弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
○ 事実及び理由
第一 控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人が控訴人の船舶建造承認申請に対して平成二年五月一〇日付けでした
不承認の決定を取り消す。
三 被控訴人は控訴人に対し、金一億五八三九万七〇〇〇円及びこれに対する平成
二年七月五日から支払済まで年五分の割合による金員並びに同年五月一一日から前
項の船舶建造申請に対して承認予定の決定をするまで一日当たり金一四万二七〇一
円の割合による金員を支払え。
四 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
五 第三項につき仮執行の宣言
第二 当事者の事実の主張及び証拠
一 当事者双方の事実に関する主張は、損害賠償請求につき控訴人が当審において
次のとおり主張したことを付加するほか、原判決の事実摘示のとおりであるからこ
れを引用する(ただし、原判決書一三枚目表二行目末尾の「及びこれ」と三行目の
「又はバルブ」を削り、一三枚目裏五行目の「キングストンバルブ等」を「キング
ストンバルブに接続するパイプ」に、一五枚目裏七行目の「その不承認に過失はな
い。」を「不承認決定をし、承認予定の決定ないし承認決定をしなかったことに故
意、過失はない。」に、それぞれ改める。)。
1 控訴人
なち丸は、当日の風速毎秒一四ないし一六メートルという局地的異常海象のため、
六ないし九・五メートルという高波(甲二四、二五号証)によって船底を強打され
(スラミング)、船底に亀裂を生じたことによって沈没したものであって、本件事
故は不可抗海難である。このことは被控訴人において容易に知り得ることであるか
ら、被控訴人が本件不承認決定をしたこと、承認予定の決定をしないことについて
少なくとも過失がある。
2 被控訴人
控訴人の主張は争う。控訴人の当審での主張は、原審での事故原因の主張とも全く
違っているだけではなく、波高の計算に基本的な誤りを犯しているほか、最大瞬間
風速と風力をとり違えるなど、前提事実を誤るものである。
二 証拠(省略)
第三 判断
一 当裁判所も控訴人の本件訴えのうち不承認決定取消請求にかかる訴えは不適法
であり、損害賠償請求は理由がないものと判断する。その理由は、当審における控
訴人の前記主張にかんがみ、損害賠償請求につき二のとおり当裁判所の判断を付加
するほか、原判決の理由説示と同じであるから、これを引用する(ただし、原判決
書二四枚目裏八行目の「相当の理由があるというような場合にまで右と同様に」を
「相当の理由があるからといって、それだけの理由で直ちに不承認決定をしてよい
と」に、二七枚目表六行目の「バルブ等が破損していれば、」を「バルブに接続す
るパイプが破壊されるようなことがあれば、」に、三二枚目表四行目の「は存在せ
ず、」から五行目の「決定をしなかったことについて」を「があったとは認められ
ず、したがって被控訴人の不承認決定をしたこと及び被控訴人が承認決定をしなか
ったことが適法であったということはできず、被控訴人が承認予定の決定をしなか
ったことにつき」に、三三枚目裏七行目の「キングストンバルブを開放するなど」
を「キングストンバルブに接続するパイプに人為的な損傷を加えるなど」に、三四
枚目表一行目の「政志」を「勝己」に、それぞれ改める。)。
二 甲第二二号証には、なるほど当日の日最大瞬間風速は一七・一メートル、日最
大風速は一三・九メートルであった旨記載されている。しかし、乙第五五号証(気
象庁発行の日本気候表)によれば、一九六一年から一九九〇年までの三〇年間の室
戸岬測候所における日最大風速が一五メートルの日は、年間平均一一四・七日あ
り、一〇メートル以上の日は二五七・七日もあることが認められるところ、前掲甲
第二二号証には同日の日平均風速は四・五メートルであった旨の記載もあり、甲第
一号証(Aの報告書)にも当時の風速四メートルと記載されているのであって、こ
れによれば本件当日の海象が特に異常であったとは認め難い。
控訴人が援用する甲二四号証(ビューフオート風力階級)によれば、風速一三・九
ないし一七・一メートルでは参考波高が四メートル、最大波高五・五メートルとさ
れ、甲第二五号証の気象庁うねり階級表によれば、うねり階級三ないし五ではやや
高いうねり(波高二メートル以上四メートル未満)と記載されている。しかし、甲
第二四号証には、これが適用できるのは「白船から風上側に一五〇浬以上の間海面
が続いている場合」であり、「参考波高の欄は陸岸から遠く離れた外洋において生
ずる波の高さのおおよその目安を与えるだけのものである。」とも記載されている
ところ、当時なち丸が沿岸区域を航行していたことは原判決の認定説示していると
おりであるから、前記参考波高をそのまま採用することはできない。
また、証人Bの証言によれば、控訴人が当時の波高が六メートルないし九・五メー
トルであったと主張する根拠は、右の甲第二四号証の参考波高四メートル、最大波
高五・五メートルと甲第二五号証のうねり階級表にある波高二メートル以上四メー
トル未満を単純に合算したものと認められるが、同証言も波高とうねりを合算する
場合には、従来波高の二乗とうねりの高さの二乗を加算してルートで開く方法が常
識とされていることを認めていて、単純に両者を合算したことを追及されると、経
験によるとしか説明できないのであって、控訴人の主張はこれだけでも客観的根拠
に基づかないことが明らかである上、弁論の全趣旨によれば、最近の実証的研究の
結果では、これまで常識とされてきた計算方法でもなお過大な数値となるため、波
高かうねりの高さかいずれか大きい方の数値をとるのが正しいとの指摘もあるくら
いであることが窺われることをも考えると、当時の波高についての控訴人の主張は
採用の限りではない。
なお、甲第三八ないし四〇号証のBの鑑定書と題する書面には、本件事故の原因に
つき控訴人主張にそう趣旨の意見が記載されている(控訴人の当審における主張
は、右久保田の意見を主要な論拠としている。)。しかし、右意見は、当時の海象
について前記の控訴人主張と同じく異常な海象であったことを前提とし、かつ同人
がなち丸の乗組員から聴取した当時の状況に関する供述(甲三一ないし三四号証)
を前提としたものであるところ、当時の海象が特に異常であったとは認め難いこと
は前記のとおりであるほか、同乗組員らの右各供述も、本事件発生後約二か月後に
作成された同人らの供述書面の記載内容や別件訴訟における供述内容(乙二四、二
六、三九、四〇号証)との間に食い違いがあって、にわかに採用し難いものであ
り、これら採用し難い事実を根拠とする右Bの意見もまた採用することはできな
い。
以上のとおり控訴人が本件を不可抗海難であるとする主張の根拠となる前提事実及
びこれを裏付けるという証拠がいずれも採用し難い以上別件保険金請求訴訟の確定
していない現在、被控訴人が、本件事故について自傷海難の疑いがあろと判断し、
その真否につき公の機関による判断が確定されるのをまつこととし、承認予定の決
定をしてないことについて、被控訴人に故意、
過失があると認めることはできない。
三 以上のとおりであるから、本件控訴は理由がないので棄却することとして、主
文のとおり判決する。
(裁判官 上谷 清 小川英明 滿田明彦)

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