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       主   文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 請求の趣旨の訂正に基づいて,原判決主文第一項を次のとおり変更する。
(1) 控訴人A及び控訴人Bは,連帯して,大垣市に対し,670万5410円
及びこれに対する平成7年11月30日から支払済みまで年5パーセントの割合に
よる金員を支払え。
(2) 控訴人Cは,控訴人A及び控訴人Bと連帯して,大垣市に対し,335万
2705円及びこれに対する平成7年11月30日から支払済みまで年5パーセン
トの割合による金員を支払え。
(3) 控訴人D及び控訴人Eは,控訴人A及び控訴人Bと連帯して,大垣市に対
し,それぞれ167万6352円及びこれに対する平成7年11月30日から支払
済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
3 控訴費用は控訴人らの負担とする。
       事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人ら
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
 主文と同旨(被控訴人は,承継前控訴人Fが平成13年3月3日に死亡し,同人
の妻である控訴人C,子である控訴人D及び控訴人Eが相続したことにより,請求
の趣旨を主文第2項の(1)ないし(3)のとおり訂正した。)
第2 事実関係
 本件は,大垣市の住民である被控訴人が,同市内の納税貯蓄組合に対する同市の
補助金の支出行為が,納税貯蓄組合法に違反して違法である旨主張して,当時の市
長(当審係属中に市長在職のまま死亡し,妻と2人の子が訴訟承継した。)並びに
収入役及び総務部長に対して,同補助金相当額を大垣市に返還することを求めた住
民訴訟の控訴審である。
1 争いない事実並びに証拠(乙4,5,乙21の1ないし4,乙22,乙23の
1,2,乙24ないし27)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実
(1) 被控訴人は,大垣市の住民であり,かつ同市議会の議員である。
平成7年当時,承継前控訴人Fは大垣市長の地位にあり,控訴人Aは同市収入役の
地位にあり,控訴人Bは同市総務部長の地位にあった。
 承継前控訴人Fは平成13年3月3日に死亡し,同人の妻である控訴人C(相続
分2分の1),子である控訴人D及び控訴人E(相続分各4分の1)が,承継前控
訴人Fを相続した。
(2) 大垣市は,納税貯蓄組合法(昭和26年法律145号)の制定,施行に
伴って,昭和26年4月,大垣市納税貯蓄組合補助金交付規則(以下「本件規則」
という。)を定め,納税貯蓄組合に対する補助金制度を設けた。
 本件規則は,昭和41年に全部改正され,その後も昭和51年,昭和62年,平
成5年等に改正された。
(3) 控訴人らは,大垣市議会に対し,本件規則に基づいて,納税貯蓄組合に対
する補助金を計上した平成7年度大垣市予算案を提出し,同市議会は,平成7年3
月,同補助金を計上した平成7年度大垣市予算を決議した(以下,同予算を「本件
予算」といい,同決議を「本件予算決議」という。)。
(4) 承継前控訴人Fは,平成7年10月31日,大垣市長として,
 本件規則に基づき,同市内に存在する合計412の納税貯蓄組合(以下,併せて
本件組合)という。これら組合がいずれも,納税貯蓄組合に基づく組合として成立
したことについては争いがないが,その後,平成7年までに同法に基づかない任意
団体に変化したか否かについては,争点(1)のとおり争いがある。)に対し平成
7年度前期(同年4月ないし9月)分の補助金として合計670万5410円(以
下「本件補助金」という。)を交付すること等について,主管課である総務部収納
課の求めにより,本件補助金を交付することを決裁した。これにより,総務部長で
ある控訴人Bは,大垣市事務専決規程に基づいて,本件補助金の交付決定(支出負
担行為)及び支出命令を専決した。
 控訴人Aは,大垣市の収入役として,上記支出命令を審査し,平成7年11月3
0日,本件組合(合計412組合)に対し,本件補助金の口座振込を実施して,こ
れを支出した(以下,上記の支出負担行為,支出命令及び支出を併せて「本件支
出」という。)。
(5) ところで,納税貯蓄組合法(昭和26年法律145号)の目的
は「納税貯蓄組合の健全な発達を図り,もって租税の容易且つ確実な納付に資せし
めること」(同法1条)であり,同法10条1項は,補助金の交付目的として事務
費を補うためと規定するとともに,同条2項において,納税貯蓄組合の役員又は組
合員の報酬の支払に充てるために補助金を交付することを禁止し,補助金の交付目
的を組合の事務費の補助に限定している。また,納税貯蓄組合法10条3項は,補
助金交付の手続については政令で定める旨規定し,これを受けて,同法施行令4条
1項1号は,納税貯蓄組合が補助金の交付を受けようとするときは,費用の
金額及びその費途別の内訳を記載した補助金交付申請書を提出することを義務づけ
ている。
 一方,本件規則は,1世帯又は1法人あたり100円の割合で組合事務補助金を
交付する旨定め,また,納期内納税率に応じて納税奨励補助金(納期内納税率10
0パーセントの場合は納税額の2パーセント,同95パーセント以上100パーセ
ント未満の場合は納税額の1パーセント)を交付する旨定めている。さらに,本件
規則は,もと補助金交付申請書の提出及びその記載内容に関する規定を有したが,
同規定は,昭和41年の改正により削除された。
(6) 被控訴人は,平成8年5月13日,本件支出につき,大垣市監査委員会に
対し,地方自治法242条1項に基づく監査請求をしたが,同委員会は同年7月1
日,被控訴人の監査請求を棄却する旨の決定をし,同日,被控訴人に通知した。
(7) 大垣市は,本件支出に関して,承継前控訴人F(又はその相続人ら)に対
し,不法行為に基づく損害賠償の請求をしていない。
 また,大垣市は,控訴人A及び控訴人Bに対し,地方自治法243条の2第1項
に基づく損害賠償の請求をしていない。
2 争点
(1) 本件組合は,本件支出当時,納税貯蓄組合法に基づかない任意団体であっ
たか。
ア 控訴人らの主張
 本件組合はいずれも,成立当初は納税貯蓄組合法に基づく組合であったが,本件
支出当時には既に同法に基づかない任意団体たる納税組合となっていた。
(ア) 昭和26年の納税貯蓄組合法等の施行に伴い,大垣市は本件規則を定め
て,納税奨励補助金や組合奨励補助金などの制度を設け,納税貯蓄組合から補助金
交付申請書の提出を受けて,補助金を支出していたが,その後,奨励補助金の引上
げや,補助金が機械的に計算できるようになったことから,昭和41年に本件規則
を全面改正し,上記申請書についての規定を削除した。
 その後も,本件規則については,昭和51年の改正で納税奨励補助金の一部が廃
止され,昭和62年の改正では,プライバシー保護の観点から納税通知書が直接納
税者に郵送されるようになったことに伴い,納税通知書の配布についての組合奨励
補助金が廃止された。
 さらに,平成5年の改正では納税奨励額を縮小するとともに,本件規則から納税
貯蓄組合が納税貯蓄組合法に根拠を置く旨の規定を削除し,同法に基づかない組合
であることを明確化した。
(イ) これら改正によって,大垣市における納税貯
蓄組合の実態は,納税貯蓄組合法に基づく納税貯蓄組合から,同法に基づかない任
意の納税貯蓄組合に変化した。
 したがって,本件規則による補助金の交付は,納税貯蓄組合法10条に基づくも
のではなくなり,地方自治法232条の2及び大垣市補助金等交付規則に基づき,
大垣市が組合の健全な発達と市税の容易かつ確実な納付を図るという公益上の必要
性を認めて交付することになったものである。
イ 被控訴人の反論
 控訴人ら主張の本件規則の改正は,補助金の算定根拠を変更し,補助金交付申請
書の提出規定を削除したにすぎず,組合の実態には何ら変更はない。
 また,納税貯蓄組合法に基づく納税貯蓄組合を任意団体に変更するには,納税貯
蓄組合法13条に基づく解散の届出が必要であり,さらに,納税貯蓄組合でないも
のが納税貯蓄組合の名称を使用することは,納税貯蓄組合法14条で罰則をもって
禁止されているところ,本件組合のうち上記解散届出の手続をした納税貯蓄組合は
ないし,本件組合は,本訴提起後まで納税貯蓄組合の名称を使用していたのである
から,任意団体に変化したということはできない。
(2) 本件規則は違法であるか。その違法は本件支出に承継されるか。
ア 被控訴人の主張
 本件規則は,納税貯蓄組合法が定める要件を緩和して納税貯蓄組合に対する補助
金交付をより広く認めているから,納税貯蓄組合法10条及び同法施行令に反して
違法である。そして,本件支出は,違法な本件規則に基づいて行われたものである
から,違法である。
イ 控訴人らの反論
(ア) 本件支出は,本件規則に基づくものであるとともに,本件予算決議に基づ
くものであり,本件予算決議は,議会の多数による決議であるから,適法であるの
で,本件予算決議に基づく本件支出も適法である。
(イ) 仮に本件予算決議が違法であったとしても,その違法性は本件支出に承継
されない。
a すなわち,先行行為の違法が後行の財務会計行為に承継されるためには,先行
行為が著しく合理性を欠き,その結果,これに予算執行の適正確保の見地から看過
し得ない瑕疵がある場合に限られるが(最高裁平成4年12月15日判決),本件
予算決議に,上記のような瑕疵があるとはいえない。したがって,控訴人らは,本
件予算決議の内容に従って財務会計上の措置を採るべき義務があるから,本件支出
に財務会計法規上の義務に違反する違法性があるということはできない。
b 仮に
,本件予算決議に上記のような瑕疵があるとしても,控訴人らが本件予算決議が違
法であるか否かの判断を軽々に下すことができない上,控訴人らが本件予算の執行
を拒むとなると,予算の執行が確保されないことになるから,控訴人らが本件支出
をしたことに違法性はない。
ウ 被控訴人の再反論
(ア) 本件支出の根拠となったのは本件規則であり,これは,地方自治法15条
に基づいて,執行機関である地方自治体の首長が自ら制定,改廃できるものである
から,承継前控訴人Fには,納税貯蓄組合法に反する本件規則を改廃する権限及び
義務があった。
 本件では,執行機関が自ら制定した違法な規則に基づいて本件支出を行ったこと
の違法性が問われるべきであって,本件予算決議の存在は,本件支出の違法性を検
討する上で問題とされるべきではない。
(イ) 仮に本件予算決議の存在が問題になるとしても,本件規則自体が違法であ
る以上,本件予算決議もその限りにおいて違法であるところ,本件では,納税貯蓄
組合法10条に違反する本件予算決議の違法性は重大かつ明白であり,また,地方
自治体の首長は予算の適法性を独自に判断すべき義務があるから(地方自治法17
7条),本件支出は本件予算決議の違法性を承継するものであって,同決議の存在
によって控訴人らの責任が否定されるものではない。
(3)控訴人B及び同Aには,本件支出を行うについて重過失があったか。
(被控訴人の主張)
 納税貯蓄組合法10条1項の規定が存在し,同条項が補助金の使途,交付要件を
厳格に定めていること,それゆえ,本件支出が違法であることは,控訴人B及び同
Aにおいて容易に認識し得,又は認識し得べき事項であった。また,本件支出に先
立つ平成3年に,他の地方公共団体でも本件と同種の住民訴訟が提起されており,
同事件の被告及び当該地方公共団体が補助金支出の違法性を認め,同訴訟は取下げ
によって終了した経緯がある。
 したがって,遅くともこの訴訟の終了した平成4年には,控訴人B及び同Aは,
納税貯蓄組合法に基づかない組合への補助金支出が違法であることを容易に認識し
得たはずであるにもかかわらず,これを怠ったのであるから,控訴人B及び同Aに
は重過失があった。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について
 証拠(乙4,乙6(各枝番,孫枝番を含む。),乙31,乙37)及び弁論の全
趣旨によれば,昭和41年の改正により本件規則から補助金
交付申請書の規定が削除されたこと,昭和51年の改正により納税奨励補助金の一
部が廃止されたこと,昭和62年の改正により納税通知書の配布についての組合奨
励補助金が廃止されたこと,平成5年の改正により本件規則から納税貯蓄組合が納
税貯蓄組合法に根拠を置く旨の規定が削除されたことが認められる。
 しかし,納税貯蓄組合法12条,14条1号は,納税貯蓄組合でない者が納税貯
蓄組合の名称を使用することを禁じ,その違反に対しては過料を科す旨規定してお
り,また,同法13条は,納税貯蓄組合が解散したときは,同組合の代表者が,設
立時に規約の届出をした税務署の長及び地方公共団体の長に対し,解散を届け出な
ければならない旨規定しているところ,証拠(乙28,乙31,乙36,証人中野
昭)によれば,本件規則が平成5年に改正された後も,平成8年10月までは本件
組合が「納税貯蓄組合」という名称を用いていたこと,また,平成9年3月までは
本件組合の代表者等が税務署長及び大垣市長に対して納税貯蓄組合の解散の届出を
していないことが認められる。これらの事実は,少なくとも本件支出があった当
時,本件組合が組織変更されていないことを裏付けるものである上,本件規則につ
いて上記アの改正があったことは,本件補助金の算定根拠を変更し,本件補助金の
交付申請手続を変更したにすぎないと認められるので,本件規則の上記改正によ
り,本件組合が納税貯蓄組合法に基づかない任意団体に変化したとは認められな
い。
2 争点(2)について
(1) 本件規則の違法性について
ア 納税貯蓄組合法10条1項は,「国又は地方公共団体は,納税貯蓄組合に対
し,組合の事務に必要な使用人の給料,帳簿書類の購入費,事務所の使用料その他
欠くことができない事務費を補うため,予算の範囲内において補助金を支出するこ
とができる。但し,国及び地方公共団体が交付する補助金の合計額は,組合が使用
した当該費用の金額をこえてはならない。」と規定し,同条3項を受けた同法施行
令4条1項1号は,「組合は,納税貯蓄組合法10条1項による国又は地方公共団
体の補助金の交付を受けようとするときは,毎年10月から翌年9月までの分につ
いて,当該期間内に使用した同項の費用の金額及びその費途別の内訳を記載した補
助金交付申請書を,その年10月末日までに当該組合の規約の届出をした税務署長
を経由して当該組合の主たる事務所の所在
地を管轄する国税局長に,又は当該補助金の交付を受けようとする地方公共団体の
長に提出しなければならない。」と規定している。
 納税貯蓄組合法及び同法施行令の上記各規定は,国又は地方公共団体が納税貯蓄
組合に交付することができる補助金の対象の範囲及び限度額並びにその交付手続を
明確にし,もって,国又は地方公共団体の財政の健全性を維持し,納税貯蓄組合の
健全な発達を図るため,同組合に対し実際に要した事務費を超え,また,その補填
を図る以外の目的で補助金を交付することを禁止する趣旨であると解され,国又は
地方公共団体がこれら各規定に違反して補助金を交付することは許されないという
べきである。
イ そして,証拠(乙4,乙5,乙6の6の1ないし3,乙6の7ないし14)及
び弁論の全趣旨によれば,平成7年11月30日当時の本件規則は,その7条1項
で,補助金の種類を,組合事務補助金及び納税奨励補助金と規定するとともに,そ
の内容を,組合事務補助金については,1世帯又は1法人につき100円,納税奨
励補助金については,納期内納税率が100パーセントの場合,納税額の2パーセ
ント,納期内納税率95パーセント以上100パーセント未満の場合,納税額の1
パーセントと定め,また,同条2項で,「納税奨励補助金の納税額は,1の納税者
にかかる1納期毎の納税額が10万円を超えるときは,これを10万円として計算
する」旨規定するほか,同条3項では,「市長は,第1項に定めるもののほか組合
及び納税貯蓄組合連合会に必要と認める場合は,別に補助金を交付することができ
る。」と規定しているが,他方,本件規則が組合の事務に欠くことのできない事務
費を補うことを上記各補助金の支給の要件としておらず,それらの補助金の支出額
について組合の使用した上記事務費の金額を超えてはならないとの制限も設けてい
ないこと,また,当該期間内に使用した上記事務費の金額及びその費途別の内訳を
記載した補助金交付申請書の提出を求める規定が存在しないことが認められる。
ウ したがって,本件規則は,納税貯蓄組合法10条1項,3項,同法施行令4条
1項1号の要件とかかわりなく,独自の基準により,組合への補助金支給を認める
ものであり,納税貯蓄組合法10条1項が定める事務費補填の目的以外の目的をも
ってする補助金ないし事務費の範囲を超える補助金を許容するものであるから,上
記法令に反し違法とい
うべきである。
エ ちなみに,納税貯蓄組合法10条は,地方公共団体が地方自治法232条の2
に対する特別法にあたると考えられるところ,「公益上必要がある場合」には,広
く組合に対する補助金を交付し得るとすれば,納税貯蓄組合法が,国又は地方公共
団体の財政の健全化及び納税貯蓄組合の健全な発達を図る観点から,納税貯蓄組合
の事務に不可欠の費用に限って補助金の交付を認め,その金額は現実に使用した金
額を限度とするとして,納税貯蓄組合に対する補助金の交付に具体的な制限を設け
た趣旨がそこなわれることが明らかである。したがって,地方公共団体が,この制
限を超えて,地方自治法232条の2に基づいて,本件組合に対する補助金を交付
することは許されない。
(2) 本件支出の違法性について
ア 上記(1)のとおり本件規則が違法である以上,これに基づいて行われた本件
支出(支出負担行為,支出命令,支出)もまた違法であるというべきである。
 本件規則は,昭和26年以来,遅くとも全面改正された昭和41年以来,継続し
て施行されてきたものではあるが,地方自治法15条に基づいて,大垣市長が制定
した規則であるから,大垣市長は,同法同条に基づいて,本件規則を改廃する権限
を有し,本件規則が法令に適合しない場合には,これを改廃する義務をも有するに
至る。したがって,大垣市長であった承継前控訴人Fは,平成7年当時,既に違法
となっていた本件規則を改廃する権限と義務を負っていたにもかかわらず,これを
改廃せず,本件規則に基づいて本件支出を行ったものであるから,本件規則が既存
の規則であったことをもって,本件支出を適法であると主張することはできない。
イ(ア) ところで,控訴人らは,本件支出は本件予算決議に基づくものであり,
本件予算決議は議会の多数による決議として適法であるから,本件予算決議に基づ
く本件支出もまた適法であると主張する。
(イ) しかし,地方公共団体の予算は,毎会計年度,長がこれを調整し(地方自
治法149条2号,211条,218条),議会に提出する(同法149条1号)
ものであり,議会の議決により成立して,長にこれを執行して公金を支出する権限
を与えるとともに,その支出行為を制限するものではあるが,反面,予算の執行で
あるからといって,支出負担行為,支出命令,支出が当然に適法になるものではな
い。
 すなわち,支出負担行為は,その内容において
も,その手続においても,法令又は予算(予算の定める目的,金額,必要性)の定
めるところに従わなければならないし(地方自治法232条の3),収入役は,長
の命令がなければ支出をすることができず(同法232条の4第1項),同命令を
受けた場合においても,当該支出負担行為が法令又は予算に違反していないこと及
び当該支出負担行為に係る債務が確定していることを確認した上でなければ,支出
をすることができない(同第2項)。
 上記のとおりであるから,本件補助金の交付決定(支出負担行為)は,本件予算
に基づくものであることのみから適法であるとはいえず,適法であるためには法令
に適合するものであることを要するところ,前記のとおり,上記交付決定は本件規
則に基づくものであり,本件規則が法令に反して違法なものである以上,上記交付
決定もまた違法であるといわざるを得ない。したがって,同決定に基づく支出命
令,支出も違法となり,本件支出は全体として違法である。
(ウ) 以上のとおりであるから,控訴人らの上記(ア)の主張は採用できない。
 また,控訴人らは,本件予算決議が違法であるとしても,その違法は本件支出に
は承継されず,本件支出は適法であると主張するが,上記のとおりであるから,本
件予算決議が適法であると違法であるとを問わず,本件支出が違法であるとの判断
は左右されない。
3 争点(3)について
 本件支出は本件規則に基づくものであるところ,前記認定のとおり,本件規則
は,補助金の使途,交付要件を厳格に規制した納税貯蓄組合法10条1項等の規定
に違反して違法であり,その違法は,同法を検討すれば容易に知り得るものであっ
たから,これを看過した控訴人B及び同Aには,重大な過失があったと認められ
る。
4 責任
 前記第2の1の事実及び前記認定事実によれば,承継前控訴人Fは,違法な本件
規則に基づく本件補助金の交付決定をすべきでないにもかかわらず,市長として本
件補助金の交付を決裁し,これにより実質的に本件補助金の交付決定(支出負担行
為)をしたものということができるから,大垣市に対し,過失により本件補助金相
当額の損害を与えたというべきである。
 また,前記第2の1の事実及び前記認定事実によれば,控訴人Bは,総務部長
(専決権者)として,本件補助金について支出負担行為(交付決定)及び支出命令
を専決し,控訴人Aは収入役として本件補助金の支出を行ったも
のであり,その際,控訴人B及び同Aには重過失があったから,控訴人B及び同A
は,地方自治法243条の2第1項に基づいて,大垣市に対し損害賠償責任を負
う。
 なお,承継前控訴人Fの責任と控訴人B及び控訴人Aの各責任は,共同不法行為
に基づく責任として不真正連帯の関係に立つというべきである。
5 以上のとおりであるから,本件控訴はいずれも理由がないので,これを棄却す
るが,被控訴人による請求の趣旨の訂正があったので,これに基づいて原判決を変
更し,控訴費用の負担について民事訴訟法67条,61条,65条を適用して,主
文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第2部
裁判長裁判官 大内捷司
裁判官 佐久間邦夫
裁判官 加藤美枝子

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