弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
 本件各控訴を棄却する。
         理    由
第1 各控訴の趣意
  本件各控訴の趣意は,主任弁護人松本恒雄,弁護人東俊一,同高田義之及び同中
川創太連名作成の控訴趣意書,主任弁護人松本 恒雄各作成の控訴趣意書及び平成
14年7月8日付け意見書に記載のとおりであり,これに対する答弁は,検察官高橋信
行作成の答弁
書に記載のとおりであるから,これらを引用する(なお,以下の説明に際しては,原審
記録の証拠等関係カードの記載中,原審検察官請 求証拠番号を「原審検1」などと,
原審弁護人請求証拠番号を「原審弁1」などと略称する。)。
 各論旨は,要するに,次のようなものである。
1 本件の被告人A(以下「被告人A」ともいう。)らに対する税務調査としての質問検査
は,同被告人から被告人B株式会社及び被告人C
 株式会社(以下,それぞれ「被告人B」,「被告人C」といい,この両社を併せて「被告人
2社」ともいう。)を申告人とする各修正申告書の  提出依頼を受けた税理士のD(以下
「D」ともいう。)が,今治税務署副署長のE(以下「E」ともいう。)にその修正申告につい
ての事前相
 談を持ち掛けたことをきっかけにして,しかも,同税務署からの連絡を受けて急きょ開
始された高松国税局調査査察部(以下「調査査察 部」ともいう。)による被告人2社に
対する犯則調査に協力する方針の下に実施されたもので,調査査察部は,この質問検
査によって得
 た供述や帳簿類等に基づいて臨検・捜索・差押許可状の発付を受け,それにより差し
押さえた証拠資料を基に犯則調査を遂げた結果, 被告人らを検察官に告発し,この告
発を受けた検察官も,その犯則調査によって得られた証拠資料に全面的に依拠して本
件公訴を提  起したものである。このような税務調査及び犯則調査の手続は,法人税
法156条並びに憲法31条,35条及び38条に違反するもので あるから,この各手続
により得られた証拠資料に全面的に依拠した本件公訴は,無効なものとして公訴自体
棄却されるべきである。仮  に公訴が棄却されないとしても,原審で取り調べられた検
察官請求の書証や証拠物のうち,上記質問検査以降に収集されたものは,違 法収集
証拠に該当するから,刑事手続の証拠から排除されるべきである。それにもかかわら
ず,原判決は,前提事実の認定を誤り,上 記各法令の解釈適用をも誤った結果,(1)
不法に公訴を受理し,仮にそうでなくても,(2)上記の違法収集証拠を証拠として取り調
べた   上,本件の罪証に供する誤りを犯したものであり,しかも,この(2)の手続違反
は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから,いずれ  にしても破棄を免れない。
2 原審弁護人が請求した書類の取寄せ(取寄先を高松国税局,取り寄せるべき書類
を,平成6年2月から同年4月12日までの間に,調 査査察部が被告人B,被告人Cを
被調査者として銀行調査をすることを承認する旨の,高松国税局長の証印のある書面,
とするもの〔原 審弁108〕),各証拠物の差押え((1)差し押さえるべき物を,調査査察部
が高松簡易裁判所から捜索差押許可状の発付を受けるに当た り,メモ〔原審弁2はそ
の写し。以下,このメモを「預金残高メモ」ともいう。〕の作成者,意義,入手経路などにつ
いて言及した査察官報告 書,差押えの場所を松山地方検察庁,とするもの〔原審弁1
09〕,(2)差押えるべき物を,(1)と同内容の査察官報告書,差押えの場所を 高松国税
局,とするもの〔原審弁110〕,(3)差押えるべき物を,調査査察部が,平成6年4月13
日,高松簡易裁判所に対し被告人Bを  犯則嫌疑者とする臨検・捜索・差押許可状を
請求するに当たり,同裁判所に提出した疎明資料のうち,(ア)同許可状請求書に添付し
た  疎明資料目録,(イ)同許可状請求書に記載された,事業年度が平成3年8月1日
から平成4年7月31日まで及び事業年度が平成4年8 月1日から平成5年7月31日ま
での各隠ぺい所得金額中,振出人が不明の手形・小切手の各入金が隠ぺい所得にか
かる売上げであ  る旨を記述した査察官報告書,とするもの〔原審弁115〕)及び調査
査察部査察第1部門主査のF(以下「F」ともいう。)の証人尋問(立証 趣旨を,平成6年
4月15日付け甲銀行X支店の証明書〔原審検甲133〕添付の要求払預金入出金明細
表の入金額のうち,「集中取立  手形入出金明細表のため不明」というのは,平成6年
4月時点においても,約束手形の振出人名が不明であるということを意味している とこ
ろ,証人は被告人Bを嫌疑法人とする臨検・捜索・差押許可状を請求するに当たり,上
記入手先不明の金額について,それが隠ぺ  い所得の一部であるとどのようにして疎
明することができたのか,その他関連事項とするもの〔原審弁114〕)は,本件の税務調
査及び  犯則調査に関する事実関係を解明する上で不可欠のものであったのに,原
審裁判所は,この各請求をいずれも却下しただけでなく,検 察官に対しても,そうした
事実関係の有無についての適切な釈明権を行使しないまま判決に至ったもので,こうし
た点において,原審の  訴訟手続には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反
がある。
3 国税犯則取締法による犯則事件の調査手続は,実質的には租税ほ脱犯の捜査とし
ての機能を有するものではあるけれども,本来,  国税の公平確実な賦課徴収という
行政目的を実現するためのものであって,国税通則法65条5項の要件を満たす修正申
告書の提出  があった場合には,この行政目的が達成されたことになるから,そうした
修正申告書の提出は,当該租税ほ脱犯についての可罰的違法 性を失わせるか,超法
規的違法性阻却事由となるかして,犯罪の成立を阻却し,仮にそうでなくても,超法規的
処罰阻却事由となって,  刑を免除すべき場合に当たると考えられる。したがって,そう
した修正申告書を提出した被告人らは,いずれも無罪であるか,その各刑 を免除され
るかするべきであるのに,こうした点を看過して被告人らを有罪とし,被告人らにそれぞ
れ主文掲記の各刑を言い渡した原判 決は,平成10年法律第24号による改正前の法
人税法159条(以下,単に「法人税法159条」という。)の適用を誤っており,しかも,こ 
の誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである。
  以上のとおりである。
  そこで,以上の各点について,各所論(当審弁論をも含む。)にかんがみ,記録を調
査し,当審における事実取調べの結果をも併せて 検討する。
第2 各控訴趣意中,上記第1の1の主張(前提事実に関する事実誤認及び法令の解
釈適用の誤りが,ひいて公訴の不法受理及び訴訟  手続の法令違反を招いたとの主
張)について
1 本件の主要な事実経過
  関係証拠によると,本件の主要な事実経過は,原判決が「争点に対する判断」の第1
で認定するとおりであると認められ,これに関係  証拠によって認められる若干
の事実を付加して示すと,以下のとおりとなる。
(1) 被告人Aは,平成6年4月7日,税理士のDに,被告人2社が合計約5億円の売上
げを除外して法人税を免れていることなどを打ち明 け,同月9日にはDに修正申告をし
て欲しい旨依頼した。この依頼を引き受けたDは,その売上除外の額が多額に上ること
などから,同 月11日午前11時30分ころ,自ら今治税務署に赴き,Eに対し,被告人2
社が多額の売上除外をしていることを打ち明けて,修正申告  の可否等について相談
した。
(2) Eは,翌同月12日午前9時ころになって,Dからの上記相談内容を同税務署法人課
税第1部門統括国税調査官のG(以下「G」ともい う。)及び同第3部門統括国税調査官
H(以下「H」ともいう。)に伝え,3名で対応を協議した結果,事実の確認などのために同
署職員を  税務調査に行かせることにした。
(3) そこで,GとHとは,同日午後0時30分ころ,部下の同税務署法人課税第3部門所
属上席国税調査官のI(以下「I」ともいう。)及び同 部門所属国税調査官のJ(以下「J」
ともいう。)に対し,被告人2社に対する税務調査を指示した。また,Eは,同日午後1時
過ぎころ,D  に電話をして,職員を調査に行かせる旨伝えた。
(4) IとJとは,上記指示に従い,同日午後1時30分ころ,被告人2社の事務所(所在場
所は同じ。)に赴き,そのころから同日午後4時前 ころまでの間,D立会いの下,被告
人Aやその妻のK(以下「K」ともいう。なお,当時Kは被告人Bの代表取締役の地位にあ
った。)に対  し,修正申告を申し出た事業年度についての売上除外の方法やその金
額,売上除外の動機,修正申告を決意するに至った動機等につ いて質問するなどし
た。また,IとJとは,被告人Aらから,(ア)被告人Bの平成2年7月期,平成3年7月期,平
成4年7月期の総勘定元   帳,(イ)被告人Cの平成2年1月期,平成3年1月期,平成
4年1月期の総勘定元帳,(ウ)請求書4冊,(エ)売上帳2冊,(オ)手形帳1冊を 預かり,
その旨の預り証を作成して交付したほか,(カ)簿外資産である定期預金の名義人や残
高等が記載された預金残高メモ5枚,(キ) 売上除外金 額が集計された除外金額集計
表(以下「除外金額集計表」ともいう。)6枚(原審弁3はその写し),(ク)複数の普通預金
通帳 (以下,単に「普通預金通帳」ともいう。)の表紙裏の見開き部分のそれぞれの写
しを受領した。
(5) 他方,調査査察部では,平成6年3月22日,被告人2社に対する内てい立件決議
をし,同日付けで内てい立件決議書を作成した。そ して,この決議に基づき,広島国税
局調査査察部長に対し,同月23日付けで防府税務署に対するL及びM株式会社(被告
人Bと取引関 係があったもの)の課税事績等の収集を,同月24日付けで広島南税務
署に対するN有限会社(被告人Cと取引関係があったもの)の直 近4年分の確定申告
書外の徴求等を,それぞれ嘱託したほか,東京国税局査察部長に対し,同月23日付け
で横浜市中区役所に対す る被告人Aの娘夫婦のO及びP(以下「O夫婦」ともいう。)の
住民票の徴求及び課税事績の収集を嘱託し,同年4月8日までにそれらの  回報を得
ていた。
(6) また,調査査察部は,同年4月12日,同部職員の査察官Q(以下「Q」ともいう。)を
派遣し,今治市役所において被告人A及び当時の 被告人Bの代表取締役R(以下「R」
ともいう。)の住民票を,波方町役場において被告人A及びRの戸籍謄本を,松山地方
法務局今治支 局において被告人2社の商業登記簿謄本を入手した。
(7) さらに,調査査察部は,同月13日,高松簡易裁判所に対し,被告人2社の事務所,
被告人Aの居宅及び各金融機関を臨検場所とす る臨検・捜索・差押許可状の請求を
し,同日中にその発付を受けた。そして,その際の法人税法違反の嫌疑事実は,被告人
Bだけを嫌 疑者とした上,平成3年7月期の隠ぺい所得額が6873万円,ほ脱税額が
2577万3000円,平成4年7月期の隠ぺい所得額が1億30 14万2000円,ほ脱税
額が4880万3000円,平成5年7月期の隠ぺい所得額が6143万1000円,ほ脱税
額が2303万7000円で あるとするものであった。
(8) そして,翌14日,調査査察部は,R立会いの下に被告人2社の事務所を,被告人A
ら立会いの下に同被告人方居宅をそれぞれ臨検 するなどし,帳簿等の証拠品を押収
した。そして,上記(4)のとおりIらが税務調査の際に預かっていた総勘定元帳等について
は,被告人 2社の事務所において,今治税務署からRにいったん返却された上で,調
査査察部係官によって改めて押収された。
2 法人税法156条の法意
  ところで,法人税法156条は,税務調査における「質問又は検査の権限は,犯罪捜
査のために認められたものと解してはならない。」  旨規定し,その質問検査の権限
を,租税の公平確実な賦課徴収のために必要な資料を収集するという行政目的の範囲
内に限定してい るが,昭和29年法律第92号による改正前の商品取引所法151条の
ようないわゆる使用免責を定めた規定(同条は「何人も,自己が  訴追又は処罰を受
ける虞があることを理由として,……陳述若しくは報告をし,……報告若しくは資料の提
出をし,……帳簿書類その他 の物件の検査若しくは調査を受ける義務を免れることが
できない。但し,その義務を履行することによって自己が訴追又は処罰を受ける 虞が
あることを主張したにもかかわらず,その陳述,報告,資料の提出又は帳簿書類その他
の物件の検査若しくは調査を求められた者 は,……当該陳述,報告,資料又は帳簿
書類その他の物件を証拠として訴追され,又は処罰されない。」旨規定する。なお,同条
は既に 廃止された。)などと対比して検討すると,そうしたことを明示していない法人税
法156条が,行政目的を常に優先させて,質問検査によ り得られた上記資料を犯則
調査又はそれに引き続く犯罪捜査等の刑事手続に利用することを一般的に禁ずる趣旨
のものであるとは解 されない(なお,最高裁昭和51年7月9日判決・裁判集刑事201
号137頁,最高裁平成10年3月4日決定・税務訴訟資料第233号69 9頁参照)。もっ
とも,税務当局が,税務調査のための質問検査の権限を犯則調査又は犯罪捜査のた
めの手段として行使したような場  合には,刑事手続における令状主義の原則を定め
た憲法35条や自己負罪拒否権(以下「黙秘権」ともいう。)を定めた同法38条の趣  
旨を没却することにもなりかねないから,そうした質問検査を手段とした税務調査は法
人税法156条に違反するというべきであり,その  手続により収集された証拠資料,更
にはその証拠資料を手掛かりに派生的に収集された証拠資料を,刑事手続の証拠から
排除すべき かどうかを検討する必要がある。
3 本件税務調査の法人税法156条違反の有無
  そこで,今治税務署の職員らが,本件の税務調査において,質問検査の権限を犯則
調査又は犯罪捜査のための手段として行使したと いえるかどうかについて検討する。
(1) Iらに本件の税務調査を指示したGは,原審での証言等において,その当時,調査
査察部が被告人2社について内偵調査を進めてい たことは全く知らず,本件の税務調
査に当たり,同部の犯則調査に協力する意図などは有していなかった旨述べ,原判決
も,このGの証 言部分を信用し得るとしている。
  しかしながら,(ア)被告人2社の売上除外の総額は非常に多額であって,Gにおいて
も,Iらに税務調査を指示する前から本件が調査  査察部による犯則調査に発展する
可能性の高い事案であると考えていたこと,(イ)裏付け資料までは示されなかったとは
いえ,本件の売 上除外の情報は当該会社の経営者の依頼を受けたという税理士のD
から副署長のEに直接持たらされたものであり,Dは,Eに対し,そ の大まかな金額や
当該会社の業種のほか,最終的には被告人2社の会社名をも明らかにしていたのであ
って,その情報は一般の部外 情報に比べれば信用性が高いものであったとみられ,し
かもGはそうした事情をEから全て知らされていたこと,(ウ)最終的には上記1(3) のとお
り,EがDに対し電話で職員を被告人2社の事務所に調査に行かせる旨伝えたものの,
Gは当初Iらに対し事前連絡なしに調査に  行くよう指示していたのであって,このこと
からは,Gが,被告人2社による証拠資料の隠滅を気に掛けていたことがうかがわれる
が,G  のこうした問題意識は,証拠資料の隠滅を避けるために臨検・捜索・差押許可
状の請求を急きょ早めたという調査査察部のそれと共通 するものがあること,(エ)Gが
本件について電話連絡を取った相手方(ただし,その時期はしばらく措く。)の調査査察
部査察第1部門総  括主査のS(以下「S」ともいう。)は,Gのかつての上司であり,G
はSの要望に簡単に応じて,Iらが被告人Aらから受領して帰った上記  1(4)の帳簿類
 等のうち,同(カ)ないし(ク)の各書類写しを調査査察部にファックスで送信していること
などの事情を総合すると,Iらに本件 の税務調査を指示する以前に,Gか,場合によっ
ては他の今治税務署の職員かが,被告人2社に多額の売上除外がある旨の情報を, 
Sあるいは他の調査査察部の職員に提供していたと推測するのも,それなりに合理性
があるというべきである。
  しかも,原判決は一蹴しているものの,Gの上記証言部分の信用性を判断するに当
たり,上記1(6)のQの行動の持つ意味を軽視する ことができない。すなわち,上記のと
おり,Qは,平成6年4月12日,少なくとも,今治市役所,波方町役場及び松山地方法
務局今治支  局の3か所を回って,被告人A及びRの各住民票,各戸籍謄本のほか,
被告人2社の商業登記簿謄本を入手したことが認められるが, 調査査察部査察第1部
門統括国税査察官のT(以下「T」ともいう。)やSもその原審での各証言中で自認すると
おり,Qによるこうした書  類の入手は,その請求予定の時期はともかく,被告人2社の
事務所等を臨検場所とする臨検・捜索・差押許可状の請求に備えたもので あることが
明らかである。ところで,Tは,原審において,最終的には「Qを行かせたのは,あらかじ
め4月下旬に予定していた令状請求  に備えたからであって,13日の令状請求を予定
してのことではない。」旨証言するに至っているものの,当初は,原審弁護人の質問に対
 し,明確に,それは「13日の令状請求のためである。」旨証言していたのであって,こう
した証言の変遷過程や,上記のようなQによる関 係書類の入手時期と臨検・捜索・差
押許可状の請求時期との関係などによると,この両者のうちでは当初の証言の方がよ
り信用性が高 いものと考えられる。そして,これを前提にして更に検討するに,Gの原
審での証言によると,当時,調査査察部のある高松市内から今  治市内に赴くのに約
3時間はかかったというのであり,このことに,上記市役所等の執務時間(原審弁50,5
1,53及び54によると,少 なくとも被告人A及びRの各住民票及び各戸籍謄本は,窓
口での交付であったことが明らかである。),Qが上記の3か所を回って住民票 等を入
手するのに要したであろう時間などを併せ考えると,Qはどんなに遅くとも同月12日の
昼過ぎころまでには,翌13日に予定された 被告人2社の事務所等を臨検場所とする
臨検・捜索・差押許可状の請求に不可欠な上記書類を入手すべく,高松市内を出発した
ものと 推測するよりほかなく,こうしたことは,遅くともその出発時刻までには,今治税
務署と調査査察部との間で,被告人2社の売上除外をめ ぐって何らかの接触があった
ことを疑わせる余地を残しているというべきである。
  以上のような事情を総合すると,Gの原審での証言等のうち,本件に関し調査査察
部と連絡を取り合ったのは,帰署したIらからの復命 を聞いた後,Sに電話連絡したの
が最初である旨の部分は,その信用性に疑問が残るといえる。また,現実に本件の税
務調査に赴いた Iらにまで,こうした事情が知らされていなかったことも十分考えられる
ところであるから,Gの上記証言に沿うかのようなIの別件民事裁判 での証言内容(原
審弁86及び87)やJの原審での証言によっても,この疑問は払しょくされず,関係証拠
を検討しても,他にこの疑問を 払しょくさせるに足りる的確な証拠は見出せない。
(2) 以上で検討してきたところによると,Gあるいは他の今治税務署の職員が,遅くとも
GらがIらに被告人2社に対する税務調査を指示す るまでには,被告人2社に多額の売
上除外がある旨の情報をSあるいは他の調査査察部の職員に提供していた可能性を否
定し去るこ  とができない。そして,こうしたことに加えて,上記3(1)(ウ)でも指摘したと
おり,その時点での調査査察部及びGを含む同税務署側の問  題意識は,いずれも専
ら被告人Aらによる証拠資料の隠滅を防止するという点にあったと認められることをも併
せ考えると,Iらによる税  務調査は,(ア)被告人Aらによる本件の証拠資料の隠滅を恐
れたSあるいは他の調査査察部の職員が,証拠資料を保全するために何 らかの手段
を講じるようにGら今治税務署の職員に依頼し,それに同税務署職員が応じたか,(イ)G
ら同税務署職員の側が自主的にそ うしたことを慮って,調査査察部の犯則調査に協力
する意図の下,証拠資料の保全を図るために,税務調査を行ったかのいずれかであ 
る可能性を排除することができない。そうすると,本件の税務調査の手続は,質問検査
の権限を犯則調査又は犯罪捜査のための手段と して行使したものと一面で評すること
ができるから,本件の税務調査は,法人税法156条に違反するものであると考えるより
ほかない。
(3) なお,原判決は,(ア)Iらが税務調査に赴くに当たって,事前にEからDに対して職員
を調査に行かせる旨を連絡していること,(イ)Iら   は,D の立会いを積極的に容認し
た上で,税務調査を行っていること,(ウ)その調査の態様も,不正計算の方法,修正申
告の動機等を 聴取し,被告人Aらの供述に係る事業年度分の帳簿類を預かり,預金
残高メモ,除外金額集計表及び定期預金通帳の表紙の各写しを 受領しただけであり,
その間,Iらが被告人Aらに対してこれらの書類の提出を執ように迫るなどといったことは
なく,質問検査としての一  般的な態様を逸脱していなかったことなどは,Gらが当時,
調査査察部が被告人2社を内偵調査していることは知らず,同部の犯則調査 に協力し
ようという意図を有していなかったとすることとも平仄の合う行動といえる旨説示している
が,こうした一連の行動は,Gらがそうし た意図を隠しながら,通常の税務調査を装っ
た結果であると見る余地も十分にあるから,原判決指摘の点が上記判断を決定的に左
右  するとは考えられない。
4 法人税法156条に違反する税務調査の手続及びそれに派生する手続により得られ
た証拠の刑事手続における証拠能力
  上記のとおり,本件の税務調査の手続が法人税法156条に違反するものである以
上,その手続及びそれに派生する手続により得ら  れた証拠の刑事手続における証
拠能力の有無について検討する必要があるところ,その検討に当たっては,本件の税
務調査の手続  に,刑事手続における令状主義の原則を定めた憲法35条や黙秘権
を定めた同法38条の趣旨などを没却するような重大な違法があ  り,この手続及びそ
れに派生する手続により得られた書証や証拠物を証拠として許容することが,将来にお
けるそうした違法な手続を抑 制する見地から相当でないと認められるかどうかを考察
すべきである。
(1) 令状主義違反や黙秘権侵害の有無
  関係証拠によると,被告人Aらが上記1(1)の修正申告を決意するに至った経緯,同
1(4)のIらによる税務調査の内容やその際の被告  人Aらの応対ぶりは,おおむね次
のとおりであったと認められる。すなわち,
  ア 被告人2社の売上除外金を定期預金にするなどして管理して来たKは,新聞,テ
レビなどで脱税のニュースを見聞きするたびに不  安な気持ちになっていたが,平成6
年2月ころ,上記定期預金のうち,甲銀行X支店にU名義でしていた定期預金について
満期の案内が あったため,同支店に赴いたところ,同支店職員から同支店に高松国税
局が来ているので,今は書換えなどの手続はしないほうがよい 旨聞かされ,早速この
ことを被告人Aに伝えた。
  Kからこの話しを伝え聞いた被告人Aは,被告人2社が高松国税局の調査対象にな
っているのかも知れないとの不安を抱き始め,同  年3月に入ってから,被告人2社の
取引先である乙銀行Y支店にも高松国税局による調査が入ったかどうかを問い合わせ
たところ,同支 店職員から,被告人2社が調査対象ではないと思うが調査には来た旨
の解答を得て,更に不安を募らせ,同年4月6日には,これに追  い打ちをかけるよう
に,被告人Aあてに「高松国税局の査察部が被告人2社を調べている。税理士に早く相
談したほうがよい。」との趣旨 の匿名の手紙が送付されてきたため,ついに上記1(1)の
ように,Dに相談を持ち掛けることにした。
  当時,被告人Aは,不安の余り夜もよく眠れない状態に陥っており,相談に際して,D
に「本件で自首する方法はないのか。」と問うたと  ころ,同人から修正申告をする方法
がある旨聞かされたため,被告人2社について修正申告をすれば,重加算税の賦課ま
では免れるこ とができるかも知れないし,法人税のほ脱についても,罪が軽くなるか,
場合によっては罪を問われなくなるかも知れないなどと考えて,  修正申告を決意する
に至った。
  イ Iらによる税務調査は,上記1(1)ないし(3)の経緯をたどった後,同1(4)のように関
与税理士のD立会いの下に実施されたが,その調 査の内容は,原判決も適切に説示
するとおり,修正申告を申し出た事業年度についての売上除外の方法やその金額,売
上除外の動  機, 修正申告を決意するに至った動機等を聴取したほか,被告人Aら
が売上除外をした旨供述する事業年度分の帳簿類を言われるま まに預かり,預金残
高メモ,除外金額集計表及び普通預金通帳の表紙の各写しを受領しただけであった。
その間,Iらが,被告人Aらに  対し供述を強要したり,こうした書類の提出を執ように迫
ったりするようなことはなく,被告人AらはIらの質問に対し率直に解答し,帳簿類 等を
出し渋る様子も見せなかった。
  以上のような被告人Aらが修正申告を決意するに至った経緯や税務調査時における
応対ぶりなどによると,被告人Aらは,自分らがし た上記のような不利益供述や,Iらに
預けたいわゆる裏帳簿を含む帳簿類等が,場合によっては被告人2社や被告人Aらの
刑事責任追 及のために用いられるかも知れない旨十分認識しながらも,上記のとお
り,法人税のほ脱について罪が軽くなるか,うまくいけばその罪  を問われなくなるかも
知れないなどとの思惑から,Iらの質問に対し任意に供述し,上記帳簿類等も任意に提
出したと認めることができ  る。そうすると,本件の税務調査に際し,被告人Aらの黙秘
権が実質的に侵害されたことはなく,また,令状主義に違反する行為も同様  なかった
といえる。
(2) 本件の税務調査自体の法規から逸脱の度合い
ア 税務調査の必要性
  本件においては,DがEに打ち明けた被告人2社の売上除外の額が非常に多額であ
ったこと,被告人2社が突然多額の修正申告を申 し出てきた動機や経緯も明らかでな
かった上に,いわゆる事務方を通さずに副署長のEにいきなり相談を持ち掛けてきたこ
とも,何らか の事情の存在をうかがわせたことなどによると,客観的に見て,被告人2
社に対する税務調査の必要性は十分にあったと認めることが  できる。
イ 質問検査の態様等
   Iらによる質問検査の内容やその態様は,上記4(1)イのとおりであって,関与税理
士の立会いをも得た本件の質問検査は,質問検査 としての一般的な態様を逸脱して
いなかったことはもとより,上記の質問検査の必要性に照らしても,相当な範囲内のも
のであったと認  められる。
ウ 調査査察部による犯則調査の進ちょく状況等
  上記1(5)の事実などからも明らかなように,調査査察部は,本件の税務調査以前か
ら,被告人2社の犯則に関して内偵調査を相応に 進めており,本件の質問検査は,被
告人2社に対する犯則調査の端緒にもなっていない。
  このように,Gら今治税務署職員の主観的な意図を抜きにすると,本件の税務調査
は客観的にはその要件を満たしたものといえる上  に,上記のとおり,その調査の中で
は令状主義違反や黙秘権侵害もないのであって,こうしたことに,上記のように本件の
質問検査は犯 則調査の端緒にもなっていないことをも併せ考えると,本件の税務調査
自体の法規からの逸脱の度合いは,実質的には小さかったとい える。
(3) 小括
  【要旨】以上で検討してきたところによると,本件の税務調査は法人税法156条に違
反するものではあるけれども,その手続に令状主 義違反や黙秘権侵害はなかった上
に,その手続自体の法規からの逸脱の度合いも実質的には小さかったといえるから,そ
の違法はい まだ重大なものであるとはいえず,また,本件のほ脱事案としての重大性
(関係証拠によって明らかなように,本件は長期にわたる非常 に多額の法人税ほ脱事
件であり,その各犯行態様も,同和団体に属する人物に依頼して指導を仰ぎ,売上げを
除外するなどした上,税 務調査を免れるために同団体名義等で申告するなどして敢行
したものであって,この種事件の中でも甚だ悪質で重大な事案である。)等 をも考慮に
入れると,この手続により得られた証拠はもとより,それに派生する手続により得られた
証拠を被告人らの罪証に供すること が,違法な手続の抑制の見地から相当でないとも
いえないから,こうした証拠の証拠能力はこれを肯定するのが相当である。
5 被告人らの各所論の検討
(1) 各所論は,税務調査と犯則調査とは共に行政手続に属するが,その目的や機能の
面においては全く別個の手続であるから,現実の 権限行使に当たっても両者は峻別し
て行使されるべきところ,この峻別原則の実効性を確保し,他方で,公平な課税実現の
要請にもこ  たえるためには,税務調査中に犯則事件が探知された場合に調査査察
部への連絡が許される場面があるとしても,それは,課税庁が  質問検査による調査
を進め,過少申告に基づく更正処分・決定処分をした場合,又は,当該処分をするだけ
の調査の進展があった後  に,調査事実中に「隠ぺい・仮装がある」として重加算税を
賦課決定し,もしくは賦課決定すべき事実が判明した場合などに限られ,しか も,その
場合でも,事案の概要を連絡することが許されるにとどまり,収集資料をそのまま引き
継ぐことまでは許されないと解するのが相 当である旨主張する。
  しかしながら,上記のとおり,質問検査により得られた証拠資料を犯則調査又はそれ
に引き続く犯罪捜査等の刑事手続に利用すること も一般的には禁止されず,しかも,
事案によっては,早期に強制手段を用いた犯則調査等を機動的に実施しないと,罪証
隠滅を招いて  真相の解明が困難になる場合も容易に想定し得るところであるから,
証拠資料の利用制限をいう点はもとより,連絡可能時期を制限的 に理解すべきである
旨いう点も,およそ採り得るものではない。この各所論は採用することができない。
(2) 各所論は,国税通則法65条5項は過少申告加算税や重加算税の除外要件を定め
て,自発的な修正申告を奨励しているが,本件に おいても,被告人Aは,その期待にこ
たえて被告人2社の各修正申告書を提出するべく,Dを通じて今治税務署に事前協議を
求めたので あって,それにもかかわらず,そのことを逆手に取って,過少申告の情報を
調査査察部に連絡したり,質問検査により入手した証拠資料 等を同部に提供したりす
ることにより,被告人らに刑事罰を科することは,いわば納税者を,上記の各加算税の
免除というわなにかけて 処罰するに等しく,こうした犯則調査の手法は著しく正義の観
念に反し,適正手続を定めた憲法31条に違反する旨主張する。
  しかしながら,税務調査中に犯則事件が探知された場合に,課税庁がその事実を調
査査察部へ連絡すること,更には税務調査により 得られた証拠資料を同部に提供す
ることが一般的に禁止されないことは,繰り返し説示するとおりであり,また,課税庁が
そうしたことを するについて時期的な制限はないと解されるから,仮にその経緯におい
て各所論指摘のような事情があったとしても,それを端緒に同部 が犯則調査に着手す
ること(なお,本件では,今治税務署から連絡が犯則調査の端緒にもなっていないこと
は,上記のとおりである。)  が,憲法31条に違反するなどとは到底いえない。この各
所論も採用することができない。
(3) 各所論は,Dが今治税務署のEの下を訪れた平成6年4月11日以前に,調査査察
部が被告人2社に対する銀行調査などの内偵調 査を実施していた事実はなく,同月
12日のGからの情報提供及び証拠資料の送付がなされた時点では,同部において本
件の各嫌疑事 実を把握していなかったし,それを疎明するために必要な証拠も収集し
ていなかったのであって,被告人2社の事務所等を臨検場所とす る臨検・捜索・差押許
可状の請求に当たっては,被告人Aらから提供された上記の帳簿類等を疎明資料とし
て利用したことが明らかであ るから,本件の税務調査及び犯則調査の手続には重大
な違法がある旨主張する。
  しかしながら,上記のとおり,税務調査により取得した証拠資料等を犯則調査に利用
すること自体が一般的に禁止されることはないか ら,調査査察部による内偵調査の到
達度を問題にし,そうした証拠資料の利用の違法をいうのは,そもそもその主張自体が
当を得ない ものであって,本件で,各所論のように同部による内偵調査の到達度を議
論することに実益は存しない。
  しかしながら,この点は原審以来重要な争点になっていることから,被告人AらがIら
に提供した上記の帳簿類等が,被告人2社の事務 所等を臨検場所とする臨検・捜索・
差押許可状の請求に当たり,どの程度利用されたかについて,それに関連する事項を
も含め,当裁  判所の検討の結果を簡潔に示しておく。
ア 上記1(4)の(カ)ないし(ク)の預金残高メモ写し等について
(ア) 関係証拠によると,Gが,Iらの持ち帰った上記帳簿類等のうち,預金残高メモ5
枚,除外金額集計表6枚及び普通預金通帳の表紙  裏の見開き部分のそれぞれの写
しを,調査査察部あてファックスで送信したこと,上記の臨検・捜索・差押許可状を請求
するに当たり,フ ァックス送信されたこれら書類写し(以下,この項では特に断らなくて
もファックス送信されたものであることを前提とする。)のうち,少なく とも預金残高メモ
写し5枚のうちの1枚(5枚目)をV農業協同組合を臨検場所とすることについての疎明
資料として利用したことが明らか であり,この点については検察官もあえて争わない。
  ところで,上記預金残高メモ写し5枚は,Kが,Dの指示により,現存する被告人2社
の売上除外金を原資とした定期預金の名義人,そ の金額,預金年月日及び金融機関
名を記載して作成したものの写しであるが,その名義人の中には,被告人A,同被告人
との身分関係 が明らかなK(平成2年9月28日受付の被告人Bの法人税申告書〔原審
検9〕中には,Kが被告人Aの妻である旨の記載がある。)及び  O夫婦(上記のように
調査査察部が同夫婦の住民票を徴求していることに照らすと,被告人Aと同夫婦との身
分関係を把握していたもの とみられる。)以外に,同被告人らとの身分関係が必ずしも
分明ではない者も数名含まれており,中でも,こうした者を名義人とする定期 預金しか
存在しないW農業協同組合分(預金残高メモ写しの3枚目)について,調査査察部が預
金残高メモ写しの入手前にどのようにし てその存在を把握するに至ったのかは,関係
証拠によっても明らかになっていない。そうすると,同部が,この預金残高メモ写しの3
枚目 を,W農業協同組合を臨検場所とすることについての疎明資料とした疑いも否定
し得ない。
  そして,こうしたことのほか,上記各書類の写しはその内容に照らし臨検・捜索・差押
許可状請求の疎明資料としての価値を十分に有  するものであることなどをも踏まえ
て検討すると,調査査察部が,わざわざGからファックス送信された上記各書類の写し
を,預金残高メ モ写し1枚を除き,疎明資料(直接添付するなどしたか,報告書等の記
載中に引用したかなどの方法は問わない。)として全く利用しなか ったなどというのは
疑問であり,同許可状の請求者のFをはじめとする調査査察部の職員らの原審での各
証言等によっても,この点に関 する検察官の立証が尽くされているとは言い難い。
(イ) そうすると,調査査察部が,臨検・捜索・差押許可状を請求するに当たり,ファック
ス送信された上記預金残高メモ5枚,除外金額集  計表6枚及び普通預金通帳の表
紙裏の見開き部分のそれぞれの写しのうち,預金残高メモ5枚のうちの1枚(5枚目)以
外は,疎明資料 として使用しなかった旨認定した原判決には,事実の誤認があるとい
うべきであるが,本項((3))冒頭で説示したところからも明らかなよう に,この誤りが判
決に影響を及ぼすことはない。
イ 上記1(4)の(ア)ないし(オ)の被告人2社の総勘定元帳等について
(ア) 上記1(5)の事実によると,調査査察部は,遅くとも平成6年3月ころから,被告人2
社の犯則の嫌疑について,内偵調査を進めていた ことが明らかである。
  ところで,上記4(1)アのとおり,甲銀行X支店の職員が,Kに対し,わざわざ高松国税
局が来ているから今は預金の書換えなどの手続  はしないほうがよいなどと告げてい
ることからすると,被告人2社あるいはそのいずれかを対象として同支店に対する調査
が実施された ことがうかがわれるが,関係証拠によると,同支店には,(a)被告人B名
義の公表外の普通預金口座(口座番号(省略))であって,同口  座への入金のひん
度,その額(100万円単位のもの多数含まれている。),その際に利用された小切手の
振出人名義等から,同被告人 の売上除外金を扱う口座であることが容易にうかがえる
口座が存在したこと,また,(b)名義こそKになっているものの(なお,上記のとお り,調
 査査察部はKが被告人Aの妻であることを把握済みであったと認められる。),入金額
やその際に利用された小切手の振出人名 義(上記被告人B名義の普通預金口座への
振込みに利用された小切手の振出人と同一の株式会社が,振出人となっているものが
あ  る。)から,被告人Bの売上除外金を扱う口座であることがこれ又容易にうかがえ
る普通預金口座(口座番号(省略))が存在したことが  認められるから,調査査察部に
おいても,内偵調査の段階から,当然そうした各口座の存在を把握し,その各普通預金
元帳等も入手し ていたものと推認し得る。
  また,同じく上記4(1)アの事実からは,同支店だけではなく,乙銀行Y支店でも調査
が実施されていたことがうかがわれるところ,こうし たことによると,調査査察部が平成
6年2月ころから3月ころにかけて今治市内所在の30店舗の銀行支店等のうちの相当
数を調査した 旨のTの原審での証言部分はこれを信用することができるから,同部は,
乙銀行Z支店にも被告人B名義の公表外の普通預金口座(口 座番号(省略))が存在
したことを把握しており,しかも,その口座は上記の各口座同様,被告人Bの売上除外
金を扱うものであるとの疑 いを持って,その普通預金元帳等を入手していたものと推
認することができる。
(イ) そして,この各普通預口座の普通預金元帳等(甲銀行X支店及び乙銀行Z支店各
作成の各証明書〔それぞれ原審検133,同検13  6〕参照)を利用し,その各入金額
から売上金の入金であるかどうかが判然としない現金による入金及び利息の入金を除
外して計算する と,現金主義により,被告人Bを犯則嫌疑者とする臨検・捜索・差押許
可状請求書(原審弁111及び112はその一部の写し)記載の嫌  疑事実のうち,平成
3年7月期,平成4年7月期,平成5年7月期の各期の隠ぺい所得額をおおむね把握す
ることが可能である。
(ウ) このように,内偵調査の段階で入手していた証拠資料等によっても被告人Bの各
期の隠ぺい所得額をほぼ把握することができたと  認められることに加えて,(a)Fら
は,平成6年4月13日の昼ころには,高松簡易裁判所に対し,臨検・捜索・差押許可状
の請求したので あって,上記総勘定元帳等の帳簿を取り寄せた上,それらを分析
し,その分析結果を根拠付けるような必要書類を整えて疎明資料とす るほどの時間的
余裕は到底なかったと考えられること,(b)法人税法上は,いわゆる権利確定主義が原
則であると解されるのに,上記の 各隠ぺい所得額は現金主義に基づいて計算されて
いることなどを併せ考慮すると,調査査察部は,上記1(4)の(ア)ないし(オ)の被告人2 
社の総勘定元帳等については,臨検・捜索・差押許可状の請求の疎明資料として利用
しなかったと認めるのが相当である。
(エ) なお,各所論は,こうした認定に関連して,(a)被告人2社に対する各内てい立件決
議書(原審検73及び74はその各抄本)は,いず  れもその作成期日とされる平成6年
3月22日に作成されたものではなく,同年4月12日になってから作成されたものであ
り,(b)甲銀行X 支店の上記各普通預金口座への手形による入金の中には,集中取立
手形入金の方法が採られたために,振出人が不明で入金者を特 定することができな
いものが多数含まれており,その各普通預金元帳等のみでは,上記の隠ぺい所得額の
疎明は不可能である旨も主  張している。しかしながら,まず(a)の点については,各所
論指摘の点を踏まえて検討しても,同決議書がいずれも同年3月22日に作成さ れたと
認められることは,原判決が適切に説示するとおりである。また,(b)の点についても,そ
の各普通預金口座への入金のひん度,そ の額,その際に利用された小切手の振出人
名義等(手形についても一部振出人が判明しているものもある。)から,それが被告人B
の売 上除外金を扱う口座であることが容易にうかがわれことは上記のとおりであって,
しかも,手形による決済は,それ自体,被告人Bの取  引関係のものであるとの一応
の推認が働くものと見てよいから,入金者不明の分があったとしても,上記普通預金元
帳等を用いれば,  上記の各隠ぺい所得額の疎明は十分に可能であると考えられる。
  いずれにしても,この各所論も採用することができない。
6 各論旨に対する結論
  以上のとおり,原判決は,一部前提事実を誤認し,法人税法156条の適用を誤った
結果,本件の税務調査の手続を適法なものと判断 した点で,誤りを犯したというほかな
いが,上記のとおり,問題とされる違法はいまだ重大なものであるとはいえず,また,こ
の手続により 得られた証拠はもとより,それに派生する手続により得られた証拠を被
告人らの罪証に供することが,違法な手続の抑制の見地から相 当でないとも認められ
ないのであって,こうした証拠等を用いた本件の公訴提起は当然有効であるから,その
公訴を受理したことに何ら 違法な点はなく,また,各所論指摘の各証拠を取り調べた
上,本件の罪証に供した原審の訴訟手続が,違法との評価を受けることもな  い(もと
より,上記の事実誤認や法令適用の誤りが判決に影響を及ぼすこともない。)。
  その他各所論にかんがみ検討しても,この結論を左右するような事情は見出せな
い。各論旨は理由がない。
第3 各控訴趣意中,上記第1の2の主張(証拠調請求の不採用及び釈明権の不行使
が訴訟手続の法令違反に当たるとの主張)につい  て
  原審弁護人がした上記の書類の取寄せ,各証拠物の差押え及びFの証人尋問の各
請求は,その書類や各証拠物の内容についての  原審弁護人の主張やFの証人尋問
の立証趣旨,更には原審弁護人の全体的な主張に照らして検討すると,結局,いずれ
についても,  調査査察部が,被告人2社の事務所等を臨検場所とする臨検・捜索・差
押許可状の請求に当たり,被告人AらがIらに預けた上記帳簿類 等を疎明資料として
利用したことを立証し,そうした利用は一切許されないとの立場から,本件の税務調査
及び犯則調査の手続が違法 であることを根拠付けようとの意図の下になされたものと
推察することができる。
  しかしながら,原審裁判所も,税務調査中に入手した情報や証拠資料を犯則調査に
利用することは一切許されないとの立場を取らな  いことが原判決の説示からも明ら
かであって,こうした原審裁判所の立場を前提にして考えると,原審裁判所が,各所論
指摘の事項につ いて検察官に対する釈明権を行使したり,上記の書類の取寄せ,各
証拠物の差押え及びFの証人尋問の全部又は一部を許したりして  も,それらに基づく
立証等が直ちに税務調査手続等が違法であるかどうかの判断に結び付くものではない
と認められる。
  そうすると,原審裁判所が,上記事項につき検察官に対し釈明権を行使せず,また,
原審弁護人の上記各請求を却下したのはいずれ も相当であり,こうした原審裁判所の
措置が合理的な裁量の範囲を逸脱したものであるとは到底いえないから,この点に関
する原審の  訴訟手続に各所論の法令違反はない。各論旨は理由がない。
第4 各控訴趣意中,上記第1の3の主張(法人税法159条の適用を誤ったとの主張)
について
  被告人2社による各納期限前の虚偽過少申告ほ脱犯(原判示第1の1及び3並びに
同第2の1及び2)及び不申告ほ脱犯(同第1の2) は,いずれも各法定納期限経過時
に既遂に達するのであって,仮に,その後,被告人2社が,上記各虚偽過少申告ほ脱犯
について国  税通則法65条5項の要件を満たす各修正申告書を提出したり,上記不
申告ほ脱犯について同法66条3項の要件を満たす期限後申告 書等を提出したりした
としても,それらは,せいぜい被告人らに対する起訴猶予処分の当否又は科刑の程度
を判断するための1つの資 料となるにとどまるものであると解される。そうした修正申
告書等の提出は,上記各ほ脱犯についての可罰的違法性を失わせるか,超法 規的違
法性阻却事由となるかして,犯罪の成立を阻却し,仮にそうでなくても,超法規的処罰阻
却事由となって,刑を免除すべき場合に 当たる旨の各所論は,独自の見解であって,
およそ採用し得るものではない。
  したがって,この見解を前提に,法人税法159条の適用の誤りをいう各所論も失当と
いうほかない。各論旨は理由がない。
第5 結論
  よって,刑訴法396条により本件各控訴を棄却することとして,主文のとおり判決す
る。
(裁判長裁判官 正木勝彦 裁判官 増田耕兒 裁判官 齋藤正人)

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