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平成28年5月27日判決言渡
平成23年(行ウ)第764号障害厚生年金支給停止処分取消請求事件
主文
1本件訴えのうち,金員の支払の義務付けを求める部分を却下する。
2処分行政庁が平成22年7月15日付けで原告に対してした厚生年金保
険法に基づく障害厚生年金の支給を停止する旨の処分を取り消す。
3訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の
負担とする。
事実及び理由
第1請求
1主文第2項と同旨
2被告は,原告に対し,金319万3101円及びこれに対する平成25年7
月6日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え(以下,この請求
に係る訴えを「本件義務付けの訴え」という。)。
第2事案の概要
本件は,右脛腓骨開放性粉砕骨折の負傷による障害につき厚生年金保険法
(以下「厚年法」という。)47条所定の障害等級(以下「障害等級」という。)
3級(厚生年金保険法施行令(以下「厚年令」という。)別表第一)に該当す
る旨の認定を受け,平成19年12月以降厚年法による障害厚生年金(以下
「障害厚生年金」という。)の支給を受けていた原告が,厚生労働大臣から原
告の障害の状態が障害等級3級に該当しなくなったとして,平成22年7月1
5日付けで,同年6月から障害厚生年金の支給を停止する処分(以下「本件処
分」という。)を受けたところ,原告の障害の状態は障害等級3級に該当する
ものであるから本件処分は違法であるとしてその取消しを求め,また,本件処
分が取り消されたとして支払われるべき金員の支払の義務付けを求める事案で
ある。
1関係法令の定め
⑴障害厚生年金の受給権者について
ア厚年法47条1項本文は,障害厚生年金は,疾病にかかり,又は負傷し,
その疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病(以下「傷病」という。)に
つき初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日(以下「初診日」という。)
において被保険者であった者が,当該初診日から起算して1年6月を経過
した日(その期間内にその傷病が治った日(その症状が固定し治療の効果
が期待できない状態に至った日を含む。以下同じ。)があるときは,その
日とする。)において,その傷病により同条2項に規定する障害等級に該
当する程度の障害の状態にある場合に,その障害の程度に応じて,その者
に支給する旨を定め,同条2項は,障害等級は,障害の程度に応じて重度
のものから1級,2級及び3級とし,各級の障害の状態は,政令で定める
ものとしている。
イ厚年令3条の8は,厚年法47条2項に規定する障害等級の各級の障害
の状態は,1級及び2級についてはそれぞれ国民年金法施行令別表に定め
る1級及び2級の障害の状態とし,3級については厚年令別表第一に定め
るとおりとする旨を定めている。
ウ厚年令別表第一には,障害等級3級に該当する程度の障害の状態として,
以下のとおりの定めがある。
(ア)一下肢の三大関節のうち,二関節の用を廃したもの(6号)
(イ)長管状骨に偽関節を残し,運動機能に著しい障害を残すもの(7号)
(ウ)身体の機能に,労働が著しい制限を受けるか,又は労働に著しい制
限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの(12号)
(エ)精神又は神経系統に,労働が著しい制限を受けるか,又は労働に著
しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの(13号)
(オ)傷病が治らないで,身体の機能又は精神若しくは神経系統に,労働
が制限を受けるか,又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障
害を有するものであって,厚生労働大臣が定めるもの(14号)
(なお,上記「厚生労働大臣が定めるもの」については,昭和61年3
月29日厚生省告示第66号「厚生年金保険法施行令別表第一の第14
号の規定による障害厚生年金を支給すべき程度の障害の状態を定める件」
により定められているが,下肢に係る障害については「結核性疾患及び
けい肺以外の傷病」に該当する。)。
⑵障害厚生年金の支給停止について
厚年法54条2項本文は,障害厚生年金は,受給権者が障害等級に該当す
る程度の障害の状態に該当しなくなったときは,その障害の状態に該当しな
い間,その支給を停止する旨を定め,同法36条2項は,年金は,その支給
を停止すべき事由が生じたときは,その事由が生じた月の翌月からその事由
が消滅した月までの間は,支給しない旨を定める。
⑶障害の現状に関する届出について
厚生年金保険法施行規則(以下「厚年法施行規則」という。)51条の4
第1項は,障害厚生年金の受給権者であって,障害の程度の診査が必要であ
ると認めて厚生労働大臣が指定したものは,指定日までに,指定日前1月以
内に作成された障害の現状に関する医師又は歯科医師の診断書を提出しなけ
ればならない旨を定める。
2前提事実(証拠等を掲記しない事実は当事者間に争いがない。ただし,⑵ス
の事実は当裁判所に顕著である。)
⑴行政通達の定め
厚生労働大臣による厚年令別表第一に規定する障害の程度の認定は,「国
民年金・厚生年金保険障害認定基準の改正について」(平成14年3月15
日庁保発第12号社会保険庁運営部長通知)により定められた国民年金・厚
生年金保険障害認定基準(以下「障害認定基準」という。)によって行われ
ている。障害認定基準のうち,本件に関係する部分の概要は,以下のとおり
である(乙11)。
ア傷病が治った状態
「傷病が治った状態」とは,器質的欠損若しくは変形又は機能障害を残
している場合は,医学的に傷病が治ったとき,又は,その症状が安定し,
長期にわたってその疾病の固定性が認められ,医療効果が期待し得ない状
態で,かつ,残存する病状が自然経過により到達すると認められる最終の
状態(症状が固定)に達したときをいう。
イ認定の方法
障害の程度の認定は,診断書及びX線フィルム等の添付資料により行う。
ただし,提出された診断書等のみでは認定が困難な場合又は傷病名と現症
あるいは日常生活等との間に医学的知識を超えた不一致の点があり整合性
を欠く場合には,再診断を求め又は療養の経過,日常生活状況等の調査,
検診,その他所要の調査等を実施するなどして,具体的かつ客観的な情報
を収集した上で,認定を行う。
また,原則として,本人の申立て等及び記憶に基づく受診証明のみでは
判断せず,必ず,その裏付けの資料を収集する。
ウ障害等級3級の障害の程度
障害等級3級の障害の状態の基本は,労働が著しい制限を受けるか又は
労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。
また,「傷病が治らない」ものにあっては,労働が制限を受けるか又は
労働に制限を加えることを必要とする程度のものとする。(「傷病が治ら
ないもの」については,障害認定基準第3の第1章に定める障害手当金に
該当する程度の障害の状態がある場合であっても障害等級3級に該当す
る。)
エ下肢の障害についての認定基準
(ア)「一下肢の三大関節のうち,二関節の用を廃したもの」(厚年令別
表第一の6号)について
「関節の用を廃したもの」とは,関節の自動可動域が健側の自動可動
域の2分の1以下に制限されたもの又はこれと同程度の障害を残すもの
(例えば,常時固定装具を必要とする程度の動揺関節)をいう。
(イ)「長管状骨に偽関節を残し,運動機能に著しい障害を残すもの」
(厚年令別表第一の7号)について
「長管状骨に偽関節を残し,運動機能に著しい障害を残すもの」とは,
以下のいずれかに該当するものをいう(偽関節は,骨幹部又は骨幹端部
に限る。)。
a大腿骨に偽関節を残し,運動機能に著しい障害を残すもの
b脛骨に偽関節を残し,運動機能に著しい障害を残すもの
オ肢体の機能の障害の認定基準
「身体の機能に,労働が著しい制限を受けるか,又は労働に著しい制限
を加えることを必要とする程度の障害を残すもの」(厚年令別表第一の1
2号)について
下肢の機能の障害は,原則として,障害認定基準の「下肢の障害」に示
した認定要領に基づいて認定を行うが,脳卒中等の脳の器質障害,脊髄損
傷等の脊髄の器質障害,多発性関節リウマチ,進行性筋ジストロフィー等
の多発性障害の場合には,関節個々の機能による認定によらず,関節可動
域,筋力,日常生活動作等の身体機能を総合的に認定する。
カ神経系統の障害の認定基準
「精神又は神経系統に,労働が著しい制限を受けるか,又は労働に著し
い制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの」(厚年令別表第
一の13号)について
疼痛は,原則として認定の対象とならないが,四肢その他の神経の損傷
によって生じる灼熱痛,脳神経及び脊髄神経の外傷その他の原因による神
経痛,根性疼痛,悪性新生物に随伴する疼痛等の場合は,疼痛発作の頻度,
強さ,持続時間,疼痛の原因となる他覚的所見等により,次のように取り
扱う。
(ア)軽易な労働以外の労働に常に支障がある程度のものは,障害等級3
級と認定する。
(イ)一般的な労働能力は残存しているが,疼痛により時には労働に従事
することができなくなり,就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限さ
れるものは,障害手当金に該当するものと認定する。
⑵本件訴訟に至る経緯
ア原告は,平成18年6月3日,建設工事現場において,鳶工として作業
中に転落したことにより,右足首を強打し,右脛腓骨開放性粉砕骨折の傷
害(以下「本件傷病」という。)を負い,P1病院において診療を受けた
(乙1,17)。
イ原告は,平成20年7月1日,社会保険庁長官に対し,本件傷病による
障害を理由として,同年6月20日付けP2整形外科P3医師作成の診断
書(乙2。以下「平成20年診断書」という。)及び原告作成の「病歴・
就労状況等申立書」(乙16。以下「病歴等申立書」という。)を提出し
て,厚年法33条の規定により,厚年法47条1項の規定に基づく障害厚
生年金給付の裁定を請求した(乙3)。
ウ社会保険庁長官は,平成20年11月20日,原告に対し,障害等級3
級(厚年令別表第一の7号(長菅状骨に偽関節を残し,運動機能に著しい
障害を残すもの))の障害の状態にあるとして,平成19年12月3日を
受給権発生日とする障害厚生年金の裁定(以下「本件裁定」という。)を
した(乙4)。
エ平成22年1月1日に日本年金機構法(平成19年法律第109号)が
施行されたことに伴い,従来,国(社会保険庁)が行っていた事業のうち,
政府が管掌する厚生年金保険事業及び国民年金事業に関し,厚年法及び国
民年金法の規定に基づく業務等を行うため,日本年金機構が設立され,社
会保険庁は,平成21年12月31日をもって廃止された(日本年金機構
法附則70条及び72条)。
これに伴い,従前,社会保険庁長官に属していた厚生年金保険の保険給
付に係る処分権限が,平成22年1月1日以降は厚生労働大臣に属するこ
ととなった(厚年法33条,54条2項等。なお,日本年金機構法附則7
3条2項参照)。
オ日本年金機構は,平成22年1月28日,原告を含む▲月生まれの者に
対し,障害状態確認届(診断書)を送付した(乙5)。
カ原告は,平成22年2月22日,日本年金機構に対し,厚年法施行規則
51条の4第1項の規定に基づく障害の現状に関する医師又は歯科医師の
診断書として,同年1月21日の現症が記載された同年2月16日付けP
3医師作成の診断書(乙6。以下「平成22年診断書」という。)を提出
した。
キ日本年金機構は,平成22年診断書の「傷病名」欄に「右下腿骨々折偽
関節」との記載があったことから,平成22年4月9日,P3医師に対し,
上記「右下腿骨々折偽関節」に関し,同年1月21日現症時点で偽関節の
状態か否かにつき照会をし,P3医師は,同年5月11日付けで「平成2
2年1月21日現症時点で偽関節の状態である。(右腓骨)」と記載した
書面(以下「P3医師回答書」という。)により回答した(乙7)。
ク厚生労働大臣は,平成22年診断書及びP3医師回答書を審査するなど
した結果,原告の障害の状態が障害等級3級に該当しなくなったとして,
平成22年7月15日,原告に対し,厚年法54条2項の規定に基づき,
障害厚生年金の支給を同年6月から停止する旨の処分(本件処分)をした
(乙8,弁論の全趣旨)。
ケ原告は,平成22年7月20日,本件処分を不服として,関東信越厚生
局社会保険審査官に対し,審査請求をした(乙9)。
コ関東信越厚生局社会保険審査官は,平成22年11月15日,原告の
「傷病の障害の状態は,3級の障害厚生年金が支給される程度(中略)に
該当すると認めることはできない」として,上記ケの審査請求を棄却する
決定をした(甲1)。
サ原告は,平成22年11月29日,上記決定を不服として,社会保険審
査会に対し,再審査請求をした(乙10)。
シ社会保険審査会は,平成23年6月30日,上記サの再審査請求を棄却
する裁決をした(甲2)。
ス原告は,平成23年12月27日,本件訴えを提起した。
3争点
本件の主な争点は,①本件処分の適法性(原告の障害の程度が平成22年5
月において障害等級3級に該当しなくなったといえるか否か)(争点1),②
本件義務付けの訴えの適法性(争点2)である。
4争点に関する当事者の主張
⑴争点1(本件処分の適法性(原告の障害の程度が平成22年5月において
障害等級3級に該当しなくなったといえるか否か))について
(原告の主張の要旨)
ア本件処分の違法姓
本件処分時点での原告の障害の程度は,後記イのとおり,障害等級3
級のうち厚年令別表第一の6号,7号,12号,13号及び14号(以
下,厚年令別表第一の各号については,単に「6号」等,各号のみの表
記とする。)にそれぞれ該当する。しかるに,処分行政庁は,以下のと
おり,調査義務を果たさずに審査を行い,誤った判断をして,障害厚生
年金の支給を停止する旨の本件処分を行ったものであるから,本件処分
には,著しい権限の逸脱,濫用があり,重大な違法がある。
(ア)特に,本件処分がされるに当たり,原告の治療を行っている医師
並びに平成22年診断書及びP3医師回答書を作成したP3医師から
の聞き取りが行われていない。しかも,平成22年診断書及びP3医
師回答書の空欄部分等についても確認すべきであるのにされず,その
内容についてすら十分な検討・評価が行われていない。
障害認定基準によれば,「提出された診断書等のみでは認定が困難
な場合又は傷病名と現症あるいは日常生活等との間に医学的知識を超
えた不一致の点があり整合性を欠く場合には,再診断を求め又は療養
の経過,日常生活等の調査,検診,その他所要の調査等を実施するな
どして,具体的かつ客観的な情報を収集した上で認定を行う。また原
則として,本人の申立等及び記憶に基づく受診証明のみでは判断せず,
必ずその裏付けの資料を収集する。」と記載されているところ,原告
の症状を把握するために必要な調査を怠ったことは,この認定方法に
違反している。
また,障害等級に該当する旨の認定がされている以上,受給資格の
該当性を判断する際には,処分当時の現症を記載した診断書の記載の
みに基づいて判断するのではなく,その前後の期間における自覚症状,
他覚所見,検査成績,一般状態の推移のほか,その前後における治療
及び病状の経過,具体的な日常生活状況等をも考慮して,総合的に判
断する必要があった(東京地裁平成20年10月22日判決同旨)。
しかるに,処分行政庁は,本件処分を行うに当たり,原告の障害に
ついて,神経系統の障害に思い至らず,本件裁定が理由とした障害等
級3級7号の偽関節について,腓骨が偽関節であるとのP3医師回答
書(乙7)のみをもって障害厚生年金の支給を停止した。
処分行政庁は,平成22年診断書(乙6)に,「右下腿痛,右足間
接痛は残存し,10分間続けて立っていられない。長時間の歩行で痛
みが増強する等の症状が残存」と記載されていたのであるから,この
点について十分に調査を尽くすべきであった。また,症状固定後の継
続する疼痛について,直ちに骨折部の疼痛と判断することはできない
以上,整合性を確認するために調査を行うべきであった。
(イ)仮に,処分行政庁が原告が提出した平成20年診断書(乙2)の
みにより判断を行うとしても,同診断書及び病歴等申立書(乙16)
において,原告がP4病院に通院していることが分かるのであるから,
原告の症状について把握し,障害認定に関する判断を行うため,当然
に,P4病院への調査を行うべきであった。
さらに,平成20年診断書には,「㉒階段昇降以外の屋内移動は支
障はないが,屋外での移動歩行は約10分程度で創部に痛みが出現す
る。デスクワークであれば可能か。」,「㉓徐々にではあるが仮骨の
形成が見られる為,骨癒合は期待できると考えるが,骨の変形治療は
残存する。また,将来的に右足関節の変形性関節症へ移行する可能性
大。」,「⑲△箇所」等により,原告の身体の機能に労働に著しい制
限を加えることを必要とする程度の障害を残し,軽労働以外の労働が
できないことから,「労働に著しい制限を加えることを必要とする程
度の障害を残すもの」に該当し,障害等級3級に該当することは明ら
かである。
結局,処分行政庁は,平成20年診断書の診断書を前提とする原告
の症状すら見逃し,また,原告がP4病院に通院していることを認識
しながら,調査すら行わず,偽関節は腓骨であるとの1点のみをもっ
て本件処分を行ったものである。
このことは,処分行政庁が本来原告の症状を把握した上で判断を行
うべきであるのに,原告の症状を把握しないまま,本件処分を行った
と評価するべきである。
イ本件処分時点での原告の障害の程度
原告の本件処分時点での障害の状態は,以下のとおり,6号,7号,
12号,13号及び14号にそれぞれ該当する。
(ア)6号該当性について
6号は,「一下肢の三大関節のうち二関節の用を廃したもの」と定め
るところ,原告の脛骨は変形しており,腓骨は偽関節となっているため,
関節可動域が制限されており,その障害の状態は,6号に該当する。
(イ)7号該当性について
7号は,「長管状骨に偽関節を残し,運動機能に著しい障害を残す
もの」と定める。
下肢の長管状骨とは大腿骨,脛骨及び腓骨をいうところ,原告は,
腓骨に偽関節を残している。
そして,原告の症状は,痛みを堪えて「片足で立つ」,「座る」,
「歩く」,「立ち上がる」,「階段を上る」,「階段を下りる」とい
うもので,その痛みは激痛であるから,全ての日常生活における動作
が非常に困難である。また,原告は,15分程度の歩行ができず,日
常生活の大部分において動作を行うことが困難であるから,運動機能
に著しい障害を残している。
よって,原告の障害の状態は,7号に該当する。
(ウ)12号該当性
12号は,「前各号に掲げるもののほか,身体の機能に,労働が著
しい制限を受けるか,又は労働に著しい制限を加えることを必要とす
る程度の障害を残すもの」と定める。
原告は,軽作業やデスクワーク以外の労働が制限される状態にある
から,12号に該当することは明らかである。
(エ)13号該当性
a13号は,「精神又は神経系統に,労働が著しい制限を受けるか,
又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残す
もの」と定める。
本件処分時における原告の症状は,下肢の神経の損傷によって生
じる灼熱痛,神経痛,根性疼痛であり,下肢が物に触れる度に強い
疼痛が生じ,疼痛の原因となる他覚所見として神経断裂,損傷があ
る。そして,疼痛発作の頻度,強さ,持続時間,他覚的所見によれ
ば,軽易な労働以外の労働に常に支障がある程度であるから,13
号に該当することは明らかである。
診断書(甲6,7,19,22,29)には,いずれも原告の疼
痛が神経障害性疼痛であると記載されており,原告の疼痛は,ズキ
ンズキンとしたうずく痛みや激痛(電撃痛・灼熱痛)であり,神経
障害性疼痛の特徴をよく表しているから,臨床的に見ても神経障害
性疼痛であることは間違いない。原告が処方されていた○は,神経
障害性疼痛の優先薬であること,原告が平成25年10月に受けた
脊髄刺激療法(手術)は,神経障害性難治性疼痛に対して適応のあ
る手術であることから,これらからも,原告の障害が神経障害性疼
痛であることは明らかである。
原告の障害は,骨折部の偽関節及び同部位の神経断裂等を原因と
した難治性の疼痛が持続するもので,また,持続的な疼痛に加えて,
右下肢を床につけることや体重の荷重により激痛が生じるため,軽
易な労働以外の労働に常に支障があるというべきである。
b被告は,原告の疼痛が混合性疼痛であるとし,それが神経障害性
疼痛のみによるものとして神経系統の認定基準による認定の対象と
することはできない旨を主張する。
しかし,侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛は別の疼痛であり,原
告の神経障害性疼痛それ自体が重篤な疼痛であることは,P4病院
P5医師が原告に施している治療が神経障害性疼痛の治療であるこ
とから明らかである(甲41)。また,侵害受容性疼痛であるから
神経系統の認定対象にならないという被告の前提自体も誤りである。
なぜなら,侵害受容性疼痛が認定の対象から外れるとすれば,それ
は,一過性の疼痛である場合のことであり,この疼痛が継続する場
合には,これを認定対象から外す理由はないからである。
なお,神経系統の障害の認定基準によれば,「四肢その他の神経
の損傷によって生じる灼熱痛,脳神経及び脊髄神経の外傷その他の
原因による神経痛,根性疼痛,悪性新生物に随伴する疼痛等の場合」
と記載されており侵害受容性疼痛は特に除外されていない。
(オ)14号該当性
14号は,「傷病が治らないで,身体の機能又は精神若しくは神経
系統に労働が制限を受けるか,又は,労働に制限を加えることを必要
とする程度の障害を有するものであって,厚生労働大臣が定めるもの」
と定める。
原告の傷病は,現在もなお継続して改善を試みている状態であり,
症状固定したとはいえないから,「傷病が治らない」に該当し,14
号に該当する。
(被告の主張の要旨)
ア原告の障害の現状を平成22年診断書及びP3医師回答書に基づいて
判断したことは相当であること
(ア)障害の程度の診査が必要であると認めて厚生労働大臣が指定した
者は,指定日までに,指定日前1月以内に作成された障害の現状に関
する医師又は歯科医師の診断書を提出しなければならず(厚年法施行
規則51条の4第1項),障害の状態の程度については,指定日前1
月以内に作成された診断書に記載されたその時点における状況につい
て診査し,その結果,受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状
態に該当しなくなったときは,その障害の状態に該当しなくなった間,
支給が停止される(厚年法54条2項)。
この点,原告から,平成22年診断書の提出を受けた日本年金機構
は,同診断書の「傷病名」欄に「右下腿骨々折偽関節」との記載があ
ったことから,同診断書作成医師に対し,上記「右下腿骨々折偽関節」
が同年1月21日現症時点での状態か否かにつき照会し,同医師から,
同年5月13日,P3医師回答書を得た。そして,厚生労働大臣は,
上記平成22年診断書及びP3医師回答書を審査した結果,原告の
「障害の状態が年金を受給できる程度でなくなったため」として,原
告に対し,厚年法54条2項に基づき,障害厚生年金の支給を同年6
月から停止するとの本件処分をしたものであるから,同処分の適法性
を判断するに当たっては,平成22年診断書記載の平成22年1月2
1日現症時点で原告の障害が障害等級3級に該当するか否かを判断す
ることとなる。
なお,前提事実⑵ウのとおり,本件裁定は,障害等級3級7号に該
当することを理由とするものである。もっとも,7号所定の「長菅状
骨に偽関節を残し,運動機能に著しい障害を残すもの」とは,「大腿
骨に偽関節を残し,運動機能に著しい障害を残すもの」又は「脛骨に
偽関節を残し,運動機能に著しい障害を残すもの」のいずれかに該当
するものをいうところ,上記のとおり,原告について偽関節が残って
いるのは右腓骨であったのであるから,原告の障害は7号には該当し
なかったことになるが,他方において,14号に該当していたから,
本件裁定時における原告の障害の程度は障害等級3級に該当する程度
であり,本件裁定は適法であった。
(イ)また,障害給付は,一定の事由が生じた場合に請求権を有する者
の請求に基づいて行われるいわゆる授益処分であり,その給付を受け
ようとする者が自己に受給資格があることを証明する責任があるとい
うべきであるから,支給要件に係る事実の主張立証責任については,
これを争う原告にあると解するのが相当である。
支給要件に係る事実の主張立証責任は原告が負うことからすれば,
原告が提出した平成22年診断書及びこの記載では明らかではない部
分について調査したP3医師回答書に基づいて原告の障害の現状につ
いて判断したことは,適切な調査に基づくもので相当であり,何ら違
法はないというべきである。
イ6号該当性について
原告は,脛骨が変形し,腓骨が偽関節であるから,「関節可動域が制限
されている」などとして,原告の足関節は「関節の用を廃したもの」と
評価すべきである旨を主張する。
しかしながら,下肢の三大関節とは,股関節,膝関節及び足関節を指
すところ,平成22年診断書によれば,原告の膝関節及び股関節は正常
であると考えられる。その上,原告は,膝関節あるいは股関節が「用を
廃した」ことについて何ら具体的な主張をしていないし,甲号証を精査
してもそれを看取することはできないから,膝関節あるいは股関節が
「関節の用を廃した」と認めることはできない。
そうすると,足関節が「関節の用を廃したもの」に該当するとの原告
の主張によっても,1関節のみにしかすぎず,「二関節」ではないから,
6号の障害の状態である「一下肢の三大関節のうち,二関節の用を廃し
たもの」に該当しない。
ウ7号該当性について
P3医師回答書によると,原告の右腓骨が偽関節の状態であるところ,
腓骨も長管状骨の一つである。
しかしながら,障害認定基準においては,「長管状骨に偽関節を残し,
運動機能に著しい障害を残すもの」として,「偽関節は,骨幹部又は骨
幹端部に限る。」とした上で,「ア大腿骨に偽関節を残し,運動機能
に著しい障害を残すもの」,「イ脛骨に偽関節を残し,運動機能に著
しい障害を残すもの」と定めており,腓骨の偽関節については,7号に
該当するものとは認められていない。
これは,腓骨は脚の静的負荷の6分の1を担うにすぎず,6分の1程
度の支持性の減弱では一般平均人の通常の労働能力には支障を来さない
ことから,腓骨に偽関節が生じたとしても,「運動機能に著しい障害を
残す」とは考えられないことによるものである。
原告の障害は,偽関節が「右腓骨」に残っている状態であり,7号に
該当しないことは明らかである。
エ12号該当性について
原告の障害の状態が12号に該当するか否かを判断するに当たっては,
「一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」に該当するか否かを検討
することになるところ,「機能に相当程度の障害を残すもの」とは,障害
認定基準によれば,日常生活動作(下肢については,立ち上がる,歩く,
片足で立つ,階段を上る,階段を下りるの5項目)の多くが「一人で全
くできない場合」又は「一人でできるが非常に不自由な場合」をいうと
ころ,原告の日常生活動作の障害の状態については,平成22年診断書
「⑭日常生活動作の障害の程度」欄記載のとおり,日常生活動作5項目
のうち,「一人で全くできない場合」は一つもなく,「一人でできるが非
常に不自由な場合」は二つにすぎない。
また,原告のP2整形外科の診療録(甲37),原告のP4病院の整形
外科の診療録(甲44)及び各診断書(甲3,4,6,7)の記載内容
を踏まえても,原告の障害の状態は,「機能に相当程度の障害を残すもの」
とはいえないから,原告の障害の程度は12号に該当しない。
オ13号該当性について
(ア)そもそも,神経系統とは中枢神経(脳,脊髄),末梢神経(脳神経,
脊髄神経),自律神経(交感神経,副交感神経)を指すものであるから,
肢体の障害の認定は,障害認定基準第3第1章「第7節肢体の障害」
に示す認定要領に基づいて認定を行うものとされているところ,原告
の傷病は右下肢の障害であって「肢体の障害」であるから,「神経系統
の障害」である13号の対象となる傷病ではない。
(イ)その点をおくとして,仮に原告の状態を神経系統の障害の認定基
準に当てはめて検討したとしても,神経系統の障害においては,疼痛
は,原則として認定の対象とならないが,四肢その他の神経の損傷に
よって生じる灼熱痛,脳神経及び脊髄神経の外傷その他の原因による
神経痛,根性疼痛,悪性新生物に随伴する疼痛等の場合は,疼痛発作
の頻度,強さ,持続時間,疼痛の原因となる他覚的所見等により,軽
易な労働以外の労働に常に支障がある程度のものは,障害等級3級と
認定されるところ,以下に述べるとおり,平成22年1月21日現症
時における本件傷病による障害の状態において,原告の疼痛が上記の
神経障害性疼痛であることは客観的に明らかになっているとはいえな
い上,その当時,原告において,軽易な労働以外の労働に常に支障が
ある程度のものともいえないことから,原告の障害の状態は,障害等
級3級13号に該当しない。
(ウ)慢性疼痛は,炎症や組織損傷などに伴う侵害受容性慢性疼痛,神
経機能の変調に伴う神経障害性慢性疼痛及び心因性慢性疼痛に分類さ
れる。
疼痛は,原則として認定の対象とならないが,例外的認定対象とし
て,「神経の損傷によって生じる灼熱痛」,「神経の外傷その他の原因に
よる神経痛」,「根性疼痛」,「悪性新生物に随伴する疼痛」が挙げられ
ており,これらは,例示的列挙ではあるが,いずれも神経の損傷等,
神経そのものの障害による疼痛を指している。
すなわち,障害認定基準においては,これらと類似の神経そのもの
を原因とする疼痛のみを神経系統の障害による認定の対象とし,侵害
受容性疼痛及び心因性疼痛を神経の障害による認定の対象から除外し
ているのである。
侵害受容性疼痛及び心因性疼痛を認定の対象から除外する意義は,
そもそも疼痛は,必ずしも器質的な原因が明らかでない中で,その程
度を測るには患者本人の主観的な訴えによるところが大きく,これの
みをもって長期的な保険給付たる年金の支給の可否を認めることにつ
いて客観性及び公平性の確保が困難であるためであり,仮に,その疼
痛が別の原因によるものであれば,本来,当該原因そのものについて
判断されるべきであるからである。また,障害認定基準において,神
経障害性疼痛等の疼痛については,疼痛発作の頻度,強さ,持続時間,
疼痛の原因となる他覚的所見等によって判断し,軽易な労働以外の労
働に常に支障がある程度のものが障害等級3級と認定されるところ,
上記で述べたとおり,疼痛の程度の判断は専ら患者の訴えによるとこ
ろが大きいことから,その認定には他覚的所見をもって判断すべきと
ころである。
(エ)その上で,平成26年12月8日付けP5医師作成の意見書(甲
41。以下「P5意見書」という。)等を検討するに,同意見書には,
原告の疼痛が平成18年6月3日の受傷により惹起した神経障害性疼
痛であることは,受傷の部位,受傷の状態と現状のレントゲンや疼痛
の状態により診断できる旨記載されているところ,P5医師は,原告
が受傷により神経が切れたかどうかは「レントゲンじゃわからないで
すね。」,「痛みは(中略)主観的なものではあると思います,もちろん,
全て。」と証言しており,上記診断は,レントゲンなどの客観的な状態
で診断したものではなく,P5意見書の記載は,原告の愁訴に基づく
ものであることが明らかである。
(オ)また,平成21年10月頃から平成22年4月頃までの原告の障
害の状態と平成22年6月にP4病院麻酔科を受診するようになって
からの原告の障害の状態,すなわち,本件傷病の部位の痛みの強さは
明らかに異なる。
このことは,診療録の記載,原告に処方された鎮痛薬から明らかで
あるし,P5医師も証人尋問において,平成22年6月以降になると
急にそれまでできていた歩行などができなくなるのはどのようなこと
かとの被告代理人の質問に対し,「疼痛が増してきたんだと思いますけ
れども。」と述べ,原告の痛みは当初は軽く,徐々に増してきて処方薬
も強くなってきたのかとの被告代理人の質問に対し,「強度としては上
がってきたんだと思いますけれども」と述べ,原告の痛みが増強して
いる旨証言している。
これらのことに照らせば,医学的に見て原告の本件傷病部位の痛み
の強度に変化が生じていることは明らかである。
(カ)そして,平成22年診断書の「⑭日常生活動作の障害の程度」欄
の「3自覚症状・他覚所見及び検査所見」欄には,神経障害性疼痛
をうかがわせるような記載は何もない上,P5医師の意見書及び同人
の証言からも原告の疼痛が神経障害性疼痛のみであるとはうかがえな
い。
これらのことに照らせば,平成22年1月21日現症時における原
告の疼痛が神経障害性疼痛であると客観的に明らかになっているとは
いえず,原告に生じた疼痛について,神経障害性疼痛のみによるもの
として神経系統の認定基準による認定の対象とすることはできない。
(キ)以上述べたとおり,原告の疼痛については,神経系統の障害の認
定対象から外れるものであるが,仮に,同認定基準を当てはめた場合
について検討する。
神経系統の障害の認定基準においては,疼痛について,疼痛発作の
頻度,強さ,持続時間,疼痛の原因となる他覚的所見等により判断し,
「軽易な労働以外の労働に常に支障がある程度のもの」を障害等級3
級と認定すると取り扱う旨規定しているところ,平成22年診断書に
よれば,原告の疼痛による状態については「一日立ち仕事は困難。デ
スクワークは可能」とされており,これは,一般的な労働能力は残存
しているが,疼痛により時には労働に従事することができなくなり,
就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるものと判断されるも
のであって,軽易な労働以外の労働に「常に」支障があるということ
はできない。
すなわち,「軽易な労働以外の労働」とは,労働として本来想定され
る労働環境での労働(通常の勤務時間が可能な労働)であり,デスク
ワークも,通常の勤務時間での勤務が可能であれば,本来想定される
労働環境での労働に該当する。
障害認定基準は,厚年令別表第一に定められた「労働に著しく制限
があるか制限が加わるとき」について,これを医学的見地から見た場
合における具体的な状態を示す基準として認定基準を設けており,厚
年法においては,被用者の就業業態,すなわち専らデスクワークのみ
の業務であるか何らかの身体的運動を必要とする業務であるかによら
ず,その報酬に応じて同率の保険料を課している(厚年法81条)。す
なわち,保険制度においては同一の負担に対して行われる給付は同一
であるべきとするいわゆる給付と負担の公平性という原則があるとこ
ろ,給付を行う必要性があるか否かという点についても,従前の就労
内容によらず一般的な労働能力の減損をもって判断することとしてい
るものであるにもかかわらず,仮に,原告の主張のとおりデスクワー
クが軽易な労働に当たると解すれば,そもそも専らデスクワークのみ
の就業者に対し,デスクワーク以外の業務に就労することが困難であ
る程度の障害が生じた場合には,従前の就業に障害がなくても保険給
付を行われなければならないこととなるが,このような解釈が公平性
を欠くことは明らかである。
したがって,平成22年診断書の「一日立ち仕事は困難。デスクワ
ークは可能」との記述をもって,軽易な労働以外の労働に「常に」支
障があるとはいえない。
なお,P5医師の原告の障害の状態について,軽易な労働以外の労
働に「常に」支障があるとする意見書の記載や同様の証言は,飽くま
でも原告の愁訴に基づくものであることが明らかであり,平成22年
1月当時,原告の診察を直接していないP5医師意見書や同医師の証
言をもって,原告の平成22年1月当時の障害の状態が軽易な労働以
外の労働に常に支障がある状態であるということはできない。
また,原告の疼痛の強度は変化し,原告においては徐々に悪化して
きていることは,診療録や投薬の内容からも明らかであるから,P5
医師が診察した時点の状態の原告の愁訴をもって,原告の平成22年
1月22日現症時当時の障害の状態が同様であると認定することはで
きない。
したがって,仮に原告の疼痛が神経障害性疼痛のみであると仮定し
ても,平成22年1月21日現症時における原告の障害が,軽易な労
働以外の労働に「常に」支障があるとはいえないから,13号に該当
しない。
カ14号該当性について
傷病が治った状態とは,器質的欠損若しくは変形又は機能障害を残し
ている場合は,医学的に傷病が治ったとき,又は,その症状が安定し,
長期にわたってその疾病の固定性が認められ,医療効果が期待し得ない
状態で,かつ,残存する病状が自然経過により到達すると認められる最
終の状態(症状が固定)に達した状態をいうところ,原告の障害の状態
は,平成22年診断書の「⑱予後」欄において,「症状固定と考えます」
と記載されている上,P4病院の整形外科の診療録(甲44)の平成2
2年1月21日の欄に「本日にて症状固定」と記載されていることから
も本件傷病である右脛腓骨開放性粉砕骨折については,平成22年1月
21日時点において,症状が固定し,「治った状態」といえることは明ら
かである。
よって,平成22年1月21日現症時における本件傷病による原告の
障害の程度は,「傷病が治らないで」との要件を満たさず,14号に該当
しない。
⑵争点2(本件義務付けの訴えの適法性)について
(原告の主張の要旨)
ア本件義務付けの訴えは,非申請型義務付けの訴えであるところ,本件
処分が取り消され,平成22年6月から停止された障害年金の支給がさ
れるとしても,実際の支給までには時間がかかることや遅延利息がつか
ないことなどの不利益がある。
これらの点については,障害年金の支給を受けられず,しかも生活に
必要な仕事に就くことができず,これによって生活に困窮している原告
にとっては,大きな不利益である。一刻も早く,年金の受給を受け,損
害の拡大を避けるためは,他の方法がないといえる。
よって,本件義務付けの訴えは,「その損害を避けるため他に適当な方
法がない」のであって「一定の処分がされないことにより重大な損害を
生ずるおそれがあり,かつ,その損害を避けるために他に適当な方法が
ないとき」(行政事件訴訟法37条の2第1項)の要件を充足している。
イ原告は,平成22年7月15日に本件処分を受け,平成22年6月1
日以降に支払われるべき年金の支給が停止されたが,本件処分は取り消
されるべきである。原告が支給を受けるべき平成22年6月1日から平
成25年7月5日までに支払われるべき年金総額は,年金年額103万
1400円の3年と35日分である金319万3101円である。
(被告の主張の要旨)
ア行政事件訴訟法が定める義務付けの訴えは,行政庁が一定の処分をす
べき旨を命ずることを求めるものであり(同法3条6項1号),ここでい
う処分とは,「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(同法3
条2項)であり,行政庁の処分とは,「行政庁の法令に基づく行為のすべ
てを意味するものではなく,公権力の主体たる国または公共団体が行う
行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成しまたはそ
の範囲を確定することが法律上認められているものをいう」(最高裁昭和
39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁)。
しかるに,原告が本件義務付けの訴えにおいて求める行為は,本件処
分により支給されなかった平成22年6月分から,訴えの変更を申し立
てた平成25年7月5日までの障害厚生年金相当額と,これに対する同
月6日から支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金の支払である
ところ,厚年法において,原告に遅延利息を支給する旨の規定は何ら設
けられておらず,原告が請求の趣旨第2項で求める前記行為は,行政庁
の法令に基づく行為ではなく,単に金銭の支給を求めているにすぎない
から,行政事件訴訟法3条6項1号所定の「処分」に当たらない。
よって,本件義務付けの訴えは,この点において,訴訟要件を欠く。
イまた,原告は,障害厚生年金相当額の速やかな支給のためには,「他に
適当な方法がない」から,非申請型の義務付けの訴えによるしかない旨
を主張するようであるが,取消訴訟の場合と比較して非申請型の義務付
けの訴えの場合の方が早く支給されるとは限らず,原告の上記主張は理
由がない。
ウ以上のとおり,本件義務付けの訴えは,訴訟要件を欠き,不適法であ
るから,却下されるべきである。
第3当裁判所の判断
1争点1について
⑴厚生労働大臣は,障害認定基準に従って各障害等級に係る障害の程度の
認定を行っているところ,障害認定基準は,かかる認定の審査事務を統一
的かつ公平に行うため,専門家により構成された専門家会合における最新
の医学的知見に基づく意見,指摘等を踏まえて作成されたものであること
(乙11)からすると,合理的なものと考えられるから,特段の事情がな
い限り,障害認定基準に従って障害の程度の認定を行うのが相当である。
そして,厚年法施行規則51条の4第1項は,障害の程度の診査が必要
であると認めて厚生労働大臣が指定したものは,指定日までに,指定日前
1月以内に作成された障害の現状に関する医師又は歯科医師の診断書を提
出しなければならない旨を定め,また,障害認定基準は,認定の方法とし
て,障害の程度の認定は,診断書等の添付資料により行うが,提出された
診断書等のみでは認定が困難な場合等には,所要の調査等を実施するなど
して認定を行うなどとしているところ,厚年法47条が,障害厚生年金は,
被保険者等が,一定の要件を満たした上で,障害認定において,その傷病
により障害等級に該当する程度の障害の状態にある場合に,その者に支給
する旨を定め,同法54条2項本文が,障害厚生年金は,受給権者が障害
等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなったときは,その障害の
状態に該当しない間,その支給を停止する旨を定め,同法上,裁定又は支
給停止に係る認定,判断の方法に関する具体的な規定が見当たらない一方,
同法96条,97条等が,厚生労働大臣等は,必要があると認めるときは,
年金たる保険給付の受給権者に対し,その者の障害の状態,支給の停止等
に係る事項に関する書類等を提出すべきことその他の調査,資料の提出等
を求めることができる旨を定めていることなどに照らすと,上記の厚年法
施行規則の規定は,専門的知見を有する医師等が作成した診断書には,一
般に,客観性と信用性があるといえることから,これを提出させることに
より,裁定又は支給停止に係る認定,判断の客観性を担保するとともに,
その認定,判断を画一的かつ公平なものとするために規定されたものとい
うべきであって,少なくとも,裁判所が,支給を停止する処分の違法性を
判断するに当たり,診断書の他に障害の程度を判断するために合理的な資
料が得られる場合にこれを含めて判断することを妨げるものではないとい
うべきである。
ところで,厚年法36条2項は,年金の支給を停止すべき事由が生じた
ときは,その事由の生じた月の翌月から支給しない旨を規定しているとこ
ろ,本件処分は,平成22年6月から年金の支給を停止するというもので
あるから,本件処分の適法性を判断するに当たっては,その前月である5
月に「その事由が生じた」といえるか否かが問題となる。そこで,以下に
おいては,平成22年5月当時,原告の障害の程度が障害等級3級に該当
しなくなったといえるか否かについて,本件処分に際して原告から提出さ
れた平成22年診断書及び同診断書に基づき照会した結果であるP3医師
回答書に加え,本件各証拠を踏まえて,検討することとする。
⑵前記前提事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認め
られる。
ア通院,治療の状況等
(ア)原告は,平成18年6月3日,P6株式会社(以下「本件会社」
という。)の従業員として,東京都千代田区内の建設工事現場に派遣
され,同所において,鳶工として作業中,足場から転落したことによ
り,右足首を強打し,右脛腓骨開放性粉砕骨折の傷害(本件傷病)を
負い,P1病院において観血的手術を受け,同日から同年7月14日
まで同病院に入院した(前提事実ア,乙1,17)。
(イ)原告は,平成18年7月14日,自宅に近いP7病院に転院し,
手術を受け,同年9月3日,退院した(甲16〔4頁〕)。
(ウ)原告は,平成18年9月4日から平成22年1月21日まで,P
2整形外科に通院し,リハビリテーションを受けた(甲37)。
(エ)原告は,平成18年12月27日以後,P4病院の整形外科,麻
酔科及び脳神経外科に通院した(甲44,45,49,51,53,
54,57)。
(オ)原告は,平成21年3月1日から同月24日まで,プレート抜去
術を受ける準備等をするためP1病院に通院した。
(カ)原告は,平成21年3月24日,P4病院に入院し,同月25日,
プレート抜去術を受け,同年4月4日,退院した(甲16〔5頁〕,
甲44,47)。
(キ)原告は,平成22年6月1日,同病院の麻酔科において腰部硬膜
外ブロックの処置を受けた(甲45,53)。
(ク)原告は,平成25年6月18日,P4病院に入院し,同月19日,
同病院の形成外科において,「右下肢慢性疼痛,神経痛」の治療,症
状改善のため,断端神経腫切除術,神経切断術を受けた。同術は,皮
膚を切開し,断端神経腫を認めた場合,切除して断端を筋肉・軟部組
織に埋移入し,疼痛領域の中枢側皮神経を探索し,切断するものであ
る。(甲20,57)
(ケ)原告は,平成25年10月7日,脊髄刺激発生装置植込術のため
P4病院に入院し,同月8日及び15日,同病院の脳神経外科におい
て,同術を受け,同月28日に退院した。同術は,脊髄刺激電極留意
後の試験刺激で効果を確認し,全身麻酔下に下腹部皮下に刺激発生装
置を埋め込み,脊髄刺激電極と結線し刺激を開始するというものであ
り,原告は,同術を受けた後,脊髄刺激療法(脊髄に微弱な電気流す
ことにより,痛みをやわらげる治療)を開始した。(甲22,23,
25,26,28,48,49,54)。
イ診断書等
後掲の証拠によれば,原告に対する診断書等に,次のとおりの記載が
ある。
(ア)平成20年診断書(乙2)
⑧「平成18年6月3日,就労中受傷→P1病院で手術施行。平成
18年7月14日~9月3日までP7病院に入院。平成18年9月4
日,リハビリ目的にて当院外来へ紹介来院。X線で仮骨形成はほとん
ど見られない。」
⑨「当院外来でリハビリを行い,フォローアップはP7病院からP
4病院へと変更になった。セークスを行い,徐々にではあるが,仮骨
形成が見られ,平成20年6月に腓骨のK-ワイヤーは抜去。骨は
未。」
「⑲日常生活動作の障害の程度」欄に,「歩く(屋内)」につき「○
△(一人でできてもやや不自由)」,「歩く(屋外)」につき「△×(一
人でできるが非常に不自由)」,「㉒現症時の日常生活活動能力及び労働
能力」欄に,「階段昇降以外の屋内移動は支障はないが,屋外での移動
歩行は約10分程度で創部に痛みが出現する。デスクワークであれば
可能か。」
(イ)平成22年診断書(乙6)
「障害の状態(平成22年1月21日現症)」
「④最近一年間の治療の内容,期間,経過,その他参考となる事項」
欄に,「平成21年3月25日,他医においてプレート抜去術を行った。
その後,当院外来でリハビリ行うも右下腿痛,右足関節痛は残存し,
10分間続けて立っていられない。長時間の歩行で痛みが増強する等
の症状が残存。また,下腿骨と距骨の適合性が悪く将来的に変形性関
節症をきたす可能性あり。」
「⑭日常生活動作の障害の程度」欄に,「片足で立つ(右)」,「歩く
(屋内)」につき「○△(一人でできてもやや不自由)」,「歩く(屋外)」
につき「○×(一人でできるが非常に不自由)」,「立ち上がる」につき
「イ支持があればできるがやや不自由」,「階段を登る」につき「イ
手すりがあればできるがやや不自由」,「階段を降りる」につき「ウ
手すりがあればできるが非常に不自由」,「平衡機能」の「開眼での
起立・立位保持の状態」につき「ア可能である」,同「開眼での直線
の10m歩行の状態」につき「アまっすぐ歩き通す」
「⑰現症時の日常生活活動能力及び労働能力」欄に,「15分程度の
屋外歩行で疼痛が出現する為,一日立ち仕事は困難,デスクワークは
可能。」
(ウ)P3医師回答書(乙7)
「平成22年1月21日現症時点で偽関節の状態である。(右腓
骨)」
(エ)平成22年10月26日付けP4病院P8医師作成の診断書(甲
4)
病名右下肢神経障害性疼痛
付記H18/6/3に作業中受傷し,以後傷が治癒しても疼痛が遷延し
た。消炎鎮痛薬等整形外科での鎮痛治療に反応なく当科紹介と
なった。
消炎鎮痛薬での鎮痛効果がみられないこと,疼痛が長期にわ
たり遷延していることなどから,上記診断を疑い,鎮痛補助薬
としての○を使用したところ疼痛の軽減がみられた。このこと
から上記診断を確定診断としてよいと考える。
しかし,締め付けられるところが腫れるという訴えが出て,
○の副作用を疑い,同様の作用機序をもつメキシレチンと,C
aチャネルの抑制効果を持つガバペンチンに変更し良好な疼痛
管理が行なえている。
現状では,メキシレチン,ガバペンチンともに一般的な神経
障害性疼痛を保険適応とはしていないが,世界疼痛学会等の治
療方針においても妥当な治療方針とされており,治療効果から
見ても上記診断は適切と考える。
(オ)平成23年11月29日付けP8医師作成の診断書(甲3)
病名右下肢外傷後神経障害性疼痛
付記H18/6/3に作業中受傷し,以後傷が治癒しても疼痛が遷延し
た。整形外科での疼痛治療に反応無く当科紹介となった。
神経障害性疼痛として鎮痛補助薬による治療を行ったが,徐
々に鎮痛効果が弱くなり現在は○を導入して疼痛管理を試みて
いる。
痛みが強い為現在では極軽い労働しか出来ない状態である。
(カ)平成24年6月19日付けP8医師作成の診断書(甲6)
病名右下腿外傷後混合性疼痛
付記下腿外傷後遷延疼痛で2010年6月1日に整形外科より当
科紹介となった患者さんです。神経障害性疼痛として治療を行
いましたが,効果は不十分で○を導入しています。
疼痛の原因としては,○の効果があること,ガバペンチン,
SNRIにより○の量を副作用を抑えられる範囲にとどめられ
ていることから,偽関節による侵害受容性疼痛とそれに誘発さ
れた神経障害性疼痛による混合性疼痛であると診断します。症
状に関しては,約半年の間薬の量が安定しています。
疼痛の程度は現在日常生活に支障はないが,軽度な労働以上
は不可能と診断します。
(キ)平成24年6月19日付けP4病院P9医師作成の診断書(甲7)
病名右下腿両骨開放骨折
付記平成18年6月4日,上記受傷。
上記にて脛骨は変形治癒となり,腓骨は偽関節を有している。
5分程度の歩行,立位で腓骨偽関節部の疼痛が出現する。
内側は挫滅による神経障害があり,麻酔科にてPainコン
トロールを行っている。
そのため,軽労作,デスクワークなどは可能と思われるが,
重労働は不能と考えます。
(ク)平成24年10月9日付けP9医師作成の診断書(甲11)
病名右下腿両骨開放骨折後遺症
付記右脛骨は外反変形(6.7度)しており,腓骨は14.1度
の外反変形がある。
腓骨は骨癒合を得られておらず偽関節を呈している。
関節可動域は右足関節背屈は自動5度他動17度と制限さ
れており,底屈も同様に自動45度他動50度と関節可動域
制限を認める。
下腿疼痛のためデスクワーク以上の労務は不能と認めます。
今後,右足関節は変形性関節症に移行する可能性が高いこと
が予想される。
(ケ)平成25年5月21日付けP9医師作成の診断書(甲19)
病名右下腿開放骨折術後腓骨偽関節,右下腿末梢神経断裂
付記下腿両骨開放骨折に伴い,神経損傷もあり。
現在,保存加療中であるが,腓骨は偽関節を呈している。
右下腿に激痛が残存しており,同部疼痛は受傷時の神経損傷
によるものと考えている。
今後,右足関節は変形関節症に移行する可能性が高いことを
認めます。
(コ)平成25年11月1日付けP5医師作成の診断書(甲22)
病名末梢神経障害性疼痛
付記右下腿の末梢神経障害性疼痛の軽減をはかるため,断端神経
腫と思われる組織の切除等の手術が行われたが,症状改善しな
いため,平成25年10月8日および同年10月15日に,脊
髄刺激電極および刺激装置の埋込術を行ない脊髄刺激療法を開
始している。
(サ)平成26年1月20日付けP5医師作成の診断書(甲29)
病名複合性局所疼痛症候群。神経障害性疼痛。
付記平成18年6月就労中に発生した事故により右下腿骨骨折を
生じ,その後,骨折部の偽関節および同部位の神経断裂等を原
因とした難治性の疼痛が持続している。この疼痛は,持続的な
痛みに加えて,右下肢を床につけたり体重の荷重により激痛と
なる。このため軽易な労働以外の労働に常に支障がある。
疼痛軽減のため平成25年10月より脊髄刺激療法を開始し
ている。本療法は本例のような神経障害性難治性疼痛に対し適
応がある。
(シ)平成26年10月16日付けP3医師の回答書(甲40の1及び
2)
初診時(平成18年9月4日)から,平成22年10月14日まで
の間,症状(右下肢痛,右足関節痛)は持続していた旨の記載がある。
(ス)P5意見書(甲41)
「P10さんの診断については,(中略)事故による右下腿骨骨折
により,神経断裂等を原因とした難治性の疼痛が現在まで持続してい
る。その疼痛は,持続的な痛みに加えて右下肢を床につけたり体重の
荷重により激痛がある。このため軽易な労働以外の労働に常に支障が
あると評価できることは,間違いないところである。」,「この点は,
P10さんに対する痛み軽減のための脊髄刺激療法を行わなければ,
家庭での生活すら疼痛(激痛)によってできないことからもわかる。」
「P10さんの疼痛は,平成18年6月3日の受傷により惹起した
神経障害性疼痛であることは明らかである。このことは,受傷の部位,
受傷の状態と,現状のレントゲンや疼痛の状態(灼熱痛,根疼痛等が
ある)より診断できる。」,「疼痛の状態とは,発作の頻度・持続性
(常時持続してある),強さ(痛みの軽減措置をとらなければ麻酔の
投与が不可避であるほど強い),疼痛の原因となる他覚所見(手術に
より一定の軽減が見られること。)などであり,明かな神経障害性疼
痛である。」
「P10さんの疼痛は,主に神経障害性疼痛であり,これ自体で
『軽易の労働以外には支障』がある状態にある。」
「私の手術は,P10さんの神経障害性疼痛の治療に効果を有する
ものであり,それ自体の疼痛が家庭での日常生活に支障があるだけで
なく,『軽易な労働以外の労働に常に支障がある』状態だからこそ,
この手術を行って,疼痛の軽減を図るものである。今後も,体内に入
れた器具の状態を見ながら,必要に応じてさらに疼痛軽減の為の治療
や手術を行っていかなければならないと考えている。」
ウ診療録
後掲の証拠によれば,各診療録において,それぞれの日付の欄等に,
次のとおりの記載がある。
(ア)P2整形外科の診療録(甲37)
平成19年3月1日「下腿内側さわるだけで痛い」
平成19年7月18日「疼痛悪化」
平成19年10月17日「足底接地にて疼痛+」「歩行時痛軽減」
平成21年2月7日「創部疼痛は変わらない」
平成21年2月17日「疼痛存続」
平成21年5月21日「他動踵授動術疼痛の著明改善」
平成21年8月19日「左股関節痛(+)20分くらい歩くと」
平成21年10月14日「痛覚過敏(+)」
平成22年1月8日「10分間続けて立ってられない」
平成22年1月16日「自覚:仕事スタートのための通勤で40分,
25分電車,15分歩きで疼痛+」
平成22年5月11日「創部ソフトタッチで疼痛」
平成22年5月26日「右足関節痛(+),疼痛(+),再び疼痛
増加」
(イ)P4病院整形外科の診療録(甲44)
平成21年3月31日「慢性疼痛」
平成22年3月16日,同年4月20日「週に4日出勤している」
他科依頼票(起票日が平成22年6月1日)の「依頼内容」欄
「下腿遠位内側の痛みが続いており,貴科受診希望しております。」
他科依頼返信(返信日が平成22年6月1日,担当氏名がP8)の
「返信内容」欄「末梢神経障害によるアロディニアを主体としたC
RPSが疑われる状態と考えます。硬膜外ブロックと鎮痛補助薬で治
療していきたいと考えます。ご紹介有難うございました。」
エ疼痛について
疼痛が長時間持続する場合は慢性疼痛と呼ばれ,一般に,6か月以上
に及ぶ疼痛をいう。慢性疼痛は,炎症や組織損壊などを伴う侵害受容性
慢性疼痛,神経機能の変調に伴う神経障害性疼痛及び心因性疼痛に分類
される。(甲43,乙22)
神経障害性疼痛は,痛覚受容器の刺激ではなく,末梢神経系若しくは
中枢神経系における損傷又は機能障害に起因する。診断は,組織損傷と
不釣り合いな疼痛,異常感覚(例,灼熱痛,刺痛),神経学的診療で検
出された神経損傷の徴候から示唆される。(甲42)
侵害受容性疼痛は,炎症や組織損傷により生じた発症物質が,侵害受
容器を興奮させることによって生じる鈍い痛み又は鋭い痛みである。疼
痛は軽度なものから重度まで様々な度合いがあり,患者により異なる。
この種の疼痛は,通常,痛みの原因となる患部が完治し,痛みがなくな
るか,医学的治療がされればコントロールされる。侵害受容性疼痛は,
捻挫したときなどに生じる一時的症状であるが,慢性疼痛となることが
あり,がん性疼痛や関節炎痛は,典型的な侵害受容性慢性疼痛である。
(甲43,乙22)
⑶ア原告は,原告の障害について,神経障害性疼痛であると主張するので,
まず,13号に該当するか否かについて検討するに,障害認定基準は,
13号に関する神経系統の障害の認定基準として,疼痛は,原則として
認定の対象とならないが,四肢その他の神経の損傷によって生じる灼熱
痛,脳神経及び脊髄神経の外傷その他の原因による神経痛,根性疼痛,
悪性新生物に随伴する疼痛等の場合において,疼痛発作の頻度,強さ,
持続時間,疼痛の原因となる他覚的所見等により,軽易な労働以外の労
働に常に支障がある程度のものは,障害等級3級と認定するとしている。
このように,障害認定基準が,疼痛は原則として認定の対象とならな
いとした上で,例外的に認容することができる疼痛として,神経の損傷
によって生じる灼熱痛,脳神経及び脊髄神経の外傷その他の原因による
神経痛,根性疼痛,悪性新生物に随伴する疼痛を列挙し,「神経系統の
障害」として疼痛に関する基準を示していることに加え,疼痛は,必ず
しも器質的な原因が明らかではなく,侵害受容性疼痛や心因性疼痛など,
その疼痛が別の原因である場合には,その原因となる傷病自体について
判断されるべきであるといえることにも照らすと,上記の障害認定基準
は,主として神経障害性疼痛(神経機能の変調を伴うもの)をその対象
としているものということができる。
なお,被告は,原告の傷病は右下肢の障害であって「肢体の障害」で
あるから,「神経系統の障害」である13号の対象となる傷病ではない
旨の主張をするが,上記の障害認定基準によれば,およそ「四肢」の神
経の損傷による障害を神経系統の障害から除くべきものとは解されない
から,原告の本件傷病が右下肢に存するものであるということをもって,
直ちに神経系統の障害として13号の該当性が排除されるものでないこ
とは明らかである。
イ(ア)前記前提事実,前記⑵イのとおりの各診断書等及び前記⑵ウのと
おりの各診療録の記載から,原告が本件傷病を受傷して以降,疼痛の
治療を継続しており,本件傷病に関し慢性的な疼痛を有していたこと
は明らかである。
(イ)そして,前記⑵イ(ケ),(サ),(ス)のとおり,原告は,平成25
年5月21日付け診断書(甲19)において,P9医師により「右下
腿に激痛が残存しており,同部疼痛は受傷時の神経損傷によるものと
考えている」とされ,平成26年1月20日付け診断書(甲29)に
おいて,P5医師により,本件傷病の受傷後,「骨折部の偽関節およ
び同部位の神経断裂等を原因とした難治性の疼痛が持続している」と
され,P5意見書(甲41)においても,「事故による右下腿骨骨折
により,神経断裂等を原因とした難治性の疼痛が現在まで持続してい
る」とされているなど,いずれも,本件傷病の受傷時の神経損傷又は
神経断裂を原因として疼痛が生じていると診断されていること,前記
⑵ア(ク)のとおり,原告は,平成25年6月19日,P4病院形成外
科において,断端神経腫切除術,神経切断術を受けているところ,P
5医師の証言によれば,同術によって神経鞘腫を取っているというこ
とは,そこが断端で切れていたということにほかならないとされてい
ること(P5証人〔証人調書30,31頁〕),原告の本件傷病の受
傷以外に上記のような神経損傷又は神経断裂を生じさせる原因がある
ことはうかがわれないことを併せ考えると,原告においては,本件傷
病の受傷を原因として,神経損傷又は神経断裂が生じていたと認める
ことができる。
そして,前記⑵ウ(ア)のとおり,P2整形外科の診療録において,
平成19年3月1日に「下腿内側さわるだけで痛い」,平成22年5
月11日に「創部ソフトタッチで疼痛」の記載があるところ,診療録
は,患者が診察時点における自身の状態を正直に医師に告げたものが
その都度記録されていると考えるのが自然であるから,上記の各時点
において,原告は,軽く触れるだけで疼痛が生じる状態にあったと認
められる。
さらに,前記⑵イ(エ),(オ),(ケ),(コ),(サ)のとおり,平成2
2年10月26日付け,平成23年11月29日付け,平成25年5
月21日付け,同年11月1日付け及び平成26年1月20日付けの
各診断書において,原告の疼痛が神経障害性のものである旨の診断が
されており,そのうち,平成22年10月26日付けの診断書におい
ては,「消炎鎮痛薬での鎮痛効果がみられないこと,疼痛が長期にわ
たり遷延していることなどから,上記診断を疑い,鎮痛補助薬として
の○を使用したところ疼痛の軽減がみられた。このことから上記診断
を確定診断としてよいと考える。」とされ,平成25年5月21日付
けの診断書においても,「右下腿に激痛が残存しており,同部疼痛は
受傷時の神経損傷によるものと考えている。」とされており,それぞ
れ原告の疼痛が神経障害性であると診断した理由が記載されている。
以上によれば,①原告において,本件傷病の受傷を原因として神経
損傷又は神経断裂が生じており,②平成19年3月1日及び平成22
年5月11日の各時点において,原告の右下肢は,軽く触れただけで
疼痛が生じるような状況にあったところ,P5医師の証言によれば,
そのような疼痛は神経障害性であるとされており(P5証人〔証人調
書12,30頁〕),③平成22年10月26日から平成26年1月
20日付けで作成された各診断書において,各医師により,原告の疼
痛が神経障害性であると診断されていることになる。
(ウ)これらに加え,前記⑵ア(ケ)のとおり,原告は,平成25年10
月に脊髄刺激療法を開始しているところ,証拠(甲25,29,41,
48,P5証人)によれば,脊髄刺激療法は,神経障害性疼痛に効果
があるとされており,原告には,同療法の効果があったということも
認められること,前記⑵イ(ス)のとおり,P5意見書において,受傷
の部位,受傷の状態,疼痛の状態,強さ,脊髄刺激療法により痛みが
軽減していることなどの理由を挙げて原告の疼痛が神経障害性疼痛で
あるとされていることなども併せ考慮すれば,原告は,本件傷病の受
傷を原因として神経損傷又は神経断裂を生じ,これにより現在に至る
まで疼痛を生じたものであり,この疼痛は,神経障害性疼痛であると
認めるのが相当である。
なお,原告を診断した各医師は,原告の訴えをもとに診療録に記録
し,診断書を作成したと思われるものの,前記⑵ア,ウのとおり,原
告は,本件傷病の受傷後,一貫して疼痛に対する治療を継続し,平成
22年6月1日には,腰部硬膜外ブロックの処置,平成25年6月1
9日には,断端神経腫切除術,神経切断術を受け,同年10月には,
脊髄刺激発生装置植込術まで受け,以後脊髄刺激療法を開始している
ことをみると,原告は,疼痛の改善のため真摯に治療を受けていたと
推認することができ,医師に対し自覚する症状をそのまま伝えていた
と認めるのが相当であって,各医師が記録した診療録や作成した診断
書等は,信用性が高いものというべきである。
ウ(ア)これに対し,被告は,P5意見書には,原告の疼痛が神経障害性
疼痛であることの理由として「現状のレントゲン」を挙げている一方
で,P5医師は,原告が受傷により神経が切れたかどうかは「レント
ゲンじゃわからないですね。」,「痛みは(中略)主観的なものではある
と思います,もちろん,全て。」と証言していることをもって,P5意
見書の診断は,レントゲンなどの客観的な状態で診断したものではな
く,原告の愁訴に基づくものであることが明らかである旨を主張する。
しかしながら,P5医師は,前記イ(ウ)のとおり,P5意見書にお
いて,受傷の部位,受傷の状態,疼痛の状態,強さ,脊髄刺激療法に
より痛みが軽減していることといった根拠をもとに判断していると述
べているのであって,これが原告の単なる愁訴に基づく診断として排
斥すべきものといえないことは明らかである。
(イ)また,被告は,平成21年10月頃から平成22年4月頃までの
原告の障害の状態と平成22年6月にP4病院麻酔科を受診するよう
になってからの原告の本件傷病の部位の痛みの強さが明らかに異なる
とし,このことは,診療録の記載,原告に処方された鎮痛薬から明ら
かであり,P5医師も原告の痛みが増強している旨証言している旨を
主張する。
この点,証拠(甲44,45,53,P5証人)によれば,平成2
3年11月15日には,オピオイド系の「○」が処方されるなど,平
成23年頃から強い薬が処方されていることが認められるところ,こ
のことについて,P5医師は,「疼痛の悪化も考えられますし,もちろ
んそれまで疼痛のコントロールが不十分だったということで薬を変え
たんじゃないかと思います。」と証言している(P5証人〔証人調書1
4頁〕)ことに照らすと,上記のように処方された薬が強くなったこと
から,直ちに疼痛が悪化したと認めることは相当ではないというべき
である。
また,前記⑵ウ(ア)のとおり,P2整形外科の診療録には,平成1
9年3月1日「下腿内側さわるだけで痛い」,平成21年2月7日
「創部疼痛は変わらない」,平成21年10月14日「痛覚過敏(+)」,
平成22年5月11日「創部ソフトタッチで疼痛」などの原告の疼痛
に関する記載があることなどからすると,診療録の記載から原告の疼
痛が平成22年6月以降悪化したことを直ちに読み取ることも困難で
ある。
そして,被告は,P5医師が原告の痛みが増強している旨証言して
いる点として,P5医師は,平成22年6月以降になると急にそれま
でできていた歩行などができなくなるのはどのようなことかとの被告
代理人の質問に対し,①「疼痛が増してきたんだと思いますけれども。」
と述べ,原告の痛みは当初は軽く,徐々に増してきて処方薬も強くな
ってきたのかとの被告代理人の質問に対し,②「強度としては上がっ
てきたんだと思いますけれども」と証言していることを指摘する(P
5証人〔証人調書18,20頁〕)。
しかしながら,P5医師は,いずれも,原告の疼痛が悪化したかど
うかを質問されて証言したのではなく,原告代理人が診療録(甲37)
の一部を示すなどして,それまでできていた歩行などができなくなっ
たということを前提にしてその理由を聞く質問に対し,上記①のとお
り証言し,また,原告代理人がカルテの状況からすれば,徐々に痛み
が増してきて,だんだんと薬も強くしてコントロールできなくなった
と思われるが,いかがですかと質問したのに対し,上記②のとおり証
言しているにすぎないのであって,原告の痛みが増強してきたと明確
に証言しているわけではない。
むしろ,P5医師は,被告代理人からの「先ほどから先生は,先生
が診られたときと,受傷時から変わってないというのがご認識なんで
すよね。」という質問に対し,「そうですね。」と証言し(P5証人〔証
人調書19頁〕),原告の症状について,「多少の変動はあるとは思い
ますが,(中略)ああいう疼痛はそんなに急激に変わるわけがないと
いうのは,経験から思います。」(P5証人〔証人調書15頁〕)と
証言しているのであって,P5医師の証言から,原告の疼痛が増強し
てきたと認めることは困難である(もっとも,P5医師は,一般論と
して,神経が切れた場合,痛みが増強してくることはよくあることで
ある旨を証言している。)。
これらに加えて,P5医師が「神経が切れたときの疼痛の性質は変
わっていない,強さの程度の差はあったかと思いますけれども。」(P
5証人〔証人調書19頁〕),「神経障害を思わせるような疼痛は変わっ
てないと思います。ただ,強度は変わってきたんだと思いますね。」
(P5証人〔証人調書28,29頁〕)と証言していることを併せ考え
ると,被告の指摘するところによっても,本件傷病の受傷時から有し
ていた神経障害性疼痛が悪化した可能性があるということが認められ
るにすぎず,原告の疼痛が神経障害性疼痛であることが否定されるも
のではないというべきである。
エ次に,原告の本件傷病に基づく神経障害性疼痛の程度が「軽易な労働
以外の労働に常に支障がある程度のもの」といえるか否かについて検討
する。
(ア)証拠(甲16,33,34,原告本人)及び弁論の全趣旨によれ
ば,原告が勤務していたときの状況につき,次のとおりの事実が認め
られる。
a原告は,本件傷病の受傷後,治療等のため本件会社の勤務を休ん
でいたが,その後,平成22年1月21日から平成25年6月まで,
千葉県船橋市に所在する本件会社の倉庫(資材センター)に勤務し
ていた。
b上記資材センターにおける原告の業務の内容は,倉庫に1人で常
駐し,倉庫内に置かれている溶接工具等を,資材センターに所属し
ている運転手が持ち出したときに,その個数を確認してパソコンに
入力し,溶接工具等が不足した場合,その分の発注をするため業者
に電話をし,1ないし2週間に1度程度,業者が品物を運んできた
ときに,その置く場所を指示し,伝票を受け取り,整理をするとい
うものであった。
c原告は,週に4日から6日勤務し,体調不良や痛みが激しい時は
休みをとっていた。そして,原告は,午前8時45分から9時30
分の間に出勤し,午後5時まで倉庫にいたものの,そのうちの大半
の時間は何もしないか休憩をしていた。
d原告が上記のとおりの勤務をすることになったのは,本件傷病の
受傷後,本件会社に頼み込み,何とか体の負担がないところで仕事
をさせてもらえるように願い出たことによるものである。
(イ)上記(ア)の原告の業務内容に照らすと,その労働は,「軽易な労
働以外の労働」に該当しないものであることが明らかである。そして,
原告が上記の勤務を開始した経緯や,その業務の内容が約3年半もの
間変わらなかったことにも照らすと,上記の業務の内容は,原告の労
働能力を反映したものとみることが可能である。
(ウ)そして,前記のとおり,原告は,疼痛のための治療を継続し,平
成22年6月1日には,腰部硬膜外ブロックの処置,平成25年6月
19日には,断端神経腫切除術,神経切断術を受け,同年10月には,
脊髄刺激発生装置植込術まで受け,以後脊髄刺激療法を開始している
ことや,前記⑵ウ(ア)のとおり,P2整形外科の診療録において,平
成19年3月1日に「下腿内側さわるだけで痛い」,平成22年5月
11日に「創部ソフトタッチで疼痛」などの記載があり,その当時,
軽く触れるだけで疼痛が生じていたと認められることのほか,前記⑵
で認定した診療経過等をみると,原告には,本件傷病の受傷後,継続
して相当程度の疼痛があったと推認することができ,また,平成22
年6月1日に腰部硬膜外ブロックの処置をしていることも,同年5月
当時,原告が相当程度の疼痛に悩まされていたことを客観的に裏付け
るものということができる。
(エ)また,前記⑵イ(オ),(カ),(キ),(ク)のとおり,平成23年1
1月29日付けP8医師作成の診断書において,「痛みが強い為現在
では極軽い労働しか出来ない状態である。」,平成24年6月19日
付けP8医師作成の診断書において,「疼痛の程度は現在日常生活に
支障はないが,軽度な労働以上は不可能と診断します。」,平成24
年6月19日付けP9医師作成の診断書において「軽労作,デスクワ
ークなどは可能と思われるが,重労働は不能と考えます。」,平成2
4年10月9日付けP9医師作成の診断書において,「下腿疼痛のた
めデスクワーク以上の労務は不能と認めます。」とされていること,
前記⑵イ(ス)のとおり,P5意見書において,「持続的な痛みに加え
て右下肢を床につけたり体重の荷重により激痛がある。このため軽易
な労働以外の労働に常に支障があると評価できることは,間違いない
ところである。」とされ,また,P5医師は,「四六時中激しい疼痛
が続いているということで,動いても痛いし,同じ姿勢を取っても痛
がるということで,まず,作業ができても軽いものであろうというこ
とですね。」との証言をしているところ(P5証人〔証人調書5
頁〕),各医師の診断は,原告の訴えを基礎にしていると考えられる
ことを踏まえても,前記⑶イ(ウ)で述べたとおり,その信用性は高い
ものというべきであり,各医師が,その当時の原告の疼痛の程度を推
し量った上で,原告の労働能力について評価しているものというべき
である。また,これらの診断の時期は,平成23年11月29日以降
のものではあるが,前記⑶ウ(イ)で検討したとおり,本件傷病の受傷
後,神経障害性疼痛が次第に増強してきた可能性があるものの,前記
⑵イ(シ)のとおり,平成26年10月16日付けP3医師の回答書に
は,平成18年9月4日から平成22年10月14日までの間,症状
(右下腿痛,右足関節痛)は持続していた旨の記載があることなどに
照らすと,本件傷病の受傷後,原告の痛みの程度に顕著な変化があっ
たとは考えられず,前記(ウ)で述べたところの原告の平成22年5月
当時の症状の程度を裏付けるものということができる。
(オ)なお,前記⑵イ(イ)のとおり,平成22年診断書には,平成22
年1月21日現症時の日常生活活動能力及び労働能力として,「15分
程度の屋外歩行で疼痛が出現する為,一日立ち仕事は困難,デスクワ
ークは可能。」との記載があるが,「デスクワーク」は,幅のある多義
的な表現であり,現症時以降である平成22年5月当時には,原告は,
前記のとおり,資材センターに「勤務」しており,これをも「デスク
ワーク」といい得ることにも照らすと,それ自体で原告の労働能力を
判断することは困難であるというほかはない。
(カ)以上によれば,原告の平成22年5月当時の症状は,相当の痛み
を有するものであったと評価することができ,具体的には,右下腿に
軽く触れるだけで痛みを感じ,動いても同じ姿勢を取っていても痛み
を感じるというものであって,そのような症状を有していれば,動作
が相当程度制限され,労働をするにしても常時集中していることが困
難であることは容易に推認することができる。このことに加え,その
当時勤務していた資材センターにおける業務内容等から推認すること
ができる原告の労働能力や,原告を診断した各医師の労働能力等に関
する意見等をも踏まえると,平成22年5月時点における原告の神経
障害性疼痛の程度は,「軽易な労働以外の労働に常に支障がある程度
のもの」と評価することができるものというべきである。
なお,被告は,原告の疼痛が神経障害性疼痛であると客観的に明ら
かになっているとはいえず,神経障害性疼痛のみによるものとして神
経系統の認定基準による認定の対象とすることはできない旨を主張す
るところ,前記⑵イ(カ)のとおり,平成24年6月19日付けP8医
師作成の診断書には,原告の疼痛の原因として,「偽関節による侵害
受容性疼痛とそれに誘発された神経障害性疼痛による混合性疼痛であ
る」との記載があるものの,P5医師は,証人尋問において,原告の
疼痛は,神経障害性疼痛が中心になっている旨,P5意見書は神経障
害性疼痛に焦点を当てており,神経障害があったために出ている疼痛
であることは間違いない旨,神経障害性疼痛と侵害受容性疼痛とは疼
痛として質が異なり,分けることができる旨を証言していること(P
5証人〔証人調書9,21頁〕)などを踏まえると,仮に原告の疼痛
に侵害受容性疼痛が併存していたとしても,このことは,上記の判断
を左右しないというべきである。
⑸以上に述べたところによれば,原告は,平成22年5月当時,神経障害
性疼痛を有しており,それは,軽易な労働以外の労働に常に支障がある程
度のものと評価すべきであるから13号に該当し,原告の障害の状態は,
障害等級3級に該当するということになる(なお,被告は,本件処分が平
成22年診断書及びP3医師回答書に基づいて原告の障害の状態について
判断したことは違法ではない旨を主張するが,前記⑴のとおり,少なくと
も,裁判所が,支給を停止する処分の違法性を判断するに当たり,診断書
の他に障害の程度を判断するために合理的な資料が得られる場合にこれを
含めて判断することを妨げるものではないというべきであるし,本件にお
いては,前記⑵イ(イ)のとおり,平成22年診断書には疼痛に関する記載
があったのであって,これまで述べたところに照らせば,本件処分時にお
いて,かかる診断書の記載等を踏まえて調査を尽くした上で判断すべきで
あったということができる。)。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件処分は違法
であるから,取り消されるべきである。
2争点2について
⑴原告は,本件義務付けの訴えにおいて,本件処分が取り消されるべきで
あるとした上で,原告が支給を受けるべき平成22年6月1日から平成2
5年7月5日までに支払われるべき年金総額である金319万3101円
及びこれに対する遅延損害金を支払うことの義務付けを求めている。
⑵行政事件訴訟法において,「義務付けの訴え」とは,同法3条6項1号又
は2号の場合において,行政庁がその「処分」又は「裁決」をすべき旨を
命ずることを求める訴訟をいうところ,原告が義務付けを求める対象が上
記にいう「裁決」に当たらないことは明らかであるから,これが上記にい
う「処分」に当たるか否かを検討すると,この場合の「処分」とは,行政
庁の処分その他公権力の行使に当たる行為であって既に述べた「裁決」以
外のもの(同条2項),すなわち,公権力の主体たる国又は公共団体が行う
行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範
囲を確定することが法律上認められているものをいうと解するのが相当で
ある(最高裁昭和37年(オ)第296号同39年10月29日第一小法
廷判決・民集18巻8号1809頁参照)。しかるに,原告が義務付けを求
める対象は,本件処分が取り消されることを前提とした年金及び遅延損害
金の支払であり,かかる支払自体は直接権利義務を形成し又はその範囲を
確定するものということはできないから,上記の「処分」に該当しないと
いわざるを得ない。
⑶したがって,本件義務付けの訴えは,不適法であり,却下を免れない。
3結論
以上の次第で,原告の訴えのうち,本件義務付けの訴えは不適法であるか
らこれを却下し,本件処分の取消しを求める請求は理由があるからこれを認
容することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官舘内比佐志
裁判官荒谷謙介
裁判官宮端謙一

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また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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