弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人Aの弁護人富田喜作の上告趣意第一点について。
 被告人A、同Bは、いずれも昭和二七年一〇月一日逮捕され、同月五日勾留状の
執行を受け、被告人Cは同年一〇月一三日逮捕され、同月一六日勾留状の執行を受
けたこと及び被告人Aは同年一〇月一四日に、被告人Bは同年一〇月一五日に、被
告人Cは同年一一月一七日にそれぞれ検察官に対し自白するに至つたもので、逮捕
後右各自白までの日数が一四日ないし三五日であることは、記録上明らかである。
しかし、本件事案の犯罪事実の回数及びその内容、手続の経過その他諸般の事情を
勘案すれば、昭和二二年(れ)三〇号同二三年二月六日の大法廷判決(集二巻二号
一七頁以下参照)の趣旨に徴し、所論の各自白は不当に長く拘禁された後の自白で
あるとはいえない。されば、原判決及び同判決の維持した第一審判決が、被告人三
名の検察官に対する各供述調書及びその謄本を証拠に採用したからといつて、これ
を目して違法、違憲であるということはできない。論旨は理由がない。
 同第二点について。
 法令違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない(第一審判決挙示
の証拠によれば、被告人Aが受領した所論の交付金は、投票買収資金と法定選挙費
用とを一括し、そのいずれの部分が買収資金でいずれの部分が費用であるかの区別
のできない関係において手交されたものであることが明らかであるから、その金員
の全額につき不法性を帯びるものと解すべきであるとした原判決の判断は正当であ
る)。
 同第三点は、量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 各被告人の弁護人岸達也の上告趣意第一点について。
 判例違反をいうが、第一審判決挙示の証拠によれば、本件は、所論Dらが同判示
第一の(一)ないし(三)の各金員を調達して、これらの処分を被告人Aらに一任
したと認められる場合であつて、所論判例とは、その前提事実を異にするのである
から、所論の判例は本件に適切でない。
 同第二点について。
 判例違反をいうが、本件は、第一審判決挙示の証拠によれば、被告人Aが右交付
を受けた金員を、同判示第一の(四)(1)ないし(3)、第二の(一)ないし(
五六)及び第三の(一)ないし(二二)の各供与の、いずれに使用したものである
かが証拠上明らかに認められない場合であつて、所論判例とは、その前提事実を異
にするのであるから、所論の判例は本件に適切でない。
 同第三点について。
 違憲をいうが、その実質は訴訟法違反の主張であるのみならず、原審で主張、判
断のなかつた事項に関するものであつて、適法な上告理由とならない。
 同第四点について。
 判例違反をいうが、その実質は訴訟法違反の主張に帰するものであつて、適法な
上告理由とならない(所論の違法が認められないことは、昭和二六年(あ)一二九
五号同二八年一〇月九日の第二小法廷判決〔集七巻一〇号一九〇四頁以下参照〕の
趣旨に徴し明らかである)。
 同第五点について。
 違憲をいうが、その実質は訴訟法違反の主張であるのみならず、原審で主張、判
断されなかつた事項に関するものであつて、適法な上告理由とならない(刑訴三〇
一条にいう「犯罪事実に関する他の証拠が取り調べられた後」の意味について、昭
和二五年(あ)八六五号同二六年六月一日第二小法廷決定、集五巻七号一二三二頁
以下参照)。
 同第六点について。
 判例違反をいうが、その実質は訴訟法違反の主張であるのみならず、原審で主張、
判断のなかつた事項に関するものであつて、適法な上告理由とならない(所論被告
人Cの検察官に対する第五回供述調書について、適法な証拠調が施行されているこ
とは、第一審第四回公判調書の記載により明らかである)。
 同第七点について。
 判例違反をいうが、その実質は訴訟法違反の主張であるのみならず、原審で主張、
判断のなかつた事項に関するものであつて、適法な上告理由とならない(被告人A
に対する起訴状添附の犯罪一覧表には、所論の各欄について、同被告人が被告人B
と共犯である旨の事実が記載されているから、所論の違法は存しない)。
 同第八点は、事実誤認の主張であり、同第九点は、量刑の非難で、いずれも刑訴
四〇五条の上告理由に当らない。
 同第一〇点について。
 判例違反をいうが、公職選挙法二二一条一項一号の供与罪の起訴に対し訴因及び
罰条の変更手続をとらないで同項五号の交付罪を認定しても違法でないことは、当
裁判所の判例とするところであり(昭和二八年(あ)四六一六号同二九年五月二〇
日第一小法廷決定、集八巻五号七一一頁以下参照)、原判決が、被告人Aに対する
第一審判決判示第一の(一)ないし(三)の各所為に、訴因、罰条の変更手続を経
ないで各公職選挙法二二一条一項五号を適用したからといつて違法であるというこ
とはできない。それ故、所論の各判例は本件に適切でなく、論旨はその前提を欠き
採用することができない。
 被告人Aの弁護人丁野暁春の上告趣意第一点ないし第九点は、岸弁護人の上告趣
意第一点、第二点、第四点及び第七点と同旨に帰し、採用できない。また、論旨に
附加した各判例も本件に適切でない。同第一〇点は、違憲をいうが、その実質は、
事実誤認、単なる訴訟違反、法令違反の主張に帰し、同第一一点は、事実誤認、法
令違反、理由不備の主張であつて、いずれも適法な上告理由とならない。
 各被告人の弁護人大月和男の上告趣意第一(第一点ないし第五点)は、事実誤認、
単なる訴訟法違反、法令違反の主張であり、同第二は、事実誤認、法令違反、同第
三(第一点ないし第三点)は、量刑不当の主張であつて、いずれも刑訴四〇五条の
上告理由に当らない。
 各被告人の弁護人海野普吉、同位田亮次の上告趣意第一点ないし第三点は、いず
れも審理不尽、事実誤認、法令違反の主張を出でないものであり、同第四点は、訴
訟法違反、同第五点は、事実誤認、法令違反、同第六点は、量刑不当の主張であつ
て、すべて刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また記録を調べても同四一一条を
適用すべきものとは認められない。
 よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三〇年一月一一日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
 裁判官本村善太郎は差し支えにつき署名押印することができない。
         裁判長裁判官    井   上       登

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