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平成22年7月14日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(行ケ)第10397号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年6月30日
判決
原告株式会社山田製作所
同訴訟代理人弁理士岩堀邦男
大沼加寿子
被告特許庁長官
同指定代理人冨江耕太郎
仁木浩
紀本孝
豊田純一
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2007−20749号事件について平成21年10月26日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件出願に対する拒絶
査定不服審判の請求について,特許庁が,本願発明の要旨を下記2のとおり認定し
た上,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要
旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求
める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)本件出願(甲3)及び拒絶査定
発明の名称:「トロコイドポンプ」
出願番号:特願2003−174279号
出願日:平成15年6月19日
国内優先権主張日:平成14年7月11日
拒絶査定:平成19年6月18日付け(甲12)
(2)審判手続及び本件審決
審判請求日:平成19年7月26日(不服2007−20749号。甲13の
1)
手続補正日:平成19年8月22日(甲4。以下,同日付け手続補正書による補
正を「本件補正」といい,本件補正後の明細書(甲3,4)を,その添付図面を含
めて「本願明細書」という。)
審決日:平成21年10月26日
審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
審決謄本送達日:平成21年11月10日
2本願発明の要旨
本件審決が対象とした本願発明(本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載
の発明)の要旨は,次のとおりである。
トロコイド歯形を有するインナーロータとアウターロータとが相互に噛み合う状
態で,インナーロータの各歯先とアウターロータとの間にチップクリアランスが生
じるように設定され,且つインナーロータ又はアウターロータの複数の歯先の適宜
の一つ又は複数の先端を低く形成した大クリアランスチップが形成されることによ
り,チップクリアランス群の少なくとも1箇所は大間隔となる大クリアランスを設
けて,噛み合うロータのチップクリアランスは不均等となることを特徴とするトロ
コイドポンプ
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,要するに,本願発明は,特開平9−296716号公
報(甲1。以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」とい
う。)及び実願昭62−151641号(実開昭64−56589号)のマイクロ
フィルム(甲2。以下「甲2刊行物」という。)に記載された周知技術(以下「甲
2技術」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである
から,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というもので
ある。
(2)なお,本件審決が認定した引用発明並びに本願発明と引用発明との一致点
及び相違点は,次のとおりである。
ア引用発明:トロコイド曲線によって形成されたインナロータ12のインナ側
歯部10−1,10−2,10−3,10−4,10−5,10−6とアウタロー
タ6のアウタ側歯部とが噛合う状態で,インナロータ12又はアウタロータ6の複
数の歯先部位に部分的に設けた面取り部による連通手段20が形成されることによ
り,前記歯先部位の少なくとも1箇所は連通手段20を設けて,噛み合うロータの
連通手段20は1歯飛びに形成されてなるトロコイド式のオイルポンプ2
イ一致点:トロコイド歯形を有するインナーロータとアウターロータとが相互
に噛み合う状態で,インナーロータの各歯先とアウターロータとの間にチップクリ
アランスが生じるように設定され,かつ,インナーロータ又はアウターロータの複
数の歯先の適宜の1つ又は複数の先端の少なくとも一部分を低く形成したオイルを
連通させるための手段が形成されることにより,チップクリアランス群の少なくと
も1箇所はオイルを連通させるための手段を設けて,噛み合うロータのチップクリ
アランスは不均等となるトロコイドポンプ
ウ相違点
(ア)相違点1:ロータの歯先の先端の少なくとも一部分を低く形成した態様に
関し,本願発明では歯先の先端を低く形成したものであるのに対し,引用発明では
面取り部である点
(イ)相違点2:チップクリアランス群の少なくとも1箇所のオイルを連通させ
るための手段の態様に関し,本願発明では大間隔となる大クリアランスを設けてな
るのに対し,引用発明では連通手段を設けてなる点
4取消事由
本件発明の進歩性についての判断の誤り
(1)一致点及び相違点の認定の誤り
(2)相違点についての判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
(1)一致点及び相違点の認定の誤りについて
ア「先端の少なくとも一部分を低く形成した」について
(ア)本件審決は,本願発明と引用発明との対比において,引用発明の「面取り
部」も部分的であるが,歯先の先端を低く形成したものといえるとして,引用発明
の「複数の歯先部位に部分的に設けた面取り部」と本願発明の「複数の歯先の適宜
の一つ又は複数の先端を低く形成した」態様とは,「複数の歯先の適宜の一つ又は
複数の先端の少なくとも一部分を低く形成した」との概念で共通するといえると説
示した。
(イ)しかしながら,引用発明における「面取り部」の「面取り」とは,「工作
物の角(かど)又は隅(すみ)を斜めに削ること」(甲6の1,2)であり,「面
取り部」とは,角(かど)又は隅(すみ)以外には存在しない部位であるから,引用
発明について,部分的に設けたという限定がなくとも,「面取り部」自体で角又は隅
との部分ということになるから,「複数の歯先部位に部分的に設けた面取り部」と
いう概念はあり得ないことになる。
他方,本願発明において,歯先の「先端を低く形成した」のは「大クリアランス
チップ」であり,歯厚(歯幅)の全体に対して均一の間隔であり,一部分という概
念は一切なく,歯厚(歯幅)の全体である。
(ウ)以上のとおり,本願発明の「大クリアランスチップ」では,歯厚(歯幅)
の一部という概念は生じないのに対し,引用発明の「面取り部」からは,歯先の歯
厚(歯幅)の全体の概念は生じないものであるから,本願発明と引用発明とが「複
数の歯先の適宜の一つ又は複数の先端の少なくとも一部分を低く形成した」との概
念で共通するということはできず,本件審決の一致点の認定には誤りがある。
イ「オイルを連通させるための手段」について
(ア)本件審決は,引用発明の「連通手段」と本願発明の「大クリアランスチッ
プ」とは「オイルを連通させるための手段」との概念で共通すると説示した。
(イ)引用発明においては,「連通手段」は各歯の隅に形成されていると判断す
べきであって(引用例の【0027】【0030】),「面取り部なる連通手段」
とは,サイドクリアランス(インナーロータの幅又はアウタロータの幅とハウジン
グのロータ室深さとの差)においてサイドクリアランス側の歯先部位を大きくした
ものであると解することができる。そうすると,引用発明の連通手段箇所への加圧
力は,アウタロータ側の上下方向にはプラスマイナスでバランスが取れるが,サイ
ドクリアランス側へは側圧として加わり,インナーロータをハウジングのロータ室
の奥深部面に押し付けるような作用となり,これによって,ロータの軸方向への
「倒れ」が生じやすくなる。さらに,引用例の【0030】において面取り部以外
の連通手段として記載されている段差部,切欠き部,孔部についても,面取り部以
外の形状として一般的にインナーロータのサイドクリアランス側箇所を切除等して
開口する態様と解することができる。そうすると,引用発明の「連通手段」には,
サイドクリアランス側への側圧が加わることになる。
これに対し,本願発明の「大クリアランスチップ」では,チップクリアランス箇
所に圧力が加わるが,側圧が加わることがない。
(ウ)以上のとおり,本願発明の「大クリアランスチップ」は,サイドクリアラ
ンス側への側圧が加わることがなく,オイルを連通させるための手段であるのに対
し,引用発明の「連通手段」は,サイドクリアランス側への側圧が加わりつつ,オ
イルを連通させるための手段であって,両者は相違しており,本願発明の「大クリ
アランスチップ」と引用発明の「連通手段」とは,「オイルを連通させるための手
段」との単なる上位概念の共通点で判断されるべきものでなく,本件審決の一致点
の認定には誤りがある。
ウ「チップクリアランス群の少なくとも1箇所はオイルを連通させるための手
段を設けて,噛み合うロータのチップクリアランスは不均等となる」について
(ア)「チップクリアランス」について
トロコイド形オイルポンプロータにおいて,「チップクリアランス」とは,アウ
ターロータの山部とインナーロータの山頂部との間の隙間であって,隙間としての
「チップクリアランス」は0.15mm以下とされるから,円滑に回転するために
ロータの歯先にこのチップクリアランスを設けるにおいて,アウターロータとイン
ナーロータの各ロータの歯先を0.15mm以下の2分の1である約0.08mm以
下ずつ削ることになると解することができる(甲7)。本願発明の「チップクリア
ランス」とは,インナーロータとアウターロータとを組み合わせた時に円滑に回転
するための隙間であって,その隙間で円滑に回転させつつ,オイルの流通がないよ
うにしたというオイルポンプの構成部である。
これに対し,引用発明における「連通手段」は,ポンプ室が吸込側あるいは吐出
側のいずれか一方の隣接するポンプ室に連通させるものであり(引用例の【002
1】),「連通手段」の存在によって,オイルを流通させるというオイルポンプの
構成部である。
以上のとおり,本願発明における「チップクリアランス」と引用発明における
「連通手段」とは,オイルを流通させるか否かという点において共通概念は生じず,
両者は対比されるべきものではない。
(イ)「チップクリアランス群の少なくとも1箇所はオイルを連通させる」につ
いて
本件審決は,引用発明の「歯先部位の少なくとも1箇所は連通手段20を設けて,
噛み合うロータの連通手段20は1歯飛びに形成されてなる」態様と,本願発明の
「チップクリアランス群の少なくとも1箇所は大間隔となる大クリアランスを設け
て,噛み合うロータのチップクリアランスは不均等となる」態様とは,「チップク
リアランス群の少なくとも1箇所はオイルを連通させるための手段を設けて,噛み
合うロータのチップクリアランスは不均等となる」との概念で共通すると説示した。
しかしながら,引用発明の「歯先部位の少なくとも1箇所は連通手段20を設け
て,噛み合うロータの連通手段20は1歯飛びに形成されてなる」と認定された態
様では,連通手段は1歯飛びという態様であるので,少なくとも2箇所は連通手段
が存在することになるから,「チップクリアランス群の少なくとも1箇所はオイル
を連通させるための手段を設けて」との概念で,本願発明と引用発明とが共通する
とすることはできない。
(ウ)チップクリアンスの不均等について
本願発明では,「チップクリアランス群の少なくとも1箇所は大間隔となる大ク
リアランスを設けて,噛み合うロータのチップクリアランスは不均等となる」よう
にした。そして,このような構造を採ることによって,大クリアランスの部分では,
インナーロータとアウターロータとの歯先同士が非接触となる部分が存在し,イン
ナーロータとアウターロータ同士の相互に保持されない不安定さを生じる状態とな
り,ロータの大クリアランスにおいてアウターロータが揺動しやすくなり,アウタ
ーロータが径方向に移動し,噛み合うロータのチップクリアランスは不均等となっ
て,ポンプの油圧脈動の規則性を乱し,脈動を低減することができることになるも
のである。そして,本願明細書の【0027】及び図7の記載に技術常識を加味す
ることや,【0021】ないし【0023】【0025】【0026】及び図8な
いし10の脈動についてのグラフによると,本願明細書には,アウターロータが径
方向に移動することが間接的に記載されているということができる。
これに対し,引用発明では,「連通手段」又は「面取り部」の有無に関係なく,
トロコイド式のオイルポンプの技術常識としての「チップクリアランス」が存在し
(甲7),この「チップクリアランス」は,あくまでも均等である。そして,この
ように均等に設けられているのは,円滑に回転する時のためにあり,その隙間に潤
滑油としての油膜が入る余地はあるが,オイルの流通がないようにしたのが「チッ
プクリアランス」である。そうすると,引用発明のインナーロータに「面取り部」
や「連通手段」が存在しても,チップクリアランスは,すべての歯において均等で
あり,微小隙間であるため,インナーロータが回転しても,アウターロータには本
願発明のような径方向の移動量は生じない。
以上のとおり,本願発明において「チップクリアランスは不均等」であるのに対
し,引用発明において「チップクリアランスは均等」である。本願発明は,噛み合
うロータのチップクリアランスの大きさを不均等にすることで,オイルポンプの効
率を低下させることなく,脈動を低減することができるものであって,この重要な
構成である「不均等である」ことを看過した本件審決の一致点の認定には誤りがあ
る。
エ相違点の認定の誤りについて
本件審決は,前記第2の3(2)ウ(ア)のとおりの相違点1を認定したが,前記ア
のとおり,「ロータの歯先の『先端の少なくとも一部分』を低く形成した態様」は,
そもそも一致点とはならないので,これを一致点とすることを前提としている本件
審決の相違点1そのものの認定に誤りがあることになる。
また,本件審決は,前記第2の3(2)ウ(イ)のとおりの相違点2を認定したが,
チップクリアランス群の少なくとも1箇所の「オイルを連通させるための手段」の
態様は,前記イ及びウのとおり,そもそも一致点ではあり得ないので,これを一致
点とすることを前提としている本件審決の相違点2そのものの認定に誤りがある。
オ小括
以上のとおり,本件審決の一致点及び相違点の認定には誤りがあることになる。
(2)相違点についての判断の誤りについて
ア周知技術の認定の誤りについて
本件審決は,甲2刊行物の第4図のスキマS2及び明細書記載の「スキマS2は,
上記歯面3aが従来のトロコイド曲線である場合より大きくなり,吐出側から空間
側5に流体が容易に流入される」を根拠にして,歯先を部分的ではなく歯先の軸方
向全体を成形してオイルを連通するための手段を設ける点が周知慣用技術であると
認定した。
しかしながら,甲2刊行物の明細書には,「各歯3の歯形は第1図に示すように
なっていて,回転方向後側の歯面3aは半径R1の1点を中心とする単純な円弧面
となっており,かつその高さは鎖線で示したトロコイド歯面よりわずかに,例えば
最大0.3mm程度低くなっている。」と記載されており,甲2技術は,各歯の先
端の高さ位置の歯先に関するものでなく,かつ,全歯に均等に設けられた構成とさ
れているものである。
また,甲2刊行物に「歯先を部分的ではなく歯先の軸方向全体を成形してオイル
を連通するための手段を設けた技術は開示されている」としても,依然として,全
歯にチップクリアランスが存在しているものであって,本願発明が,チップクリア
ランスをなくすこととし,歯先の先端に「大クリアランスチップ」を形成して「大
クリアランス」を形成したものとは相違する。
さらに,被告が周知慣用技術であると主張する特開平7−253083号公報
(甲5。以下「甲5公報」という。)に記載された技術は,個々の歯の歯丈を低歯
にするものであって,歯先の先端を減少させるものではなく,歯先の先端部分の形
状を形成する技術ではない。また,甲5公報には,「チップクリアランス」に換え
ての「大クリアランスチップ」を形成すること,「大クリアランス」と「チップク
リアランス」とが不均等となって構成されていることは開示されていない。
さらに,被告が周知慣用技術であると主張する特開昭64−32083号公報
(乙2。以下「乙2公報」という。)に記載された技術(以下「乙2技術」とい
う。)は,インナーロータの内歯に,低い歯先と通常の歯先が存在するものである
が,「低い歯先」及び「通常歯先(チップクリアランス)」の両方が全歯に均等に
併存形成されており,各歯箇所で「低い歯先」と「通常歯先(チップクリアラン
ス)」が併存せず,かつ,「通常歯先(チップクリアランス)」に換えて「低い歯
先」が存在するような技術ではない。
したがって,各歯において少なくとも1箇所の歯の歯先を他の歯の歯先より低く
形成して大クリアランスを設けることは,周知慣用技術ではない。
イ本願発明の「大クリアランスチップ」と引用発明の「連通手段」との関係に
ついて
(ア)前記(1)のとおり,本願発明の「大クリアランスチップ」は,サイドクリ
アランス側への側圧が加わることがなく,オイルを連通させるための手段であるの
に対し,引用発明の「連通手段」は,サイドクリアランス側への側圧が加わりつつ,
オイルを連通させるための手段であって,両者は相違している。
そして,「オイルを連通させるための手段」との単なる上位概念の共通点をもっ
て判断はされるべきでない。
(イ)引用発明では,側面部においても連通手段を形成するものであるため,ロ
ータの軸方向に対しての「倒れ」が連通手段を有する歯部で発生することになり,
サイドクリアランスが大きくなって,オイルポンプの効率を低下させることになる
可能性が大きい。また,そのような連通手段であるため,各歯部の連通手段の大き
さを各々異ならせ,いわゆる不均等にした場合,ロータの軸方向の「倒れ」が大小
波打つように不安定となり,オイルポンプの効率を低下させるだけでなく,騒音を
発生させるおそれがある。
ウ小括
本願発明は,噛み合うロータのチップクリアランスの大きさを各々不均等にして
も,ロータの軸方向の「倒れ」が発生することなく,オイルポンプの効率を低下さ
せることなく,脈動を低減することができるものであり,引用発明では期待できな
い特有な効果を奏するものであって,引用発明に周知技術を適用したとしても,当
業者が容易に発明をすることができないものである。
〔被告の主張〕
(1)一致点及び相違点の認定の誤りについて
ア「先端の少なくとも一部分を低く形成した」について
引用例の【0001】【0021】【0030】によると,引用発明の「面取り
部」は,トロコイド曲線によって形成されたインナーロータ又はアウターロータの
歯先部位に,1歯飛びに形成されており,この「面取り部」によって構成される
「連通手段」は,ポンプ室内の圧力変動を緩和させるとともに,オイルポンプの効
率の低下を抑制することを目的とし,隣接する2つのポンプ室を連通させるという
作用効果を奏するものである。
そして,この「面取り部」は,歯厚方向の一部分に形成したものであるが,その
形成部位は歯の先端部位であり,この形成部位においてロータの噛み合い間に形成
される空隙同士を連通させてオイルの流通を可能にするのであるから,たとい歯厚
全体ではなく歯厚の一部分ではあっても,オイルを連通させるために歯先の先端を
低く形成したものであるということができる。
そうすると,引用例の「面取り部」と本願発明の「大クリアランスチップ」とを
対比した場合,歯先の先端の歯厚の一部分を低くしたのか,歯先の先端の歯厚全体
を低くしたのかの違いはあるものの,両者は,歯先の先端を低く形成した点におい
ては一致しており,引用発明の面取り部と,本願発明の大クリアランスチップとは,
「歯先の先端の少なくとも一部分を低く形成した」との概念で共通するといえる。
なお,ここでいう「少なくとも一部分」とは,「一部分」だけでなく「全部」の場
合も含んでおり,歯先において,先端を低く形成したオイルを連通させるための手
段が形成される部分を,上位概念で表したものである。
イ「オイルを連通させるための手段」について
本願明細書の【0001】【0007】【0012】ないし【0015】による
と,本願発明の「大クリアランスチップ」によって構成される「大クリアランス」
は,隣接する空隙同士を連通させるものであり,また,上記アのとおり,引用発明
の「面取り部」によって構成される「連通手段」は,隣接する2つのポンプ室を連
通させるものであって,いずれも歯先を低く形成した部分でオイルを連通させるこ
とにおいては一致している。したがって,引用発明の「面取り部」による「連通手
段」と,本願発明の「大クリアランスチップ」とは,「オイルを連通させるための
手段」との概念で共通する。
ウ「チップクリアランス群の少なくとも1箇所はオイルを連通させるための手
段を設けて,噛み合うロータのチップクリアランスは不均等となる」について
(ア)「チップクリアランス」について
本願発明は,1つ又は複数の歯先に「大クリアランスチップ」が形成されること
によって「大クリアランス」が構成され,「チップクリアランス」が不均等となる。
ここでいう「不均等」とは,通常のチップクリアランスの中に大クリアランスが設
定されて,大クリアランスのところと,そうでないところが存在することを意味し
ていると解される。そして,「大クリアランス」は,圧力流体の脈動を低減させる
とともにポンプ効率を一定の水準に維持することを目的とし,隣接する空隙同士を
連通させるという作用効果を奏するものであるから,「オイルを連通させるための
手段」ということができる。
他方,引用発明においては,歯先部位に,1歯飛びに歯厚方向の一部分を低くし
た「面取り部」が形成されることによって,「連通手段」も1歯飛びに構成される
ことになる。面取り部が形成されない歯先には,通常のチップクリアランスが設定
されるから,チップクリアランスの中に,連通手段が構成されるところとそうでな
いところが存在することとなり,その意味で,チップクリアランスは「不均等」と
なっている。そして,「連通手段」は,ポンプ室内の圧力変動を緩和させるととも
にオイルポンプの効率の低下を抑制することを目的とし,隣接する2つのポンプ室
を連通させるという作用効果を奏するものであるから,「オイルを連通させるため
の手段」ということができる。
本件審決は,引用発明の複数の歯先部位の中の「連通手段」と,本願発明のチッ
プクリアランス群中の「大間隔となる大クリアランス」とを対比し,「チップクリ
アランス」を有する複数の歯先の中に,オイルを連通させるための手段を設けたも
のが存在することを一致点として認定したものであって,本件審決の認定に誤りは
ない。
(イ)「チップクリアランス群の少なくとも1箇所はオイルを連通させる」につ
いて
原告は,引用発明の「連通手段」は少なくとも2箇所は存在することになるから,
本願発明の「チップクリアランス群の少なくとも1箇所は大間隔となる大クリアラ
ンスを設けて」との概念とは相違すると主張する。しかしながら,引用発明の「連
通手段」の形成箇所が2箇所以上であるとしても,「2箇所以上」とは「少なくと
も1箇所」の概念に該当するということができ,一致点として「チップクリアラン
ス群の少なくとも1箇所はオイルを連通させるための手段を設け」ていることとし
た本件審決の認定に誤りはない。
また,仮に,上記の一致点の認定に正確さを欠く部分があるとしても,本願発明
において「大クリアランスチップ」を1つ又は複数形成することと,引用発明にお
いて「面取り部」からなる「連通手段」を1歯飛びに形成することの目的及び作用
効果は同様であって,本願発明の「大クリアランスチップ」の形成箇所が1つであ
ることを含むことに格別の技術的意義は見いだせないから,両者は実質的に一致す
るものということができる。
(ウ)チップクリアランスの不均等について
上記のとおり,引用発明は歯先部位に1歯飛びに設定された面取り部が形成され
ることによって,チップクリアランスの中に,連通手段が構成されるところとそう
でないところが存在することとなり,その意味で,チップクリアランスが「不均
等」となるとしているものであって,このように認定判断した本件審決に誤りはな
い。
エ相違点の認定の誤りについて
前記アないしウのとおり,本願発明と引用発明との一致点の認定に誤りがないか
ら,一致点の認定の誤りを前提として,相違点1及び2の認定の誤りをいう原告の
主張は理由がない。
オ小括
以上のとおり,本件審決の一致点及び相違点の認定に誤りはない。
(2)相違点についての判断の誤りについて
ア周知技術の認定の誤りについて
相違点1及び2は,本願発明の「大クリアランスチップ」が,歯先における歯厚
全体にわたって等間隔の隙間として形成されてオイルを連通させる「大クリアラン
ス」を構成しているのに対し,引用発明の「面取り部」は,歯先における歯厚方向
の隅に部分的に形成されてオイルを連通させる「連通手段」を構成していることに
よるものである。
しかるところ,甲2刊行物,甲5公報及び乙2公報には,トロコイドポンプにお
いて,インナーロータの歯とアウターロータの歯との間に形成されるオイルを連通
させる隙間が,歯厚全体にわたって形成されていることがみられ,オイルを連通さ
せるための隙間を歯厚全体にわたって等間隔に形成することは周知慣用技術という
ことができ,本件審決の周知慣用技術の認定に誤りはない。
原告は,甲2刊行物,甲5公報及び乙2公報には,「チップクリアランス」に換
えて「大クリアランスチップ」を形成し,「大クリアランス」と「チップクリアラ
ンス」とが不均等となる構成が記載されていないと主張するが,本件審決は,周知
慣用技術として,原告主張に係る技術を甲2刊行物,甲5公報及び乙2公報から抽
出しているものではない。
イ本願発明の「大クリアランスチップ」と引用発明の「連通手段」との関係に
ついて
原告は,引用発明の「連通手段」には倒れが発生するという課題について主張す
るが,倒れが発生するという課題を解決することは,本願明細書には記載されてお
らず,しかも,引用発明に上記周知慣用技術を採用したものにおいても倒れが発生
するという課題を解決できることは,当業者にとって自明であって,この課題を解
決することは格別のものではない。
ウ小括
したがって,相違点1及び2についての本件審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1一致点及び相違点の認定の誤りについて
(1)引用発明の内容
ア引用例の発明の詳細な説明には,オイルポンプケースに複数の歯数を有する
アウターロータとこのアウターロータよりも1枚少ない歯数を有するインナーロー
タとを収容し,アウターロータとインナーロータとによって形成されるポンプ室に
連通する吸込ポートと吐出ポートとをそれぞれ設けたトロコイドオイルポンプにお
いて,アウターロータとインナーロータとの偶数の歯数を有するいずれか一方のロ
ータの歯先部位に,ポンプ室が吸込側あるいは吐出側のいずれか一方の隣接するポ
ンプ室に連通するように1歯飛びに連通手段を設けたことを特徴とし(【001
3】),偶数の歯数を有するインナーロータの歯先部位に,1歯飛びに,隣接する
ポンプ室との連通手段となる面取り部を設けることとすること(【0021】),
このようにして2つのポンプ室を連通させることにより,オイルポンプの駆動時に,
ポンプ室内の急激な圧力変動を緩和し,キャビテーション(空洞現象)や液体ハン
マを防止することができるようになること(【0026】【0031】),また,
アウターロータが偶数の歯数を有する場合には,アウターロータの歯先部位に1歯
飛びに面取り部を設けることができ,さらに,面取り部を設ける方法以外にも,段
差部や切欠き部,孔部等を連通手段として使用することも可能であること(【00
30】)との記載がある。
イ以上の記載によると,引用発明は,トロコイドポンプにおいて,偶数の歯数
を有するインナーロータ又はアウターロータの歯の先端部分に,1歯飛びに,歯先
のうちの角部分に面取り部を設けることによって,隣接するポンプ室とのオイルの
連通手段を設けた構成のものであって(なお,引用例の発明の詳細な説明の【00
21】では,インナーロータの歯先部分に面取り部を設けると記載されているが,
図1に基づく説明であって,面取り部を設けるのがインナーロータに限定されるわ
けではない。),このようにして2つのポンプ室を連通させることにより,オイル
ポンプの駆動時に,ポンプ室内の急激な圧力変動を緩和し,キャビテーションや液
体ハンマを防止するとの課題を解決しようとするものであると認められる。
(2)「先端の少なくとも一部分を低く形成した」について
ア上記(1)によると,引用発明は,インナーロータ又はアウターロータの1歯
飛びの歯先部分の角部分に面取り部を設けたものであって,「面取り部」を設ける
ことは,歯先の先端の角部分を低くすることであり,歯厚の一部分を低くすること
になり,歯の先端を部分的に低く形成した形状ということができるから,「先端の
少なくとも一部分を低く形成した」構成を有するものということができる。
なお,引用例の発明の詳細な説明の【0030】には,「前記面取り部以外にも,
ポンプ室を吸込側あるいは吐出側のいずれか一方の隣接するポンプ室に連通させる
構成のものであれば良く,段差部や切欠き部,孔部等を連通手段として使用するこ
とも可能である。」との記載があり,面取り部以外にも,段差部,切欠き部,孔部
を連通手段とすることが記載されているから,このような場合には,引用発明が
「先端の少なくとも一部分を低く形成した」構成を有することがより明らかである。
イ他方,本願発明は,前記第2の2のとおりのものであって,「インナーロー
タ又はアウターロータの複数の歯先の適宜の一つ又は複数の先端を低く形成した大
クリアランスチップが形成される」ものであるところ,本願明細書の発明の詳細な
説明には,「トロコイド歯形を有するインナーロータとアウターロータとが相互に
噛み合う状態で,インナーロータの各歯先とアウターロータとの間にチップクリア
ランスが生じるように設定され,且つインナーロータ又はアウターロータの複数の
歯先の適宜の一つ又は複数の先端を低く形成した大クリアランスチップが形成され
ることにより,前記チップクリアランス群の少なくとも1箇所は大間隔となる大ク
リアランスを設けて,噛み合うロータのチップクリアランスは不均等となることを
特徴とするトロコイドポンプ」(【0008】)との記載があり,また,その図面
1及び2によると,大クリアランス部は全幅に至って形成されていることが図示さ
れている。
以上によると,本願発明の大クリアランス部については,歯先の全幅において先
端を低く形成したものと認めることができる。
ウ本件審決は,本願発明と引用発明との対比の一致点の認定において,歯先の
「先端の少なくとも一部分を低く形成した」ことを認定するところ,引用発明は,
前記面取り等によって,この構成を有するものである。
他方,本願発明については,常に先端の歯厚全体(全幅)が低く形成されている
ものであるから,「先端を低く形成した」構成と認定する方が,本件審決のように
「先端の少なくとも一部分を低く形成した」構成と認定するよりか,本願発明それ
自体の特徴をより正確にとらえるものということができるが,「少なくとも一部
分」との用語の意味としては,「一部分」だけでなく「全部」をも含むものであり,
また,本願発明においては,歯先の先端の全部が,引用発明においては,その一部
が低く形成されていることがオイルを連通させるための手段として共通点を有する
ものであることに着目して対比しようとする場合の表現として,本件審決が本願発
明と引用発明との一致点として,歯先の「先端の少なくとも一部分を低く形成し
た」との範囲で共通すると認定したことには十分に意味があり,この範囲での一致
点の認定を誤りということはできない。
(3)「オイルを連通させるための手段」について
ア前記(1)によると,引用発明は,トロコイドポンプにおいて,偶数の歯数を
有するインナーロータ又はアウターロータの歯の先端部分に,1歯飛びに,歯先の
うちの角部分に面取り部を設け,隣接するポンプ室との連通手段を設けた構成とし,
このようにして2つのポンプ室を連通させるものである。
イ他方,本願発明は,前記第2の2のとおりのものであって,「チップクリア
ランス群の少なくとも1箇所は大間隔となる大クリアランスを設け」たものである。
以上によると,本願発明は,インナーロータの各歯先とアウターロータとの間の
各チップクリアランスのうちの少なくとも1箇所に大クリアランス部を設け,ロー
タの噛み合い間に形成される空間容積を連通させ,流体の流通が可能とするもので
あって,大クリアランス部がオイルを流通させるための手段として形成されたもの
であることが認められる。
ウ本件審決は,本願発明と引用発明との対比における一致点の認定において,
歯先の先端の少なくとも一部分を低く形成した「オイルを連通させるための手段」
が形成されていることを認定するところ,上記ア及びイによると,引用発明及び本
願発明のいずれも,この構成を有するものということができる。
エなお,原告は,本願発明の「大クリアランスチップ」は,サイドクリアラン
ス側への側圧が加わることがなく,オイルを連通させるための手段であるのに対し,
引用発明の「連通手段」は,サイドクリアランス側への側圧が加わりつつ,オイル
を連通させるための手段であって,両者は相違しており,本願発明の「大クリアラ
ンスチップ」と引用発明の「連通手段」とは,「オイルを連通させるための手段」
との上位概念の共通点で判断されるべきではないと主張する。
しかしながら,原告は,サイドクリアランス側への側圧の有無という点で,引用
発明と本願発明とは相違すると主張するが,引用例の明細書及び本願明細書のいず
れもサイドクリアランス側への側圧の有無という点について述べるものではなく,
サイドクリアランス側への側圧の有無をもって相違点を述べる原告の主張は理由が
ない。
(4)「チップクリアランス群の少なくとも1箇所はオイルを連通させるための
手段を設けて,噛み合うロータのチップクリアランスは不均等となる」について
アトロコイド形オイルポンプにおける「チップクリアランス」とは,インナー
ロータとアウターロータとを組み合せた状態でのインナーロータの山頂部とアウタ
ーロータの山部との隙間であり,その寸法は0.15mm以下とされ,また,トロ
コイド形オイルポンプにおいては,インナーロータとアウターロータとを組み合せ
た時に円滑に回転することが求められており(甲7),このチップクリアランスに
ついては,インナーロータとアウターロータとを組み合わせた時に円滑に回転する
ための隙間であって,その隙間で円滑に回転させつつ,オイルの流通がないように
したものと解することができる。
イ前記(1)によると,引用発明は,トロコイドポンプにおいて,インナーロー
タ又はアウターロータの歯の先端部分に,1歯飛びに,歯先のうちの角部分に面取
り部を設けることによって,隣接するポンプ室とのオイルの連通手段を設けた構成
のものであるから,面取り部が形成されない歯先には,通常のチップクリアランス
のみが設定されているということになる。そうすると,引用発明においては,1歯
飛びに面取り部が設けられた歯先には連通手段が形成され,面取り部が設けられな
い歯先には連通手段が形成されないことになるから,その意味で,「チップクリア
ランスは不均等になる」との構成を有することになる。
ウ他方,本願発明は,前記第2の2のとおりのものであり,「インナーロータ
又はアウターロータの複数の歯先の適宜の一つ又は複数の先端を低く形成した大ク
リアランスチップが形成されることにより,チップクリアランス群の少なくとも1
箇所は大間隔となる大クリアランスを設けて,噛み合うロータのチップクリアラン
スは不均等となる」ものであって,上記アのとおりのオイルの流通がない通常のチ
ップクリアランスうちの複数の歯先の適宜の1つ又は複数について,オイルを連通
させるための手段である大クリアランスを設定したものである。
エ以上によれば,引用発明及び本願発明のいずれも,歯先のチップクリアラン
スにおいて,オイルを連通させる手段を有するものとこれを有さないものとを有す
るものであって,チップクリアランス群において,「オイルを連通させるための手
段を設けて,チップクリアランスは不均等となる」との構成を有することは明らか
である。
オ原告は,引用発明においては,連通手段は1歯飛びとの態様であるので,少
なくとも2箇所は連通手段が存在することになるから,本願発明と引用発明とが
「チップクリアランス群の少なくとも1箇所はオイルを連通させるための手段を設
けて」との概念で共通するということはできないと主張する。
この点については,前記(1)のとおり,引用発明は,偶数の歯数を有するインナ
ーロータ又はアウターローラの歯の先端部分に,1歯飛びに,歯先のうちの角部分
に面取り部を設けることによって,隣接するポンプ室とのオイルの連通手段を設け
た構成のものであって,少なくとも2箇所は連通手段が存在することになるから,
引用発明について限れば,少なくとも2箇所の連通手段があると認定する方が,本
件審決のように「少なくとも1箇所につきオイルを連通させるための手段を設け
て」との構成と認定するよりか,引用発明の特徴をより正確にとらえるものという
ことができるが,チップクリアランス群の「少なくとも1箇所」につきオイルを連
通させるための手段を設けてとの用語の意味としては,2箇所以上の連通手段が存
在することをも含むものであり,また,本願発明においては,大クリアランスチッ
プにより少なくとも1箇所の連通手段が,引用発明においては,面取り部によって
2箇所以上の連通手段が設けられていることがオイルを連通させるための手段とし
て共通点を有するものであることに着目して対比しようとする場合の表現として,
本件審決が本願発明と引用発明との一致点として,「少なくとも1箇所につきオイ
ルを連通させるための手段を設けて」との範囲で共通すると認定することには十分
に意味があり,この範囲での一致点の認定を誤りということはできない。
なお,原告は,本願発明では,ロータの大クリアランスにおいてアウターロータ
が揺動しやすくなり,アウターロータが径方向に移動し,噛み合うロータのチップ
クリアランスは不均等となって,ポンプの油圧脈動の規則性を乱し,脈動を低減す
ることができることになるのに対し,引用発明では,アウターロータに本願発明の
ような径方向の移動量は生じないとし,本願発明において「チップクリアランスは
不均等」であるのに対し,引用発明において「チップクリアランスは均等」である
と主張する。
しかしながら,本願明細書において,ロータの大クリアランスによってアウター
ロータが径方向に移動し,噛み合うロータのチップクリアランスは不均等となって,
ポンプの油圧脈動の規則性を乱し,脈動を低減することができるとの記載はなく,
そのことが間接的に記載されていると原告が主張する本願明細書の発明の詳細な説
明及び図面の記載についても,大クリアランスを設けたことによって騒音が低減さ
れることなどを記載するものにすぎず,アウターロータが径方向に移動することを
記載又は示唆するものではない。本願明細書の発明の詳細な説明にも,本願発明に
ついて,ロータの大クリアランスによってアウターロータが径方向に移動し,噛み
合うロータのチップクリアランスは不均等となって,ポンプの油圧脈動の規則性を
乱し,脈動を低減することができることをもって「チップクリアランスは不均等」
であると理解し得るような記載はない。
他方,引用発明についてみるに,前記(1)のとおり,トロコイドポンプにおいて,
偶数の歯数を有するインナーロータ又はアウターロータの歯の先端部分に,隣接す
るポンプ室とのオイルの連通手段を設ける構成とするため,1歯飛びに,歯先のう
ちの角部分に面取り部を設けることによって,チップクリアランスを不均等とした
ものであって,本願発明と同じく連通手段とするための「チップクリアランスが不
均等」との構成が採られているものということができるから,原告の主張は採用す
ることができない。
(5)相違点の認定の誤りについて
原告は,「ロータの歯先の『先端の少なくとも一部分』を低く形成した態様」が
一致点とならないから,これを一致点とすることを前提とする本件審決の相違点1
の認定は誤っていると主張するが,前記(2)のとおり,本件審決の一致点の認定に
誤りはないから,原告の主張は採用することができない。
また,原告は,チップクリアランス群の少なくとも1箇所の「オイルを連通させ
るための手段」の態様は,そもそも一致点ではあり得ないので,これを一致点とす
ることを前提とする本件審決の相違点2の認定は誤っていると主張するが,前記
(3)及び(4)のとおり,本件審決の一致点の認定に誤りはないから,原告の主張は採
用することができない。
(6)小括
以上によると,本件審決の一致点及び相違点の認定に誤りがあるということはで
きない。
2相違点についての判断の誤りについて
(1)甲2技術の内容
ア甲2刊行物の明細書の記載によると,①内燃期間の潤滑油ポンプ等に用いら
れるトロコイドポンプの歯形について,従来技術として,アウターロータとインナ
ーロータとの噛合部の両歯間の隙間で閉じ込みが生じ,この部分で騒音が発生する
という問題があったこと,②また,従来技術として,両ロータのそれぞれの2歯間
で構成される空間部の吐出側と吸入側のそれぞれの歯先間の隙間が略同じであった
ため,この空間部への流体の流出入が急激に行われ,騒音が発生するとともに,容
積効率に悪影響を与えていたこと,③このような問題を解決するため,インナーロ
ータの各歯の駆動回転方向後側面を,1点を中心とする単純な円弧とするとともに,
この部分の高さをトロコイド曲線による歯形より低くした構成とし,両ロータの噛
合部での駆動回転方向後側では両ロータの歯の接触部から後側へ徐々に大きくなり,
かつ,空間部に連通する隙間ができ,また,両ロータのそれぞれの2歯間での空間
部での対向する両歯の対向部では,吐出側の歯先間の隙間が大きく,吸入側の歯先
間の隙間が小さくなること,④このような構成を採ることによって,インナーロー
タとアウターロータとの噛合部での流体の閉じ込みがなくなり,この部分での噛合
ごとの圧力急上昇がなくなり,騒音の発生をなくすることができ,また,両ロータ
のそれぞれの2点間での空間部の閉じ込みにおいては,インナーロータの駆動方向
後側面の歯面が低いことにより,吐出側の歯先間の隙間は広く,吸入側の歯先間の
隙間は狭くなることによって,閉じ込み部への油の流出入が容易となり,流体の脈
動が小さくなって騒音が小さくなることが記載されている。
イ以上によると,甲2技術として,歯先の歯厚全体(全幅)にわたって等間隔
に歯形を低くし,オイルを連通するための手段を設けることによって,流体の脈動
が小さくなって騒音が小さくなることが認められる。
(2)乙2技術の内容
ア乙2公報には,トロコイド式オイルポンプにおいて,インナーロータとアウ
ターロータの歯間に独立形成された空間部に潤滑油が閉じ込められてポンプ脈動が
大きくなり,ポンプケーシングの共振音を誘発することを防ぐため,アウターロー
タの内歯形状を従来の一般的なトロコイド式オイルポンプと同様に単一曲線のみで
形成する一方,インナーロータの外歯の回転方向と反対側の歯側面を全幅にわたっ
て一部削除する形で複数の曲線により形成することとし,回転時におけるインナー
ロータとアウターロータとの内外歯を吸入口側では接触状態に配置する一方,吐出
口側では非接触状態とすることによって,吐出口側の潤滑油の閉じ込みが防止され,
ポンプの駆動によるポンプケーシングの共振音を十分に低減できることが記載され
ている。
イ以上によると,乙2公報には,トロコイドポンプにおいて,騒音を低減する
ために,内外のロータの一方の歯の一部について,歯厚全体(全幅)にわたって等
間隔に低くし,連通手段を形成することによって,騒音を低減する技術が記載され
ていることが認められる。
(3)周知技術の存在
上記(1)及び(2)によると,本件出願の時点において,トロコイドポンプについて,
騒音の低減のためにロータの歯先を歯厚全体(全幅)にわたって等間隔に低くし,
オイルの連通部分を設けることは周知技術であったと認めることができる。
(4)相違点1及び2の容易想到性
相違点1及び2については,本願発明の「大クリアランスチップ」が,歯先にお
ける歯厚全体にわたって等間隔の隙間として形成されてオイルを連通させる「連通
手段」を構成しているのに対し,引用発明の「面取り部」は,歯先における歯厚方
向の隅に部分的に形成されてオイルを連通させる「連通手段」を構成しているもの
であるところ,これらの構成は,いずれも騒音低減という課題を,隣接するポンプ
室間を連通させることにより解決するためのものである。
そして,引用発明に,引用発明と同一のトロコイドポンプの技術分野に属し,騒
音を軽減するとの課題を共通するものである上記(3)のとおりのロータの歯先を歯
厚全体(全幅)にわたって等間隔に低くし,オイルの連通部分を設けるとの周知技
術を適用することは当業者において容易想到ということができる。
なお,前記1(4)オのとおり,本願発明では大クリアランスは少なくとも1箇所
設けるものであるのに対し,引用発明では連通手段を少なくとも2箇所設けること
になるものであるが,これは,引用発明についてはその構成上必然的に連通部分を
2箇所設けることにならざるを得ないことになるものにすぎず,トロコイドポンプ
のロータの少なくとも1箇所の歯先の一部分に連通手段となる部分を設け,これを
もって騒音の低減を図るとする作用を奏するために,引用発明において連通手段を
2箇所設けることが必要とされているものではなく,また,本願発明の大クリアラ
ンスチップの形成箇所が1つであることを含むことに格別の技術的意義を見いだす
こともできないから,引用発明において連通手段が少なくとも2箇所であることを
もって,相違点1及び2に係る容易想到性が認められないことになるものではない。
(5)原告の主張について
原告は,甲2及び乙2技術において,各歯において少なくとも1箇所の歯の歯先
を他の歯の歯先より低く形成して大クリアランスを設けることは,周知慣用技術で
はないと主張するが,本件審決は,甲2及び乙2技術として,トロコイドポンプに
おいて,インナーロータの歯とアウターロータの歯との間に形成されるオイルを連
通させる隙間が,歯厚全体にわたって形成されていることをみて,オイルを連通さ
せるための隙間を歯厚全体にわたって等間隔に形成することが周知技術であるとし
ているものにすぎないから,原告の主張は失当である。
また,原告は,引用発明では,側面部においても連通手段を形成するものである
ため,ロータの軸方向に対しての「倒れ」が連通手段を有する歯部で発生すること
になり,サイドクリアランスが大きくなって,オイルポンプの効率を低下させるこ
とになる可能性が大きいとして,本願発明との相違を主張する。しかしながら,ロ
ータの軸方向に対しての倒れの有無ということは,本願明細書及び引用例の明細書
のいずれにも記載のないこと,また,引用例の記載によると,「前記面取り部以外
にも,ポンプ室を吸込側あるいは吐出側のいずれか一方の隣接するポンプ室に連通
させる構成のものであれば良く,段差部や切欠き部,孔部等を連通手段として使用
することも可能である。」(【0030】)とされており,引用発明は,側面部で
オイルを流通させるものに限定されていないものであること,さらに,引用発明に
オイルを連通させるための隙間を歯厚全体にわたって等間隔に形成するとの上記の
周知技術を適用すると,原告主張のローターの軸方向に対して倒れが発生するとい
う問題も解決できるものであることからすると,原告の主張は採用することができ
ない。
3結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由は理由がなく,原告の請求は棄却さ
れるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官本多知成
裁判官荒井章光

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