弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は「原判決中控訴人勝訴の部分を除きその余を取消す、被控訴人の請
求を棄却する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする、」との判決を求
め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張は、双方において次の通り述べた外、原判決事実摘示
と同一であるからこれを引用する。
 第一、 被控訴人の主張
 (一) 本件土地の賃借人である訴外Aは昭和二十八年八月六日死亡し、その法
定推定家督相続人たるBがその家督相続をなし、本件土地の賃借権を承継したが、
同女は昭和二十一年五月十一日訴外Cと入夫婚姻をなし、右Cにおいて家督相続を
して本件土地の賃借権を承継したところ、Bは昭和二十二年六月七日右Cの代理人
として被控訴人に対し本件土地を返還したので、本件土地の賃貸借は合意解約によ
り終了したものである。
 (二) 終戦後、訴外大東造船株式会社において本件土地を使用した事実はな
く、控訴人個人が大東造船鉄工株式会社名義で造船業を営み、何等の権原なくして
本件土地を使用してこれを不法に占拠していたものである。
 (三) 本件土地の賃料相当の損害金の額は一ケ月金二百二十五円である。
 第二、 控訴人の主張
 (一) 訴外Dは、被控訴人より、本件土地の内東南部分にある木造枌葺バラッ
ク建作業場一棟建坪約三十二坪の敷地及びこれに隣接した本件土地の外側の土地と
海面とを賃借し造船業を営んでいたが、訴外大東造船株式会社は、その設立直後た
る昭和二十年二月二十二日頃造船事業経営のため、Dに対し金四万円を支払つて同
人より右土地の賃借権及び事業設備を譲受け、更に右土地及び本件土地全部を含む
被控訴人所有の土地海面共合計約四千坪を被控訴人より賃借し、その全部の賃料を
一ケ月金二百円と定めたものである。
 (二) 本件土地の占有者は訴外大東造船株式会社である。控訴人は、終戦後同
会社の重役の持株の殆ど全部を所有するに至つたため、戦災後福島県に帰つて行つ
た同会社の代表取締役Eの委任により同会社の事務処理の必要上本件土地を一時代
理占有していたことがあるが、その後、昭和二十二年十二月Eが辞任して、訴外F
が同会社の代表取締役に、控訴人が取締役に各就任し、次いで昭和二十四年十月六
日Fの死亡により控訴人は同会社の代表取締役に就任したものであるから、控訴人
は個人として本件土地を占有しているものではない。
 (三) 仮に被控訴人主張の如く訴外Aが被控訴人より本件土地を賃借していた
ものとすれば、訴外大東造船株式会社は昭和二十年二月二十二日頃Aより本件土地
の転貸を受け、被控訴人はこれを承認していたものである。適法な転貸借のなされ
た場合に、賃貸人と賃借人との間で賃貸借が合意解約せられても、転借人の権利は
存続するのであるから、たとえ被控訴人主張の通り本件土地の賃借人たるAの相続
人が被控訴人と本件土地の賃貸借契約を合意解約しても、同会社の本件土地に対す
る転借権はこれがために消滅するものではない。従つて、同会社は本件土地を占有
使用する権原を有するものである。
 (四) 本件土地の相当賃料は一ケ月余二百円である。
 証拠として、
 被控訴代理人は、甲第一号証から第四号証まで、第五号証の一、二を提出し、原
審証人G、H、I、D、当審証人J、K、B、Cの各証言並びに原審及び当審(第
一、二回)における被控訴会社代表者L本人訊問の結果を援用し、乙第四号証から
第四十八号証までの成立は不知、その他の乙各号証の成立を認めると述べ、
 控訴代理人は、乙第一号証、第二号証の一から五まで、第三号証から第五十号証
までを提出し、原審証人M、E、当審証人M、I、Nの各証言並びに原審及び当審
(第一、二回)、における控訴人本人訊問の結果及び当審における検証並びに被控
訴会社代表者L本人訊問(第一回)の結果を援用し、甲第二、第四号証の成立は不
知、その他の甲各号証の成立を認めると述べた。
         理    由
 被控訴会社が土地建物の賃貸借等を営むことを目的とする株式会社であつて、も
と「元宇品建物株式会社」と称していたが、昭和二十三年五月二十三日その商号を
現在の通り改めたこと、並びに被控訴会社が広島市a町字b乙c番地のd雑種地九
反八畝九歩の内約二百五十坪及び同町字e丙f番地宅地二千四十一坪九合四勺の内
約二百五十坪以上合計約五百坪の本件土地(原判決添付図面(い)(ろ)(は)
(に)(ほ)(い)の線で囲まれた地域)を所有していることは当事者間に争がな
い。
 原審における被控訴会社代表者本人訊問の結果により成立を認め得る甲第二号
証、成立に争のない乙第二号証の一から五まで、原審証人G、当審証人Bの各証言
並びに原審及び当審(第一、二回)における被控訴会社代表者本人訊問の結果を綜
合すれば、被控訴人は昭和十九年頃訴外Aに対し本件土地五百坪及びこれに接続す
る被控訴人の所有土地合計千坪を、期限昭和二十一年四月二十日、賃料一ケ月金二
百円の定めで賃貸したこと、Aは昭和二十年二月二十二日訴外大東造船株式会社設
立に際しその取締役に就任したが、その頃同会社に対し右賃借土地を転貸し、同会
社において右土地を造船工事場及び船舶修理場として使用していたこと、被控訴人
は右転貸借を黙認し、右土地の賃料を直接同会社より受取つていたこと、並びに右
賃料は終戦直後一月金四百五十円に値上げせられたことを認めることができる。従
つて、被控訴人はAと同会社との間の右土地の転貸借を承諾していたものといわね
ばならぬ。
 控訴人は、Aは同会社の取締役となつた関係上、その際同会社のために右土地の
賃借権を放棄し、同会社は改めて被控訴人より本件土地を含む四千坪を賃料一ケ月
金二百円の約で賃借したものである旨主張するけれども、原審証人E、当審証人M
の各証言及び原審及び当審(第一、二回)における控訴人本人訊問の結果中右主張
に副う部分は前掲各証拠に照して容易に信用し難く、他に右主張事実を認めるに足
る何等の証拠も存在しない。
 更に、控訴人は、同会社は本件土地の一部(東南部分)の賃借人であつた訴外D
より賃借権の譲渡を受けた旨主張するけれども、原審証人D、Gの各証言並びに原
審における被控訴会社代表者本人訊問の結果によれば、Dが被控訴人より賃借して
いた土地は本件土地五百坪の範囲外に存することを認め得るから、その余の点につ
いて判断するまでもなく、控訴人の右主張は失当である。
 成立に争のない甲第三号証、乙第一号証、乙第四十九号証、当審証人B、Cの各
証言により成立を認め得る甲第四号証、原審証人G、H、E、当審証人J、K、
B、C、Nの各証言並びに原審及び当審(第一、二回)における被控訴会社代表者
本人訊問の結果によれば、前記大東造船株式会社の設立当時の取締役はE、G、
A、Nの四名であつて、会社を代表すべき取締役はEであつたが、昭和二十年八月
六日広島市の原爆被災により同会社の事務所及び工場は破損し、また前示取締役の
内Aは死亡し、代表取締役Eは、その持株全部を同会社の株主であつた控訴人に譲
渡し同会社の経営を控訴人に一任して、その郷里福島県に引揚げ、G及びNの両名
も昭和二十年末頃事実上同会社の取締役を辞任してその持株全部を控訴人に譲渡
し、その結果控訴人は同会社の株式の大部分を所有して同会社の実権を掌握するに
至つたこと、昭和二十二年初頭頃、控訴人は訴外H外四名と共に発起人となつて、
同会社の転借していた前記土地及びその地上の同会社所有の施設を使用して木造船
の建造及び修理等を営むために、新たに大東造船鉄工株式会社の設立を計画し、同
年四、五月頃には未成立の大東造船鉄工株式会社名義で漁船の建造に着手し、被控
訴人に無断で本件土地を使用し始めたこと、本件土地を含む前示千坪の土地の賃借
人であつたAは前示の通り昭和二十年八月六日死亡し、その長女Bがその家督相続
をなし、次いで昭和二十一年五月十一日右Bとの入夫婚姻により訴外Cがその家督
相続をして、右土地の賃借人たる地位を承継したこと、前示の通り本件土地の転借
人たる大東造船株式会社の登記簿上の取締役は或は死亡し或は事実上取締役を辞任
し、同会社の実権を握つていた控訴人は別に大東造船鉄工株式会社の設立を計画し
て被控訴人に無断で未成立の右会社名義で本件土地を使用し始めるに至つたので、
被控訴人はこれに不安を感じて昭和二十二年六月七日頃C方に赴き本件土地を含む
前記千坪の土地の賃貸借契約を合意解約し、その頃控訴人に対し本件土地の明渡を
求めるに至つたものであることを認めることができる。
 控訴人は、賃貸人の承諾の下に適法な転貸借のなされた場合には、賃貸人と賃借
人とが賃貸借を合意解約しても転借人の権利は消滅しない旨主張するので、この点
について判断する。
 <要旨>賃貸人が賃貸物件の転貸を承諾した場合においても、賃貸人と転借人との
間に直接賃貸借契約が成立するに至るものではないから、基本たる賃貸借が
消滅に帰した場合には、原則として転借人は、賃貸人に対する関係においては、賃
貸物件を使用収益し得る権限を失い賃貸人に対しこれを返還すべきものである。し
かし、賃貸人はもともと転貸借を承諾することにより、転借人が賃貸物件を使用収
益することを認容すべき地位に立つに至つたものであり、また賃借人は賃貸物件を
転借人に使用収益せしむべき契約上の義務を負うているものであるから、賃貸人の
承諾により転借人が賃貸物件を使用収益し得べき権利を取得した後において、賃貸
人と賃借人との合意で以て、ほしいままに転借人の権利を消滅せしめることは信義
誠実の原則に照して許されないところであると解するのを相当とする(大審院昭和
八年(オ)第一二四九号昭和九年三月七日判決参照)。従つて、賃貸借の合意解約
或は合意解除が信義誠実の原則に反する限り、転借人の賃貸物件を使用収益し得る
権利は消滅しないわけであるが、しかし、賃貸人と賃借人との間の賃貸借の合意解
約が何等信義誠実の原則に反せず、正当の事由の存する如き場合には、賃貸借の消
滅により転借人が賃貸物件を使用収益し得る権利も消滅に帰するものであることは
当然である。
 ところで、本件に在つては、前示の通り本件土地の転借人たる大東造船株式会社
の代表取締役Eより同会社の経営を一任せられ且つ同会社の株式の大部分を所有し
てその実権を握つていた控訴人が別に大東造船鉄工株式会社の設立を計画し、被控
訴人に無断で未成立の右会社名義で本件土地の使用を始めているのであるから、転
借人たる大東造船株式会社は賃貸人たる被控訴人に無断で第三者に本件土地を使用
せしめるという不信の所為があつたことになるわけであつて、被控訴人が転借人の
右不信の所為に不安を感じて本件土地の賃借人たるCと賃貸借を合意解約し本件土
地の返還を請求なるに至つたのは、正当の事由によるものであり、何等信義誠実の
原則に反するものではないと解するのを相当とする。従つて、右合意解約により、
転借人たる訴外大東造船株式会社は本件土地を占有使用する権原を失い、これを賃
貸人たる被控訴人に返還すべきものである。
 次に控訴人は、本件土地の占有者は訴外大東造船株式会社であつて控訴人ではな
い旨主張するので、この点について判断する。
 前に認定した通り、控訴人は終戦後同会社の株式の大部分を取得し、同会社の代
表取締役Eの委任により同会社の事務一切を処理していたのであるから、控訴人が
転借人たる同会社のために本件土地を代理占有していたことは明らかである。しか
し、その後昭和二十二年初頭頃、控訴人は大東造船鉄工株式会社の設立を計画し、
その発起人として未成立の同会社名義で本件土地を使用していたことは、前に認定
した通りであるから、その時以後は、控訴人の本件土地に対する占有は自己占有と
なつたものと解するのを相当とする。しかるに、前示乙第一号証、乙第四十九号
証、成立に争のない乙第五十号証、原審証人G、Hの各証言及び当審における控訴
人本人訊問の結果(第二回)並びに弁論の全趣旨によれば、控訴人等において設立
を計画した前示大東造船鉄工株式会社は、本件土地使用についての紛争が原因とな
つて昭和二十二年十一月頃にその設立の目的を達し得ないこととなつたこと、その
後控訴人は昭和二十三年一月十四日頃訴外大東造船株式会社の取締役に、次いで昭
和二十四年十月二十日同会社を代表すべき取締役にそれぞれ就任し、爾後は同会社
の代表機関として本件土地を占有していることを認めることができる。従つて、控
訴人は大東造船株式会社の代理占有者として、本件土地を直接占有していることは
明らかである。
 ところで、同会社がすでに本件土地を転借人として占有使用する権原を有しない
ことは前に認定した通りである以上、同会社の代理占有者たる控訴人が本件土地を
占有する権限のないことは明白であつて、控訴人は本件土地の所有者たる被控訴人
に対し本件土地を明渡すべき義務のあることは勿論である。
 更に、控訴人は、仮定抗弁として、控訴人は被控訴人の承諾の下に前記会社から
本件土地を使用貸借している旨主張するけれども、右主張事実を認めるに足る何等
の証拠も存在しない。
 しからば、控訴人は、本件土地の賃貸借が合意解約せられた昭和二十二年六月七
日以降、何等の権原なくして本件土地を占有し、不法に被控訴人の本件土地所有権
を侵害して被控訴人に賃料相当の損害を与えたものであつて、これにつき控訴人に
少くとも過失のあつたことは以上に認定した事実によつて明白であるから控訴人は
被控訴人に対し、右損害を賠償する義務がある。そして、昭和二十二年六月当時、
本件土地を含む千坪の賃料が一月金四百五十円であつたことは前に認定した通りで
あるから、本件土地約五百坪の相当賃料は一月金二百二十五円と認めるのを相当と
し、従つて、控訴人は被控訴人に対し昭和二十二年六月七日から同年十二月十二日
まで右割合による損害金合計千六百十二円五十銭を賠償すべきものである。
 よつて被控訴人の本訴請求中、控訴人に対し本件土地約五百坪の明渡並びに金千
六百十二円五十銭の支払を求める部分を認容した原判決は相当であつて、(なお、
被控訴人は当審において、原判決により認容せられた請求中、控訴人に対し原判決
添附別紙目録表示の物件の収去を請求する部分の訴を取下げた)本件控訴は理由が
ないから、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を適用して主文の
通り判決する。
 (裁判長裁判官 植山日二 裁判官 佐伯欽治 裁判官 松本冬樹)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛