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平成22年6月29日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成19年(ワ)第13121号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成22年5月13日
判決
東京都江東区<以下略>
亡A承継人
原告B
仙台市青葉区<以下略>
亡A承継人
原告C
上記2名法定代理人相続財産管理人

東京都中央区<以下略>
被告ディアナサン株式会社
主文
1被告は,原告らに対し,別紙特許証目録記載の各特許証を引き渡せ。
2原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,これを100分し,その1を被告の負担とし,その余を原
告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙特許方法目録記載の方法によるダイヤモンドを製造,販売して
はならない。
2被告は,別紙被告製品目録記載のダイヤモンドを製造,販売してはならない。
3被告は,原告らに対し,別紙特許証目録記載の各特許証を引き渡せ。
第2事案の概要
本件は,亡A(以下「亡A」という。)が,①別紙被告製品目録記載のダイ
ヤモンド製品の製造,販売は,亡Aの有する発明の名称を「ダイヤモンドのカ
ット方法及びプロポーション」とする特許権(特許番号第3863374号)
を侵害する行為であると主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づき,
別紙特許方法目録記載のカット方法を使用したダイヤモンド製品の製造,販売,
並びに,別紙被告製品目録記載のダイヤモンド製品の製造,販売の差止めを求
め,②別紙特許証目録記載の各特許証(以下「本件特許証」という。)の所有
権に基づき,本件特許証を占有している被告に対し,その引渡しを求めた事案
である。
なお,亡Aは本件訴訟係属中に死亡し,その子である原告B及び原告Cが亡
Aを限定承認し訴訟手続を受継した。
1前提事実(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)
(1)当事者等(弁論の全趣旨)
ア亡Aは,ダイヤモンドのカット方法についての研究・開発等を行ってい
た者である。
亡Aは,平成21年2月20日に死亡した。亡Aの相続人は,その子で
ある,D(長女),原告B(二女)及び原告C(三女)であったものの,
このうちDは,亡Aの相続を放棄し,原告らは,亡Aの相続につき限定承
認をした。
仙台家庭裁判所は,平成21年6月18日,亡Aの相続財産管理人に原
告Bを選任した。
原告らは,本件訴訟手続を受継した。
イ被告は,平成12年10月3日に設立された,ダイヤモンドの研磨・加
工及び販売等を業とする株式会社である。
亡Aは,被告の代表取締役を務めていたものの,平成19年4月13日
には代表取締役を解任され,次いで,同年5月7日には,取締役を解任さ
れた。
被告の現在の代表取締役はE(以下「E」という。)である。
(2)亡Aの特許権(甲2,14)
亡Aは,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許請求の範囲請
求項1ないし5の発明を,付された番号に従い「本件発明1」などという。
また,本件発明1ないし5に係る特許を,付された番号に従い「本件特許
1」などという。本件発明1ないし5を併せて「本件発明」,本件特許1な
いし5を併せて「本件特許」といい,本件特許に係る明細書(別紙特許公報
参照)を「本件明細書」という。)を有していた。
特許番号第3863374号
発明の名称ダイヤモンドのカット方法及びプロポーション
出願日平成13年1月22日
登録日平成18年10月6日
特許請求の範囲
【請求項1】
「テーブルの下部にパビリオンが形成されるダイヤモンドであって,
テーブルを矩形状に形成し,
パビリオンは,テーブルの各辺から垂直にカットしてロウワー・ガード
ル・ファセットを形成し,
テーブルの各コーナー部から中心方向に向けて斜めにカットしてロウワ
ー・メイン・ファセットを菱形に形成すると共に,該菱形の頂部と底部の
角度θ1がそれぞれ60°で両側の対向する角度θ2がそれぞれ120°
に形成されること
を特徴とするダイヤモンドのカット方法。」
【請求項2】
「ロウワー・ガードル・ファセットは二等辺三角形に形成されること
を特徴とする請求項1に記載のダイヤモンドのカット方法。」
【請求項3】
「矩形状に形成したテーブルと,
該テーブルの下部に形成したパビリオンとからなり,
該パビリオンは,
前記テーブルの各辺から垂直にカットして形成したロウワー・ガードル
・ファセットと,
前記テーブルの各コーナー部から中心方向に向けて斜めにカットして形
成したロウワー・メイン・ファセットとからなり,
該ロウワー・メイン・ファセットは,菱形に形成されると共に,該菱形
の頂部と底部の角度θ1がそれぞれ60°で両側の対向する角度θ2がそ
れぞれ120°に形成されること
を特徴とするダイヤモンドのプロポーション。」
【請求項4】
「テーブルの大きさと,パビリオンの高さの比は,テーブルの一辺の長さ
を2とすると,パビリオンの高さを1.8にしたこと
を特徴とする請求項3に記載のダイヤモンドのプロポーション。」
【請求項5】
「テーブルの面と,パビリオンに形成されたロウワー・ガードル・ファセ
ットとロウワー・メイン・ファセットとで,全体として9面カットとなる
こと
を特徴とする請求項3または4に記載のダイヤモンドのプロポーショ
ン。」
(3)本件発明の構成要件の分説
本件発明の構成要件は,次のとおり分説することができる(以下分説した
各構成要件をそれぞれ「構成要件1A」などという。)。
ア本件発明1
1Aテーブルの下部にパビリオンが形成されるダイヤモンドであって,
1Bテーブルを矩形状に形成し,
1Cパビリオンは,テーブルの各辺から垂直にカットしてロウワー・ガ
ードル・ファセットを形成し,
1Dテーブルの各コーナー部から中心方向に向けて斜めにカットしてロ
ウワー・メイン・ファセットを菱形に形成すると共に,該菱形の頂部
と底部の角度θ1がそれぞれ60°で両側の対向する角度θ2がそれ
ぞれ120°に形成されること
1Eを特徴とするダイヤモンドのカット方法。
イ本件発明2
2Aロウワー・ガードル・ファセットは二等辺三角形に形成されること
2Bを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンドのカット方法。
ウ本件発明3
3A矩形状に形成したテーブルと,
3B該テーブルの下部に形成したパビリオンとからなり,
3C該パビリオンは,
3D前記テーブルの各辺から垂直にカットして形成したロウワー・ガー
ドル・ファセットと,
3E前記テーブルの各コーナー部から中心方向に向けて斜めにカットし
て形成したロウワー・メイン・ファセットとからなり,
3F該ロウワー・メイン・ファセットは,菱形に形成されると共に,該
菱形の頂部と底部の角度θ1がそれぞれ60°で両側の対向する角度
θ2がそれぞれ120°に形成されること
3Gを特徴とするダイヤモンドのプロポーション。
エ本件発明4
4Aテーブルの大きさと,パビリオンの高さの比は,テーブルの一辺の
長さを2とすると,パビリオンの高さを1.8にしたこと
4Bを特徴とする請求項3に記載のダイヤモンドのプロポーション。
オ本件発明5
5Aテーブルの面と,パビリオンに形成されたロウワー・ガードル・フ
ァセットとロウワー・メイン・ファセットとで,全体として9面カッ
トとなること
5Bを特徴とする請求項3または4に記載のダイヤモンドのプロポーシ
ョン。
(4)被告の行為(甲15,16,弁論の全趣旨)
ア被告は,「ハナビシ」という商品名を付したダイヤモンド製品(以下
「イ号物件」という。)を販売している。ただし,その製品構成について,
原告らは別紙「イ号図面」及び「イ号図面の説明書」記載のとおりである
旨主張するのに対し,被告はこれを否認する。
イ被告は,平成19年5月9日,訴外ディアナメディカル株式会社との間
で,「9面体アンク№00750.503CT」(以下「ロ号物件」
という。)を売り渡す旨の契約を締結した。ただし,その製品構成につい
て,原告らは別紙「ロ号図面」及び「ロ号図面の説明書」記載のとおりで
ある旨主張するのに対し,被告はこれを否認する。
(5)亡Aの本件特許証の所有と被告による本件特許証の占有
ア亡Aは,本件特許証に係る特許権につき,本件特許証の発行を受けた
(弁論の全趣旨)ことにより,本件特許証の所有権を取得した(特許法2
8条参照)。
なお,被告は,本件特許証に係る発明は,職務発明に当たるものである
こと,あるいは,本件特許証に係る特許について独占的通常実施権を有し
ていることから,本件特許証の所有権は通常実施権を有する者に与えられ
るべきである,などと主張するものの,特許証の所有権が当然に通常実施
権者に帰属ないし移転すると解すべき根拠は見当たらず,被告の上記主張
は,独自の見解であって,主張自体失当というほかなく,採用することが
できない。
イ被告は,本件特許証を占有している。
2争点
(1)侵害行為の差止請求権の有無
アイ号物件は本件発明の技術的範囲に属するか否か(争点1−a)
(ア)文言侵害の成否
(イ)均等侵害の成否
イロ号物件は本件発明の技術的範囲に属するか否か(争点1−b)
ウ被告は,本件特許につき通常実施権(特許法35条1項)を有するか否
か(職務発明の成否)(争点1−c)
エ亡Aと被告との間で,本件特許につき実施許諾契約が締結されたか否か
(争点1−d)
オ亡Aが被告の取締役在任中に加工されたダイヤモンドについて,本件特
許権侵害を主張することは信義則等に反するか否か(争点1−e)
カ本件特許に係る実施許諾契約が終了したか否か(争点1−f)
(2)本件特許証の引渡請求権の有無
被告は本件特許証の占有権原を有するか否か(争点2)
第3争点に関する当事者の主張
1争点1−a(イ号物件は本件発明の技術的範囲に属するか否か)について
〔原告ら〕
(1)文言侵害
アイ号物件の構成
イ号物件の構成は,別紙「イ号図面」及び「イ号図面の説明書」記載の
とおりであり,分説すると,以下のとおりである。
①矩形状に形成されたテーブル2と,
②該テーブル2の下部に形成されたパビリオン3とからなり,
③該パビリオン3は,
④前記テーブル2の各辺からほぼ垂直にカットして形成したロウワー・
ガードル・ファセット4と,
⑤前記テーブル2の各コーナー部から中心方向に向けて斜めにカットし
て形成したロウワー・メイン・ファセット5とからなり,
⑥該ロウワー・メイン・ファセット5は,菱形に形成されると共に,該
菱形の頂部と底部の角度が略60°∼61°で両側の対向する角度がそ
れぞれ略119°∼120°に形成されている,
⑦ダイヤモンドのプロポーション
である。また,
⑧テーブル2の大きさと,パビリオンの高さの比は,テーブルの一辺の
長さを2とすると,パビリオンの高さを1.6とした,
⑨ダイヤモンドのプロポーション
である。さらに,
⑩テーブル面と,パビリオン3に形成されたロウワー・ガードル・ファ
セット4とロウワー・メイン・ファセット5とで,全体として9面カッ
トに形成した
⑪ダイヤモンドのプロポーション
である。
イ本件発明3の構成要件の充足
(ア)イ号物件(①ないし⑤,⑦)は,本件発明3の構成要件のうち,3A
ないし3E,3Gを充足する。
(イ)構成要件3Fについて
イ号物件においては,ロウワー・メイン・ファセット5は,菱形に形
成されると共に,該菱形の頂部と底部の角度が略60°∼61°で両側
の対向する角度がそれぞれ略119°∼120°に形成されている
(⑥)。
イ号物件は,ロウワー・メイン・ファセットが菱形に形成されている
点において,構成要件3Fと一致する。
イ号物件における該菱形の頂部と底部の角度が,仮に61°であって,
両側の対向する角度が119°であるとしても,これらの数値は,構成
要件3Fの60°(θ1),120°(θ2)の隣接値(近似値)であ
って,このような隣接値(近似値)を採用しても,ロウワー・メイン・
ファセットの菱形の基本的な形状が変わるわけではなく,また,上記角
度がわずかに相違したからといって,特別な作用効果が生じるわけでも
ないから,角度のわずかな差異は設計的事項にすぎない。
したがって,イ号物件と構成要件3Fとの上記角度の相違は,技術的
にみて実質的な相違であるとはいえず,イ号物件(⑥)は構成要件3F
を充足する。
ウ本件発明4の構成要件の充足
(ア)構成要件4Aについて
イ号物件においては,テーブル2の大きさと,パビリオンの高さの比
は,テーブルの一辺の長さを2とすると,パビリオンの高さを1.6と
している(⑧)。
構成要件4Aにおいては,テーブルの大きさと,パビリオンの高さの
比は,テーブルの一辺の長さを2とすると,パビリオンの高さを1.8
にしているのに対し,イ号物件においては,上記比率が,テーブルの一
辺の長さを2とすると,パビリオンの高さを1.6としている点で相違
するものの,その比率の差異は,わずか0.2ポイントである。
本件発明4において,テーブルの大きさとパビリオンの高さの比が特
定された意味は,パビリオンの高さをテーブルの大きさよりも小さくす
ることで,本件発明3の構成(3F)とあいまって,テーブル面の中央
部に十字状の反射光を表出させることができるようにしたことにある。
イ号物件においては,パビリオンの高さをテーブルの大きさよりも小
さくしており,これにより,その構成⑥とあいまって,テーブル面の中
央部に十字状の反射光を表出させているのであり,本件発明4のダイヤ
モンドのプロポーションと差はない。テーブルの大きさと,パビリオン
の高さの比の数値の差異は,技術的にみて実質的な相違であるとはいえ
ず,イ号物件(⑧)は構成要件4Aを充足する。
(イ)イ号物件は,前記のとおり,本件発明3の各構成要件を充足するから,
構成要件4Bを充足する。
エ本件発明5の構成要件の充足
(ア)イ号物件は,本件発明5の構成要件のうち,5Aを充足する。
(イ)イ号物件は,前記のとおり,本件発明3,4の各構成要件を充足する
から,構成要件5Bを充足する。
オ本件発明1及び2の構成要件の充足
イ号物件は,ダイヤモンドのプロポーションに係る本件発明3ないし5
の構成要件をいずれも充足するのであるから,イ号物件において,本件発
明1,2に係るダイヤモンドのカット方法が使用されているものと推認さ
れる。
(2)均等侵害
仮に,イ号物件が本件発明3の構成要件3F,本件発明4の構成要件4A
を充足しないとしても,次のとおり,均等侵害が成立する。
したがって,イ号物件は,本件発明3ないし5の技術的範囲に属する。
また,イ号物件は,ダイヤモンドのプロポーションに係る本件発明3ない
し5の技術的範囲に属するのであるから,イ号物件において,本件発明1,
2に係るダイヤモンドのカット方法と均等のカット方法が使用されているも
のと推認される。
ア構成要件3F,構成要件4Aが,本件発明3,4の本質的部分ではない
ことについて
(ア)構成要件3Fにおいては,ロウワー・メイン・ファセットが菱形形状
に形成されることが本質的部分であって,「該菱形の頂部と底部の角度
θ1がそれぞれ60°で両側の対向する角度θ2がそれぞれ120°に
形成されること」との角度部分(60°,120°との厳密な角度)は
本質的部分ではない。
(イ)構成要件4Aにおいては,テーブルの大きさと,パビリオンの高さの
比において,パビリオンの高さをテーブルの大きさよりも小さくしたこ
とが本質的部分であって,比率の数値部分(テーブルの一辺の長さを2
とすると,パビリオンの高さを1.8にするとの厳密な比率)は本質的
部分ではない。
イ他の構成との置換可能性について
(ア)本件発明3,4の作用効果
本件発明3,4の作用効果は,「全体としてシンプルでありながら,
反射光は独特な形状模様(テーブル面に特徴的な反射光)を表出させ
る」ことにある。
(イ)イ号物件の作用効果
イ号物件の作用効果は,「テーブル面に伊勢の紋である菱形の花びら
が浮き上がる」ことにある。
(ウ)本件発明3,4とイ号物件とは,十字状の反射光が表出されることに
よって,各コーナー部に「菱形の花びら」の形状が浮き上がる,すなわ
ち,十字状の反射光によって菱形の花びらの形状を表出させている点で
同一の作用効果を奏している。
したがって,本件発明3の構成要件3Fをイ号物件における構成
(⑥)と置き換え,本件発明4の構成要件4Aをイ号物件における構成
(⑧)と置き換えても,本件発明3,4の目的を達成することができる。
ウ容易想到性について
イ号物件が販売されたのは,平成20年1月16日であり,この時点に
おいて,本件発明3,4及びこれら発明に基づくダイヤモンド製品の存在
は公知であったから,本件発明3の構成要件3Fをイ号物件における構成
(⑥),本件発明4の構成要件4Aをイ号物件における構成(⑧)に置き
換えることは,本件発明3,4の属する技術の分野における通常の知識を
有する者(当業者)において想到することが容易であったといえる。
エ推考困難性について
本件発明3,4の出願当時においてイ号物件と同一の公知技術は存在せ
ず,また,当業者においてイ号物件を容易に推考することのできた公知技
術も存在しない。
オ本件発明3,4の出願及び審査の経緯において,イ号物件の構成を意識
的に除外したなど,均等の成立を妨げる特段の事情は存在しない。
〔被告〕
(1)イ号物件の構成が,別紙「イ号図面」及び「イ号図面の説明書」記載のと
おりであることは否認する。
ア別紙「イ号図面」の【図1】,【図2】,【図5】【図6】は,本件明
細書の【図1】,【図2】,【図5】,【図6】をそのまま流用したもの
であり,「イ号図面」の【図3】,【図4】は,本件明細書の【図3】,
【図4】に多少の手直しを加えたものにすぎない。
別紙「イ号図面の説明書」には,テーブルの一辺の長さが略4.3㎜で
ある旨が記載されているものの,甲第20号証の鑑定書に記載された寸法
(Measurement)では,3.8㎜となっている。また,同説明書には,パ
ビリオンの高さが略3.44㎜である旨が記載されているものの,同鑑定
書に記載された寸法(Measurement)では,2.78㎜となっている。
これらの点に照らしても,「イ号図面」や「イ号図面の説明書」は,正
確なものとは考えられない。
イ被告は,イ号物件の加工を加工業者に発注する際,テーブルの各辺から
80°程度の角度でカットしてロウワー・ガードル・ファセットを形成す
るように指示しており,イ号物件のロウワー・ガードル・ファセットは,
テーブルの各辺から垂直にカットして形成されていない。
ウ被告は,イ号物件のロウワー・メイン・ファセットを菱形に形成してい
ない。
したがって,「該菱形の頂部と底部の角度θ1が略60∼61°で両側
の対向する角度θ2がそれぞれ119∼120°に形成」されてはいない。
エイ号物件においては,テーブルの一辺の長さは3.8㎜,パビリオンの
高さは2.78㎜であるから,両者の比率は,2対1.46となる。
オイ号物件は,9面体カットではなく,テーブル面と,パビリオンに形成
されたロウワー・ガードル・ファセット及びロウワー・メイン・ファセッ
ト,ロウワー・ガードル・ファセットとキューレットとを結ぶパビリオン
ファセットの13面カットとなっている(なお,テーブルの各辺と四隅に
小さなファセットを形成しているので,これらを合わせれば21面カット
となる。)。
カ以上のとおり,原告らは,イ号物件から図面を作成したり,これを実際
に測定したりすることもなく,都合よく,「イ号図面」や「イ号図面の説
明書」を記載しているにすぎない。
(2)実際に被告が販売しているイ号物件(商品名「花菱」)では,ロウワー・
メイン・ファセットの菱形の頂部と底部の角度θ1に相当する角度は55°,
65°となっており,菱形の形状すらしていない(乙27)。
また,同様に,テーブルの各辺からカットして形成したロウワー・ガード
ル・ファセットは,垂直(90°)にカットされておらず,テーブル面とロ
ウワー・ガードル・ファセット面とが成す角度は75°となっている(乙2
7)。
(3)均等侵害について
均等侵害の要件のうち,少なくとも,①構成要件3Fが,本件発明3の本
質的部分ではないこととの要件を欠き,また,②亡Aは,本件発明3の出願
及び審査の経緯において,イ号物件の構成を意識的に除外したものといえる
から,均等侵害は成立しない。
ア構成要件3F(「該ロウワー・メイン・ファセットは,菱形に形成され
ると共に,該菱形の頂部と底部の角度θ1がそれぞれ60°で両側の対向
する角度θ2がそれぞれ120°に形成されること」)は,本件発明3の
本質的部分(本件発明の作用効果を生じさせる技術的思想の中核部分)で
ある。
イ本件発明における十字状の反射光は,「十字状のクロス」であるのに対
し,イ号物件における十字状の反射光は,「菱形状に近い4枚の花びら」
であって,作用効果も異なる(乙30)。
ウ本件特許の出願経過において拒絶理由通知書(乙17)が発せられたの
を受けて,亡Aは,手続補正書(乙18)及び意見書(乙19)を提出し
ており,この中で,構成要件3Fの「角度θ1が60°」であることが本
件発明の特徴的構成であることを自認していた。
したがって,亡Aは上記構成を有しないものを本件発明の技術的範囲か
ら意識的に除外していたといえる。
(4)そもそも,被告は,亡Aが被告の取締役を解任された後は,本件発明に基
づくダイヤモンド製品を製造も,販売もしていない。
(5)なお,本件発明に基づかないダイヤモンド製品にも,テーブルの中央に十
字形が表出されるものがある。すなわち,テーブルの中央に十字形が表出さ
れるとの事象は,本件発明によってもたらされる作用効果ではない。
2争点1−b(ロ号物件は本件発明の技術的範囲に属するか否か)について
〔原告ら〕
ロ号物件は,本件発明に基づき被告が製造したダイヤモンド製品(商品名9
面体ダイヤモンド「アンクカット」)である(甲1,12,13)。
ロ号物件の特徴,すなわち,十字状の反射光が浮き上がるという特徴は,本
件発明の作用効果と同一であり,ロ号物件のプロポーションは本件発明3ない
し5の構成を備え,また,ロ号物件において本件発明1,2の方法が使用され
ていることは明らかである。
ロ号物件が販売された時期が,亡Aが被告の取締役を解任された2日後の平
成19年5月9日であることからも,ロ号物件は,亡Aが被告の取締役であっ
た当時に本件発明1ないし5に基づき製造されたものであることが分かる。
〔被告〕
(1)ロ号物件は,本件発明の技術的範囲に属さない。
アロ号物件は,次のとおり,本件発明3の構成要件3A,3B,3C,3
E,3Gを充足するものの,構成要件3D,3Fをいずれも充足しない
(乙10ないし16)。
(ア)構成要件3Dの非充足
ロ号物件は,テーブルの各辺から形成されたロウワー・ガードル・フ
ァセットを備えるものの,該ロウワー・ガードル・ファセットは,垂直
にカットして形成されたものではない。
一般にダイヤモンドのカットは,設計図に忠実に行われる。設計図か
ら離れた形状になると,所望の輝きを表出することができなくなるから
である。他の宝石に比べて輝きが重要なダイヤモンドにとって,カット
は非常に精巧に狂い無く切削加工されるのが通常である。したがって,
切削の誤差は,たとえ生じるとしても15/100°(=0.15°)
程度が許容されるにすぎない。
ロ号物件では,ロウワー・ガードル・ファセットが,テーブルの各辺
から垂直にカットして形成されていないから(垂直の状態とは,2∼5
°異なる),本件発明3の構成要件3Dを充足しない(乙12ないし1
5)。
(イ)構成要件3Fの非充足
ロ号物件のロウワー・メイン・ファセットは,菱形の頂部と底部の角
度θ1がそれぞれ60°で両側の対向する角度θ2がそれぞれ120°
に形成されたものではない。
ロ号物件のロウワー・メイン・ファセットは,菱形状に形成されてい
るものの,①構成要件3Fのθ1に相当する部位の角度は62°で,θ
2に相当する部位の角度は113°のもの,②θ1に相当する部位の角
度は63°で,θ2に相当する部位の角度は113°のもの,③θ1に
相当する部位の角度は65°で,θ2に相当する部位の角度は118°
のもの,④θ1に相当する部位の角度は63°で,θ2に相当する部位
の角度は118°のものである(乙16)。
本件特許の出願経過(乙17ないし19)を考慮すれば,構成要件3
Fは,厳格にその範囲を解釈すべきである。
ロ号物件は,ロウワー・メイン・ファセットが,菱形の頂部と底部の
角度θ1がそれぞれ60°で両側の対向する角度θ2がそれぞれ120
°となるように形成されたものではないから,本件発明3の構成要件3
Fを充足しない。
イロ号物件は,本件発明3の構成要件を充足しないから,本件発明4,本
件発明5の構成要件も当然に充足しない。
ウロ号物件は,上記のとおり,ロウワー・メイン・ファセットが,菱形の
頂部と底部の角度θ1がそれぞれ60°で両側の対向する角度θ2がそれ
ぞれ120°となるように形成されたものではないから,本件発明1の構
成要件1Dを充足しない。
エロ号物件は,本件発明1の構成要件を充足しないから,本件発明2の構
成要件も当然に充足しない。
(2)そもそも,被告は,亡Aが被告の取締役を解任された後は,本件発明に基
づくダイヤモンド製品を製造も,販売もしていない。
3争点1−c(被告は,本件特許につき通常実施権(特許法35条1項)を有
するか否か)について
〔被告〕
本件発明は,次のとおり,特許法35条1項所定の職務発明に該当し,被告
は,本件特許権について通常実施権を有する。
(1)発明者が被告の従業者等であったこと
本件発明の発明者である亡Aは,本件発明当時,被告の取締役であった。
(2)本件発明は,被告の業務範囲に属していること
被告は,平成12年10月3日に設立され,それ以降,ダイヤモンドの研
磨・加工及び販売等を行っていたから,本件発明は,被告の業務範囲に属し
ていた。
(3)被告における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明であること
亡Aは,被告の取締役であった当時に本件発明の特許出願を行っており,
本件発明は,亡Aの被告における職務として行われたものである。
実際に,本件発明及び特許出願にかかる費用は被告が全面的に負担し,亡
Aは被告から給与を得て,勤務時間中に本件発明を行った。
〔原告ら〕
(1)被告の主張は否認ないし争う。
(2)本件発明は,亡Aによって,被告が設立される以前に考案されていたもの
であり,その特許出願手続が,被告の設立後に行われたにすぎないから,本
件発明は特許法35条1項所定の職務発明には該当しない。
(3)亡Aと被告との間において,本件特許につき実施許諾契約が締結されてい
る場合には,契約自治の観点から,特許法35条1項の規定による法定の通
常実施権は認められるべきではない。
4争点1−d(亡Aと被告との間で,本件特許につき実施許諾契約が締結され
たか否か)について
〔被告〕
(1)仮に,本件発明が特許法35条1項所定の職務発明に該当しないとしても,
以下の事情に照らせば,亡Aは被告との間で,被告に対し,本件特許権につ
いての独占的通常実施権を設定する旨の黙示の実施許諾契約を締結したもの
と認められる。
ア被告は,亡A自身が発起人となって,本件特許権の実施を主たる目的と
して設立された会社である。
イ亡Aは,被告の設立後は,被告の代表取締役として執務を行っていた。
(2)仮に,亡Aが被告に対し,本件特許権についての独占的通常実施権を設定
していなかったとしても,亡Aは被告との間で,被告に対し,本件特許権に
ついての非独占的通常実施権を設定する旨の黙示の実施許諾契約を締結した
ものと認められる。
〔原告ら〕
(1)亡Aと被告との間で,被告に対し,本件特許権についての独占的通常実施
権を設定する旨の実施許諾契約が締結されたとの点は否認する。
(2)亡Aが被告との間で,被告に対し,本件特許権についての非独占的通常実
施権を設定する旨の黙示の実施許諾契約を締結したことは認める。
亡Aは,被告を設立した上で,その代表取締役を務めていたことから,被
告との間の委任関係や信頼関係が存在することを前提として,被告が本件特
許権に基づく方法によるダイヤモンド製品の製造,販売及び頒布をするなど,
本件特許の実施をすることを許諾していたものである。
5争点1−e(亡Aが被告の取締役在任中に加工されたダイヤモンドについて,
本件特許権侵害を主張することは信義則等に反するか否か)について
〔被告〕
(1)亡Aが被告の取締役を解任された平成19年5月7日より以前に,被告の
取締役であった亡Aの指揮の下で加工されたダイヤモンドについて,本件特
許権の侵害を主張することは信義則に反し,本件特許権の濫用にわたるもの
として許されない。
(2)ロ号物件は,亡Aが被告の取締役を解任された平成19年5月7日の2日
後である同月9日に,被告から訴外ディアナメディカル株式会社に販売され
たものであり,ロ号物件が,亡Aが被告の取締役を解任される平成19年5
月7日より以前に,被告の取締役であった亡Aの指揮の下で加工されたもの
であることは明らかである(乙21,22)。
したがって,ロ号物件について,本件特許権の侵害を主張することは信義
則に反し,本件特許権の濫用にわたるものとして許されない。
〔原告ら〕
(1)被告の主張は否認ないし争う。
(2)亡Aが被告の取締役を解任された平成19年5月7日より以前に加工され
たダイヤモンドについても,本件特許に係る実施許諾契約が終了した後は販
売しないことが契約の内容となっていたというべきである。
6争点1−f(本件特許に係る実施許諾契約が終了したか否か)について
〔原告ら〕
(1)亡Aは,平成19年4月13日には被告の代表取締役を解任され,次いで,
同年5月7日には,被告の取締役を解任された。
亡Aと被告との間の信頼関係は,上記取締役の解任により破綻したから,
亡Aと被告との間における本件特許に係る実施許諾契約は,平成19年5月
7日をもって,当然に終了した(なお,同日に行われた被告の株主総会にお
いて,亡Aが自身の取締役解任決議に反対票を投じたことをもって,黙示的
に解除の意思表示があったとみることもできる。)。
(2)仮に,上記実施許諾契約が平成19年5月7日をもって当然に終了したと
認められないとしても,上記のとおり,亡Aと被告との間の信頼関係は破綻
したから,亡Aは,訴状において,本件特許に係る実施許諾契約を解除する
旨の意思表示をし,上記意思表示は被告に到達した。
(3)被告の主張に対する反論
会社の乗っ取りを謀り,虚偽の書面等を用いて亡Aを被告の代表取締役,
更には取締役から解任したのは,被告の代表者であるEらである。この会社
の乗っ取り自体が,亡Aから本件特許権を奪うために画策されたものであっ
て,亡Aによる解除権の行使は濫用にわたるものではない。
〔被告〕
被告は,ダイヤモンドの研磨・加工及び販売等を業として行う会社であるか
ら,亡Aと被告との間の本件特許に係る実施許諾契約は,被告が営業を継続す
る限り継続するものと解すべきである。
亡Aは,被告との間の善管注意義務や忠実義務に違反したことを理由に取締
役を解任されたのであり,信頼関係破綻の原因を作ったのは亡Aであるから,
亡Aにおいて,本件特許に係る実施許諾契約の終了や解除を主張することは信
義則に照らして許されないか,あるいは,解除権の濫用として許されない。
7争点2(被告は本件特許証の占有権原を有するか否か)について
〔被告〕
(1)被告が本件特許証に係る特許権の実施許諾を受けている以上,その関連書
類として,被告は本件特許証の使用,管理を委ねられているというべきであ
る(特許証は特許権の従物と考えるべきである。)。
(2)本件特許証は,本件特許証に係る特許の実施品を販売するに際して,その
権利の内容,物品の性質,商品価値等を顧客に説明するために用いる目的で,
亡Aから被告に寄託されていた。
〔原告ら〕
(1)被告の主張は否認ないし争う。
(2)本件特許について実施権が付与されていたからといって,本件特許証の占
有権原が当然に発生するわけではない。
(3)仮に,亡Aが被告の取締役であった当時に被告に本件特許証を寄託してい
たとしても,亡Aが被告の取締役を解任され,亡Aと被告との間の信頼関係
が破綻したことにより寄託契約は終了した。
また,そもそも,受託者は,寄託者からの返還請求を拒み得ない。
第4当裁判所の判断
1侵害行為の差止請求権の有無について
(1)争点1−a(イ号物件は本件発明の技術的範囲に属するか否か)について
アイ号物件の構成について
(ア)原告らは,イ号物件(「ハナビシ」)の構成は,別紙「イ号図面」及
び「イ号図面の説明書」記載のとおりである旨主張する。これに対し,
被告は,イ号物件(「ハナビシ」)の構成が「イ号図面」及び「イ号図
面の説明書」記載のとおりであることを否認する。
ところで,別紙「イ号図面」及び「イ号図面の説明書」は,弁理士F
(以下「F弁理士」という。なお,F弁理士は本件特許の出願代理人で
ある。甲2,23)の作成に係る「鑑定書」と題する書面(甲19)に
添付された「イ号図面」及び「イ号図面の説明書」と同一である。
(イ)証拠(甲19,23)には,「イ号図面」及び「イ号図面の説明書」
の作成に関し,次の旨の記載がある。
a「亡Aから提供された資料(ダイヤモンドの現物と広告誌)に基づ
き,被告が「花菱」と称して製造・販売しているイ号図面及びその説
明書に記載されたダイヤモンド(以下「花菱ダイヤモンド」とい
う。)が,亡Aの所有する本件特許の権利範囲に属するか否かの鑑
定」(甲19の1頁)
b「添付書類の目録
(中略)
(3)資料(広告誌)「ナイルスナイル」№130November20
07写1通」(甲19の8頁)
なお,同資料(広告誌)には,「『花菱』伊勢の紋である菱形の花
びらが浮き上がる日本ならではのカット。」との説明の下,ダイヤモ
ンド製品を上方(テーブル面の上方)から写した写真が1枚掲載され
ている。
c「亡Aから提供された『花菱ダイヤモンド』の現物をルーペで拡大
して見ると共に,『ダイヤモンドグレーディングラボラトリー宝石鑑
定書』に掲載の写真,広告誌『ナイルスナイル』に掲載の写真及び亡
Aの説明に基づき作成したものであります。」(甲23の1頁)
これは,「1鑑定書添付イ号図面について,これは亡Aが所持し
ていた『花菱ダイヤモンド』の現物及びダイヤモンドグレーディング
ラボラトリーの自動測定機を利用したダイヤモンド鑑定書(甲20)
の図面をもとに作成したものか。」との照会(甲22)に対する回答
である。
なお,「ダイヤモンドグレーディングラボラトリー宝石鑑定書」
(甲20)には,ダイヤモンド製品を写した写真(ダイヤモンド製品
を上方又は下方から写した写真)が1枚掲載されている。
d「実測はしていません。(現物が小さいので,当職では実測は不可
能でした)」(甲23の1頁)
これは,「イ号図面作成時に,上記1以外の写真等を用いて対象と
なった『花菱ダイヤモンド』を実測したかどうか。」との照会(甲2
2)に対する回答である。
(ウ)上記記載によれば,F弁理士は,「イ号図面」の作成に当たって,対
象物のダイヤモンド製品(現物)の実測はせずに,これを,①対象物の
ダイヤモンド製品(現物)をルーペで拡大しての目視,②「ダイヤモン
ドグレーディングラボラトリー宝石鑑定書」(甲20)に掲載の写真,
③広告誌「ナイルスナイル」に掲載の写真,④亡Aの説明に基づいて作
成したことになる。
しかしながら,現物をルーペで拡大して目視した(①)だけでは,対
象物を正確に把握する(図面化する)ことはできないこと,対象物を上
部や下部から写した写真(②及び③)を用いても,θ1の角度(ロウワ
ー・メイン・ファセットの頂部と底部の角度。イ号図面の【図6】参
照)やθ2の角度(両側の対向する角度。同【図6】参照),テーブル
面とロウワー・ガードル・ファセット面との角度,テーブルの1辺の長
さやパビリオンの高さを正確に把握する(図面化する)こともできない
ことは,論ずるまでもなく明らかである。
また,亡Aの説明の内容(④)も明らかではないし,仮に,亡Aが現
物の角度や寸法等について原告の主張内容に沿う説明をしていたとして
も,同説明が正確であることを裏付ける客観的証拠は何ら示されていな
い。
結局,本件全証拠によっても,F弁理士において,甲第19号証に添
付された「イ号図面」をいかにして作成したものであるかは明らかでは
なく,同図面がイ号物件の構成を正確に図面化したものであると認める
ことはできない。
(エ)そうすると,甲第19号証に添付された「イ号図面の説明書」には,
「ロウワー・メイン・ファセット5は,菱形に形成されると共に,該菱
形の頂部と底部の角度θ1が略60∼61°で両側の対向する角度θ2
がそれぞれ略119∼120°に形成されている」との記載があるもの
の,これを,イ号物件(「ハナビシ」)の構成を的確に表したものであ
ると認めることはできない。
なお,同説明書には,「菱形の角度については,図面上で計測したも
のであり,正確には計測できなかった。」と記載されている。上記記載
からは,イ号図面のうちどの図のどの角度を計測したのかも明らかでは
なく,この点をひとまず措くとしても,そもそも,ロウワー・メイン・
ファセットは,テーブル2の各コーナー部から中心線(キューレット)
に向けて斜めにカットして形成されているのであるから,図面上(平面
上)に表れる角度(θ1,θ2)の計測値は,実際の角度(θ1,θ
2)の計測値とは異なるはずであり,この観点からしても,甲第19号
証における上記θ1,θ2の角度の計測値を採用することはできない。
(オ)また,甲第19号証に添付された「イ号図面の説明書」では,「パビ
リオン3は,前記テーブル2の各辺からほぼ垂直にカットして形成した
ロウワー・ガードル・ファセット5」と記載されている。しかしながら,
イ号物件においてテーブル面とロウワー・ガードル・ファセット面との
角度が直角(90°)であることを認めるに足りる証拠はない。かえっ
て,「ダイヤモンドグレーディングラボラトリー宝石鑑定書」(甲2
0)の写真や図からは,上記角度が直角(90°)ではないことが見て
とれる。
さらに,「イ号図面の説明書」に記載された上記θ1及びθ2の角度
以外の数値や構成を前提として,θ1,θ2の角度を計算上求めると,
θ1の角度が「略60∼61°」(60°の近似値),θ2の角度が
「略119∼120°」(120°の近似値)といった数値にはならな
い。
(カ)ところで,被告は,被告の製造販売する商品名(カット方法名)「ハ
ナビシ」のダイヤモンド製品(ただし,甲19において対象とされた製
品とは異なる。)を対象にロウワー・メイン・ファセットの角度等を計
測した,米国宝石学協会宝石鑑定士Gの作成した「鑑定書1」と題する
書面(乙29)を証拠として提出する。
乙第29号証には,その計測方法として,「現物をマクロ撮影したも
のを図面にし,それを分度器・定規を使い実測する。現物が余りにも小
さく,直接分度器等で計測することが困難なため,平面が出るようにク
ッション性のあるシートの上に現物を置き,計測面に密着するようにク
リアーなプラスチックを押し付けて,計測誤差が出ないように工夫して
撮影する。」旨が記載されており,少なくとも計測面が平面として出る
ように工夫して写真撮影されている点において,ロウワー・メイン・フ
ァセットの角度の計測値は,概略値として参考にし得るとも考えられる。
そこで,乙第29号証の計測値を見ると,ロウワー・メイン・ファセ
ットの角度のうち,θ1の角度(ロウワー・メイン・ファセットの頂部
(テーブル面側)の角度。乙29の図1(A)参照)は,65°,θ3
の角度(ロウワー・メイン・ファセットの底部(キューレット側)の角
度。同図1(A)参照)は55°,θ2及びθ4の角度(両側の対向す
る角度。同図1(A)参照)は各120°となっている。
また,少なくとも,乙29の図1(D)の写真からは,ロウワー・メ
イン・ファセットが形成する面が菱形ではなく,上記θ1の角度の方が
θ3の角度よりも大きいことが見て取れる。
これらの点においても,原告らが主張するイ号物件(なお,イ号物件
は,特定の製品(甲20の製品)を対象としたものではなく,被告にお
いて「ハナビシ」という商品名で販売されている製品のすべてを対象に
している。)の構成をそのまま採用することはできない。
イ文言侵害について
以上検討したところによれば,イ号物件(商品名「ハナビシ」)の構成
が,別紙「イ号図面」及び「イ号図面の説明書」記載のとおりである旨の
原告らの主張は採用することができず,他に,イ号物件の構成を本件発明
の構成要件との対比が可能な程度に的確に認定し得るに足る証拠はないか
ら,イ号物件が本件発明3ないし5(請求項4,5は請求項3の従属項で
ある。)の技術的範囲に属すると認めることはできない。
また,イ号物件は,「パビリオンが,テーブルの各辺から垂直にカット
してロウワー・ガードル・ファセットを形成」(構成要件1C)されてい
るとも,「テーブルの各コーナー部から中心方向に向けて斜めにカットし
てロウワー・メイン・ファセットを菱形に形成すると共に,該菱形の頂部
と底部の角度θ1がそれぞれ60°で両側の対向する角度θ2がそれぞれ
120°に形成」(構成要件1D)されているとも認定することができな
いから,イ号物件が本件発明1のダイヤモンドのカット方法を使用して製
造されたものであると認めることはできない。
したがって,被告において,本件発明1及び2(請求項2は請求項1の
従属項である。)の技術的範囲に属するダイヤモンドのカット方法を使用
しているとの事実を認めることはできない。
ウ均等侵害
(ア)原告らは,イ号物件の構成が本件発明3の構成要件3F(「該ロウワ
ー・メイン・ファセットは,菱形に形成されると共に,該菱形の頂部と
底部の角度θ1がそれぞれ60°で両側の対向する角度θ2がそれぞれ
120°に形成されること」)を充足しないとしても,イ号物件は本件
発明3と同一の作用効果(十字状の反射光が表出されることによって,
各コーナー部に「菱形の花びら」の形状が浮き上がるという効果)を奏
するから,本件発明3の構成と均等である旨主張する。
(イ)本件明細書等の記載
a本件明細書(甲2)には,次のとおりの記載がある。
【発明が解決しようとする課題】
「従来例における58面体のラウンドブリリアンカットのダイヤモ
ンドにおいては,テーブルが正八角形に形成され,クラウン部分が3
3面にカットされ,パビリオン部分が25面にカットされていること
から,乱反射的に光輝するものであって,一つの確立された視認し易
い反射光が得られないばかりでなく,各面のカットが非常に複雑で時
間の掛かる加工であるため,それがダイヤモンドの価格に跳ね返って
高価なものにしているという問題点を有している。」(3頁5行ない
し10行)
「また,この種の58面体のダイヤモンドは,独立して個別に使用
されるものであって,複数個をちりばめて使用することはあっても,
複数個を隣接状態に集合させて独特な模様を形成することはできない
構成である。」(3頁12行ないし14行)
「従って,従来例におけるカットの仕方を採用しないで,独特な形
状の反射光が得られる簡単なカットの仕方,および複数個を集合させ
て一つの模様が形成できるようにすることに解決しなければならない
課題を有している。」(3頁16行ないし18行)
【課題を解決するための手段】
「前記従来例の課題を解決する具体的手段として本発明は,第1に,
テーブルの下部にパビリオンが形成されるダイヤモンドであって,テ
ーブルを矩形状に形成し,パビリオンは,テーブルの各辺から垂直に
カットしてロウワー・ガードル・ファセットを形成し,テーブルの各
コーナー部から中心方向に向けて斜めにカットしてロウワー・メイン
・ファセットを菱形に形成すると共に,該菱形の頂部と底部の角度θ
1がそれぞれ60°で両側の対向する角度θ2がそれぞれ120°に
形成されることを特徴とするダイヤモンドのカット方法を提供するも
のである。」(3頁21行ないし27行)
「第2に,矩形状に形成したテーブルと,該テーブルの下部に形成
したパビリオンとからなり,該パビリオンは,前記テーブルの各辺か
ら垂直にカットして形成したロウワー・ガードル・ファセットと,前
記テーブルの各コーナー部から中心方向に向けて斜めにカットして形
成したロウワー・メイン・ファセットとからなり,該ロウワー・メイ
ン・ファセットは,菱形に形成されると共に,該菱形の頂部と底部の
角度θ1がそれぞれ60°で両側の対向する角度θ2がそれぞれ12
0°に形成されることを特徴とするダイヤモンドのプロポーションを
提供するものである。」(3頁32行ないし38行)
【発明の効果】
「・・・,本発明に係るダイヤモンドのカット方法は,テーブルの
下部にパビリオンが形成されるダイヤモンドであって,テーブルを矩
形状に形成し,パビリオンは,テーブルの各辺から垂直にカットして
ロウワー・ガードル・ファセットを形成し,テーブルの各コーナー部
から中心方向に向けて斜めにカットしてロウワー・メイン・ファセッ
トを菱形に形成すると共に,該菱形の頂部と底部の角度θ1がそれぞ
れ60°で両側の対向する角度θ2がそれぞれ120°に形成される
ことによって,カット面が少なくて作業性が良く,しかも,原石を真
ん中から二つに切って同じ大きさのものを二個形成できるので,経済
的に著しく優れるという効果を奏する。」(5頁26行ないし33
行)
「また,本発明に係るダイヤモンドのプロポーションは,矩形状に
形成したテーブルと,該テーブルの下部に形成したパビリオンとから
なり,該パビリオンは,前記テーブルの各辺から垂直にカットして形
成したロウワー・ガードル・ファセットと,前記テーブルの各コーナ
ー部から中心方向に向けて斜めにカットして形成したロウワー・メイ
ン・ファセットとからなり,該ロウワー・メイン・ファセットは,菱
形に形成されると共に,該菱形の頂部と底部の角度θ1がそれぞれ6
0°で両側の対向する角度θ2がそれぞれ120°に形成されること
によって,全体としてシンプルでありながら,反射光は独特な形状模
様を表出させるばかりでなく,複数個を用いて独特な形状の集合体に
形成できるという優れた効果を奏する。」(5頁35行ないし43
行)
b本件特許については,その出願手続において,特許庁審査官から進
歩性の欠如(特許法29条2項)を理由に拒絶理由通知書(乙17)
が発出され,亡Aは,これを受けて,手続補正書(乙18)及び意見
書(乙19)を提出し,その結果,本件特許は登録されるに至ったも
のである。
上記補正書(乙18)は,ロウワー・メイン・ファセットの形状や
その角度について何ら規定していなかった請求項1及び同3の特許請
求の範囲の記載に,ロウワー・メイン・ファセットが「菱形に」形成
されること及び「該菱形の頂部と底部の角度θ1がそれぞれ60°で
両側の対向する角度θ2がそれぞれ120°に形成されること」を挿
入した記載に変更するものである。
また,上記補正書(乙18)と併せて提出した意見書(乙19)に
は,次の記載がある。
「本願発明と引用文献との比較検討
(中略)
特に,本願の請求項1に係る発明は,「4.テーブルの各コーナー
部から中心方向に向けて斜めにカットしてロウワー・メイン・ファセ
ットを菱形に形成すると共に,該菱形の頂部と底部の角度θ1がそれ
ぞれ60°で両側の対向する角度θ2がそれぞれ120°に形成され
ること」を特徴の一つとしています。また,請求項2に係る発明(判
決注・請求項3に係る発明の誤記と認める。)は,「11.該ロウワ
ー・メイン・ファセットは,菱形に形成されると共に,該菱形の頂部
と底部の角度θ1がそれぞれ60°で両側の対向する角度θ2がそれ
ぞれ120°に形成されること」を特徴の一つとしています。しかし
ながら,引用文献1には,それらの構成は全く記載されておりませ
ん。」(乙19の2頁)
(ウ)非本質的部分であると認められるか否かについて
特許発明の本質的部分とは,明細書の特許請求の範囲に記載された特
許発明の構成のうち,当該発明特有の課題解決のための手段を基礎付け
る技術的思想の中核をなす特徴的部分を意味するものと解される。
上記(イ)aの本件明細書の記載によれば,本件発明は,「従来例に
おけるカット方法を採用しないで,独特な形状の反射光が得られる簡単
なカットの仕方,および複数個を集合させて一つの模様が形成できるよ
うにする」との課題があるとの認識の下で,同課題を解決するための手
段として,「テーブルの下部にパビリオンが形成されるダイヤモンドで
あって,テーブルを矩形状に形成し,パビリオンは,テーブルの各辺か
ら垂直にカットしてロウワー・ガードル・ファセットを形成し,テーブ
ルの各コーナー部から中心方向に向けて斜めにカットしてロウワー・メ
イン・ファセットを菱形に形成すると共に,該菱形の頂部と底部の角度
θ1がそれぞれ60°で両側の対向する角度θ2がそれぞれ120°に
形成されることを特徴とする」ダイヤモンドのカット方法及び同カット
方法によるダイヤモンドのプロポーションを採用し,これにより,全体
としてシンプルでありながら,反射光は独特な形状模様を表出させるば
かりでなく,複数個を用いて独特な形状の集合体に形成できるという効
果を奏し,従来技術における上記課題を解決するに至ったものである。
また,上記(イ)bの本件特許の出願経過に照らせば,本件発明3(本
件発明1)は,補正により,特許請求の範囲の記載に,構成要件3F
(構成要件1D)を挿入し,当該構成が本件発明3(本件発明1)の特
徴であることを主張することにより,特許査定されたものである。
以上によれば,構成要件3F(構成要件1D)は,本件発明3(本件
発明1)の本質的部分であるというべきである。
(エ)したがって,イ号物件の構成が本件発明3の構成要件3Fを充足しな
くても,十字状の反射光が表出されることによって,各コーナー部に
「菱形の花びら」の形状が浮き上がるという効果を奏する限り,本件発
明3の構成と均等なものとして,その技術的範囲に含まれる旨の原告ら
の主張は採用することができない。
イ号物件(商品名「ハナビシ」)は,本件発明3の構成と均等なもの
として,その技術的範囲に属するとは認められないから,本件発明3の
従属項である本件発明4,5の構成と均等なものとして,その技術的範
囲に属するとも認められない。
また,上記のとおり,構成要件1Dは本件発明1の本質的部分である
というべきであるから,イ号物件が本件発明1のダイヤモンドのカット
方法と均等な方法を使用して製造されたものであると認めることはでき
ず,被告において,本件発明1及び2(請求項2は請求項1の従属項で
ある。)の構成と均等なものとして,その技術的範囲に属するダイヤモ
ンドのカット方法を使用しているとの事実を認めることはできない。
(2)争点1−b(ロ号物件は本件発明の技術的範囲に属するか否か)について
アロ号物件の構成について
(ア)原告らは,ロ号物件(9面体アンク№0075)の構成は,別紙
「ロ号図面」及び「ロ号図面の説明書」記載のとおりである旨主張する。
これに対し,被告は,ロ号物件において,①ロウワー・ガードル・フ
ァセットを備えるものの,該ロウワー・ガードル・ファセットは,テー
ブルの各辺から垂直にカットして(テーブル面に対して直角に)形成さ
れたものではない,②ロウワー・メイン・ファセットは,菱形の頂部と
底部の角度θ1がそれぞれ60°で両側の対向する角度θ2がそれぞれ
120°に形成されたものではない旨主張して,原告らの主張するロ号
物件の構成を否認する。
(イ)ところで,原告らは,ロ号物件の構成を示す証拠であるとして,甲第
1号証(亡Aの陳述書),甲第12号証(被告のホームページ),甲第
13号証(被告のパンフレット)を挙げる。
しかしながら,甲第1号証(亡Aの陳述書)は,ロ号物件の具体的な
構成に言及するものではないし,甲第12号証(被告のホームページ)
に掲載された写真(ダイヤモンド製品を上方(テーブル面の上方)から
撮影した写真1枚)や甲第13号証(被告のパンフレット)に掲載され
た写真(ダイヤモンド製品(指輪)の写真)から,ロ号物件の具体的な
構成を正確に把握する(図面化する)ことはできない。
そして,本件において,他に,ロ号物件の構成を本件発明の構成要件
との対比が可能な程度に的確に認定するに足る証拠はない。
イ上記のとおり,本件においては,ロ号物件の構成を本件発明の構成要件
との対比が可能な程度に認定することはできないから,ロ号物件が本件発
明3ないし5(請求項4,5は請求項3の従属項である。)の技術的範囲
に属すると認めることはできない。
また,ロ号物件は,「パビリオンが,テーブルの各辺から垂直にカット
してロウワー・ガードル・ファセットを形成」(構成要件1C)されてい
るとも,「テーブルの各コーナー部から中心方向に向けて斜めにカットし
てロウワー・メイン・ファセットを菱形に形成すると共に,該菱形の頂部
と底部の角度θ1がそれぞれ60°で両側の対向する角度θ2がそれぞれ
120°に形成」(構成要件1D)されているとも認定することができな
いから,ロ号物件が本件発明1のダイヤモンドのカット方法を使用して製
造されたものであると認めることはできない。
したがって,被告において,本件発明1及び2(請求項2は請求項1の
従属項である。)の技術的範囲に属するダイヤモンドのカット方法を使用
しているとの事実を認めることはできない。
ウ原告らは,ロ号物件は,十字状の反射光が浮き上がるという特徴を有し
ており,これは本件発明の作用効果と同一であるから,ロ号物件のプロポ
ーションは本件発明3ないし5の構成を備え,また,ロ号物件において本
件発明1,2の方法が使用されていることは明らかである旨主張する。
しかしながら,本件発明の各特許請求の範囲の記載に照らせば,「十字
状の反射光が浮き上がるという特徴」を有するダイヤモンドのプロポーシ
ョン,あるいは,ダイヤモンドのカット方法のすべてが,その構成にかか
わらず,当然に本件発明の技術的範囲に含まれるということはできないこ
とは明らかである。
そして,構成要件3Fは本件発明3の,構成要件1Dは本件発明1の,
それぞれ本質的部分であるというべきであるから,ロ号物件の構成が本件
発明3の構成要件3Fを充足するか否かにかかわらず,十字状の反射光が
浮き上がるという特徴を有する限り,ロ号物件の構成が本件発明3の構成
と均等なものである,ともいえないことは,イ号物件について既に述べた
ところと同様である(したがって,ロ号物件は,本件発明3の従属項であ
る本件発明4,5の構成と均等なものであるともいえないし,ロ号物件が
本件発明1のダイヤモンドのカット方法と均等な方法を使用して製造され
たものであるともいえないから,被告において,本件発明1及び2の構成
と均等なダイヤモンドのカット方法を使用しているともいえない。)。
エなお,仮に,ロ号物件が本件発明の技術的範囲に属するとしても,証拠
(乙21,22)によれば,ロ号物件が製造されたのは,亡Aが被告の取
締役を解任される以前の平成13年8月ころのことであったと認められる。
ロ号物件について売買契約が締結されたのは,亡Aが被告の取締役を解任
された直後の平成19年5月9日のことであるとはいえ,本件特許権がダ
イヤモンドという高価品のカット方法又はプロポーションに係る特許権で
あること,実施許諾契約の終了に伴う処理について特段の合意もされてい
なかったこと(弁論の全趣旨)などに照らすと,実施許諾契約の終了のい
かんにかかわらず,ロ号物件(既に製造された製品)を被告において販売
することができることが実施許諾契約の内容となっていたものと認めるの
が相当である(通常実施権が独占的なものであったのか,あるいは,非独
占的なものであったのかについて争いはあるものの,少なくとも,亡Aが
被告に対して通常実施権を設定していたとの点については,当事者間に争
いがない。)。
したがって,この点においても,被告によるロ号物件の販売は,本件特
許権の侵害行為であるとはいえない。
(3)まとめ
以上検討したところによれば,被告が本件特許権の侵害行為に該当する行
為を行ったとの事実を認めることはできないから,その余の点について判断
するまでもなく,原告らから被告に対する本件特許権の侵害行為の差止めを
求める請求はいずれも理由がない。
2本件特許証の引渡請求権の有無(争点2)について
(1)証拠(甲1,11)及び弁論の全趣旨によれば,亡Aは,本件特許証を被
告に寄託し,被告はこれを受託していたものと認められる。
寄託者は,いつでもその返還を請求することができるから(民法662
条),被告は,原告らに対して,本件特許証の返還を拒むことはできない。
(2)なお,被告は,本件特許証に係る特許権について実施許諾を受けている以
上,その関連書類として(特許権の従物として),被告に特許証の使用,管
理が委ねられている,などと主張するものの,特許証を使用,管理する権限
が,特許権の実施権者に当然に帰属すると解すべき根拠は見当たらず,被告
の上記主張は,独自の見解であって,主張自体失当というほかなく,採用す
ることができない。
3結論
以上によれば,原告らの本訴請求は,被告に対し,本件特許証の引渡しを求
める限度で理由があるから,これを認容し,その余はいずれも理由がないから
棄却することとし,仮執行宣言については,相当でないからこれを付さないこ
ととして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官阿部正幸
裁判官柵木澄子
裁判官小川卓逸
(別紙イ号図面,イ号図面の説明書,ロ号図面,ロ号図面の説明書及び
別紙特許公報省略)
(別紙)
特許証目録
1日本国特許証
下記特許権に係る特許証

特許番号第3863374号
発明の名称ダイヤモンドのカット方法及びプロポーション
出願日平成13年1月22日
登録日平成18年10月6日
出願人A
発明者A
2米国特許証
登録番号US6397832B1に係る特許証
登録番号US6604382B2に係る特許証
登録番号US6913009B2に係る特許証
登録番号US6915663B2に係る特許証
(別紙)
特許方法目録
【請求項1】
「テーブルの下部にパビリオンが形成されるダイヤモンドであって,テーブル
を矩形状に形成し,
パビリオンは,テーブルの各辺から垂直にカットしてロウワー・ガードル・
ファセットを形成し,
テーブルの各コーナー部から中心方向に向けて斜めにカットしてロウワー・
メイン・ファセットを菱形に形成すると共に,該菱形の頂部と底辺の角度θ1
がそれぞれ60°で両側の対向する角度θ2がそれぞれ120°に形成される
こと
を特徴とするダイヤモンドのカット方法。」
【請求項2】
「ロウワー・ガードル・ファセットは二等辺三角形に形成されること
を特徴とする請求項1に記載のダイヤモンドのカット方法。」
(別紙)
被告製品目録
1ハナビシ約0.3CTVLY
製品構成は,別紙「イ号図面」及び「イ号図面の説明書」記載のとおり
29面体アンク№00750.503CT
製品構成は,別紙「ロ号図面」及び「ロ号図面の説明書」記載のとおり

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