弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人の有罪部分を破棄する。
     被告人を懲役一年に処する。
     但本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。
     押収に係る請求書(証第二号の四、A名義)同(証第二号の七、B名
義)同(証第二号の九、C名義)各一通及び扶養親族認定申請書(証第一四号)一
通の各偽造部分はこれを没収する。
     原審における訴訟費用中、証人Dに支給した分は被告人の負担とする。
     本件公訴事実中被告人は山口県事務吏員として昭和二四年八月三一日山
口県防府渉外事務局勤務を命ぜられ、昭和二五年五月三一日同事務局廃止と共に山
口県総務部渉外課防府駐在員となり、同年六月二一日頃まで引続き前記防府渉外事
務局の残務整理事務に従事し、同局関係文書並に現金保管の責に任じていたもので
あるが
     第一 前記の如く防府渉外事務局が廃止となつた頃、同事務局に配付さ
れた山口県予算中現金に振替えた現金八万円余を業務上保管中同年六月九日頃防府
市E郵便局において、擅に該金員の内金八万円をF名義を以て郵便貯金に預け入れ
て着服横領し
     第二 昭和二五年七月二六日頃山口県吉敷郡a町bc番地の当時の被告
人居宅において法定又は正当の事由がないのに拘らず専売公社の売渡さない製造た
ばこであるラツキーストライク二〇〇本入一箱(但一〇〇本在中)プリンスアルバ
ート三〇瓦入罐四個、ハーフアンドハルト三〇瓦入罐一個(価格合計約金七二五円
相当)を所持していた
     ものであるとの点については被告人は無罪。
         理    由
 弁義人小河虎彦、同小河正儀の控訴の趣意は記録編綴の控訴趣意書記載のとおり
であるから、ここにこれを引用する。
 これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 控訴趣意第一点(判示第一事実に関する事実誤認)について
 所論の要旨は文書偽造罪の成立には、その偽造に係る文書を真正な文書として行
使する目的のあることを要し、又偽造文書の行使というには、該文書を真正な文書
として使用することを要するところ、本件において原判決が有罪として認定した判
示第一の(一)(二)(四)の各文書については、これを行使した相手方であるG
において、右各文書は予算の操作上作成せられたものであつて、該文書の名義人及
びその内容がいずれも真正なものでないことを知悉していたことは各証拠によつて
明かである、されば前記各文書は真正な文書として行使したものでなく、従つて又
真正な文書として行使すそ目的を以て作成したものでもないことも亦明かである、
故にこれを文書偽造並に偽造文書の行使であると認定したのは事実誤認であるとい
うにある。よつて記録並に原審が取調べた各証拠を検討するに、司法警察員作成の
被告人に対する供述調書(第四回)及び検察官に対する被告人の供述調書(第二
回)の各記載によれば、論旨の各文書はいずれも判示防府渉外事務局に配付された
予算の報行に関する証憑書類として山口県出納長に提出すべき書類として作成した
ものであることが認められるので、仮に所論の如く防府渉外事務局長において該文
書が偽造に係るものであることを諒知していたとしても、その文書作成に当つて所
謂行使の目的がなかつたということはできないのみならず、A、Hの各上申書、C
の申述書の各記載によれば、判示第一の(一)(二)(四)の各文書は、いずれも
文書の作成名義を詐つてたされたものであることが認められ、又原審公廷における
Gの供述調書(第一、二回)同人に対する証人尋問調書の各記載によれば、同人が
防府渉外事務局における予算操作に当り占領軍接待費捻出のため諸経費支出額の
「つけ増し」をなし、或は同事務局において備品の買入をしないのに拘らず、これ
を購入した如き内容虚偽の証憑書類を作成することについては、予め被告人に対し
諒解を与えていたことを認められるけれども、斯る文書作成に当つて名義人の承諾
を得ずして他人名義を冒用した文書を作成することについてまで諒解を与えていた
とは到底認めることができない。従つて判示第一の各文書については、いずれの点
から見ても文書偽造罪が成立するは勿論、該文書の使用については、偽造文書の行
使としての刑責を免れないものといわねばならない。それ故原判決には所論の如き
事実誤認はなく、論旨は採用できない。
 同第二点(判示第二事実に関する事実誤認)について
 原判決はその理由において第二事実として、被告人は前記防府渉外事務局に配付
された予算中現金に振替えた金八万余円を業務上保管中、昭和二五午六月九日頃、
その内金八万円を擅にF名義を以て郵便貯金に預け入れ、以てこれを着服横領した
旨認定している。しかし原判決が該事実を認定する証拠として挙示している証拠に
よつては未だ被告人において、該金員につき領得の意思があつたと認定するのは不
十分であるといわざるを得ず、その他本件記録並に原審が取調べた各証拠を綜合検
討するも、被告人の右所為について不法領得の意思を認定するに足りる確証がない
ので結局該公訴事実については犯罪の証明がないことに帰する。してみれば原判決
はこの点において判決に影響を及ぼす事実誤認若くは判決の理由にくいちがいがあ
るものとして破棄を免れない。
 同第三点(判示第三事実に関する事実誤認)について
 所論は、原判決が被告人とIとの間に婚姻の予約すらなく、扶養手当を請求し得
たいと認定したのは事実誤認であるのみならず、本件について被告人は扶養手当を
請求し得ると信じていたので詐欺の犯意がないと主張する。
 しかし原審において取調べたJ、Iの各検察官に対する供述調書の記載によれ
ば、昭和二五年四月頃、従来親族の関係にあつた被告人とIが親族に当るKの養子
となると共に婚姻する話合ができ、その挙式日を同年秋項と予定した程度であつ
て、被告人等は未だ同棲はもとより、結納の取交もなさず、従つて又互に生活費の
扶助もしていないことが認められるので、この程度においては婚姻予約が成立した
と認めるのは相当でないと解するが仮に婚姻予約が成立していたとしても、原審証
人Lの供述調書の記載によれば、山口県における扶養手当支給規則によれば「扶養
手当の支給については次に掲げる者で他に生計の途なく、主として職員の払養を受
けている者を扶養親族とする」「配偶者については、届出をしないが事実上婚姻関
係と同様の事情にある者を含む」旨規定していることが認められるので、配偶者に
準じて扶養手当を受け得る者は、婚姻届出はしないが事実上婚姻関係と同様の事情
にある所謂内内縁関係にあり而も他に生計の途たく、主として当該職員の扶養を受
けている者に限ることは明かである。してみれば本件の如きは扶養手当の対象とな
り得ないことは明瞭であるといわなければならない。而して本件記録に徴し被告人
の地位並に破告人が採つた判示認定の如き手段、方法等に照し、被告人において本
件につき詐欺の犯意を認めるに十分であつて、いずれの点からしても諭旨は採用で
きない。
 同第四点(判示第四事実に関する事実誤認)について
 所論の要旨は本件煙草の所持については、たばこ専売法弟六六条第一項但書にい
う正当の事由ある場合に該当すると解すべきであるというにある。
 <要旨>按ずるに被告人が判示の如く昭和二四年七月二六日頃、被告人居宅におい
て専売公社の売り渡さない製造たばこであるラッキーストライク二〇〇本入
一箱(但一〇〇本在中)プリンスアルバート三〇瓦入罐四個ハーフアンドハルト三
〇瓦入罐一個を所持していたことは争のないところであるか、記録並に原審が取調
べた各証拠によれば、
 一、 被告人は昭和二四年八月以降山口県防府渉外事務局庶務主任として渉外事
務に従事していたので、占領軍から儀礼的に外国たばこの贈与を受ける機会が屡々
あり、且斯る場合贈与を受けることは許されていたこと
 一、 本件たばこはいづれも被告人が当時占領軍将兵から無償で譲受けたもので
あること
 一、 右は昭理二五年七月二六日、他の事件について被告人方を捜索した際警察
官によつて発見押収されたものであること
 一、 本件たばこは被告人が自ら費消するためのものであつて、他に販売その他
商取引の用に供する目的を以て所持したものでないこと
 が認められるので、これらの事情を綜合し、且たばこ専売法が元来国に専属する
専売権の擁護を主要な目的とするものであることに鑑み、本件はたばこ専売法第六
六条第一項但書に所謂正当の事由によりこれを所持する場合に該当するものと解す
べきである。
 しかるに原判決が本件について有罪の言渡をしたのは法令の適用を誤つたもので
あつて、その誤は判決に影響を及ぼすこと明かな場合に相当するのでこの点におい
ても原判決は破棄を免れない。
 以上の理由により刑事訴訟法第三九七条第三八〇条第三八二条に則り原判決中被
告人の有罪部分を破棄し同法第四〇〇条但書により更に当裁判所において判決をす
る。
 罪となるべき事実
 被告人は昭和二二年五月、山口県吏員に任ぜられ、昭和二四年八月三一日山口県
防府渉外事務局勤務となり昭和二五年五月三一日同局が廃止せられるまで同局庶務
主任として同局の庶務会計事務並に山口県から配付せられる予算に関し、その企
画、立案、履行の確認等予算運営の操作、執行の事務に従事していたものであるが
 第一 右防府渉外事務局庶務主任として在職中、占領軍接待費捻出のため
 (一) 昭和二四年一二月二六日頃防府渉外事務局において行使の目的を以て、
擅に防府渉外事務局長G宛の請求書用紙の金額欄に「一万一千八百六十円也」請求
年月日欄に「二十四年十二月二十日」請求者の住所、氏名欄に「山口市dA」と夫
々記入し、その名下に「A」なる有合印を押捺し、因てA(被告人と同名異人)作
成名義の支払請求書一通を偽造し
 (二) 同日頃、右防府渉外事務局において右同様行使の目的を以て、擅に防府
渉外事務局長G宛の請求書用紙の金額欄に「二万二千一百二十円也」請求年月日欄
に「二十四年十二月十日請求者の住所氏名欄に「山口市eB」と夫々記入し、右名
下に「B」なる有合印を押捺し因てB作成名義の支払請求書一通を偽造し
 (三) その頃前記渉外事務局において、前記A名義及びB名義の各偽造請求書
を真正に成立したものの如く装うて一括し同事務局出納員たる同局長Gに提出行使

 (四) 昭和二五年三月一七日頃前記防府渉外事務局において前同様行使の目的
を以て情を知らない同事務局員Mをして、擅に防府渉外事務局長G宛の請求書用紙
の金額欄に「一万四千二百五十九円也」請求年月日欄に「昭和廿五年三月一七日」
請求者の住所氏名欄に「山口県防府市f町C」と夫々記入し、その名下に有合印を
押捺せしめ、因てC作成名義の支払請求書一通を偽造し
 (五) その頃前記防府渉外事務局において右偽造請求書を真正に成立したもの
の如く装うて同局出納員たる同局長Gに提出行使し
 第二 同年五月頃Iと婚姻はもとより、事実上婚姻関係と同様な事情にもなく、
且扶養もしていなかつたのに拘らず妻I分として扶養手当を騙取しようと企て
 (一) 同年同月一九日頃前記防府渉外事務局において行使の目的を以て親族氏
名欄に「I」職員との続柄欄に「妻」職員と同居別居の別欄に「同居」職業欄に
「無」と記載した申請者自己名義の扶養親族認定申請書の所属長認定欄に、擅に
「防府渉外事務局長G」と記入し、その名下に「G」の有合印を押捺し、因てその
所属長が右申請事項を認定した旨の証明文書を偽造しその頃防府市役所においてこ
れを真正に成立したものの如く装うて防府市長に提出行使してその証明を受けた
上、その頃右扶養親族認定申請書を真正なものの如く装い山口県総務部渉外課を経
由して同部人事課に提出し、同人事課係員をしてその旨誤信せしめ因て同年六月二
二日頃右渉外課において家族扶養手当六月分名義の下に金六〇〇円の交付を受けて
これを騙取し
 (二) 同年五月二二日頃前防府渉外事務局において、同局会計係Mに対し、前
記扶養家族認定申請書を県総務部人事課に提出しているから、今月分から計算して
支払調書を書いてくれと真実未だ右人事課から右扶養家族の認定がないのに拘ら
ず、恰も右認定があり扶養家族手当の支給を受けるべき資格が生じた如く虚構の事
実を申向け右Mをしてその旨誤信させ、因てその頃同事務局において同人から山口
県防府渉外事務局俸給予算から同年五月分の扶養家族手当として金六〇〇円を被告
人の俸給に加算交付せしめてこれを騙取し
 たものである。
 証拠の標目
 判示冒頭の事実につき
 一、 被告人の原審公廷における供述調書
 一、 原審における証人Gに対する尋問調書
 一、 被告人の履歴書謄本
 判示第一事実につき
 一、 A、H各作成に係る上申書
 一、 C作成に係る申述書
 一、 証人Gの原審公廷における供述(第一、二回)調書
 一、 証人Gに対する証人尋問調書
 一、 司法警察員作成に係る被告人の第四回供述調書
 一、 検察官に対する被告人の第四回供述調書
 一、 押収に係る請求書三通(証第二号の四、七、九)
 判示第二事実につき
 一、 G、N、O各作成に係る上申書
 一、 証人Gに対する証人尋問調書
 一、 証人Lの原審公廷における供述調書
 一、 証人Mの原審公廷における供述調書
 一、 検察官に対するJ、Iの各供述調書
 一、 検察官に対する被告人の第三回供述調書
 一、 司法巡査作成に係る被告人の第一七回供述調書
 一、 押収に係る扶養親族認定申請書一通(証第一四号)
 法令の適用
 被告人の判示所為中、判示第一の各私文書偽造の点は夫々刑法第一五九第一項
に、同行使の点は各同法第一六一条第一項、第一五九条第一項に、判示第二の公文
書偽造の点は同法第一五五条第一項に同行使の点は同法第一五八条第一第一五五条
第一項に、詐欺の点は同法第二四六条第一項に各該当するところ、判示第一の各私
文書偽造と同行使は夫々手段結果の関係にあるので同法第五四条第一項後段を適用
し、且判示第一の(三)の偽造私文書行使は一個の行為にして数個の罪名に触れる
ので同条第一項前段を適用し夫々同法第一〇条に従い各最も重いと認める判示第一
の(二)及(四)の各私文書偽造の罪について定める刑に従うこととし、判示第二
の(一)の公文書偽造、同行使、詐欺は夫々手段結果の関係にあるので同法第五四
条第一項後段第一〇条により最も重いと認める公文書偽造罪の刑に従うこととし、
以上は同法第四五条前段の併合罪であるから同法第四七条第一〇条に従い最も重い
公文書偽造罪の刑に併合罪の加重をした刑期範囲内において被告人を懲役一年に処
し、情状に鑑み同法第二五条第一項を適用し本裁判確定の日から二年間右刑の執行
を猶予し、押収に係る主文第四項掲記の請求書三通、扶養親族認定申請書一通の各
偽造部分は判示第一の(一)(二)(四)及び判示第二の(一)の各犯罪の組成物
件であつて何人の所有をも許さないので同法第一九条第一項第一号第二項に従いい
ずれもこれを没収し、原審における訴訟費用中証人Dに支給した分は刑事訴訟法第
一八一条第一項を適用し被告人をして負担せしある。
 尚本件公訴事実中、主文第六項掲記の各事実については、曩に論旨第二、第四に
ついて説示した理由により業務横領の点については犯罪の証明なく、又たばこ専売
法違反の点については罪とならないので夫々主文において無罪の言渡をする
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 柳田躬則 判事 尾坂貞治 判事 石見勝四)

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