弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

判決言渡平成19年11月29日
平成18年(行ケ)第10503号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成19年10月25日
判決
原告三菱電機株式会社
訴訟代理人弁護士近藤惠嗣
同丸山隆
訴訟代理人弁理士高橋省吾
同伊達研郎
被告特許庁長官
肥塚雅博
指定代理人深澤幹朗
同長馬望
同関義彦
同山本章裕
同内山進
被告補助参加人フジテック株式会社
訴訟代理人弁護士阪口春男
同岩井泉
同西山宏昭
同白木裕一
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が訂正2006−39060号事件について平成18年10月5日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が有し発明の名称を「エレベーター装置」とする後記特許につ
いて,原告が平成18年4月26日付けで訂正審判請求をしたところ,特許庁
が,訂正後発明は進歩性を欠き,かつ訂正は実質上特許請求の範囲を変更する
ものであるとして請求不成立の審決をしたことから,原告がその取消しを求め
た事案である。
本件の争点は,上記進歩性の有無と訂正が実質上特許請求の範囲を変更する
ものであるかどうかである。
なお,原告が有する後記特許については,原告が被告補助参加人に対して,
同特許権等に基づいてエレベータの製造販売等の差止めと特許権侵害を理由と
する損害賠償を求める訴訟を提起し,同訴訟について,東京地裁は平成18年
12月26日に請求棄却の判決をしており,これに対し原告が控訴したことか
ら,その控訴事件が当庁に係属している(平成19年(ネ)第10005号事
件)。
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,平成11年12月6日,名称を「エレベーター装置」とする発明
について特許出願(特願2001−543429号)をし,平成15年11
月7日,特許第3489578号として設定登録を受けた(請求項の数3,
以下「本件特許」という。特許公報は甲8)。
その後原告は,本件特許について,平成16年11月12日付けで訂正審
判請求(訂正2004−39258号事件)をしたところ,平成17年2月
8日付けでそれを認める審決(第1次訂正審決。甲10)がなされて確定し
た。
さらに原告は,本件特許について,平成18年4月26日付けで訂正審判
請求(以下この訂正を「本件訂正」という。丙5)をしたところ,特許庁は
これを訂正2006−39060号事件として審理した上,平成18年10
月5日,平成18年8月8日付けでなされた審判請求書の補正(補正後の訂
正明細書は甲9)を認めた上,「本件審判の請求の成り立たない。」との審
決をし,その謄本は平成18年10月17日原告に送達された。
(2)本件訂正の内容
本件訂正審判請求の内容は,特許請求の範囲の減縮等を目的として,その
【請求項2】等を訂正しようとするものであるが,その詳細は以下のとおり
である。
ア本件訂正前の特許請求の範囲【請求項2】(平成17年2月8日の第1
次訂正審決後のもの。甲10)
「昇降路内を昇降し,乗降口を有するとともに吊り車が設けられたかご
と,
前記かごと反対方向に前記昇降路内を昇降し,該昇降路の平断面におい
て前記乗降口に対して前記かごの側方に配置され,吊り車が設けられたカ
ウンターウェイトと,
前記かごの水平方向の移動を規制するかご用ガイドレールと,
前記カウンターウェイトの水平方向の移動を規制するカウンターウェイ
ト用ガイドレールと,
前記かごを前記かごの吊り車を介して懸架するとともに前記カウンター
ウェイトを前記カウンターウェイトの吊り車を介して懸架するロープと,
前記昇降路内に配置され,当該ロープが巻き掛けられた綱車及び該綱車
を駆動するモータ部を有し,前記綱車を回転させることで前記ロープを介
して前記かごおよび前記カウンターウェイトを昇降させる巻上機と,
前記昇降路内に配置され,前記巻上機の綱車から前記かごの吊り車に至
る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第1の返し車と
を有するエレベーター装置において,
前記巻上機は,前記綱車の回転軸方向の外形寸法が前記回転軸に対して
垂直な方向の外形寸法よりも小さく,前記昇降路の平断面において前記カ
ウンターウェイト及び前記かごとは離れて前記カウンターウェイトが配置
された前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に平行にかつ前記カウ
ンターウェイトと前記昇降路の壁面に沿って並んで配置され,前記昇降路
の最下階停止時のかご床面より上方でかつ最上階停止時のかご天井より下
方に位置し,
前記第1の返し車は,前記巻上機より上方に位置し,前記平断面におい
て,前記巻上機の少なくとも一部と重なるよう配置され,
前記第1の返し車の回転面は,前記昇降路の平断面において前記ロープ
が前記かごの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側よ
り前記乗降口から遠ざかる方向に位置して近接する前記昇降路の壁面に対
して傾斜していることを特徴とするエレベーター装置。」
イ本件訂正後の特許請求の範囲【請求項2】(以下「訂正発明」という。
下線部が訂正部分。二重下線はその後の補正部分。丙5,甲9)。
「昇降路内を昇降し,乗降口を有するとともに吊り車が設けられたかご
と,
前記かごと反対方向に前記昇降路内を昇降し,該昇降路の平断面におい
て前記乗降口に対して前記かごの側方に配置され,吊り車が設けられたカ
ウンターウェイトと,
前記かごの水平方向の移動を規制するかご用ガイドレールと,
前記カウンターウェイトの水平方向の移動を規制するカウンターウェイ
ト用ガイドレールと,
前記かごを前記かごの吊り車を介して懸架するとともに前記カウンター
ウエイトを前記カウンターウェイトの吊り車を介して懸架するロープと,
前記昇降路内に配置され,当該ロープが巻き掛けられた綱車及び該綱車
を駆動するモータ部を有し,前記綱車を回転させることで前記ロープを介
して前記かごおよび前記カウンターウェイトを昇降させる巻上機と,
前記昇降路内に配置され,前記巻上機の綱車から前記かごの吊り車に至
る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第1の返し車
と,
前記昇降路内に配置され,前記巻上機の綱車から前記カウンターウェイ
トの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する
第2の返し車とを有するエレベーター装置において,
前記巻上機は,前記綱車の回転軸方向の外形寸法が前記回転軸に対して
垂直な方向の外形寸法よりも小さく,前記昇降路の平断面において前記カ
ウンターウェイト及び前記かごとは離れて前記カウンターウェイトが配置
された前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に平行にかつ前記カウ
ンターウェイトと前記昇降路の壁面に沿って並んで配置されるとともに前
記綱車が前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に対向し,前記モー
タ部が前記かご側に対向して,該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止
時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し,
前記第1の返し車は,前記巻上機より上方に位置し,前記平断面におい
て,前記かごの吊り車に至る前記ロープが前記かごと前記巻上機との間を
通るように,前記巻上機の綱車から前記かごと前記巻上機との間へ向けて
前記モータ部を横切って前記モータ部と重なるよう配置され,
前記第1の返し車の回転面は,前記昇降路の平断面において前記ロープ
が前記かごの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側よ
り前記乗降口から遠ざかる方向に位置して近接する前記昇降路の壁面に対
して傾斜し,
前記第2の返し車の回転面は,前記昇降路の平断面において,近接する
前記昇降路の壁面に対して,前記ロープが前記カウンターウェイトの吊り
車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記かごに近づ
く方向に傾斜し,前記巻上機の綱車は,前記カウンターウェイトの吊り車
よりも近接する前記昇降路の壁面側に位置していることを特徴とするエレ
ベーター装置。」
(3)審決の内容
ア審決の内容は,別添審決写しのとおりであり,その理由の要点は,次の
とおりである。
(ア)訂正発明は,下記の各文献に記載された発明及び技術事項並びに周
知技術に基づいて容易に発明することができたから,特許法29条2項
により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

・特開平11−130365号公報(平成11年5月18日公開。甲
1。以下「刊行物1」といい,これに記載された発明を「刊行物1発
明」という。)
・ドイツ国特許出願公開第19752232号明細書(甲2,丙3。以
下「刊行物2」といい,これに記載された発明を「刊行物2発明」と
いう。)
・特開平9−165172号公報(甲3。以下「刊行物3」といい,こ
れに記載された発明を「刊行物3発明」という。)
・特開平11−301950号公報(平成11年11月2日公開。甲
4。以下「刊行物4」といい,これに記載された発明を「刊行物4発
明」という。)
・特開平11−310372号公報(平成11年11月19日公開。甲
7,丙9)
(イ)訂正発明において,「前記かごの吊り車に至る前記ロープが前記
かごと前記巻上機との間を通るように」して,「該巻上機の下端は前
記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方
に位置し」た点は,実質上特許請求の範囲を変更するものであるか
ら,特許法126条4項により許されない。
イなお,審決は,訂正発明と刊行物1発明との一致点,相違点を次のとお
り認定している。
〈一致点〉
「昇降路内を昇降し,乗降口を有するとともに吊り車が設けられたかご
と,
前記かごと反対方向に前記昇降路内を昇降し,該昇降路の平断面にお
いて前記乗降口に対して前記かごの側方に配置され,吊り車が設けられ
たカウンターウェイトと,
前記かごの水平方向の移動を規制するかご用ガイドレールと,
前記カウンターウェイトの水平方向の移動を規制するカウンターウェ
イト用ガイドレールと,
前記かごを前記かごの吊り車を介して懸架するとともに前記カウンタ
ーウェイトを前記カウンターウェイトの吊り車を介して懸架するロープ
と,
前記昇降路内に配置され,当該ロープが巻き掛けられた綱車及び該綱
車を駆動するモータ部を有し,前記綱車を回転させることで前記ロープ
を介して前記かごおよび前記カウンターウェイトを昇降させる巻上機
と,
前記昇降路内に配置され,前記巻上機の綱車から前記かごの吊り車に
至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第1の返し
車と,
前記昇降路内に配置され,前記巻上機の綱車から前記カウンターウェ
イトの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換
する第2の返し車とを有するエレベーター装置において,
前記巻上機は,前記昇降路の平断面において前記カウンターウェイト
及び前記かごとは離れて前記カウンターウェイトが配置された前記かご
の側方に位置する前記昇降路の壁面に平行にかつ前記カウンターウェイ
トと前記昇降路の壁面に沿って並んで配置されるとともに前記綱車が前
記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に対向し,前記モータ部が前
記かご側に対向し,
前記第1の返し車は,前記巻上機より上方に位置し,前記平断面にお
いて,前記モータ部と一部重なるよう配置され,
前記第1の返し車の回転面は,前記昇降路の平断面において近接する
前記昇降路の壁面に対して傾斜しているエレベーター装置。」である
点。
〈相違点1〉
訂正発明においては「前記綱車の回転軸方向の外形寸法が前記回転軸
に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さ」い巻上機であるのに対し,
刊行物1発明では,「トラクションマシン1全体の軸長を短くしたトラ
クションマシン1」である点。
〈相違点2〉
訂正発明においては,巻上機は,「該巻上機の下端は前記昇降路の最
下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し」てい
るのに対し,刊行物1発明では,トラクションマシン1は,「昇降路2
5の下部に位置して」いる点。
〈相違点3〉
訂正発明においては,「前記第1の返し車は,前記巻上機より上方に
位置し,前記平断面において,前記かごの吊り車に至る前記ロープが前
記かごと前記巻上機との間を通るように,前記巻上機の綱車から前記か
ごと前記巻上機との間へ向けて前記モータ部を横切って前記モータ部と
重なるよう配置され」ているのに対し,刊行物1発明では,「頂部プー
リ27Aは,トラクションマシン1より上方に位置し,昇降路25の平
断面において,乗かご28の第1及び第2のかご下プーリ29A,29
Bに至るロープ26が乗かご28の対角線端部近傍を通るように,トラ
クションマシン1のシーブ5から乗かご28の対角線端部近傍へ向けて
同期モータ7と一部重なるように配置され」ている点。
〈相違点4〉
訂正発明では,「前記第1の返し車の回転面は,前記昇降路の平断面
において前記ロープが前記かごの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車か
ら巻き掛けられる側より前記乗降口から遠ざかる方向に位置して近接す
る前記昇降路の壁面に対して傾斜している」のに対して,刊行物1発明
では,「頂部プーリ27Aの回転面は,昇降路25の平断面においてロ
ープ26が乗かご28の第1及び第2のかご下プーリ29A,29Bへ
至る側がトラクションマシン1のシーブ5から巻き掛けられる側よりド
ア35に近づく方向に位置して近接する左側昇降路壁面に対して傾斜し
ている」点。
〈相違点5〉
訂正発明では,「前記第2の返し車の回転面は,前記昇降路の平断面
において,近接する前記昇降路の壁面に対して,前記ロープが前記カウ
ンターウェイトの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられ
る側より前記かごに近づく方向に傾斜し,前記巻上機の綱車は,前記カ
ウンターウェイトの吊り車よりも近接する前記昇降路の壁面側に位置し
ている」のに対して,刊行物1発明では,「頂部プーリ27Bの回転面
は,左側昇降路壁面に平行となっている」点。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決には,独立特許要件についての判断を誤り(取消事由
1∼5),かつ実質上特許請求の範囲を変更するものであると判断した誤り
(取消事由6)があるから,審決は違法として取り消されるべきである。
ア取消事由1(訂正発明と刊行物1発明を対比することの誤り)
(ア)訂正発明の構成とその効果
a訂正発明は,訂正明細書(甲9)の記載から明らかなとおり,「昇
降路内の不使用空間の発生を極力押さえ,巻上機の温度上昇による故
障を押さえ,昇降路への冠水に対して巻上機の損傷が無く,また点検
時の予期せぬかごの上昇に対する防護手段の必要を無からしめるこ
と」を目的とした発明であり,その構成は,上記目的を達成するため
に以下の特徴点を有する。
①巻上機は,綱車の回転方向の外形寸法が回転軸に対して垂直な方
法の外形寸法よりも小さい。
②巻上機の下端は昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつ
かご天井より下方に位置している。
③巻上機が昇降路の平断面図においてカウンターウェイト及びかご
とは離れてカウンターウェイトが配置されたかごの側方に位置する
昇降路の壁面に平行にかつカウンターウェイトと昇降路の壁面に沿
って並んで配置されている。
④巻上機の綱車がかごの側方に位置する前記昇降路の壁面に対向
し,モータ部がかご側に対向している。
⑤第1の返し車は,巻上機より上方に位置し,昇降路の平断面にお
いてかごの吊り車に至るロープがかごと巻上機との間を通るよう
に,巻上機の綱車からかごと巻上機との間へ向けてモータ部を横切
ってモータ部と重なるように配置され,第1の返し車の回転面は昇
降路の平断面においてロープがかごの吊り車へ至る側が巻上機の綱
車から巻き掛けられる側より乗降口から遠ざかる方向に位置して近
接する前記昇降路の壁面に対して傾斜している。
⑥第2の返し車の回転面は,昇降路の平断面において近接する昇降
路の壁面に対して,ロープがカウンターウェイトの吊り車へ至る側
が巻上機の綱車から巻き掛けられる側よりかごに近づく方向に傾斜
し,巻上機の綱車はカウンターウェイトの吊り車よりも近接する昇
降路の前記壁面側に位置している。
b訂正発明は,上記①ないし⑥の特徴点により,次のような効果を有
する。
(a)昇降路の高さ方向の不使用スペースの縮減
訂正発明は,上記aの①及び②の特徴点を有することにより,巻
上機を配置するための機械室を設ける必要が無いため,昇降路の高
さ方向の縮減が図れ,しかも,昇降路の冠水に対して巻上機の損傷
がないという効果を併せ持つ。すなわち,訂正発明は,上記aの①
の特徴点により巻上機を昇降内でかごが昇降する高さの範囲内に配
置することを可能とし,上記aの②の特徴点により,昇降路のピッ
トが冠水した場合にも巻上機の損傷を防ぐことができるという効果
を有する。
(b)昇降路の平断面での幅方向の不使用スペースの縮減(1)
訂正発明は,上記aの①∼③の特徴点を有することにより,かご
の昇降過程において,巻上機の綱車から第1の返し車に至るロープ
とかごは反対方向に移動する。
エレベーター装置においては実際の製品として成立するためには
安全性の確保も重要となるところ,反対方向に移動する物同士の間
には,移動する物と静止物との間の安全距離に比べて,干渉した場
合の影響が大きいため,大きな安全距離が必要となる。
そこで,訂正発明は,上記安全距離の確保をも考慮して,しかも
昇降路平断面の幅方向の不使用スペースの縮減を図るため,上記a
の④の特徴点を備えている。すなわち,巻上機の綱車を,かごとは
離れてカウンターウェイトが配置されたかごの側方に位置する昇降
路の壁面に対向させることにより,巻上機から第1の返し車へのロ
ープが,かごに対して充分な安全距離を保つことができる。一方,
巻上機の綱車を該壁面に対向させたことにより,該壁面とロープと
の安全距離を考慮する必要があるが,この場合,移動物であるロー
プと静止物である昇降路壁との間の安全距離は,反対方向に移動す
る物同士の安全距離に比べて小さくでき,結果として,昇降路の幅
方向の大きさの縮減を図ることができる。
したがって,訂正発明は,上記aの①∼④の特徴点を有すること
により,昇降路の幅を大きくすることなく,巻上機から第1の返し
車へのロープとかごの安全距離を保つことを可能とし,結果として
昇降路の平断面での幅方向の不使用スペースを縮減することができ
る。
なお,被告補助参加人は,別紙「参考図面1」に基づき,訂正発
明において「昇降路の幅方向の長さの縮減」が図られていないと主
張する。しかし,参考図面1の【図2】は,カウンターウェイトと
巻上機が並んで配置されていないから,訂正発明とは異なるもので
ある。またカウンターウェイトと巻上機が並んで配置されている構
成において,Eに相当する距離(巻上機とかごの距離)は,移動物
と固定物との間の最低限の安全距離S1の2倍に,カウンターウェ
イトの厚さの半分の(d/2)を加えた大きさになる。なぜなら,
カウンターウエイトとかごは上下に移動し,互いにすれ違うから,
カウンターウエイトのかご側の面とこれと対向しているかごの壁面
との安全距離は,移動物と固定物との間の最低限の安全距離S1の
2倍となるからである。これに対し,同図面において,CとDは,
S1と同程度であるから,C+D<E+Fとなるのであって,訂正
発明において「昇降路の幅方向の長さの縮減」が図られている。
(c)昇降路の平断面での奥行き方向の不使用スペースの縮減
訂正発明は,上記aの⑤の特徴点を有することにより,昇降路の
平断面において,第1の返し車が巻上機の乗降口側の端部よりも乗
降口側に張り出すことが無く,巻上機を乗降口側に寄せて配置する
ことが可能となるため,昇降路の平断面での奥行き方向の不使用ス
ペースを縮減することができる。
(d)昇降路の平断面での幅方向の不使用スペースの縮減(2)
訂正発明は,上記aの②及び⑤の特徴点を有するため,巻上機と
かごがすれ違う間の空間に第1の返し車からかごの吊り車に至るロ
ープが通るという構成になり,第1の返し車からかごの吊り車に至
るロープが振れることにより巻上機と接触することを避けるために
ロープと巻上機の間の安全距離を確保する必要が生ずるが,訂正発
明は,この点を,まず上記aの②の特徴点の巻上機を最下階停止時
のかご天井より下方に位置することにより,かごが最下階付近にあ
る場合のみかごの吊り車に近いロープが巻上機とかごの間を通るこ
ととし,その結果巻上機のモータ部とかごの間隔を小さくすること
を可能にしている。
次に,かごとは離れてカウンターウェイトが配置されたかごの側
方に位置する昇降路の壁面に対して静止している構成をとる巻上機
を当該壁面に近づけて,巻上機とかごの距離を確保する一方で,上
記aの⑥の特徴点の,第2の返し車の回転面が,ロープがカウンタ
ーウェイトの吊り車に至る側が巻上機の綱車から巻き掛けられる側
よりかごに近づく方向に傾斜させることにより,巻上機の綱車を当
該壁面に近接させることを可能とし,昇降路の平断面での幅方向の
不使用スペースを縮減するという効果を有している。
なお,被告補助参加人は,「原告が主張する特徴点⑥を採用する
ことによって,『昇降路平断面の幅方向を縮減する』ことを発明の
作用効果に掲げることは,昇降路の幅方向におけるカウンターウェ
イトと巻上機との位置関係が特定されて初めて奏することができる
作用効果である」旨主張しているが,一般的なカウンターウェイト
の厚みを前提とする限り,訂正発明の効果は奏されるのであるか
ら,同参加人が主張する上記の点を特定する必要はない。
(e)昇降路全体の不使用スペースの縮減
以上のように,訂正発明は,上記aの①∼⑥の特徴点すべてを有
することによって初めて,昇降路全高(高さ方向,平断面の幅方向
・奥行き方向)にわたる不使用空間を縮減するという効果が達成さ
れるものであり,いずれかの方向における不使用スペースの縮減だ
けでなく,全方向において同時に不使用スペースの縮減を達成でき
るものであり,ここに訂正発明の最大の主眼がある。
訂正発明は,エレベータ装置としての様々な技術的観点から充分
な考察を加え,昇降路全高の不使用空間の縮減という技術的課題を
考察した結果,上記aの①∼⑥の特徴点を見い出したものであっ
て,これらの特徴点は,昇降路全高に渡る不使用空間縮減のため
に,有機的に関連しており,個々の特徴点それぞれでは達成できな
い効果を,これらの特徴点すべてが相乗的に作用することによって
達成している。
(イ)刊行物1発明
刊行物1発明は,刊行物1(甲1)の段落【0007】に「本発明の
目的は,トラクションマシンに対してブレーキとモータの影響をなく
し,かつトラクションマシンの組立,分解が容易に行い得るエレベータ
装置を提供することにある。」と記載されているように,訂正発明の巻
上機に相当するトラクションマシンの組立,分解を容易にすることが主
目的であり,訂正発明とは解決しようとする技術的課題が異なり,その
解決方法も異なる。
審決は,「…刊行物1には,『平断面での幅方向,奥行き方向のそれ
ぞれについて,不使用空間を縮減するとともに,昇降路全体を小さくす
る』という技術事項…が示されている。」と判断している(16頁下6
行∼下3行)。しかし,刊行物1(甲1)の図6に記載の実施例におい
て,奥行き方向に向かって並べて配置されているカウンタウェイトとト
ラクションマシンを,幅方向に並べれば(図7参照),「奥のスペース
の奥行きが小さくでき」,次に,乗かごの奥に配置していたカウンタウ
ェイトとトラクションマシンを乗かごの横に配置すれば,「奥行きが小
さく,横幅が大きくなる」という至極当然のことが記載されているにす
ぎず,訂正発明における不使用空間の減縮という思想とは全く異なるも
のである。特に,刊行物1の図8の実施例では,昇降路の横幅方向は余
裕がある構成が示されており,訂正発明のように,昇降路全高(高さ方
向,平断面での幅方向・奥行き方向)にわたる不使用空間の減縮という
思想は全く示されておらず,これを示唆する記載もない。
(ウ)審決は,刊行物1発明をもとに訂正発明との対比を行っているが,
上記のとおり,刊行物1発明は,訂正発明とは全く異なるものであっ
て,訂正発明と対比できるものではない。
イ取消事由2(相違点2についての判断の誤り)
審決は,「…刊行物2記載の発明には,『かごと,カウンタウェイト
と,巻上機と,かご用ガイドレール及びカウンターウェイト用ガイドレー
ルと,かごをかごの吊り車を介して懸架するとともにカウンターウェイト
を懸架するロープとを備え,昇降路の平断面において,乗降口に対してか
ごの側方にカウンターウェイトと巻上機は並んで配置されたエレベーター
装置において,巻上機を昇降路内の任意の階層の支持台上に配置し,第1
の返し車は,巻上機より上方に位置し,かごの下方に配置されたかご用吊
車に至るロープが,かごと支持台との間を通るように配置され,第1の返
し車の回転面は,ロープがかごのかご用吊車へ至る側が綱車から巻きかけ
られる側より乗降口から遠ざかる方向に位置して,近接する昇降路の壁面
に対して傾斜しているエレベーター装置』なる技術思想(以下,「技術思
想1」という。)が示されている。」(28頁下12行∼下1行)とし,
さらに,「…エレベーター装置において,ピットが冠水した場合の被害防
止のために電子機器等を最下階の床面より上方に設置することは周知技術
にすぎない。(特開平8−81154号公報の段落0015等。特開平8
−277081号公報の電源部11。)さらに,エレベーター装置におい
て,保守点検のために駆動装置を昇降路の一階(最下階)付近に設けるこ
とは,特開平11−310372号公報(平成11年11月9日公開。段
落0076)により,既に知られている技術事項(以下,「技術事項A」
という)である。」(29頁下12行∼5行)として,「…刊行物1記載
の発明,技術思想1,上記周知技術,技術事項Aはいずれもエレベーター
装置に関するものであって同一の技術分野に属しており,…巻上機を昇降
路の下部に位置する代わりに,上記相違点2に係る訂正発明のように構成
することは,当業者が容易に想到しうる程度のものと認められる」(30
頁1行∼6行)と判断している。
しかし,この審決の判断は,次のとおり誤りである。
(ア)刊行物2発明の趣旨
刊行物2(甲2)には,「本発明では,昇降路3に"機械室"を組み込
んでいるので,保守,点検,非常時の操作が公知の同様のエレベータに
比べ容易に行えるようになっている。」(訳文3頁の31行∼32行)
と記載され,「当然であるが,コンクリート台9には昇降路3との境に
安全柵(図示していない)を取り付ける。」(原告提出の訳文4頁の1
行∼2行)と記載されているから,刊行物2発明は,昇降路内に機械室
を設けて,保守等を容易にするという目的のもとに,建物の任意の階に
「機械室」の土台としての意味を持つコンクリート台9を設置し,その
上に駆動ユニット11を設置するという発明である。
したがって,コンクリート台を設けた階層において増加した昇降路断
面積がコンクリート台を設けていない階層においても同様に増加する結
果,昇降路平断面において,不使用空間が増大するものであり,昇降路
全高(高さ方向,平断面での幅方向・奥行き方向)の不使用空間の縮減
を技術課題とする訂正発明とは,目的が全く異なる。そして,上記のと
おり,刊行物2により開示されている技術思想は,あくまでも「任意の
階にコンクリート台9を設置し,このコンクリート台上に駆動ユニット
11を設置する」というものであって,「コンクリート台を設置せずに
巻上機を任意の階に設置する。」という技術思想までは全く開示されて
いない。
(イ)刊行物1発明と刊行物2発明における技術思想(技術思想1)を組
み合わせることの困難性
刊行物1発明は,トラクションマシン1を用いることを前提として,
トラクションマシンに対してブレーキとモータの影響を無くし,かつト
ラクションマシンの組立・分解が容易に行いうるエレベータ装置を提供
することという目的のためになされた発明であり,刊行物2発明は,昇
降路内に機械室を設けて,保守等を容易にするという目的のためになさ
れた発明であって,相互に発明の課題及び目的が全く異なるため,そも
そもこれらを組み合わせる動機付けが全く無い。
審決は,刊行物1発明と刊行物2発明における技術思想(技術思想
1)を組み合わせる動機付けについては,「刊行物1記載の発明,及び
技術思想1の両者ともエレベーター装置の昇降路内機器配置に関するも
のであるから,同一の技術分野に属するものであって,その組み合わせ
ないし置換を妨げる理由はない。」(30頁下4行∼下1行)と判断す
るが,単にエレベーター装置といっても様々な技術的効果を目的とする
無数の文献が存在するのであり,同じエレベーター装置に関するもので
あるとの一事をもって,その都合の良い部分を抽出して組み合わせるこ
とが容易であるといえないことは当然のことである。
また,審決は,エレベーター装置においては,明示するまでもなくエ
レベーター占有空間の最小化の狙いを前提とするから,刊行物1発明及
び刊行物2発明における技術思想(技術思想1)の両者ともエレベータ
ー空間の最小化を狙いとするとも認定している(31頁1行∼6行)
が,審決で多用されているエレベーター占有空間の「最小化」という文
言は,刊行物1及び刊行物2のいずれにも記載されていない。原告も,
不使用な空間の発生を押さえるということがエレベーター装置において
重要な技術課題であるということ自体を否定するものではない。しか
し,不要な空間をできるだけ少なくするという一般的な技術課題の存在
のみをもって,昇降路内の不使用空間の発生を押さえるという技術常識
を目的とする点で,刊行物1発明及び刊行物2発明における技術思想
(技術思想1)が一致しているということはできない。
さらに,審決は,「…刊行物2記載の発明は,…別個の機械室…を設
けず巻上機を昇降路内に内蔵する方式であり,エレベーター占有空間の
最小化を狙いとするものである。しかも,…刊行物2記載の発明の昇降
路内機器配置自体にも,平断面での奥行き方向において最小化するとい
う技術思想が,程度の問題は別として,把握できるものである。刊行物
1記載の発明においても同様である。よって,刊行物1記載の発明及び
技術思想1の両者ともエレベーター占有空間の最小化を狙いとするもの
である。」(31頁7行∼16行)と認定しているが,上記(ア)のとお
り,刊行物2発明は,明細書に明示された目的を達成するために,駆動
ユニット(巻上機)を任意の階にコンクリート台を設けてその上に設置
するという構成をとったことにより,昇降路平断面においては,不使用
空間が増大することになるのであり,刊行物1との組み合わせの際に昇
降路平断面を小さくするという目的での動機付けからすれば,刊行物2
自体は積極的に排除すべきものであるといえ,刊行物1発明と刊行物2
発明における技術思想(技術思想1)を組み合わせる動機付けはそもそ
も無いというべきである。
そして,刊行物1(甲1)の段落【0014】には,「フレーム3の
下部は,平で大きな足18が設けられ,これを昇降路床面に固定するこ
とにより,トラクションマシン1が安定して確実に動作するようにして
いる。」と記載され,段落【0027】にも,「トラクションマシン1
を昇降路25のピットに固定し…」と記載されており,図4においても
トラクションマシン1が昇降路の床面に固定されていることから明らか
なとおり,刊行物1のトラクションマシンはピットに固定されているた
めに,かごが最下階にあるときでも,トラクションマシン(巻上機)と
かごは離れていることが前提となっている。したがって,いかに当業者
といえども,刊行物2に記載されているように任意の階にコンクリート
台を設置するということから示唆を受けて,刊行物1に記載されたトラ
クションマシン1を任意の階に配置することまで容易に想到するとは考
えられず,刊行物1発明に刊行物2における技術思想(技術思想1)を
組み合わせることは極めて困難である。
さらに,刊行物1発明は,上記のとおり,昇降路床面にトラクション
1が固定されていることを前提とするものであるから,エレベータ装置
において,ピットが冠水した場合の被害防止のために電子機器等を最下
階の床面より上方に配置することが周知であり,特開平11−3103
72号公報(甲7)に保守点検のために駆動装置を1階付近に設けるこ
とが開示されていたとしても,あえて床面に固定する旨明記されている
トラクションマシン1を昇降路最下階停止時のかご床面より上方でかつ
かご天井より下方に位置させることが,当業者が容易に想到する程度の
ことであるとはいえない。
したがって,原判決は,相違点2についての判断を誤ったものであ
る。
ウ取消事由3(相違点3及び4についての判断の誤り)
審決は,「昇降路内の不使用空間の発生を極力抑えるというのは,刊行
物1記載の技術事項や,刊行物3の…技術事項,本件特許公報2頁4欄8
から10行における記載をみるまでもなくエレベーター装置において技術
常識であり,第1の返し車の回転面を近接する昇降路の壁面に対してどの
ような角度に位置させるかは,そもそも,昇降路の形状・寸法,かごのド
アの出っ張り等のかごの形状・寸法,返し車やカウンターウェイトや巻上
機等の機器の諸寸法・配置等の諸条件を比較考慮して当業者が適宜決定す
べき事項にすぎない。」(30頁8行∼15行),「…刊行物1記載の発
明に技術思想1を適用して,刊行物1記載の発明において,第1の返し車
の回転面を,ロープがかごのかご用吊車へ至る側が綱車から巻き掛けられ
る側より乗降口から遠ざかる方向に位置して,近接する昇降路の壁面に対
して傾斜させることは,技術思想1に基づいて当業者が容易に想到しうる
程度のものである。よって,上記相違点4に係る訂正発明のように構成す
ることは,当業者が容易に想到しうる程度のものと認められ,このように
刊行物1記載の発明を構成すれば,上記相違点3に係る訂正発明のように
構成されることとなり,上記相違点3に係る訂正発明のように構成するこ
とも,当事者が容易に想到しうる程度のものと認められる。」(30頁1
9行∼29行)と判断している。
しかし,技術思想1が記載された刊行物2は,前記イ(ア)のとおり,昇
降路内に機械室を内蔵して保守等を容易にするという設計思想に基づき,
建物の任意の階にコンクリート台を設置するという内容のため,昇降路の
平断面は大きくなることになるものであり,昇降路平断面を小さくすると
いう目的で刊行物1発明に刊行物2記載の返し車の傾斜のみに注目して,
これらを組み合わせる動機付けは存在しない。そして,刊行物2発明は,
かごとかごに対向する物体(コンクリート台)との間にロープが通るよう
に配置されているが,かごと巻上機の隙間にロープを通すことまで示唆さ
れているものではなく,ましてや刊行物2発明は巻上機の綱車がかご側に
対向しており,この点においても訂正発明と異なる。
また,刊行物1発明は,前記イ(イ)のとおり,巻上機(トラクションマ
シン1)が昇降路床面(ピット)に固定されているため,かごが最下階に
あるときでも,巻上機とかごは上下に離れており,刊行物1発明において
は巻上機とかごがすれ違う間の空間にかごの吊り車へ至るロープを通すと
いう課題がそもそも生じない。一方,刊行物2発明には,かごとかごに対
向する物体(コンクリート台)との間にロープが通るように配置されてい
るが,あくまでもコンクリート台の側面とかごの間であり,巻上機とかご
がすれ違う間の空間にかごの吊り車へ至るロープが通るという構成ではな
い以上,刊行物1発明に関して,訂正発明のように巻上機のモータ部を横
切ってかごと巻上機の隙間にロープを通すことに至るまでには相当の創作
過程が存在し,当業者が容易に想到しうる程度のものではない。
審決の相違点4において訂正発明の構成をとることによって,必然的に
相違点3にかかる訂正発明のように構成されることとなる旨の判断は,相
違点2について訂正発明の構成を採らなければ,かごの吊り車に至るロー
プがかごと巻上機の間を通ることにはならないということからも,誤りで
あることは明白である。
したがって,審決は相違点3及び相違点4についての判断を誤ったもの
である。
エ取消事由4(相違点5についての判断の誤り)
審決は,「刊行物4記載の発明には,エレベーター装置において返し車
の回転面を昇降路の壁面に対して傾斜させて昇降路平断面の縮減を図る技
術思想(以下,「技術思想2」という。)が示されている。よって,刊行
物1記載の発明,技術思想2ともエレベーター装置の昇降路内機器配置に
関するものであるから,同一の技術分野に属しており,刊行物1記載の発
明において,技術思想2を適用して,上記相違点5に係る訂正発明のよう
に構成することは,当業者が容易に想到しうる程度のものと認められ
る。」(32頁7行∼14行)と認定している。
しかし,刊行物4(甲4)には,段落【0035】に,「本発明によれ
ば,つり合おもりをつるロープをかけるプーリを昇降路平面の軸線に対し
て傾けて配置したことにより,つり合おもりや乗かごのつり心をずらすこ
となく,乗かごのサイズ,昇降路のサイズをつり合おもりのない場合と同
等にすることができる。」と記載されているが,刊行物4の請求項1∼3
の記載からも明らかなとおり,刊行物4発明は「流体圧エレベーター」に
関する発明であって,トラクションマシン1を用いる刊行物1記載のエレ
ベータ装置とは駆動方式が異なり,対象を全く異にしているため,全く方
式の違うエレベーター装置を組み合わせること自体,当業者が容易に推考
できるものではないことは明らかである。
とりわけ,刊行物4には,刊行物1に記載されるトラクションマシン1
のシーブ5が存在しないため,刊行物1のトラクションマシン1のシーブ
5とカウンターウェイト31との間の頂部プーリ27Bの回転面を考慮す
る際に,刊行物4に記載の返し車の配置を参照することは,当業者であっ
たとしても,訂正発明の内容を理解して初めてなし得るものである。
したがって,審決は相違点5についての判断を誤ったものである。
なお,被告補助参加人は,訂正発明の原出願の分割出願である特許第3
508768号の拒絶理由通知に対する原告の意見書(平成15年8月2
2日提出。丙17)の記載及び特許庁審査官との面接の際の原告の説明
(丙18)に基づいて,原告自身,第2の返し車の傾斜が,「昇降路内の
不使用空間の発生を極力押さえる」効果には関係がないことを表明してい
ると主張する。しかし,同特許に係る発明は,巻上機と第1の返し車を平
面図において重なるように配置して,昇降路の角で直交させたものであ
る。原告は,この発明の作用効果を発揮する上では第2の返し車が傾斜し
ていることは必須の要件ではないことを主張したものであって,本件特許
に係る発明について,第2の返し車が傾斜していることは必須の要件では
ないと主張したものではない。
オ取消事由5(相違点1∼5すべてについての判断の誤り)
訂正発明は,昇降路内の高さ方向,平断面においての幅方向・奥行き方
向のうち,いずれか一方向のみの不使用空間の縮減を目的としたものでは
なく,全方向において不使用空間の縮減を実現することを目的とし,技術
的検討を重ねた結果,前記ア(ア)aの①∼⑥の特徴点を発見し,六つの特
徴点すべてが備わって,それぞれが有機的に関連することによって,①∼
⑥の特徴点それぞれでは達成できない昇降路全高における不使用空間の縮
減を達成した発明である。
本件の訂正発明のように多数の特徴点を有し,しかもすべての特徴点を
有する構成にしない限りは,発明が解決しようとする技術的効果が得られ
ないという特殊性を有する発明において,仮に多数の,しかも目的の異な
る文献の中から,文献を選択し,さらにその中から訂正発明に都合のよい
部分だけを抽出し,個々の相違点について個別に組み合わせることができ
たとしても,個々の相違点について想到しただけでは,訂正発明の効果は
達成できないのであって,個々の相違点について個別の組み合わせをすべ
て網羅した訂正発明の全特徴点を有する構成を想到することは,非常に困
難である。
審決は,まさに訂正発明の明細書を読み,訂正発明の構成を認識した上
であるからこそ容易であると判断したにすぎず,訂正発明を知らない通常
の当業者が想到することは到底不可能である。
訂正発明においては,相違点2及び相違点4について訂正発明の構成を
とることにより,巻上機とかごがすれ違う狭い空間にロープが通ることに
なるが,通常の当業者であれば,このような事態を避けるように設計を行
うから,相違点2と相違点4の組み合わせには,着想阻害事由が存在す
る。
訂正発明は,あえて相違点2及び相違点4の構成をとりつつ,同時に相
違点3及び5の構成も同時に採用することによって,訂正発明の効果を達
成するものであるが,通常の当業者が相違点1ないし5を同時に採用する
ことを同時に着想することは不可能である。
審決は,刊行物1∼4(甲1∼4)の目的も前提も異にする発明の記載
から,その目的,前提の相違を考慮せずに,刊行物1との相違点の解消に
必要な特定の記載を抽出し,各相違点について異なる組み合わせによって
訂正発明の構成を想到することが容易であると認定し,結果として,相違
点1∼5のすべてについて同時に,訂正発明の構成を想到することが容易
であると判断しているが,このような判断は誤っている。
カ取消事由6(本件訂正は実質上特許請求の範囲を変更するものであると
判断したことの誤り)
(ア)審決は,「…訂正事項1の「前記綱車が前記かごの側方に位置する
前記昇降路の壁面に対向し,前記モータ部が前記かご側に対向して,該
巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつか
ご天井より下方に位置し,」なる事項により奏されるとする効果Aは,
…本件特許明細書には記載されていない。また,本件特許明細書から自
明でもない。…訂正事項1に係わる請求項2の発明は,『前記かごの吊
り車に至る前記ロープが前記かごと前記巻上機との間を通るように』に
限定した場合に生じる課題,すなわち,特許明細書において全く予想さ
れていなかった新たな課題を,訂正前の発明には特定されていなかった
『該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でか
つかご天井より下方に位置し』たことにより解決している。したがっ
て,…訂正事項1の『前記かごの吊り車に至る前記ロープが前記かごと
前記巻上機との間を通るように』して,『該巻上機の下端は前記昇降路
の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し』
た点は実質上特許請求の範囲を変更するものである。」(32頁下12
行∼33頁14行)と判断している。
(イ)訂正発明の「該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床
面より上方でかつかご天井より下方に位置し」という表現には,①巻上
機の下端が昇降路の最下階低支持のかご床面よりも上方という点と,②
かご天井面より下方という2点の内容が含まれている。これらのうち,
①の内容により,ピットが冠水した場合に巻上機の損傷を防止するとい
う効果が得られるが,当該効果を得るためには②の内容は必要ない。他
方,②の内容から得られる効果については,本件訂正前の明細書(ただ
し,第1次訂正審決による訂正のない本件特許公報[甲8]による。以
下同じ。)に「この種の機械室の無い方式のエレベーター装置では,ピ
ットの深さは1.2mから1.5m程度であり,この位置に巻上機およ
び制御盤が配置されていると,作業者がピット床に立った場合に手が届
く範囲,例えば1.2mから1.7m高さの範囲(かご最下階停止時の
かご床面∼ピット床から1.7m高さ)にあることになり,点検作業が
容易である。」との記載(6頁左欄15行∼21行)及び「また,巻上
機4の下端をかご基準階停止時のかご床面より上方でかつ上端をかご天
井面より下方にし制御盤15をほぼ同じ高さに配置した場合,エレベー
ターの運行管理に即した点検が最もやり易くなる。」との記載(6頁左
欄27行∼30行)がある。したがって,本件訂正前の明細書に,「該
巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時の・・・かご天井より下方に
位置」という構成と該構成に対応する効果が共に記載されていたことに
なる。また,「前記かごの吊り車にかかる前記ロープが前記かごと前記
巻上機との間を通るように」という限定については,本件訂正前の明細
書(甲8)の5頁右欄11行∼12行の「さらに,返し車は5aは昇降
路8の平断面の投影図上で巻上機4と一部重なり合って配置されてい
る。」との記載並びに第6図及び第7図に記載されている範囲内の事項
である。
以上のとおりであるから,「該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停
止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し」た点も,
「前記かごの吊り車に至る前記ロープが前記かごと前記巻上機との間を
通るように」した点も,本件訂正前の明細書及び図面に記載した事項の
範囲内にあり,実質的に見ても,訂正後の発明が特許請求の範囲を変更
するものではない。
(ウ)原告が主張していることは,「刊行物1(甲1)の図8において頂
部プーリ27Aの向きを変えてロープが乗降口から奥に向かうようにし
ても,トラクションマシン1はピットに設置されているから,頂部プー
リ27Aから下に向かうロープはトラクションマシン1まで達すること
なく,かご下プーリ29Aによってかご下に導かれる。しかし,相違点
2が存在するために,訂正発明においては,現実にロープがかごと巻上
機との間を通る。かごと巻上機との間をロープが通ることにより,ロー
プが巻上機に接触する危険性が大きくなるから,この点が着想阻害事由
になる。」,「訂正発明においては,『該巻上機の下端は前記昇降路の
最下階停止時のかご床面より上方』という要件のみならず,『かご天井
より下方に位置し』という要件も加わっているから,巻上機は途中階に
はなく,最下階に位置することになる。したがって,訂正発明において
は,ロープがかごと巻上機との間を現実に通るのはかごが最下階付近に
ある場合に限定されるとともに,その場合でも,ロープの振れの支点と
なるかごの吊り車によってロープの振れが小さい幅に抑制されているか
ら,現実には,ロープが巻上機に接触することはなく,着想阻害事由の
一部が解決されている。」ということである。本件訂正によって新たな
課題を設定して,その解決手段を特許請求の範囲に追加したということ
ではない。
(エ)なお,被告は,「作用効果は課題と表裏一体の関係にあり」と主張
しているが,東京高判昭和62年5月14日(注解特許法第三版【下巻
】1365頁)は,「発明の目的は,当該発明がその属する技術分野に
おける従来技術との関連においていかなる問題点を解決しようとするか
について出願人が認識した技術的課題を示すものであり,発明の効果
は,右問題点を解決するために提案された当該発明の構成によって生ず
る特有の技術的効果であ(る)」と述べて,発明の効果は,発明の目的
あるいは技術的課題とは異なるものとして把握している。これを「表裏
一体」としている被告の主張は誤りというほかはない。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論
(1)取消事由1に対し
刊行物1(甲1)の段落【0032】∼【0034】には,平断面での幅
方向,奥行き方向のそれぞれ及び双方について,不使用空間を縮減するとと
もに,昇降路全体を小さくするという技術事項が示されている。さらに,刊
行物1発明は,天井に機械室を設けず巻上機を昇降路に内蔵する方式であっ
て,エレベーター占有空間の最小化を狙いとするものであるから,刊行物1
には,高さ方向,平断面での幅方向・奥行き方向にわたる不使用空間の縮減
という思想が示されている。
したがって,刊行物1には,当該思想が,【発明が解決しようとする課題
】として直接的に記載されていないだけにすぎず,これが記載されていない
とする原告の主張は失当である。
(2)取消事由2に対し
ア刊行物2発明の趣旨についての原告主張につき
巻上機を昇降路内自体に内蔵する方式は,エレベーター占有空間の最小
化の狙いを,明示するまでもなく前提とするものであって,刊行物2発明
においても,不要空間のない設計を行うことは常に意識されていたと認め
られる。
原告は,刊行物2発明において,支持台をコンクリートにしたり,安全
柵を取り付けたことで不使用空間の縮減を技術課題としていないと主張し
ているが,これらの点は支持台の強度や利便性を設計時に比較考慮したに
すぎず,これらの点をもってして不使用空間の縮減を技術課題としていな
いと結論付けることはできない。しかも,一般的には,機械室とは,特開
平2−261788号公報(乙1)に一例として示した別個の機械室を指
すのが普通であって,刊行物2発明には,機械室はない。
イ刊行物1発明と刊行物2発明における技術思想(技術思想1)を組み合
わせることの困難性についての原告主張につき
後記(5)のとおり,刊行物1発明と刊行物2発明における技術思想(技
術思想1)を組み合わせることに困難な点はない。
刊行物1(甲1)の特許請求の範囲【請求項1】には,「昇降路内の定
位置に設置されたトラクションマシン」と記載されており,刊行物1の特
許請求の範囲【請求項2】の記載と比較してみれば,刊行物1にはトラク
ションマシンが昇降路の下部に位置するものに限定した技術思想だけが示
されているわけではない。刊行物3(甲3)の記載の通常の技術常識をも
考慮すれば,トラクションマシン1の位置を移動することに,阻害要因は
なく,当業者が容易になし得ることにすぎない。したがって,「刊行物1
に記載されたトラクションマシン1を任意の階に配置することまで容易に
想到するとは考えられない」とする原告の主張は失当である。
(3)取消事由3に対し
相違点4に係る訂正発明のように構成することは,刊行物2における技術
思想1の第1の返し車の回転面の角度を採用すれば,当業者が容易に想到し
うる程度のものと認められ,このように刊行物1発明を構成すれば,平断面
における相違点3に係る訂正発明のように構成されることとなる。
刊行物2における技術思想1では,任意の階層において,かごと,巻上機
の配置された支持台との隙間の存在にもかかわらず,訂正発明の相違点4と
同様に第1の返し車を傾斜させている。そして,かごと対向近接する物体
が,巻上機の支持台の代わりに巻上機自体とすることは当事者が容易に想到
しうる程度のものと認められる。したがって,相違点3を平断面に限定せ
ず,相違点2から生じる隙間の存在を考慮したとしても,技術思想1をもっ
てして相違点4に係る訂正発明のように構成すれば,相違点3に係る訂正発
明のように構成されることは当事者が容易に想到しうる程度のものとなり,
着想阻害要因は存在しない。
(4)取消事由4に対し
ロープ式エレベーターと流体圧エレベーターはともにエレベーターの代表
的な方式であって,また,カウンターウエイトを返し車で懸架する点におい
ては,刊行物1発明及び刊行物4発明に差異がない。しかも,刊行物1発明
及び刊行物4発明は,いずれも昇降路の平断面を小さくするものである。し
たがって,刊行物1発明と刊行物4発明を組み合わせることは当業者が容易
に推考できるものである。
(5)取消事由5に対し
刊行物1発明に,刊行物1に示された刊行物1記載の技術事項の観点に立
って,エレベーター装置の昇降路内機器配置に関する同一の技術分野から,
刊行物3発明の技術事項,技術思想1,2,周知技術,技術事項Aを適用し
て,相違点1∼5に係る訂正発明のように構成することは,当業者が容易に
想到しうる程度のものと認められる。そして,相違点1∼5があるといって
も,そもそも設計的事項にすぎないものばかりであって,訂正発明はこれら
の寄せ集め発明にすぎないものである。
相違点1は相違点とは認められないものであり,また,相違点や引用する
刊行物の数をもって組み合わせが困難とすることはできない。
(6)取消事由6に対し
作用効果は課題と表裏一体の関係にあり,「巻上機は,単に,最下階停止
時の床面より上方でかつ最上階停止時のかごの天井より下方に位置するのみ
ではなく,最下階停止時のかご天井より下方に位置しています。したがっ
て,かごが最下階付近にある場合にのみ,かごの吊り車すなわちロープの支
点に近いロープが巻上機とかごの間を通ることになるにすぎません。この位
置では,必然的に対向した位置でのロープの振れ幅が小さくなるため,巻上
機のモータ部とかごの間隔を最低限に小さくできます。」(効果A)との作
用効果の主張をすることは,「前記かごの吊り車に至る前記ロープが前記か
ごと前記巻上機との間を通るように」に限定した場合に生じる課題,すなわ
ち,本件訂正前の明細書において全く予定されていなかった新たな課題を,
本件訂正前の発明には特定されていなかった「該巻上機の下端は前記昇降路
の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し」たこ
とにより解決していることであって,「前記かごの吊り車に至る前記ロープ
が前記かごと前記巻上機との間を通るように」して,「該巻上機の下端は前
記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置
し」た点は,実質上特許請求の範囲を変更するものである。
4被告補助参加人の主張
(1)取消事由1に対し
ア原告は,訂正発明について六つの特徴点を指摘した上で,昇降路の高さ
方向,幅方向,奥行き方向及び全体の不使用空間を縮減するという効果を
持ち出して,訂正発明の技術思想を解説しようとしている。
しかし,訂正発明は,巻上機を昇降路の壁面とかごとの間に位置させ,
かつ,ロープをかごと巻上機の間に通すことにより,その分だけ昇降路の
幅方向が広がるのであるから,この時点で,訂正発明が昇降路の高さ方
向,幅方向,奥行き方向及び全体の不使用空間の縮減をすべて実現してい
るというのが誤りであることが分かる。また,原告の主張する訂正発明の
効果は,実証されていないものや出願時の明細書に記載されていないもの
ばかりであり,これらの効果をもって,訂正発明の技術思想を読み解くこ
とはできない。
訂正発明の特徴は,第1の返し車を昇降路平断面において巻上機の少な
くとも一部と重ねることにより,巻上機の上方の不使用空間ないし第1の
返し車の下方の不使用空間を縮減するというものにすぎず,原告は,こと
さら訂正発明の特徴を拡張し,その技術思想を拡大解釈せんとしているの
であって,そのような手法は許されない。
以下,原告の主張について個別に反論する。
イ昇降路の高さ方向の不使用スペースの縮減
昇降路の高さ方向の不使用空間の縮減は,巻上機の綱車の回転軸方向の
外形寸法が回転軸に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さいタイプのも
のが登場して以来,既に,訂正発明が出願される以前から実現されている
効果であり(例えば,刊行物3[甲3]),訂正発明特有のものではな
い。したがって,昇降路の高さ方向の不使用空間の縮減を訂正発明の特徴
と結びつけて固有の技術思想が示されていると評することはできない。
ウ昇降路の平断面での幅方向の不使用スペースの縮減(1)
訂正発明の「巻上機の綱車が昇降路の壁面に対向し,巻上機のモータ部
がかご側に対向している」(原告が主張する特徴点④)では,昇降路の壁
面とロープとの間の安全距離D及びモータ部とかご壁との間の安全距離C
の二つの安全距離を考慮する必要がある(別紙「参考図面1」の【図7
】)のに対して,巻上機の向きを逆にして「巻上機のモータ部が昇降路壁
に対向し,綱車がかご壁側に位置している」ときには,ロープとかご壁と
の間の安全距離Eだけを考慮すればよく,モータ部と昇降路の壁面との間
の隙間Fについては,安全距離としての寸法を確保する必要もないので,
昇降路の壁面に接近させてモータ部を設置することが可能となり,非常に
小さい寸法とすることができる(別紙「参考図面1」の【図2】)。
ロープからモータ部の外側面までの距離をBとすると,訂正発明におい
ては,W1=B+C+Dとなり,「巻上機のモータ部が昇降路壁に対向
し,綱車がかご壁側に位置している」ときには,W2=B+E+Fとなる
から,昇降路の幅方向の長さを縮減されるということは,C+D<E+F
の関係が成立しているということである。そうであるにもかかわらず,C
+D<E+Fの関係が成り立つことをうかがわせるに足りる事項は,訂正
明細書(甲9)の特許請求の範囲【請求項2】には記載されておらず,自
明でもない。したがって,「昇降路の幅方向の長さの縮減」は,訂正発明
の必須構成として特許請求の範囲に記載された事項のみに基づき常に生じ
るものではないから,訂正発明において「昇降路の幅方向の長さの縮減」
という作用効果を参酌することはできない。
また,かごと昇降路壁の最小距離がカウンターウェイトの側で決まる場
合には,巻上機の配置の仕方によって,昇降路の平断面での幅方向の不使
用スペースの縮減が実現されるものではない。
エ昇降路の平断面での奥行き方向の不使用スペースの縮減
後記(3)のとおり,刊行物1発明において,第1の返し車の回転面を,
ロープがかごの吊り車へ至る側が綱車から巻き掛けられる側より乗降口か
ら遠ざかる方向に位置して,近接する昇降路の壁面に対して傾斜させた点
は,刊行物2発明に基づいて当業者が容易に想到しうる程度のものであ
り,また,この点は当業者が適宜決定すべき事項にすぎない。その結果,
当然に,昇降路の平断面において,第1の返し車が巻上機の乗降口側端部
よりも乗降口側に向かって張り出すことが無く,巻上機を乗降口側に寄せ
て配置することが可能となる。
したがって,原告が主張する訂正発明の特徴点⑤の構成による作用効果
は,刊行物1発明や刊行物2発明から当然生じる作用効果であり,訂正発
明の特有の顕著な作用効果ということはできない。
オ昇降路の平断面での幅方向の不使用スペースの縮減(2)
本件訂正における,「前記かごの吊り車に至る前記ロープが前記かごと
前記巻上機との間を通るように」して,「該巻上機の下端は前記昇降路の
最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し」た点
は,後記(6)のとおり,実質上特許請求の範囲を変更するものであるか
ら,このような訂正が認められる余地はない。したがって,このような訂
正が認められることを理由として,昇降路の平断面での幅方向の不使用ス
ペースが縮減されるということはできない。
また,第2の返し車の回転面を,昇降路の平断面において,ロープがカ
ウンターウェイトの吊り車へ至る側が巻上機の綱車から巻き掛けられる側
よりかごに近づく方向に傾斜させて,巻上機の綱車は,カウンターウェイ
トの吊り車よりも昇降路壁面側に位置しているという,原告が主張する特
徴点⑥を採用することによって,「昇降路平断面の幅方向を縮減する」こ
とを発明の作用効果に掲げることは,昇降路の幅方向におけるカウンター
ウェイトと巻上機との位置関係(例えば,昇降路の平断面の投影面上でか
ご乗降口からかご奥側を見たときのカウンターウェイトと巻上機との重な
り度合い)が特定されて初めて奏することができる作用効果である。それ
にもかかわらず,昇降路の幅方向におけるカウンターウェイトと巻上機と
の位置関係については,訂正明細書(甲9)の特許請求の範囲【請求項2
】には特定されていないから,上記作用効果は,訂正発明に固有の作用効
果とはいえない。
カ昇降路全体の不使用スペースの縮減
上記のとおり,昇降路の高さ方向の縮減と昇降路の平断面での幅方向の
縮減は訂正発明の作用効果ということができず,また,昇降路の平断面で
の奥行き方向の縮減は公知の従来技術から当然に生じる作用効果にすぎな
い。
したがって,訂正発明から昇降路全体の不使用空間の縮減という特有顕
著な作用効果が発生しているとはいえない。
(2)取消事由2に対し
刊行物1発明と刊行物2発明とは,技術常識たる不使用空間の縮減という
共通の目的を有しているから,これらを組み合わせることにつき十分な動機
付けがあるというべきである。
また,刊行物1(甲1)において,トラクションマシン1を昇降路床面に
設置することが必須の要件とされるわけではないから,刊行物1のトラクシ
ョンマシン1を建物の任意の階層に設置する場合に何らかの技術的阻害要因
が存在するものではなく,特開平8−81154号公報(丙7,以下「丙7
公報」という。)及び特開平8−277081号公報(丙8,以下「丙8公
報」という。)記載の周知技術や特開平11−310372号公報(丙9,
以下「丙9公報」という。)記載の技術事項に鑑みれば,刊行物1の「前記
トラクションマシン1(巻上機)を昇降路25のピットに固定し」という構
成を「トラクションマシン1(巻上機)の下端は昇降路25の最下階停止時
のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し」に変えることは容易
に想到し得るものである。
(3)取消事由3に対し
ア昇降路内の不使用空間の発生を極力押さえるというのは,エレベータ装
置において技術常識であり,審決が認定するように,刊行物2において,
駆動装置の上に案内車を配置する構成が示されていることから,当業者に
おいては,刊行物2においても,不使用空間の縮減という目的を実現して
いると理解されるというべきである。
そして,審決が認定するように,「第1の返し車の回転面を近接する昇
降路の壁面に対してどのような角度に位置させるかは,そもそも,昇降路
の形状・寸法,かごのドアの出っ張り等のかごの形状・寸法,返し車やカ
ウンターウェイトや巻上機等の機器の諸寸法・配置等の諸条件を比較考慮
して当業者が適宜決定すべき事項にすぎない。」(30頁11行∼15
行)
したがって,刊行物1発明において,第1の返し車の回転面を,ロープ
がかごの吊り車へ至る側が綱車から巻き掛けられる側より乗降口から遠ざ
かる方向に位置して,近接する昇降路の壁面に対して傾斜させることは,
刊行物2発明に基づいて当業者が容易に想到しうる程度のものであり,ま
た,この点は当業者が適宜決定すべき事項にすぎない。
イ下部プーリの取付け位置に関する周知慣用な技術事項(丙10∼16[
枝番を含む])に基づいて,刊行物1発明における下部プーリ29Aの配
置を,別紙「参考図面2」に示すように例えば緑色,青色及び赤色の二点
鎖線で示す任意の位置へ変更する際には,下部プーリ29Aa,29A
b,29Acから頂部プーリ27Aに至るロープの中心位置が垂直となる
ように,頂部プーリ27Aの配置も変更され,頂部プーリ27Aa,27
Ab,27Acの回転面が,昇降路25の平断面においてロープが乗かご
28の下部プーリ29Aへ至る側がトラクションマシン1のシーブ5から
巻き掛けられる側より乗降口28aから遠ざかる方向に位置して近接する
昇降路25の壁面25aに対して傾斜するように必然的に変更されること
になる。
ウ原告は,刊行物2は,巻上機とかごがすれ違う間の空間にかごの吊り車
へ至るロープが通るという構成ではないという点で訂正発明と異なってい
るとか,刊行物1は,トラクションマシン1が昇降路25のピットに固定
され,かごが最下階にあるときでも,巻上機とかごの両者は上下に離れて
いるため,巻上機とかごがすれ違う間の空間にかごの吊り車へ至るロープ
が通るという構成は全く存在せず,かごと巻上機の隙間にロープを通すと
いう課題が生じないと主張する。
しかし,かごと巻上機の隙間にロープを通すという課題は,本件訂正前
の明細書(甲8)にも訂正明細書(甲9)にも何ら記載されていないこと
であるばかりでなく,仮に,そうでないとしても,刊行物2においては巻
上機(またはコンクリート台)とかごの間の隙間にロープを通すという構
成が示されているのであるから,訂正発明の構成を採用することに創作の
過程は存在しない。
(4)取消事由4に対し
刊行物4発明の課題である「昇降路のサイズをつり合い重りのない場合と
同等にすること」というのは,つり合い重りがある場合に想定される昇降路
空間の拡大を回避するという意味であり,その課題を解決するために,第2
の返し車が斜めに配置されているのであるから,刊行物4発明も刊行物1発
明と同じ「昇降路内の不使用空間の縮減」という目的を有することは,疑い
を差し挟む余地のない事実である。
加えて,ロープ式エレベータと油圧式エレベータはともにエレベータの代
表的な方式であるし,刊行物4発明が,訂正発明のような「ロープ式」では
なく,「流体圧式」であるとしても,訂正発明の「巻上機」から先の「カウ
ンターウェイト」を「第2の返し車」により懸架する構成は,「ロープ式」
か「流体圧式」かにより差違があるものではない。
したがって,刊行物1発明と刊行物4発明は課題が共通であり,組み合わ
せるのに技術的な阻害要因もない。
なお,原告は,訂正発明の原出願の分割出願である特許第3508768
号の拒絶理由通知に対する意見書(平成15年8月22日提出。丙17)に
おいて,「また,補正後の請求項1記載の発明は,第2の返し車において,
『上記昇降路の平断面において,回転面が上記第1の昇降路壁に対して傾斜
した』という部分を削除致しました。該部分を削除しても,昇降路内の不使
用空間の発生を極力押さえるという本発明の効果を奏することができる…」
と述べ(2頁3行∼6行),特許庁審査官との面接の際には,「第2の返し
車を傾斜させるか否かは設計上の要請に負うものである。」と説明し,この
旨審査官の理解を得た後(丙18),特許されている。これは,原告自身,
第2の返し車の傾斜が,「昇降路内の不使用空間の発生を極力押さえる」効
果には関係がないことを表明したものであって,第2の返し車の回転面の傾
斜角度のごときは,単なる設計事項であることを認めていることを示してお
り,本件における原告の主張と矛盾している。
(5)取消事由5に対し
訂正発明と刊行物1発明との相違点が五つあるといっても,上記のとお
り,技術常識と設計事項の範疇において刊行物2発明や刊行物4発明を組み
合わせることにより,三つの相違点(相違点3∼5)が容易に解消される。
また,巻上機の軸方向の軸長が小さいという相違点1は相違点として捉え
ること自体が問題であるばかりか,刊行物3によって開示され容易に採用し
得るものである。
さらに,巻上機の位置を最下階停止時のかご床面からかご天井の範囲に限
定するという相違点2にも,ピットが冠水した場合の被害防止という周知の
課題のために電子機器等を最下階の床面より上方に設置することは周知技術
(丙7公報,丙8公報)にすぎず,保守点検のために駆動装置を昇降路の1
階付近に設けることは既に知られていることであり(丙9公報),刊行物1
発明と刊行物2発明とを組み合わせることにより,ようやく得られる構成で
もない。
したがって,訂正発明は,刊行物1∼4の組み合わせにより,容易に想到
し得るものである。
(6)取消事由6に対し
本件訂正前の明細書(甲8)に記載されているのは,「さらに,巻上機4
の下端および制御盤15の下端はかご最下階停止時のかご床面より上方で
かつかご天井面より下方にあるので,ピットが冠水しても巻上機4および
制御盤15は損傷を受けることは無い。」(6頁11欄11行∼14行)
ということだけで,ピットが冠水した場合の被害防止としか記載されてい
ない。これに対し,訂正拒絶理由通知書(丙4)が審判請求書(丙5)上
の記載として,「『前記かごの吊り車に至る前記ロープが前記かごと前記
巻上機との間を通るように』限定したことにより,新たな課題が生じてお
り,『該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方で
かつかご天井より下方に位置し』たことにより解決している。」とまとめ
ている(丙4,26頁24行∼27行)。これは,「前記かごの吊り車に
至る前記ロープが前記かごと前記巻上機との間を通るように」限定したこ
とにより,新たな課題が生じており,この新たな課題を,「かごが最下階
付近にある場合にのみ,かごの吊り車すなわちロープの支点に近いロープ
が巻上機とかごの間を通ることになるに過ぎず,この位置では,必然的に
対向した位置でのロープの振れ幅が小さくなるため,巻上機のモータ部と
かごの間隔を最低限に小さくできる。」という新たな構成をもって解決し
ているということである。このような新たな構成は,本件訂正前の明細書
に記載がなく,また,自明でもないから,発明の目的を変更するものであ
り,実質上特許請求の範囲を変更するものであって,このような訂正が認
められる余地はない。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(本件訂正の内容),(3)
(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2取消事由1(訂正発明と刊行物1発明を対比することの誤り)について
()訂正発明につき1
ア訂正明細書(甲9)には,前記第3の1()イの特許請求の範囲【請求2
項2】のほか,発明の詳細な説明として,次の記載がある。
(ア)技術分野
「この発明は,昇降路内に,かごとカウンターウェイトと,両者を懸架
するロープと,該ロープを駆動する巻上機と,該ロープの懸架方向を転
換する返し車とを有するエレベーター装置に関するものである。」
(イ)背景技術
「第12図および第13図は例えば特開平9-165172号公報の図
2および図1に示された従来のエレベーター装置を示す平面図および側
面図である。
図において,1は人または荷物が載るかご,2はかご1の重量を補償す
るカウンターウェイト,3はかご1とカウンターウェイト2とを懸架す
るロープ,4はロープ3を介してかご1とカウンターウェイト2とを駆
動し昇降させる薄形の巻上機,4aは巻上機のシーブ,5a,5bはロ
ープ3の懸架方向を転換する返し車,6はかご用ガイドレール,7はカ
ウンターウェイト用ガイドレール,8は昇降路,11はかご1の吊り
車,12はカウンターウェイト2の吊り車,13はかご側の綱止め,1
4はカウンターウェイト側の綱止めである。
次に,第12図∼第13図を用いて,従来のエレベーター装置につい
て説明する。
巻上機4のシーブ4aに懸架されたロープ3を介して,エレベーター
のかご1およびカウンターウェイト2が昇降する。この際,かご用ガイ
ドレール6がかご1の水平方向の移動を規制し,カウンターウェイト用
ガイドレール7がカウンターウェイト2の水平方向の移動を規制して,
昇降路内の他の機器や昇降路壁とかご1およびカウンターウェイト2と
の接触・干渉を防止している。ここで,かご1,カウンターウェイト2
および巻上機4の垂直投影は互いに離れており,巻上機4は隣接する一
つの壁面に平行に置かれている。
近年のエレベーター装置においては,エレベーター占有空間の最小化
を狙いとして,機械室を設けず巻上機を昇降路に内蔵する各種の方式が
提案されている。具体的には,(1)薄形の巻上機をカウンターウェイ
トの昇降上限より上方に配置する方式,(2)巻上機を昇降路内の頂部
即ちかご最上階停止時のかごの天井より上方に配置する方式,(3)巻
上機を昇降路内のピット部即ちかご最下階停止時のかご床面より下方に
配置する方式である。
このうち,(1)(2)はエレベーターの昇降に必要最小限の高さよ
りも多くの昇降路高さを要するうえ,昇降路頂部付近においてかご上に
乗って巻上機の保守点検をする作業者が予期せぬかごの上昇により昇降
路の天井に頭をぶつけないための防護策を講じる必要があるという欠点
がある。(2)の場合は,巻上機が発する熱が昇降路の頂部即ち巻上機
自身の付近に滞留するので温度上昇により巻上機が故障し易くなる。
(3)は最も冠水し易いピット部に巻上機を配置するためにその防護手
段が必要という欠点がある。前記の特開平9-165172号のエレベ
ーター装置は,(1)の欠点を解消するものであるが,巻上機の垂直投
影面の上方および下方の昇降路全高にわたって不使用空間を生ぜしめる
という新たな欠点をもたらしている。
以上のように従来のエレベーター装置では,巻上機の垂直投影面の上
方および下方の昇降路全高にわたって不使用空間を生ぜしめるという問
題点があった。」
(ウ)発明の開示
「本発明は,上記の問題点を解消するためになされたものであり,昇降
路内の不使用空間の発生を極力押さえ,巻上機の温度上昇による故障を
押さえ,昇降路への冠水に対して巻上機の損傷が無く,また点検時の予
期せぬかごの上昇に対する防護手段の必要を無からしめることを目的と
している。…
また,この発明のエレベーター装置では,昇降路内を昇降し,乗降口
を有するとともに吊り車が設けられたかごと,前記かごと反対方向に前
記昇降路内を昇降し,該昇降路の平断面において前記乗降口に対して前
記かごの側方に配置され,吊り車が設けられたカウンターウェイトと,
前記かごの水平方向の移動を規制するかご用ガイドレールと,前記カウ
ンターウェイトの水平方向の移動を規制するカウンターウェイト用ガイ
ドレールと,前記かごを前記かごの吊り車を介して懸架するとともに前
記カウンターウエイトを前記カウンターウェイトの吊り車を介して懸架
するロープと,
前記昇降路内に配置され,当該ロープが巻き掛けられた綱車及び該綱車
を駆動するモータ部を有し,前記綱車を回転させることで前記ロープを
介して前記かごおよび前記カウンターウェイトを昇降させる巻上機と,
前記昇降路内に配置され,前記巻上機の綱車から前記かごの吊り車に至
る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第1の返し車
と,前記昇降路内に配置され,前記巻上機の綱車から前記カウンターウ
ェイトの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転
換する第2の返し車とを有するエレベーター装置において,
前記巻上機は,前記綱車の回転軸方向の外形寸法が前記回転軸に対し
て垂直な方向の外形寸法よりも小さく,前記昇降路の平断面において前
記カウンターウェイト及び前記かごとは離れて前記カウンターウェイト
が配置された前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に平行にかつ
前記カウンターウェイトと前記昇降路の壁面に沿って並んで配置される
とともに前記綱車が前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に対向
し,前記モータ部が前記かご側に対向して,該巻上機の下端は前記昇降
路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置
し,前記第1の返し車は,前記巻上機より上方に位置し,前記平断面に
おいて,前記かごの吊り車に至る前記ロープが前記かごと前記巻上機と
の間を通るように,前記巻上機の綱車から前記かごと前記巻上機との間
へ向けて前記モータ部を横切って前記モータ部と重なるよう配置され,
前記第1の返し車の回転面は,前記昇降路の平断面において前記ロープ
が前記かごの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側
より前記乗降口から遠ざかる方向に位置して近接する前記昇降路の壁面
に対して傾斜し,前記第2の返し車の回転面は,前記昇降路の平断面に
おいて,近接する前記昇降路の壁面に対して,前記ロープが前記カウン
ターウェイトの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる
側より前記かごに近づく方向に傾斜し,前記巻上機の綱車は,前記カウ
ンターウェイトの吊り車よりも近接する前記昇降路の壁面側に位置して
いる。
…」
(エ)実施例
「…
実施例3.
第6図∼第7図および第3図を用いて,エレベーター装置に関するこ
の発明の実施例3を説明する。
第6図は,この発明のエレベーター装置の実施例3の俯瞰図,第7図
は平面図を示す。これは,エレベーターの乗降口からみてカウンターウ
ェイトがかごの側方にあり,巻上機をカウンターウェイトと同じ側のか
ごの側方でカウンターウェイトとは昇降路の平断面上で投影面が重なら
ないように配置した例である。図において,前述の図と同符号は相当部
分を示し説明は省略する。
図において,巻上機4の下端は一点鎖線Bよりも上方にある。即ち,
巻上機4は,かご最上階停止時のかごの天井よりも下方で,かつ,下端
がかご最下階停止時のかごの床面よりも上方に配置されている。また,
巻上機4は隣接する一つの壁に平行に配置されている。
さらに,返し車5aは昇降路8の平断面の投影面上で巻上機4と一部
重なり合って配置されている。また,返し車5a,5bは昇降路8の壁
面に対し傾斜しているので,シーブ4aのロープ溝へのロープ3の入り
込み角が小さくなりロープの損傷が防止されている。
さらに,巻上機4をかご用ガイドレール6およびカウンターウェイト
用ガイドレール7によって支持されるビーム9に下側から固定してい
る。そして,巻上機4のモータ4bは昇降路8の平断面内でかご用ガイ
ドレール6の背面よりもかご側に位置している。ここでガイドレールの
背面とは図3のC部分を云う。本例では,巻上機4をビーム9に対して
直接固定しているが,弾性体を介して取り付け防振構造とすることもで
きる。また,ビーム9とかご用ガイドレール6,カウンターウェイト用
ガイドレール7との間を弾性体を介して取り付けることもできる。
また,返し車5をかごガイドレール6およびカウンターウェイト用ガ
イドレール7によって支持されるビーム10に固定している。本例で
は,返し車5をビーム10に対して直接固定しているが,弾性体を介し
て取り付け防振構造とすることもできる。また,ビーム10とかご用ガ
イドレール6,カウンターウェイト用ガイドレール7との間を弾性体を
介して取り付けることもできる。
制御盤15により駆動される巻上機4のシーブ4aに懸架されたロー
プ3が返し車5により方向転換され,かごの吊り車11およびカウンタ
ーウェイトの吊り車12を介して,かご1およびカウンターウェイト2
を昇降させる。この際,かご用ガイドレール6およびカウンターウェイ
ト用ガイドレール7が,かご1およびカウンターウェイト2の水平方向
の移動を規制する。
返し車5aは昇降路8の平断面の投影面上で巻上機4と一部重なり合
って配置されかつ,巻上機4のモーター4bは昇降路8の平断面内でか
ご用ガイドレール6の背面よりもかご側に位置しているので,昇降路8
の平断面の投影面上で巻上機4が占有する面積は小さく,昇降路全高に
わたる不使用空間を縮減している。また,巻上機4はかご最上階停止時
のかご天井より下方にあるので,かご上に乗って作業する点検作業者
が,予期せぬかごの上昇によって昇降路の天井に頭をぶつける惧れは無
い。さらに,巻上機の発する熱は上方である昇降路の天井付近へゆくの
で,熱により巻上機が故障することもない。
また,ビーム9の下に巻上機4が取り付けられ,ビーム10には返し
車5a,5bが取り付けられているので,ビーム9を介して,かご用ガ
イドレール6,カウンターウェイト用ガイドレール7に作用するロープ
3の張力による上向きの力と,ビーム10を介して,かご用ガイドレー
ル6,カウンターウェイト用ガイドレール7に作用するロープ3の張力
による下向きの力とがガイドレール内部で相殺し合い,建物にかかる力
を軽減している。
さらに,巻上機4の下端および制御盤15の下端はかご最下階停止時
のかご床面より上方でかつかご天井面より下方にあるので,ピットが冠
水しても巻上機4および制御盤15は損傷を受けることは無い。
この種の機械室の無い方式のエレベーター装置では,ピットの深さは
1.2mから1.5m程度であり,この位置に巻上機および制御盤が配
置されていると,作業者がピット床に立った時に手が届く範囲,例えば
1.2mから1.7m高さの範囲(かご最下階停止時のかご床面∼ピッ
ト床から1.7m高さ)にあることになり,点検作業が容易である。
なお,巻上機4の下端をかご1階停止時のかご床面より上方でかつ上
端をかご天井面より下方にし,制御盤15をほぼ同じ高さに配置した場
合には,ピットのみならず地下階全体が冠水しても巻上機4および制御
盤15が損傷を受けることは無い。また,巻上機4の下端をかご基準階
停止時のかご床面より上方でかつ上端をかご天井面より下方にし制御盤
15をほぼ同じ高さに配置した場合,エレベーターの運行管理に即した
点検が最もやり易くなる。…」
(オ)産業上の利用可能性
「以上のように,本発明にかかるエレベーター装置は,昇降路内を昇降
するかごと,前記かごと対向方向に移動するカウンターウェイトと,前
記かごの水平方向の移動を規制するかご用ガイドレールと,前記カウン
ターウェイトの水平方向の移動を規制するカウンターウェイト用ガイド
レールと,前記かごと前記カウンターウェイトを懸架するロープと,前
記昇降路内にあって前記ロープが巻き掛けられ当該ロープを介して前記
かごおよび前記カウンターウェイトを昇降させる巻上機とを有するエレ
ベーターにおいて用いられるのに適している。」
イ上記アの記載によると,訂正発明は,昇降路内の不使用空間の発生を極
力押さえ,巻上機の温度上昇による故障を押さえ,昇降路への冠水に対し
て巻上機の損傷が無く,また点検時の予期せぬかごの上昇に対する防護手
段の必要を無からしめることを目的としているもので,特許請求の範囲【
請求項2】に記載の構成を採ることにより,これらの目的を実現している
ものであると認められる。
そして,昇降路内の不使用空間の発生を極力押さえているとの点につい
ては,次のような指摘をすることができる。
(ア)昇降路の高さ方向の不使用スペースの縮減
訂正発明のエレベータ装置は,「綱車の回転軸方向の外形寸法が回転
軸に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さい巻上機を,巻上機の下端
が昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に
位置させる」ため,上記ア(イ)記載の「(1)薄形の巻上機をカウンタ
ーウェイトの昇降上限より上方に配置する方式,(2)巻上機を昇降路
内の頂部即ちかご最上階停止時のかごの天井より上方に配置する方式,
(3)巻上機を昇降路内のピット部即ちかご最下階停止時のかご床面よ
り下方に配置する方式」に比べて昇降路の高さ方向の不使用スペースを
縮減することができるものと認められる。
(イ)昇降路の平断面での幅方向の不使用スペースの縮減の有無
a訂正発明のエレベータ装置は,「巻上機の綱車が昇降路の壁面に対
向し,巻上機のモータ部がかご側に対向している」ものであり,昇降
路の壁面とロープとの間の安全距離D及びモータ部とかご壁との間の
安全距離Cの二つの安全距離を考慮する必要があるが,これらは,い
ずれも移動物と静止物間の安全距離である。また,訂正発明のエレベ
ータ装置は,巻上機が,カウンターウェイトが配置されたかごの側方
に位置する昇降路の壁面に平行にかつカウンターウェイトと昇降路の
壁面に沿って並んで配置されるから,カウンターウェイトと昇降路の
壁面との間及びカウンターウェイトとかごとの間の安全距離も考慮す
る必要があるが,このうち,カウンターウェイトと昇降路の壁面間の
ものは,移動物と静止物間の安全距離であり,カウンターウェイトと
かごとの間のものは,移動物間の安全距離である。
bこれに対して,訂正発明のエレベータ装置において「巻上機のモー
タ部が昇降路壁に対向し,綱車がかご壁側に位置している」ものを想
定した場合,ロープとかご壁との間の安全距離Eを考慮する必要があ
るが,モータ部と昇降路の壁面との間の隙間Fについては,安全距離
としての寸法を確保する必要はない。もっとも,隙間Fは必要である
ので,それが0になることはない。また,この場合にも,aの場合と
同様に,カウンターウェイトと昇降路の壁面間及びカウンターウェイ
トとかごとの間の安全距離も考慮する必要がある。
c以上の各安全距離のうち,巻上機に関する安全距離について検討す
ると,bのEは,aのC,Dよりも大きくなければならないものと解
されるが,どれだけ大きくなければならないかは,必ずしも明らかで
ない(原告は,2倍必要であるというが,そのことを認めるに足りる
証拠はない。)。そうすると,C+DがE+Fよりも小さいかどうか
は,必ずしも明らかでないといわざるを得ない。
また,仮に,C+DがE+Fよりも小さいとしても,aの場合でも
bの場合でも,カウンターウェイトと昇降路の壁面間及びカウンター
ウェイトとかごとの間の安全距離を考慮しなければならないから,
「それらの安全距離にカウンターウェイトの幅を加えたもの」が,
「C+Dに,巻上機のモータ部の外端からロープまでの距離Bを加え
たもの」よりも大きい場合には,昇降路の平断面での幅方向の大きさ
は,カウンターウェイトと昇降路の壁面間及びカウンターウェイトと
かごとの間の安全距離にカウンターウェイトの幅を加えたものによっ
て規定されることになる。訂正発明は,カウンターウェイトの大きさ
や位置については何ら規定していないので,上記のとおり,昇降路の
平断面での幅方向の大きさは,カウンターウェイトと昇降路の壁面間
及びカウンターウェイトとかごとの間の安全距離にカウンターウェイ
トの幅を加えたものによって規定されることがあり得るものと考えら
れる。
そうすると,訂正発明が「巻上機の綱車が昇降路の壁面に対向し,
巻上機のモータ部がかご側に対向している」との構成を採用したこと
によって,昇降路の平断面での幅方向の不使用スペースの縮減が図ら
れるかどうかは明らかでないといわざるを得ない。
なお,原告は,上記bの場合,Eは,移動物と固定物との間の最低
限の安全距離S1の2倍に,カウンターウェイトの厚さの半分の(d
/2)を加えた大きさになるところ,上記bの場合のCとDは,S1
と同程度であるから,C+D<E+Fとなると主張するが,上記のと
おり,2倍必要であると認めるに足りる証拠はないし,また,上記の
とおり,昇降路の平断面での幅方向の大きさが,カウンターウェイト
と昇降路の壁面間及びカウンターウェイトとかごとの間の安全距離に
カウンターウェイトの幅を加えたものによって規定されることがあり
得るから,訂正発明が「巻上機の綱車が昇降路の壁面に対向し,巻上
機のモータ部がかご側に対向している」との構成を採用したことによ
って,昇降路の平断面での幅方向の不使用スペースの縮減が図られる
かどうかは明らかでないといわざるを得ない。
dまた,訂正発明のエレベータ装置は,「第1の返し車は,巻上機よ
り上方に位置し,平断面において,かごの吊り車に至るロープがかご
と巻上機との間を通るように,巻上機の綱車からかごと巻上機との間
へ向けてモータ部を横切ってモータ部と重なるよう配置され」との構
成により,第1の返し車からかごの吊り車に至るロープがかごと巻上
機との間を通ることになり,その間に安全距離を確保する必要があ
る。
この点について,原告は,訂正発明においては,巻上機を最下階停
止時のかご天井より下方に位置することにより,かごが最下階付近に
ある場合のみかごの吊り車に近いロープが巻上機とかごの間を通るこ
ととし,その結果巻上機のモータ部とかごの間隔を小さくすることを
可能にしている,と主張するが,そのような効果は,訂正明細書(甲
9)に記載されていないから考慮することはできないし,仮にそのよ
うな効果があるとしても,ロープとかご及び巻上機との間に安全距離
を確保する必要があることには変わりない。
したがって,訂正発明のエレベータ装置は,「かごの吊り車に至る
ロープがかごと巻上機との間を通らない」エレベータ装置に比べて,
昇降路の平断面での幅方向の不使用スペースが大きくなることは明ら
かである。
eさらに,訂正発明のエレベータ装置は,「第2の返し車の回転面
は,昇降路の平断面において,近接する昇降路の壁面に対して,ロー
プがカウンターウェイトの吊り車へ至る側が巻上機の綱車から巻き掛
けられる側よりかごに近づく方向に傾斜し,巻上機の綱車は,カウン
ターウェイトの吊り車よりも近接する昇降路の壁面側に位置してい
る」との構成を有している。原告は,この構成により,第2の返し車
の回転面が,ロープがカウンターウェイトの吊り車に至る側が巻上機
の綱車から巻き掛けられる側よりかごに近づく方向に傾斜させること
により,巻上機の綱車を当該壁面に近接させることを可能とし,昇降
路の平断面での幅方向の不使用スペースを縮減するという効果を有し
ていると主張する。確かに,この点だけを見れば,訂正発明は,上記
構成を有しないものよりも,昇降路の平断面での幅方向の不使用スペ
ースを縮減するという効果を有しているように見えるが,前記cのと
おり,訂正発明は,カウンターウェイトの大きさや位置については何
ら規定していないので,昇降路の平断面での幅方向の大きさは,カウ
ンターウェイトと昇降路の壁面間及びカウンターウェイトとかごとの
間の安全距離にカウンターウェイトの幅を加えたものによって規定さ
れることがあり得る。そうすると,巻上機の綱車を壁面に近接させた
からといって,昇降路の平断面での幅方向の大きさには関係がないこ
とになる。このように,訂正発明においては,「第2の返し車の回転
面は,昇降路の平断面において,近接する昇降路の壁面に対して,ロ
ープがカウンターウェイトの吊り車へ至る側が巻上機の綱車から巻き
掛けられる側よりかごに近づく方向に傾斜し,巻上機の綱車は,カウ
ンターウェイトの吊り車よりも近接する昇降路の壁面側に位置してい
る」との構成が,昇降路の平断面での幅方向の不使用スペースを縮減
するという効果につながるかどうかは明らかでないといわざるを得な
い。
(ウ)昇降路の平断面での奥行き方向の不使用スペースの縮減
訂正発明のエレベータ装置は,「第1の返し車は,巻上機より上方に
位置し,平断面において,かごの吊り車に至るロープがかごと巻上機と
の間を通るように,巻上機の綱車からかごと巻上機との間へ向けてモー
タ部を横切ってモータ部と重なるよう配置され,第1の返し車の回転面
は,昇降路の平断面においてロープがかごの吊り車へ至る側が巻上機の
綱車から巻き掛けられる側より乗降口から遠ざかる方向に位置して近接
する前記昇降路の壁面に対して傾斜し」との構成を有することにより,
昇降路の平断面において,第1の返し車が巻上機の乗降口側の端部より
も乗降口側に張り出すことが無く,巻上機を乗降口側に寄せて配置する
ことが可能となるため,昇降路の平断面での奥行き方向の不使用スペー
スを縮減することができるものと認められる。
(エ)以上の(ア)∼(ウ)をまとめると,訂正発明は,昇降路の高さ方向の
不使用スペースの縮減及び昇降路の平断面での奥行き方向の不使用スペ
ースの縮減という効果があるものと認められるが,昇降路の平断面での
幅方向の不使用スペースの縮減という効果を有するものとは認められな
い。
()刊行物1発明につき2
ア刊行物1(甲1)には,次の記載がある。
(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】昇降路内の定位置に設置されたトラクションマシンと,
このトラクションマシンにより駆動されるロープによって昇降路内を昇
降するカウンタウェイトと乗かごとを備えたエレベータ装置において,
前記トラクションマシンは,ラジアルギャップ方式の永久磁石型同期モ
ータと,この同期モータの回転子に直結されたブレーキ装置のディスク
と,このディスクと直結され前記ロープを巻掛けるシーブと,前記ディ
スクと対向して配置され固定部分に支持されるブレーキ装置の制動機構
とを有することを特徴とするエレベータ装置。
【請求項2】前記トラクションマシンは,前記昇降路の下部に位置し,
前記乗かごとカウンタウェイトの垂直方向に投影した断面積の外に配置
されることを特徴とする請求項1記載のエレベータ装置。
【請求項3】前記トラクションマシンは,前記昇降路の下部に位置し,
前記シーブに巻掛けられたロープが前記乗かごとカウンタウェイトの間
を通過するように配置したことを特徴とする請求項1記載のエレベータ
装置。

【請求項13】前記トラクションマシンとカウンタウェイトは,前記乗
かごのドアの位置する側に直列に配置され,前記ロープは,一端が昇降
路頂部に固定され他端が前記カウンタウェイト上部のプーリを介して頂
部に設けられた第1の頂部プーリを経て前記シーブに巻掛けられ,更に
頂部に設けられた第2の頂部プーリを経て前記乗かごの下に設けた第1
及び第2の下部プーリを経て前記昇降路頂部に固定されていることを特
徴とする請求項2記載のエレベータ装置。」
(イ)発明の詳細な説明
「【発明の実施の形態】本発明によるエレベータ装置の一実施の形態を
図1乃至図3に沿って説明する。
ブレーキ装置は,ディスクブレーキであり,そのディスク2の外周を
フレーム3で覆い,ディスク2の下方の両脇に制動機構4が設けられて
いる。制動機構4は,その最外部がトラクションマシン1のフレーム3
の最外幅よりはみ出ないように,支持軸10の中心よりも下方に配置さ
れている。
シーブ5,ディスク2,同期モータ7の順に軸方向に配置されてい
る。ディスク2は,軸受8を介して回転自在で,軸方向には動かないよ
うにボルト9で支持軸10に支持されている。
支持軸10は,その一端をフレーム3にボルト11で固定され,この
フレーム3に同期モータ7の固定子が固定されている。この固定子は,
前記支持軸10を中心にドーナツ状に形成した薄鋼板を軸方向に積層し
て形成した固定子コア13と,この固定子コア13に巻付けた固定子コ
イル12とからなり,固定子コア13をボルト14でフレーム3に固定
している。
フレーム3は,同期モータ7の回転子ハウジング16との間にシール
機構17を設けて,同期モータ7の内部にゴミが入るのを防いでいる。
フレーム3のシール機構17から外周部は,前記ディスク2の周縁を覆
い,ディスク2にゴミが付着するのを防いだり,飛散物,落下物によっ
て故障が起こるのを防いでいる。
フレーム3の下部は,平で大きな足18が設けられ,これを昇降路床
面に固定することにより,トラクションマシン1が安定して確実に動作
するようにしている。
また,シーブ5はディスク2にボルト19で固定されている。ディス
ク2の反シーブ5側には円筒状の回転子ハウジング16が出ており,こ
の回転子ハウジング16の内周で前記固定子コア13の外周面に対向す
る位置に,永久磁石20が固定された回転子ヨーク21が取付けられて
いる。
本実施の形態では,永久磁石20は回転子ヨーク21の表面に張り付
けられ,固定子コア13と微細な空隙を介して向き合う構造としてい
る。
制動機構4は,ディスク2と,これに対向して配置され前記フレーム
3に支持される制動機構とから構成されている。そして,制動機構は,
電磁石とバネからなる駆動源23と,この駆動源23によってディスク
2側に押圧されるブレーキシューを備えた制動部24からなる。
本実施の形態によれば,ディスク2の側方に配置した同期モータ7
を,その空隙が回転軸に平行に配置されるラジアルギャップ方式として
いるので,磁気的吸引力はラジアル方向にのみ働き,軸受8に軸方向の
推力が加わらないので,複雑な推力軸受は必要とすることはない。した
がって,トラクションマシン1を大形化することは避けられる。
また,ディスク2の制動面と同期モータ7の回転子周面とが,異なる
向きにあるので,ブレーキ力が同期モータ7のギャップに影響を与える
ことが殆どない。更に,ディスク2としては,同期モータ7の円筒状の
回転子ハウジング16が補強材として機能するので,ディスク2の厚さ
を薄くできるという効果もある。
シーブ5の中にモータを組み込まないので,同期モータ7の径を大き
くすることができ,モータ軸長が短くても必要なトルクを得られるの
で,トラクションマシン1全体の軸長を短くでき,昇降路内への配置が
容易になる。
更に,固定子コイル12を集中巻きにすれば,固定子コア13から張
り出す固定子コイル12の端部が小さくなるので,更にモータ軸長を短
くでき,昇降路内への配置が一層容易となる。
また,本実施の形態では,シーブ5とディスク2とをボルト19で締
結する構造なので,シーブ5を分離可能であり,シーブ5の溝加工,デ
ィスク2の制動面加工などを独立して行えるので,極めて精度良く,効
率的に製造加工ができるという効果がある。更に,シーブ5,ディスク
2を別個に交換できるので,交換品を少なくでき,保守コストが低減で
きるという効果もある。
同様に,ディスク2と回転子ヨーク21も取外しできる構成であるの
で,それぞれの製作加工がし易く,保守部品を少なくでき,保守コスト
を低減できる。
また,同期モータ7,ブレーキ装置,シーブ5が夫々独立したパーツ
になるので,ボルトなどの取り付け用部品,取り付け面の仕様を合わせ
ておけば,エレベータ装置の機種に応じて,各パーツの組合わせが自在
にできるので,必要な部品を共用できる。このため,部品コストを低減
できるという効果もある。
以上の実施の形態では,永久磁石20を回転子に有する永久磁石型の
同期モータ7であったが,インダクションモータでも同様な効果は得ら
れる。」(段落【0009】∼【0025】)
「次に,本発明によるトラクションマシン1を用いたエレベータ装置
について図4にもとづいて説明する。
トラクションマシン1を昇降路25のピットに固定し,トラクション
マシン1のシーブ5にロープ26を巻掛ける。このロープ26の一端は
昇降路頂部に軸支された頂部プーリ27Aに巻掛けられ,そこから乗か
ご28の下部に軸支された第1及び第2の下部プーリ29A,29Bを
介して昇降路頂部のロープ止め30Aに固定される。また,ロープ26
の他端は同様に昇降路頂部に軸支された他の頂部プーリ27Bに巻掛け
られ,そこからカウンタウェイト31上に軸支されたプーリ32を介し
て昇降路頂部のもう一つのロープ止め30Bに固定される。乗かご28
は昇降路25内に平行で垂直に固定された一対のかごレール33A,33
Bで水平方向にずれないよう上下方向に案内され,カウンタウェイト3
1は同様に固定されたカウンタウェイトレール34A,34Bで水平方
向にずれないように上下方向に案内される。
トラクションマシン1の同期モータ7,ブレーキ装置は,図示しない
制御盤により電源を供給されてその動作を制御される。同期モータ7は
シーブ5を回転させ,ロープ26を駆動することにより乗かご28を目
的階に昇降させる。ブレーキ装置は,乗かご28の停止時にシーブ5の
回転を停止させ,乗かご28を所定階に確実に停止させる。
上記エレベータ装置によれば,トラクションマシン1は同期モータ
7,ブレーキ装置,シーブ5を一体化しても,ブレーキ装置の動作が同
期モータ7に影響しないので,不用な振動,騒音を発生することなく,
エレベータ利用者やエレベータ装置の設置された建物の居住者に不快感
を与えることがないという効果がある。
図5は,図4に示すエレベータ装置の平面図で,乗かご28のドア3
5とは反対側に面してカウンタウェイト31を配置し,乗かご28のド
ア35の隣接する側に面してトラクションマシン1を配置し,乗かご2
8の下部の左右方向にロープ26が渡るように第1及び第2のかご下プ
ーリ29A,29Bを設ける。更に,カウンタウェイト31とトラクシ
ョンマシン1との間には頂部プーリ27Bが,トラクションマシン1と
第1のかご下プーリ29Aとの間にはもう1つの頂部プーリ27Aが配
置される。
上記構成によれば,乗かご28の下側を通るロープ26は乗かご28
の中心を通るように,両かご下プーリ29A,29Bは配置されてい
る。これにより,乗かご28の吊り中心と重心が概略一致するので,吊
りにより乗かご28に発生するモーメントは小さく,安定した乗かご昇
降が実現できるという効果がある。
図6は,昇降路内機器配置の別の例を示すもので,乗かご28のドア
35とは反対側に面してカウンタウェイト31とトラクションマシン1
を夫々平行に配置し,その間に頂部プーリ27Bをほぼ直角に配置す
る。また,乗かご28の下部のかご下プーリ29A,29Bをかご奥か
らドア35側へほぼ対角にロープ26が通るように配置し,トラクショ
ンマシン1と乗かご奥側のかご下プーリ29Aの間に頂部プーリ27A
を配置する。このように配置することにより,カウンタウェイト31と
トラクションマシン1のトータルの奥行き及び幅をコンパクトに配置で
きるので,昇降路面積を有効に利用できるという効果がある。例えば,
この図では,昇降路25のカウンタウェイト31の右側に大きなスペー
スが生まれるので,そのスペースを利用してガバナ等の昇降路内配置機
器を容易に設置できるという効果がある。また,本実施例は,図5に示
す配置よりも,昇降路幅が小さくなるので,幅に制約のある昇降路に有
効な実施例である。
図7は,さらに別の昇降路内機器配置を示すもので,トラクションマ
シン1をカウンタウェイト31の横に配置して,カウンタウェイト31
と頂部プーリ27Bとトラクションマシン1のロープ26が同一方向に
渡っていくようにしたものである。このようにすることにより,乗かご
28の奥のスペースの奥行きが小さくでき,昇降路全体を小さくするこ
とができる。
図8は,他の昇降路内機器配置を示すもので,乗かご28のドア35
に隣接する側にトラクションマシン1とカウンタウェイト31を縦に配
置したものである。したがって,昇降路25の奥行きが小さく,横幅が
大きくなるので,昇降路25の横幅が余裕あり奥行きが厳しい用途に適
している。また,乗かご28の背後に構造物がないので,通り抜け型の
2方向で入り口を設ける場合にも適している。」(段落【0026】∼
【0034】)
イ上記アの記載と刊行物1記載の図1∼8によると,刊行物1には,審決
(17頁5行∼18頁7行)が認定するように,次の発明(刊行物1発
明)が記載されているものと認められる。
「昇降路25内を昇降し,ドア35を有するとともに第1及び第2のかご
下プーリ29A,29Bが設けられた乗かご28と,
乗かご28と反対方向に昇降路25内を昇降し,昇降路25の平断面に
おいてドア35に対して乗かご28の側方に配置され,プーリ32が設け
られたカウンターウェイト31と,
乗かご28の水平方向の移動を規制するかごレール33A,33Bと,
カウンターウェイト31の水平方向の移動を規制するカウンターウェイ
ト用ガイドレール34A,34Bと,
乗かご28を乗かご28の第1及び第2のかご下プーリ29A,29B
を介して懸架するとともにカウンターウェイト31をカウンターウェイト
31のプーリ32を介して懸架するロープ26と,
昇降路25内に配置され,ロープ26が巻き掛けられたシーブ5及びシ
ーブ5を駆動する同期モータ7を有し,シーブ5を回転させることでロー
プ26を介して乗かご28およびカウンターウェイト31を昇降させるト
ラクションマシン1と,
昇降路25内に配置され,トラクションマシン1のシーブ5から乗かご
28の第1及び第2のかご下プーリ29A,29Bに至るロープ26が巻
き掛けられてロープ26の方向を転換する頂部プーリ27Aと,
昇降路25内に配置され,トラクションマシン1のシーブ5からカウン
ターウェイト31のプーリ32に至るロープ26が巻き掛けられてロープ
26の方向を転換する頂部プーリ27Bとを有するエレベーター装置にお
いて,
トラクションマシン1は,トラクションマシン1全体の軸長を短くし,
昇降路25の平断面においてカウンターウェイト31及び乗かご28とは
離れてカウンターウェイト31が配置された乗かご28の側方に位置する
左側昇降路壁面に平行にかつカウンターウェイト31と左側昇降路壁面に
沿って並んで配置されるとともにシーブ5が乗かご28の側方に位置する
左側昇降路壁面に対向し,同期モータ7が左側乗かご壁に対向して,昇降
路25の下部に位置し,
頂部プーリ27Aは,トラクションマシン1より上方に位置し,昇降路
25の平断面において,乗かご28の第1及び第2のかご下プーリ29
A,29Bに至るロープ26が乗かご28の対角線端部近傍を通るよう
に,トラクションマシン1のシーブ5から乗かご28の対角線端部近傍へ
向けて同期モータ7と一部重なるように配置され,
頂部プーリ27Aの回転面は,昇降路25の平断面においてロープ26
が乗かご28の第1及び第2のかご下プーリ29A,29Bへ至る側がト
ラクションマシン1のシーブ5から巻き掛けられる側よりドア35に近づ
く方向に位置して近接する左側昇降路壁面に対して傾斜し,
頂部プーリ27Bの回転面は,左側昇降路壁面に平行となっているエレ
ベーター装置。」
ウ上記アの記載によると,刊行物1の次の各記載には,昇降路内の不使用
空間を縮減して,昇降路全体を小さくするとの技術思想が現れているもの
と認められる。
(ア)「本実施の形態によれば,ディスク2の側方に配置した同期モータ
7を,その空隙が回転軸に平行に配置されるラジアルギャップ方式とし
ているので,磁気的吸引力はラジアル方向にのみ働き,軸受8に軸方向
の推力が加わらないので,複雑な推力軸受は必要とすることはない。し
たがって,トラクションマシン1を大形化することは避けられる。
また,ディスク2の制動面と同期モータ7の回転子周面とが,異なる
向きにあるので,ブレーキ力が同期モータ7のギャップに影響を与える
ことが殆どない。更に,ディスク2としては,同期モータ7の円筒状の
回転子ハウジング16が補強材として機能するので,ディスク2の厚さ
を薄くできるという効果もある。
シーブ5の中にモータを組み込まないので,同期モータ7の径を大き
くすることができ,モータ軸長が短くても必要なトルクを得られるの
で,トラクションマシン1全体の軸長を短くでき,昇降路内への配置が
容易になる。
更に,固定子コイル12を集中巻きにすれば,固定子コア13から張
り出す固定子コイル12の端部が小さくなるので,更にモータ軸長を短
くでき,昇降路内への配置が一層容易となる。」(段落【0018】∼
【0021】)
(イ)「図6は,昇降路内機器配置の別の例を示すもので,乗かご28の
ドア35とは反対側に面してカウンタウェイト31とトラクションマシ
ン1を夫々平行に配置し,その間に頂部プーリ27Bをほぼ直角に配置
する。また,乗かご28の下部のかご下プーリ29A,29Bをかご奥
からドア35側へほぼ対角にロープ26が通るように配置し,トラクシ
ョンマシン1と乗かご奥側のかご下プーリ29Aの間に頂部プーリ27
Aを配置する。このように配置することにより,カウンタウェイト31
とトラクションマシン1のトータルの奥行き及び幅をコンパクトに配置
できるので,昇降路面積を有効に利用できるという効果がある。…
図7は,さらに別の昇降路内機器配置を示すもので,トラクションマ
シン1をカウンタウェイト31の横に配置して,カウンタウェイト31
と頂部プーリ27Bとトラクションマシン1のロープ26が同一方向に
渡っていくようにしたものである。このようにすることにより,乗かご
28の奥のスペースの奥行きが小さくでき,昇降路全体を小さくするこ
とができる。
図8は,他の昇降路内機器配置を示すもので,乗かご28のドア35
に隣接する側にトラクションマシン1とカウンタウェイト31を縦に配
置したものである。したがって,昇降路25の奥行きが小さく,横幅が
大きくなるので,昇降路25の横幅が余裕あり奥行きが厳しい用途に適
している。また,乗かご28の背後に構造物がないので,通り抜け型の
2方向で入り口を設ける場合にも適している。」(段落【0032】∼
【0034】)
(3)したがって,刊行物1発明を,同発明と同じエレベータ装置に関する発明
であって昇降路内の不使用空間を縮減して昇降路全体を小さくすることを技
術課題とする訂正発明と,対比することが妨げられる理由はないというべき
である。
この点について原告は,刊行物1(甲1)の「…本発明の目的は,トラク
ションマシンに対してブレーキとモータの影響をなくし,かつトラクション
マシンの組立,分解が容易に行い得るエレベータ装置を提供することにあ
る。」(段落【0007】)との記載から,刊行物1発明は,トラクション
マシンの組立,分解を容易にすることが主目的であると主張する。確かに,
刊行物1発明は,トラクションマシンの組立,分解を容易にすることを目的
としているが,上記ウのとおり昇降路内の不使用空間を縮減して昇降路全体
を小さくすることも考慮しているのであるから,訂正発明と対比することが
妨げられる理由はない。
また,原告は,刊行物1(甲1)の図6∼8には,至極当然のことが記載
されているにすぎず,図8の実施例では,昇降路の横幅方向は余裕がある構
成が示されており,訂正発明のように,昇降路全高(高さ方向,平断面での
幅方向・奥行き方向)にわたる不使用空間の減縮という思想は全く示されて
おらず,これを示唆する記載もないと主張する。しかし,刊行物1の図6∼
8に関する記載(上記ウ(イ)の記載)は,それ自体は当然のことであるとし
ても,昇降路内の不使用空間を縮減して昇降路全体を小さくするとの技術思
想が現れている。また,図8の実施例では,昇降路の横幅方向は余裕がある
としても,奥行き方向では不使用空間が減縮されている。さらに,そもそ
も,前記(1)のとおり,訂正発明は,昇降路全高(高さ方向,平断面での幅
方向・奥行き方向)にわたる不使用空間の減縮という効果を奏するものでは
ない。これらのことからすると,原告の上記主張は,刊行物1発明を訂正発
明と対比することが妨げられることはないとの上記判断を左右するものでは
ない。
(4)以上のとおり,刊行物1発明を訂正発明と対比することができるとの審
決の判断に誤りはなく,取消事由1は理由がない。
3取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について
(1)刊行物2発明につき
ア刊行物2(甲2)には,次の記載がある(訳文は審決の訳文によ
る。)。
(ア)「かご(1)とカウンタウエイト(6)と駆動ユニット(11)を
備えたロープ式エレベーターにおいて,駆動ユニット(11)は,フロ
ア(10)と同じ高さで昇降路(3)内に突き出たコンクリート支持台
(9)に設置されている。駆動ユニット(11)用のコンクリート支持
台(9)は昇降路の幅の一部のみを拡張し,コンクリート支持台(9)
の脇にフリースペース(8)が構成されてカウンタウエイト(6)がコ
ンクリート支持台(9)の脇を通過できるようになっている。このよう
な配置にすることにより,駆動ユニット(11)を建物の任意の階に設
置できる。」(1頁<57>の部分,審決18頁13行∼20行)
(イ)「ロープ式エレベーターは油圧式エレベーターに比べ,オイル温
度,周囲の汚染,昇降特性に関して問題がないという利点があり,昇降
速度も速く,各階に正確に停止する。従来のロープ式エレベーターには
別個の機械室が必要で,通常は昇降路の上部に設置されている。195
5年発行の「運搬・リフト(FrdernundHeben)」誌10号,835ペö
ージの図12に,昇降路内で突き出た台座に設置した駆動ユニットが示
されている。しかし,それでも別個の機械室が必要で,台座はフロアと
同じ高さではなく鋼構造となっている。
最近では,駆動ユニットをそれが別個の機械室を必要としないように
形成しようとする試みが行われてきている。
例えば,EP0680920A2は,機械室がなく駆動ユニットを昇
降路の壁の窪みに設置したロープ式エレベーターを示している。この方
式では,薄形に形成された駆動電動機を使用しなければならない。本発
明でもロープ式エレベーターに関しているが,この実施形態には欠点が
ある。第一に巻上げロープの点検が困難である。第二に,非常時に最寄
の停止階まで手動で可動させることができず,第三にブレーキを手動で
解除できない。したがってバッテリによる非常電力供給設備が必要とな
り,それが故障すると可動できなくなる。
EP0749930A2およびEP0749931にも同様のロープ
式エレベーターが示されている。」(2頁1欄15行∼46行,審決1
8頁22行∼19頁5行)
(ウ)「主特許によると,ロープ式エレベーターの駆動ユニットは容易に
接近し得るようにして昇降路内に配置され,その結果,巻上げロープの
点検とエレベーターの可動は非常時でも問題はない。駆動ユニットは既
述のようにフロアと同じ高さとなるようにコンクリート支持台に設置さ
れているが,それはエレベーターの最上部の停止位置に備えられ,比較
的重いエレベーターの場合は最上部の位置が安全間隔をとってコンクリ
ート支持台の下部で終わっている。カウンタウエイトの巻上げロープは
穴を通してコンクリート支持台まで延ばしている。
本発明は,主特許の巻上げロープにおけるそのような状態を改善する
という課題に基づき,建物の任意の階にコンクリート支持台と駆動ユニ
ットを配置し,カウンタウエイトの巻上げロープをコンクリート支持台
に設けられた穴に通す必要がないようにするものである。
この課題を本発明では,駆動ユニット用コンクリート支持台を昇降路
幅の一部のみ拡張し,コンクリート支持台の脇にフリースペースを用意
し,カウンタウエイトがコンクリート支持台の脇を通過できるようにし
て解決している。
本発明の好適な一形態では,入口ドアの内側で電気制御装置を回転で
きるようにしており,人(エレベーター管理者)が感電するような危険
性は除外されている。」(2頁1欄47行∼2欄8行,審決19頁12
行∼30行)
(エ)「次に概要図をもとに発明の実施例を説明するが,主特許と同じ部
品にはできるだけ同じ符号を使用している。
概要図で示したロープ式エレベーターは,昇降路3のガイドレール2
に沿って昇降するかご1を有している。かご1は,通例の方法で,平行
に延びている巻上げロープ4で吊られており,この巻上げロープ4は,
図面は簡略化しているので一点鎖線で表され,ガイドプーリ5ないし5
aまで延びている。
ガイドプーリ5aは,『下側滑車』として,図示したように,かごの
下に配置され,巻上げロープ4は,かご1の壁に対して傾斜してかご1
の重心を垂直投射した箇所を通って延びている。巻上げロープ4のこの
ような配置によりかご1にはほとんど回転モーメントが作用せず,ガイ
ドレールとの摩擦を最小限にしている。このロープ式エレベーターにお
いて,ガイドプーリ5も,5aもまたかご1の上方に設置されていても
よい。
同様にカウンタウエイト6は,巻上げロープ4に吊られ,昇降路3の
ガイドレール7に沿って上下し,フロア10と同じ高さになるコンクリ
ート支持台9の脇のフリースペース8にあり,コンクリート支持台はフ
リースペース8が構成されているので昇降路の全幅を占めてはいない。
ギヤレス駆動装置の駆動ユニット11は,巻上げロープ4を可動させ
るトラクションシーブ13とともに昇降路3内のコンクリート支持台9
にあって,概略図のように昇降路3の境界壁14に対して直角とはなっ
ていない。」(2頁2欄36行∼65行,審決19頁下7行∼20頁1
3行)
(オ)「以上の説明から,『機械室』を昇降路3内に統合(融合)するこ
とにより,公知の同様のエレベーターに比較して,保守,点検,非常時
の操作が本質的に簡略化され容易化された。カウンタウエイト6のフリ
ースペース8を設けることによって,カウンタウエイト6がコンクリー
ト支持台9の脇を通過できるため,駆動ユニット11を任意の階に設置
することができる。」(3頁3欄19行∼28行,審決20頁15行∼
19行)
イ上記アの記載と刊行物2の図面によると,刊行物2には,審決(22頁
下10行∼23頁6行)が認定するように,次の発明(刊行物2発明)が
記載されているものと認められる。
「かご1と,カウンタウエイト6と,駆動ユニット11と,ガイドレー
ル2,7と,かご1をガイドプーリ5aを介して懸架するとともにカウン
タウエイト6を懸架する巻上げロープ4とを備え,平面図において,スラ
イドドア21,昇降路ドア22に対してかご1の側方にカウンタウエイト
6と駆動ユニット11は並んで配置されたロープ式エレベーターにおい
て,駆動ユニット11を昇降路3内のコンクリート支持台9上に配置し,
駆動ユニット11を建物の任意の階層に設置し,ガイドプーリ5は,駆動
ユニット11より上方に位置し,かご1の下方に配置されたガイドプーリ
5aに至る巻上げロープ4が,かご1と,駆動ユニット11を支持するコ
ンクリート支持台9との間を通るように配置され,ガイドプーリ5の回転
面は,巻上げロープ4がかご1のガイドプーリ5aへ至る側が,トラクシ
ョンシーブ13から巻き掛けられる側よりスライドドア21及び昇降路ド
ア22から遠ざかる方向に位置して,近接する昇降路3の壁面に対して傾
斜したロープ式エレベーター。」
(2)ア刊行物2発明は,エレベーター装置に関する発明である。また,刊行
物2(甲2)には,昇降路内の不使用空間を縮減して昇降路全体を小さく
する旨の明示の記載があるとは認められないが,上記イのとおり,刊行物
2発明には,かご1,カウンタウエイト6,駆動ユニット11,ガイドレ
ール2,7などを昇降路内の限られた空間に配置する構成が示されてお
り,昇降路内の不使用空間を縮減して昇降路全体を小さくすることも当然
考慮された上で,上記のような構成になったものと考えられる。このよう
なことからすると,刊行物2発明は刊行物1発明と組み合わせることがで
きるものである。
そして,刊行物2発明では,上記(1)イのとおり,駆動ユニット11
は,昇降路の最下層の床面でない部分に設置されているから,駆動ユニッ
ト11を昇降路の最下層の床面でない部分に設置するとの技術思想が示さ
れているということができる。
イさらに,エレベーター装置において,ピットが冠水した場合の被害防止
のために,昇降路内の機器を最下階乗り場の床面より少し高い位置に設置
すること(丙7公報)や最下階の床面より上方に設置すること(丙8公
報)が知られており,また,保守点検のために駆動装置を昇降路の1階付
近に設けることも知られていた(丙9公報)。
ウそうすると,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識
を有する者)は,刊行物1発明において,トラクションマシン(巻上機)
を昇降路の最下層の床面でない部分に設置することを容易に想到すること
ができたものと認められる。そして,訂正発明の「前記巻上機は,…前記
昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置
し,」とは,ほぼ最下階付近を指しており,巻上機の位置をこのような位
置に特定することは,上記丙7∼9公報の記載をも参酌すると,当業者が
容易になし得る事項にすぎないものということができる。
したがって,当業者は,訂正発明の相違点2に係る構成を容易に想到す
ることができたものと認められる。そして,前記2(1)イ(ア)のとおり,
訂正発明の「巻上機が,昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつ
かご天井より下方に位置し」との構成は,昇降路の高さ方向の不使用スペ
ースを縮減することができる効果を有するとともに,「巻上機の温度上昇
による故障を押さえ,昇降路への冠水に対して巻上機の損傷が無く,また
点検時の予期せぬかごの上昇に対する防護手段の必要を無からしめる」と
の効果も有するものと認められるが,上記の刊行物1発明,刊行物2発明
及び上記イ認定の技術に基づいて容易に想到することができる装置におい
ても,これらの効果を奏するものということができる。
エこの点について,原告は,刊行物2(甲2)には,「本発明では,昇降
路3に"機械室"を組み込んでいるので,保守,点検,非常時の操作が公知
の同様のエレベータに比べ容易に行えるようになっている。」(原告提出
の甲2の訳文3頁の31行∼32行)と記載され,「当然であるが,コン
クリート台9には昇降路3との境に安全柵(図示していない)を取り付け
る。」(原告提出の甲2の訳文4頁の1行∼2行)と記載されているか
ら,刊行物2発明は,昇降路内に機械室を設けて,保守等を容易にすると
いう目的のもとに,建物の任意の階に「機械室」の土台としての意味を持
つコンクリート台9を設置し,その上に駆動ユニット11を設置するとい
う発明であると主張する。
しかし,刊行物2発明においても,昇降路内の不使用空間を縮減して昇
降路全体を小さくすることが考慮されていると考えられることは,上記ア
のとおりである。また,刊行物2(甲2)には,上記の原告が主張する記
載があるが,刊行物2発明では,「機械室」を設けるとはいっても,コン
クリート台9の上に駆動ユニット11を載せ,昇降路3との境に安全柵を
取り付けたものにすぎず,独立した機械室を設けるというものではない。
そして,刊行物2発明は,そのような構成を採ることにより,上記アのと
おり,駆動ユニット11を昇降路の最下層の床面でない部分に設置すると
の技術思想が示されているということができる。
また,原告は,刊行物2発明においては,コンクリート台を設けた階層
において増加した昇降路断面積がコンクリート台を設けていない階層にお
いても同様に増加する結果,昇降路平断面において,不使用空間が増大す
ると主張するが,駆動ユニット11を設置した部分の上下に不使用空間が
生ずることは避けられないことであって,コンクリート台が存するかどう
かは,不使用空間の大きさが多少異なるという程度の問題にすぎない。
さらに,原告は,刊行物1のトラクションマシンはピットに固定されて
いるために,かごが最下階にあるときでも,トラクションマシン(巻上
機)とかごは離れていることが前提となっていると主張する。刊行物1
(甲1)には,「フレーム3の下部は,平で大きな足18が設けられ,こ
れを昇降路床面に固定することにより,トラクションマシン1が安定して
確実に動作するようにしている。」(段落【0014】),「トラクショ
ンマシン1を昇降路25のピットに固定し,…」(段落【0027】)と
記載されているから,刊行物1発明において,昇降路の下部にあるトラク
ションマシン1はピットに固定されているものと認められる。しかし,そ
うであるからといって,当業者が,刊行物2発明や上記イの技術を参酌し
て,トラクションマシン(巻上機)を昇降路の最下層の床面でない部分に
設置することを容易に想到することが妨げられるということはできない。
以上のとおり,原告の上記主張は,いずれも上記ウの認定を左右するに
足りるものではない
(3)したがって,相違点2についての審決の判断に誤りはなく,取消事由2
は理由がない。
4取消事由3(相違点3及び4についての判断の誤り)について
(1)前記3(2)アのとおり,刊行物2発明は刊行物1発明と組み合わせること
ができるところ,前記3(1)イのとおり,刊行物2発明は,「ガイドプーリ
5は,駆動ユニット11より上方に位置し,…ガイドプーリ5の回転面は,
巻上げロープ4がかご1のガイドプーリ5aへ至る側が,トラクションシー
ブ13から巻き掛けられる側よりスライドドア21及び昇降路ドア22から
遠ざかる方向に位置して,近接する昇降路3の壁面に対して傾斜した」との
構成を有しているから,刊行物1発明に,この構成を組み合わせることによ
り,当業者は,訂正発明の相違点4に係る構成を容易に想到することができ
たものと認められる。そして,刊行物1発明に刊行物2発明の上記構成を組
み合わせた構成(「第1の返し車は,巻上機より上方に位置し,第1の返し
車の回転面は,昇降路の平断面においてロープがかごの吊り車へ至る側が巻
上機の綱車から巻き掛けられる側より乗降口から遠ざかる方向に位置して近
接する昇降路の壁面に対して傾斜している」との構成)を採れば,必然的
に,「第1の返し車は,巻上機より上方に位置し,平断面において,かごの
吊り車に至るロープがかごと巻上機との間を通るように,巻上機の綱車から
かごと巻上機との間へ向けてモータ部を横切ってモータ部と重なるよう配置
され」ることになるから,当業者は,訂正発明の相違点3に係る構成につい
ても容易に想到することができたものと認められる。そして,前記2(1)イ(
ウ)のとおり,これらの相違点3及び4に係る構成を採ることにより,訂正
発明は,第1の返し車が巻上機の乗降口側の端部よりも乗降口側に張り出す
ことが無く,巻上機を乗降口側に寄せて配置することが可能となるため,昇
降路の平断面での奥行き方向の不使用スペースを縮減することができるとの
効果を有するものと認められるが,この効果は,上記のとおり,刊行物1発
明と刊行物2発明を組み合わせたものによっても得られるものである。
(2)原告は,刊行物2発明には,かごとかごに対向する物体(コンクリート
台)との間にロープが通るように配置されているが,あくまでもコンクリー
ト台の側面とかごの間であり,巻上機とかごがすれ違う間の空間にかごの吊
り車へ至るロープが通るという構成ではないから,刊行物1発明に関して,
訂正発明のように巻上機のモータ部を横切ってかごと巻上機の隙間にロープ
を通すことに至るまでには相当の創作過程が存在し,当業者が容易に想到し
うる程度のものではないと主張する。刊行物2発明が,原告の主張するよう
なものであるとしても,「コンクリート台の側面とかごの間」と「巻上機と
かごの間」は,いずれも静止物と移動物の間であることには変わりがないか
ら,原告が主張するような大きな違いがあるというものではない。また,上
記(1)のとおり,刊行物1発明と刊行物2発明を組み合わせると,必然的
に,巻上機のモータ部を横切って巻上機とかごがすれ違う間の空間にかごの
吊り車へ至るロープが通るという構成になる。したがって,当業者は,上記
のとおり,この構成を容易に想到することができたものと認められる。
(3)以上のとおり,相違点3及び4についての審決の判断に誤りはなく,取
消事由3は理由がない。
5取消事由4(相違点5についての判断の誤り)について
(1)刊行物4発明につき
ア刊行物4(甲4)には,次の記載がある。
(ア)「【発明が解決しようとする課題】前記従来技術では,つり合おも
りを設けることにより,つり合おもりを設けない場合より,昇降路平面
のサイズが増える場合が生ずる。換言すれば,昇降路平面のサイズに規
制が生じ,昇降路平面のサイズによっては,乗かご平面のサイズを縮小
しないと,昇降路内の機器を配置できない場合が生じる。この解決手段
として,つり合おもりや乗かごのつり心をずらすという方法があるが,
つり合おもりのガイド装置に偏荷重が生じる,ロープがプーリからはず
れやすくなるという不具合が発生する。
本発明は,つり合おもりを設けても,このような不具合を防ぎ,乗か
ご平面および昇降路平面のサイズをつり合おもりのない場合と同等にで
きる流体圧エレベーターの構造を提供することにある。」(段落【00
03】∼【0004】)
(イ)「【課題を解決するための手段】流体圧シリンダへ供給,あるいは
流体圧シリンダから排出する作動流体の流量を制御し,乗かごの速度を
制御する方式の流体圧エレベーターにおいて,つり合おもりを備え,つ
り合おもりをつるロープをかけるプーリを昇降路平面の軸線に対して傾
けて配置したことにより達成される。」(段落【0005】)
(ウ)「【発明の実施の形態】図1は本発明の一実施例である片持式の流
体圧エレベーターの概略構成を説明する図,図2は図1の昇降路平面を
説明する図である。図1,図2により請求項1,2の実施の形態を説明
する。
図1,図2において,1は乗かご,2はプランジャ,3はシリンダ,
4はプランジャ2,シリンダ3よりなる流体圧シリンダである。5は乗
かご1をつるロープ(以下,乗かご用ロープ)で,一端は,乗かご支持
板1Aに止着され,他端は,プランジャ2の頂部に設けられた可動プー
リ6を介して,流体圧シリンダ4側の部材7に止着されている。
また,8はつり合おもりをつるロープ(以下,つり合おもり用ロー
プ)で,一端は乗かご支持板1Aに止着され,他端は,昇降路100上
部のビーム101に設けられた固定プーリ9を介して,つり合おもり1
0に止着されている。
エレベーターの基本動作について,以下,上昇運転の場合で説明す
る。なお,下降運転の場合はこの逆となる。シリンダ3に作動流体が供
給されると,流量に応じた速度でプランジャ2が上昇し,可動プーリ6
にかかる乗かご用ロープ5を介して乗かご1が上昇する。一方,つり合
おもり10はプランジャ2が上昇すると,固定プーリ9にかかるつり合
おもり用ロープ8を介して下降する。
図2において,乗かご1は,レールブラケット200に固定された乗
かご用ガイドレール201にガイド装置202を介して案内されてい
る。流体圧シリンダ4,つり合おもり10は乗かご1の背面に配置され
ている。
可動プーリ6は,プランジャ2の頂部に固定された可動プーリ枠体2
03に組み込まれており,可動プーリ枠体203はレールブラケット2
04A,204Bに固定されたプランジャ用ガイドレール205にガイ
ド装置206を介して案内されている。
つり合おもり10は,つり合おもり枠体207を備え,つり合おもり
枠体207はレールブラケット204B,204Cに固定されたつり合
おもり用ガイドレール208にガイド装置209を介して案内されてい
る。
図中,白丸は乗かご用ロープ5を示し,黒丸はつり合おもり用ロープ
8を示している。
つり合おもり用ロープ8をつる固定プーリ9を昇降路平面の軸線Xに
対して傾けて配置している。図2では,つり合おもり10を設けない流
体圧エレベーターの乗かごおよび昇降路平面のサイズを示している。し
たがって,昇降路平面のサイズを広げることなく昇降路内に乗かご1,
ガイドレール201,205,208,流体圧シリンダ4,つり合おもり
10等の機器を配置できることを示している。
仮に,固定プーリ9にかけるつり合おもり用ロープ8の乗かご側つり
心C1を変えずに,固定プーリ9を昇降路平面の軸線Xと平行に配置す
ると,以下のような不具合が発生する。
(1)つり合おもり10を図示の位置のままとすると,つり合おもり
10のつり心を図中左側にずらさなければならない。この場合,つり合
おもり枠体207のガイド装置209に偏荷重が生じる。なお,つり合
おもり10のつり心を変えないと,つり合おもり用ロープ8が固定プー
リ9からはずれやすくなるという不具合が発生する。
(2)(1)を防ぐために,つり合おもり10を図中左側にずらす
と,この方向に昇降路平面のサイズを広げるか,乗かご1の奥行きサイ
ズを縮小せざるを得ない。」(段落【0006】∼【0017】)
イ上記アの記載及び刊行物4(甲4)の図1,2によると,刊行物4に
は,審決(25頁下4行∼下2行)が認定するとおり,「流体圧エレベー
ターにおいて,つり合おもりを備え,つり合おもりをつるロープをかける
プーリを昇降路平面の軸線に対して傾けて配置したエレベーター。」とい
う発明(刊行物4発明)が記載されているものと認められる。そして,刊
行物4には,このような配置としたことによって昇降路平面のサイズを小
さくすることができる旨が記載されている。
(2)前記2(1)イ(イ)のとおり,訂正発明においては,「第2の返し車の回転
面は,昇降路の平断面において,近接する昇降路の壁面に対して,ロープが
カウンターウェイトの吊り車へ至る側が巻上機の綱車から巻き掛けられる側
よりかごに近づく方向に傾斜し,巻上機の綱車は,カウンターウェイトの吊
り車よりも近接する昇降路の壁面側に位置している」との構成(相違点5に
係る構成)が,昇降路の平断面での幅方向の不使用スペースを縮減するとい
う効果につながるかどうかは明らかでないから,この構成は効果が明らかで
なく,返し車に適宜傾斜を付けたというものにすぎないから,当業者が適宜
なし得る事項にすぎない。また,流体圧エレベータ(刊行物4発明)と巻上
機(トランクションマシン)を用いるロープ式エレベータ(訂正発明,刊行
物1発明)という違いがあるとしても,刊行物4発明には,つり合おもりを
つるロープをかけるプーリを昇降路平面の軸線に対して傾けて配置すること
によって,エレベータの昇降路平面のサイズを小さくすることが記載されて
いるから,その技術思想を適用することによっても,訂正発明の相違点5に
係る構成を容易に想到することができたものと認められる。
この点について,原告は,流体圧エレベータとトランクションマシンを用
いるロープ式エレベータの違いを強調するが,この違いは,訂正発明の相違
点5に係る構成を容易に想到することができたとの上記認定を妨げるもので
はない。
(3)以上のとおり,相違点5についての審決の判断に誤りはなく,取消事由
4は理由がない。
6取消事由5(相違点1∼5すべてについての判断の誤り)について
(1)以上の2∼5のとおり,取消事由1∼4はすべて理由がないから,訂正
発明は,当業者が容易に想到することができたとの審決の判断に誤りはな
い。
(2)原告は,訂正発明においては,相違点2及び相違点4について訂正発明の
構成をとることにより,巻上機とかごがすれ違う狭い空間にロープが通るこ
とになるが,通常の当業者であれば,このような事態を避けるように設計を
行うから,相違点2と相違点4の組み合わせには,着想阻害事由が存在する
と主張する。しかし,前記3(1)のとおり,刊行物2発明では,かごとコン
クリート台がすれ違う空間にロープを通しており,巻上機とかごがすれ違う
空間とは,静止物と移動物の間ということでは変わりがないし,また,巻上
機とかごがすれ違う空間にロープが通るとしても,安全距離を採るなどすれ
ば,危険性はなくなる。したがって,巻上機とかごがすれ違う空間にロープ
が通るということから,直ちに着想阻害事由が存在するということはできな
い。
また,原告は,訂正発明は,あえて相違点2及び相違点4の構成を採りつ
つ,同時に相違点3及び5の構成も同時に採用することによって,訂正発明
の効果を達成するものであると主張する。しかし,前記3(2)ウのとおり,
刊行物1発明,刊行物2発明及び上記イ認定の技術に基づいて容易に想到す
ることができる装置においても,相違点3の構成を採用したのと同様の効果
があり,前記2(1)イ(イ)のとおり,相違点5の構成を採用したことによる
効果は明らかでない。したがって,この主張も,訂正発明の進歩性を基礎付
けるものということはできない。
さらに,原告は,審決は,刊行物1∼4(甲1∼4)の目的も前提も異に
する発明の記載から,その目的,前提の相違を考慮せずに,刊行物1との相
違点の解消に必要な特定の記載を抽出し,各相違点について異なる組み合わ
せによって訂正発明の構成を想到することが容易であると認定し,結果とし
て,相違点1∼5のすべてについて同時に,訂正発明の構成を想到すること
が容易であると判断しているが,このような判断は誤っている,とも主張す
るが,そのような原告の主張が採用できないことは,すでに述べたところか
ら明らかである。
(3)したがって,取消事由5は理由がない。
7結論
以上のとおり,原告主張の取消事由1∼5は全て理由がない。
よって,その余の点(取消事由6)について判断するまでもなく,原告の請
求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官澁谷勝海

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛