弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役四月及び罰金五〇〇〇円に処する。
     右罰金を完納することができないときは金二〇〇円を一日に換算した期
間被告人を労役場に留置する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人神川貫一の上告趣意は、先ず賍物牙保の点につき違憲をいうが、被告人の
自白が所論のごとく強制によるものであることは、これを認むべき証拠がないから、
その前提を欠くものであり、その余の同点に対する所論は、単なる訴訟法違反、事
実誤認の主張を出でないものであり、次に煙草専売法違反の点につき判例違反をい
うが、所論判例は、本件に適切でないから、その前提を欠くものであり、同点に対
するその余の主張は、事実誤認、単なる法令違反の主張を出でないものであり、ま
た、被告人本人の上告趣意は、事実誤認の主張に帰し、すべて、刑訴四〇五条の上
告理由に当らない。
 しかし、職権をもつて調査すると、たばこ専売法二九条二項の販売とは、不特定、
多数人に対してなす目的を以てなされる有償的譲渡行為を指すものであることは、
当法廷の判例とするところである(判例集一一巻三号一二七五頁以下参照)。しか
るに原判決の引用した第一審判決の判示第二事実中のA外一名がBに本件煙草を売
り渡した行為が右のごとき不特定、多数人に対してなす目的を以てなされた有償的
譲渡行為であることは、一件記録に徴してもこれを認めることができない。果たし
て然らば、同判示のごとく被告人がこれを周旋をしたとしても、同条項の販売をし
又はこれを幇助したものということができない。従つて、この点の被告人の所為は、
罪とならないものといわざるを得ない。それ故、原判決には、刑訴四一一条三号又
は一号にいわゆる判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認又は法令の違反があつ
て、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。
 よつて、原判決を破棄し、同四一三条但書により直ちに判決をするに、被告人の
賍物牙保の所為は、刑法二五六条二項、罰金等臨時措置法二条、三条に該当すると
ころ、被告人には、第一審判決判示の前科があるから、同法五六条、五七条に従い
懲役刑につき累犯加重をした刑期、並びに、前示罰金額の範囲内で被告人を主文二
項の刑に処し、罰金を完納することができないときは同法一八条により被告人を主
文三項の期間労役場に留置すべく、訴訟費用については刑訴一八一条を適用すべき
ものとし、また、たばこ専売法違反の所為については、刑訴四一四条、四〇四条、
三三六条により無罪の言渡をしなければならないところ、同違反の点は、前記賍物
牙保の所為と一個の行為にして二個の罪名に触れるものとして訴因、罰条を追加し
たものと認められるから、特に主文において、無罪の言渡をしない。
 この判決は、裁判官岩松三郎が退官につき合議に関与しないほか、裁判官全員一
致の意見によるものである。
 検察官 大津民蔵公判出席
  昭和三三年四月一〇日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎

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