弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を取消す。
     被控訴人の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は本件控訴を棄却する。控訴
費用は控訴人の負担とするとの判決を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述は控訴代理人において控訴人は訴外Aから本件宅地の
賃借権の譲渡(従前の地上権譲受の主張は撤回する)を受け該譲渡につき被控訴人
の承諾を得たものであるが、仮りにその承諾を得られなかつたとするも罹災都市借
地借家臨時処理法第四条の適用により被控訴人の承諾を得られたものである。即ち
控訴人と右Aとの間に昭和二十一年八月六日本件宅地の賃借権譲渡契約が締結され
たが右は同処理法施行以前の合意に因るものではあつても同法第三条所定の手続を
経て借家人が取得した権利と同様であり、控訴人の既に有する借地権は同法の施行
後も有効に存在しているのであるから同法施行により新に借地権を取得する必要な
く、従て同法第三条所定の申出をする必要もなく同法第四条の保護を受くべきこと
が当然である。若し同条の適用あるためには同法第三条の申出を経なければならな
いものとすれば控訴人は前記借地権譲渡契約に基き譲渡代金を三回に分割払をなし
最後の分は昭和二十二年三月金四千二百五十円をAに支払つているから右代金支払
の行為は同人に対する借地権譲渡の申出に関する表意を当然に含んでいるので此の
際右申出をなしたことになる。而して右譲渡を受けたことの通知は当時控訴人より
口頭で数回被控訴人に申出でているが少くとも昭和二十二年三月十一日借地権届書
(乙第四号証)に被控訴人の承印を受けたときになされていると述べ、被控訴代理
人において右主張事実を否認なる。控訴人がAとなしたと云う借地権譲渡契約書
(乙第二号証)によれば該譲渡は被控訴人の承諾を得べきことを条件とせるもので
被控訴人はこれを承認していないから該譲渡は効力を生じていない。尚乙第四号証
の土地借地権届は転貸人欄に何等記載なく単に借地人としてAの記名ある借地届書
を持参して承印を求めた為被控訴人は安心して承印したもので後から控訴人が勝手
に転貸人欄に記名捺印して市役所に届出でたものであると述べた外は何れも原判決
の事実摘示と同一なのでここにこれを引用する。
 立証として被控訴代理人は甲第一乃至第十六号証(甲第九号証は一、二)を提出
し、原審並当審証人B(原審第一、二回)、C(原審第一、二回)、当審証人Dの
各証言を援用し、乙第三号証の一、二の成立は不知なるも爾余の乙号各証の成立を
認め乙第二号証、第七号証の三を援用すると述べ、控訴代岬人は乙第一、二号証、
第三号証の一、二、第四、五、六号証、第七号訂の一、二、三、第八号証を提出
し、原審証人D、E、F、原審並に当審証人B(原審第二回)、C(原審第二
回)、G、当審証人H、Iの各証言、原審控訴本人訊問の結果を援用し、甲第三号
証の成立は不知かるも爾余の甲号各証の成立を認め、甲第一、二号証、第六、七号
証を援用すると述べた。
         理    由
 呉市ab丁目c番地のd宅地三十三坪八合一勺が被控訴人の所有であること、並
に該土地ははじめ同所c番地宅地二百九十四坪二合九勺の一部であつたが分割によ
り同番地の二宅地四十二坪六合二勺となり更に土地区劃整理による換地処分の結果
三十三坪八合一勺に減地されたものであることは当事者間に争なく、控訴人が現に
該宅地を占拠して家屋を建築せんとしていることは控訴人の明かに争わないとヒろ
であるからこれを自白したものと看做す。而して成立に争のない甲第二号証に原審
証人B(第一回)の証言と本件弁論の全趣旨を綜合すれば被控訴人は昭和十四年十
月二十一日訴外A及びJを連帯借主として同所c番地の宅地五十五坪二合二勺(本
件土地を含む)を被控訴人主張の約旨で同人等に賃貸したが右Jは戦災後行方不明
になり以後は右Aが単独で借主となつていた事実が認められ右認定を左右するに足
る証拠はない。
 仍て先づ控訴人はAから本件宅地の賃借権を譲り受け該譲渡につき被控訴人の承
諾を得た旨主張するので考えてみると成立に争のない乙第二号証、第四号証に原審
並当審証人G、Cの各証言、原審控訴本人訊問の結果を綜合すれば控訴人は今時戦
争中本件宅地上のA所有の三階建家屋総建坪百五十坪の建物の一部を借り受けて住
んでいたが該家屋は戦災で焼失したので終戦後右焼跡に家屋を建築なる目的で昭和
二十一年八月六日Aから地上権譲渡契約の名目の下に本件宅地を含む五十五坪二合
二勺の土地の賃借権を金一万三千円で譲受ける契約を締結し、右譲渡金受領後はA
において地主との間に控訴人名義の借地契約ができるよう斡旋すること等を約し、
右約言に従て控訴人は代金を三回に分割払をなし最後の分は昭和二十二年三月始め
金四千二百五十円を支払つたが右Aにおいては約旨に反し被控訴人に交渉して控訴
人に直接賃貸するよう斡旋することをしないでいる中、同月十一日呉市の区劃整理
の為借地権の届出の必要があり、控訴人は借地権届書を書き前記借地権譲渡契約書
を添付して被控訴人に提出してAに賃貸すること相違なき旨の承印を得てこれを市
役所に届出て受理されたこと、その後控訴人は核宅地上に家屋を建築する為その建
築届に被控訴人の承印を受けようとして被控訴人に屡々交渉したが同人は右賃借権
の譲渡につき承諾を与えず従て建築届にも承印をしなかつた事実が認められ右認定
に反する部分の控訴本人の供述は信用し難く他に右認定を左右するに足る証拠はな
い。被控訴人は右賃借権譲渡契約は被控訴人の承諾を条件としているから被控訴人
が承諾を与えない以上該譲渡契約は効力を生じないと主張しているがなる程前記乙
第二号証の契約書中に若し地主が控訴人に借地権を与えない場合はAにおいて譲渡
代金を返還すべき義務があると云う条項があるが右は契約書の全文及び本件口頭弁
論の全趣旨から見ても地主が承諾しない場合は折角借地権を譲渡しても実効がなく
なる虞があるから譲受人に解除権を留保し該解除権を行使した際はAにおいて譲渡
代金を返還する趣旨であつて譲渡契約につき解除条件を附したものではないと解さ
れるから右主張は採用できない。又被控訴人は右乙第四号証の土地借地権届の転貸
人欄の控訴人の記名捺印は後から控訴人が勝手にしたものであると主張するが該事
実を認めるに足る何等の証拠はない。只右乙第四号証によると被控訴人が控訴人の
土地借地権届に承印はしているが右は前記認定のようにAに賃貸せること相違なき
旨の承印であつてAが控訴人に対し賃借権を譲渡したことを承認した趣旨でないこ
とは成立に争のない甲第六、七号証や原審並に当審証人Bの各証言に対比して明白
であるから右乙第四号証は被控訴人が右賃借権譲渡につき承諾を与えた証左とはな
し難い。
 然しながら此の点につき控訴人は罹災都市借地借家臨時処理法弟三条第四条によ
り当然被控訴人の承諾があつたものと看做さるべき旨主張するので考えてみると、
前段認定のように控訴人が戦時中本件土地上に在つた該土地賃借人A所有の家屋を
賃借している中戦災に遭ひ、終戦後右焼跡に家屋を建築せんとして同法施行前であ
る昭和二十一年八月六日右Aとの間に本件宅地の賃借権譲渡契約を締結し、同年九
月十五<要旨>日同法が施行されその後昭和二十二年三月右譲渡代金が完済されてい
る。同法第三条に所謂賃借権譲渡の申出をなし他の者に優先して相当な対価
で右賃借権を譲受けることができると云う場合には賃借権者が相当の対価で譲渡す
ることを承諾した場合を含むこと勿論であるから本件のように同法施行期間中であ
る昭和二十二年三月に譲渡代金を支払つて契約が履行された場合には該譲渡の合意
は同法施行後も有効に存続していることが明白で同法第三条が認める譲渡と何等差
異がないから同法第四条により該譲渡について賃貸人の承諾があつたものと看做さ
れると解するのが相当である。而して前示のように控訴人が昭和二十二年三月十一
日土地借地権届書に借地権譲渡契約書を添付して被控訴人の承印を受けた際には少
くとも賃借権譲受の事実を賃貸人に対し通知したことになるから同法第四条所定の
手続を了したもので控訴人は被控訴人の承諾を得て賃借権を完全に譲受けたものと
謂わねばならない。
 被控訴人は昭和二十三年九月十四日Aが被控訴人の承諾を得られないから譲渡不
可能として右譲渡契約を解除したと主張するが前段認定のように同法によつて被控
訴人の承諾は同法施行の日たる昭和二十一年九月十五日に得られたことになるから
仮にその主張のような意思表示がなされたとするも譲渡契約解除の効力は生じな
い。
 然らば控訴人が本件宅地を占有しているのは右賃借権に基くもので決して不法占
拠でないから被控訴人の本訴請求は爾余の争点を判断する迄もなく失当でこれを棄
却すべきものである。右と見解を異にしてこれを認容した原判決は取消を免れない
から民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条を適用して主文のとおり
判決した。
 (裁判長裁判官 植山日二 裁判官 佐伯欽治 裁判官 松本冬樹)

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