弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人布施辰治上告趣意第一点について。
 しかし原判決はその冒頭において「被告人は、、、、、Aと相談の上転出証明書
を偽造行使して主食を騙取、、、、ことを企て」と判示し、判示第一事実として所
論前段の摘示に続いて「同月一〇日頃埼玉県a町b町c番地被告人方でAと共に行
使の目的で被告人が使用していないB等九〇数名の名簿を提供しAが右転出証明書
用紙二〇枚の表面、、、、所要記入欄にペンで右B外九七名の氏名其の他の所要事
項を書入れ被告人が裏面配給物資記入欄の、、、、、、項に「昭和二三年二月一五
日」というゴム印を押し味噌、醤油、塩の欄にペンで、、、「二」の字を入れ次で
同月一四日頃千葉県館山市内C旅館で転出先欄に「千葉県安房郡d村」という文字
を書入れ、、、、右東京都中野区Dの作成すべき転出証明書二〇通(昭和二三年押
第三二六二号の一)の偽造を順次完成し」と判示しているのであるから、右第一事
実の判示は原審が被告人と原審相被告人Aとは転出証明書の偽造を共謀し偽造文書
の素材に供する目的で氏名住所不詳の朝鮮人から判示の転出証明書用紙を買受けこ
れに判示のように年月日、氏名、数量、転出先等を記載して本件転出証明書の偽造
を完成したものと認定判示したものであることは明白である。すなわち、文書偽造
罪の構成要件事実を判示したものと認むべきことは疑いのないところである。これ
に反し、所論は右判示をもつて文書変造を判示したものであると主張するのである
が、被告人等が買入れた転出証明書用紙にすでに一部偽造の箇所があつたにしても
未完成部分にさらに虚偽の事実を記入し偽造文書として通用し得る程度に偽造を完
成したのは文書偽造の範疇に属するものと解するを相当とする。しかるに、所論の
ごとく文書変造を認めんとするには、真正に成立した文書を基本とすべきであると
いう点から見ても、所論の見解の正当にあらざることを知るに足るであろう。
 所論は結局判示にそわない事実を独断して原判決の擬律を非難するにすぎないも
のであるから採ることができない。
 同第二点について。
 所論の例のごとく窃盗犯人がその贓物を処分しても窃盗によつてすでに侵害した
同一財産法益を引続き侵害するにとゞまる限り、その処分行為は窃盗罪に包摂され
てしまうものであることは所論のとおりであるが、これと異なりその処分が窃盗に
よつて侵害された法益と別箇の刑罰法規の対象である別異の法益を侵害する場合に
は窃盗罪の他に別個の法益侵害に対する犯罪の成立することも亦多言を要しないと
ころである。(昭和二三年(れ)第一一七号、同二四年七月二二日大法廷判決)。
されば被告人等が公文書を偽造行使して詐取した米麦を他に売却するについても詐
欺によつて侵害された財産法益が引続いて侵害されるにとゞまる場合は所論のよう
に売却の所為は詐欺罪に包摂されると解すべきであるが、本件の場合のように米麦
の統制価格を超えて売却した場合は詐欺罪によつて侵害された法益と別異の法益で
ある物価統制令の保護せんとする国民生活の安定という法益を侵害するものである
から、原審において被告人等が詐取した米麦を統制価格を超えて売却した所為に対
して物価統制令を適用して処断したからといつて原判決には所論のように二重に処
罰した違法は毛頭存しない。論旨はそれ故理由がない。
 同第三点について。
 しかし物価統制令第三六条は刑種を法定したものであつて一種の法定刑を規定し
たものと解すべく、従つて訴訟法は所論特殊犯情を判示し且つこれを説明すべきこ
とを命じていないのみならず、情状により法定された刑の範囲内で量刑することは
特別の理由なき限り事実審の裁量に属するところである。されば、原審が被告人に
対して、罰金と懲役とを併科した情状について判示しなかつたからといつて原判決
には毛頭違法のかどは存しない。論旨は理由がない。
 同第四点について。
 しかし原判決は被告人の公文書偽造、同行使、詐欺並びに物価統制令違反の犯罪
行為を認定し右各文書行使罪は一個の行為で数個の罪名に触れ公文書偽造とその行
使と詐欺との間には順次に手段結果の関係があるものとして刑法五四条一項前段及
後段一〇条を適用して結局最も重いBと記入してある偽造文書行使罪の刑に従ひこ
れと前記各物価統制令違反の罪とは刑法四五条前段の併合罪にあたるものとし物価
統令違反の罪については情状により同令三六条を適用して懲役と罰金とを併科し刑
法四七条四八条一〇条によつて懲役刑については重い偽造公文書行使罪の刑に法定
の加重をなすとともに、罰金刑についてはこれを合算しその刑期及罰金額の範囲内
で刑の量定をしたことは原判文上明瞭であつて、所論のように重い公文書偽造罪に
従つて刑を量定したものではない。そして数個の犯罪を併合罪として処断すべき場
合においてその数個の犯行中犯罪として処断すべき犯罪あるときは、先ず、刑法五
四条一〇条を適用してこれ等の犯罪について処断刑を定めしかる後にこれと爾余の
犯罪とについて同法四七条四八条に従ひ併合罪の加重を行うべきことは多言を要し
ないところであつて、所論のごとく先ず同法四八条を適用すべき理由はない。
 されば前叙の措置にいでた原判決は相当であつて、所論は独自の見解に立つて原
判決の擬律を非難するものであつて採用の限りでない。
 同第五点について
 原判決が被告人に対して訴訟費用の全部の負担を命じたことは所論のとおりであ
る。しかし記録によれば第一審においては証人、鑑定人等を呼び出していないので
あるから被告人等に負担を命ずべき訴訟費用は生じなかつたものといわねばならぬ。
されば原判決において被告人に負担を命じた訴訟費用は当然原審において被告人の
みの審理のために訊問した証人等に支給した日当であることは明らかなところであ
るから、原判決が訴訟費用の全部の負担を被告人に命じたのは当然の措置である。
なおその負担の事由は旧刑訴第三六〇条第一項にいわゆる罪となるべき事実にはあ
たらないから、これを説明しなかつたからといつて違法であるとはいえない。論旨
理由がない。
 よつて旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 十蔵寺宗雄関与
  昭和二四年九月一日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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