弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主       文
       被告人Aを懲役2年4月に,被告人B及び被告人Cをそれぞれ懲役
2年に各処する。
       未決勾留日数中,被告人Aに対しては110日を,被告人Bに対し
ては100日を,被告人Cに対しては30日を,それぞれその刑に算入する。
この裁判が確定した日から,被告人B及び被告人Cに対し,各3年
間,それぞれその刑の執行を猶予する。
理       由
(犯罪事実)
第1 被告人Aは,
 1 公安委員会の運転免許を受けないで,平成14年10月6日午後3時40分
ころ,山梨県北巨摩郡a町bc番地付近道路において,普通貨物自動車(○○<ナ
ンバー:掲載者注>)を運転した
 2 公安委員会の運転免許を受けないで,平成16年5月15日午後6時35分
ころ,山梨県中巨摩郡d町ef番地g付近道路において,普通貨物自動車(○○<
ナンバー:掲載者注>)を運転した
 3 前記第1の2記載の日時ころ,業務として同記載の普通貨物自動車を運転
し,同記載の場所先の交通整理の行われていない交差点を昭和町西条新田方面から
国母五丁目方面に向かい直進するにあたり,同交差点手前には一時停止の道路標識
が設置されており,左右道路の見通しも困難であったから,同交差点の停止位置で
一時停止して左右道路からの車両の有無に留意し,その安全を確認しながら進行す
べき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,交通閑散であったことに気を許し,
同交差点の停止位置で一時停止せず,左右道路からの車両の有無に留意しないで,
その安全確認不十分のまま,漫然時速約20キロメートルで同交差点に進入した過
失により,折から左方道路から直進してきたD(当時28歳)運転の普通乗用自動
車の右側面に自車前部
を衝突させ,よって,同人に加療約10日間を要する外傷性頭頚部症候群の傷害を
負わせた
 4 前記第1の2記載の日時場所において,同記載の普通貨物自動車を運転中,
前記第1の3記載のとおり,同記載のD運転の普通乗用自動車の右側面を損壊する
交通事故を起こしたのに,その交通事故発生の日時及び場所等法律の定める事項
を,直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかった
 5 平成16年6月上旬ころ,山梨県甲府市hi丁目j番k号資材置場におい
て,有限会社E代表取締役F管理にかかる普通乗用自動車1台(時価約5万円相
当)を窃取した。
第2 被告人A,被告人B及び被告人Cは,被告人G,H,I及びJと共謀の上,
Hが組長をしている暴力団組織から無断で脱退しようとして逃走したり,Hの妻の
金を持ち逃げしたり,Hの情婦に気があるような態度をとったりしたこと
でHの怒りを買っていたK(当時31歳)に制裁を加えるため,同人
を逮捕監禁しようと企て,平成16年8月23日午前2時30分ころ,山梨県
甲府市lm丁目n番o号Lp号室において,上記Kに対し,Hが「今から生き地獄
見してやるから。」などと怒号して脅迫し,被告人Cらが紙製粘着テープで上記K
の目隠しをし,両手首,両足首を緊縛し,被告人Aが上記Kの背中を木刀で殴打す
るなどした上,上記Kの身体を毛布でくるんでロープで縛り,普通乗用自動車のト
ランクに入れ,同市qr丁目
s番t号に所在するG名義(当時)の家屋に連行し,引き続き,手錠等で上記Kの
手足を緊縛し,被告人Aらが上記Kの行動を監視するなどして,同市u町v番地被
告人A方及び同県山梨市wx番地yMz号室に連行し,よって,同月31日午後5
時ころまでの間,上記Kがその場から脱出することを不能ならしめ,もって同人を
不法に逮捕監禁し,その際,上記一連の暴行により,同人に全治約10日間を要す
る両手関節部,両下腿挫傷及び腰部挫傷の傷害を負わせた。
(法令の適用)
1 被告人Aについて
同被告人の判示第1の1,2の各所為はいずれも道路交通法117条の4第1
号,64条に,判示第1の3の所為は刑法211条1項前段に,判示第1の4の所
為は道路交通法119条1項10号,72条1項後段に,判示第1の5の所為は刑
法235条に,判示第2の所為は包括して同法60条,221条にそれぞれ該当す
るところ,判示第2の罪について同法10条により逮捕監禁罪(同法220条)の
刑と傷害罪の刑(行為時においては平成16年法律第156号(刑法等の一部を改
正する法律)による改正前の刑法204条に,裁判時においてはその改正後の刑法
204条によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったとき
に当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)とを比較し,重
い傷害罪について定
めた懲役刑(ただし,短期は逮捕監禁罪の刑のそれによる。)に従って処断するこ
ととし,判示第1の1ないし4の各罪について所定刑中いずれも懲役刑を選
択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により
最も重い判示第2の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役2年
4月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中110日をその刑に算入し,訴
訟費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して同被告人に負担さ
せないこととする。
2 被告人B,被告人Cについて
  同被告人らの判示第2の各所為はいずれも包括して同法60条,221条に該
当するから,同法10条により逮捕監禁罪(同法220条)の刑と傷害罪の刑(行
為時においては前記改正前の刑法204条に,裁判時においてはその改正後の刑法
204条によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったとき
に当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)とを比較し,
重い傷害罪について定めた懲役刑(ただし,短期は逮捕監禁罪の刑のそれによ
る。)に従ってそれぞれ処断することとし,その所定刑期の範囲内で同被告人らを
いずれも懲役2年に処し,同被告人らに対しいずれも同法21条を適用して未決勾
留日数のうち,被告人Bに対しては100日を,被告人Cに対しては30日を
それぞれその刑に算入し
,同被告人らに対しいずれも情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定
した日から3年間その刑の執行を猶予し,訴訟費用は,いずれも刑事訴訟法181
条1項ただし書を適用して同被告人らに負担させないこととする。
(量刑の理由)
1 本件は,
 ・ 被告人A,被告人B及び被告人Cが,判示のとおりの経緯で,組長であるH
(以下「H」という。)らと共謀の上,被害者をガムテープ,手錠,ロープ等で緊
縛した上,車のトランクに押し込んで場所を転々としつつ,組事務所や民家等に約
9日間にもわたって監禁し,その間,木刀で殴打するなどの暴行を加え,その結
果,被害者に両手関節部,両下腿挫傷及び腰部挫傷の傷害を負わせたという逮捕監
禁致傷の事件(判示第2)と,
 ・ 一度として運転免許を取得したことのない被告人Aが,2回にわたって無免
許運転をした上,うち1回は交差点で出会い頭の人身事故を惹起したあげく,報告
義務を怠って逃走し,さらに,自分で乗り回せる車欲しさに自動車を盗んだとい
う,道路交通法違反,業務上過失傷害,窃盗の事件(判示第1)
とからなる事案である。
2・ まず,判示第2の逮捕監禁致傷について見るに,本件は,暴力団組織を無断
で脱退しようとして逃走するなどした被害者に制裁を加える目的で,組長Hの
命令の下,組員である被告人らにより組織的に敢行されたものであり,暴力団特有
の粗暴な行動傾向が如実に現れた犯行であり,その短絡的かつ身勝手な動機に
酌量の余地はない。
その犯行態様は,被告人Cらにおいて被害者を緊縛し,被告人Aも加
わって簀巻き状態にした上,被告人Bらが運転する車のトランクに押し込んで監禁
先を転々としつつ,被告人Aらが監視を続ける中,組事務所や民家等に約
9日間にもわたって監禁し,その間,Hが殴る蹴るの暴行を加えたほか,
Hの指示を受けた被告人Aにおいて木刀で被害者の背中を殴打するなどHが中心と
なって被害者に対し一方的に暴行を加えたというのであって,執拗かつ凶悪であ
る。
もとより被害者においてこれほどの制裁を受けなければならないような落ち
度はなかったものといわなければならない。被害者は,生き地獄を見せてやるなど
と脅迫されて約9日間もの長期間にわたって監禁されたものであるが,暴行を受け
たり緊縛されたりしたことによる肉体的苦痛はおろか,当初は殺されるかもしれな
いという恐怖に晒されていたのであり,その後もいつ解放されるか全く分からない
状況で,四六時中暴力団組員に監視されていたもので,その精神的苦痛も甚大
なものであったと推察される。にもかかわらず,いまだ何らの慰謝の措置も講じら
れておらず,当然のことながら被害者の処罰感情には厳しいものがある。
以上のように,逮捕監禁致傷の犯情はまことに悪質であるところ,被告人A
は,最初から最後まで犯行に関与していただけでなく,被害者を木刀で殴ったり,
見張り役を担当したりしており,本件犯行においてHに次いで中心的な役割を果た
していたもので,その責任は重大である。被告人Bは,主として
監禁場所を移す際の運転手役を担っていたものであり,被告人Cは,被害者の手足
を緊縛したもので,いずれもその責任を軽視することはできない。
・ 次に,判示第1の被告人Aによる道路交通法違反,業務上過失傷害,窃盗
の犯行についてみるに,被告人には無免許運転の顕著な常習性が認められるだけで
なく,無免許で乗り回す車を手に入れることを目的として窃盗にまで及んでおり,
規範意識は著しく鈍麻していたと見るほかない。人身事故については,運転者とし
ての初歩的な注意義務を怠って人身事故を起こしただけでなく,その際に,事故の
報告という運転者としての基本的な義務を怠っており,
犯情はまことに悪質であり,厳しい非難を免れない。また,窃盗については,無免
許でありながら車がほしいという理由で短絡的に犯行に及んでおり,動機に酌量の
余地はないし,かつての勤務先の合い鍵を悪用するなど計画的に犯行に及んでお
り,犯行態様も悪質である
。自動車は有用性も高く,結果も軽視することはできない。
3 しかしながら,他方,
 ・ 判示第2の逮捕監禁致傷について見るに,被害者が必死の思いで警察に連絡
したことで事件が警察の知るところとなり,その後,共犯者のIが被害者の居場所
を警察に通報したことで被害者が警察に保護されたことにより,その生命
は無事であったこと,被告人らが本件犯行に関与したのは,組長であるHから指示
されたことにあり,被告人ら自身はいずれも被害者を監禁したり暴行を加えたりす
ることを積極的に望んでいたわけではなく,Hの逆鱗に触れて巻き添えに
なることを恐れて,Hに命じられるままに終始従属的な立場で犯行に関与したもの
であること,被告人Aらは,Hの命令で被害者を見張っている間,被害者のロープ
や手錠を外してやったり,被害者の怪我の手当をしてやるなど,同被告人らの立場
でそれなりの配慮をして
いたこと,
 ・ 判示第1の被告人Aによる,道路交通法違反,業務上過失傷害,窃盗の犯行
について見るに,業務上過失傷害については不幸中の幸いではあるが被害者の傷害
が判示の程度にとどまったこと,窃盗については被害品が既に還付されているこ
と,
 ・ その他,いずれの被告人も,当公判廷において,自分の関与した犯行につい
て素直にこれを認めて反省の態度と被害者に対する謝罪の気持ちを示し,今後は暴
力団とは縁を切り正業に就く旨述べ更生の意欲がうかがえること,被告人らにはい
ずれも前科があるものの,いずれも10年以上前の古い前科しかないこと
,その他被告人A,被告人Cの健康状態など,被告人らにとって酌むべき事情も認
められる。
4 以上の諸事情を慎重に総合考慮した結果,被告人B,被告人Cについては,社
会内で更生する機会を与えるのを相当と認め,主文のとおりの刑を科した上で,そ
の刑の執行を猶予するのが相当であるが,被告人Aについては,同被告人のために
考慮するべき諸事情を十分に考慮しても,既に説示したところから明らかなように
逮捕監禁致傷における刑責はその役割からしてHに次いで重いものというべきであ
ることや,その他の犯行からもうかがわれる規範意識の乏しさにかんがみれば,主
文掲記の実刑に処するのが相当である。
5 よって,主文のとおり判決する。
(検察官千石奈央,国選弁護人深澤勲〔被告人A〕,国選弁護人八巻力也〔被告人
B〕,国選弁護人小澤義彦〔被告人C〕各出席)
(求刑 懲役3年〔被告人A〕,懲役2年〔被告人B,C〕)
  平成17年2月23日
     甲府地方裁判所刑事部
         裁判長裁判官   川  島  利  夫
            裁判官   柴  田     誠
            裁判官   肥  田     薫

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