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平成21年3月19日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成17年(ネ)第1218号実用新案権侵害差止等請求控訴事件(原審・大阪地
方裁判所平成16年(ワ)第810号)
判決
控訴人(1審原告)川崎重工業株式会社
代表者代表取締役A
訴訟代理人弁護士畑郁夫
同重富貴光
同茂木鉄平
同岡田さなゑ
補佐人弁理士曽々木太郎
被控訴人(1審被告)株式会社安川電機
代表者代表取締役B
訴訟代理人弁護士松尾和子
同渡辺光
訴訟代理人弁理士大塚文昭
同倉澤伊知郎
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2()被控訴人は,本判決別紙イ号物件目録記載の製品を製造し,販売しては1
ならない。
()被控訴人は,上記製品及びこれらの半製品を廃棄せよ。2
()主位的請求(不法行為に基づく損害賠償請求)3
被控訴人は,控訴人に対し,17億1600万円及びこれに対する平成1
6年2月4日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
()予備的請求(不当利得返還請求)4
被控訴人は,控訴人に対し,15億6000万円及びこれに対する平成1
6年2月4日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
3訴訟費用は,1,2審とも被控訴人の負担とする。
4仮執行宣言
第2事案の概要
本件は,「スポット溶接ロボット用制御装置」に係る実用新案権の共有権者
(持分2分の1)である控訴人が,被控訴人によるスポット溶接用ロボットシ
ステムの構成部分(本判決別紙イ号物件目録記載の物件。以下「イ号物件」と
いい,これを含むロボットシステムを「被控訴人システム」という。)の製造
販売が上記実用新案権の間接侵害(実用新案法〔以下,単に「法」という。〕
28条1,2号)に当たると主張して,被控訴人に対し,イ号物件の製造販売
の差止め等並びに不法行為に基づく損害賠償(主位的請求)又は不当利得の返
還(予備的請求)を求めた事案である。
原審は,控訴人の請求をいずれも棄却したので,控訴人が控訴を提起した。
1前提となる事実(争いのない事実又は証拠によって容易に認定できる事実)
()ア上記実用新案権は,次のとおりのものである(以下「本件実用新案」1
という。)。
考案の名称スポット溶接ロボット用制御装置
出願日平成3年10月11日(実願平3−91512)
公開日平成5年5月7日(実開平5−33968)
登録日平成8年5月16日(第2506402号)
イ本件実用新案に係る登録出願時点から平成17年8月22日訂正審判請
求(甲26)時点までの実用新案登録請求の範囲(以下「登録請求の範
囲」という。)に係る変遷は,本判決別紙1記載のとおりであり,同別紙
①は平成3年10月11日付け願書に添付した明細書及び添付図面記載
(乙1)の,②は平成7年7月26日付け拒絶査定までにされていた手続
補正書記載(乙3)の,③は平成8年5月16日付け登録時点での公報記
載(甲2)の,④は平成10年4月20日付け異議決定書記載(甲3)の,
⑤は平成17年8月22日付け訂正請求書記載(甲26)の各「登録請求
の範囲」の記載である。
上記のうち④は,平成9年異議第70524号の登録異議申立事件(乙7,
8)において,特許庁からの取消理由通知(乙10。先願の特開平5−1
38366号公報〔乙9。以下「アロウ公報」という。〕記載の発明〔そ
のうち「第2の構造方式」のものを,以下「アロウ発明」という。〕と同
一であるとした。)に対応して,控訴人が平成9年6月20日付けでした
訂正請求(乙12)につき,上記異議決定で訂正が認められたものである。
⑤は,無効審判手続(無効2004−80095)において,控訴人が
請求した訂正請求(甲26)が認められ,これを前提に平成18年1月2
4日,本件実用新案登録を無効とする旨の審決がされたのに対して,無効
審決取消訴訟を提起するとともに,平成18年5月23日付けでした訂正
審判が認められ(甲38),確定したものである(甲39)。そして,上
記無効審決の取消訴訟で取消,差戻し後,無効審判請求が成り立たない旨
の審決(甲40)がされ,被控訴人が同審決取消訴訟を提起した。
ウ上記訂正後の「登録請求の範囲」は,本判決別紙2の1の「実用新案登
録請求の範囲欄「請求項1」記載のとおりであり,考案の内容は,同「考
案の詳細な説明」欄記載のとおりであって,添付図面を含め,別紙2の2
の内容と変わりがない(以下,別紙2の1を「本件明細書」という。添付
図面については同2の2参照)。
その考案(以下「本件考案」という。)の構成要件は,次のとおり分説
される(下線を付した部分は,上記訂正による訂正部分である。)。
A()スポット溶接ガンと,1
()該スポット溶接ガンに対向配置された2つのチップの一方のみを駆2
動する電動式サーボ機構と,
()該電動式サーボ機構制御部を有するロボットコントローラと,3
()前記電動式サーボ機構により駆動される一方のチップの位置を検出す4
るチップ位置検出器と,
()ロボット位置を検出するロボット位置検出器と5
からなり,
B該ロボットコントローラにより,前記スポット溶接ガンによるスポット
溶接が制御され,かつ
C前記ロボット位置検出器により得られるロボットの位置と,前記チップ
位置検出器により得られるチップ位置とに基づいて,前記電動式サーボ機
構が前記電動式サーボ機構制御部を介してロボットの1軸として制御され
ることにより,
()スポット溶接ガンの前記一方のチップを駆動する電動式サーボ機構が,1
ロボットの他の軸と同期制御可能とされることで,
()前記対向配置された2つのチップの間隔がロボットの他の軸の動作中2
においても無段階的に所望開度に制御されること,およびロボットが溶
接点に到達してその動きを停止する時点で前記2つのチップがワークを
挟み込むとともに,所定の押圧力で押圧動作するよう制御され,
Dさらに溶接点到達後,前記ロボットコントローラからスポット溶接ガン
へ溶接開始の指示がなされる
Eことを特徴とするスポット溶接ロボット用制御装置。
()ア被控訴人は,イ号物件(ただし,構成の一部について争いがある。)2
を製造販売している。
イ被控訴人システムは,イ号物件にスポット溶接ガン(以下「溶接ガン」
ともいう。),溶接タイマ等を装着して完成されるが,その内容は本判決
別紙物件説明書記載のとおり(ただし,一部について争いがある。)であ
る。
ウ被控訴人システムは,上記構成要件のうち,B及びD並びにC()後段2
を除くその余の構成要件をすべて充足している(弁論の全趣旨)。
2争点
()被控訴人システムに係る本件考案の構成要件充足性1
ア構成要件B及びDについて
イ構成要件C()後段について2
()被控訴人システムを構成するイ号物件による間接侵害の成否2
()登録無効理由の存在による権利行使制限の抗弁の成否3
()損害賠償又は不当利得返還請求権の成否及び額4
3当事者の主張
()被控訴人システムに係る本件考案の構成要件充足性(争点())について11
ア構成要件B及びDについて
〔控訴人の主張〕
(ア)本件考案の目的ないし技術的課題は溶接時間の短縮にあり,そのた
め,本件考案のロボットコントローラは,ロボットマニピュレータ(以
下「ロボット」ともいう。)の各軸の動作,溶接ガンのチップ(電極)
の開閉及び加圧力の制御,溶接開始の指示を,ロボット及び溶接ガンの
位置,溶接ガンのチップの位置,チップの加圧力を把握しながら,有機
的一体的に行うものである。すなわち,本件明細書には,ロボットコン
トローラと溶接タイマとの間に適切な連絡がなされ(図1,2),ロボ
ットコントローラが溶接ガンのチップの加圧力を把握し(【0012】。
【】内の数字は,本件明細書の「考案の詳細な説明」欄の段落番号であ
る。特記しない限り,以下同じ。),チップが溶接点に到達し,所定の
加圧力が達成されるタイミングに同期して通電が開始されることが示さ
れている(【0016】,図4)。このように,本件考案は,上記のよ
うな構成の採用により,アロウ発明における「電極の位置と,両電極間
の力と,溶接電流の間の同期を得ることが困難であり,したがって,サ
イクル時間が長くなる。」(アロウ公報【0015】末尾a))という
問題点を解決した点に特徴を有する。
(イ)上記のような本件考案の特徴等に照らすと,構成要件Dの「溶接点
到達後,前記ロボットコントローラからスポット溶接ガンへ溶接開始の
指示がなされる」とは,溶接点到達後,スポット溶接ガンのチップが所
定の加圧力を達成するタイミングと同期して,ロボットコントローラか
ら溶接タイマを介して溶接(通電)開始の指示が出されることを意味し,
構成要件Bの「ロボットコントローラにより,前記スポット溶接ガンに
よるスポット溶接が制御され」とは,ロボットコントローラが,上記の
限りでスポット溶接を制御する(後記のとおり,溶接時間の短縮の観点
からみれば,スポット溶接に関しては,溶接〔通電〕開始のタイミング
が制御されれば足りる。)ことを意味する。。
(ウ)他方,被控訴人システムa()(記号は別紙物件説明書記載の記号3
である。以下同じ。)のロボットコントローラは,同b()記載のとお2
り,ユーザーにより教示入力された作業プログラムに従い,溶接ガンを
溶接点へ位置決めしていき,さらに,同b(),()記載のとおり,同a34
()の電動式サーボ機構を制御してチップの開閉・押圧動作を調整し,2
かつ,同b(),()記載のとおり,電流の強さ等の溶接条件が予め入力56
された溶接タイマに対して,設定された溶接条件番号に対応する信号を
出力し,特定の溶接条件により溶接ガンへ溶接電流を供給して溶接を開
始するよう指令することにより,溶接ガンによるスポット溶接を制御す
るのであるから,被控訴人システムにおいても,ロボットコントローラ
によって溶接ガンによるスポット溶接が制御されている(構成要件B)。
また,被控訴人システムb(),()の構成において,ロボットコント56
ローラは,溶接タイマに対し,同a()の溶接指令ケーブルを通じて設8
定された溶接条件番号に対応した信号を出力し,かつ溶接ガンのチップ
が溶接点到達後,上記溶接指令ケーブルを通じて,溶接タイマに対し,特
定の溶接条件により同a()のケーブルを通じて溶接ガンに溶接電流を供給9
して溶接を開始するよう指令することにより,溶接タイマが特定の溶接
条件の溶接電流を溶接ガンに供給開始し,溶接ガンは溶接を開始するの
であるから,全体としてみれば,被控訴人システムにおいても,ロボッ
トコントローラから溶接ガンへ溶接開始の指示がなされている(構成要
件D)。
(エ)後記被控訴人の主張(ア),(ウ)に対する反論
(被控訴人の主張(ア)について)
被控訴人は,本件実用新案の登録異議手続における控訴人の異議意見
書(乙11)中の主張等を根拠として,本件考案のロボットコントロー
ラが,溶接電流の強さ等の溶接条件の制御を含むスポット溶接用ロボッ
トシステムの作動全体を直接的に支配する旨主張するが,上記異議意見
書における「支配」とは,「電極の位置と,両電極間の力と,溶接電流
の間の同期制御」のことであり,また,この場合の「溶接電流」とは溶
接(通電)開始のタイミングの意味である(このことは異議意見書の全
文を参照すれば明らかである。)。そもそも,溶接時間の短縮という本
件考案の本質からすれば,「溶接電流」との関係では,ロボットコント
ローラが溶接(通電)開始のタイミングを制御すれば必要にして十分で
あり,被控訴人の主張する溶接条件の制御等の問題は本件考案の課題と
は無関係な付加的事項にすぎない。
また,被控訴人は,上記異議意見書において,本件考案が溶接タイマ
を使用する構成を明確かつ意識的に除外したものであるとも主張してい
るが,溶接用ロボットシステムにおいて溶接タイマを用いることは必要
不可欠であるから,これを排除するはずはない。本件考案は,ロボット
コントローラによるロボットの各軸の動作,溶接ガンのチップの開閉,
加圧力の調整及びスポット溶接ガンへの通電開始を同期的に制御するも
のであって,そもそも溶接タイマを使用しないとか,溶接タイマをロボ
ットコントローラと一体化するような考案ではない。溶接タイマは,溶
接1次電流として最大1500アンペアもの大電流を取り扱い,かかる
大電流をロボットコントローラが直接取り扱うようなことは予定されて
おらず,また,本件実用新案の登録出願当時の当業者にとっても,スポ
ット溶接において,ロボットコントローラとは別に溶接タイマを使用す
るのが技術常識であったから,本件考案においても,当然,ロボットコ
ントローラとは別の溶接タイマの存在が前提とされているものである
(なお,本件明細書には溶接タイマに係る直接の記載はないものの,図
2が「電気的構成」の概略図であること等を考慮すれば,その記載が省
略されているにすぎないことは明らかである。)。
次に,アロウ発明との関係では,アロウ公報の図2(b)にはロボット
1416制御ユニット(ロボットコントローラ)中のサーボ制御ユニット
と溶接制御ユニット(溶接タイマ)との間に接続線等は記載されて15
14いない。また,アロウ発明では,溶接ガンをロボット制御ユニット
(ロボットコントローラ)によって加圧力制御できないのに対して,本
件考案においては,溶接ガンの開閉操作,加圧力制御,通電開始指示が
ロボットコントローラによってすべて同期的に制御されるのであって,
両者は本質的に異なるから,仮にアロウ発明において,ロボットコント
ローラと溶接タイマとを接続し,溶接タイマに対して溶接開始の信号を
送信する構成を採用したとしても,本件考案とアロウ発明とが同一の構
成になるわけではない。
さらに被控訴人は,本件実用新案の出願前公知の文献である「ROB
OTERtechnikSonderpublikationd
erZeitschriftRoboter」1991年版(乙1
9)等との関係でも同趣旨の主張をしているが,上記乙19のアには,
溶接ガンのチップを無段階的に所望の開度に開閉するとともに,所望の
押圧力を保持できるように制御し,さらに溶接ガンのチップが溶接点到
達後,溶接ガンへ溶接電流を供給して溶接を開始するよう指令すること
等については何ら記載されておらず,上記記事に記載されたロボットシ
ステムが本件考案と同一の構成ということにはならない。
(被控訴人の主張(ウ)について)
被控訴人は,被控訴人システムの溶接タイマ自体が,異常検出時等に
溶接の可否を判断しているかのような主張をしているが,実際には溶接
の可否の判断はロボットコントローラがしているものである上,いずれ
にせよ,これらの異常検出及びこれに応じた制御機能は,溶接時間の短
縮を本質とする本件考案にとっては付加的事項にすぎないから,構成要
件充足性の判断には何の関係もない(その意味で,本判決別紙物件説明
書のc()に「溶接の可否判断をし,溶接可能と判断した場合」との文1
言を挿入すべきであるとの被控訴人の主張が相当でないことは明らかで
ある。)。
(オ)以上のとおりであるから,被控訴人システムは,本件考案の構成要
件B及びDを充足する。
〔被控訴人の主張〕
(ア)本件考案の目的等に係る控訴人の主張は,本件明細書の記載に基づ
かない主張であって不当であり,むしろ本件実用新案の登録異議手続に
おける控訴人の主張に鑑みれば,本件考案の特徴は,溶接ガンのチップ
の開閉がロボットの1軸として制御される構成と相俟って,溶接開始の
指示,溶接電流の強さ等の溶接条件の制御を含むスポット溶接用ロボッ
トシステムの作動全体を,ロボットコントローラが直接的に支配するよ
うにした点にあるとみるべきである。
すなわち,本件考案の構成要件B及びDは,上記登録異議手続におけ
る取消理由通知に対応して控訴人がした訂正請求(乙12)によって挿
入されたものであるが,控訴人は,上記訂正請求と同時に提出した異議
意見書(乙11)中で,特許庁からの取消理由通知の根拠となったアロ
ウ発明と本件考案との相違点について,アロウ発明においては「溶接ガ
ンのスポット溶接に関する部分とロボットコントローラとの連絡はなさ
れておらず,スポット溶接ガンのスポット溶接に関する部分はロボット
コントローラにより支配されていない」のに対し,「本件考案において
は,スポット溶接ガンのスポット溶接に関する部分もロボットコントロ
ーラと連絡されており,スポット溶接ガンのスポット溶接に関する部分
もロボットコントローラにより支配される構成とされて」いると主張し
ているところ,上記にいう「スポット溶接ガンのスポット溶接に関する
部分」とは,溶接ガンのスポット溶接に影響を与える部分,すなわち
「溶接電流の供給,停止,並びにその強さの制御を行う機能部分」と解
されるから,本件考案が,ロボットコントローラとは別に設けられた溶
接タイマによって溶接電流の強さ及び通電時間といった溶接条件を含む
スポット溶接を制御する構成を採らず,ロボットコントローラによって
これを制御する構成とした点がアロウ発明と異なると述べたものであり,
異議決定(甲3)もこれを認めてアロウ発明と同一でないと判断したも
のと考えられるからである。
のみならず,上記のとおり,アロウ発明が「スポット溶接ガンのスポ
ット溶接に関する部分」を溶接制御ユニット(溶接タイマ)によっ15
て制御していることを考慮すると,上記異議意見書は,ロボットコント
ローラとは別の溶接タイマによってスポット溶接を制御する構成を,本
件考案の技術的範囲から明確かつ意識的に除外したものというべきであ
る。けだし,そのように解さないと,当時,ロボットコントローラと
溶接タイマとの間に溶接開始指令及び溶接完了信号の授受が行われるこ
とが当業者にとって技術常識であったことに照らせば,アロウ公報には
14明示されていないものの,アロウ発明でもロボット制御ユニット
(ロボットコントローラ)中のサーボ制御ユニットと溶接制御ユニ16
ット(溶接タイマ)とが当然接続されているものと解されるのであ15
るから,本件考案とアロウ発明との差異がなくなってしまうのみならず,
本件実用新案の出願前公知の考案,例えば「ROBOTERtech
nikSonderpublikationderZeitsc
hriftRoboter」1991年版(乙19)に開示されたシ
ステム(このシステムにおいては,ロボット制御装置は,依然として独
自の制御装置を介して行われる溶接電流の制御を除き,すべての操作を
引き受ける等の記載がみられる。)とも構成上の差異がないことになっ
てしまうからである。
(イ)上記のような本件考案の特徴等に照らすと,「ロボットコントロー
ラにより,前記スポット溶接ガンによるスポット溶接が制御され」(構
成要件B)とは,ロボットコントローラが溶接タイマ等の別の機器を介
することなく溶接ガンのスポット溶接を制御すること,換言すれば,所
定パターンの溶接電流が,ロボットコントローラから直接スポット溶接
ガンに供給されることを意味し,「ロボットコントローラからスポット
溶接ガンへ溶接開始の指示がなされる」(構成要件D)とは,溶接開始
の指示が,ロボットコントローラから,溶接タイマ等の別の機器を介す
ることなく直接スポット溶接ガンに対してなされることを意味するもの
と解すべきである。
(ウ)他方,被控訴人システムにおいては,被控訴人システム(),()b56
のとおり,ロボットコントローラは,同()の溶接タイマに対して設a7
定入力区分を指定し又は同指定と同時に溶接機起動信号(「溶接開始指
令」と同義ではない。)を出力するだけで,溶接の開始,溶接電流,溶
接の終了等の重要な溶接の条件を制御しているのはすべて溶接タイマで
あるから,溶接ガンの溶接を制御するものではないし,溶接開始の指示
を直接溶接ガンに対して行っているものでない。
また溶接タイマの点について,仮に本件考案が溶接タイマを用いる構
成を排除していないものとしても,被控訴人システムの溶接タイマにあ
っては,ロボットコントローラから「溶接機起動信号」を受けたとき,
異常検出時には溶接不可と判断して「溶接機起動信号」を無視し,溶接
可能と判断されたときに初めて溶接タイマにおいて溶接開始の指令が生
成され,溶接電流が溶接タイマから溶接ガンに供給される等,溶接タイ
マ自体が種々の条件から溶接の可否を判断しているのであるから,溶接
ガンによるスポット溶接がロボットコントローラにより支配された形で
制御されているものではない。
(エ)以上のとおりであるから,被控訴人システムは,本件考案の構成要
件B及びDを充足しない。
イ構成要件C()後段について2
〔控訴人の主張〕
(ア)構成要件C()後段の「ロボットが溶接点に到達してその動きを停2
止する時点で前記2つのチップがワークを挟み込むとともに,所定の押
圧力で押圧動作するよう制御され」とは,ロボットが溶接点に到達して
その動きを停止した時点で,上下のチップが同時にワークに接触するよ
う制御されることを意味する。すなわち,下チップ(ロボット固定側チ
ップ)はロボットの他の軸に固定されているから,その動きはロボット
の動きそのものであり,したがって,ロボットが停止する時点と下チッ
プがワークに接触する時点は同時であるところ,ロボットが動いている
状態でチップをワークに接触させるようなことはワークに傷が付くため
技術常識上あり得ないことを考慮すると,構成要件C()後段は,ロボ2
ットが停止する時点と上チップ(可動側チップ)がワークに接触する時
点とが同時になるよう制御できることを意味するものである。
(イ)他方,被控訴人システムにおいては,ロボットコントローラがa()2
の電動式サーボ機構を電動式サーボ機構制御部を介してロボットの1軸
として制御し,ロボットの他の軸との同期制御を可能とすることで,同
b()のとおり(ただし,控訴人主張のもの),ロボット固定側チップ4
(下チップ)と可動側チップ(上チップ)を無段階的に所望の開度に開閉
し,ロボットが溶接点に到達してその動きを停止する時点で,ロボット固
定側チップがワークの一方の面に接触するのと同時に可動側チップがワー
クの他方の面に接触し,その後直ちに所望の押圧力を保持できるように制
御することができる。
なお,被控訴人システムの特定に関し,被控訴人は,被控訴人システ
ムb()を「ロボットが溶接点に到達してその動きを停止する時点では,4
可動側チップはワークに接触せず,可動側チップはワークより上方の位
置にあり,その後ワークから5∼10離れた位置まで降下し,次いmm
で溶接実行命令を実行することにより可動側チップがワークに向けて駆
動されて,2つのチップがワークを挟み込み,挟み込み直前の状態で加
圧動作を待つことなく次々項()の動作に移るか,又は挟み込みの後で6
直ちに所望の押圧力を保持できるように制御し」と特定すべき旨主張す
るが(本判決別紙物件説明書参照),これはロボットコントローラに対
して行われる甲15(電動ガン機能操作要領書)等の「教示」(ティー
チング動作)に従ったものにすぎない。このような「教示」と実際のロ
ボット等の「動作」とでは,サーボ系の応答遅れ等のためずれが生じる
ことは被控訴人の技報(甲55,56)も認めているとおりであり,
「教示」された軌跡と現実の軌跡は大幅に異なるから,「教示」内容に
従って実際の動作を特定することは誤りであり,むしろ被控訴人システ
ムのロボットコントローラの制御能力の観点から特定を行うべきである。
また,仮にそうでないとしても,被控訴人主張の「教示」内容にかか
わらず,被控訴人システムの実際の動作は,ロボットが溶接点に到達し
てその動きを停止する時点で2つのチップがワークを挟み込むものであ
る。すなわち,仮に⑤の位置をワークから5∼10㎜離さずに教示した
場合,本判決別紙4の2のとおり,上チップは「指令値が⑤に到達した
時点」でワークに接触しそうな状態になるのに対し,下チップはその応
答遅れが大きいことに起因してワークとの距離がより大きい状態となる
ため,上チップが先にワークに接触し,下チップがワークに接触するま
での間,上チップがワーク表面に接触した状態で横移動してワークをこ
すってしまう。これに対し,上記「教示」内容に従った場合の上下チッ
プの軌跡は,本判決別紙4の1のとおりであり,「指令値が⑤に到達し
た時点」では,未だ上下チップはワークに接触しておらず,その後の上
下チップの動作によってワークに同着することになる。
また,スポット溶接点間でのロボットの移動動作は,ワークに接触す
るまでの連続動作であるから,仮に被控訴人システムにおいて上チップ
が下チップに多少遅れてワークに接触するとしても,溶接時間の観点か
らみた場合,ほとんど同時と評価することができ,構成要件C()後段2
でいう「2つのチップがワークを挟み込む」を充足する。
(ウ)以上のとおりであるから,被控訴人システムb()ないし()の構成は,14
本件考案の構成要件C()後段を充足する。2
〔被控訴人の主張〕
(ア)構成要件C()後段の「挟み込むとともに」とは時間的に同時性を2
表す用語であるから,同構成要件にいう「ロボットが溶接点に到達して
その動きを停止する時点で前記2つのチップがワークを挟み込むととも
に,所定の押圧力で押圧動作するよう制御され」とは,ロボットが溶接
点に到達してその動きを停止した時点で,ワークが挟み込まれるととも
に所定の押圧力で保持されるよう制御されることを意味する。
(イ)他方,被控訴人システムおける溶接点近傍における溶接ガンの位置
決め及びチップの動きは,被控訴人システムb()のとおり(ただし,4
被控訴人主張のもの),ロボットが溶接点に到達してその動きを停止す
る時点では,上チップ(可動側チップ)は,ワークより上方の位置にあ
り,その後ワークから5∼10離れた位置まで降下し,次いで溶接mm
実行命令の実行によりワークに向けて駆動されて,2つのチップがワー
クを挟み込み,挟み込み直前の状態で加圧動作を待つことなく次々項
()の動作に移るか,又は挟み込みの後で直ちに所望の押圧力を保持で6
きるように制御するもので,構成要件C()後段と異なり,ロボットが2
溶接点に到達してその動きを停止する時点で2つのチップがワークを挟
み込むことはない。
上記のような被控訴人システムにおける制御は,予めロボットコント
ローラにチップの位置を覚え込ませるティーチング動作すなわち「教
示」により行われるが,甲15(特に「2.4.2.ステップの登録」
の項。○付き数字については,本判決別紙3参照)によれば,「ロボッ
トが溶接点に到達してその動きを停止する時点」に相当するところの,
ワークの上側にある可動側電極位置④と下側にある固定側電極の位置④
の時点において,固定側チップ(下チップ)はワークの下側の面に接触
するが,可動側チップ(上チップ)は,ワークの上面から上方に離れた
位置にある。その後可動側チップは下方に駆動されて⑤の位置に到達す
ることになる(甲15の2−3頁下段には,「重要」として「⑤の位置
はワークに接触させず,ワークと電極間を5ないし10開けてくだmm
さい」と指示している。)。このような教示を行う理由は,ワークの製
造段階での寸法誤差や,溶接に際してワークを冶具で固定する場合に生
じる位置決め誤差を考慮して,チップがワークに接触した状態でワーク
上を横移動することがないようにするためである。
また,被控訴人システムの特定に関し,控訴人は,「挟み込む」の語
をことさらに避け,「ロボット固定側チップがワークの一方の面に接触
し,同時に可動側チップがワークの他方の面に接触し」と特定すべき旨
主張するが(本判決別紙物件説明書参照),かかる主張は本件明細書
【0016】の「ステップ4:ロボットが溶接点に到達する時点には,
チップは所定の押圧力でワークを保持している。」との記載と明らかに
矛盾する上,控訴人が「教示」による特定を問題にしている点について
も,被控訴人システムの2つのチップの動作の制御は,ロボット稼動の
前に教示された作業プログラムの教示に基づいて行われるもので,当該
装置の機能上の可能性の問題ではないのであるから,正鵠を得たものと
はいえない。
(ウ)以上によれば,被控訴人システムb()ないし()の構成は,本件考14
案の構成要件C()後段を充足しない。2
()被控訴人システムを構成するイ号物件による間接侵害の成否(争点())22
について
〔控訴人の主張〕
ア法28条1号所定の間接侵害(主位的主張)
イ号物件は,その取引の実態,客観的仕様,製造・出荷の手順,被控訴
人の技術者による対外的発表の内容(甲33等)に照らし,被控訴人シス
テムの製造にのみ用いられる物であることが明らかである(甲33)から,
被控訴人によるイ号物件の製造販売は,法28条1号に該当し,本件実用
新案の間接侵害に該当する。
イ法28条2号所定の間接侵害(予備的主張)
イ号物件は,上記取引の実態等に照らし,被控訴人システムの製造に用
いる物で,かつ,本件考案の課題に不可欠なものであり,また,被控訴人
が,本件考案が登録実用新案であることを知り,かつイ号物件が本件考案
の実施に用いられることを知っていたことが明らかであるから,被控訴人
によるイ号物件の製造販売は,法28条2号に該当し,本件実用新案の間
接侵害に該当する。
〔被控訴人の主張〕
ア被控訴人システムは,本件考案の構成要件B及びD並びにC()後段を2
充足しないから,その構成部分にすぎないイ号物件の製造販売が間接侵害
に当たるはずがない。
イその点を措いても,イ号物件は,用途を限定しない汎用品としての設計
がなされており,スポット溶接以外の実用的な用途にも使用されるのであ
るから,第28条1号の「のみ」要件を充足せず,間接侵害に該当しない。
控訴人は,たまたま入手した顧客の設備仕様書等(甲16∼18,45)
や,一般的な取引状況を示す専門誌(甲47,49)又は新聞記事(甲4
8)等によって,上記「のみ」要件や法28条2号の主観的要件を主張立
証しようとしているが,失当である。
()登録無効理由の存在による権利行使制限の抗弁の成否(争点())につい33

〔被控訴人の主張〕
ア本件考案は,本件考案の出願前に刊行された「溶接技術」第36巻第3
号65頁の「新しいスポット溶接ロボットシステムの概念図」の記載と,
特開平3−207580号公報,「ROBOTERtechnikS
onderpublikationderZeitschrift
Roboter」1991年版(乙19),「Soudageett
echniquesconnexesNOVEMBRE−DECEM
BRE1989」及びPCT国際公開WO90/14920号公報の記
載によって,当業者であればきわめて容易に推考できたものである(法3
7条1項2号)。
イまた,訂正200639082の訂正請求に係る訂正事項中,構成要-
件C()後段に係る訂正事項は,本件考案の願書に添付した明細書又は図2
面に記載された範囲内のものではないから,実用新案法の定める訂正要件
に違反する(法37条1項7号)。
ウしたがって,本件実用新案は,実用新案権登録無効審判によって無効に
されるべきものであるから,控訴人は被控訴人に対してその権利を行使す
ることができない。
〔控訴人の主張〕
ア被控訴人が援用する「溶接技術」第36巻第3号65頁の「新しいスポ
ット溶接ロボットシステムの概念図」や「ROBOTERtechni
kSonderpublikationderZeitschri
ftRoboter」1991年版(乙19)等の各刊行物の記載を総
合しても,本件考案の特徴を達成するような電動のアーム開閉機構等は開
示されておらず,これらからきわめて容易に推考し得たものとはいえない。
イ構成要件C()後段に係る訂正事項は,明細書に記載された範囲内のも2
のであるから,本件実用新案に法37条1項7号所定の無効事由はない。
ウしたがって,本件実用新案は,実用新案権登録無効審判によって無効に
されるべきものであるとはいえない。
()損害賠償ないし不当利得返還請求権の成否及び額(争点())44
〔控訴人の主張〕
ア不法行為に基づく損害賠償請求(主位的請求)17億1600万円
(ア)本件実用新案の間接侵害(法28条1号,2号)に基づく損害(第1a
次主張)15億6000万円
被控訴人は,遅くとも平成8年5月以降本件実用新案の存続期間満
了日である平成18年5月16日に至るまで,イ号物件を業として製
造,販売しており,これにより,少なくとも26億円の利益を得てい
る。イ号物件に対する本件考案に関する部分の寄与率は60パーセン
トを下回ることはないから,被控訴人によるイ号物件の製造販売によ
って控訴人が被った損害は15億6000万円と推定することができ
る(なお,本件実用新案の他の共有持分権者は,本件考案につき,製
造販売に係る実施を全くしていない。)。
共同不法行為に基づく損害(第2次主張)15億6000万円b
被控訴人及び被控訴人からイ号物件を購入した顧客は,共同して,
遅くとも平成8年5月以降本件実用新案の存続期間満了日である平成
18年5月16日に至るまで,故意又は過失により,被控訴人が業と
して製造したイ号物件に溶接ガンや溶接タイマ等を装着し,被控訴人
システムを製造して本件実用新案を侵害している。
被控訴人は,かかる製造に伴うイ号物件の製造販売により,少なく
とも26億円の利益を得,控訴人は本件考案を独占的に実施すること
ができたはずであるにもかかわらず,被控訴人のかかる製造販売によ
り控訴人製品を製造販売する機会を喪失しており,イ号物件に対する
本件考案に関する部分の寄与率が60パーセントを下回らないことに
照らしても,これによる控訴人の損害は15億6000万円を下回ら
ない。
(イ)弁護士及び弁理士費用等1億5600万円
イ不当利得返還請求(予備的請求)15億6000万円
被控訴人は,遅くとも平成8年5月以降本件実用新案の存続期間満了日
である平成18年5月16日に至るまで,イ号物件の製造販売あるいは被
控訴人システムの製造が本件実用新案を侵害することを知りながら,業と
してイ号物件を製造,販売し,かつイ号物件の製造販売に伴い被控訴人シ
ステムを製造している。
被控訴人は,かかるイ号物件の製造販売により,少なくとも26億円の
利益を得ており,イ号物件に対する本件考案に関する部分の寄与率は60
パーセントを下回ることはないから,その額は15億6000万円を下回
ることはなく,被控訴人は法律上の原因なく同額の利益を得,控訴人は,
これにより同額の損失を被った。
〔被控訴人の主張〕
争う。
第3当裁判所の判断
1被控訴人システムに係る本件考案の構成要件充足性(争点())について1
()構成要件B及びDについて1
ア控訴人は,本件明細書には,ロボットコントローラと溶接タイマとの間
に適切な連絡がなされ,ロボットコントローラが溶接ガンのチップの加圧
力を把握し,チップが溶接点に到達し,所定の加圧力が達成されるタイミ
ングに同期して通電が開始されることが示されているとした上,構成要件
Dの「溶接点到達後,前記ロボットコントローラからスポット溶接ガンへ
溶接開始の指示がなされる」とは,溶接点到達後,スポット溶接ガンのチ
ップが所定の加圧力を達成するタイミングと同期して,ロボットコントロ
ーラから溶接タイマを介して溶接(通電)開始の指示が出されることを意
味し,構成要件Bの「ロボットコントローラにより,前記スポット溶接ガ
ンによるスポット溶接が制御され」とは,上記の限りでロボットコントロ
ーラがスポット溶接を制御することを意味する旨の主張をしている。
しかしながら,登録異議手続における訂正前の明細書の「登録請求の範
囲」(本判決別紙1の③記載のとおり)を含む明細書の記載,これと同一
内容の当初の明細書(本件明細書も同一内容)の「考案の詳細な説明」に
は,溶接時間短縮のために,ロボットの移動動作と溶接ガンのチップの開
閉動作及び押圧動作等を同期させること及びそれを実現するための構成並
びにその作用効果についての記載はあるが,上記チップへの通電等のスポ
ット溶接自体の構成に言及した部分は,添付図面を含めても次の①ないし
③以外にはみられず,当業者が理解し得る程度に内容が開示,記載されて
いるとはいえない。
①「考案の詳細な説明」の【0016】に,図4(タイムチャート)に
係る説明として,「ステップ1:ロボットは原点で待機している。ステ
ップ2:軸1および軸2が起動されロボットが溶接点近くの逃げ点に移
動する。ステップ3:ロボットが溶接点近くの逃げ点に到達すると,電
動式サーボ機構が起動されチップ間の間隔が狭められる。ステップ4:
ロボットが溶接点に達する時点には,チップは所定の押圧力でワークを
保持している。ステップ5:溶接が開始される。ステップ6:溶接が終
了する。ステップ7:電動式サーボ機構による押圧状態が終了すると共
にチップ間の間隔が広げられ,ロボットが溶接点近くの逃げ点まで後退
する。(下線部は当裁判所)ステップ8:ロボットが溶接点近くの逃げ
点に到達すると共にチップ間隔が初期値に復帰し,電動式サーボ機構が
停止される。ステップ9:ロボットが原点に復帰し,軸1および軸2が
停止される。」との記載がある。
②上記図4には,「溶接点」と「溶接点」との間に「溶接通電」なる記
載がある。
③図1(機能ブロック図)のロボットコントローラとスポット溶接ガン
との間及び図2(電気的構成の概略図)のロボットコントローラ中の入
出力インターフェースとスポット溶接ガンとの間に,他の電動式サーボ
機構等との間と同様の接続線が描かれている。
上記のうち,①,②については,本件考案がスポット溶接ロボット用制
御装置に係るものである以上,別途,スポット溶接ガンのチップ(電極)
に溶接電流を供給するための構成が不可欠であり,本件考案においてもス
ポット溶接ロボットがそのような構成を備えることを当然の前提としてい
ることは明らかであって,その場合,スポット溶接ガンの2つのチップ
(電極)がワークを保持している間に溶接電流が流される必要があること
もまた自明というべきであるから,その意味では,上記①,②の記載は,
以上の当然の事柄を述べたものにすぎないものと理解され,これらの記載
に接した当業者もまた,そのように受け取るものと解される。
次に,③の点については,「考案の詳細な説明」中には当該接続線の技
術的意義等について何らの言及・説明もないところ,図1及び図2が,機
能ブロック図及び電気的構成の概要図であることや,他の電動式サーボ機
構等との間の接続線の意味合いから推して,ロボットコントローラとスポ
ット溶接ガンとの間に何らかの機能的・電気的な連絡があること,殊に,
ロボットコントローラが,演算処理装置(CPU)とRAMとROMとタ
イマーと入出力インターフェースで構成され,サーボ機構の制御に必要な
プログラム等が付加されていること(【0013】)及び接続線が上記入
出力インターフェースから出ていること(図2)からすると,他の電動式
サーボ機構等との間と同様,当該接続線を介して,ロボットコントローラ
とスポット溶接ガンとの間で何らかの電気的信号のやり取りがなされるこ
とは推認できるとしても,それが何のための信号であるか等は当業者にと
っても明細書の記載自体からは特定しがたいものと考えられる。
加えて,控訴人が主張する,本件考案が,ロボットの移動動作と溶接ガ
ンのチップの開閉・押圧動作等の同期制御のみならず,これらとスポット
溶接に係る溶接開始のタイミングとの間でも同期制御をするとの点につい
ては,当初明細書と同一内容の登録異議手続における訂正前の明細書の
「考案の詳細な説明」中で課題としての示唆すらなされていないと認めら
れるから,かかる状況においては,当業者といえども,上記断片的な記載
のみから,控訴人主張のような特定かつまとまりのある技術的事項を読み
取れるものとはにわかに認めがたい。
イしかるところ,前記のとおり,本件考案の構成要件B及びDは,登録異
議手続における取消理由通知に対応して控訴人がした訂正請求(乙12)
によって挿入されたものであり,同時に提出された異議意見書(乙11。
5頁24行目∼6頁13行目)には,「参考図1は本件考案の構成を示す
ブロック図であり,これは本件公報の図2と同一のものである。参考図1
より明らかなように,本件考案においてはスポット溶接ガンのスポット溶
接に関する部分もロボットコントローラと連絡されており,スポット溶接
ガンのスポット溶接に関する部分もロボットコントローラにより支配され
る構成とされている。一方,参考図2は図2発明(裁判所注:アロウ発b
明。以下同じ。)の構成を本件考案に適用した場合のブロック図である。
参考図2より明らかなように,参考図1においてなされていたスポット溶
接ガンのスポット溶接に関する部分とロボットコントローラとの連絡はな
されておらず,スポット溶接ガンのスポット溶接に関する部分はロボット
コントローラにより支配されていない。それにより,本件考案においては
ロボットコントローラの支配による一連の作業工程より,スポット溶接ガ
ンのチップを含むロボットの動作およびスポット溶接がなされるので,サ
イクルタイムが短縮される一方,図2発明においてはスポット溶接ガンb
のスポット溶接に関する部分がロボットコントローラにより支配されてい
ないので,前述したように,電極の位置と,両電極間の力と,溶接電流の
間の同期を得ることが困難となりサイクルタイムが長くなるという欠点を
有している。このように,本件考案と図2発明とは構成を異にし,しかb
もその作用・効果は正反対であるから,両者は同一でない。」との記載が
ある。
そして,上記訂正請求,異議意見書を受けて,登録異議手続における異
議決定(甲3。6頁14行目∼7頁8行目)は,本件考案とアロウ発明と
の構成の一致する部分をあげた上,相違点として,本件考案では,溶接ガ
ンのチップを駆動するための電動式サーボ機構制御部を有するロボットコ
ントローラにより前記溶接ガンによるスポット溶接が制御され,溶接点到
達後,前記ロボットコントローラから溶接ガンへ溶接開始の指示がなされ
るのに対して,アロウ発明では,ロボット制御ユニット(ロボットコ14
ントローラ)とは別の溶接キャビネット(溶接タイマ)から溶接開始15
の指示がなされる点を指摘して,「前記相違点におけるそれぞれの構成を
具備することにより,本件考案は,スポット溶接ガンのチップを含むロボ
ットの動作およびスポット溶接がなされるので,作業サイクルタイム(裁
判所注:溶接時間。以下同じ。)が短縮されるのに対して,引用発明(裁
判所注:アロウ発明)は,溶接電流等のスポット溶接に関する部分がロボ
1ットコントローラに制御されず,別のユニットである溶接キャビネット
により制御支配されるから,電極の位置,両電極間の押圧力と溶接電流5
等との同期を得ることが困難となり,サイクルタイムが長くなるという問
題点を有するものであって,両者は前記の相違点の構成に基づいて作用効
果に実質的な差異があるものである。したがって,本件考案は引用発明と
同一とすることはできない。」として,上記と同様の趣旨に解しているこ
とが明らかである。
そうすると,前記アに説示したところに鑑みれば,当初の明細書,登録
異議手続における訂正前の明細書の添付図面の図2とスポット溶接ガンと
の間の接続線上を伝送されるものと解される電気的信号をもって溶接開始
の指示のためのものと特定した点が認められるべきか否かは疑問で,上記
訂正が許可されるべきであったか疑問の残るところであるが,その点を措
き,当該訂正を前提にするとしても,「登録請求の範囲」の記載は「考案
の詳細な説明」に現に記載された考案についてなされなければならず(法
5条6項1号),「登録請求の範囲」の訂正も,願書に添付した明細書,
登録請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内でなされる必要があり,
かつ,実質上「登録請求の範囲」を拡張し又は変更するものであってはな
らない(平成6年法律第116号付則によって準用される特許法120条
の4,126条)のであるから,上記訂正も,当然ながらその範囲内でな
されたものとして解釈されるべきである上,上記異議決定が上記異議意見
書を踏まえてされたものである以上,当該書面でされた主張に反する解釈
をすることは許されない(包袋禁反言)から,各構成要件の解釈としては,
それらの字義どおりの意味内容のものとして解釈するほかないものと解さ
れ,したがって,上記各明細書と同一内容の本件明細書を前提とすると,
構成要件B及びDは,その文言どおり,ロボットが溶接点到達後,ロボッ
トコントローラからスポット溶接ガンへ溶接開始の指示が行われること
(構成要件D),また,その限りにおいて,ロボットコントローラがスポ
ット溶接ガンによるスポット溶接を制御するという意味に解するのが相当
である。
ウ詳論すれば,構成要件B及びDの記載を含む本件明細書によれば,本件
考案にいうロボットコントローラは,入出力インターフェースを介して電
動式サーボ機構,位置検出器,入力装置,ロボット駆動機構及びロボット
位置検出器と接続されている(【0013】及び図2参照)ところ,構成
要件D及び図2の記載によれば,ロボットコントローラからスポット溶接
ガンへなされる「溶接開始の指示」も,入出力インターフェースから出力
され,他の電動式サーボ機構等との間と同様に,電気的信号によって当該
指示が伝送されるものと推認されるから,構成要件Dは,ロボットが溶接
点に到達した後,ロボットコントローラから溶接開始を指示する電気的信
号が発信され,当該信号がスポット溶接ガンに伝送されることを意味する
ものと解される。
したがって,ロボットコントローラからスポット溶接ガンへ送信される
のは,電気的信号であって,溶接電流ではなく,本件考案が溶接タイマの
使用を前提とするものとしても,これをスポット溶接ガンに一体的に組み
込んだ場合は,上記のような構成を字義どおりに実現することができ,控
訴人自身も,原審段階では,「溶接タイマは当時周知の技術であり,スポ
ット溶接用ロボットシステムに必要不可欠であったから,溶接タイマは,
図2の「スポット溶接ガンG」のなかに含まれているものと理解するのが
合理的である。」(原判決17頁25行目から18頁2行目まで。原審原
告準備書面()12∼15頁)と主張していた。5
控訴人の主張は,本件考案が,図2のロボットコントローラ中の入出力
インターフェースとスポット溶接ガンとをつなぐ接続線の中間に溶接タイ
マを介在させる構成をも含んでいることを前提にしているものとも解され
るが,構成要件Dは,ロボットコントローラから発信される電気的信号の
到達先が「スポット溶接ガン」である旨を特定明記しているのであるから,
上記のように解することは,「登録請求の範囲」の記載と明らかに矛盾す
ることになる(同構成要件の記載は,ロボットコントローラから「スポッ
ト溶接ガンへ溶接開始の指示」がなされるというものであって,「スポッ
ト溶接ガンへの溶接開始の指示」がなされると記載されているわけではな
い。)上,本件明細書の「考案の詳細な説明」及び添付図面には,控訴人
主張のような構成を支持又は示唆するような記載は一切存在しないのみな
らず,上記控訴人が原審段階で主張していたことに照らしても,本件考案
が上記のような構成を含むものと認めることはできない。
他方,被控訴人システムは,本判決別紙物件説明書にみるとおり,被控
訴人システムb(),()の構成において,ロボットコントローラが,溶接56
タイマに対し,同a()の溶接指令ケーブルを通じて設定された溶接条件8
番号に対応した信号を出力し,かつスポット溶接ガンのチップが溶接点到
達後,上記溶接指令ケーブルを通じて,溶接タイマに対し,特定の溶接条
件により同a()のケーブルを通じてスポット溶接ガンへの溶接電流を供9
給して溶接を開始するよう指令することにより,溶接タイマが特定の溶接
条件の溶接電流をスポット溶接ガンに供給開始し,スポット溶接ガンが溶
接を開始するものである。
そうすると,被控訴人システムにおいては,ロボットコントローラから
発信される電気的信号は溶接タイマに対して伝送されるものであって(な
お,スポット溶接ガンには溶接タイマからの溶接電流が供給される。),
本件考案におけるようにスポット溶接ガンに伝送されるものではない。
したがって,その点で既に被控訴人システムが本件考案の構成要件Dを
充足しないことは明らかであり,また,前記のように,構成要件Bにいう
「制御」とは,スポット溶接ガンに電気的信号を送信することによって溶
接開始の指示をすることを指すと解すべきであるから,その意味で被控訴
人システムは構成要件Bも充足しない。
()構成要件C()後段の解釈及び構成要件充足性について22
ア構成要件C()は,控訴人の訂正審判請求(訂正200639082・2-
甲37)につき,平成18年10月2日付け訂正審決で訂正が認められた
もの(甲38,39)であるが,本件明細書の「登録請求の範囲」の記載
に従って,同部分に関わる部分を摘記すれば,ロボットコントローラによ
る電動式サーボ機構の制御につき,ロボットの他の軸との同期制御を可能
とすることによって,ロボットの他の軸の動作中においてもチップの間隔
を所望開度に制御できるようにし(同C()前段),かつ,ロボットが2
「溶接点に到達してその動きを停止する時点で,前記2つのチップがワー
クを挟み込むとともに,所定の押圧力で押圧動作するよう制御」(同C
()後段)するというものである。2
また,上記訂正の基となった同訂正前の明細書の「考案の詳細な説明」
には,「【0015】次に,このように構成されたスポット溶接ロボット
用制御装置を用いて,2軸の駆動軸を有するロボットによりスポット溶接
を行う場合のロボットの動作について,図4に示すタイムチャートに基づ
いて説明する。【0016】ステップ1:ロボットは原点で待機している。
ステップ2:軸1および軸2が起動されロボットが溶接点近くの逃げ点に
移動する。ステップ3:ロボットが溶接点近くの逃げ点に到達すると,電
動式サーボ機構が起動されチップ間の間隔が狭められる。ステップ4:ロ
ボットが溶接点に達する時点には,チップは所定の押圧力でワークを保持
している。ステップ5:溶接が開始される。ステップ6:溶接が終了する。
ステップ7:電動式サーボ機構による押圧状態が終了すると共にチップ間
の間隔が広げられ,ロボットが溶接点近くの逃げ点まで後退する。ステッ
プ8:ロボットが溶接点近くの逃げ点に到達すると共にチップ間隔が初期
値に復帰し,電動式サーボ機構が停止される。ステップ9:ロボットが原
点に復帰し,軸1および軸2が停止される。【0017】このように,ロ
ボットの動作とスポット溶接ガンのチップの開閉動作および押圧動作を同
期させることができるので,溶接に要する時間を短縮することができる
(図4および図7参照)。」との記載がある(下線は当裁判所)。
イ上記のとおり,「考案の詳細な説明」の【0016】のステップ4に
「ロボットが溶接点に達する時点には,チップは所定の押圧力でワークを
保持している。」と明記されていることや,前記()で説示したところに1
照らせば,構成要件C()後段の「ロボットが溶接点に到達してその動き2
を停止する時点で前記2つのチップがワークを挟み込むとともに,所定の
押圧力で押圧動作するよう制御され」にいうチップの挟み込み動作は,単
に2つのチップがワークを挟み込むだけでは足りず,ロボットが溶接点に
達した時点において,所定の押圧力でのワークの押圧動作が完了している
ことを要求しているものと解すべきである。
この点に関し,控訴人は,同構成要件の「ロボットが溶接点に到達して
その動きを停止する時点で前記2つのチップがワークを挟み込むとともに,
所定の押圧力で押圧動作するよう制御され」とは,ロボットが溶接点に到
達してその動きを停止した時点で,上下のチップが同時にワークに接触す
るよう制御されることを意味する旨主張するが,チップがワークに対して
押圧力をかける前にワークに当接する必要があること自体は自明であり,
また,仮に同構成要件が控訴人主張のように上下チップがワークに同着す
ることを要求するものとしても,ロボットの動きは連続的な動きであり,
かつ,上記のとおり,ロボットが溶接点に達して停止する段階では,既に
2つのチップは所定の押圧力でワークを保持しているというのであるから,
「当接」ないし「同着」の段階は,厳密には,ロボットが停止する時点よ
り前に経過してしまっているはずである(チップのワーク表面への「同
着」や「当接」から所定の押圧力での押圧動作が完了するまでの間には例
え僅かといえども時間の経過があるはずである。)以上,そもそも,かか
る瞬間を切り出して議論することの必要性や技術的意義が明らかでなく,
したがって,それらの段階における構成によって構成要件C()後段の意2
義を解釈すべきであるとする上記控訴人の主張は採用の限りでない。
ウ(ア)他方,被控訴人システムにおいては,本判決別紙物件説明書記載の
とおり,控訴人と被控訴人との間で争いがあるところ,被控訴人は,被
控訴人システムでは,「ロボットが溶接点に到達してその動きを停止す
る時点では,可動側チップはワークに接触せず,可動側チップはワーク
より上方の位置にあり,その後ワークから5∼10離れた位置までmm
降下し,次いで溶接実行命令を実行することにより可動側チップがワー
クに向けて駆動されて,2つのチップがワークを挟み込み,挟み込み直
前の状態で加圧動作を待つことなく次々項()の動作に移るか,又は挟6
み込みの後で直ちに所望の押圧力を保持できるように制御」するもので
あり,挟み込み動作及び押圧動作とも行っていないから,構成要件C
()後段を充足しない旨主張する。2
(イ)これに対し,控訴人は,上記被控訴人の主張は甲15等の「教示」
内容に従って被控訴人システムを特定したものにすぎず,「教示」内容と
実際の動きとの間には大きなずれがある(甲55,56)ことから,被控
訴人主張のような特定の仕方は誤りであって,むしろロボットコントロー
ラの制御能力の観点から被控訴人システムの特定がなされるべきである
旨主張する。
しかし,構成要件C()後段は,その文言上,ロボットコントローラ2
自体の制御能力を問題とするものではなく,ロボットが溶接点に到達し
てその動きを停止した時点における下チップと上チップの具体的な動き
を規定するものであるから,被控訴人システムの特定においても,ロボ
ットコントローラの制御能力によってではなく,実際の動きによって特
定されるべきであると考えられるが,本件においては,その点を直接に
明らかにする証拠がないところ,被控訴人システムのみならず,本件考
案にあっても,装置の実際の動きは,ロボットコントローラに付加され
たプログラム(【0013】参照)に対する教示によって決定されるも
のと解されることからして,反対の証拠のない本件において,「教示」
内容の点から被控訴人システムの動きを推認するしかない。
(ウ)上記観点から検討するに,被控訴人システムにおける教示について
は,甲15の「2.4ジョブ作成」の項によれば(本判決別紙3参照),
その教示手順は,下側電極(下チップ)が固定であり,上側電極(上チ
ップ)が可動である「片回動ガン」についてのものであり(本件考案も
被控訴人システムも片回動ガンに当たる。),この場合には,チップの
閉じ動作については,下チップは,①→②→③→④の順序でこれらの位
置を通るように教示される。上チップは④⑤の位置のみが示されており,
下チップの点④と上チップの点④は時間的に互いに対応する。点④は
「ロボットが溶接点に到達してその動きを停止する時点」に相当し,こ
の時点では,下チップは,ワークの下側の面に接触するよう教示されて
いるのに対して,上チップは,ワークの上面から上方に離れた位置にあ
り,その後,下方に駆動されて⑤の点に到達するが,⑤においても,同
号証の2−3頁下段に枠囲いされて「重要」と注記された記載によると,
「⑤の位置はワークに接触させず,ワークと電極間を5∼10開けmm
てください。」と指示されている。その後,「ステップ5の次にSVS
POT(溶接実行)命令を登録することにより,当接動作でワークに接
触します。」と指示するものであることが認められる(なお,控訴人は,
上記教示手順が被控訴人システムの,教示方法に関する一例にすぎない
としているが,甲5の2及び甲15の記載等に照らせば,かえって被控
訴人システムにおける一般的なティーチング方法であることがうかがわ
れるし,他方で,被控訴人システムにおいて他の教示が実施されている
ことを認めるに足りる証拠もない。)。
そうすると,被控訴人システムにおいては,構成要件C()後段でい2
う「ロボットが溶接点に到達してその動きを停止する時点」では,上下
「2つのチップがワークを挟み込むとともに,所定の押圧力で押圧動作
するよう制御」されているものとはいいがたく,被控訴人システムが同
構成要件を充足するものと認めることはできない。
エ上記ウの点について,控訴人は,被控訴人主張の「教示」内容にかかわ
らず,被控訴人システムの実際の動作は,ロボットが溶接点に到達してそ
の動きを停止する時点で2つのチップがワークを挟み込むものである旨主
張する(本判決別紙4の1・2参照)が,被控訴人主張の「教示」内容に
基づく被控訴人システムの実際の動作についての控訴人の主張自体が推測
の域を出ないものといわざるを得ず,本件全証拠によっても,被控訴人シ
ステムの実際の動作が控訴人主張のとおりであると認めるに足りない。
また,控訴人は,スポット溶接点間でのロボットの移動動作は,ワーク
に接触するまでの連続動作であるから,被控訴人システムにおいて上チッ
プが下チップに多少遅れてワークに接触するとしても,溶接時間の観点か
らみた場合,ほとんど同時と評価することができるとも主張するが,構成
要件C()後段の構成は,ロボットの動きと溶接ガンのチップの開閉・動2
作動作との同期の態様を規定するものであって,本件考案の本質的部分に
関わるものといえる上,控訴人も指摘するように,ロボットの動作が連続
動作であることを考慮すれば,同構成要件の構成は,もともと同期の厳密
な態様を問題とするものといえ,かかる点を控訴人が訂正によって「登録
請求の範囲」に明記することとしたものである以上,控訴人主張のような
理由によっては,本件考案と被控訴人システムとの構成を実質的に同一で
あるとみることはできないから,この点に関する控訴人の主張も採用の限
りでない。
加えて,前記のとおり,本件考案の構成要件C()後段は,ロボットす2
なわち下チップの動きが停止する時点で,上下チップがワークに当接する
だけでなく,上下チップによるワーク押圧動作の完了まで要求しているの
であるから,仮に被控訴人システムが実質的に下チップと上チップの同着
・当接を目指す構成を採用しているものであるとしても,そのことのみか
ら被控訴人システムが構成要件C()後段を充足するものとすることはで2
きない。
オそうすると,被控訴人システムは,本件考案の構成要件C()後段も充2
足しない。
()以上のとおり,被控訴人システムは,本件考案の構成要件B及びD並び3
にC()後段のいずれをも充足しないものであるから,本件考案の技術的範2
囲に属するものとはいえない。
2その他,原審及び当審における当事者提出の各準備書面記載の主張に照らし,
原審及び当審で提出,援用された全証拠を改めて精査しても,当審の認定,判
断を覆すほどのものはない。
第4結論
以上によれば,本件請求は,その余の点について判断するまでもなく,すべ
て理由がないものとして棄却すべきところ,原判決は,結論においてこれと同
旨であるから,本件控訴は理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
(平成20年11月21日口頭弁論終結)
大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官若林諒
裁判官小野洋一
裁判官久保田浩史
(別紙)イ号物件目録
1.イ号物件の構成の説明
別紙物件説明書記載の構成の説明のうち,a()ⅰ,a(),a(),a(),a2345
(),a()及びa()からなるスポット溶接用ロボットシステムの構成部分61011
2.補足説明
イ号物件の代表的な機種として,ロボットマニピュレータについては,MOT
OMAN−SKシリーズ,MOTOMAN−UPシリーズ,MOTOMAN−E
Sシリーズが,ロボットコントローラについては,YASNACMRC,YA
SNACXRC,NX100がある(上記機種であっても,チップの一方のみが
電動式サーボ機構により駆動されるサーボガンによるスポット溶接仕様以外のも
のはイ号物件に該当しない。)。
以上
(別紙)物件説明書
下記「構成の説明」に記載するスポット溶接用ロボットシステム
なお,別紙図面は,被控訴人が見積用に作成したMOTOMAN−UP200電
動スポット溶接ガンシステム構成図であるが,本物件の一例であり,「構成の説
明」に付された番号は,別紙図面の番号に対応する。

構成の説明
(ただし,下線部分は当事者間に争いがある部分であり,[]内が被控訴人の
主張である。)
a()スポット溶接ガン(⑤)と,1
()ⅰサーボモータ(⑥)と,2
ⅱ該サーボモータにより駆動され,スポット溶接ガンに対向配置された2つ
のチップの一方のみの位置及び加圧力を調整するための機構
とからなる電動式サーボ機構と,
()該電動式サーボ機構の制御部を有し,また溶接タイマとの通信に必要な入3
力信号及び出力信号を設定でき,さらにスポット溶接に用いるためのソフトウ
ェア(ユーザーにより教示入力される作業プログラムを除く。)が内蔵されたロ
ボットコントローラ(②)と,
()溶接ケーブルの一部及び冷却水ホースの一部を備えたロボットマニピュレ4
ータ(①,⑱)と,
()ロボットコントローラからロボットマニピュレータに電流を供給するケー5
ブル(③の一部)と,
()ロボットコントローラから前記サーボモータに電流を供給するケーブル(③6
の一部,⑨)と,
()溶接条件を構成する溶接電流・通電時間の設定値を入力するための設定入7
力区分を複数個有する溶接タイマ(⑬)と,
()ロボットコントローラと溶接タイマをつなぐ溶接指令ケーブル(⑭)と,8
()溶接タイマからスポット溶接ガンに溶接電流を供給する溶接ケーブル(⑫,9
⑪。なお,⑫と⑪の間の部分はロボットマニピュレータに備えられている。)
と,
()前記電動式サーボ機構により駆動される一方のチップ(可動側チップ)の10
移動量を検出する検出器と,
()a()のロボットマニピュレータの各軸を駆動するサーボモータに設けら114
れたエンコーダの出力に基づき各軸の位置を検出し,これによりロボット固定
側チップの位置を検出することができる検出器
とからなり,
bロボットコントローラは,ユーザーにより教示入力される作業プログラムの実
行に基づき,
()a()の検出器を通じてロボット固定側チップの位置を検出し,同時にa111
()の検出器を通じてロボット固定側チップに対する可動側チップの位置を検10
出しながら,
()a()のケーブルを通じて,目的とする溶接作業の内容[手順](溶接点の25
位置,[溶接打点位置(実際にスポット溶接が行われるワーク上の位置)],
溶接順序)にあわせてユーザーにより予め教示入力された作業プログラムに従
い,a()のロボットマニピュレータの各軸を動作させ,4
()前記b()の動作と同時に,a()の電動式サーボ機構制御部を介してa()3236
のケーブルを通じてa()ⅰのサーボモータに電流を供給することにより,a2
()の電動式サーボ機構を追加軸として制御することができ,2
()該制御により,ロボット固定側チップと可動側チップを無段階的に所望の4
開度に開閉し,ロボットが溶接点に到達してその動きを停止する時点でロボッ
ト固定側チップがワークの一方の面に接触し,同時に可動側チップがワークの
他方の面に接触し,その後直ちに所望の押圧力を保持できるように制御するこ
とができ[ロボット固定側チップと可動側チップを無段階的に所望の開度に開
閉し,ロボットが溶接点に到達してその動きを停止する時点では,可動側チッ
プはワークに接触せず,可動側チップはワークより上方の位置にあり,その後
ワークから5∼10離れた位置まで降下し,次いで溶接実行命令を実行すmm
ることにより可動側チップがワークに向けて駆動されて,2つのチップがワー
クを挟み込み,挟み込み直前の状態で加圧動作を待つことなく次々項()の動6
作に移るか,又は挟み込みの後で直ちに所望の押圧力を保持できるように制御
し],
()溶接条件が予め単数又は複数[複数]入力されたa()の溶接タイマに対し,57
a()の溶接指令ケーブルを通じて,設定された溶接条件番号に対応した信号8
を出力し,
()スポット溶接ガンのチップが溶接点到達後,a()の溶接指令ケーブルを通68
じて,a()の溶接タイマに対し,b()の特定の溶接条件によりa()の溶接759
ケーブルを通じてスポット溶接ガンへ溶接電流を供給して溶接を開始するよう
指令する信号(溶接機起動信号。b()の信号がこの溶接機起動信号を兼ねるこ5
ともある。)を出力し,
()a()の溶接タイマよりa()の溶接指令ケーブルを通じて,溶接完了の信778
号が入力されてから,溶接シーケンスを終了し,
()a()の溶接タイマよりa()の溶接指令ケーブルを通じて溶接異常信号が878
入力された場合,ロボットマニピュレータ及びスポット溶接ガンの可動側チ
ップを停止させ,
c溶接タイマは,
()ロボットコントローラからa()の溶接指令ケーブルを通じてb()の信号185
及びb()の信号が入力されたとき,[溶接の可否判断をし,溶接可能と判断6
した場合,]溶接タイマに予めユーザーにより入力された単数又は複数[複
数]の溶接条件の中から,ロボットコントローラが溶接条件番号信号に基づい
て選択した溶接条件の溶接電流をスポット溶接ガンに供給開始し,
()溶接異常を検出した場合に溶接異常信号をa()の溶接指令ケーブルを通じ28
てロボットコントローラに出力し,
()選択された溶接条件の通電時間が経過した後,a()の溶接指令ケーブルを38
通じて溶接完了信号をロボットコントローラに出力する
dことを特徴とするスポット溶接用ロボットシステム
以上

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