弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       1 原判決中次の部分を破棄する。
        (1) 被上告人Bに関する部分
        (2) その余の被上告人らに関する部分のうち平成6年
          度及び同7年度に鹿児島県秘書課,財政課及び東
          京事務所が執行した食糧費の支出に係る懇談会等
          の出席者名簿中鹿児島県職員以外の出席者に関す
          る部分につき上告人の控訴を棄却した部分
       2 前項の(2)の部分につき,本件を福岡高等裁判所に差
         し戻す。
       3 本件訴訟のうち被上告人Bに関する部分は,
         平成10年5月23日同被上告人の死亡により終了
         した。
       4 上告人のその余の上告を棄却する。
       5 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 第1 職権による検討
 本件は,被上告人らが,旧鹿児島県情報公開条例(昭和63年鹿児島県条例第4
号。平成12年鹿児島県条例第113号による全部改正前のもの。以下「本件条例」
という。)に基づき,本件条例所定の実施機関である上告人に対し公文書の開示を
請求したところ,上告人から公文書の一部非開示処分を受けたため,その取消しを
求めている事案である。ところで,記録によれば,被上告人Bは平成10年5月2
3日死亡していることが明らかである。【要旨】本件条例に基づく公文書等の開示
請求権は,請求権者の一身に専属する権利であって相続の対象となるものではない
から,本件訴訟のうち同被上告人に関する部分は,その死亡により当然に終了して
おり,原判決中同被上告人に関する部分はこれを看過してされたものとして破棄を
免れない。
 第2 上告代理人和田久,同蓑毛長史の上告理由について
 民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは,民訴法312条
1項又は2項所定の場合に限られるところ,本件上告理由は,違憲及び理由の不備・
食違いをいうが,その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって
,上記各項に規定する事由に該当しない。
 第3 上告代理人和田久,同蓑毛長史の上告受理申立て理由(ただし,排除され
たものを除く。)について
 1 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) 鹿児島県(以下「県」という。)の住民である被上告人らは,本件条例に
基づき,本件条例所定の実施機関である上告人に対し,平成6年度及び同7年度に
県秘書課,財政課及び東京事務所が執行した食糧費の支出に係る支出負担行為・支
出命令票(以下「本件支出負担行為・支出命令票」という。),請求書(以下「本
件請求書」という。)及び懇談会等の出席者名簿(以下「本件出席者名簿」という。)
の開示を請求したところ,上告人は,平成8年9月2日付けで県秘書課執行分の文
書について,同月3日付けで県財政課及び東京事務所執行分の文書について,それ
ぞれ本件条例8条2号,3号及び8号所定の非開示情報が記録されているとして上
記各文書の一部非開示処分(以下「本件各処分」という。)をした。
 (2) 本件出席者名簿には本件支出負担行為・支出命令票に係る懇談会等の出席
者(県職員を含む。)の所属,職及び氏名が記載されているところ,上告人は,本
件各処分において,本件出席者名簿のうち懇談会等の出席者の氏名その他の出席者
である特定の個人が識別され得る部分(以下「本件非開示部分」という。)につき
,本件条例8条2号及び8号所定の非開示情報が記録されているとしてこれを非開
示とした。
 (3) 本件条例8条は,「実施機関は,開示の請求に係る公文書等に次の各号の
いずれかに該当する情報が記録されているときは,当該公文書等の開示をしないこ
とができる。」と定めており,その2号には,「個人に関する情報(事業を営む個
人の当該事業に関する情報を除く。)であって,特定の個人が識別され,又は識別
され得るもの。ただし,次に掲げる情報を除く。ア 法令等の定めるところにより
,何人でも閲覧することができるとされている情報 イ 実施機関が公表を目的と
して作成し,又は取得した情報 ウ 法令等の規定による許可,届出その他これら
に類する行為に際して実施機関が作成し,又は取得した情報であって,開示するこ
とが公益上必要であると認められるもの」と規定されている。
 2 原審は,上記事実関係等の下で,次のとおり判断した。
 本件非開示部分に係る情報は,懇談会等の出席者である特定の個人が識別され得
るものであって,本件条例8条2号本文所定の情報に該当するが,食糧費が行政事
務又は事業の執行上直接的に費消されるものであり,かつ,本件において開示を求
められている各文書からの情報では具体的な懇談の内容は明らかにはならず,出席
者個人のプライバシー等の権利利益の侵害が生じる可能性が少ないことなどからす
れば,出席者が県職員,県職員以外の公務員,公務員以外の者のいずれの場合であ
っても,社会通念上公表されることを予定して作成され,又は取得された情報と認
められるので,同号ただし書イ所定の情報に当たり,同号所定の非開示情報には該
当しない。
 3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
 (1) 本件条例8条2号本文にいう「個人に関する情報」は,事業を営む個人の
当該事業に関する情報が除外されている以外には文言上何ら限定されていないから
,個人にかかわりのある情報であって,特定の個人が識別され,又は識別され得る
ものは,原則として,同号所定の非開示情報に該当するというべきである。
 もっとも,同条3号が法人(国及び地方公共団体を除く。)その他の団体(以下
「法人等」という。)に関する情報及び事業を営む個人の当該事業に関する情報に
ついて,個人に関する情報と異なる類型の情報として非開示事由を規定しているこ
とに照らせば,本件条例においては,法人等の代表者又はこれに準ずる地位にある
者が当該法人等の職務として行う行為など当該法人等の行為そのものと評価される
行為に関する情報については,専ら法人等に関する情報としての非開示事由が規定
されていると解するのが相当であり,同条2号所定の非開示情報には該当しないと
いうべきである。また,本件条例の趣旨,目的に照らせば,公務員の職務の遂行に
関する情報は,公務員個人の私事に関する情報が含まれる場合を除き,公務員個人
が同号本文にいう「個人」に当たることを理由に同号所定の非開示情報に該当する
とはいえないと解するのが相当である(最高裁平成10年(行ヒ)第54号同15
年11月11日第三小法廷判決・民集57巻10号登載予定〔編注:民集57巻1
0号1387頁〕参照)。
 (2) これを本件についてみると,本件出席者名簿には出席者として相手方及び
県職員の所属,職及び氏名が記載されているというのであるから,本件非開示部分
に係る情報は,特定の個人が識別され,又は識別され得るものである。しかしなが
ら,本件出席者名簿に係る懇談会等は,県の食糧費が支出されたものであって,い
ずれも県の行政事務又は事業の施行のために行われたものとみることができるもの
であるから,その懇談会等に出席した県職員は,その公務の遂行として出席したも
のということができる。そして,本件出席者名簿には,当該県職員個人の私事に関
する情報が含まれているものとは認められないから,本件非開示部分のうち県職員
に関する部分に係る情報は,本件条例8条2号所定の非開示情報に該当しないとい
うべきである。
 本件出席者名簿に係る懇談会等の出席者に県職員以外の公務員が含まれているか
どうかは原審によって確定されていないが,同懇談会等が食糧費を支出して開催さ
れたものであることからすると,出席者に県職員以外の公務員が含まれていた蓋然
性は高いと考えられる。そして,出席者が県職員以外の公務員である場合において
も,当該出席者がその公務の遂行として懇談会等に出席したのであれば,その出席
者に関する情報は,同号所定の非開示情報に該当しないというべきである。これに
対し,本件出席者名簿に係る懇談会等の出席者が公務員以外の者である場合には,
その出席した行為が法人等の行為そのものと評価される場合を除き,その出席者に
関する情報は,原則として,同号所定の非開示情報に該当するというべきである。
 (3) ところで,本件条例8条2号ただし書は,同号所定の非開示情報から除外
される情報を規定しているが,同号ただし書イの「実施機関が公表を目的として作
成し,又は取得した情報」とは,本件条例の目的,趣旨からすれば,実施機関が公
表することを直接の目的として作成し,又は取得した情報に限られず,公表するこ
とが本来予定されているものをも含むものと解される。しかしながら,本件出席者
名簿に係る懇談会等の県職員以外の出席者に関する情報のすべてにつき,食糧費が
行政事務又は事業の執行上直接的に費消されるものであり,かつ,本件において開
示を求められている各文書からの情報では具体的な懇談の内容は明らかにはならず
,出席者個人のプライバシー等の権利利益の侵害が生じる可能性が少ないことなど
を理由に,公表することが本来予定されていたということは困難であり,また,こ
れらの情報が同号ただし書ア又はウ所定の情報に該当すると認めることもできない
から,本件非開示部分のうち県職員以外の出席者に関する部分に係る情報につき,
同号ただし書所定の情報に当たることを理由として同号所定の非開示情報に該当し
ないということはできない。
 (4) そうすると,本件非開示部分のうち県職員に関する部分に係る情報は本件
条例8条2号所定の非開示情報に該当しないというべきであるが,本件非開示部分
のうち県職員以外の出席者に関する部分に係る情報については,当該出席者が公務
員であってその公務の遂行として懇談会等に出席したものであるのかどうか,当該
出席者が公務員でない場合には,懇談会等に出席した行為が法人等の行為そのもの
と評価されるものであるのかどうかについて事実を確定しなければ,同号所定の非
開示情報該当性について判断することはできないというべきである。
 4 以上によれば,原審の判断中,本件非開示部分のうち県職員に関する部分に
係る情報が本件条例8条2号所定の非開示情報に該当しないとした部分は結論にお
いて是認することができるが,本件非開示部分のうち県職員以外の出席者に関する
部分に係る情報のすべてが同号所定の非開示情報に該当しないとした部分には法令
の解釈適用を誤った違法がある。原判決は,本件非開示部分のうち県職員以外の出
席者に関する部分に係る情報は同条8号所定の非開示情報にも該当するとは認めら
れないとして,本件各処分中上記情報に係る部分を非開示とした部分を違法として
取り消した第1審判決を是認して上告人の控訴を棄却しているから,原審の判断の
上記違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はこれと同旨をいう限度
で理由があり,原判決のうち上記判断に係る部分は破棄を免れない。そして,以上
説示したところに従って,本件非開示部分のうち県職員以外の出席者に関する部分
に係る情報が同条2号所定の非開示情報に該当するかどうかにつき更に審理を尽く
させるため,上記部分につき本件を原審に差し戻すのが相当である。
 なお,本件各処分のうち,本件支出負担行為・支出命令票,本件請求書及び本件
出席者名簿につき債権者が識別され得る部分があるとして本件条例8条3号により
該当部分を非開示とした部分並びに本件支出負担行為・支出命令票及び本件請求書
につき懇談会等の出席者が識別され得る部分があるとして同条2号及び8号により
該当部分を非開示とした部分に関する上告は,上告受理申立ての理由が上告受理の
決定において排除されたので,棄却することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 上田豊三裁判官金谷利廣裁判官濱田邦夫 裁判官 藤田宙靖)

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