取消処分を争うとともに、爾後の申告も青色申告書によつて各種の青色申告の特典
計算を行つたうえで行い、これに対する更正処分に対し、不服申立及び訴訟提起を
行つて争う方法であり、原告とすれば、右の方法により本件係争年度の各更正処分
を争うべきであつたのである。現に、原告は、本件係争年度につき、青色申告によ
り申告を行つており、また、昭和三七年については、不服申立を行つている。
もし原告の主張するように、青色申告の承認の取消の取消が訴訟上確定した後に更
正の請求が許されるとするならば、納税者は、税務官庁の資料の散逸を待つて更正
の請求を行うことにより、所定の期間内に所定の不服手続を経由して取消訴訟を提
起するよりも有利な地位に立つという不合理な事態を招くことになる。
4 本件係争年度の法人税につき、被告が、原告の本件更正の請求に応じて、原告
を青色申告法人扱いとして減額更正すると仮定した場合の課税所得金額は、別表二
及び三の被告が主張する青色申告法人としての再計算額欄記載のとおりである。
原告は、本件更正の請求の対象金額については、原則として原告の確定申告書の記
載に従うべきである旨主張するが、右主張は失当である。即ち、本件青色申告取消
処分の取消判決の確定により、本件係争年度の各更正処分は何らその効力を失うこ
とはないのであつて、右取消判決確定後においても、本件係争年度の課税標準・税
額は本件各更正処分によつて確定されたままなのである。そして後発的理由による
更正の請求の制度は、特定の事由がある場合に限つて、既に更正等によつて確定し
ている課税標準及び税額を、自己の有利に変更すべきよう税務署長に求めるもので
あるから、その更正の請求の対象金額の主張・立証責任は納税者側にあると解すべ
きである。
第四 被告の主張に対する原告の反論
(法人税取扱通達一五七(昭三二直法一-一三〇)が削除された理由)
通達一五七が削除された理由は、昭和四四年五月一日法人税基本通達を公示した際
の「従来の法人税通達の規定のうち法令の解釈に必要性が少ないと認められる留意
的規定を積極的に削除する」という方針に基づき、解釈上あまり当然な通達は公示
していても意味がないから削除したに過ぎず、削除された現在も、通則法七一条の
意味内容には何らの変化はない。
第五 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因一の事実(本件処分の経緯等)のうち、本件青色申告取消処分等の取
消訴訟の上告審において、被上告代理人が上告取下書の送達を受けた日の点を除
き、その余の事実はいずれも当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第四号証
によれば、右上告取下書は、昭和四九年八月一九日被上告代理人に送達されたこと
が認められる。
二 原告は、本件更正の請求が認められる根拠として、法人税法八二条を挙げるの
で、まずこの点について判断する。
1 申告納税方式による租税について納税申告をした者が、申告によつていつたん
確定した課税標準等又は税額等を、自己の有利に変更することを求めて租税行政庁
の確定権の発動を促すところの更正の請求の制度については、通則法二三条におい
て一般的原則及び手続が定められているが、法人税法八二条は、通則法二三条二項
のいわゆる後発的理由に基づく更正の請求の特例として、確定申告書の記載事項に
掲げる金額(以下、課税標準又は税額等という。)につき、修正申告書を提出し、
又は更正若しくは決定を受けた法人は、これに伴い、その修正申告書若しくは更正
若しくは決定に係る事業年度の確定申告書に記載した、又は決定を受けた、(イ)
当該事業年度に係る法人税額等が過大となる場合、或いは、(ロ)欠損金額又は還
付金額が過少となる場合には、更正の請求ができる旨規定する。
このような前事業年度の課税標準又は税額等の更正等に伴う更正の請求が認められ
た趣旨については、概ね次のような説明がされるのが通例である。即ち、例えば、
法人がある事業年度の売上等をその事業年度に計上せずに、翌事業年度に計上して
確定申告をしていたが、その後、当該売上等について、その生じた事業年度(前
期)に属するものとして、前期分について修正申告書を提出し、又は更正がされた
場合、その結果、この売上等を計上して申告した事業年度の課税標準又は税額等
は、右売上等の金額が含まれているので当然に過大となるが、この場合でも、通常
の更正の請求はその除斥期間が徒過して利用できないことになる。このような場
合、税法の一貫した適用の要請から、租税行政庁自ら減額更正をするのが通常であ
ろうが、申告法人からも更正の請求を認めるのがその利益に合致する、というにあ
る。
右のような税法の一貫した適用の必要性は、ひとり法人税の課税に限らず、所得税
の課税においても同じく要請されるところであるから、所得税法一五三条におい
て、法人税法八二条と同様の規定が設けられている。
2 右立法趣旨、更正の請求の原則規定との関係及び法人税法八二条の規定文言を
総合すれば、同条の更正の請求が認められるためには、少なくとも、当該更正の請
求の対象となつている事業年度より前の事業年度の課税標準又は税額等について変
動を生じたことにより、その反射的作用として、当該更正の請求の対象となつてい
る事業年度の課税標準又は税額等に変動が生ずることになつた場合であることを要
するものと解すべきである。
これを本件についてみるに(なお、被告は、法人税法八二条の規定文言上、前事業
年度の課税標準又は税額等の変動は、修正申告書の提出、更正又は決定により生じ
たものであることに限定され、判決や判決と同一の効力を有する和解その他の行為
を含まない旨主張するが、右主張の当否の点はひとまずおく。)、原告の主張する
ところは、本件青色申告取消処分の取消判決が確定したことにより、その判決の効
果として、本件係争年度についても、原告は、青色申告の承認を受けた法人であつ
たことになり、青色申告の特典を享受し得る地位にあるので、法人税額等が減少す
るというに過ぎず、本件係争年度より前の事業年度、即ち昭和三五年度分の課税標
準又は税額等に変動が生じ、その反射的結果として、本件係争年度の課税標準又は
税額等に変動が生じた事実を主張するものでないことは明らかであるから、本件
は、法人税法八二条により更正の請求が認められる場合には該当しないといわざる
を得ない。
三 そこで、進んで本件更正の請求が、通則法二三条二項によつて認めることがで
きるか否かについて検討する。
1 通則法二三条二項は、いわゆる後発的理由に基づく更正の請求を可能としてい
るが、その一号においては、申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計
算の基礎となつた事実に関する訴えについて判決(判決と同一の効力を有する和解
その他の行為を含む。
)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき
は、その確定した日の翌日から起算して二か月以内において更正の請求ができる旨
規定している。
同号が予想する典型的な場合は、例えば、不動産の売買があつたものとして譲渡所
得について申告したところ、後日売買の無効を確認する旨の訴訟が提起され、譲渡
が無かつたことに確定したような事案であり、同号にいう「計算の基礎となつた事
実」とは、納税義務が成立するための物的基礎をなすところの課税の対象事実が主
要なものであろうが、青色申告の承認を受けた者であつたか否かという事実も、そ
のことのみで課税標準等又は税額等に直接影響を及ぼすことは無いが、青色申告の
承認を受けておれば、他の要件の充足と相まつて、法人税法(五七条、八一条)や
租税特別措置法(四三条ないし四六条の二、四八条ないし五二条、五三条ないし五
七条の六、五八条、五八条の三、その他)に規定する各種の税負担の軽減をもたら
す特典を享受することができ、課税標準等又は税額等の決定の基礎となることは明
らかであるから、やはり同号にいう「当該計算の基礎となつた事実」に該当すると
解するのが相当である。
2 被告は、青色申告承認の取消処分と、それに基づく更正処分とは別個の処分で
あり、青色申告の承認が取り消された場合において、右取消処分を前提とする当該
年度及び爾年度以降の白色申告扱いの更正処分については、それぞれ別途不服申立
及び訴訟を提起してこれを争うべきであり、それが法の予定するところである旨主
張する。
なるほど、青色申告の承認は、納税義務者に対し、各種の特典を伴う青色申告で申
告することができる資格を付与する行政処分であり、他方、更正処分は、租税行政
庁が課税標準等又は税額等を二次的に確定する行政処分であり、両者は別個の行政
処分であるから、更正処分は所定の手続を経過すればそれ自体として確定するので
あり、納税者は、青色申告承認の取消処分を争うとともに、それに基づく更正処分
に対しても、別途不服申立や訴訟によりその取消を求める必要があるようにも思わ
れる。
しかしながら、このような更正処分の取消を求める訴えは、別訴である青色申告承
認の取消処分の取消訴訟において、右承認取消処分を取り消す旨の判決が確定した
場合には白色申告として取り扱われてなされた更正処分の取消を求めるという、一
種の条件付で形成を求める訴えにならざるをえず、その適法性には疑問をさしはさ
む余地が無くもなく、少なくとも、この訴えが、青色申告承認の取消処分の取消を
求める訴えと別個に提起された場合には、右取消処分の公定力のためこれを取り消
す判決が確定するまでは、請求棄却とならざるを得ないと思われ、その実際的機能
を果し得るかは疑わしい。
また、仮にこのような訴訟が認められるとしても、青色申告承認が取り消された場
合、爾年度以降白色申告者として取り扱われるから、納税者としては、青色申告承
認の取消処分があつた当該年度の更正処分の取消を求めるだけでなく、青色申告承
認取消処分の取消訴訟が係属する限り、毎事業年度毎に青色申告をし、白色申告と
して更正処分を受けたうえで、一々その取消訴訟を提起しなければならないことと
なる。しかしながら、青色申告者という資格が裁決・判決等により復活すれば(前
記のとおり、青色申告の承認と更正処分とは別個の処分であるから、既に確定した
更正処分が遡つて瑕疵のあるものになつたり、青色申告承認取消処分の取り消され
た時点において瑕疵のあるものに変ることはないが、)行政訴訟が行政の法適合性
を保障するという機能を有している点を重視する限り、遡及して既になされた白色
申告扱いの更正処分は是正させる必要があり、本来それは租税行政庁において職権
をもつてしても是正すべきなのである。原告が主張するところの法人税取扱通達一
五七(昭和三二年直法一-一三〇)において、更正の除斥期間の特例を規定した通
則法七一条に関し、「通則法第七一条第一号に規定する『裁決、決定若しくは判
決・・・・・・による原処分の異動』は、・・・・・・青色申告書の提出の承認の
取消による異動を含むのであるから留意する」と定められていた趣旨もこのような
意味で理解することができる。したがつて、前記のような繁雑な手段をとることを
納税者に要求し、それをせずにおれば、後日青色申告承認取消処分が取り消された
としても、納税者は全く救済されないと解することは正当とはいえず、これまで述
べたとおり、右手段が理論的・実際的にみて必ずしも十分その機能を果たし得るも
のか疑問が多い以上、少なくとも、納税者が更正の請求という手段を選択して、白
色申告扱いの更正処分の是正を求めてきた場合に、前記通則法二三条二項一号によ
つて認容することが制度として妥当である。
このように解することは、同項が昭和四五年三月六日法律第八号において制定され
る際の答申として「このように期限を延長しても(更正の請求の除斥期間を一年に
延長することを指す)期限内に権利が主張できなかつたことについて正当な理由が
あると認められる場合の納税者の立場を保護するため、後発的事由により期限の特
例が認められる場合を拡張し、課税要件事実について、申告の基礎となつたものと
異なる判決があつた場合その他これらに類する場合を追加するものとする」と述べ
られている趣旨にも合致するものである。
3 そこで、本件についてこれをみるに、前記一の事実関係によれば、前訴本件青
色申告取消処分等の取消訴訟の上告審において、被告がその上告を取り下げたこと
により原告勝訴の第一審判決が確定したこと、そこで原告は、本件係争年度につい
ても青色申告法人であつたことになつたとして、右上告取下書の送達を受けた日の
翌日である昭和四九年八月二〇日から二か月以内である同年一〇月一八日、白色申
告扱いによる更正処分の是正を求める本件更正の請求をしたことは明らかであり、
成立に争いのない甲第一号証の一及び二によれば、被告は、本件更正の請求は、通
則法二三条二項一号にいう計算の基礎となつた事実が、当該計算の基礎としたとこ
ろと異なる場合には該当しない旨の理由により(併せて、法人税法八二条の更正の
請求としても認められない旨付記されている)、本件処分をしたことが認められ
る。
そうすると、原告の本件更正の請求は、通則法二三条二項一号に基づくものとして
適式なものであつたと認められ(上訴の取下の場合には、取下のあつたことの通知
を受けた日の翌日から二か月以内は更正の請求をすることができると解すべきであ
る。)、本件更正の請求が同号に該当しないとしてなされた被告の本件各処分は、
いずれも違法であり、取消を免れないといわなければならない。
4 なお、原告は、本件更正の請求が認められる根拠法条として、異議申立以降本
訴に至るまで法人税法八二条を主張し、被告も本訴においては右原告の主張に応答
する形で、同条には該当しない旨のみ主張するところであるが、通則法二三条二項
の更正の請求は、法人税法八二条の更正の請求に対し、一般的原則及び手続を定め
た関係に立ち、また、原告において主張する更正の請求を求める事実関係にも何ら
の変動はないこと、前記三3認定のとおり、本件処分の理由は、本件更正の請求が
通則法二三条二項一号の事由に該当しないということであり、併せて法人税法八二
条にも該当しない旨付記されていること、被告の本訴における主張は、本件のよう
な場合、更正の請求は一切認められず、その更正処分ごとに別途不服申立及び訴訟
を行うべきであるというのであり、通則法二三条二項にも該当しない旨の判断を前
提としてなされていると認められること等の事情を考慮すれば、裁判所としては、
当事者の根拠法条の点に関する法律的主張に拘束されずに本件処分の適否を判断す
ることができ、かつ、それによつて当事者に著しく不利益を与えるものではない。
四 1なお、以上の争点から派生する争点として、本件のような更正の請求を認め
るとき、青色申告承認取消処分の取消訴訟が長期に亘れば、その間所得額等の認定
資料の散逸という事態が起きることが十分考えられ、被告が更正の請求に応ずると
しても、対象金額が不明となる可能性がある。
この点に関し、原告は、青色申告承認取消処分の取消により、右処分を前提とする
白色申告扱いの更正処分が違法・無効となり、原告の確定申告の効力が復活すると
して、青色申告を要件としない加算金額があれば、被告において主張立証すべきで
あり、これが不能であるならば、原告の申告を基本として更正の請求に対する減額
の処分をすべきである旨主張する。しかしながら、前記三2のとおり、青色申告承
認の取消処分と、右処分を前提としてなされた白色申告扱いの更正処分とは、別個
の処分であり、青色申告承認取消処分が取り消されても、更正処分が瑕疵のあるも
のに変ることなく、所定の手続を経過すれば確定しているのであるから、原告の右
主張は左袒できない。
2 しかしながら、更正処分が形式的に確定しているとはいえ、青色申告承認取消
処分の取消があつたことを後発的理由として更正の請求を認め、白色申告扱いの更
正処分による税額と青色申告による税額との差額分について減額を認めるというこ
とは、実質的にみれば、右白色申告扱いの更正処分のない状態に戻し、原告に青色
申告者としての特典を享受させるということを意味するのであるから、請求の対象
金額につき、原告の確定申告と異なる点は、被告において主張立証すべきであると
解するのが相当である。また、このように解しても、本件更正の請求を認めること
に不合理なところはない。
3 そして、右更正請求の対象金額については、まず行政庁の処分により決定され
るものであるから、この点について判断するまでもなく、被告の本件処分を取り消
すこととする。
五 よつて、原告の本訴請求は、理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担に
つき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 早瀬正剛 大内捷司 柴田寛之)

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