弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴人
(1)原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
(2)上記(1)についての被控訴人の請求を棄却する。
(3)訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2被控訴人
主文と同旨。
第2事案の概要
1事案の要旨
(1)原審における被控訴人の主張及び請求の要旨
ア被控訴人は,生活保護を受けている者である。
イ被控訴人は,大阪市東淀川区福祉事務所長(以下「福祉事務所
長」という)に対し,タイ王国のバンコクにおいて求職活動等。
,,,をしたとして交通費及び宿泊料の支給を申請したが同所長は
同申請を却下する旨の決定をした。
ウ被控訴人は,福祉事務所長に対し,和歌山県田辺市において参
議院議員選挙の投票をしたとして,交通費の支給を申請したが,
同所長は,上記申請を却下する旨の決定をした。
エ福祉事務所長は,被控訴人に支給する保護費から被控訴人がバ
ンコクに滞在したとしていた期間分の保護費相当額を減額する旨
の保護変更決定をした。
オ上記イないしエの各決定は,いずれも違法である。よって,被
控訴人は,これらの各決定の取消しを求める。
(2)訴訟の経過
ア控訴人は,原審において,福祉事務所長の地位を承継した。
イ原審裁判所は,被控訴人の各請求のうち,上記(1)イ及びウ
の却下決定の取消しを求める部分を棄却し,同エの保護変更決定
の取消しを求める部分を認容した。
ウこれに対し,控訴人のみが,上記第1の1のとおりの判決を求
めて控訴をした。
(3)当審における審判の対象及び争点
よって,当審における審判の対象は,被控訴人の各請求のうち,
上記(1)エの保護変更決定の取消しを求める部分の当否である。
2争いのない事実等(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いが
ない。なお,以下,書証番号は,特記しない限り枝番を含む)。
(1)当事者等
ア被控訴人は,平成13年5月14日,福祉事務所長から,保護
開始日を同年4月16日とする生活保護開始決定(以下「本件生
」。)。,,活保護開始決定というを受けた者であるなおその当時
,(,)。被控訴人は就労していなかった乙21の2弁論の全趣旨
イ福祉事務所長は,平成15年3月31日まで,生活保護法(以
下「法」という)19条4項,職制改正に伴う関係規則の整備。
に関する規則(平成15年大阪市規則第73号)による改正前の
大阪市生活保護法施行細則(昭和31年大阪市規則第63号)2
条1項に基づき,大阪市長から委任を受けて,同福祉事務所の所
管区域である大阪市α(大阪市保健福祉センター条例〔平成15
年大阪市条例第7号〕による廃止前の大阪市福祉事務所条例〔昭
和26年大阪市条例第52号〕1条1項,別表)において,法2
4条から28条まで,30条から37条まで,48条4項,62
条,63条,76条,77条2項,80条及び81条の規定によ
る保護の決定及び実施に関する事務等を行う権限を有していた者
である。
ウ控訴人は,職制改正に伴う関係規則の整備に関する規則による
改正後の大阪市生活保護法施行細則2条1項が平成15年4月1
(),,日に施行されたこと同附則により大阪市長の委任を受けて
東淀川区保健福祉センターの所管区域である大阪市α(大阪市保
健福祉センター条例1条2項,別表第1)において,法の前記各
規定による保護の決定及び実施に関する事務等を行う権限を福祉
事務所長から承継した者である。
(2)本件変更決定
,(,),福祉事務所長は平成13年7月31日乙2弁論の全趣旨
被控訴人に支給した平成13年6月分の保護費のうち被控訴人が海
外滞在中であったとしている同月14日から同月25日までの11
日間相当分の生活扶助費3万3728円を減額して返還させること
とし,法25条2項の規定に基づき,被控訴人に対する同年9月分
の保護費のうち生活扶助費から上記減額分の3万3728円を差し
(「」。)引いて支給する旨の保護変更決定以下本件変更決定という
をした。
そして,福祉事務所長は,同年8月24日,被控訴人に対し,そ
,,の旨記載した同月15日付け保護決定通知書を発送し被控訴人は
同年9月3日,これを受領した(乙1ないし3,17,弁論の全趣
旨。)
(3)審査請求等
ア被控訴人は,大阪府知事に対し,平成13年9月6日付けで,
本件変更決定について審査請求をした(乙1。)
イ大阪府知事は,平成13年11月13日付けで,本件変更決定
についての審査請求を棄却する旨の裁決をした(乙3。)
ウ被控訴人は,厚生労働大臣に対し,平成13年12月13日付
けで,本件変更決定についての再審査請求をした。
エ被控訴人は,上記ウの再審査請求に対する裁決がいまだなかっ
,()。た平成14年5月15日本件訴えを提起した弁論の全趣旨
3争点(本件変更決定の適法性)に関する当事者の主張
下記4のとおり,当事者の当審における新主張を加えるほかは,原
判決10頁13行目から同13頁22行目までに記載されているとお
りであるから,これを引用する。
4当事者の当審における新主張
(1)控訴人
ア被控訴人は,平成13年4月16日に生活保護の開始を申請し
た際には,現金1647円及び預金合計4910円以外に資産は
,,なく同年1月から3月までの収入合計は5万9760円であり
同年4月以降の収入見込みはないと申告していた。
イところが,被控訴人は,平成13年7月18日,同月16日付
け書面により,同年6月14日から同月25日までの間,タイ王
国に渡航したとして,その渡航費用合計7万0920円の支給を
申請した(なお,被控訴人が,タイ王国滞在のため出国した期間
,,。)。は正しくは同年6月14日から同年7月13日までである
ウ本件生活保護開始決定は,被控訴人からの資産等の申告を前提
とするものであるが,上記イの渡航費用支給申請によって,保護
開始決定後1か月余りの時期に,少なくとも7万0920円の渡
航費用を自己負担できる資産を保有していた事実が明らかとなっ
た。同資産の存在は,本件生活保護開始決定時には判明していな
かったものであり,被控訴人の資産状況には,同決定後,顕著な
変動があったと認められる。
エ法は,保護の補足性を基本原理としており(法4条1項,要)
保護者が利用しうる資産,能力その他あらゆるものを活用するこ
とを前提に,最低限度の生活を維持するための不足分を補う程度
において保護を実施するものとしている(法8条1項。)
控訴人がタイ王国に滞在し,かつ,その渡航費用を自己負担と
申告する平成13年6月14日から同月25日までの期間につい
ては,被控訴人は,その保有する資産を活用することにより生活
を維持できたから,上記期間相当分の生活扶助費3万3728円
を減額した本件変更決定には「正当な理由」がある。
(2)被控訴人
控訴人の主張を争う。
被控訴人は,海外における就職活動をするため,一括支給された
平成13年4月分(同月16日から30日まで)及び5月分の生活
保護費を節約し,タイ王国への渡航費用を捻出したものである。被
,。,控訴人が金銭等を余分に保有していたわけではないしたがって
本件変更処分には「正当な理由」はない。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,本件変更決定の取消しを求める被控訴人の請求には理
由があるものと判断する。その理由は,下記2のとおり,当事者の当
審における新主張に対する判断を加えるほかは,原判決21頁18行
目から同26頁16行目までに記載されているとおりであるから,こ
れを引用する。ただし,次のとおり補正する。
(1)原判決24頁17行目の末尾に,次のとおり加える。
「控訴人は,被保護者が国外へ出国する事態を想定した上で法が制定
されたとは考えられず,今日の社会通念をもってしても,被保護者
が国外へ出国することは想定し難いとか,被保護者の国外滞在中の
生活を保護しないことが著しく妥当性を欠く場合には,保護の変更
による保護金品の返還を免除することによる救済が可能である(法
80条)とも主張する。しかし,上記のような憲法25条1項及び
法の趣旨に照らせば,時代の要請に応じた柔軟な法解釈が要請され
ることは当然のことである。また,被保護者が国外へ出国すること
は想定し難いと一律に断じることができないことも,既に述べたと
ころから明らかである。さらに,被保護者が国外へ出国した場合に
は,すべて法56条の「正当な理由」があるものとして,法25条
2項に基づき被保護者に不利益な変更決定をし(控訴人主張の法解
釈を前提とすれば,このようにいわざるを得ない,その後,法。)
80条の適用を検討するというのは,迂遠な法解釈といわざるを得
ない。控訴人の主張は,既に述べたような当裁判所の判断を左右す
るに足りるものではなく,採用できない」。
(2)同25頁13行目の「理由となるものではない」の次に,以下の
とおり加える。
「控訴人は,被保護者の滞在先が国内の場合と国外の場合とでは,(
法が国内法であることに由来する抜本的な差違があるなどと主張す
る。しかし,既に述べたような憲法25条1項及び法の趣旨,今日
の社会状況等に照らせば,国外に滞在する被保護者を一律に法によ
る保護の対象から外す十分な根拠となるものではない。仮に,上記
のような差違によって,生活保護制度に重大な支障が生じるという
のであれば,国外に滞在する者を法による保護の対象から外す旨の
明文規定を置くなどの法改正によって対処すべきであろう」。)
(3)同26頁16行目を,次のとおり改める。
「これまで検討したところからすれば,国外に滞在する要保護者は
およそ法による保護の対象とならないとする控訴人の主張は,採用
することができない。したがって,上記のような法解釈を前提に,
本件変更決定に,法56条にいう「正当な理由」があるということ
はできない」。
2当事者の当審における新主張に対する判断
(1)控訴人は,被控訴人がタイ王国への渡航費用7万0920円を支
出したことのみを根拠として,被控訴人には,平成13年6月14
日から同月25日までの期間については生活を維持するに足りる資
,「」。産があり本件変更決定には正当な理由があるなどと主張する
(2)しかし,本件において被控訴人がタイ王国へ渡航した時期及びそ
の間の被控訴人の行動に関する被控訴人作成の書面の記載(以上,
甲1,乙7,8,12,弁論の全趣旨,乙17から窺われる平成)
13年4月分(同月16日から30日まで)及び5月分の生活保護
費の額に照らせば,海外における就職活動をするため,一括支給さ
れた平成13年4月分(同月16日から30日まで)及び5月分の
生活保護費を節約し,タイ王国への渡航費用を捻出したとの被控訴
人の主張も,あながち不合理なものとはいえない。
結局のところ,被控訴人がタイ王国への渡航費用7万0920円
を支出したことのみから,被控訴人に,平成13年6月14日から
同月25日までの期間については生活を維持するに足りる資産があ
ったとの事実は,到底推認できないというほかない。そして,その
他,本件変更決定に法56条の「正当な理由」があることを基礎付
けるに足りる事情の主張・立証はない。したがって,控訴人の当審
における新主張も,採用することができない。
3結論
以上の次第であって,本件変更決定の取消しを求める被控訴人の請
求には理由があるから認容すべきであり,これと同旨の原判決は相当
。,,であるよって本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし
主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第6民事部
裁判長裁判官大出晃之
裁判官赤西芳文
裁判官田中一彦

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