弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1厚生労働大臣が原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項に基
づき原告に対して平成23年11月25日付けでした原爆症認定申請却下処分
を取り消す。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを4分し,その3を被告の負担とし,その余は原告の
負担とする。
事実及び理由
第1請求
1主文第1項同旨
2被告は,原告に対し,300万円及びこれに対する平成24年6月6日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1本件は,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(以下「被爆者援護法」
という。)1条に定める被爆者である原告が,厚生労働大臣に対し,同法11
条1項に定める厚生労働大臣の認定(以下「原爆症認定」という。)を受ける
ため,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律施行令(以下「被爆者援護法
施行令」という。)8条1項に定める申請(以下「原爆症認定申請」とい
う。)をしたが,厚生労働大臣が「現に医療を要する状態にある」とはいえな
いとして,上記申請を却下した(以下「本件却下処分」という。)のが違法で
あるなどとして,本件却下処分の取消しを求めるとともに,国家賠償法1条1
項に基づき300万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成24年
6月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を
求めている事案である。
2被爆者援護法の内容
(1)被爆者援護法の趣旨・目的
被爆者援護法は,その前文において,以下のとおり同法の趣旨・目的を記
している。
「昭和20年8月,広島市及び長崎市に投下された原子爆弾という比類の
ない破壊兵器は,幾多の尊い生命を一瞬にして奪ったのみならず,たとい一
命をとりとめた被爆者にも,生涯いやすことのできない傷跡と後遺症を残し,
不安の中での生活をもたらした。
このような原子爆弾の放射能に起因する健康被害に苦しむ被爆者の健康の
保持及び増進並びに福祉を図るため,原子爆弾被爆者の医療等に関する法律
及び原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律を制定し,医療の給付,
医療特別手当等の支給をはじめとする各般の施策を講じてきた。また,我ら
は,再びこのような惨禍が繰り返されることがないようにとの固い決意の下,
世界唯一の原子爆弾の被爆国として,核兵器の究極的廃絶と世界の恒久平和
の確立を全世界に訴え続けてきた。
ここに,被爆後50年のときを迎えるに当たり,我らは,核兵器の究極的
廃絶に向けての決意を新たにし,原子爆弾の惨禍が繰り返されることのない
よう,恒久の平和を念願するとともに,国の責任において,原子爆弾の投下
の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特
殊の被害であることにかんがみ,高齢化の進行している被爆者に対する保健,
医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じ,あわせて,国として原子爆
弾による死没者の尊い犠牲を銘記するため,この法律を制定する。」
(2)被爆者の定義
被爆者援護法において,「被爆者」とは,次の各号のいずれかに該当する
者であって,被爆者健康手帳の交付を受けたものをいう(1条。以下「被爆
者」とは同条所定の者をいう。)。
ア原子爆弾が投下された際当時の広島市若しくは長崎市の区域内又は政令
で定めるこれらに隣接する区域内に在った者(被爆者援護法1条1号)
イ原子爆弾が投下された時から起算して政令で定める期間(広島市に投下
された原子爆弾については昭和20年8月20日まで,長崎市に投下され
た原子爆弾については同月23日まで(被爆者援護法施行令1条2項))
内に前号に規定する区域のうちで政令で定める区域(おおむね爆心地から
2キロメートル以内の区域(弁論の全趣旨)。被爆者援護法施行令1条3
項,別表第二参照)内に在った者(被爆者援護法1条2号)
ウ前2号に掲げる者のほか,原子爆弾が投下された際又はその後において,
身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者(被爆
者援護法1条3号)
エ前3号に掲げる者が当該各号に規定する事由に該当した当時その者の胎
児であった者(被爆者援護法1条4号)
(3)被爆者健康手帳
被爆者健康手帳の交付を受けようとする者は,その居住地(居住地を有し
ないときは,その現在地)の都道府県知事に申請しなければならず(被爆者
援護法2条1項),都道府県知事は,同申請に基づいて審査し,申請者が被
爆者に該当すると認めるときは,その者に被爆者健康手帳を交付するものと
する(同条3項)。
(4)被爆者に対する援護
ア健康管理
都道府県知事は,被爆者に対し,毎年,厚生労働省令で定めるところに
より,健康診断を行い(被爆者援護法7条),同健康診断の結果必要があ
ると認めるときは,当該健康診断を受けた者に対し,必要な指導を行うも
のとする(同法9条)。
イ医療の給付
厚生労働大臣は,原子爆弾の傷害作用に起因して負傷し,又は疾病にか
かり,現に医療を要する状態にある被爆者に対し,必要な医療の給付を行
う。ただし,当該負傷又は疾病(以下「疾病等」という。)が原子爆弾の
放射能に起因するものでないときは,その者の治癒能力が原子爆弾の放射
能の影響を受けているため現に医療を要する状態にある場合に限る。(被
爆者援護法10条1項。なお,法文上は「放射能」とされているが,これ
は「放射線」の意味で用いられている。)
この医療の給付の範囲は,①診察,②薬剤又は治療材料の支給,③医学
的処置,手術及びその他の治療並びに施術,④居宅における療養上の管理
及びその療養に伴う世話その他の看護,⑤病院又は診療所への入院及びそ
の療養に伴う世話その他の看護,⑥移送であり(同条2項),これら医療
の給付は,厚生労働大臣が同法12条1項の規定により指定する医療機関
に委託して行われる(同法10条3項)。
この医療の給付を受けようとする者は,あらかじめ,当該疾病等が原子
爆弾の傷害作用に起因する旨の厚生労働大臣の認定(原爆症認定)を受け
なければならない(同法11条1項)。
厚生労働大臣は,同認定を行うに当たっては,審議会等(国家行政組織
法8条に規定する機関をいう。)で政令で定めるものの意見を聴かなけれ
ばならない。ただし,当該疾病等が原子爆弾の傷害作用に起因すること又
は起因しないことが明らかであるときは,この限りでない(被爆者援護法
11条2項)。同項の審議会等で政令で定めるものは,疾病・障害認定審
査会とされている(同法23条の2,被爆者援護法施行令9条)。
ウ一般疾病医療費の支給
厚生労働大臣は,被爆者が,疾病等(被爆者援護法10条1項に規定す
る医療の給付を受けることができる疾病等,遺伝性疾病,先天性疾病及び
厚生労働大臣の定めるその他の疾病等を除く。)につき,都道府県知事が
同法19条1項の規定により指定する医療機関から同法10条2項各号に
掲げる医療を受け,又は緊急その他やむを得ない理由により上記医療機関
以外の者からこれらの医療を受けたときは,その者に対し,当該医療に要
した費用の額を限度として,一般疾病医療費を支給することができる(同
法18条1項)。
エ医療特別手当の支給
都道府県知事は,被爆者援護法11条1項の認定(原爆症認定)を受け
た者であって,当該認定に係る疾病等の状態にあるものに対し,医療特別
手当を支給する(同法24条1項)。同項に規定する者は,医療特別手当
の支給を受けようとするときは,同項に規定する要件に該当することにつ
いて,都道府県知事の認定を受けなければならない(同条2項)。医療特
別手当は,月を単位として支給するものとし,その額は,1月につき13
万5400円である(同条3項。ただし,後掲ケの自動改定参照)。医療
特別手当の支給は,同条2項の認定を受けた者が同認定の申請をした日の
属する月の翌月から始め,同条1項に規定する要件に該当しなくなった日
の属する月で終わる(同条4項)。
オ特別手当の支給
都道府県知事は,被爆者援護法11条1項の認定(原爆症認定)を受け
た者に対し,特別手当を支給する。ただし,その者が医療特別手当の支給
を受けている場合は,この限りでない(同法25条1項)。同項に規定す
る者は,特別手当の支給を受けようとするときは,同項に規定する要件に
該当することについて,都道府県知事の認定を受けなければならない(同
条2項)。特別手当は,月を単位として支給するものとし,その額は,1
月につき5万円である(同条3項。ただし,後掲ケの自動改定参照)。特
別手当の支給は,同条2項の認定を受けた者が同認定の申請をした日の属
する月の翌月から始め,同条1項に規定する要件に該当しなくなった日の
属する月で終わる(同条4項)。
カ健康管理手当の支給
都道府県知事は,被爆者であって,造血機能障害,肝臓機能障害その他
の厚生労働省令で定める障害を伴う疾病(原子爆弾の放射能の影響による
ものでないことが明らかであるものを除く。)にかかっているものに対し,
健康管理手当を支給する。ただし,その者が医療特別手当,特別手当又は
原子爆弾小頭症手当の支給を受けている場合は,この限りでない(被爆者
援護法27条1項)。
キ保健手当の支給
都道府県知事は,被爆者のうち,原子爆弾が投下された際爆心地から2
キロメートルの区域内に在った者又はその当時その者の胎児であった者に
対し,保健手当を支給する。ただし,その者が医療特別手当,特別手当,
原子爆弾小頭症手当又は健康管理手当の支給を受けている場合は,この限
りでない(被爆者援護法28条1項)。
クその他の手当等の支給
都道府県知事は,一定の要件を満たす被爆者に対し,上記各手当以外に
も,原子爆弾小頭症手当(被爆者援護法26条),介護手当(同法31
条)等を支給する。
ケ手当額の自動改定
医療特別手当,特別手当,原子爆弾小頭症手当,健康管理手当及び保健
手当については,総務省において作成する年平均の全国消費者物価指数が
平成5年(手当の額の改定の措置が講じられたときは,直近の当該措置が
講じられた年の前年)の物価指数を超え,又は下るに至った場合において
は,その上昇し,又は低下した比率を基準として,その翌年の4月以降の
当該手当の額を改定する(被爆者援護法29条1項)。なお,平成24年
4月以降の月分の医療特別手当の金額は,13万4180円である(被爆
者援護法施行令17条)。
3前提事実(争いのない事実のほか各項掲記の証拠により認められる事実等)
(1)原告の被爆
原告は,昭和4年●月●日生まれの女性であり,被爆者健康手帳の交付を
受けた長崎市に投下された原子爆弾の被爆者である。
(2)骨髄異形成症候群の放射線起因性
原告の骨髄異形成症候群は,原爆放射線に起因するものである。
(3)原爆症認定申請等
原告は,平成23年1月31日付けで,厚生労働大臣に対し,汎血球減少
症を申請疾病として原爆症認定申請をしたのに対し,厚生労働大臣は,疾
病・障害認定審査会の意見を聴いた上で,同年11月25日付けで,同申請
を却下した(本件却下処分。乙B1,7)。
(4)本訴提起
原告は,平成24年5月25日,本件却下処分の取消し等を求める訴えを
提起した(当裁判所に顕著な事実)。
4争点
(1)原告の骨髄異形成症候群ないし汎血球減少症が現に医療を要する状態
にあるといえるか(要医療性)。
(2)国家賠償請求の成否
5当事者の主張
(1)争点(1)(原告の骨髄異形成症候群ないし汎血球減少症が現に医療
を要する状態にあるといえるか(要医療性)。)について
(原告の主張)
ア被爆者援護法10条1項にいう「現に医療を要する状態」の解釈
(ア)被爆者援護法は,国家賠償の理念を根底に持ちつつも,人類史上
最悪の被害を受けた被爆者が原爆による放射線の影響を否定し得ない疾
病等の状態にある場合に,これを一律救済する,一種の社会保障的な性
格を持つ被爆者救済のための立法である。
(イ)医療とは,病気という名前で呼ばれる個人的状態に対し,それを
回復させるか,あるいは悪化を阻止しようとしてとられる行為をいうと
ころ,近年では患者の身体的苦痛や精神的苦痛を軽減することによって
人生の質(クオリティ・オブ・ライフ,QOL)を向上することが重視さ
れていることなどを踏まえれば,単に病気を治すことだけが医療ではな
く,いかなる状態の患者であっても,その尊厳を保持したまま生活を送
ることができるよう総合的な措置を施すこともまた医療である。そして,
根本治療ができないような疾病等については,本人の持っている自然治
癒力を助けるような治療も医療に含まれる。
(ウ)放射線障害を有する被爆者に対しては,症状の推移を見守る意味
においても医師による長期の観察が必要であり,また,原子爆弾による
放射線の人体に与える影響についてはいまだ十分な解明がされていない
ことから,治療方法についても研究の余地が残されている。さらに,
「原子爆弾後障害症治療指針」(昭和33年8月13日衛発第726号
各都道府県知事,広島・長崎市長あて厚生省公衆衛生局長通知。甲B2。
以下「本件治療指針」という。)が治療上の一般的注意として指摘して
いるように,「原子爆弾被爆者の中には,自身の健康に関し絶えず不安
を抱き神経症状を現わすものも少くないので,心理的面をも加味して治
療を行う必要がある場合もある」。
(エ)以上の点を考慮すると,医学的にみて何らかの医療効果を期待し
得る可能性を否定できないような医療が存する限り,要医療性を肯定す
べきである(いわゆる石田訴訟に関する広島地方裁判所昭和51年7月
27日判決参照)。そして,被爆者の健康状態については,被爆者を直
接診察しているかかりつけの医師が最も正確に把握していることから,
医学的にみて何らかの医療効果を期待し得る可能性を否定できないよう
な医療が存するか否かの判断に当たっては,かかりつけの医師の判断を
尊重すべきである。
イ被告の主張に対する反論
(ア)被告は,被爆者援護法10条1項の「現に医療を要する状態にあ
る」にいう「医療」とは,原爆症認定に係る疾病等について医療効果の
向上を図るべく,医師による継続的な医学的管理の下に,必要かつ適切
な内容において行われる範囲の医療をいうと解するのが相当であり,経
過観察をしているにすぎない者について,医療の給付を目的とする原爆
症認定をすることは被爆者援護法上予定されていないというほかない旨
主張する。
しかし,かかる主張は,被爆者援護法が国家賠償の理念を根底に持つ
国家補償に基づく法律であるという趣旨を全く理解しない,極めて狭い
解釈であるといわざるを得ない。そもそも,医療とは,単に病気を治す
ことのみならず,いかなる状態の患者であっても,その尊厳を保持した
まま生活を送ることができるよう総合的な措置を施すことも指すところ,
経過観察であろうと,医師が必要であると判断して行う行為については,
当然ここにいう医療に該当する。経過観察は医療ではないとする被告の
解釈は,国民の生命・健康の安全確保を使命とする立場にあるまじき態
度といわざるを得ない。したがって,経過観察を受けている者(とりわ
け疾病が現存している者)についても,医学的にみて何らかの医療効果
を期待し得る可能性を否定できないような医療が存するのが通常であり,
要医療性を肯定すべきである。
(イ)被告は,本件治療指針につき治療上の一般的な注意点を示したも
のであること,当時の知見は現在とは異なることなどを理由として,原
告の要医療性に関する解釈の根拠とはならない旨を主張する。
しかし,本件治療指針は被告が自ら定めたものであって,被告の主張
は禁反言にも抵触する,極めて恣意的な解釈である。また,現在におい
ても,原子爆弾による放射線の人体に与える影響については十分解明さ
れていないのであるから,本件治療指針がいうように被爆者に対して心
理的面を加味して治療を行う必要があるのであって,このことは要医療
性の解釈においても参考にされるべきである。
(2)原告の骨髄異形成症候群が現に医療を要する状態にあるといえること
ア骨髄異形成症候群は,骨髄細胞が成熟して赤血球,白血球及び血小板に
なっていくときに成熟障害を起こして途中で死滅する一種のがんである。
その結果,赤血球や白血球が少なくなって死に至るほか,一部は急性骨髄
性白血病に移行する。骨髄異形成症候群の予後(50%生存期間)は,低
リスク群で5.7年,中間リスク群−1で3.5年,中間リスク群−2で
1.2年,高リスク群で0.4年となっている。骨髄異形成症候群は,主
に遺伝子の異常が生じて成熟障害が起こるとがん化することが分かってい
る。骨髄異形成症候群の頻度は,国際的には10万人に二,三人と言われ
ているが,長崎には100人以上の骨髄異形成症候群の患者がおり,骨髄
異形成症候群は被爆者に圧倒的に多い病気だといえる。
骨髄異形成症候群に対する根本治療は造血管細胞移植(骨髄移植)であ
るが,体に対する負担が大きくリスクも高いために適応となるケースは非
常に少ない。そのほかには,抗がん剤治療,免疫抑制療法,ビタミン療法
や輸血などの支持療法があるほか,平成23年頃には代謝の一部を抑制し
てがん細胞の増殖を抑える低メチル化剤や免疫関係全体に影響を与えて骨
髄異形成症候群の異常を修復させるような力を強めるイムノモジュレータ
ーが薬価収載されるに至った。なお,輸血については,輸血を繰り返すう
ちに症状改善期間が短くなる上に,ヘモジデローシスという副作用が生じ,
かえって死期を早めるおそれがあることから,輸血の開始時期や間隔につ
いてタイミングを見計らう必要があり,そのために治療が一般的に必要な
状態であっても我慢して見るという治療の一環としての経過観察をする時
期が必要となる。
イ原告は,平成20年7月16日以降,白血球,赤血球及び血小板という
全ての血球成分が基準値を下回っており,全ての血球成分が時間の経過と
ともに著明に減少している。
原爆症認定申請の直前である平成23年1月20日時点で,原告のヘモ
グロビン量は10g/dlを切っている。一般にヘモグロビン量が10g/dlを
切るとちょっと激しい運動をすると息切れをするようになるが,原告の場
合には立ち上がっただけでも脈がすごく速くなるなど,立ち上がるという
簡単な動作だけでも負担が大きい。ヘモグロビン量が10g/dlを切ると治
療の適応となるが,原告の場合骨髄異形成症候群でなかなか手を出せない
ということから経過観察をしている。そして,平成25年6月20日時点
では,ヘモグロビン量が8g/dlを切っており,輸血を検討する段階に入っ
ている。
原告の白血球数は原爆症認定申請の直前の平成23年1月20日時点で
2270/μlであり,平成24年9月20日以降は常時2000/μlを切
っている。また,好中球数が1500/μlを切ると感染症を起こしやすく,
1000/μlを切ると感染症にかかったときに重篤になるところ,原告の
好中球数は,平成22年9月9日以降ずっと1500/μlを下回り,平成
24年9月20日以降は1000/μlを切っている。そのため,原告は感
染症にかかると誤嚥性肺炎や敗血症を起こしやすい状態にある。
ウ原告の骨髄異形成症候群は中間リスク群−1に属しており,予後(5
0%生存期間)が3.5年であり,そのまま放置しておくと悪化していく
ので,治療の適応となる。平成23年頃に出た新薬には副作用があること
から,原告については年齢を考慮すると支持療法が適しており,現時点で
は輸血が必要な状態であるが,原爆症認定申請時ないし本件却下処分時に
は,支持療法を実施するタイミングを見計らうため,治療の一環として経
過を観察している状況にあった。
このほか,D病院においては,原告の容態が急変したときにはすぐに入
院できるような態勢を取っている。また,原告は,現在入所している介護
老人保健施設において,毎日看護師のチェックを受けており,週2回は医
師の診察を受けている。そして,最近は2か月に1回のペースで,D病院
のA医師(以下「A医師」という。)の診察を受けるとともに,血液検査
を受けている。
骨髄異形成症候群に罹患している患者にとって,定期的な血液検査は必
要不可欠な医療行為である。がん患者の手術後の再発防止のための定期検
査も被爆者援護法10条1項にいう「医療」に含まれることに照らすと,
病気が治癒しておらず悪化する可能性すらある骨髄異形成症候群の患者に
対して定期的な血液検査を実施することが,同項にいう「医療」に該当す
ることは余りにも当然である。
そして,A医師は,原告の治療の必要性を認めているのであって,原告
の状態を一番理解しているかかりつけの医師の判断については,十分尊重
されなければならない。また,原告の血液検査については保険適用を受け
ており,社会保険診療支払基金の審査委員会による厳しい審査によっても
正当・適正な医療行為であると認定されている。
エ仮に,被爆者援護法10条1項の要医療性が認められるためには定期検
査等の経過観察の場合には当該疾病等につき再発や悪化の可能性が高いな
ど特段の事情を要すると解するとしても,原告は,ヘモグロビン量を含む
全ての数値が低下傾向にあって予断を許さない状況にあり,白血病に移行
するおそれも十分にあるのであり,申請疾病である骨髄異形成症候群ない
し汎血球減少症について悪化の可能性が高い特段の事情が存する。したが
って,かかる解釈を前提としても,原告の骨髄異形成症候群ないし汎血球
減少症について要医療性を肯定すべきである。
オ被告の主張に対する反論
(ア)被告は,原告が低リスク群の骨髄異形成症候群に分類され,低リ
スク群については経過を観察し,症状に応じて輸血を実施するというも
のであるところ,いまだ輸血の適応条件を満たすほどの数値に至ってい
ないから経過観察にとどまっており,原告の申請疾病につき要医療性の
要件を満たさないと主張する。
しかし,原告の血液検査の結果の推移に照らせば,原告が予断を許さ
ない状況にあることは一目瞭然である。骨髄異形成症候群の診断があっ
て,しかもヘモグロビン量が10g/dlを切っており,支持療法の適応に
なっている。原告に対して,薬剤の投与や輸血が実施されていないのは
上述したとおりこれらの治療により得られる利益よりも副作用等の不利
益が大きいと判断されたためである。したがって,被告の主張は失当で
ある。
(イ)被告は原告に対する定期的な血液検査及び診察について単なる経
過観察であり,要医療性の要件に該当しないと主張する。
しかし,薬剤の投与や輸血の副作用等の不利益を考慮しても治療する
必要性が高いと判断されれば速やかに対処する態勢が取られており,原
告にとって定期的な血液検査及び診察は必要不可欠である。なお,医療
において,経過観察は,治療している方針が正しければ経過を観察して
その方針でいくという意味でも用いられており,経過観察という言葉が
カルテに書いてあったとしてもそれは無治療でよいという意味ではない
ことに留意すべきである。
したがって,被告の主張は失当である。
(被告の主張)
(1)被爆者援護法10条1項にいう「現に医療を要する状態」の解釈
ア被爆者援護法下における各種援護施策を通じてみると,被爆者援護法上
の施策の必要性の強度に応じた多段階の援護施策が執られており,これに
応じてそれぞれ要件の定め方も異なっている。そのような中にあって,原
爆症認定制度は,認定に係る疾病等について必要かつ適切な医療を受けら
れることとその医療効果の向上を意図したものであって,原爆症認定に関
しては,これにより医療の給付(同法10条1項)を受けられることにな
ることに加え,健康管理手当等と比較して格段に高額な医療特別手当(同
法24条1項)の支給を受けるための前提条件として規定されている。こ
のような被爆者援護法の規定の仕方に照らせば,同法が原爆症認定の対象
者として,上記のような最も手厚い援護措置を認め得るだけの必要性が肯
定される被爆者のみを想定していることは明らかであって,原爆症認定に
ついては健康管理手当等の支給要件と比べて要件を最も厳格に規定してい
ることからしても,あえて要医療性の要件を広く解釈することにより,他
の援護制度を活用することで格別の支障もない被爆者についてまで,上記
のような最も手厚い援護措置を及ぼすことを許容していると解することは
できない。
このことは,同法10条1項の「現に医療を要する状態」という文言の
通常の意味内容にも合致するといえる。
そうすると,ここでいう「医療」とは,認定に係る疾病等について医療
効果の向上を図るべく,医師による継続的な医学的管理の下,必要かつ適
切な内容において行われる範囲の医療をいうと解するのが相当であり,積
極的な治療行為を伴わない経過観察をしているにすぎない者について,医
療の給付を目的とする原爆症認定をすることは,被爆者援護法上予定され
ていないというほかない(なお,特段の治療行為を伴わない定期検査等の
経過観察については,当該疾病等につき再発や悪化の可能性が高いなど特
段の事情がない限り,「現に医療を要する状態にある」と認めることがで
きないとした大阪地方裁判所平成23年12月21日判決参照)。
イ要医療性の要件の基準時
原爆症認定の要医療性の要件がいつの時点で満たされていることを要す
るかについては,被爆者援護法上必ずしも明らかではない。
しかしながら,原爆症認定申請とともに医療特別手当の申請をした場合
に,原爆症認定がされたときは,被爆者援護法24条4項により,当該医
療特別手当の申請をした日の属する月の翌月から医療特別手当が支給され
得ることに照らせば,同法10条1項の要医療性の要件は,原爆症認定申
請時において満たされていることを要すると解すべきである。
ウ原告の主張に対する反論
(ア)原告は,被爆者援護法が被爆者救済のための国家補償に基づく法
律であることを根拠として,単なる経過観察の場合も広く同法10条1
項の「医療」に該当すると主張する。しかし,同法が,同項の各要件の
判断において,被爆者の救済の名の下に,国家補償的性格を過度に強調
して,要件該当性やその立証の程度を緩和することを許容していると解
することはできない(放射線起因性の解釈に関する最高裁平成10年
(行ツ)第43号同12年7月18日第三小法廷判決・裁判集民事198
号529頁参照)。そして,被告の上記アの解釈は,被爆者援護法の仕
組みや「現に医療を要する状態」の通常の意味内容等から導き出してい
るものであって,何ら被告の都合で狭く限定したものではない。
(イ)原告は,本件治療指針を根拠として,医師が必要であると判断し
て行う行為であれば,全て被爆者援護法10条1項の「現に医療を要す
る状態」にいう「医療」に該当する旨主張する。
しかし,本件治療指針は,飽くまで原爆症の認定を受けた疾病に対す
る指定医療機関の治療上の一般的な注意点を示したものである上,現在
とは格段に異なる医学的,疫学的知見(疾病の機序や治療方法が医学的
に十分確立しておらず,放射線被曝との関連性も十分に解明されていな
い状況)を前提として策定,発出されたものであって,現在の原爆症の
治療についてそのまま妥当するものではない(本件治療指針に意義がな
くなったとする趣旨ではない。)。そして,原告が罹患した骨髄異形成
症候群の機序や治療方法は既に医学的知見として確立されており,本件
治療方針が前提とする状況下にはないのであるから,本件治療方針の記
載をもって,原告の罹患した疾病についてまで,医師が必要であると判
断して行う行為であれば「医療」に当たるとする根拠とはならない。
(2)原告の骨髄異形成症候群ないし汎血球減少症が現に医療を要する状態
にあるとはいえないこと
ア骨髄異形成症候群ないし汎血球減少症に関する科学的知見
汎血球減少症とは,赤血球,白血球及び血小板という3血球系統の全て
が減少している状態をいう。これは厳密には疾病名ではなく,貧血,白血
球減少及び血小板減少が同時に存在する病態を指す。症状としては,全身
組織への酸素供給機能を有する赤血球の減少により貧血症状(易疲労感,
めまい,動悸,息切れなど)が,体内に侵入した病原体からの体内防御機
能を有する白血球の減少により易感染状態(発熱など)が,止血機能を有
する血小板の減少により出血傾向が,それぞれ生じる。
骨髄異形成症候群とは,骨髄内の造血幹細胞に異常が生じたことにより,
この造血幹細胞から作られる血球の形態や機能に異常が生じ(異形成),
正常な血球を末梢血に供給できない状態(無効造血)にある疾患(疾患
群)をいう。
骨髄異形成症候群に対する普遍的な治療方法はなく,International
PrognosticScoringSystem(国際予後判定システム。以下「IPSS」とい
う。)などによるリスク群と年齢によって治療方法が決定される。「内科
学」第9版(乙A702の2)にいう低リスク群の治療方法としては,血
球減少への対応が主となり,症状を有する貧血に対しては赤血球輸血を行
い,高度の血小板減少を認める患者以外には,予防的血小板輸血は行わな
いなどとされている。また,血球減少が軽度で芽球の少ない低リスク群に
ついては,無治療で観察し,出血や感染などの合併症がなければ経過観察
でよいとされている。
イ原告の骨髄異形成症候群ないし汎血球減少症は,原爆症認定申請時点で
積極的な治療が必要な状態とはいえないこと
(ア)原告の検査結果等によれば,原告の骨髄異形成症候群のリスク群
は「内科学」第9版(乙A702の2)にいう低リスク群に分類される。
そうすると,原告の骨髄異形成症候群に対する治療法としては,血球減
少への対応が主となり,経過観察をしながら症状に応じて赤血球輸血や
予防的血小板輸血をすることになる。具体的にはヘモグロビン量が7.
0g/dl未満になった場合には赤血球輸血の適応基準を満たし,血小板数
が1万/μlないし2万/μl以下になった場合には,血小板輸血の適応基
準を満たすとされている。
しかるに,原告の原爆症認定申請の直前である平成23年1月20日
の末梢血検査の結果は,ヘモグロビン量が9.6g/dl,血小板数が8.
3万/μlであったのであるから,原告の申請疾病である骨髄異形成症候
群ないし汎血球減少症について,原爆症認定申請時において,積極的な
治療行為である輸血の必要性があるとはいえない。
なお,本件却下処分直前である同年10月20日の血液検査の結果
(ヘモグロビン量8.4g/dl,血小板数7.3万/μl)によっても,直
近の平成25年6月20日の血液検査の結果(ヘモグロビン量7.8
g/dl,血小板数6.9万/μl)によっても同様である。
(イ)原告は,平成21年11月27日,汎血球減少を指摘されたもの
の,平成23年1月31日の原爆症認定申請時までのみならず,同年1
1月25日の本件却下処分時に至っても,骨髄異形成症候群ないし汎血
球減少症に関する積極的な治療をされておらず,約3か月に1回の経過
観察がされていたにすぎない。そして,3か月に1回(年に4回)程度
の頻度で血球数を調べることは,被爆者援護法上の被爆者であれば誰で
も受けられる同法7条の健康診断と変わらない程度のものであるから,
この程度の経過観察を受けていることをもって,被爆者援護法が定める
要医療性の要件を満たすとはいえない。
ウ悪化の可能性が高いなどの特段の事情があるとはいえないこと
(ア)原告は,全ての血球が基準値を下回っており,血球やヘモグロビ
ン量が低下しているから,大阪地方裁判所平成23年12月21日判決
のいう「悪化の可能性が高いなど特段の事情」があるとして,原告の申
請疾病について要医療性が認められるなどと主張し,B医師(以下「B
医師」という。)もこれに沿う証言をする(証人B)。しかし,原告の
白血球数等の低下の経緯は,非常にゆっくりしたものであって,原爆症
認定申請時のみならず,本件却下処分時に至っても,いまだ輸血の適応
基準を満たしておらず,また,これまで白血球数等の低下の程度が急変
したということもないのであるから,原告の申請疾病につき悪化の可能
性が高いなど特段の事情があるとはいえない。
(イ)B医師は原告の好中球数が1000/μlを切っており,感染症に
かかると重篤化しやすい状態になっている旨を証言する(証人B)が,
B医師が言及した原告の血液検査結果は平成24年9月20日のもので
あって,原爆症認定申請時はおろか本件却下処分時よりも後のものであ
る。そして,原告の好中球数は,骨折のため入院及び手術を行った期間
を除けば,平成23年1月31日の原爆症認定申請時までの間,100
0/μlを下回ったことはない。以上によれば,原告の好中球の数値から
原告には感染症の危険が高いとして,申請疾病の悪化の可能性が高い特
段の事情があるとはいえない。
(ウ)B医師は,原告が原爆症認定申請をした時点において,ヘモグロ
ビン量が10g/dlを切っており支持療法(ビタミン療法と輸血)の適応
である旨を証言する(証人B)。しかし,赤血球輸血の適応はヘモグロ
ビン量が7.0g/dl未満,血小板輸血の適応は1万/μlないし2万/μl
以下であるところ,原告の検査数値がこの適応基準に当たらないことは
前記イ(ア)のとおりである。そして,支持療法のうちリスクが高くな
いとB医師が証言するビタミン療法や漢方薬による治療すら,原告に対
してされていないことに照らせば,原告を診察する医師が支持療法も必
要ないと判断したことの現れであるといえる。
(エ)B医師は,最近,低メチル化薬及びイムノモジュレーターが骨髄
異形成症候群の保険適応となっているが,原告に対して処方するリスク
が高いために投与されなかったなどと証言する。しかし,そもそも,原
告の骨髄異形成症候群は低リスク群であってかかる投薬治療が必要であ
るとはいえない。この点を措くとしても,B医師が証言するイムノモジ
ュレーターとは免疫調整薬の一つであるレナリドミドを指していると思
われるところ,レナリドミドについては,効果があるのは「5番染色体
長腕部欠失を伴う骨髄異形成症候群」とされており,原告の染色体異常
はこれに当てはまらず,原告の申請疾病につき当該薬剤の適応はない。
また,B医師が証言する低メチル化薬とは脱メチル化薬の一つであるア
ザシチジンを指すと思われるところ,アザシチジンは原告の原爆症認定
申請後である平成23年3月に初めて薬価収載されて保険適応となった
のであり,原爆症認定申請時に原告の治療に使用できるものではないか
ら,原告に対して処方するリスクが高いために投薬されなかったという
B医師の証言は前提を誤っている。
(オ)B医師は,がんに対する治療と比較し,原告も治療が必要なこと
は明らかであるが,ヘモジデローシスの副作用の危険があるために輸血
もできないなどと証言する。
確かに,がん患者については,抗がん剤治療や緩和医療が標準治療と
して必要な状態にあるにもかかわらず,治療によるリスクが高いなどの
理由により,これが患者の状態によって行えない場合には,要医療性を
認め得る。
しかし,赤血球輸血によるヘモジデローシスの副作用は,長期間にわ
たり頻回輸血した場合に0.1パーセント未満の確率で発症し得るもの
であり,また,仮に,ヘモジデローシスの副作用が発症したとしても,
その治療方法が確立していることからすれば,原告の申請疾病について,
輸血等の支持療法によるリスクが高いとはいえない。したがって,原告
はヘモジデローシスの副作用があるために輸血ができない状態であった
とはいえない。
なお,今後,原告につき輸血等の積極的な治療が必要になれば,その
時点で積極的な治療をすることが可能であり,治療によるリスクが高い
ために何らの治療もすることができない状態のがん患者と同様の状態に
あるとはいえない。
エまとめ
原告の申請疾病である骨髄異形成症候群ないし汎血球減少症については
経過観察が行われているにすぎず,原告の症状に照らして積極的な治療行
為の必要性も認められないのであるから,被爆者援護法10条1項にいう
「現に医療を要する状態」にあるとはいえない。
(2)争点(2)(国家賠償請求の成否)について
(原告の主張)
ア国家賠償法上の違法性等
疾病・障害認定審査会原子爆弾被爆者医療分科会(以下「医療分科会」
という。)は,平成20年3月17日に,従前の審査の方針を改めて「新
しい審査の方針」を策定した。原告の原爆症認定申請に対しては「新しい
審査の方針」によっても速やかに原爆症認定がされるべきであったにもか
かわらず,被告の公権力の行使に当たる公務員である厚生労働大臣は同申
請を却下したのであるから,かかる本件却下処分は国家賠償法上違法であ
る。
そして,厚生労働大臣が本件却下処分をすることにつき故意又は(重大
な)過失があるから,本件却下処分と相当因果関係のある原告の損害につ
き被告は国家賠償法1条1項に基づき損害賠償責任を負う。
イ損害
(ア)慰謝料
厚生労働大臣の違法な本件却下処分により,原告が被った精神的苦痛
を慰謝するには,被爆者である原告が置かれた悲惨な状況を考えれば2
00万円が相当である。
(イ)弁護士費用
原告は,厚生労働大臣の違法行為により,本来不要な裁判を余儀なく
された。本件却下処分の取消請求及び国家賠償請求に係る訴訟の提起・
追行を強いられた原告が,原告代理人に支払うことを約した弁護士費用
のうち100万円は違法な本件却下処分と相当因果関係のある損害に当
たる。
(被告の主張)
ア国家賠償法上の違法性について
前記(1)(被告の主張)のとおり,本件却下処分は医学的知見に基づ
く吟味を十分尽くした上で,要医療性の要件を満たすとはいえないとされ
たものであって,これを国家賠償法上違法とする余地はない。
イ損害
争う。
第3当裁判所の判断
1争点(1)(原告の骨髄異形成症候群ないし汎血球減少症が現に医療を要す
る状態にあるといえるか(要医療性)。)について
(1)被爆者援護法10条1項の要医療性の要件の解釈
ア(ア)被爆者援護法10条1項は,厚生労働大臣は,原子爆弾の傷害作
用に起因して負傷し,又は疾病にかかり,現に医療を要する状態にある
被爆者に対し,必要な医療の給付を行う,ただし,当該疾病等が原子爆
弾の放射能(放射線)に起因するものでないときは,その者の治癒能力
が原子爆弾の放射能(放射線)の影響を受けているため現に医療を要す
る状態にある場合に限る旨規定している。また,同条2項は,上記医療
の給付の範囲は,①診察,②薬剤又は治療材料の支給,③医学的処置,
手術及びその他の治療並びに施術,④居宅における療養上の管理及びそ
の療養に伴う世話その他の看護,⑤病院又は診療所への入院及びその療
養に伴う世話その他の看護,⑥移送とする旨規定している。これらの規
定の内容に照らせば,疾病等が「現に医療を要する状態にある」(要医
療性)とは,当該疾病等に関し,同条2項が定める医療の給付を要する
状態にあることをいうものと解される。
(イ)ところで,被爆者援護法には,上記(ア)のとおり医療の給付の
範囲についての定めは存するものの,医療の定義規定は置かれていない
ところ,健康の保持という点で被爆者援護法と目的を共通する点が存す
るものと認められる医療法は,その1条の2第1項で,「医療は,生命
の尊重と個人の尊厳の保持を旨とし,医師,歯科医師,薬剤師,看護師
その他の医療の担い手と医療を受ける者との信頼関係に基づき,及び医
療を受ける者の心身の状況に応じて行われるとともに,その内容は,単
に治療のみならず,疾病の予防のための措置及びリハビリテーションを
含む良質かつ適切なものでなければならない。」と定めており,そこで
は,治療のみならず,疾病の予防のための措置やリハビリテーションも
医療に含まれるものとされている。
しかしながら,被爆者援護法は,第3章援護の中で,健康管理(第2
節)と医療(第3節)とを分けて規定しているところ,同法は,健康管
理に係る援護として,健康診断(同法7条)と指導(同法9条)を掲げ,
同法7条の規定を受けて定められた原子爆弾被爆者に対する援護に関す
る法律施行規則(以下「被爆者援護法施行規則」という。)9条は,被
爆者に対して行われる健康診断の種類及び方法として,以下のとおり定
めている。すなわち,被爆者援護法7条に規定する健康診断は,都道府
県知事が期日及び場所を指定して年2回行うもの並びに被爆者の申請に
より,各被爆者につき年2回を限度として都道府県知事があらかじめ指
定した場所において行うものの2種類とされ(被爆者援護法施行規則9
条1項),同健康診断は,一般検査と精密検査によって行うものとされ
ている(同条2項)。このうち,一般検査においては,視診,問診,聴
診,打診及び触診による検査,CRP検査,血球数検査,血色素検査な
ど,同条3項1号ないし8号に掲げる検査を行うものとされており(同
項),また,被爆者の申請により行う一般検査においては,各被爆者に
つき年1回を限度として,胃がん,肺がん,乳がん,子宮がん,大腸が
ん,多発性骨髄腫の各検診のための問診やエックス線検査等を行うもの
とされている(同条4項)。次に,精密検査は,一般検査の結果更に精
密な検査を必要とする者について行うものとされており(同条2項),
骨髄造血像検査等の血液の検査,肝臓機能検査等の内臓の検査等の同条
5項1号ないし6号に掲げる検査のうちで必要と認められるものを行う
ものとされている(同項)。以上のような被爆者に対して行われる健康
診断の内容に照らせば,被爆者援護法7条にいう健康診断は,上記医療
法1条の2第1項が定める医療(「疾病の予防のための措置」)に含ま
れるものと解されるところであり,そうであるにもかかわらず,被爆者
援護法が上記健康診断を「医療」とは区別された「健康管理」の中に掲
げていることからすると,同法にいう「医療」と,医療法にいう「医
療」とが全く同一のものであると解することはできず,被爆者援護法1
0条にいう「医療」に「疾病の予防のための措置」が含まれるとは直ち
にはいえない。
イ原爆症認定を受けた場合の本来的な効果は,医療の給付である(被爆者
援護法10条,11条)が,一般疾病医療費制度(同法18条以下)が全
ての被爆者に適用されるに至ってからは,原爆症認定の実質的な意義は,
医療特別手当(同法24条)ないし特別手当(同法25条)を支給する点
にあるということができる。そして,医療特別手当は,同法11条の認定
を受けた被爆者であって,当該認定に係る疾病等の状態にあるものに対し
て支給されるものであり,当該疾病等の治療効果の向上を図るとともに,
当該疾病等により,栄養補給,通院,入退院,日用品等について,一般人
と異なる特別な出費を余儀なくされている被爆者の福祉を図るため,医療
の給付を行うとともに生活面の安定を期してされる金銭給付であり,また,
特別手当は,同法11条の認定を受けた被爆者であって,医療特別手当の
支給を受けていないもの(すなわち,当該認定に係る疾病等が治癒したよ
うな場合)に支給されるものであり,再発の予防等のための保健上の配慮
その他生活の安定を図る必要があることに鑑みて支給される金銭給付であ
ると解される。
ウ前記ア(イ)のような健康管理に係る援護として行われる健康診断の内
容に照らせば,視診,問診,聴診,打診及び触診による検査や,血液検査,
エックス線検査等の各種検査には,「診察」ないし「医学的処置」といい
得るものも含まれると解されるところであるが,被爆者援護法においては,
これらは,「医療」(同法第3章第3節(10条以下))とは区別された
「健康管理」(同法第3章第2節(7条以下))として掲げられているこ
とに加え,上記イのような原爆症認定を受けた被爆者に対して支給される
医療特別手当や医療手当の性質をも勘案すると,原爆症認定申請に係る申
請疾病について,定期検査等によって当該疾病が悪化していないかどうか
経過観察をするにとどまり,積極的な治療行為を伴わないような場合につ
いては,基本的には,同法10条1項にいう「医療を要する状態にある場
合」に当たらないものと解するのが相当である。
もっとも,前記ア(イ)のとおり,同法7条及び被爆者援護法施行規則
9条が定める健康診断は,その内容やまず一般検査が行われるという順序
に照らせば,疾病の発症やその危険を早期に把握し,その発症自体や悪化
を予防することを目的とするものと解されるところであり,特定の疾病に
罹患しているものについて,当該疾病の経過観察をすることを念頭に置い
たものとは解し難いことや,同法10条は,原子爆弾の傷害作用に起因し
て負傷し,又は疾病にかかり,現に医療を要する状態にある被爆者に対し
て行う必要な医療の給付として,「薬剤又は治療材料の支給」や「医学的
処置,手術及びその他の治療並びに施術」とは別に「診察」を掲げている
ことに加え,被告も,がん患者については,抗がん剤治療や緩和治療が標
準治療として必要な状態にあるにもかかわらず,治療によるリスクが高い
などの理由により,これが患者の状態によって行えない場合には要医療性
を認め得るとしており,積極的な治療行為が存在しないときでも例外的に
要医療性を肯定することができる場合が存在することを明らかにしている
ことに照らせば,原爆症認定申請に係る申請疾病について,その申請時点
ないし申請に対する判断時点において現に積極的な治療行為を行っておら
ず,医師による定期的な経過観察がされるにとどまっているような場合で
あっても,当該疾病の予後として一般に悪化することが予想され,その悪
化の度合いに応じてそれに的確に対処するための積極的な治療行為を行う
ことを要することとなる場合などは,まさに医師による定期的な経過観察
自体が当該疾病を治療するために必要不可欠な行為といえるのであって,
そのようなものとして医師による定期的な経過観察を受けているような場
合には,当該申請疾病につき「現に医療を要する状態にある」ものとして,
要医療性が認められると解するのが相当である。
(2)原告の申請疾病に係る要医療性について
ア認定事実
前記前提事実及び当事者間に争いがない事実のほか,各項掲記の証拠及
び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア)被爆状況
原告(被爆当時16歳)は,昭和20年8月9日,長崎市に投下され
た原子爆弾に爆心地から約1.1キロメートルの地点で被爆した。
(イ)申請疾病に関する経緯等
a原告は,平成21年1月27日から同年3月14日まで骨折のため
入院し,その間に手術を受けた(乙B10)。
b原告は,平成21年11月27日,D病院総合外来のC医師(以下
「C医師」という。)から,汎血球減少と高血圧を主症状として,同
病院内科(血液内科)のA医師の紹介を受けた。C医師は,紹介文に,
被爆者援護法に基づく健康診断で汎血球減少と高血圧を認めた,汎血
球減少は以前より少し認めていたが少し程度が進行しているようであ
るなどと記載していた。A医師は,同日から平成22年1月7日にか
けて原告を診療した上で,「徐々にpancytopenia(汎血球減少症)悪
化している。しばらく経過観察して,悪化するようならマルク(骨髄
穿刺)。」と診療録に記載した。また,A医師は,同日,C医師に対
し,「汎血球減少症年の単位で少しずつ悪くなっているようですが,
今のところ治療は必要ないと思います。しばらくフォロウして,もう
一段悪くなれば,マルク(骨髄穿刺)も考えます。」と返信した。
(乙B8)
cその後のD病院における原告のカルテには,以下の各記載がある
(乙B8。なお,これらの記載は括弧内に特記したもののほかは全て
A医師によって記載されたものである。)。
①平成22年4月1日の欄
「pnacytopenia(ママ,汎血球減少症)。被爆者。経過観察中」
②平成22年6月17日の欄
「白血球数低下も著変無し」(総合外来医師),「汎血球減少は
変わりなし。」
③平成22年9月9日の欄
「汎血球減少変わりなし。」
④平成22年11月25日のsubjective(主観的事項,自覚的症
状)の欄
「貧血にて鉄剤を内服している。」
⑤平成23年1月20日の欄
「鉄欠乏性貧血ではない。」
⑥平成23年1月27日の欄
「原爆症認定申請について相談。」,「白血病しか認定されない
可能性,骨髄の検査をしていないことを説明。現状態はMDS(骨髄
異形成症候群)orAA(再生不良性貧血)を考えている。」,「だ
めでも良いから提出したいとのことなので,現在の検査で記載す
る。」
⑦平成23年3月31日の欄
「原爆症の申請には,マルク(骨髄穿刺)が必要で,中止となっ
た。」,「汎血球減少症。マルクは今のところ希望しない。」
⑧平成23年6月23日の欄
「被爆者検診」(総合外来医師),「健康診断個人表には以下を
記載した。判定:要精密検査医師の意見:要精密検査と判定した
が,既に汎血球減少で当院血液内科の診療を受けており,この結果
の処置は主治医に委ねるのが妥当と考える。」(総合外来医師),
「来週マルク(骨髄穿刺)。」
⑨平成23年6月30日の欄
「本日マルク施行」
⑩平成23年7月14日の欄
「所見:低形成,巨核球はほとんどいない。異型性なく,芽球な
どの病的細胞もない。」,「染色体の結果未なので,3週先に来院
していただく。」
⑪平成23年8月4日の欄
「染色体異常:46XX−212/20などあり」「有核細胞数
は少ないが,染色体異常があることによりMDS(骨髄異形成症候
群)と診断する。」
⑫平成23年9月22日の欄
「貧血進行している。輸血の可能性」
⑬平成23年10月27日の欄
「貧血回復している」
⑭平成24年1月12日の欄
「白血球,貧血は回復している」
d平成18年2月4日から平成25年6月20日までの血液検査の結
果(白血球数,赤血球数,ヘモグロビン量,血小板数,好中球の割合,
好中球数)は別表「原告の血液検査結果の推移」のとおりである(甲
B4,乙B8,10)。ただし,好中球数は白血球数に好中球の割合
を掛けたもので有効数字3桁を超える端数を四捨五入したものである。
イ骨髄異形成症候群及び汎血球減少症の一般的知見
(ア)a骨髄異形成症候群は多能性造血幹細胞の形質転換で生じたクロ
ーン性の造血障害で,血液系細胞の異形成と骨髄での無効造血を特徴
とするものであり,血液細胞のがんの一つである。一般に発症時は臨
床症状に乏しいことも少なくなく,血球減少の程度により貧血症状,
出血傾向,感染症の合併がみられるが,臓器腫脹はほとんどの例でみ
られない。骨髄異形成症候群は,①無症状又は貧血症状,易感染症,
出血症状などを呈し,②末梢血検査で,大球性貧血や2系統以上の血
球減少を認め(赤血球数は成人女性の場合350万/μl未満,白血球
数は4000/μl未満,血小板数は15万/μl未満),③骨髄は正形
成ないし過形成であり種々の血球異形成を呈し,他の血球減少を起こ
す疾患が認められないときに診断される。
骨髄異形成症候群の約3分の1は急性骨髄性白血病に移行する。ま
た,骨髄異形成症候群そのものの合併症として好中球減少に基づく細
菌感染症や真菌感染症がある。血小板減少による出血,支持療法とし
ての輸血療法に伴ってみられる二次性のヘモクロマトーシスの管理も
重要とされる。
骨髄異形成症候群の予後を決定する因子としてIPSSが用いられる。
IPSSでは,末梢血液の血球減少(0又は1系統:0点,2又は3系
統:0.5点。なお,ここでは好中球数1800/μl未満,ヘモグロ
ビン量10g/dl未満,血小板数10万/μl未満を用いる。),骨髄で
の芽球比率(5%未満:0点,5%から10%:0.5点,11%か
ら20%:1.5点,21%から30%:2点),核型ないし染色体
異常(良好:0点,中間:0.5点,不良:1点。なお,ここでは良
好とは「正常,20q−,−Y,5q−」をいい,不良とは「複雑
(3個以上),7番染色体異常」をいい,中間はそれ以外をいう。)
による合計点数でリスク群をlow(0点。以下「低リスク群」とい
う。),intermediate-1(0.5点から1点。以下「中間リスク群−
1」という。),intermediate-2(1.5点から2点。以下「中間リ
スク群−2」という。),high(2.5点以上。以下「高リスク群」
という。)と分類している。50%生存期間は低リスク群で5.7年,
中間リスク群−1で3.5年,中間リスク群−2で1.2年,高リス
ク群で0.4年であり,25%急性骨髄性白血病移行率は低リスク群
で9.4年,中間リスク群−1で3.3年,中間リスク群−2で1.
1年,高リスク群で0.2年である。(乙A701,702の2,7
03,705)
b骨髄異形成症候群に普遍的な治療法はなく,IPSSによる分類等を踏
まえて治療法が選択される。治療法の選択についての各種文献の記載
は以下のとおりである。
(a)「内科学」第9版(乙A702の2)
IPSSで低リスク群の全例及び中間リスク群−1かつ骨髄での芽球
比率5%未満のものに含まれる患者は,血球減少への対応が主とな
る。症状を有する貧血に対しては赤血球輸血で対応する。出血症状
に対しては血小板輸血を行うが,反復する輸血による同種抗体の産
生を防ぐため,高度の血小板減少を認める患者以外では予防的血小
板輸血を行わない。治療が必要で異形成の乏しい例(70歳未満)
の患者にはシクロスポリンの経口投与や抗胸腺細胞グロブリン
(ATG)による免疫抑制療法が有効なこともある(有効率50%か
ら60%)。また一部の患者ではビタミンK2・ビタミンD3療法
で輸血量の軽減が期待できる。同種造血幹細胞移植(骨髄移植)は
これらの群においても治癒を期待できる有望な治療法であり,高度
の輸血依存性,繰り返す感染症,IPSSで予後不良染色体,血球形態
異常の著しい例及び免疫抑制療法によっても造血回復の得られない
例で考慮される。
IPSSで中間リスク群−1かつ骨髄での芽球比率5%以上のもの及
び中間リスク群−2かつ予後良好染色体を示すものでは,血球減少
に伴う臨床症状がない場合は慎重な経過観察を行う。ヒト白血球抗
原適合同胞又は非血縁者からの同種移植により,これらの群に含ま
れる若年患者の約半数において長期生存が期待されるため的確なド
ナーからの同種造血幹細胞移植が行われることがある。
IPSSで中間リスク群−2かつ予後良好染色体を示さないもの及び
高リスク群の全例では化学療法と同種造血幹細胞移植が治療選択肢
となる。ドナーが存在し同種移植に耐えられる年齢及び全身状態で
あれば同種造血幹細胞移植が第一選択である。
(b)「血液疾患診療マニュアル」(乙A703)
低リスク群で血球減少が顕著でない例は無治療で観察し,病勢の
進行がみられた段階で治療を行っても遅くはない。一方,低リスク
群でも血球減少が進行する場合には蛋白同化ホルモンによる造血刺
激療法を考慮する。
中間リスク群で血球減少が主体の例は免疫抑制療法が有用である
とする報告が注目されている。一方,芽球増殖を伴う中間リスク群
には化学療法や分化誘導療法が選択される。
若年者の高リスク群はドナーがあれば同種骨髄移植が根治療法と
なる。高リスク群で造血幹細胞移植の条件の整わない例には急性白
血病に準じた多剤併用化学療法を行う。また,高齢者には少量化学
療法が選択される。
その他,補充又は支持療法として造血因子や輸血療法がある。
(c)独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター
「がん情報サービス」(ホームページ,乙A705)
患者の年齢,ドナーの種類,体や臓器の状況によって異なる場合
があるとしつつ,重症度別に以下の治療方針を提案している。
低リスク群のフローチャートでは,50歳までは同種移植を,5
0歳から65歳までは免疫抑制療法(場合により同種移植)を,6
5歳からは支持療法又は免疫抑制療法を提案している。
中間リスク群−1のフローチャートでは,ドナーがある場合は同
種移植を,ドナーがなく骨髄の芽球5%以上の場合には抗がん剤治
療を,ドナーがなく骨髄の芽球5%未満の場合には免疫抑制療法を,
65歳からは支持療法又は免疫抑制療法を提案している。
中間リスク群−2及び高リスク群のフローチャートでは,ドナー
がある場合は抗がん剤治療を経た上での同種移植を,ドナーがなく
染色体異常が良好・中間である場合は抗がん剤治療を,ドナーがな
く染色体異常が不良の場合は支持療法(場合により抗がん剤治療)
を,65歳からは支持療法(場合により,染色体異常が良好・中間
であるときには抗がん剤治療)を提案している。
c治療法の概要等(乙A705)
(a)造血幹細胞移植
骨髄異形成症候群は,骨髄にある造血幹細胞に異常が起こる病気
であり,完治には骨髄の造血幹細胞を全て入れ替える造血幹細胞移
植が必要である。もっとも,高齢になると,体の各臓器の合併疾患
などの問題も多く,強力な治療を伴う造血幹細胞移植が困難な場合
も多い。
(b)抗がん剤治療
抗がん剤治療には,急性骨髄性白血病に対する標準的な治療に準
ずる多剤併用化学療法と,高齢者や合併症がある症例に対して行う
低用量分化誘導療法とがある。数回の抗がん剤治療を行って,骨髄
での未熟な芽球の割合が5%以下となること(寛解)を当面の目標
とする。
(c)免疫抑制療法
造血幹細胞を攻撃するリンパ球を抑える免疫抑制剤(シクロスポ
リン,副腎皮質ステロイド,抗胸腺グロブリン(ATG)など)を投
与して,血液細胞数減少の改善を図る。もっとも,ステロイドなど
は,減量すると血球細胞数が再び減少することが多く,また,白血
球数減少により,感染しやすい易感染性になっているところへ免疫
抑制剤を投与するため,更に感染しやすくなってしまう可能性もあ
る。
(d)ビタミン療法(ビタミンK及びビタミンD投与)
ビタミンK及びビタミンD投与が,骨髄異形成症候群における末
梢血での血液細胞減少の改善や病状の進行を遅らせるという報告も
あり,このような効果を期待して投与される。また,ほかの治療と
併用されることがある。
(e)輸血などの支持療法
末梢血中の血球細胞数の減少が著しい場合には,支持療法として
(a)ないし(c)に輸血を併用する。赤血球減少に対しては赤血
球輸血を,血小板減少に対しては血小板輸血を行う(なお,白血球
減少については輸血はせず,抗菌剤内服による感染予防が行われる
ことがある。)。
繰り返す輸血は輸血性ヘモジデローシスを来すので必要最小限に
とどめる。輸血の必要性は心肺機能や社会活動の程度によって個人
差はあるが,一般にヘモグロビン量が7g/dl以下の場合に輸血を考
慮する。(乙A703)
(イ)汎血球減少症とは,3系統の血球(赤血球,血小板,白血球)全
てが減少している状態,すなわち貧血,血小板減少及び白血球減少が同
時に存在する病態をいう。汎血球減少症の成因は,①骨髄における血球
産生の低下に基づくもの,②末梢における血球寿命の短縮に基づくもの
に大きく分けられ,①は更に(a)多能性造血幹細胞の減少によるもの
(再生不良性貧血等),(b)多能性造血幹細胞は保持されているが,
以降の幼若血液細胞が質的異常のために成熟し切らず未熟なまま骨髄中
で死んでしまう病態である無効血球産生によるもの(骨髄異形成症候群
等)に分けられる。汎血球減少症を呈している患者については,その基
礎となっている疾患を鑑別すべきとされている。(乙A703)
ウ審理・判断の対象となる疾病の確定
原告は,平成23年1月31日に,厚生労働大臣に対し,申請疾病を汎
血球減少症として原爆症認定申請をしたところ(前記前提事実(3)),
原告の担当医であるA医師は,同申請書に添付された意見書において,当
該疾病等に関する放射線起因性についての医師の意見欄に,「上記所見よ
り骨髄異形成症候群もしくは再生不良性貧血を考えており,いずれも放射
線による障害の可能性あり」と記載しており(乙B2),また,同年8月
4日付けで疾病・障害認定審査会の医療分科会に宛てて,病名又は主訴を
骨髄異形成症候群とする追加意見書を提出している(乙B6)。そして,
汎血球減少症についてはその基礎疾患を鑑別すべきとされており,その原
因として骨髄異形成症候群が含まれること(前記イ(イ))をも踏まえる
と,医療分科会は,原告の骨髄異形成症候群について原爆症認定の要件該
当性を審査・判断したものと推認することができる。さらに,被告は,原
告の骨髄異形成症候群が原爆放射線に起因することを認めている。そうす
ると,本訴においても,原告の骨髄異形成症候群について審理・判断する
のが相当である。
エ原告の骨髄異形成症候群につき要医療性が認められるかについての検討
(ア)前記認定事実ア(イ)及び弁論の全趣旨によれば,①D病院血液
内科のA医師は,平成21年11月27日から平成22年1月7日まで
の診療の結果,同日,原告につき,年の単位で少しずつ汎血球減少症が
悪化しているようだが,今のところ治療は必要ない,しばらく経過観察
をし,もう一段状態が悪くなれば骨髄穿刺を考えるとの方針を立て,そ
の旨,原告を紹介した同病院のC医師に伝えたこと,②原告は,同年6
月17日及び同年9月9日時点では汎血球減少症の状態に変わりがない
と診断されたこと,③同年11月25日頃,原告は他院で貧血に対する
治療として鉄剤を処方され,それを内服していたものの,A医師は平成
23年1月20日に鉄欠乏性貧血ではないとして,鉄剤の有効性につい
て否定的な見解を示しており,その後なおも原告に対し鉄剤の投与が続
けられた形跡はないこと,④A医師は,同月27日の時点で,原告の汎
血球減少症の原因疾患として骨髄異形成症候群と再生不良性貧血を念頭
に置いていたがそれを鑑別するには至っていないこと,⑤A医師は,原
告に対し,同年10月27日までの間,各種検査や診察を行っているも
のの,輸血やビタミン剤の処方等の積極的な治療をしていないことを認
めることができる。そして,このような診療経過に照らせば,原告は,
同年1月31日に原爆症認定申請をした時点でも本件却下処分がされた
同年11月25日時点でも,骨髄異形成症候群ないし汎血球減少症に対
する積極的な治療を受けておらず,経過観察がされているにとどまって
いる状態にあったと認められる。
(イ)そこで,原爆症認定申請時ないし本件却下処分時に原告の骨髄異
形成症候群につき積極的な治療を要する状態であったかどうかを検討す
る。まず,平成23年6月30日に原告に対して実施された骨髄穿刺に
基づき原告の骨髄液を分析した結果によれば,原告の骨髄芽球は0.
4%ないし1.8%であり,2番染色体の1対のうち1本が欠損し,r
1という異常な染色体が出現していた。また,原告の血液検査の結果は,
原爆症認定申請時の直近の同年1月20日時点において白血球数227
0/μl,赤血球数277万/μl,ヘモグロビン量9.6g/dl,血小板数
8.3万/μl,好中球数1320/μlであり,上記骨髄穿刺の直近であ
る同年6月23日時点において白血球数1960/μl,赤血球数267
万/μl,ヘモグロビン量9.4g/dl,血小板数7.4万/μl,好中球数
1100/μlであった。(乙B8,弁論の全趣旨)
これらを前記イ(ア)aのIPSSによる予後スコアリングシステムに当
てはめると,末梢血液の血球減少は3系統に見られ(0.5点),骨髄
での芽球比率は5%未満であり(0点),染色体異常は中間(0.5
点)となってこれらの合計点数は1点であるから,原告の骨髄異形成症
候群は中間リスク群−1に当たる。
そうすると,前記イ(ア)b(a)によれば,症状を有する貧血や出
血症状に対しては輸血などの治療がなされるべきことになり(原告の骨
髄芽球比率は5%未満であるから芽球増殖を伴う中間リスク群−1には
当たらない。),同(b)の文献によれば原告に対しては免疫抑制療法
が考慮されるべきこととなり,同(c)の文献からは65歳以上である
原告については支持療法又は免疫抑制療法がなされるべきことになる。
しかし,原告の原爆症認定申請時(平成23年1月31日)ないし本
件却下処分時(同年11月25日)までに出血症状があったことを認め
るに足りる証拠はない。
また,平成22年11月25日のカルテに原告は貧血にて鉄剤を内服
しているとしており,この頃原告に貧血に伴う症状があった可能性は否
定できない(なお,A医師は平成23年1月20日に原告の貧血は鉄欠
乏症ではないと判断している。)。貧血に対する治療としては赤血球輸
血も考えられ,その適応は一般にヘモグロビン量7g/dl以下とされてい
るところ,原爆症認定申請時ないし本件却下処分時までの原告の血液検
査の結果でこれに当てはまるものはない(別表「原告の血液検査結果の
推移」参照)。したがって,原告の骨髄異形成症候群について,原爆症
認定申請時あるいは本件却下処分時において直ちに積極的な治療を要す
る状況にあったということはできない。
この点,B医師は,同年1月20日時点の原告のヘモグロビン量は1
0g/dlを切っており,支持療法の適応があり,普通なら治療の対象であ
る旨供述する。もっとも,B医師は,原告が骨髄異形成症候群でありな
かなか手が出せないということで担当医は経過観察をしていたとも供述
しており,原爆症認定申請時に原告の骨髄異形成症候群につき積極的な
治療を必ずしなければならないという意見まで述べているわけではない。
そして,原告は施設に入所しており,日常生活でも車いすを利用してい
ること(乙B1,8)から運動量は比較的少ないと見受けられることや,
血球減少に伴う臨床症状がカルテには特記されていないことに照らすと,
A医師が特段の積極的な治療をしていないことが不適切であるというこ
とはできない。
(ウ)次に,原告の骨髄異形成症候群について,骨髄異形成症候群の予
後が一般に悪化することが予想されるものであり,原爆症認定申請時な
いし本件却下処分時において,その悪化の度合いに応じてそれに的確に
対処するための積極的な治療行為を要することとなるような場合であっ
たといえるかについて検討する。
前記イ(ア)のとおり,骨髄異形成症候群は多能性造血幹細胞の形質
転換で生じたクローン性の造血障害で,血液系細胞の異形成と骨髄での
無効造血を特徴とするものであり,血液細胞のがんの一つである。また,
骨髄異形成症候群の約3分の1は急性骨髄性白血病に移行するほか,
IPSSによるリスク群の分類に基づく50%生存期間は低リスク群で5.
7年,中間リスク群−1で3.5年,中間リスク群−2で1.2年,高
リスク群で0.4年となっている。このように,骨髄異形成症候群の予
後は一般に悪化することが予想されるものといえる。そうであるところ,
上記(イ)のとおり原告の骨髄異形成症候群は中間リスク群−1に分類
されるものであり,50%生存期間は3.5年にとどまり,そのうち2
5%が3.3年以内に急性骨髄性白血病に移行するものとされている
(前記イ(ア)a)。
また,原告の血液検査の結果は別表「原告の血液検査結果の推移」の
とおりであり,原告が骨折により入院して手術を受け,退院した後の平
成21年6月4日には白血球数3250/μl,赤血球数320万/μl,
ヘモグロビン量10.2g/dl,血小板数10.4万/μlであったところ,
平成22年1月7日には白血球数2750/μl,赤血球数332万/μl,
ヘモグロビン量10.6g/dl,血小板数10.2万/μl,好中球数16
10/μlと,平成23年1月20日には白血球数2270/μl,赤血球
数277万/μl,ヘモグロビン量9.6g/dl,血小板数8.3万/μl,
好中球数1320/μlと,本件却下処分直近の同年10月20日には白
血球数2010/μl,赤血球数234万/μl,ヘモグロビン量8.4
g/dl,血小板数7.3万/μl,好中球数1260/μlとなるなど,白血
球数,赤血球数,ヘモグロビン量,血小板数,好中球数のいずれもが減
少傾向にある。かかる血液検査の数値の推移からは,今後も原告の血球
数等が更に減少していくことが十分に予想され,赤血球減少に伴う貧血,
白血球減少に伴う易感染状態,血小板減少に伴う出血傾向といった臨床
症状を呈し,赤血球輸血,血小板輸血等の積極的な治療が必要になるこ
とが想定される状態にあるといえる。現に,血球数等の減少傾向はその
後も続いており,平成25年5月9日には白血球数1800/μl,赤血
球数243万/μl,ヘモグロビン量8.6g/dl,血小板数7.4万/μl,
好中球数859/μlと,同年6月20日には白血球数1460/μl,赤
血球数221万/μl,ヘモグロビン量7.8g/dl,血小板数6.9万/
μlとなっている。そして,白血球数が2000/μl以下,好中球数が
1000/μl以下になると,感染の頻度が増加すると言われているとこ
ろ(乙B13),平成24年9月20日以降原告の白血球数は2000
/μlを下回り,好中球数は1000/μlを下回る状態が続いている。
(別表「原告の血液検査結果の推移」)
これらからすると,原告の骨髄異形成症候群は,原告の原爆症認定申
請時においても本件却下処分時においても,その悪化の度合いに応じて
それに的確に対処するための積極的な治療行為を要することとなるよう
な場合であったといえる。
この点,被告は,①原告の骨髄異形成症候群は血球数等の減少の経過
が非常にゆっくりとしたものである,②好中球数の数値からも原告には
感染症の危険が高いとはいえないなどと主張する。しかしながら,白血
球の基準値は4000/μlから9000/μl,赤血球の基準値は35
0万/μlから490万/μl,ヘモグロビン量の基準値は10g/dlか
ら15g/dl,血小板の基準値は14万/μlから38万/μlであると
ころ(乙B8),原告におけるこれらの血球数等の値は,上記のとおり,
原告の原爆症認定申請時の直近の平成23年1月20日には白血球数2
270/μl,赤血球数277万/μl,ヘモグロビン量9.6g/dl,血小
板数8.3万/μlと,本件却下処分直近の同年10月20日には白血球
数2010/μl,赤血球数234万/μl,ヘモグロビン量8.4g/dl,
血小板数7.3万/μlといずれも上記基準値を下回る値であった上,こ
れらはいずれも減少傾向にあったことからすると,上記原爆症認定申請
時あるいは本件却下処分時においても,医師において,原告の血球数等
を定期的に検査し,その数値の推移を踏まえて積極的な治療行為を行う
ことが必要な状態に至っているか否かを的確に判断すべきことが求めら
れていたといえるのであって,原告の血球数等の減少の経過がゆっくり
したものであるとの被告の主張①は,上記判断をなんら左右するもので
はない。また,原告の好中球数は,平成21年2月19日以降2000
/μlを下回り,同年3月5日及び同月6日には1000/μlを切るな
どし,同月13日以降も概ね1000台前半の数値で推移していたほか,
その間の平成22年6月17日には1620/μlであったのが,その約
3か月後の同年9月9日には1170/μlと急激に低下するなどしてい
ること,原爆症認定申請後本件却下処分前の平成23年9月22日には
再び1000/μlを下回る数値となっていること(別表「原告の血液
検査結果の推移」)に照らせば,原爆症認定申請時においても,本件却
下処分時においても,原告の好中球数が1000/μlを下回る現実的
な危険性があったというべきであり,被告の主張②も採るを得ない。
(3)小括
以上によれば,原告の原爆症認定申請に係る骨髄異形成症候群について放
射線起因性及び要医療性の要件を満たしていたものと認められるから,要医
療性の要件を満たしていないとして同申請を却下した本件却下処分は違法で
あり,取消しを免れない。
2争点(2)(国家賠償請求の成否)について
(1)国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務
員が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を
加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定する
ものであるから,原爆症認定の申請に対する却下処分が放射線起因性又は要
医療性の要件の充足に関する判断を誤ったため違法であるとしても,そのこ
とから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるもの
ではなく,原爆症認定に関する権限を有する厚生労働大臣が職務上通常尽く
すべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該却下処分をしたと認め得るよう
な事情がある場合に限り,国家賠償法上違法の評価を受けるものと解するの
が相当である(最高裁平成元年(オ)第930号,第1093号同5年3月1
1日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁参照)。
ところで,厚生労働大臣が原爆症認定を行うに当たっては,申請疾病が原
子爆弾の傷害作用に起因すること又は起因しないことが明らかである場合を
除き,疾病・障害認定審査会の意見を聴かなければならないものとされてい
る(被爆者援護法11条2項,被爆者援護法施行令9条)。これは,原爆症
認定の判断が専門的分野に属するものであることから,厚生労働大臣が処分
をするに当たっては,原則として,必要な専門的知識経験を有する諮問機関
の意見を聴くことによってその処分の内容を適正ならしめる趣旨によるもの
であり,厚生労働大臣は,特段の合理的理由がない限り,その意見を尊重す
ることが要請されていると解される。そして,同審査会には,被爆者援護法
の規定により疾病・障害認定審査会の権限に属させられた事項を処理する分
科会として,医療分科会を置くこととされ(疾病・障害認定審査会令5条1
項),同分科会に属すべき委員及び臨時委員等は,厚生労働大臣が指名する
ものとされているところ(同条2項),医療分科会の委員及び臨時委員は,
放射線科学者,被爆者医療に従事している医学関係者,内科や外科等の専門
的医師といった,疾病等の放射線起因性について高い識見と豊かな学問的知
見を備えた者により構成されていることが認められる(弁論の全趣旨)。
以上によれば,厚生労働大臣が原爆症認定申請につき疾病・障害認定審査
会の意見を聴き,その意見に従って却下処分を行った場合においては,その
意見が関係資料に照らして明らかに誤りであるなど,答申された意見を尊重
すべきではない特段の事情が存在し,厚生労働大臣がこれを知りながら漫然
とその意見に従い却下処分をしたと認め得るような場合に限り,職務上通常
尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該却下処分をしたものとして,
国家賠償法上違法の評価を受けると解するのが相当である。
本件について検討するに,本件却下処分は,前記前提事実(3)のとおり,
厚生労働大臣が疾病・障害認定審査会の意見を聴いた上で,その意見に従っ
てされたものであるところ,その意見が関係資料に照らし明らかに誤りであ
るなど,答申された意見を尊重すべきではない特段の事情が存在したとは認
められない。
(2)この点につき,原告は,疾病・障害認定審査会の医療分科会が平成2
0年3月17日に定め,平成21年6月22日に改定した新しい審査の方針
(乙A1の2)によっても原告の原爆症認定申請に基づき原告の申請疾病に
つき原爆症認定すべきであった旨を主張する。しかし,新しい審査の方針は,
要医療性については,「当該疾病等の状況に基づき,個別に判断するものと
する。」としているにとどまり,新しい審査の方針によれば原告の申請疾病
について要医療性が認められることが明らかであったとはいえない。そして,
積極的な治療がなされておらず経過観察がされているにとどまる場合も要医
療性が認められるかについて最高裁判所の判例はなく,また下級審裁判例の
集積により要医療性の解釈論が異論なく確立されるに至ったとまではいえな
いから,積極的な治療がなされておらず経過観察がされているにとどまる場
合には要医療性が認められないとの解釈を前提として原告の申請疾病につい
て要医療性を否定した疾病・障害認定審査会の意見が明らかに誤りであると
まではいえない。
(3)したがって,その余の点を判断するまでもなく原告の国家賠償請求に
は理由がない。
3よって,原告の本件各請求のうち,本件却下処分の取消請求は理由があ
るから認容し,国家賠償請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費
用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,64条本文
を適用して,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第7民事部
裁判長裁判官田中健治
裁判官尾河吉久
裁判官木村朱子

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