弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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判     決
主     文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告は,原告に対し,金165万0175円及びこれに対する平成13年
10月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者の主張
1 請求の原因
(1) 原告は双葉町の住民であるが,平成13年2月2日,「双葉町々長Aが平
成10年4月8日にBとの間において,同人所有地と双葉町所有地を交換したのは
Bに対する便宜供与として違法であるから,それによって双葉町の受けた損害金1
100万1175円をAは被告に支払え」との住民訴訟(以下「本件訴訟」とい
う。)を地方自治法242条の2第1項4号に基づいて提起した。
(2) 上記提訴に際し,原告は,福島県弁護士会所属Cに対して,通常の弁護費
用および経費を支払うことを前提として,本件訴訟の遂行を依頼した。
(3) 平成13年5月8日が本件訴訟の第1回期日であったが,その直前にAは
請求金額全額を被告に対して支払い,その結果,本件訴訟は訴の利益を失ったの
で,原告は同年6月7日,本件訴訟を取り下げた。
(4) しかしながら,Aによる請求金額全額である1100万1175円の支払
は本件訴訟の結果であり,地方自治法242の2第7項の「勝訴」と同視し得るか
ら(本件訴訟の提起により,双葉町は1100万1175円の経済的利益を確保し
たということができる。),原告は,地方自治法の同条項により,被告に対して
「相当と認められる額」の報酬請求権を有するところ,弁護士報酬相当額として
は,着手金として請求金額の5パーセントである55万0058円,報酬として返
還された金額の10パーセントである110万0117円の合計165万0175
円が相当である。
(5) よって,原告は被告に対し,地方自治法242条の2第7項に基づき,弁
護士報酬相当額165万0175円及びこれに対する本件訴状が被告に送達された
日の翌日である平成13年10月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金の支払を求める。
2 請求の原因に対する認否
(1) 請求の原因(1)の事実は認める。
(2) 同(2)の事実は知らない。
(3) 同(3)のうち,本件訴訟を取り下げたことは認めるが,その余は不知ない
し争う。
(4) 同(4)は争う。
ア 本件訴訟は取下げによって終了しているのであるから,勝訴した場合に
は該当しない。
イ 本件訴訟の基本となった事件は,公園住宅団地進入路交差点改良事業に
伴う事件(以下「本件事件」という。)であったところ,本件事件については,本
件訴訟とは関係なく,当該関係職員の損害についての責任割合及び支払方法につい
て協議が行われ,平成13年4月27日,損害補填関係者代表者Aが本件事件につ
いて1272万3687円を支払った(本件訴訟による請求額よりも多額になった
のは遅延損害金の発生日の考え方の相違による。)。
したがって,Aらによる損害の補填は本件訴訟の提起とは因果関係がな
い。
第3 判断
1 請求の原因(1)の事実は当事者間に争いがない。
2 同(2)及び(3)の事実は,乙第7及び第10号証並びに弁論の全趣旨によって
これを認めることができる。
3(1) 本件訴訟の基本となった事件が本件事件であることは,原告の認めるとこ
ろである。
(2) そこで,本件事件につき,原告が本件訴訟を提起し,これを取り下げるに
至る経緯について検討すると,証拠(乙1ないし7,10)及び弁論の全趣旨によ
れば,以下の事実が認められる。
ア 本件事件については,住民からの開示請求に基づく開示(平成12年8
月14日)及び新聞報道(平成12年8月15日)があり,被告では総務課長Dが
関係書類を調査するとともに関係職員から事情聴取を行い,平成12年8月22日
開催の議会全員協議会において,事案の概要を報告した。
イ 同総務課長らはその後も調査を続行したが,本件事件について地方自治
法等の関係法令に照らして違法・無効の疑いのある点が存すると判断し,被告の顧
問弁護士であり,被告訴訟代理人でもあるE弁護士に相談した上,被告として,本
件事件に違法・無効の疑いがあり,関係職員らにおいて賠償すべき事案であると判
断した。そこで,双葉町長は平成12年10月31日,事故報告書を添付した上,
地方自治法243条の2第3項に基づき,双葉町監査委員に対し,「(1) 平成10
年3月17日付け,契約締結した『公園住宅団地進入路交差点改良事業』にかかる
土地売買契約により町に与えた損害の有無,賠償責任の有無,及び賠償額の決
定。(2) 平成10年9月24日付け,契約締結した『公園住宅団地進入路交差点改
良事業』にかかる補償契約(国保税補償)により町に与えた損害の有無,賠償責任
の有無,及び賠償額の決定。」について監査を求め,双葉町監査委員は同日,双葉
町長に対し,当該監査を実施する旨通知した。
ウ ところが,平成12年11月9日,原告及びIから双葉町監査委員に対
し,本件事件について住民監査請求が行われた。なお,原告が求めた措置の内容
は,「町長A,前助役G,前収入役H,外関係課長は連帯して,交換差額1100
万1175円を町に補填することを求める。」というものであった。
エ 平成12年12月,本件事件は双葉町議会でも取り上げられ,双葉町長
Aは「行政執行機関の最高責任者である私の責任であり,町に与えた損害について
回復を図り,いずれみずからの責任を明確にする考えでありますので,ご理解いた
だきたいと思います」と説明していた。
オ ところで,監査委員は原告ら住民からの上記監査請求を先に処理するこ
ととし,平成13年1月5日,原告からの上記請求につき,双葉町長Aに対し,
「公園住宅団地進入路交差点改良事業は,国道6号線及び町内道路の交通事故防止
並びに渋滞緩和を図るための公益性を有するものと判断されるが困難な用地交渉で
あったにせよ,公有財産の処分を発議書並びに契約書も無く,また,上司の決裁も
受けることなく所有権を移転した行為は,財産の交換,譲与,無償貸付等に関する
町条例及び町財務規則等の行政手続きを欠いたものであり,地方自治法第237条
第2項並びに同法施行令第169条の4に抵触しており,同法第2条第16項『地
方公共団体は,法令に違反してその事務を処理してはならない。』同条第17項
『前項の規定に違反して行った地方公共団体の行為は,これを無効とする。』この
条項に該当するものと解す。よって,この行為は無効であり,請求人の主張する損
害額の補填以前のことで,当該土地の原状回復の措置を講ずるべきものと判断す
る。しかし,効果発現がなされているので,合法的な行政手続きをもって回復を図
られるよう地方自治法第242条第3項の規定に基づき,勧告することにし
た。」旨通知した。
カ 双葉町長Aは,上記監査結果を承けて,自ら求めた監査の依頼を同月1
1日付けで取り下げ,直ちに損害回復のための手続の検討に入ったが,上記監査結
果が「効果発現がなされているので,合法的な行政手続きをもって回復を図られる
よう」勧告していることにつき,その具体的な回復方法を検討するため,D総務課
長らは同月19日,E弁護士に相談し,同弁護士から,違法・無効と判断された以
上,関係者による民事の損害賠償によるのが相当であるとの指導を受けたので,同
課長はこれを双葉町長Aに報告して了解を得,その後関係職員の責任割合及び支払
方法の協議を行うべく準備していたところ,同年2月2日本件訴訟が提起された。
しかし,D総務課長らは,引き続き関係者らとの協議を重ね,同年4月
9日,双葉町関係の起因者6名に本件事件にかかる損害の仮算定額の説明をし,併
せて本件事件に先行して処理が進められていた町道山田郡山線問題における損害の
算定手続の経過についても説明し,同月18日,本件事件及び町道山田郡山線問題
の損害の総額を上記双葉町関係の起因者6名に示し,その結果,同月24日,Aを
代表者とする被告宛の損害の補填申出書が提出され,被告はこれを了承した。な
お,被告が算定した損害補填額は,本件事件につき1272万3687円,町道山
田郡山線問題につき1529万2317円であり(総額2801万6004円),
Aらからの補填の申出の内容も同額であった。
そこで,上記代表者Aは,同月27日,被告に上記総額2801万60
04円を支払った。
キ 原告は,上記のとおり,本件訴訟にかかる請求金額が支払われたことに
より,同年6月7日,本件訴訟を取り下げ,本件訴訟は終了した。
4 そこで,上記代表者Aによる本件事件についての損害の補填と本件訴訟との
関係について検討すると,上記認定の事実によれば,被告において,原告らからの
監査請求に先立って双葉町監査委員に対して本件事件に伴う損害の有無,賠償責任
の有無及び賠償額の決定を求めていたところ,その後原告らから本件事件について
の監査請求が行われたが,原告らからの監査請求に対する処理が先行され,双葉町
長Aに対して是正を求める勧告が行われたため,同人において,自ら求めた監査依
頼を取り下げた上,被告は本件事件に基づく損害の回復のための手続を検討し,そ
の結果,平成13年4月27日,本件事件による被告双葉町の損害の回復がはから
れたということができる。
そうすると,被告は原告による本件訴訟の提起に先立ち,独自に損害回復の
ための手続を開始し,その結果,本件事件に伴う損害が回復されたというべきであ
るから,本件事件による被告の損害の回復は,原告による本件訴訟の提起とは関係
がなく,このことは,原告らによる監査請求に対する処理がたまたま先行して行わ
れたことにはかかわらないというべきである。したがって,両者の間には因果関係
がなく,原告の請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。
5 ところで,原告は,平成12年6月6日には本件事件の真相解明のための調
査特別委員会,いわゆる百条委員会が双葉町議会において設置され,同年8月25
日には,Fによる監査請求がなされ,同年9月13日には本件事件の真相解明を求
める町民集会などが行われていたこと等を理由として,本件事件における損害の回
復が本件訴訟の提起と因果関係を有する旨主張する。
しかしながら,原告が主張する調査特別委員会は町道山田郡山線道路改良工
事等にかかるものであって,本件事件とは関係のないものであるし(甲5),Fに
よる監査請求及び町民集会にしても,同様であり(甲6),前記4の判断を左右す
るものではない。
6 よって,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61
条を適用して,主文のとおり判決する。
福島地方裁判所第一民事部
裁 判 官吉    田      徹

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