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裁判例


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       主   文
1 被告東京税関成田税関支署長が原告に対し平成11年10月12日付けでした
書籍『MAPPLETHORPE』が輸入禁制品に該当する旨の通知処分を取り消
す。
2 被告国は、原告に対し、70万円及びこれに対する平成11年10月12日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、被告らの負担とする。
5 この判決は第2項に限り仮に執行することができる。ただし、被告国が50万
円の担保を供するときは、その仮執行を免れることができる。
       事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項同旨
2 被告国は、原告に対し、220万円及びこれに対する平成11年10月12日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、被告東京税関成田税関支署長が、平成11年10月12日、原告が携行
していた写真集『MAPPLETHORPE』(以下「本件写真集」という。)に
ついて、関税定率法21条1項4号所定の輸入禁制品に該当する旨の通知(以下
「本件通知処分」という。)をしたことに関し、上記規定は憲法21条に反し無効
であり、本件写真集は風俗を害すべき物品に当たらないから、本件通知処分は違
憲、違法なものであるとして、被告東京税関成田税関支署長に対し、本件通知処分
の取消しを求めるとともに、被告国に対し、国家賠償法に基づき慰謝料200万円
及び弁護士費用20万円の合計220万円並びにこれに対する遅延損害金の支払を
求めた事案である。
1 関係法令等の定め
(1) 関税法(平成12年法律26号による改正前のもの。以下同じ。)は、関
税の確定、納付、徴収及び還付並びに貨物の輸出及び輸入についての税関手続の適
正な処理を図るために必要な事項について定めており(関税法1条)、関税定率法
は、関税の税率、関税を課する場合における課税標準及び関税の減免その他関税制
度について定めるものである(関税定率法1条)。
(2) 関税法及び関税定率法において、「輸入」とは、外国から本邦に到着した
貨物(外国の船舶により公海で採捕された水産物を含む。)又は輸出の許可を受け
た貨物を本邦に(保税地域を経由するものについては、保税地域を経て本邦に)引
き取ることをいう(関税法2条1項1号、関税定率法2条)。関税法上の「外国貨
物」とは、輸出の許可を受けた貨物及び外国から本邦
に到着した貨物(外国の船舶により公海で採捕された水産物を含む。)で輸入が許
可される前のものをいう(関税法2条1項3号)。
(3) ア 貨物を輸入しようとする者は、当該貨物の品名並びに数量及び価格
(輸入貨物については、課税標準となるべき数量及び価格)その他必要な事項を税
関長に申告し、貨物につき必要な検査を経て、その許可を受けなければならない
(関税法67条)。この輸入通関手続は、輸入申告書を税関長に提出してしなけれ
ばならないが(関税法施行令59条1項本文)、輸入しようとする貨物が旅客又は
乗組員の携帯品であるときは、口頭で申告させることができる(同項ただし書、5
8条ただし書)。旅客から口頭による輸入申告を受けた税関職員は、当該携帯品が
申告されたとおりの品名、数量、課税標準等であるかどうか、関税関係法令以外の
法令(以下「他法令」という。)により輸入の許可、承認、検査又は条件の具備等
が必要とされている貨物である場合、それらの必要事項の証明等がされているかど
うか(関税法70条)、原産地を偽った表示等がされていないかどうか(同法71
条)、関税等の納付がされているかどうか(同法72条)、輸入禁制品に該当しな
いかどうか(関税定率法21条1項)を確認するために必要な検査(以下「税関検
査」という。)を行う(関税法67条)。
イ 税関長は、税関検査の結果、輸入されようとする貨物のうちに、関税定率法2
1条1項4号に掲げる輸入禁制品(以下「4号物品」という。)に該当すると認め
るのに相当の理由がある貨物があるときは、当該貨物を輸入しようとする者に対
し、その旨を通知しなければならない(同条3項)。
ウ 上記通知がされた場合には、当該4号物品についての通関手続は進行せず、輸
入申告者は、これを適法に保税地域から引き取ることができなくなり(関税法73
条1項、2項、109条2項)、その後は、輸入申告者の自主的判断に基づいて、
所有権の放棄、積戻し、当該物品中の公安又は風俗を害すると指摘された箇所の削
除等により処理することが予定されている。
(4) 関税定率法21条3項の税関長の通知に対し不服がある場合には、当該貨
物を輸入しようとする者は、税関長に対する異議申立て(関税法89条1項)、大
蔵大臣に対する審査請求(行政不服審査法5条、関税法91条、92条)を経て、
行政事件訴訟法に基づき通知の取消しの訴えを提起することがで
きる(関税法93条)。
2 前提となる事実
(1) 原告は、有限会社アップリンク(以下「アップリンク社」という。)の取
締役である(弁論の全趣旨)。アップリンク社は、先に米国のランダムハウス社が
出版した本件写真集につき、同社との間で出版契約を締結し翻訳した上、平成6年
11月1日、これを我が国において出版した(甲26、28)。
(2) 本件写真集は、アメリカ合衆国出身の写真家ロバート・メイプルソープが
撮影した初期のポラロイド写真から晩年のセルフポートレイト等を収録したもので
あり、その形状は、縦31.2センチメートル、横30センチメートル、ハードカ
バー製384頁、重量約4キログラムの大型本であって、奥付には「発行日:19
94年11月1日 日本版編集:浅井隆 発行者:浅井隆 発行:アップリンク」
と記載され、価格は当初1万6800円とされていた。なお、本件写真集に掲載さ
れた写真のうち、別表番号2、7、18ないし20の各写真については、同一の写
真を収録した写真集を輸入しようとした際に関税定率法21条3項の通知処分を受
けた者が同通知処分が違憲、違法なものであるとしてその取消しを求めて提起した
訴訟(当庁平成5年(行ウ)第143号輸入禁制品該当通知処分取消等請求事件、
以下「別事件」という。)において、関税定率法21条1項4号の「風俗を害すべ
き書籍、図画」等に該当するか否かが争われ、当庁は、平成6年10月27日、当
該写真集は同号の「風俗を害すべき書籍、図画」等に該当するとして原告の請求を
棄却する旨の判決をし、控訴審である東京高等裁判所は、平成7年10月31日、
控訴を棄却した。最高裁判所は、平成11年2月23日、上告を棄却した(甲2
6、28、乙1、2)。
 アップリンク社は、本件写真集について朝日新聞朝刊の第一面に販売広告を掲載
するなどの販売促進活動を行い、全国紙や写真専門雑誌に紹介文や書評が掲載され
たこともあり、平成7年1月1日から平成12年3月31日までの間に都市部の大
規模書店を中心とする書店販売や通信販売等の方法により合計937冊を販売し
た。本件写真集は、国立国会図書館にも納本されているが、現在まで人権の侵害等
により閲覧させることが不適当と認められる資料に当たる場合に講じられる閲覧制
限の措置(国立国会図書館資料利用規則19条)は講じられていない(甲4、5、
6、20ないし24、28、乙4)。
 また、この間、本件写真集について警察から取締りを受けたことは全くなく、後
記(6)の審査請求手続中の平成12年5月22日に至って、原告が、警視庁から
呼出しを受け販売を続ければ取り締まらざるを得ないとの警告を受けたため、それ
以降販売を見合わせるとの始末書を提出したが、それまでの販売行為については不
問に付されたままである(甲28、弁論の全趣旨)。
(3) 原告は、平成11年9月12日、商用のため我が国からアメリカ合衆国に
出国した際、自社出版物の見本として本件写真集を携行し、同月21日、我が国に
帰国した際、成田空港所在の成田税関支署旅具検査場において、検査官に対し、本
件写真集を呈示し、本件写真集は原告が取締役を務めるアップリンク社において出
版したものであり、上記のように見本として我が国から携行したものであることを
説明した(甲28、29)。
(4) 被告東京税関成田税関支署長は、同年10月12日、原告に対し、関税定
率法21条3項に基づき、本件写真集は、風俗を害すべき物品と認められ、関税定
率法21条1項4号に該当する旨の本件通知処分をした(甲1)。
(5) 原告は、平成11年12月6日、東京税関長に対し、本件通知処分の取消
しを求めて異議の申立てをした。東京税関長は、平成12年3月2日、同申立てを
棄却する旨の決定をした(甲2)。
(6) 原告は、平成12年4月2日、大蔵大臣に対し、本件通知処分の取消しを
求めて審査請求をした。大蔵大臣は、同年6月28日、審査請求を棄却する旨の裁
決をした(甲3)。
3 争点
(1) 関税定率法21条1項4号及び同条3項の合憲性(憲法21条1項、2項
前段違反の有無)(争点1)
ア 税関検査の検閲該当性
イ 「風俗を害すべき」という文言の明確性
ウ 輸入規制の広汎性
(2) 税関制度と平等原則(争点2)
(3)我が国で出版され、流通していた表現物が関税定率法21条1項4号に該当
するか(争点3)
(4) 本件写真集のわいせつ性の有無(争点4)
(5) 税関長の権限の内容(争点5)
(6) 原告の損害賠償請求権の有無(争点6)
4 争点に関する当事者の主張
別紙のとおり
第3 争点に対する判断
1 関税定率法21条1項4号及び同条3項の合憲性(争点1)について
(1) 税関検査の検閲該当性について
原告は、4号物品に関する税関検査は、憲法21条1項前段で禁止される検閲に該
当し違憲である旨主張する

 しかし、憲法が表現の自由につき広くこれを保障する旨の一般的規定を21条1
項に置きながら、別に検閲の禁止について特別な規定を設けたのは、戦前の我が国
における出版法、新聞紙法等により実質的な検閲が行われていたという歴史的経緯
に照らし、検閲がその性質上表現の自由に対する最も厳しい制約となるものである
ことにかんがみ、これについては公共の福祉を理由とする例外を一切許容しない趣
旨を明らかにしたものと解すべきである。憲法21条2項前段が禁止する「検閲」
とは、表現を何らかの形で事前に抑制するものすべてと解すべきではなく、行政権
が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止
を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内
容を審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備
えるものを意味すると解するのが相当である(最高裁判所昭和59年12月12日
大法廷判決民集38巻12号1308頁)。
 これを4号物品に関する税関検査についてみると、検査を実施する主体である税
関は、関税の確定及び徴収を本来の職務内容とする機関であって、専ら輸入貨物の
課税標準、税額等を確認、決定するという見地から、輸入される貨物全般を対象と
して、その数量、価格、他法令の規定により必要とされている許可、承認等の有
無、原産地表示の正確性等の事項を検査するものであり、ある貨物が4号物品に該
当するか否かの検査も、上記の検査手続の過程において、物品の外形、性状などか
ら容易に判定し得る限りにおいて行われるにすぎず、思想内容等それ自体を網羅的
一般的に審査し規制することを目的とするものではない。したがって、4号物品に
関する税関検査は、憲法21条2項前段において禁止されている「検閲」には当た
らないというべきであって(前掲最高裁大法廷判決参照)、原告の主張には理由が
ない。
 もっとも、4号物品に関する税関検査の手続は、前記第2・l・(3)のとおり
であり、税関検査の結果、関税定率法21条3項に基づき、書籍、図画等のある貨
物が4号物品に該当する旨の通知がされた場合には、当該貨物を適法に輸入するこ
とができなくなり、その結果、当該貨物に含まれる思想内容等が我が国において表
現、伝達される機会が失われることとなる事態が発生することは避けられないか
ら、税関検査手続は、上記の限りに
おいて、思想等の表現を事前に規制する側面を有するものであるということができ
る。したがって、税関検査に関する規定の解釈及び運用に当たっては、この点に十
分留意する必要がある。
(2) 「風俗を害すべき」という文言の明確性について
 原告は、関税定率法21条1項4号の「風俗を害すべき」という文言は、表現の
自由を規制する法令の文言としては不明確に過ぎ、同規定は、憲法21条1項に違
反する旨主張する。
 確かに、「風俗」という文言は、一般的な用語法としては、性的風俗のみなら
ず、社会的風俗、宗教的風俗等を含むものではあるが、およそ法的規制の対象とし
て「風俗を害すべき書籍、図画」等という場合には、性的風俗を害すべきもの、す
なわちわいせつな書籍、図画等を意味するものと解することができるから、関税定
率法21条1項4号にいう「風俗を害すべき」との文言についても、これを合理的
に解釈すれば、上記の「風俗」とは、専ら性的風俗を意味し、同規定により輸入禁
止の対象とされるのは、わいせつな書籍、図画等に限られるということができるか
ら、同規定は何ら明確性に欠けるものではない。そして、わいせつ性の概念は、刑
法175条の規定の解釈に関する判例の蓄積によって「いたずらに性欲を興奮又は
刺激せしめ、かつ普通人の正常な羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するも
の」であると既に明確にされているから、一般国民は、関税定率法21条1項4号
にいう「風俗を害すべき」との文言によって、いかなる表現物がその対象となるか
を判断することができるのであって、同規定は、この点においても明確性の要請に
欠けるところはなく、憲法21条1項に反するものではないというべきであり 
(前掲最高裁大法廷判決参照)、原告の主張には理由がない。
(3) 輸入規制の広汎性について
 原告は、4号物品に関する税関検査は、わいせつ表現物に対する輸入規制として
は広汎に過ぎる旨主張する。そこで、まず4号物品に関する税関検査の目的につい
て検討する。
 我が国における健全な性的風俗を維持、確保することは、公共の福祉の内容をな
すものであって、わいせつな表現物が我が国に流入し流布することを阻止する目的
でその輸入を規制することは、その目的において公共の福祉に合致するものである
ということができる。このような立法目的からすると、客観的にわいせつ性を有す
る表現物がすべて4号物品に該当すると解
することは許されず、その輸入を許しても我が国の健全な性的風俗に悪影響を及ぼ
すおそれがないと認められる表現物については4号物品に該当しないと解するのが
立法目的に忠実であり、かつ、税関検査が表現の自由を事前に抑制する側面を有す
ることを関係法令の解釈及び運用に当たって十分に留意すべきことからも、このよ
うな限定的な解釈を採るべきものと考えられる。このような立場からすると、たと
え当該表現物が客観的にみるとわいせつ性を有するものであっても、それが、学術
的又は芸術的な観点でのみ利用されること、又は個人が所持することのみを目的と
して輸入されるものと認められる場合には、4号物品には該当せず、輸入が許され
るべきものと解されるので、このような解釈を採る限り、規則が広汎に過ぎるとは
いえない。
 もっとも、このように解するとしても、わいせつ性を有する表現物個々の輸入行
為について、その輸入の目的が真に上記のように限定されたものと認めることは困
難な場合が多く、特に輸入者が個人的鑑賞のためと申し立てるにとどまるときに
は、我が国に持ち込まれた後に刑法175条に該当する可罰的行為に利用すること
は容易であるから、当該輸入者の職業やこれまでの実績、当該表現物の性質、形状
などからして、個人的鑑賞のみに供することが確実であると認められない限りは、
当該輸入者の申し立てる主観的意図にかかわらず、4号物品に該当するとの判断を
せざるを得ず、あたかも一律にわいせつ表現物の輸入を規制しているかのような結
果を招くことも無理からぬ事態であるというべきであって、そのような事態をとら
えて、原告が主張するように過度に広汎な規制を行っていると評価することはでき
ず、そのことが憲法21条1項に反するものでもないというべきである。
(4) 以上のとおり、本件通知処分の根拠法規である関税定率法21条1項4
号、同条3項の規定は、憲法21条に反するものではなく、原告の主張にはいずれ
も理由がない。
2 税関制度と平等原則(争点2)について
 原告は、現行の税関検査は、貨物の形でわいせつ表現物を輸入しようとする者と
インターネットを利用して電子情報としてわいせつ画像を流入しようとする者とを
合理的な理由なく差別するものであり、憲法14条1項に違反すると主張する。
 確かに、原告が主張するように、現在ではインターネットを通じてあらゆる電子
情報が外国から我が国に流入
しており、その中には、我が国の健全な性的風俗を害するおそれのあるわいせつ画
像等も多数含まれていることは公知の事実である。しかし、それらのわいせつ画像
等の流入により、我が国におけるわいせつ概念が変更したと認めるに足りる証拠は
なく、我が国における健全な性的風俗を維持するためには、それらのわいせつな電
子情報も何らかの形で取締りの対象とすべきことに変わりはないというべきであ
る。しかるに、関税定率法21条1項4号は有体物である貨物として我が国に輸入
されるもののみを対象とするものであるから、電子情報については同号による取締
りの対象とはされておらず、現行法下においては、このような事態に対応した法令
が存在しないというにすぎない。一般に、ある行為を法令により規制するか否か、
また規制するとしてどのような規制を行うかについては、広汎な立法裁量にゆだね
られていると解すべきであり、法技術上の問題その他の諸事情により、ある行為に
ついての法令の整備が遅れ、同様に規制されるべき行為の一方は既に規制されてい
るにもかかわらず、その後に生じた他方の行為に関する規制が遅れたとしても、そ
の状態が直ちに憲法14条1項に違反するとはいえないというべきである。
 したがって、有体物であるわいせつな表現物が税関検査の対象とされ、関税定率
法21条1項4号に該当する場合には、その輸入が禁止されるのに対し、無体物、
すなわち電子情報としてわいせつな情報がインターネットを通じて我が国に流入す
る場合には何の規制もかからないという現状も、両者を不平等に取り扱うものとし
て憲法14条1項に違反するとはいえないというべきである。
 以上によれば、関税定率法21条1項4号が憲法14条1項に違反するとの原告
の主張には理由がない。
3 我が国で出版され、流通していた表現物が関税定率法21条1項4号に該当す
るか(争点3)について
(1) 原告は、税関検査の対象となる出版物は、外国で頒布、販売されたものの
みであって、我が国で頒布、販売されていた出版物でいったん外国に持ち出された
後に改めて我が国に持ち込まれるものは含まれないと主張する。
(2) そこで、関税法及び関税定率法の定めについて検討すると、前記第2・1
のとおり、貨物を輸入しようとする者は、当該貨物について必要な税関検査を受
け、その許可を得なければならないところ(関税法67条)、「輸入」とは、「外

から本邦に到着した貨物(外国の船舶により公海で採捕された水産物を含む。)又
は輸出の許可を受けた貨物を本邦に(保税地域を経由するものについては、保税地
域を経て本邦に)引き取ること」をいうのであり(関税法2条1項1号)、「外国
貨物」とは、「輸出の許可を受けた貨物及び外国から本邦に到着した貨物で輸入が
許可される前のもの」(同項3号)であるから、税関検査が必要か否かは、結局、
当該貨物の生産地が外国であるか我が国であるかには無関係に、当該貨物が外国か
ら我が国に到着した貨物であるか否かによるのであり、我が国で生産されたからと
いって直ちに税関検査の対象にならないとはいえないというべきである。このこと
は、関税定率法21条1項が定める輸入禁制品には、風俗を害すべき書籍、図画等
のほか、麻薬及び向精神薬等の規制薬物(同項1号)、けん銃等の銃器類(同項2
号)、偽造貨幣等(同項3号)及び特許権等を侵害する物品(同項5号)が含まれ
ており、これらはいずれも我が国で生産されたからといって、それらがいったん外
国に持ち出された後に再度我が国に持ち込まれた場合にその流入を阻止することが
できないとすると極めて不当な結果となることからも裏付けられる。
(3) しかし、前記1・(1)で説示したとおり、税関検査により許可が得られ
なければ、当該貨物を輸入しようとする者は、以後当該貨物を適法に我が国に引き
取ることができなくなるのであって、当該貨物が表現物である場合には、上記の限
りにおいて、税関検査は、表現の自由に対する制約となるのであるから、表現の自
由の重要性にかんがみると、関税定率法21条1項4号の適用範囲については、規
定の趣旨を実現するのに妨げにならない限度において、できるだけ制限的に解釈さ
れなければならない。また、前記1・(3)で説示したとおり、関税定率法21条
1項4号の立法目的からして、4号物品該当性の判断に当たっては、当該表現物の
わいせつ性の有無及び程度のみならず、当該表現物が我が国に流入することによ
り、我が国における健全な風俗にいかなる害悪をどの程度及ぼすかという観点も考
慮すべきであり、たとえわいせつ性が認められ得るようなものであっても、それが
我が国における健全な風俗に影響を与えないのであれば、当該表現物を規制する必
要はないから、4号物品には該当しないというべきである。
 そして、我が国においては頒布、販売
等がされず、初めて外国から我が国に持ち込まれた書籍等の表現物のわいせつ性が
問題となる場合には、これが我が国に持ち込まれた後に、流通に置かれるか否か、
どのような流通をすることになるか、それによって我が国における健全な風俗にど
のような影響が生じるかの判断は、予測にとどまらざるを得ない要素が大きい点で
困難性が認められ、その結果、前記1・(3)のとおり、例えば、輸入者が個人的
鑑賞のためと申し立てるにとどまるときには、個人的鑑賞のみに供することが確実
であると認められない限りは、当該輸入者の申し立てる主観的意図にかかわらず、
当該表現物が4号物品に該当するとの判断をせざるを得ないこととなって、あたか
も一律にわいせつ性の認められる表現物の輸入を規制しているかのような結果を招
くことも無理からぬことである。これに対し、わいせつ性が問題となると思われる
書籍等の表現物であっても、それが既に我が国において出版等がされ、流通に置か
れていたものがいったん外国に持ち出され、その後我が国に持ち込まれる場合に
は、当該表現物の流通によって我が国における健全な風俗がいかなる影響を受けて
いたのかが現に生じた客観的な事実として存在し、特段の事情の変化がない限り、
再びこれが持ち帰られたとしても、それによって生ずる事態は以前に生じたところ
と異なるものではないと考えられるから、税関長においては、現に生じた客観的事
態を十分に吟味し、従前の当該表現物の流通により、我が国における健全な風俗が
害されたと認められる場合にのみ、当該表現物の輸入を許さないことができると解
すべきである。これをさらに具体的に述べると、当該表現物の流通につき、その形
態が公然としたもので当然に捜査機関の目に触れるものであるにもかかわらず、わ
いせつ物としての取締りを受けてその流通が止んでいたというような事情もなく、
継続して通常の流通に置かれていたのであれば、前記のとおり表現の自由の重要性
に基づき制限的な解釈をすべきことに照らして、従前の我が国での通常の流通の事
実により、我が国における健全な風俗を害していなかったものと推定すべきであっ
て、従前、当該表現物の流通によって我が国における健全な風俗がいかなる影響を
受けていたか、また、当該表現物が我が国に持ち帰られることによって、それが持
ち出される前の状態にいかなる変化が生じるかを具体的に検討し、それらを総合的
に判
断した結果、従前の流通によって我が国における健全な風俗が害されたと具体的に
認められるか、その後の事情変更等の結果、当該表現物を輸入した場合には我が国
における健全な風俗を害するものと認められる場合に初めて、当該表現物は4号物
品に該当するというべきである。
 この点に関し、被告らは、我が国で出版等がされ流通に置かれていた書籍等であ
っても、いったん外国に持ち出された後に我が国に持ち帰る場合には税関検査の対
象となり、それにわいせつ性が認められれば、それが我が国にあった時点の状態や
今回新たにどのような影響が生ずるかにかかわらず、一律に関税定率法21条1項
4号に該当すると主張するが、被告らの主張は、関税法67条、同法2条1項1号
及び3号の形式的な解釈を根拠とし、一律に関税定率法21条1項4号に該当する
との結論を導く点において、表現の自由の保障に対する配慮を欠くものであって採
用することはできない。
(4) 前記第2・2・(1)及び(2)のとおり、本件写真集の原書は世界有数
の出版社から刊行されたものであるところ(原書自体はamazon.com等の
インターネット書店などにおいて我が国でも購入可能であることは、当裁判所に明
らかな事実である。)、本件写真集は、平成6年11月1日に出版されてから本件
通知処分がされた平成11年10月までの間の約5年間にわたって、900冊以上
販売されているが、その間、全国紙や写真専門誌において芸術的観点からの紹介や
批評がされており、その宣伝及び流通の形態は一般の健全な芸術的書籍と同様の形
態で公然と行われ、国立国会図書館のような公的機関においても一般の閲覧に供さ
れていたにもかかわらず、原告が本件写真集の販売行為に関して刑法175条のわ
いせつ物頒布罪等に処せられたことはなく、本件通知処分後も原告が警察から警告
を受けたものの、過去の販売行為については何らの刑事手続も執られていないこと
が認められる。これらのことからすると、本件写真集は、単に官憲の目に止まらな
かったために取締りを免れていたものではなく、それが専ら芸術的な書籍として流
通し、健全な風俗への影響がないものとの評価が確立していたために取締りの対象
とならなかったものと認めるのが相当である。そして、本件通知処分に至るまで特
段の事情の変化も認められないところであり、原告は、本件写真集を刊行した会社
の取締役であるから、これ
を再び我が国に持ち帰っても、従前同様芸術的な書籍として流通に置き、既に確立
したと同様の評価を受けるものと認められるから、これによって我が国における健
全な風俗が害されるとは認め難く、そうである以上、本件写真集は4号物品には該
当しないというべきである。
(5) 以上によれば、本件通知処分は関税定率法21条1項4号の要件に該当し
ない本件写真集についてされたものであると認められるから、その余の点を判断す
るまでもなく違法な処分であって取り消されるべきであるというほかない。
4 原告の損害賠償請求権の有無(争点6)について
(1) 前記第2・2・(2)及び(3)のとおり、本件写真集には日本語の奥付
があり、我が国において出版され、既に流通に置かれていたものであることが明ら
かであり、その旨の原告の供述も得ていたことからすると、被告東京税関成田税関
支署長は、本件写真集が本件通知処分当時、既に我が国において流通に置かれてい
たことを認識し又は認識し得たと認められるから、本件通知処分は、本件写真集が
関税定率法21条1項4号の要件に該当するか否かを検討するに当たっては、我が
国での流通によって健全な風俗がいかなる影響を受けており、また、これが持ち帰
られることによって従前の状態にいかなる変化が生ずるかを総合的に考慮すべきで
あったのに、これを怠り、単にわいせつ性が認められるか否かという観点のみから
結論を導いた点において、被告東京税関成田税関支署長には、少なくとも本件通知
処分を行うについて過失があったものと認めることができる。
 よって、被告国の公権力の行使に当たる公務員である東京税関成田税関支署長
が、その職務を行うについて、少なくとも過失によって本件通知処分を行ったこと
により違法に原告に損害を加えたものと認められるから、被告国には、国家賠償法
1条1項に基づき、本件通知処分により原告が被った損害を賠償する義務がある。
(2) 前記第2・2・(3)のとおり、原告が本件写真集を我が国に持ち帰ろう
としたのは平成11年9月21日であるから、本訴口頭弁論終結時である平成13
年11月26日までの間およそ2年2か月間にわたり、本件写真集を占有すること
ができず、本件通知処分により憲法上保障された重要な権利である表現の自由を侵
害された上、本件通知処分の違法性を争うため本訴提起を余儀なくされたこと、他
方、原告は本件写真集の出版者
であり、本件写真集と同一の写真集を我が国において利用することが可能であっ
て、当該表現行為を全面的に封じられたものではないこと及び本判決が確定して本
件通知処分が取り消されることにより、原告が受けた精神的損害の相当部分は慰謝
されるものと考えられることなどの諸事情を総合考慮すると、原告の被った精神的
損害に対する慰謝料としては50万円が相当である。また、原告は、原告訴訟代理
人に本件訴訟の提起と追行を委任し、費用及び報酬の支払を約しているところ、本
件事案の性質、事件の経過、認容額等に照らすと、本件通知処分と相当因果関係が
あり被告国に対して賠償を求め得る弁護士費用としては20万円が相当である。
第4 結論
 以上の次第であるから、原告の請求は本件通知処分の取消し並びに慰謝料50万
円及び弁護士費用20万円の合計70万円とこれに対する本件通知処分の日から支
払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由が
あるからこれらを認容することとし、その余の請求については理由がないから棄却
することとし、訴訟費用の負担、仮執行宣言及び同免税宣言について行政事件訴訟
法7条、民事訴訟法61条、64条ただし書、259条1項及び3項を適用して、
主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官 藤山雅行
裁判官 村田斉志
裁判官 日暮直子

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