弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中、被控訴人が池田市a町bc番地のd溜池一町二反一畝二五歩
につき昭和三六年一二月一日A、B、C及びDに対してなした売買による譲渡処分
の無効確認請求に関する部分は、これを取消す。
     控訴人の右無効確認請求の訴を却下する。
     控訴人のその余の控訴を棄却する。
     訴訟の総費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人が池田市a町bc番地のd溜池一町二反
一畝二五歩につき、(一)昭和三六年一二月一日なしたA、B、C及びDに対する
売買による譲渡処分、及び(二)同月二二日なした右売買に付せられていた池田市
の有する、買戻権者池田市、売買代金二、二〇〇万円、契約費用なし、買戻期間昭
和三七年一二月一日、なる買戻特約権の放棄処分、はいずれも無効であることを確
認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被
控訴人は、「本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
 当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加する外、原判決の事実摘示と同一で
あるから、これを引用する。
 (被控訴人の主張)
 一、 地方自治法(昭和三八年法律第九九号による改正前のもの、以下旧法とい
う)第二四三条の二第四項所定の納税者訴訟は、普通地方公共団体の長その他の職
員がその行為によつて当該公共団体の財産等に損害をうえる場合に限り、住民に右
行為の制限、禁止、取消及び無効確認等を求める訴を提起することを許容したもの
であつて、当該公共団体に損害をもたらさない場合には、その訴の利益を欠くもの
と解される。ところで、本件土地は、その東方上段に通称「奥池」なる灌漑用溜池
があり、而も本件売買当時本件土地との間にある堤防が著しく水蝕されていたた
め、その下段にある本件土地の地価はかなり低く評価されていたのであるが、それ
にも拘らず右売買における本件土地の代金額は坪当り六、〇〇〇円強、総額二、二
〇〇万円と定められたのであつて、右代金額は当時池田市が他から買取つた同市内
の各土地の価額と比較しても、決して低額ではない。従つて、本件土地は適正な代
価を得て売却されたものというべく、池田市には右売買によつて何等の損失も生じ
ていないのであるから、右売買の無効確認を求める控訴人の訴は、その利益を欠く
ものとして却下さるべきである。
 二、 仮に控訴人の右訴が適法であるとしても、被控訴人が本件土地につき昭和
三六年二月七日行つた競争入札に際して控訴人主張の如き方法で入札参加者を制限
したのは、次の事情によるものであつて、何等違法ではない。即ち、本件土地はも
とe区の所有であつて、その町内の田畑の灌漑用溜池であつたが、近時下流田畑が
宅地化され灌漑の必要がなくなつたために、e区から池田市に寄附されたものであ
るところ、本件土地が競争入札によつて処分されようとするや、もと本件土地の水
利権を有していたa水利組合は被控訴人に対し、入札参加者は地元水利組合の承認
を得た者に限るよう取計らわれたい旨申入れた。一方、本件土地の上段にある前記
「奥池」は現在も灌漑用水を湛えているのであるが、その水は本件土地を通過して
下流へ流出しており、もし「奥池」の堤防が欠損すれば下流住民に危害を生ずる虞
もあるところがら、本件土地を取得する者は「奥池」の水の使用関係を円滑ならし
めるために先ず右水利組合と協調を保ち得る者でなくではならず、また、本件土地
が将来宅地化されることとなれば、その取得者に対し、「奥地」の排水路を設置す
るための水路敷の提供及び設置された排水路の維持管理のための協力を求めなくで
はならない事情にあつた。
 そこで被控訴人は、「奥池」の使命を全らさせ下流住民の安全を確保するため
に、前記水利組合の申入を容れて、本件土地の競争入札参加者を制限したのであつ
て、右の如く本件土地を単に高価に売却することのみを目的として競争入札を行ら
ことができない事情にある以上、かかる制限はむしろ事案に即した適当な措置とい
うべきであり(因みに、被控訴人は本件土地をより高価に売却するため、昭和三六
年二月四日付書面で右水利組合に対し、なるべく多くの入札希望者に承認をうえる
よう申入れている)、これを理由に前記競争入札を無効とすることはできない。
 三、 而も、仮に控訴人主張の如く前記競争入札が実質的に存在せず、もしくは
無効であつたとしても、被控訴人のなした随意契約による本件土地の売買はなお有
効である。即ち、前述の如き特殊な事情の下にある本件土地は、本来競争入札に付
することを適当としないのであつて、現に右随意契約において買主は、(一)「奥
池」の水を下流へ流すための水路用地を池田市に無償で提供し、(二)池田市が水
路を造成した場合その水路上は空地または道路とし、(三)本件土地を第三者に譲
渡するときは前二項目を譲受人に承諾させることを約諾せしめられているのである
が、買主にかかる義務を負担させるためには競争入札の方法によることができなか
つたのである。従つて被控訴人は、池田市契約条例第四条第一項第一五号に基き、
当初から随意契約によつて本件土地を売却すれば足りたのであつて、競争入札に付
する必要はなかつたのであるから、競争入札の存否ないし有効無効に拘らず本件随
意契約による売買は有効である。
 四、 次に、控訴人は右売買に付せられていた買戻権につき被控訴人のなした放
棄処分の無効確認をも訴求しているけれども、普通地方公共団体の住民が当該公共
団体の長の行つた処分の無効確認を求め得るのは、旧法第二四三条の二第一項に列
挙された事項に限られ且つその処分によつて蒙るべき当該公共団体の損害ないし住
民の不利益を救済するに必要な限度に留められるものと解すべきである。然るに控
訴人は前記売買の無効確認を求めているのであるから、これに加えて被控訴人のな
した右売買における買戻権の放棄処分の無効確認を求める必要ないし利益は存しな
い。従つて、右買戻権抛棄処分の無効確認を求める控訴人の訴は却下されるべきで
ある。
 (控訴人の反駁)
 一、 被控訴人は本件土地の売買価額は適正であつて池田市に損害は生じていな
いと主張するが、本件土地の上段にある「奥池」は、もはや満水にならないように
工作されていてその六割程度しか水を湛えることはなく、また堤防の水蝕個所につ
いては本件土地が池田市に寄附された当時既に同市においてその修理工事一切をな
すべきことが水利組合に確約されていた(その後右工事は池田市が施工完成した)
のであるから、「奥池」の存在及びその水防の不備のために本件土地の価額が低く
見積られることはなかつたのであるし、池田市が他から買取つた土地はいずれも公
用のために買収したものであつてその買受価額は時価の三分の一程度に過ぎなかつ
た。従つて、被控訴人の立論からしでも本件土地の売価が不当に低廉であつたこと
は明らかであり、現に昭和三六年一二月二九日の臨時市会において被控訴人自身本
件土地の売価は市価の三分の一位である旨述べているのであつて、本件売買によつ
て池田市ないしその住民が損害を蒙つていることは明白である。
 二、 次に、被控訴人は本件土地の入札参加者を制限したのは適当な措置であつ
たというけれども、本件土地の水利権は既に昭和三四年夏頃灌慨用水の不必要であ
ることを理由に放棄されて公用廃止の手続を了えていたのであるから、その競争入
札に当つて地元水利組合の同意がなくでも、後に紛議を生ずる虞はなかつたのであ
るし、また、「奥池」の状況は前述のとおりであり且つその水を灌漑に用いるべき
田畑もなくなつていたのであるが、仮に被控訴人主張の如くその排水路の設置及び
維持について本件土地の譲受入の協力を期待しなくてはならないとしても、その目
的を達するには入札の際然るべき落札条件を付すれば足りる(現に前記入札の際の
入札要項には、落札者は市の要求する場所に水路用地を無償で提供すべき旨の記載
があり、落札者はこれに応ずる外はないのである)のであつて、被控訴人が前記入
札者の制限を正当ならしめる事由として主張するところはいずれも理由がなく、従
つて前記競争入札を適法有効ならしめるものではない。
 三、 また、被控訴人は本件土地の売却は当初から随意契約によるべきものであ
つたと主張するが、その随意契約にようなくではならない理由として主張するとこ
ろは、競争入札の方法によることの障碍となるものではないこと前項で述べたとお
りであつて、本件土地の随意契約による売却を適法ならしめるものということはで
きない。
 (証拠関係)(省略)
         理    由
 本訴は、控訴人が池田市の住民として、旧法第二四三条の二第四項の規定に基
き、同市有財産であつた本件土地について、被控訴人が(一)昭和三六年一二月一
日A外三名に対し随意契約による売買により、買戻権留保の特約を付してなした譲
渡及び(二)同月二二日市議会の議決を経ないでなした右買戻権の放棄の各行為の
無効確認を求めるものであるところ、右譲渡は地方公共団体の普通財産を目的とす
るものであること弁論の全趣旨に照して明らかである。右の普通財産は地方公共団
体の私産であり、たとえその財産の管理、譲渡等の処分を規律する規定があつて
も、その目的は管理ないし処分の適正、効率性を期するためのものであるから、そ
の規定を根拠にして右の譲渡処分などを、行政庁の優越的な意思の発動である行政
処分と解することはとうていできず、また公法上の契約と解する余地もない。私人
相互間の財産の譲渡その他の処分と同様の私法行為に過ぎないものというべきであ
る。
 <要旨第一>ところでいわゆる住民訴訟を規定する旧地方自治法第二四三条の二第
四項は、訴えによる請求事項として行為の制限禁止の請求、取消無効の
請求および損害補てんの請求の三つを掲げるだけで、昭和三八年法律第九九号によ
る改正後の地方自治法(以下改正法という)第二四二条の二第一項のように、法律
関係の不存在確認の請求、原状回復の請求などの各種の私法上の請求について何ら
規定していないのであるが、旧法における右取消、無効の請求を単に行政処分の取
消、無効確認の請求に限定すると、同条の適用範囲は極めて狭いものとなり、地方
公共団体の違法な財産の流出を防止することを目的とする同条の趣旨が十分に達成
されないことになる。
 従つて右無効の請求は、行政処分の無効確認請求に限らず、地方公共団体所有の
財産についてなされる売買契約などの私法行為の無効確認の請求をも含めたものを
指す趣旨であると解するのが正当である。そして、このような私法行為の無効確認
請求の主体は本来地方公共団体であるべきことならびに地方公共団体が権利の帰属
主体であることについて判決の効力が適切に地方公共団体に及ばなければ地方公共
団体の財産の維持ないし回復に役立たないことなどの諸点よりみて、住民たる原告
の請求は地方公共団体に代位してなされるものとみるべきである。前記改正法は、
その規定する各種の私法上の請求が右の代位請求であることを規定しているが、右
は当然のことを明らかにしたまでであつて、この理は旧法においても同様であると
考えられる。もつとも、私法行為たる財産譲渡の無効確認請求は、ただ行為の違法
の匡正する面では住民訴訟の性格に適しているにしても、実質上は相手方に対する
法律関係不存在確認請求あるいは当該財産の所有権確認請求(譲渡契約が履行済<要
旨第二>みの場合)として把握できるのであつて、その本質が民事訴訟事件であるこ
とはいうまでもない。ところで昭和二三年最高裁判所規則第二八号第二
項は、旧法第二四三条の二第四項の請求に関する訴えについては行政事件訴訟特例
法によるべき旨を規定している。旧法の右条項に基づく請求が行政処分の取消また
は、無効確認の請求であれば、右特例法に従つて処理しなければならないのはいう
までもないが、私法行為の無効確認の請求あるいは損害補てんの請求である場合は
どうであろうか。これらの請求についでは民事訴訟手続によるべきであるとの説も
あるけれども、前記規則が損害補てんの請求について何らの除外規定を設けていな
いことならびに住民訴訟が住民一般の利益保護のため地方公共団体の公正な財政運
営を目的とする客観訴訟、民衆訴訟的性格をもつ点を考慮するとき、右のような私
法上の請求についても、形式上は特例法第一条後段の公法関係に関する訴訟すなわ
ち当事者訴訟として処理せしめる得意であると解するのが相当である(従つて、少
くとも同法第九条の職権による証拠調の規定が右手統に準用されることにな
る。)。このことは改正法第二四二条の二第六項(昭和三七年九月二九日最高裁判
所規則第五号も同旨)が、行政事件訴訟法第四三条すなわち抗告訴訟または当事者
訴訟の規定を準用する民衆訴訟の規定が改正法第二四二条の二第一項に規定する私
法上の各種の請求を含めた全請求について適用があるものとしていることからも裏
付けられる。
 <要旨第三> 右のように住民訴訟における私法上の請求について公法関係に関す
る当事者訴訟の手続に従うべきものとした法の趣旨から考えるとき、地
方公共団体のなした私法行為の無効確認請求の被告となるべきものは、地方公共団
体との行為により直接生じた法律関係の相手方に絞られてくることとなる。第三者
(例えば財産の転得者)の如きは善意無過失の場合が多いのであるから、第三者に
対してまで責任の追求を認めることは制度的にも無理であろう(この点で商法第二
六七条所定の株主の代表訴訟が被告を取締役に限定しているのと趣旨を同じくす
る。)。右の外、前説示のように私法上の請求が代位訴訟であることを綜合する
と、本件の如き私法行為の無効確認請求について被告適格を有する者は当該私法行
為の相手方であつて、地方公共団体は勿論のこと、その機関として私法行為の成立
に関与した地方公共団体の長の如きは、被告適格を有しないものといわなければな
らない。前記改正法第二四二条の二第一項第四号はこの点を明らかにしているが、
右は当然の事理に属し、改正前においても同様であると解する。
 そうであれば、池田市長たる被控訴人を被告として前記譲渡行為ならびに買戻権
放棄行為の無効確認を求める控訴人の本訴は被告適格を欠く点において不適法であ
り、全部却下を免れないものというべきである。
 従つて、原審が、右と見解を異にして前記譲渡行為の無効確認請求部分につき本
案に立入つてその請求を棄却したのは失当であるから、これを取消して右訴を却下
し、買戻権放棄行為の無効確認請求部分の訴を却下したのは結論において相当であ
り、右部分に対する控訴は理由がないこととなるのでこれを棄却し、訴訟費用の負
担につき民事訴訟法第九六条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 金田宇佐夫 判事 輪湖公寛 判事 中川臣朗)

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