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平成18年(行ケ)第10430号審決取消請求事件
平成19年3月29日判決言渡,平成19年2月6日口頭弁論終結
判決
原告田中金属株式会社
訴訟代理人弁理士新関和郎
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人山崎裕造,岩井芳紀,田中敬規
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
「特許庁が不服2005−13752号事件について平成18年8月18日にし
た審決を取り消す」との判決。。
第2事案の概要
本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部
分がある。
本件は,原告が,意匠に係る物品を「金属製ブラインドのルーバー」とする意匠
,,登録出願について拒絶査定を受けたためこれを不服として審判請求をしたところ
審判請求は成り立たないとの審決がなされたため,同審決の取消しを求めた事案で
ある。
1特許庁における手続の経緯
(1)本件登録出願(甲19)
出願人:田中金属株式会社(原告)
出願日:平成16年6月18日
出願番号:意願2004−18268号
意匠に係る物品:金属製ブラインドのルーバー」「
意匠に係る物品の形態:別紙1のとおり(以下「本願意匠」という)。
(2)本件手続
拒絶査定日:平成17年6月10日
審判請求日:平成17年7月19日(不服2005−13752号)
審決日:平成18年8月18日
審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない」。
審決謄本送達日:平成18年9月5日
2審決の要点
審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本願意匠は,特許庁発行(発
行日:平成13年3月5日の意匠公報記載に係る意匠登録第1102958号審)(
決別紙2。意匠に係る物品は,建築物の通気壁用ルーバー材。以下「引用意匠」と
いう)の意匠に類似し,意匠法3条1項3号に該当するから,意匠登録を受ける。
ことができないというものである。
(1)本願意匠と引用意匠の対比
「本願意匠と引用意匠を対比すると,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,その形態につい
ては,主として以下の共通点及び差異点が認められる。
すなわち,両意匠は,共通点として,
(1)後端部それぞれに相互向き合い鉛直面を形成する細幅係止縁部を設けた上下2枚の横長
帯状板状体を,前端付近で鋭角状に接合し,両板状体の間に鉛直状の補強壁を前後中央やや後
寄りに設け,前端が下面後端よりもやや下がった側面視概略倒A字状の構成としたものであっ
て,上側板状体部は短手方向に僅か上方に膨らむ凸弧面状とした,同一断面形状が横方向に連
続するものである点,
(2)前後幅について,後端の上下幅のほぼ2倍とし,補強壁を設けた位置について,後端か
ら前後幅の概ね1/4程とし,細幅係止縁の幅について,何れも後端上下幅の1/4程とし,
上面後端から前端までの下がり角度について,概ね30°強とした点,
(3)前端接合部の内側,及び,補強壁の前側上下ほぼ中央に,ビスホールが形成されている
点,がある。
次に,主な差異点として,
(ア)前端部について,引用意匠は,上側板状体部の前端が下側板状体部の前端を超え延長し
た態様の水切り縁部を設けているのに対して,本願意匠は,上側板状体部と下側板状体部の前
端位置が一致し,引用意匠が有する水切り縁部に相当するものがない点,
(イ)下面部について,引用意匠は,前端の水切り縁部を除き平面状としているのに対して,
本願意匠は,補強壁の前側下端が後側溝壁を形成するV字状凹溝を設けており,その溝部を除
く全体を凹湾曲(上方凸湾曲)状とした点,がある」。
(2)類否判断
「そこで,上記の共通点及び差異点について,両意匠を意匠全体として比較した場合におけ
る類否判断に及ぼす影響について検討する。
まず,共通点について(1)の共通点に係る構成態様は,意匠全体の骨格を構成するもの,
であり(2)の点は,その骨格を構成する各部相互の構成比率,及び,形成角度に関するも,
ので,両意匠の共通感を大きく強める効果をするものであり,これら(1)及び(2)の共通
点に係る構成態様は,相まって訴求力の強い共通した意匠全体の視覚的まとまりを形成するも
のであるから,これらを併せ持った点は類否判断に大きな影響を及ぼすものである。
(3)の点については,微小,且つ,この種意匠の分野において必要に応じて適宜任意に設
けられるもので,類否判断に及ぼす影響は僅かである。
これに対して,両意匠の差異点は,何れも微弱であり,意匠全体としてみた場合には,類否
判断に及ぼす影響は極く僅かである。
すなわち(ア)の差異点について,引用意匠が有する水切り縁部は意匠全体からみれば細,
幅のものであり,本願意匠も後述するように下面側を凹曲面状としたことにより,先端部の形
成角度はかなり小さく尖った態様であることから,その差異は視覚的に微弱であり,また,本
願意匠において引用意匠が有する水切り縁部を廃したことについて,格別な特徴があるものと
は認められないから特に着目されるわけでもない。
(イ)の差異点については,何れも下面側に関するものであるだけでなく,本願意匠のV字
状溝部は,意匠全体からみれば微細なものに過ぎないものであり,また,本願意匠のV字状溝
部を除く全体が凹湾曲状としているとしても僅かな湾曲に過ぎないから,下面側全体としては
微弱な差異にすぎない。
このように(1)及び(2)の共通点に係る構成態様を併せ持った点は,類否判断に大き,
な影響を及ぼすものであり(ア)及び(イ)における差異点は,何れも微弱なもので類否判,
断に及ぼす影響は僅かにすぎず,また,差異点に係る構成態様が相まって生じさせる視覚的効
果を総合したとしても,意匠全体として見た場合には(1)及び(2)の共通点に係る構成,
態様が形成する訴求力の強い意匠全体の共通した視覚的まとまりに吸収されてしまう程度のも
,,,ので別異の視覚的まとまりを形成するまでに至っているとは到底いえないものであり結局
本願意匠は引用意匠に類似するといわざるを得ないものである」。
(3)結論
「したがって,本願意匠は,意匠法3条1項3号の意匠に該当し,同条1項の規定により,
意匠登録を受けることができない」。
第3原告の主張の要点
,,,審決は本願意匠と引用意匠の共通点(1)の認定を誤り差異点を看過した結果
,。両意匠が類似していると誤って判断したものであるから取り消されるべきである
1取消事由1(共通点(1)の認定の誤り)
審決が認定した本願意匠と引用意匠との共通点(1)を分説すると,①後端部それ
ぞれに相互向き合い鉛直面を形成する細幅係止縁部を設けた上下2枚の横長帯状板
状体を,前端付近で鋭角状に接合し,②両板状体の間に鉛直状の補強壁を前後中央
やや後寄りに設け,③前端が下面後端よりもやや下がった側面視概略倒A字状の構
成としたものであって,④上側板状体部は短手方向に僅か上方に膨らむ凸弧面状と
した,⑤同一断面形状が横方向に連続するものである点,となるが,このうち,①
∼③の構成は,引用意匠は備えているものの,本願意匠は備えていない点であるか
ら,審決の上記認定は誤りである。
以下,その理由を下記図面(符号は説明の便宜上付したもの)に則して説明す。
る。
,,本願意匠の下側の横長帯状板状体bは上側の横長帯状板状体aの前端付近から
上向きの弧状に湾曲して後方に延び,その後端部において斜め後方上方に鈍角状に
屈曲する直板状部(以下「b」という)となり,直板状部b’の後端が,補強壁’。
cの前面の上下中央よりやや下がった部位に接合している。そして,細幅係止縁部
dは,鉛直状の補強壁cの下端から後方にアングル状に折曲して突出する上向きの
凸弧面状に湾曲した下面後部の横長帯状板状体eの後端に設けられ,上側の横長帯
状板状体aの後端部に設けた細幅係止縁部dと相互に向き合い鉛直面を形成してい
る。
したがって,本願意匠の下側の横長帯状板状体bは,後端部が鉛直状の補強壁c
の前面に接合するものであり,本願意匠が「後端部それぞれに相互向き合い鉛直面
を形成する細幅係止縁部を設けた上下2枚の横長帯状板状体」を備えているとはい
えない。
また,鉛直状の補強壁cは,上側の横長帯状板状体aの前後中央やや後寄りの部
位から,下側の横長帯状板状体bの後端の後面を経て,下端まで鉛直状に垂下して
いるのであるから,本願意匠が「両板状体の間に鉛直状の補強壁を前後中央やや後
寄りに設け」との構成を備えているとはいえない。,
さらに,本願意匠は,前端付近で鋭角状に接合する上下2枚の横長帯状板状体a
及びbのうち,下側のbが,鉛直状の補強壁cの前面の下端寄りから前方斜め下方
に向かう直板状部b’として短く突出した後,略水平な方向に屈曲し,上方に向け
凸弧面状に湾曲して上側の横長帯状板状体aの前端付近に接合する形態のものであ
り,下面後部の横長帯状板状体eを含まないのであるから,その形状は不等辺直角
三角形を構成する程度にすぎず,本願意匠が「前端が下面後端よりもやや下がった
側面視概略倒A字状の構成とした」との構成を備えているとはいえない。
また,本願意匠は,下方に開放する台形の上面の右方に寄せた部位に,横向きの
ペン先が,それの先端側を左方に突出していくよう,左方に傾斜して立設したペン
軸の先端のように印象される形状,あるいは全体が弧状に湾曲する細身で鶴嘴状又
は弧状のラッパ状に湾曲する形状である。ローマ字の大文字「A」は,活字体にお
いてはもちろんのこと,筆記体または装飾体においても,本願のように表記される
ことはない。したがって,本願意匠の形状が側面視概略倒A字状であるとの審決の
認定は誤りである。
2取消事由2(差異点の看過)
審決には,本願意匠と引用意匠との以下の差異点を看過している誤りがある。
(1)全体の基本構成の差異
本願意匠における全体の基本構成は,審決が認定した共通点(1)の上記①∼③の
構成を具備せず,引用意匠とは異なる。したがって,本願意匠と引用意匠は,全体
の基本構成を明らかに異にするものであるが,審決はこの点を看過している。
(2)美感の差異
審決は,本願意匠と引用意匠の美感の差異を看過している。
本願意匠においては,下記の図3に示されているように,点P1を中心とする所
定の曲率の円弧Aを描き,次いでこの円弧Aより小径の円弧Bを,円弧Aと所定の
角度をもって重合するように,中心点P2を円弧Aの中心点P1に対しずらせて描
き,さらに,2つの円弧A・Bの接合点Oから設計しようとするルーバーLの後端
とする位置と,それより接合点Oにやや寄る位置とに,それぞれ垂線C・Dを描い
た上で,上側の横長帯状板状体a,下側の横長帯状板状体b,下面後部の横長帯状
板状体e,鉛直状の補強壁c,上下の細幅係止縁dを描いたものである。
これに対し,引用意匠は,下記の図4に示されているように,点Pを中心とする
所定の曲率の円弧Aを描き,これと所定の角度をもって交差する直線Bを略水平に
描き,この略水平な直線Bと円弧Aとの交点Oから設計しようとするルーバーLの
後端とする位置と,それより交点Oにやや寄る位置とに,それぞれ垂線Cと垂線D
とを描いた上で,上側の横長帯状板状体a,下側の横長帯状板状体b,鉛直状の補
強壁c,上下の細幅係止縁d,水切り縁部fを描いたものである。
このように,本願意匠及び引用意匠は,それぞれ異なる作図手法により作図され
設計されているものであり,引用意匠にあっては,円弧Aと,これと所定の角度で
交差する略水平な直線Bと垂線C・Dとを用いて,直線を主体として基本の形状を
描いていく手法によることから,角張ったものとなり,そのプロポーションも,ず
んぐりした形状であることが特徴である。これに対し,本願意匠にあっては,交差
する大径と小径の2つの円弧A・Bと垂線C・Dとを用いて,円弧状の曲線を主体
として基本の形状を描いていく手法によることから,弧状のものとなり,そのプロ
ポーションは,細身で湾曲した形状であることが特徴である。その結果,両意匠に
は,看者に異なる印象を与える美感が必然的に生じているのである。審決は,この
点の差異を看過したまま判断をしたものである。
(3)構成比率と形成角度の差異
引用意匠では,下面側の横長帯状板状体を,前端が後端よりやや下がって上面側
の横長帯状板状体の前端付近に鋭角状に接合する平板状としていることから,上下
幅と前後幅の比が,前後方向の各部において略一定になる形状となっているのに対
,,,し本願意匠にあっては上面側の横長帯状板状体aを上方に膨らむ凸弧面状とし
下面側の前後の横長帯状板状体b・eで形成する弧面を,前端側と後端側両方が下
降傾斜する形状としていることから,上下幅と前後幅との比が,前後方向の各部に
おいて,後端に向かうに従い大きくなるよう変化する形状となっている。また,角
度は,引用意匠では,前後方向の各部において,略一定であるが,本願意匠では,
前端側では5度程度の小さい角度であるが,後端側では30度を超える大きな角度
となっている。審決は,このような差異を看過したものである。
3取消事由3(類否判断の誤り)
前記のとおり,審決は,本願意匠と引用意匠との共通点(1)の認定を誤り,差異
点を看過した上で,両意匠は類似していると判断したものであるから,その認定の
誤りが,審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。両意匠の共通点と差異点
を誤りなく判断すれば,両意匠は類似していないことは明らかである。
第4被告の主張の要点
原告の取消事由はいずれも理由がなく,審決に違法な点はない。
1取消事由1(共通点(1)の認定の誤り)に対して
本願意匠のうち,前側の符号bと後側の符号eで示す横長帯状板状体は,相互延
(,),,長上にある弧の中心が一致し高低差がないことから審決が認定したとおり
下面部としては緩やかな単一凹弧面に設けられたV字状凹溝としてしか視認するこ
とができないもので,審決が差異点(イ)として「補強壁の前側下端が後側溝壁を形
成するV字状凹溝を設けており」と認定した点を,実質的に言い換えただけのもの
である。しかも,V字状凹溝は,実質的に付加機能的な水切り溝にすぎない。
審決が共通点(1)において「側面視概略倒A字状の構成」と認定した点について
は「倒A字状」の前に「概略,後に「構成」を加えているのであって,側面図そ,」
のものが「倒A字状に見える」という理由から「側面視概略倒A字状の構成」と認
定したものではない。そもそも「前端が下面後端よりもやや下がった側面視概略,
倒A字状の構成とした点については本願意匠の最大の構成要素の1つである上」,「
」,面側と下面側が共に水平よりも下がった構成を明確に表現するためのものであり
共通点(1)における「上下2枚の横長帯状板状体を,前端付近で鋭角状に接合し,
両板状体の間に鉛直状の補強壁を前後中央やや後寄りに設け」たとの認定と実質的
に同じ構成を重複的に表現したものである。
原告は,本願意匠の形状について,ペン軸の先端のように印象される形状である
と主張するが,原告独自の見解であり,また,側面図の図形的印象そのものが類否
判断の主たる対象となるわけではない。
2取消事由2(差異点の看過)に対して
(1)全体の基本構成の差異
前記のとおり,審決の共通点(1)の認定に誤りはないのであるから,同共通点の
上記①∼③の構成に関する認定が誤っていることを前提として本願意匠と引用意匠
の基本構成が異なるとする原告の主張には理由がない。
(2)美感の差異
,,,原告は本願意匠と引用意匠では作図手法が異なるなどと主張するが両意匠は
引用意匠では下面側形状が直線で作図されているのに対して,本願意匠では同形状
が円弧として作図されている点は異なるものの,その形状には実質的差異を見いだ
すことができない。また,原告の主張する差異は,側面図の平面図形としての視覚
的印象に関する差異にすぎず,立体形態そのものの美感についての差異ではない。
審決は,意匠に係る物品(特に使用の状態)を考慮し「視覚を通じて美感を起こ,
させるもの」であることを前提として認定判断しているから「美感」という用語,
を用いていないとしても,美感上の差異について看過したわけではない。
(3)構成比率と形成角度の差異
本願意匠と引用意匠との,構成比率及び形成角度については,審決が共通点(2)
で認定したとおりであり,両横長帯状板状体の形成角度が概ね30°以下であるこ
とも含め,ほぼ共通している。
3取消事由3(類否判断の誤り)に対して
,,以上によれば共通点及び差異点についての審決の認定には誤りがないのであり
この認定に基づく類否判断にも誤りはない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(共通点(1)の認定の誤り)について
審決は,本願意匠と引用意匠の共通点として,共通点(1)∼(3)を認定したが,原
告は,共通点(1)に係る構成のうち,①「後端部それぞれに相互向き合い鉛直面を
形成する細幅係止縁部を設けた上下2枚の横長帯状板状体を,前端付近で鋭角状に
接合し」との構成,②「両板状体の間に鉛直状の補強壁を前後中央やや後寄りに,
設け」との構成,③「前端が下面後端よりもやや下がった側面視概略倒A字状の,
,」,,構成としたものであってとの構成はいずれも引用意匠は具備しているものの
本願意匠は具備しないものであるから,審決がこれらの点を共通点と認定したのは
誤りであると主張する。
,,「」,(1)原告は上記①の構成について本願意匠の下側の横長帯状板状体をb
「b「e」の3部分に分けた上で,細幅係止縁部dは,下面後部の横長帯状板’」,
状体eの後端に設けられたものであり,横長帯状板状体bの後端部に設けられてい
るものではないから,本願意匠は「後端部それぞれに相互向き合い鉛直面を形成,
する細幅係止縁部を設けた上下2枚の横長帯状板状体を,前端付近で鋭角状に接合
し」との構成を具備しないと主張する。,
しかしながら,本願意匠の上下の横長帯状板状体は,前端の接合部から上下対と
なって円弧状に後方に延び,その後端は同一鉛直線上に位置して,そこから細幅係
止縁部が向き合うようにして鉛直状に延びているものであり,このような構成に照
らすと,上下いずれも,前端付近の接合部から後端部までが1枚の横長帯状板状体
を構成するものと理解するのが相当である。原告は,下側の横長帯状板状体をb,
b,eの3部分に分けるが,bとeとは同一の弧面を形成している上,b’は横’
長帯状板状体のごく一部がV字状凹溝を形成しているにすぎないのであるから,下
側の横長帯状板状体についても,前端付近の接合部から後端部までを一体のものと
して把握すべきである。
このように,本願意匠の上下の横長帯状板状体について,前端付近の接合部から
後端部までが1枚の横長帯状板状体を構成するものと理解すると,本願意匠と引用
意匠は,いずれも「後端部それぞれに相互向き合い鉛直面を形成する細幅係止縁部
を設けた上下2枚の横長帯状板状体を,前端付近で鋭角状に接合し」との構成を,
備えていると認められるので,上記①の構成を共通点とした審決の認定に誤りはな
いことになる。
(2)原告は,上記②の構成について,下側の横長帯状板状体をb,b,eの3’
部分に分けることを前提とし,鉛直状の補強壁cは,bの後端の後面を経て,下端
まで鉛直状に垂下しているのであるから「両板状体の間に鉛直状の補強壁を前後,
中央やや後寄りに設け」との構成を具備していないと主張する。,
しかしながら,下側の横長帯状板状体についても,前端付近の接合部から後端部
までを一体のものとして把握すべきことは,前記判示のとおりであり,このように
理解すると,本願意匠と引用意匠とは,上記②の構成を備えている点で共通すると
いうことができる。
(3)原告は,上記③の構成について,下側の横長帯状板状体をb,b,eの3’
部分に分けることを前提とすると,aとbとは不等辺直角三角形の形状を構成する
にすぎず,また,b,b,eを含めた形状を前提としても,本願意匠は,下方に’
開放する台形の上面の右方に寄せた部位に,横向きのペン先が,それの先端側を左
方に突出していくよう,左方に傾斜して立設したペン軸の先端のように印象される
,「」形状であるので前端が下面後端よりもやや下がった側面視概略倒A字状の構成
ではないなどと主張する。
確かに,本願意匠の上下の横長帯状板状体は円弧状であって,直線ではなく,ま
た本願意匠の下側の横長帯状板状体にはV字状凹溝のb’が形成されているので,
その形状は,大文字のアルファベットAの形状そのものではないが,審決は,本願
意匠の形状を「概略倒A字状」と認定しているにすぎず,前記判示のとおり,V字
状凹溝のb’も,下側の横長帯状板状体のごく一部を形成するにとどまる。本願意
匠と引用意匠を対比すると,いずれも,上下の横長帯状板状体が前端部で接合し,
そこから両板状体が一定の角度を形成して後方に延び,その間を架橋するかのよう
な形で補強壁cが鉛直状に設けられているのであるから,本願意匠と引用意匠の形
状が「概略倒A字状」である点で共通するとした審決の認定に誤りがあるというこ
とはできない。
(4)以上によれば,原告の主張する取消事由1は理由がない。
2取消事由2(差異点の看過)について
(1)原告は,本願意匠の全体の基本構成は,審決が認定した共通点(1)の上記①
,,∼③の構成を具備せず本願意匠と引用意匠とは基本構成が異なるにもかかわらず
審決はこの点を看過していると主張する。
しかしながら,審決の共通点(1)の①∼③の構成の認定に誤りがないことは,前
記判示のとおりであり,他に,本願意匠と引用意匠の全体の基本構成が異なり,こ
れを審決が看過したと認めるに足る的確な証拠はない。
(2)原告は,本願意匠及び引用意匠とは,それぞれ異なる作図手法により作図
され,引用意匠にあっては,直線を主体として基本の形状を描いていく手法を採用
しているのに対し,本願意匠にあっては,円弧状の曲線を主体として基本の形状を
描いていく手法を採用していることから,看者に異なる美感を与えるが,審決はこ
の美感上の差異を看過していると主張する。
しかしながら,本願意匠と引用意匠の上側の横長帯状板状体はいずれも円弧状で
あり,両板状体の間に鉛直状の補強壁はいずれも直線状であることからすると,引
用意匠は直線を主体とする形状であり,本願意匠は円弧状の曲線を主体とする形状
であるとは必ずしもいえないのであり,しかも,本願意匠の下側の横長帯状板状体
の湾曲はそれほど大きいものではなく,引用意匠の下側の横長帯状板状体と対比し
て,その美感上の差異が大きいということはできない。
したがって,本願意匠及び引用意匠は,その作図手法の相違から,看者に大きく
異なる美感を与えるということはできず,審決がこの点を差異点として認定しな
かったことが誤りということはできない。
(3)原告は,引用意匠では,上下幅と前後幅の比が,前後方向の各部において
略一定であるのに対し,本願意匠では,同比が,前後方向の各部において,後端に
向かうに従い大きくなるように構成されているとの差異があると主張する。
しかしながら,原告の主張する上下幅と前後幅の比についての差異は,結局のと
,,ころ本願意匠と引用意匠の下側の横長帯状板状体の形状の差異によるものであり
審決はこの点を差異点(イ)として認定し,その類比判断において考慮しているので
あるから,審決がこの点を看過しているということはできない。
また,原告は,引用意匠では,角度が前後方向の各部において略一定であるが,
本願意匠では,前端側では5度程度の小さい角度であるが,後端側では30度を超
える大きな角度となっているという差異があると主張する。
しかしながら,原告が主張する角度の差異も,本願意匠と引用意匠の下側の横長
帯状板状体の形状の差異によるものであり,審決はこの点を差異点(イ)として認定
し,その類比判断において考慮しているのであるから,審決がこの点を看過してい
るということはできない。
(4)以上によれば,原告の主張する取消事由2は理由がない。
3取消事由3(類否判断の誤り)について
以上のとおり,本願意匠と引用意匠との共通点についての審決の認定に誤りはな
く,審決が差異点を看過したともいうことができない。審決の認定した,本願意匠
と引用意匠の基本的構成,各部相互の構成比率,形成角度などの共通点は,両意匠
に視覚的なまとまりを与え,特徴点を構成するものであるのに対し,その差異点で
ある水切り縁部やV字状凹溝に関する差異は,それほど大きな構成上の差異とはい
えず,看者に強い印象を与えるものということもできない。そうすると,これらの
差異点は,共通点が形成する視覚的なまとまりに吸収されてしまう程度のものにす
ぎないというべきであって,その共通点に照らすと,本願意匠と引用意匠とは類似
しているということができる。
したがって,原告の主張する取消事由3は理由がない。
4結論
以上によれば,原告の主張する審決取消事由はいずれも理由がないので,原告の
請求は棄却されるべきである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
石原直樹
裁判官
佐藤達文

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◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
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応募方法
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残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
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連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
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応募方法
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