弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1本件控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人らは,控訴人らそれぞれに対し,連帯して100万円及びこれら
に対する平成17年3月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。
第2事案の概要
1本件は,文部科学大臣が平成16年12月7日付けで原判決別紙運営審議
会委員目録記載のとおり被控訴人公立学校共済組合(以下「被控訴人組合」
という。)の運営審議会委員を任命し,被控訴人組合理事長が文部科学大臣
の認可を受けて同月1日付けで原判決別紙理事目録記載のとおり被控訴人組
合の理事を任命した(以下,両任命を併せて「本件任命」という。)とこ
ろ,控訴人らが,本件任命において,控訴人全日本教職員組合(以下「控訴
人全教」という。)が候補者として推薦した控訴人A及び控訴人Bが運営審
議会委員に任命されず,日本教職員組合(以下「日教組」という。)及び全
日本教職員連盟(以下「全日教連」という。)に推薦された候補者が運営審
議会委員に任命されたこと,控訴人全教が候補者として推薦した控訴人Cが
理事に認可及び任命されず,日教組に推薦された候補者が理事に認可及び任
命されたことは,いずれも違法であると主張して,被控訴人国に対し国家賠
償法(以下「国賠法」という。)1条に基づき,被控訴人組合に対し国賠法
1条,民法709条又は715条に基づき,それぞれ連帯して100万円及
びこれらに対する不法行為の日の後である平成17年3月25日(本訴状送
達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金
の支払を求める事案である。
原審は,運営審議会委員及び理事の任命は自由裁量行為であり,本件任命
に裁量権の逸脱,濫用があったとはいえず,運営審議会委員及び理事を推薦
した職員団体並びに推薦を受けた個人との関係で国賠法上違法とならないと
して,控訴人らの請求をいずれも棄却した。そこで,控訴人らは,これを不
服として控訴した。
なお,控訴人らは,上記損害賠償請求のほかに,文部科学大臣及び被控訴
人組合理事長を被告として本件任命の取消しを求めていたが,原審で,運営
審議会委員及び理事の任期である2年が経過して任命の法的効果は失われた
から,本件任命の取消しを求める訴えは不適法であるとして却下され,これ
に対しても控訴したが,当審において同控訴を取り下げた。
2争いのない事実等
原判決の「事実及び理由」の「第2事案の概要」1記載のとおりである
から,これを引用する。
3争点及び当事者の主張
本件の争点は,①控訴人らの被侵害利益の有無,②本件任命の違法性の存
否,③控訴人らが被った損害(これに対する被控訴人らの責任関係を含
む。)である。
これらの争点についての当事者の主張は,次のとおり当審における控訴人
らの主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」の「第2事案の概
要」3(3)及び(4)(争点①及び③につき同(4),争点②につき同(3))記載の
とおりであるから,これを引用する。ただし,原判決20頁11行目の末尾
に「控訴人らが本件任命について国賠法上保護されている権利利益を有しな
いことは,前記(3)の(被告らの主張)イ(ウ)に述べたとおりである。」を加
える(争点①についての被控訴人らの主張)。
(当審における控訴人らの主張)
(1)争点①(控訴人らの被侵害利益の有無)について
ア控訴人A及び同Bについて
運営審議会委員は,運営審議会の構成員として,同審議会に参加し,
被控訴人組合の重要な管理運営事項について意見を述べ,議決に加わる
権限を有し,特にその半数を占める組合員代表の委員は,その代表とし
ての立場から意見を述べたり,議決に参加したりするものであるから,
利益代表としての役割も有するところ,組合員代表としての運営審議会
委員は,職員団体からの推薦を受けて任命されるのが慣行となってお
り,それぞれ自己の出身系統を有していて,系統別の出身を有している
組合員代表としての運営審議会委員がその系統別の立場から組合員の福
祉及び利益の保護のために働くことによって,組合員代表としての運営
審議会委員が総体として広く組合員一般の利益を代表して,被控訴人組
合の民主的な運営に関与することができるものであり,被推薦者は,そ
の任命に当たって,他の系統に属する職員団体が推薦した被推薦者と平
等に自己の利益を手続上考慮してもらう権利を有しているのであって,
平等な考慮すらも受けなかった場合には,手続上の権利・利益について
の侵害が生じる。
また,被控訴人組合の構成員としての組合員は,組合員としての固有
権として,運営審議会委員に任命される権利・利益を有するのであり,
処分決定過程において,実質的には審査の対象とされなかったり,同委
員から排除されたりした場合には,この法的な権利・利益が侵害された
ことになる。
したがって,控訴人A及び同Bは,被控訴人組合の組合員であり,か
つ,控訴人全教から推薦を受けている以上,運営審議会委員として任命
される権利・利益を有しており,これは法律上保護されるべきものであ
る。
イ控訴人Cについて
理事は,理事長の定めるところにより,理事長を補佐して組合の業務
を執行するという重要な権限と責務を有することから,被控訴人組合の
民主的な運営を図り,組合員の福祉及び利益の保護を実行あらしめるた
め,理事9名中2名は職員団体推薦者から任命される慣行となっている
ところ,系統別の出身を有している理事がその系統別の立場から組合員
の福祉及び利益の保護のために働くことによって,広く組合員一般の利
益を代表して,被控訴人組合の民主的な運営に関与することができるも
のであり,被推薦者は,その任命に当たって,他の系統に属する職員団
体が推薦した被推薦者と平等に自己の利益を手続上考慮してもらう権利
を有するというべきである。
したがって,控訴人Cは,控訴人全教から推薦を受けている以上,理
事として任命される権利・利益を有しているのであり,これは法律上保
護されるべきものである。
ウ控訴人全教について
組合員代表としての運営審議会委員及び理事の推薦が利益代表として
のそれであり,その任命手続に組合員の利益を代表する職員団体の積極
的参加を認め,それを通じて組合員の福祉及び利益の保護を実効あらし
めようとしたものであるから,職員団体には,推薦候補者の中から組合
員代表としての運営審議会委員及び理事が個別具体的に選考・決定され
る際に,公正な手続で,かつ,内容的にも裁量権の範囲内における適正
な判定を受けるという手続上の権利・利益が法的に保護されているとい
うべきである。これは,組合員がそれぞれに有する利益の総体としての
組合員一般の利益(公益)とは区別された職員団体の個別的で具体的な
権利である。
教職員で組織され,被控訴人組合の約8万人という組合員で構成され
ている控訴人全教は,被控訴人組合の民主的な運営に当たって重要な役
割を果たすべきであり,運営審議会委員又は理事に推薦した控訴人A,
同B及び同Cの任命手続の過程で自己の利益を手続上差別なく考慮して
もらう権利・利益を有するものである。
(2)争点②(本件任命の違法性の存否)について
運営審議会委員の任命に当たっては,共済組合の組合員であること(地
公共法7条2項),組合の業務その他組合員の福祉に関する事項について
広い知識を有する者であること(同条3項),委員の半数は組合員を代表
する者であること(同項)のみが考慮されなければならず,そのために
は,各職員団体推薦者のいずれも対等に審査されて,任命されなければな
らないのに,本件任命では,日教組推薦者及び全日教連推薦者であること
のみを基準に任命されており,日教組及び全日教連の特別扱いという目的
違反,動機の不法に該当する。
また,組合員の福祉に関する事項について広い知識を有する者であるか
どうかということではなく,日教組推薦者又は全日教連推薦者であるかど
うかを唯一の基準としているもので,他事考慮に該当するし,平等原則違
反であることが明らかであり,日教組及び全日教連と控訴人全教とを差別
的に扱う組織差別であり,その所属構成員を差別するものである。
さらに,本件任命は,手続的に日教組及び全日教連からの推薦情報者の
みを選定して,控訴人全教推薦者を排除していることが明らかで,裁量の
手続・過程的審査方式に違反していることも明らかである。
以上のとおりで,本件任命は,任命権者の裁量権を逸脱,濫用した違法
なものである。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人らの本訴請求はいずれも理由がないものと判断する。
その理由は,以下のとおりである。
2本件の事実関係は,原判決の「事実及び理由」の「第3争点に対する判
断」1記載のとおりであるから,これを引用する。
3まず,控訴人らの被侵害利益の有無(争点①)について判断する。
(1)文部科学大臣及び被控訴人組合理事長がした本件任命が違法なものとし
て被控訴人らにおいて控訴人らに対する損害賠償義務が認められるために
は,本件任命により,控訴人らの権利又は法律上保護される利益が侵害さ
れることを要する(民法709条。国賠法1条1項においても同様に解さ
れる。)。
(2)そこで検討するに,運営審議会委員の任命基準について,地公共法及び
定款は,組合員であること,組合の業務その他組合員の福祉に関する事項
について広い知識を有する者であること,運営審議会委員の半数は,組合
員を代表する者であることを規定するのみであって(地公共法7条2項,
3項,定款15条),それ以外に法令又は定款上任命基準についての規定
は存しない。
そして,運営審議会は,組合の運営に関し適正を期するために設けられ
た諮問機関であるところ,その委員の任命基準について組合の業務その他
組合員の福祉に関する事項について広い知識を有する者としたのは,当該
組合の運営のいかんは他の地公共法上の組合にも影響するため,単にその
組合の業務の性格及び内容並びに組合員の福祉についての知識を有してい
るのみでなく,共済組合制度及び共済組合の業務とされる給付,福祉事業
のほか,経理及び資金の運用等についても知識を有する者であることが必
要であると考えられたことによるものと解され,また,委員の半数は組合
員を代表する者であることとしたのは,組合員の意見を十分に反映させる
ことにより運営審議会の民主的な運営をも併せ図ろうとしたものであると
解される(乙4)。このような運営審議会委員の責務等に照らすと,運営
審議会委員は,組合員全体を代表して職務を行うことが求められ,組合員
代表委員においても,特定の職員団体の意向を組合の運営に反映させるた
めに職務を行うことは全く予定されていないことが明らかであり,したが
って,その任命において,職員団体からの推薦制度等を採用しなかったも
のと解される(なお,国家公務員共済組合法9条4項では,委員の任命に
ついて,「一部の者の利益に偏することのないように,相当の注意を払わ
なければならない。」とされており,このことは,被控訴人組合の委員の
任命についても当てはまるものと解される。)。
これらの規定,解釈等に照らすと,文部科学大臣が,被控訴人組合の組
合員の中からいかなる者を組合員代表委員に任命するかについては,組合
の業務その他組合員の福祉に関する事項について広い知識を有するかどう
か,組合員全体を代表する者として運営審議会委員の責務を適正に果たし
得るかどうかという観点から行われるものであって,文部科学大臣の健全
かつ広範な裁量的判断に委ねられているものと解される。
また,理事は,理事長の定めるところにより理事長を補佐して組合の業
務を執行する機関であるところ,被控訴人組合理事長による理事の任命及
び文部科学大臣による認可については,法令定款上その基準についての規
定は全く存せず,上記に説示したところと同様に,被控訴人組合理事長及
び文部科学大臣の健全かつ広範な裁量的判断に委ねられているものと解さ
れる。
そうすると,控訴人らは,運営審議会委員又は理事の推薦をした職員団
体又は被推薦者であるところ,上記のとおり推薦制度自体存しないのであ
り,職員団体において,自ら推薦した者を委員又は理事に任命することを
要求する権利はなく,また,被推薦者において,委員又は理事に任命され
得る法的地位を有するものでないことが明らかであるから,本件任命にお
いて,控訴人全教が推薦したその余の控訴人らが委員又は理事に任命され
なかったことについて,控訴人らの権利又は法律上保護される利益が侵害
されたものということはできないといわざるを得ない。
(3)これに対し,控訴人らは,組合員代表としての運営審議会委員及び2名
の理事について,職員団体による推薦者から任命されることが慣行となっ
ているとして,推薦した職員団体及び被推薦者は,公正な手続で適正,平
等に判定を受ける手続上の権利・利益を有すると主張する。
前記認定事実によれば,文部科学大臣が組合員代表委員を新たに任命す
る必要がある場合や,被控訴人組合理事長が職員団体に所属する者から理
事を任命する場合に,職員団体から候補者に関する情報の提供を受けるこ
とがあったことが認められるものの,その情報提供やその依頼の方式も定
まっていないものであって,これは任命権者による任命権の行使に当たっ
ての事実上の措置にすぎないものと解されるものであり,これをもって,
組合員代表委員及び理事の一部の者について,職員団体による推薦者から
任命されることが慣行となっていると認めることはできない。仮に,その
ような措置が慣行として行われていたとしても,これにより,推薦した職
員団体又は被推薦者に対して,自ら推薦した者を委員若しくは理事に任命
することを要求し,又は,委員若しくは理事に任命され得る実体的又は手
続的権利・利益を付与したものということはできない。
また,控訴人A及び同Bは,組合員としての固有権として,運営審議会
委員に任命される権利・利益を有すると主張するが,組合員である公立学
校の職員並びに都道府県教育委員会及びその所管に属する教育機関(公立
学校を除く。)の職員等の全員が運営審議会委員に任命され得る資格を有
することは,地公共法及び定款上明らかであるとはいうものの,これをも
って1組合員である控訴人A又は同Bに,運営審議会委員に任命される権
利又は法律上の利益があるということができないことは明らかであり,同
主張は理由がない。
(4)以上のとおりであって,本件任命により,控訴人らの権利又は法律上保
護される利益が侵害された旨の控訴人らの主張は,いずれも理由がない。
4よって,控訴人らの請求は,その余の点について判断するまでもなく,い
ずれも理由がないから,これらを棄却した原判決は相当であり,本件控訴は
いずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決す
る。
東京高等裁判所第7民事部
裁判長裁判官大谷禎男
裁判官杉山正己
裁判官相澤哲

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛