弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴はこれを棄却する。
     当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は末尾添附の弁護人遊田多聞提出の控訴趣意書記載のとおりであ
るからここにこれを引用する。これに対する当裁判所の判断は左のとおりである。
 控訴趣意第一点について。
 刑法第二五三条にいわゆる業務とは、法令によると、慣例によると契約によると
を問わず、一定の事務を反覆常業とする場合をいい、その行為自体が各種犯罪行為
のように法の特に禁止し処罰する行為であるときは、これを反覆常業としても同条
にいう業務ということはできないが、行政上の取締の必要上その行為を制限するに
過ぎないような場合にはその行為が適法でないとしても現実に反覆常業とされてい
る事実があれば、これを同条の業務というを妨げないものと解するを相当とする。
そして原判決引用の証拠によると、被告人は昭和二六年一一月頃から原判示A大学
事務局会計課長Bの下に同課出納係長として国庫金の出納保管の業務に従事してい
たものであるか、その後間もない頃から右Bの指示により、同人と協議の上、多数
回に亘り、同大学出入の業者に対する支払に充てる名目で振出した同大学事務局会
計課長Bを振出人とするC銀行D代理店宛小切手多数を業者に渡さないでこれを直
接同銀行代理店において現金化しこれ<要旨>を保管することを慣例としていたこと
を認めることができるのであつて、右のように被告人が業者に対する支払に
充てる名目で会計課長Bを振出人とする小切手多数を振出し、これを業者に渡さ左
いで現金化して保管したことが所論のように会計法第一五条、第一六条に違反する
ものであつたとしても、かかる行為は同法の規定全般を検討すれば同法がこれを犯
罪行為として特に禁止し処罰する行為としたものではなく、会計上の不正を予防す
るため会計の事務処理に当る者の行為を制限することを目的として右のような行為
をしてはならないものとしたものと解することができるのであるから、被告人が右
のような行為を事実上反覆常業としていることを以て刑法第二五三条にいわゆる業
務とするに妨げないものといわねばならない。しからば原判決が被告人の右のよう
に現金化した小切手金の占有を業務上の占有と認定しているのは相当であり、所論
のように法令の適用を誤つたものではない。次に横領罪の成立に必要な不法領得の
意思とは、他人の物の占有が委託の任務に背いてその物につき権限がないのに所有
者でなけれはできないような処分をする意思をいうものであつて、必ずしも占有者
が自己の利益取得を意図することを必要とするものでばないのである。原判決引用
の証拠によれば、被告人は原判示第二のとおり原審相被告人Bと共謀の上原判示第
三のとおり単独で、その占有する国庫会計金中から、任務に背き、権限がないの
に、同大学会計課司計係として勤務していたEに対しそれぞれ原判示のとおり予算
上の拘束をはなれて金員を貸与したものであることを認めることができるのである
から、被告人がその占有中の国庫会計金をEに貸与した所為は不法領得の意思を以
て右国庫会計金を横領したものといわねばならない。被告人が所論のように右Eの
窮状に同情し同人の給料賞与等から返済を受ける約言の下に右国庫会計金を貸与し
たもので、被告人自身の利益取得を意図したものでなかつたとしても、これによつ
て被告人に不法領得の意思がなかつたものということはできない。従つて原判決が
被告人の原判示第二、第三のEに対する国庫会計金貸与の事実を認定し、これを国
庫会計金の横領行為にあたるものとしているのは相当であり、所論のように法令の
適用を誤つているものではない。しからば原判決には所論のような違法はなく論旨
は理由がない。
 (その余の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 加納駿平 判事 吉田作穂 判事 山岸薫一)

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