弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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        主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告理由について
 民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは、民訴法三一二条
一項又は二項所定の場合に限られるところ、本件上告理由は、違憲をいうが、その
実質は単なる法令違反を主張するものであって、右各項に規定する事由に該当しな
い。
 なお、次のとおり付言する。
 特例選挙区の存置に関し、原審の適法に確定した事実は、次のとおりである。千
葉県議会は、平成一一年四月一一日施行の選挙(以下「本件選挙」という。)に先
立ち、同一〇年一二月一五日、同七年一〇月実施の国勢調査による人口に基づき千
葉県議会議員の選挙区等に関する条例(昭和四九年千葉県条例第五五号)及び千葉
県議会議員の定数を減少する条例(昭和五三年千葉県条例第五三号)(以下、これ
らを合わせて「本件条例」という。)の一部改正(平成一〇年千葉県条例第四六号
による、以下「本件改正」という。)をした。本件改正により、右国勢調査の結果
に基づき選挙区の人口を議員一人当たりの人口で除して得た数(以下「配当基数」
という。)は、海上郡選挙区が〇・三七四、匝瑳郡選挙区が〇・三七五、勝浦市選
挙区が〇・四一一となった。千葉県議会は、本件改正に当たり、これらの選挙区に
つき、配当基数の低下が主に首都近郊地域の人口急増による相対的なものであるこ
と、その行政需要、地域の特殊性、議員選出の歴史的経緯等を勘案し、特に首都近
郊地域との均衡を図る観点から、公職選挙法(以下「法」という。)二七一条二項
に基づくいわゆる特例選挙区として存置することにした。
 法二七一条二項の規定は、人口の急激な変動に対応しつつ、郡市の地域的まとま
りを尊重し、その区域の住民の意思を都道府県政にできるだけ反映させるみちを残
す必要があるという趣旨の下に設けられているものである。このような特例選挙区
の存置の適否は、議会の判断が、右法の趣旨に照らし、裁量権の合理的行使として
是認されるかどうかによって決するほかはない。もっとも、法一五条一項ないし三
項の規定からすると、法二七一条二項は、配当基数が〇・五を著しく下回ることに
なる場合には、特例選挙区の設置を認めない趣旨であると解される。前記三選挙区
の配当基数はいまだ特例選挙区の設置が許されない程度には至っておらず、他に、
千葉県議会が本件改正に当たりこれらの選挙区を特例選挙区として存置したことが
社会通念上著しく不合理であることが明らかであると認めるべき事情もうかがわれ
ない。したがって、【要旨第一】同議会が右三選挙区を特例選挙区として存置した
ことは、同議会に与えられた裁量権の合理的行使として是認することができるから、
本件改正後の本件条例がこれらの選挙区を特例選挙区として存置したことは適法で
ある。
 また、定数配分に関し、原審の適法に確定した事実は、次のとおりである。前記
国勢調査による人口に基づく特例選挙区を除くその他の選挙区間における議員一人
当たりの人口の最大較差は一対二・七五八、特例選挙区を含む選挙区間における右
最大較差は一対三・七三であった。右国勢調査による人口に基づく各選挙区の配当
基数に応じて定数を配分した人口比定数(法一五条八項本文の人口比例原則に基づ
いて配分した定数)による議員一人当たりの人口の右最大較差は、前者が一対二・
七五六、後者が一対四・一四となる。言い換えれば、同項本文に従って、議員定数
を配分した場合の議員一人当たりの人口の最大較差は、前者が一対二・七五六、後
者が一対四・一四となるはずのところを、千葉県議会が同項ただし書を適用して本
件条例の改正を行った結果、その最大較差は、右のとおり、前者が一対二・七五八、
後者が一対三・七三になっており、前者の較差はほとんど変わりがなく、後者の較
差は縮小されている。
 法一五条八項は、憲法の要請を受け、定数配分につき、人口比例を最も重要かつ
基本的な基準とし、投票価値の平等を強く要求している。もっとも、選挙区、選挙
区への定数配分に関する法の規定等からすれば、選挙区間における議員一人当たり
の人口の較差は、特例選挙区が存しない場合でも一対三を超えることがあり得るし、
特例選挙区を存置するときは、右の較差が更に大きくなることは避けられないとこ
ろである。また、同項ただし書は、人口比例の原則に修正を認め、特別の事情があ
るときは、おおむね人口を基準とし、地域間の均衡を考慮して定めることができる
としている。したがって、定数配分規定が同項に違反するものでないかどうかは、
当該規定が議会の裁量権の合理的行使として是認されるかどうかによって決するほ
かはない。本件についてこれをみると、【要旨第二】本件選挙当時における前記の
ような投票価値の不平等は、千葉県議会において地域間の均衡を図るため通常考慮
し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお、一般的に合理性を有するものとは考え
られない程度に達していたものとはいえず、同議会に与えられた裁量権の合理的な
行使として是認することができる。したがって、本件改正後の本件条例に係る定数
配分規定は、法一五条八項に違反するものではなく、適法というべきである。
 よって、裁判官福田博、同梶谷玄の各反対意見があるほか、裁判官全員一致の意
見で、主文のとおり判決する。
 裁判官福田博の反対意見は、次のとおりである。
 法一五条二項、三項による選挙区の設置、法二七一条二項による特例選挙区の設
置等に関する私の考えは、最高裁平成一〇年(行ツ)第一九九号同一一年一月二二
日第二小法廷判決・裁判集民事一九一号二一九頁の反対意見において述べたとおり
であるから、これを引用する。要するに、これらの規定は、投票価値の平等を要請
している憲法一四条一項の規定を受けて規定されているものであるから、各有権者
の投票価値を可能な限り一対一に近づけることができるように解釈すべきであり、
議会がその例外を認める裁量の幅はほとんどないというべきである。
 原審の確定したところによれば、本件改正において千葉県議会が特例選挙区とし
て存置することを認めた三選挙区は、昭和四九年又は同五七年以来引き続き特例選
挙区として存置されてきたものであって、その配当基数は、海上郡選挙区が〇・三
七四、匝瑳郡選挙区が〇・三七五、勝浦市選挙区が〇・四一一であり、特例選挙区
を含む全選挙区間における議員一人当たりの人口の最大較差は一対三・七三であっ
たというのである。これらの配当基数は投票価値の平等の観点からみて既に十分に
緩やかな基準というべき配当基数〇・五(法一五条二項の定める強制合区の限界値)
を大きく下回るものであり、かつ、右の各選挙区を特例選挙区として存置してから
既に二〇年前後の期間が経過しているにもかかわらず、これらの選挙区をなお特例
選挙区として存置するに十分な必要性及び合理性があると認めるべき事情は、何ら
証明されていない。右の各選挙区の地域が農業、水産業の後継者不足、住民の高齢
化等の問題を抱えており、これらに対処するための独自の行政需要があることは、
県政上も十分配慮に値する事情というべきであるが、これらは、平等な立場で政治
に参加する機会を与えられた有権者が選ぶ地方行政の長(県知事)及び地方議会の
構成員(県議会議員)が取り組まねばならない課題であって、代表民主制において
貫徹されるべき投票価値の平等自体を損なうことを許容するような事情とはなり得
ないものである。
 以上のとおり、前記の三選挙区を特例選挙区として存置し、その結果、前記のよ
うな大きな人口較差を生じさせたことは、議会の合理的裁量権の限界を超えるもの
といわなければならない。本件改正後の本件条例に係る定数配分規定は違法であり、
これを適法とした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があって、右違法
は判決に影響を及ぼすことが明らかである。したがって、原判決は変更を免れない
が、いわゆる事情判決の法理により、本件請求を棄却した上で、八千代市選挙区に
おける本件選挙が違法であることを主文において宣言するのが相当である。
 裁判官梶谷玄の反対意見は、次のとおりである。
 憲法一四条一項は、選挙権の平等、すなわち投票価値の平等を要求しているもの
であり、法一五条八項は、右の憲法の要請を受けて、定数配分につき、人口比例を
最も重要かつ基本的な基準とし、投票価値の平等を強く要求している。このような
憲法の要請及びこれを受けて定められている法の人口比例の原則に照らせば、右原
則の修正を認める趣旨の法の規定は、投票価値の平等を損なわない限度で解釈適用
すべきものである。
 法一五条の規定に基づいて選挙区を設けた上で人口比例の原則に従って定数を配
分しても、一対二以上、場合によっては一対三以上の人口較差も生じ得ることは否
めない。そのような場合には、同条三項により隣接の郡市と合区することにより較
差の縮小を図ることが期待されるものの、それが義務付けられてまではいない以上、
同条は右のような較差が生ずる事態を許容していると解さざるを得ない。本来、憲
法の認める投票価値の平等の理念は、これを正当化すべき特別の事情が示されない
限り、一対二以上の人口較差を許容しないものと考えられるが、都道府県議会の選
挙区は原則として郡市の区域によることとされている(同条一項)ことに表れてい
るように、都道府県において郡市の占める地位の特質にかんがみるならば、右のよ
うにして生ずる較差をもって、直ちに投票価値の平等の要請に反すると断ずること
まではできないものと考えられる。しかしながら、前記の憲法の要請及び法の規定
する原則からするならば、人口較差が一対三以上となり、かつ、相当数のいわゆる
逆転現象が生ずるなどの場合には、法一五条八項に違反すると判断すべきものであ
る。同項ただし書による人口比例原則の修正も、このような範囲内においてのみ許
されるものと解される(最高裁昭和六一年(行ツ)第一〇二号同六二年二月一七日
第三小法廷判決・裁判集民事一五〇号一九九頁及び最高裁平成二年(行ツ)第六四
号同三年四月二三日第三小法廷判決・民集四五巻四号五五四頁は、東京都議会議員
選挙において、いわゆる逆転現象が顕著な場合に、島部を除く選挙区全体の人口較
差がそれぞれ一対三・四〇、一対三・〇九に達していたことなどを理由に、右較差
は法一五条七項(現八項)に違反するものと判示している。)。
 法二七一条二項は、法一五条二項の例外規定として、配当基数が〇・五を下回る
場合にも、当該選挙区を独立の選挙区として存置することを認めている。この規定
は、もともと昭和三七年法律第一一二号による法の改正により島を特例選挙区とす
ることを認める趣旨の規定として追加され、昭和四一年法律第七七号による改正に
より現在のように島以外にも特例選挙区を認める趣旨の規定に改められたものであ
る。そして、前記の見地からすれば、右規定は、いわゆる高度経済成長下にあった
右改正当時の社会の急激な工業化、産業化に伴う人口の急激な変動が現れ始めた状
況に対応するために、既存の選挙区の配当基数が〇・五を下回ることとなったとし
ても、過渡的な特例措置として、当分の間に限って、これを存置することを許容し
たものと解されるのであり、そのような趣旨に解する限りにおいて、その合理性を
肯定することができる。したがって、同項の規定は、右の人口変動の結果が固定化
し、これにより形成された人口分布が新たな秩序を形成するに至った後において、
既存の選挙区を特例選挙区として存置し続けることまでをも許容するものと解すべ
きではなく、そのように解釈適用することは、前記の憲法の要請や法の規定する原
則にもとることになるといわなければならない。
 原審の確定したところによれば、(1) 本件改正において千葉県議会が特例選
挙区として存置することを認めた三選挙区の本件選挙当時の配当基数は、海上郡選
挙区が〇・三七四、匝瑳郡選挙区が〇・三七五、勝浦市選挙区が〇・四一一である、
 (2) 海上郡選挙区及び匝瑳郡選挙区は、昭和四九年九月に特例選挙区とされ
たが、平成七年の国勢調査の結果によるそれらの配当基数の数値は、同二年の国勢
調査の結果による数値よりも大きくなった、(3) 勝浦市選挙区は、昭和五七年
一二月に配当基数が〇・四二五となって特例選挙区とされて以来、配当基数に大き
な変化がみられない、というのである。これらの事実にかんがみるならば、これら
の選挙区が初めて特例選挙区とされた時点においてはともかくとして、少なくとも
本件改正において千葉県議会がこれらの選挙区をなお特例選挙区として存置したこ
とは、法二七一条二項の許容しないところであって、違法というべきである。
 また、右のように違法に特例選挙区を存置した結果、特例選挙区を含む全選挙区
間での人口較差が一対三・七三に達し、原判決別表によれば相当数の逆転現象も生
じていたというのであるから、これを正当化すべき特別の事情も見いだせない本件
においては、本件改正後の定数配分規定は、法一五条八項に違反する違法なものと
いうべきである。
 以上と異なる原審の判断は、法の解釈適用を誤るものであり、右違法が判決に影
響を及ぼすことは明らかである。したがって、原判決は変更を免れないが、いわゆ
る事情判決の法理により、本件請求を棄却した上で、八千代市選挙区における本件
選挙が違法であることを主文において宣言するのが相当である。
(裁判長裁判官 亀山継夫 裁判官 河合伸一 裁判官 福田 博 裁判官 北川
弘治 裁判官 梶谷 玄)

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