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主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
中央労働委員会が,平成17年(不再)第59号,第60号不当労働行為再審
査申立事件について,平成20年6月4日付けでした命令の主文Ⅰ項の1及び
Ⅱ項の部分を取り消す。
第2事案の概要等
1事案の概要
東京都労働委員会(以下「都労委」という。)は,被告補助参加人が原告ほ
か2社を被申立人として申し立てた不当労働行為救済申立事件(都労委平成1
5年(不)第15号事件。以下「本件初審事件」という。)について,原告に対
する申立ての一部を認容し,その余の被申立人2社に対する申立てをいずれも
却下する旨の命令(以下「本件初審命令」という。)をした。
被告補助参加人及び原告は,それぞれ,中央労働委員会(以下「中労委」と
いう。)に対し,本件初審命令について再審査を申し立て(中労委平成17年
(不再)第59号,60号事件。以下「本件再審査事件」という。),中労委は,
本件再審査事件について,平成20年6月4日付けで,①被告補助参加人の再
審査申立てについては,○ⅰ原告が,被告補助参加人からの平成15年1月6日
付け団体交渉申入れにおける団体交渉議題のうち,原告の東京支店(以下,単
に「東京支店」という。)に係る組織再編に関する事項について,同申入れか
ら平成16年1月26日までの間,原告の提案する団体交渉の方式に固執して,
被告補助参加人との団体交渉に実質的に応じなかったことは,労働組合法7条
2号に該当する不当労働行為である,○ⅱ原告が,被告補助参加人側交渉員の団
体交渉開催場所への移動時間について賃金控除をしない旨述べていたにもかか
わらず,平成14年7月26日に実施された団体交渉の際における被告補助参
加人側交渉員の団体交渉開催場所への移動時間につき賃金を控除したことは,
同条3号に該当する不当労働行為であるとして,本件初審命令の一部認容部分
を別紙のⅠに記載のとおり変更し,②原告の再審査申立てについては,これを
棄却する旨の命令をした(以下,同命令を「本件命令」という。)。
本件は,本件命令を不服とする原告が,本件命令のうち上記第1の部分の取
消しを求める事案である。
2前提事実(争いのない事実及び文末に掲記の証拠により容易に認められる事
実)
(1)当事者等
ア原告は,スイス連邦に本部を置くネスレグループの一組織であり,肩書
地に本社を置き,日本各地に工場を有し,飲食料品の製造,販売等を行う
株式会社である。
原告は,平成13年1月,商号をネスレ日本株式会社(以下「旧ネスレ
日本」ともいう。)からネスレジャパンホールディング株式会社に変更し,
本社を神戸市α区から肩書地へ移転した。これと同時に,ネスレ日本株式
会社(旧ネスレ日本とは別法人。以下「新ネスレ日本」という。),ネス
レジャパンアドミニストレーション株式会社及びネスレジャパンマニュフ
ァクチャリング株式会社が設立され,新ネスレ日本が旧ネスレ日本のマー
ケティング・セールス部門の業務を,ネスレジャパンアドミニストレーシ
ョン株式会社が旧ネスレ日本のスタッフ部門の業務を,ネスレジャパンマ
ニュファクチャリング株式会社が旧ネスレ日本の製造部門の業務をそれぞ
れ担当することとなり,原告は,上記各会社の保有会社となった。以上の
原告を含む各会社は,他の関連会社を併せて,ネスレジャパングループと
総称されることとなった(以下,上記の商号変更,会社設立等をまとめて
「本件組織再編」という。)。[甲3の1・2,乙A77の1・2]
原告は,平成18年1月,新ネスレ日本,ネスレジャパンアドミニスト
レーション株式会社及びネスレインターナショナルフーズ株式会社を吸収
合併し,商号を再びネスレ日本株式会社に変更した。
イ被告補助参加人は,原告の従業員で組織するネッスル日本労働組合(以
下「組合」又は「組合本部」という。)の下部組織(支部)であり,東京
支店等の従業員及びその退職者で組織されている。組合の下部組織(支
部)には,被告補助参加人のほかに,霞ヶ浦支部,島田支部,神戸支部及
び姫路支部がある(以下,各支部を個別にいうときは「組合霞ヶ浦支部」
のようにいい,これらを併せて「組合5支部」という。)。
(2)本件組織再編に係る事実関係
ア原告は,平成12年12月18日,イントラネット上に「Legalre-struc
turingofNestleJapanLtd.」と題する英文の文書を掲載した。同文書には,
①旧ネスレ日本から以下の法人を組織することを決定したとして,○ⅰ新ネ
スレ日本は全製品の販売会社となり,そのスタッフは支店と営業所に勤務
する従業員で構成されること,○ⅱネスレジャパンマニュファクチャリング
株式会社は工場を管理し,すべての工場スタッフは同社に所属することに
なること,○ⅲネスレジャパンアドミニストレーション株式会社は,新ネス
レ日本とネスレジャパンマニュファクチャリング株式会社にサービスを提
供し,すべての本社スタッフが同社に所属することになること,○ⅳネスレ
ジャパンホールディング株式会社は,上記各会社の保有者であり,ネスレ
グループの日本における固定資産の保有者となること,②ネスレグループ
のすべての関連会社の法的構造に変更はないこと,③組織再編により社員
の給与支払者の変更は必要となるが,人員削減が生じることも給与体系が
変わることもなく,詳細な内容は1月に通知する予定であることなどの記
載がされている。[甲3の1・2,乙A77の1・2]
イ原告は,組合本部に対し,平成13年1月22日に開催された団体交渉
において,旧ネスレ日本の従業員は引き続き本件組織再編後の原告(ネス
レジャパンホールディング株式会社)に在籍していること,旧ネスレ日本
の従業員は,これまで本件組織再編によって新たに設立された会社に出向
を命じられた事実はなく,全員が原告で働いていることなどを確認したが,
本件組織再編により,原告,新ネスレ日本及びネスレジャパンアドミニス
トレーション株式会社と従業員とがどのような関係となり,従業員がどの
ように扱われるのかなどについては,具体的な説明をしなかった。
ウ原告は,平成13年1月23日,イントラネット上に「MANAGEMENTNEW
S」と題する英文の文書とその和訳を掲載した。同文書には,同月1日付
けで,社名を旧ネスレ日本からネスレジャパンホールディング株式会社に
変更すると同時に,新ネスレ日本,ネスレジャパンマニュファクチャリン
グ株式会社及びネスレジャパンアドミニストレーション株式会社の3法人
を発足させたこと,社員の身分は従来と変わらず,旧ネスレ日本の社員の
身分は,ネスレジャパンホールディング株式会社に引き継がれ,ネスレジ
ャパングループの一員として,グループの中のそれぞれのフィールドで働
くということであり,労働条件も従来どおりであるなどの記載がされてい
る。
(3)本件組織再編後の状況
ア被告補助参加人の組合員である東京支店の従業員が,本件組織再編後,
雇用関係に関して交付を受けた各種書類には,以下のような記載等がされ
ていた。
(ア)基本給通知書には,会社名の記載がなく,「人事本部長」又は「人
事戦略グループ統括マネジャー」という役職名と役職者の氏名が記載
され,「ネスレジャパンアドミニストレーション株式会社」の社印が押
捺されていた。
(イ)給与の支給明細書及び源泉徴収票は,「ネスレ日本株式会社」名義
で作成されていた。
(ウ)雇用保険被保険者離職票中の事業所名は,「ネスレジャパンホール
ディング株式会社」と記載されていた。
(エ)定年退職する従業員に対して交付された老齢年金等に関する書類は,
「ネスレジャパンアドミニストレーション株式会社」名義で作成されて
いた。
イ被告補助参加人から原告への団体交渉申入れ等に対する原告側の回答書
等には,会社名の記載がなく,「ネスレジャパングループ」という記載並
びに差出人の役職名及び氏名が記載されていた。
ウ36協定の届には,協定当事者として「ネスレジャパンホールディング
株式会社」と記載されているが,事業の名称の欄には,同社と「ネスレ日
本株式会社東京支店」とが併記されていた。
エ原告の島田工場の従業員に交付された給与支給明細書,源泉徴収票及び
年間休日のお知らせは,「ネスレジャパンマニュファクチャリング株式会
社」名義で作成されていた。
オ原告の霞ヶ浦工場の従業員に交付された給与の支給明細書は,「ネスレ
ジャパンホールディング株式会社」名義で作成されており,年間休日のお
知らせは,「ネスレジャパンマニュファクチャリング株式会社霞ヶ浦工場
長」名義で作成されていた。
(4)都労委平成14年(不)第2号事件(以下「前事件」という。)
ア被告補助参加人は,平成14年1月8日,都労委に対し,原告を被申立
人として,原告が,組合本部及び組合5支部からそれぞれされた団体交渉
の申入れに対し,組合本部及び組合5支部を一括して団体交渉の相手方と
する方式(以下「連名方式」という。)により,組合本部及び組合5支部
の各議題を一括して神戸で団体交渉を行い,かつ,組合側交渉員は5名以
内とする旨の回答を行ったことについて,被告補助参加人の団体交渉権を
事実上否定しているものであるとして,不当労働行為の救済申立てをした。
イ前事件の第5回調査調書(平成14年6月25日)には,都労委が「東
京団交」(支部団交)に関して各当事者に確認した事項の一つとして,
「団体交渉および移動時間の申立人組合員の賃金について,会社は賃金カ
ットを行わない。」との記載がある。同記載中の「申立人」は被告補助参
加人を指し,「会社」は原告を指すものである。
ウ原告は,平成14年7月26日午後3時30分から東京都港区所在の芝
パークホテルで行われた被告補助参加人との団体交渉の際における被告補
助参加人側交渉員の開催場所への移動時間について,同年8月分給与から
賃金控除をした。
(5)被告補助参加人による団体交渉申入れ及び同申入れに係る事実経過
ア被告補助参加人は,平成15年1月6日,原告,新ネスレ日本,ネスレ
ジャパンアドミニストレーション株式会社及び新ネスレ日本東京支店長
(以下,これらを併せて「原告及び関係2社ら」という。)に対し,「東
京支部団体交渉開催申し入れ」と題する書面により,東京支店会議室又は
COT(東京コマーシャルオフィス)会議室において,同月15日午後7
時から3時間程度,出席者は組合側7名,使用者側は申入れを受けた各会
社を代表して回答できる者とした上で,下記ⅠないしⅣの議題について団
体交渉するよう申し入れた(以下,同申入れを「本件団体交渉申入れ」と
いい,下記の議題を併せて「本件団体交渉申入議題」といい,個別にはそ
れぞれの番号に合わせて「本件団体交渉申入議題Ⅰ」のようにいう。)。
Ⅰ東京支店における施設管理修理,賃金決定,什器備品購入,永年勤続
表彰対象者決定,残業・休日出勤の決定,36協定締結,新規の人員採
用又は人員削減,転勤・出向等の権限は,ネスレジャパンホールディン
グ株式会社とネスレ日本株式会社とネスレジャパンアドミニストレーシ
ョン株式会社の何処にあるのかを明確にされたい。また,その根拠も明
確にされたい。
Ⅱ従業員の身分について,ネスレジャパンホールディング株式会社から
ネスレ日本株式会社に出向扱いをしているのか,それとも派遣扱いをし
ているのか,いずれなのか,いずれでもないのか。賃金支払者がネスレ
日本株式会社なのかも明確にされたい。
Ⅲ従前の東京支部発ネスレ日本東京支店長宛団体交渉の申入れに関する
会社側の回答文書はネスレジャパンホールディング株式会社名義でもネ
スレ日本株式会社名義でもなくネスレジャパングループ名義となってい
るが,ネスレジャパングループとはどの会社とどの会社なのか法人格を
特定して回答されたい。又,グループ会社にネスレジャパンアドミニス
トレーション株式会社が含まれるのであれば,ネスレジャパンアドミニ
ストレーション株式会社が団体交渉に関する権限を何故有しているのか
を明確にされたい。
Ⅳ1)東京支店内で個人用ロッカーが設置していない職場に,早急に個
人用ロッカーを設置すること。
2)東京支店内に,休憩室又は休憩できる場所を男女別に設置するこ
と。
3)東京支店安全衛生委員会に東京支部推薦の委員を1名安全衛生委
員として参加させること。
4)セールスマンの使用する社有車(リース車も含む)に,安全のた
めエアーバッグを装備すること。
5)①事業所の防災対策のために,各事業所の耐震調査を家主へ申し
入れ,その結果を公表すること。②各事業所の防災責任者を各地区
の防災・防震災講習会などへ出席させること。③事業所内防災体制
を確立し,併せて防災訓練を実施すること。④緊急対策として,食
料品の備蓄を行うこと。
6)各事業所の安全運転管理者に講習会などに出席させ,その報告会
を各事業所で開催すること。
7)東京支店安全衛生委員会の過去の議事録を公開すること。
イ原告は,本件団体交渉申入れに対して,「ネスレジャパングループ人
事戦略グループエンプロイリレーションマネジャーP1」を差出人とす
る「回答並びに通知書」と題する書面により,平成15年1月8日,組合
本部及び組合5支部に対し,連名方式による団体交渉を同月15日午後7
時より2時間程度,芝パークホテル本館において,双方5名以内の出席者
で行う旨の通知をした。
ウ被告補助参加人は,原告からの上記イの通知に対して,平成15年1月
15日,原告に対し,「抗議並びに通告書」と題する書面により,支部団
体交渉を正当な理由なく拒否したことは不当労働行為であるとして抗議す
るとともに,上記イの書面の差出人であるP1の責任,権限が不明である
ため,同日,出席しないことなどを通知した。
エ原告は,平成15年1月15日,芝パークホテルで待機していたが,被
告補助参加人側からの出席者がなかったため,団体交渉は開催されなかっ
た。
(6)他の支部の団体交渉申入れ状況
ア組合島田支部は,平成15年1月6日,原告,ネスレジャパンマニュフ
ァクチャリング株式会社及びネスレジャパンアドミニストレーション株式
会社に対し,本件組織再編に係る原告の島田工場における組織再編問題等
を議題とし,開催日を同月13日,場所を同工場内,出席者は労使双方1
0名以内とする団体交渉の申入れをした。
原告は,同申入れに対して,同月8日,組合本部及び組合5支部に対し,
「回答並びに通知書」と題する書面により,同月13日午後8時から芝パ
ークホテルにおいて連名方式による団体交渉をする旨の通知をした。[乙
A3]
原告は,同日午後8時から,芝パークホテルで待機していたが,組合島
田支部からの出席者がなかったため,団体交渉は開催されなかった。
イ組合霞ヶ浦支部は,平成15年1月8日,原告,ネスレジャパンマニュ
ファクチャリング株式会社及びネスレジャパンアドミニストレーション株
式会社に対し,本件組織再編に係る原告の霞ヶ浦工場における組織再編問
題等を議題とし,開催日を同月15日,場所を同工場内,出席者は労使双
方10名以内とする団体交渉の申入れをした。
原告は,同申入れに対して,同月14日,組合霞ヶ浦支部に対し,「回
答並びに通知書」と題する書面により,同月15日に東京において組合と
団体交渉を開催することになっていること,同支部が希望するのであれば,
同日開催の団体交渉において同支部が申し入れている議題を審議すること
もやぶさかではないこと,希望しないのであれば,交渉日が重複しないよ
うにすることを申し入れた。[乙A4]
(7)本件初審事件の申立て
被告補助参加人は,平成15年2月13日,前事件の救済申立てを取り下
げ,新たに,都労委に対し,原告,新ネスレ日本及びネスレジャパンアドミ
ニストレーション株式会社を被申立人として,原告が,①被告補助参加人か
らの本件団体交渉申入れに対して,組合本部及び組合5支部を一括して団体
交渉の相手方とし,日時と開催地は原告が指定し,出席者は双方5名以内と
し,議題は組合本部及び組合5支部がそれぞれ提示した団体交渉の議題を一
括して取り上げるという連名方式による団体交渉の申入れなどを行い,被告
補助参加人単独の団体交渉に応じなかったこと,②被告補助参加人からの本
件団体交渉申入れ等において本件組織再編に伴う東京支店における組織再編
に関する事項の説明を求められたのに,これに応じず,会社名を使い分けて
使用者をあいまいにしていること,③本件団体交渉申入れ等に係る団体交渉
において東京支店の支店長らを出席させなかったことについて,それぞれ原
告,新ネスレ日本及びネスレジャパンアドミニストレーション株式会社によ
る労働組合法7条2号及び3号に該当する不当労働行為であるとして,救済
申立てをした。[甲1,乙A124]
(8)その後の原告と組合本部及び組合5支部との団体交渉の状況等
ア原告は,平成15年5月14日,組合本部及び組合5支部に対し,「申
し入れ書」と題する書面により,組合及び各支部は団体交渉の議題,開催
希望日等を内部で整理,調整しないまま別個に申入れをしているため,議
題の数が極めて多い上に重複もあり,交渉希望日も重複又は近接している
として,組合本部と組合5支部の各団体交渉の議題について重複しないよ
うあらかじめ内部で整理し,団体交渉開催希望日が重複又は近接しないよ
うあらかじめ内部で調整するよう申し入れた。組合本部及び組合5支部は,
原告からの上記申入れに対する回答をしなかった。[乙B12]
なお,組合本部及び組合5支部からの各団体交渉の申入れは,いずれも,
多数の交渉項目を含む議題を一括して交渉議題として申し入れ,同時期に
これらの交渉議題について団体交渉を求めるものであり,それぞれの団体
交渉開催希望日が近接していた。
イ被告補助参加人は,平成15年6月19日,原告及び関係2社らに対し,
「東京支部団体交渉開催申し入れ」と題する書面により,同月27日に午
後7時から3時間程度,交渉議題として本件団体交渉申入議題ⅠないしⅣ
ほかの議題を挙げて団体交渉の申入れをした。
原告は,同月25日,組合本部及び組合5支部に対し,「回答並びに通
知書」と題する書面により,同年7月4日午後7時より2時間程度,連名
方式により団体交渉を行う旨通知した。
同日午後7時から団体交渉が開始されたが,同団体交渉は,原告側が,
連名方式による団体交渉を行うとの態度を一貫してとり,同団体交渉を支
部団体交渉と判断するかどうかは組合側で決めてほしいとの発言をしたの
に対し,被告補助参加人側がこれを受け入れず,同団体交渉が被告補助参
加人を交渉相手として開催されたものか否かのやり取りが行われただけで,
45分ほどで終了した。[乙A15]
ウ原告は,平成15年8月19日及び同年10月14日,被告補助参加人
に対し,それぞれ「申し入れ書」と題する書面により,組合本部及び組合
5支部による団体交渉の申入れは,交渉議題,開催希望日等が内部で整理,
調整されていないなどとして,組合本部と組合5支部それぞれの団体交渉
事項の分配を具体的に明らかにし,交渉議題についても重複する内容をあ
らかじめ整理し,合理的な範囲で限定して優先順位を明らかにした上,開
催希望日についても重複,近接しないよう調整し,組合本部及び組合5支
部で協議して回答するよう求める旨の申入れをした。これに対し,組合及
び組合5支部は回答をしなかった。[乙B13,90]
エ被告補助参加人は,平成15年11月25日,原告及び関係2社らに対
し,「東京支部団体交渉開催申入書」と題する書面により,同年12月5
日午後7時15分から,本件団体交渉申入議題ⅠないしⅣを議題とする団
体交渉の申入れをし,また,原告に対し,「貴平成15年10月14日付
申込書に対する東京支部の回答」と題する書面により,被告補助参加人の
要求は基本的に被告補助参加人にかかわる問題を交渉事項としており,組
合本部等の要求と同一の文言を用いていても,求める内容は別個のもので
あるなどとして,原告からの上記ウの申入れに応じられない旨の回答をし
た。[乙A20,21]
原告は,同年12月3日,被告補助参加人に対し,「回答並びに通知
書」と題する書面により,同月10日午後7時15分から2時間程度,連
名方式により団体交渉を行う旨の通知をした。
同日午後7時15分から団体交渉が開催されたが,同団体交渉は,被告
補助参加人側が,原告は本件初審事件の調査において被告補助参加人のみ
に対して回答することを確認していたにもかかわらず,連名方式による団
体交渉を申し入れたことを質し,一方的な連名方式による団体交渉は拒否
するとの発言などをしたのに対し,原告側が,交渉議題の重複が解消され
ておらず,前提条件が満たされていないため,従前と同じ連名方式による
団体交渉の申入れをしたと答えるなど,交渉議題の重複や連名方式に関す
るやり取りに終始し,具体的な交渉に入らないまま終了した。[乙A23]
オ被告補助参加人は,平成16年1月26日,原告及び関係2社らに対し,
「東京支部団体交渉開催申入書」と題する書面により,本件団体交渉申入
議題Ⅳ及び組合事務所の貸与等を議題に挙げて,同年2月2日又は同月3
日に団体交渉をするよう申し入れるとともに,同年1月26日付け要望書
により,本件団体交渉申入れにおいて交渉議題としていた本件団体交渉申
入議題ⅠないしⅢについて,これを交渉議題から区別するとした上,これ
と全く同じ内容の質問事項を挙げて,上記団体交渉開催希望日までに文書
で回答するよう要望した。
原告は,同月29日,被告補助参加人の執行委員長宛ての「回答並びに
通知書」と題する書面により,同年2月3日午後7時15分から平成15
年12月3日付け「回答並びに通知書」と題する書面と同じ内容で団体交
渉を行う旨の通知をした。
平成16年2月3日午後7時15分から団体交渉が開催された。被告補
助参加人側出席者は,同団体交渉において,上記要望書で文書による回答
を求めた質問事項について回答するよう求めたが,原告側出席者は,すで
に都労委の調査で回答済みであるなどと答えるにとどまり,具体的な回答
をしなかった。
(9)本件初審事件における審理対象の追加
被告補助参加人は,平成16年8月16日の本件初審事件の調査期日にお
いて,救済申立ての追加として,被告補助参加人側交渉員の団体交渉開催場
所までの移動時間について賃金補てんを行い,就業時間内に団体交渉を開催
できるようにすることも命じるよう求め,本件初審事件において,平成14
年7月26日以降の団体交渉に際しての当該移動時間に係る賃金控除の相当
性も審理の対象となった。[甲1,2]
(10)本件初審命令
都労委は,平成17年7月5日,新ネスレ日本及びネスレジャパンアドミ
ニストレーション株式会社に対する救済申立てを却下し(主文4項),原告
に対する救済申立てについては,①平成14年7月から同年12月までに行
われた被告補助参加人と原告との団体交渉に関し,団体交渉開催場所への移
動時間について被告補助参加人側交渉員の賃金控除を行ったことは,労働組
合法7条3号に該当する不当労働行為である,②平成16年2月3日の団体
交渉において被告補助参加人の説明要求にもかかわらず,東京支店における
組織再編に関する事項について具体的な説明を行わなかったことは,同条2
号に該当する不当労働行為であるとして,原告に対し,今後,原告がこのよ
うな行為を繰り返さないよう留意する旨を記載した文書の手交及び履行報告
を命じ,その余の救済申立てを棄却した。[甲2]
(11)本件再審査事件の申立て及び本件命令
原告及び被告補助参加人は,それぞれ本件初審命令に対して再審査の申立
てをした。中労委は,平成20年6月4日付けで,前記1の事案の概要のと
おり,別紙記載の主文による命令を発した。
(12)訴えの提起
原告は,平成20年7月30日,本件命令の交付を受け,同年8月27日,
本件命令の取消しを求めて,当裁判所に本件訴えを提起した。
3争点
(1)本件団体交渉申入れに対する原告の対応は,労働組合法7条2号に該当す
る不当労働行為か。
ア本件団体交渉申入事項のうち東京支店に係る組織再編に関する事項は義
務的団体交渉事項か。
イ被告補助参加人が原告の申し入れた連名方式に応じないことは,原告が
上記アの事項について団体交渉を拒否することの正当な理由となるか。
(2)原告が,平成14年7月26日の団体交渉の際における被告補助参加人側
交渉員の団体交渉開催場所への移動時間につき賃金控除をしたことは,労働
組合法7条3号に該当する不当労働行為か。
4争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(本件団体交渉申入れに対する原告の対応は,労働組合法7条2
号に該当する不当労働行為か。)
(被告及び被告補助参加人の主張)
ア被告補助参加人が,組合本部とは別に,原告に対して固有の団体交渉権
を有していることは,最高裁判所によって肯定されているところである。
本件団体交渉申入議題のうち東京支店における組織再編に関する事項に
ついての本件団体交渉申入議題ⅠないしⅢは,本件組織再編後の東京支店
においてネスレジャパングループ内のいくつかの会社名が使い分けられて
いることに関して,東京支店における施設管理修理,賃金決定,転勤・出
向等の権限が原告及び関係2社らのいずれに帰属するのかを明確にし,ま
た,その根拠を明らかにすることなど,いずれも東京支店独自の問題事項
について説明を求めるものであり,被告補助参加人独自の交渉議題であっ
て,被告補助参加人との関係における義務的団体交渉事項である。
被告補助参加人は,本件団体交渉申入議題ⅠないしⅢについて,平成1
6年1月26日付け要望書を提出しているが(前記2(8)オ),同書面を
提出するまでは,同議題を交渉議題から除外したことはなかった。したが
って,本件団体交渉申入議題ⅠないしⅢは,同日までは義務的団体交渉事
項であった。
イ以上によれば,原告は,本件団体交渉申入議題ⅠないしⅢについて,被
告補助参加人との単独の団体交渉に応じるべきであった。原告が,組合本
部及び組合5支部からの各団体交渉の申入れに対し,交渉議題の重複や開
催希望日の近接があるなどとして,連名方式による団体交渉を提案したこ
と自体が不当であるとまではいえないとしても,被告補助参加人からの本
件団体交渉申入れに係る団体交渉において,連名方式による団体交渉に固
執し,これが原因で上記議題について具体的な交渉に入らないまま団体交
渉が終了したのは,原告が上記議題に係る団体交渉を実質的に拒否したも
のということができる。したがって,本件団体交渉申入れに対する原告の
対応は,本件組織再編に関する上記議題に関してはそれが交渉議題から外
された平成16年1月26日までは,労働組合法7条2号の不当労働行為
に該当するというべきである。
(原告の主張)
ア被告補助参加人は,組合の下部組織であるから,組合全体の中での団体
交渉権限の配分に従わなければならず,組合本部が行う団体交渉と抵触す
る団体交渉を行ってはならないし,独自に団体交渉を行う場合,規約や慣
行上必要とされる組合本部の承認を取得し,組合本部からの指令を遵守す
るなどの制約に服さなければならない。このように,被告補助参加人には,
無限定な団体交渉権限が認められるものではない。
原告と組合本部は,平成13年1月から,本件組織再編に伴う従業員の
身分,地位,労働条件等に関する事項を含め,団体交渉を行ってきていた
ところ,被告補助参加人が本件団体交渉申入れにおいて交渉議題とした本
件組織再編に伴う東京支店における組織再編に関する事項(本件団体交渉
申入議題ⅠないしⅢ)は,組合本部の交渉議題と重複するものであり,被
告補助参加人独自の交渉議題とはいえないものであった。被告補助参加人
は,本件初審事件の第6回調査において,原告との間で交渉議題を整理す
る旨合意し,平成16年1月26日付け要望書により,本件団体交渉申入
議題から東京支店における組織再編に関する議題を除外し,それ以降,同
議題を交渉議題として扱うよう求めていないところ,これは,被告補助参
加人自身,東京支店における組織再編に関する議題が被告補助参加人独自
の交渉議題ではなく,これについて被告補助参加人が団体交渉権限を有し
ていないと考えていたことを示すものである。このように,組合の側で本
件組織再編に関する議題に係る団体交渉権限が組合本部又は組合5支部の
いずれに帰属するのかを明らかにしない以上,同議題に係る団体交渉権限
は,従前どおり組合本部に帰属すると考えるのが相当である。
また,原告は,組合本部との上記団体交渉において,組合本部が求めた
本件組織再編に伴う従業員の身分,地位,労働条件等の説明要求に応答し
ており,また,平成13年1月23日付けマネジメントニュースにより,
全従業員に対し,本件組織再編の説明を行ったほか,従業員から個別に照
会等があった場合には,個別に説明,対応をした。本件組織再編に関する
本件団体交渉申入議題ⅠないしⅢは,原告が組合本部に説明済みの本件組
織再編に関する事項について具体的な支障,疑問がないにもかかわらず,
執拗に説明を求めるものであり,相応の理由のないものである。
以上によれば,被告補助参加人は本件団体交渉申入議題ⅠないしⅢにつ
いて団体交渉権限を有しておらず,同議題は被告補助参加人との関係にお
いて義務的団体交渉事項ではないから,原告が同議題について団体交渉に
応じる義務はない。
イ組合本部及び組合5支部がそれぞれ原告との団体交渉権限を有するとし
ても,組合の内部において交渉事項を整理,調整して団体交渉権限を分配
し,その内容を使用者である原告に明らかにしなければならない。原告は,
組合本部及び組合5支部から出された交渉事項が重複する場合,二重交渉
を避けるため,交渉権限及び交渉議題の調整,整理がされるまで,団体交
渉を一時的に拒否することができるというべきである。被告補助参加人に
よる本件団体交渉申入れにおける交渉議題は,組合本部及び組合の他の支
部からの団体交渉の申入れにおける交渉議題と重複するもの又は後に重複
して申入れがされる可能性のある交渉議題であったところ,これに関して,
組合本部及び組合5支部は,内部において交渉議題の調整,整理及び団体
交渉権限の分配を一切行っておらず,また,原告からそれぞれの交渉議題
の整理,開催希望日の調整をするよう申入れを受けたにもかかわらず,こ
れらを全く行わなかった。したがって,組合側において上記の調整,整理
を行うまでは,原告には被告補助参加人からの申入れに係る団体交渉を拒
否する正当な理由があり,原告がその間団体交渉を拒否しても不当労働行
為とはならないと解すべきである。
原告は,以上の状況下において被告補助参加人らとの団体交渉を可能に
するためには連名方式による以外に方法がないため,連名方式による団体
交渉を求めたにすぎず,連名方式に固執していたものではない。そして,
本件団体交渉申入れに係る原告と被告補助参加人との間の団体交渉におい
て具体的な交渉ができていないのは,最初の団体交渉開催日とされた平成
15年1月15日については,被告補助参加人が出席を拒否したことによ
るのであり,同年7月4日及び同年12月10日の各開催日については,
被告補助参加人が個別交渉にこだわり,原告からの連名方式による団体交
渉の申入れを問題とする対応をとり続けたため,交渉議題についての交渉
に入らないまま団体交渉が終了したことによるのであり,原告が交渉議題
について回答を拒否したことはない。したがって,以上の交渉経過につい
て原告が責任を問われる理由はない。
(2)争点(2)(原告が,平成14年7月26日の団体交渉の際における被告補
助参加人側交渉員の団体交渉開催場所への移動時間につき賃金控除をした
ことは,労働組合法7条3号に該当する不当労働行為か。)
(被告の主張)
原告と被告補助参加人との間には,被告補助参加人側交渉員の団体交渉開
催場所への移動時間について賃金保証がされる旨の合意があった。この点は,
被告補助参加人が原告を被申立人として都労委に救済申立てをした前事件に
おいて,公的機関である都労委が作成した第5回調査調書中に,原告が上記
内容の賃金保証をすることを確認した旨が記載されている(前記2(4)イ)。
そうであるにもかかわらず,原告は,平成14年7月26日開催の団体交渉
の際における被告補助参加人側交渉員の団体交渉開催場所への移動時間につ
いて賃金控除をした。
原告の上記賃金控除行為は,労働組合法7条3号に該当する不当労働行為
である。
(原告の主張)
前事件の原告側補佐人として出席したP1は,その第5回調査期日におい
て,団体交渉の際における被告補助参加人側交渉員の団体交渉開催場所への
移動時間について賃金保証をするかどうかを検討する旨の発言はしたが,被
告補助参加人に対し,当該保証をする旨の約束はしていない。前事件の第5
回調査調書は,誤って記載されたものである。なお,P1は,前事件の第7
回調査期日において,第5回調査期日には賃金保証について検討する旨を述
べたが,約束はしていない旨の説明をしたところ,都労委及び被告補助参加
人側出席者から,同説明に関して第5回調査調書中の上記記載に関する指摘
はなかった。
したがって,賃金保証をするとの合意があったとして原告が被告補助参加
人側交渉員の団体交渉開催場所への移動時間につき賃金控除をしたことが労
働組合法7条3号に該当する不当労働行為であるとの被告の主張は,その前
提を欠く。
第3争点に対する判断
1争点(1)(本件団体交渉申入れに対する原告の対応は,労働組合法7条2号
に該当する不当労働行為か。)
(1)ア前記第2の2の前提事実(以下,単に「前提事実」という。)(2)及び
(3)によれば,原告は,イントラネット上や本件組織再編後の平成13年
1月22日に開催された組合本部との団体交渉において,本件組織再編に
伴う原告及び新設会社の所管業務を説明し,従業員については,東京支店
の従業員を含む旧ネスレ日本の従業員は引き続きネスレジャパンホールデ
ィング株式会社に在籍している旨の説明をしたこと,これに対し,本件組
織再編後に被告補助参加人の組合員である東京支店の従業員が交付を受け
た給与関係書類のうち,基本給通知書はネスレジャパンアドミニストレー
ション株式会社名義で作成され,給与の支給明細書及び源泉徴収票はネス
レ日本株式会社名義で作成されていたことが認められる。
以上の状況は,被告補助参加人の組合員である東京支店の従業員の労働
条件に直接関係し,かつ,それを基礎付ける重要な書類が,在籍している
との説明を受けていたネスレジャパンホールディング株式会社以外の会社
名義で作成されていたというものであり,被告補助参加人の組合員におい
て使用者がだれであるかという基本的で重大な問題状況であるということ
ができる。このような状況を前提として,被告補助参加人が,その組合員
の身分や組合員が従事する東京支店に関する法的関係について,原告に対
し説明を求めることには相応の理由があるというべきである。
本件団体交渉申入議題ⅠないしⅢの内容は,前提事実(5)アのとおりで
あり,①東京支店における施設管理修理,賃金決定等の権限がネスレジャ
パングループのどの会社にあるのか,②従業員の身分について,原告から
新ネスレ日本への出向扱いなのか,派遣扱いなのか,そのいずれでもない
のか,また,賃金支払者は新ネスレ日本なのか,③被告補助参加人の東京
支店長に対する団体交渉の申入れに対する原告側の回答文書の作成者とな
っているネスレジャパングループを構成するのはどの会社であるのか,ま
た,ネスレジャパングループにネスレジャパンアドミニストレーション株
式会社が含まれるのであれば,なぜ同社が団体交渉権限を有するのかを問
うものである。以上の内容からすると,本件団体交渉申入議題ⅠないしⅢ
は,東京支店における本件組織再編に関する事項を内容としたものであり,
被告補助参加人の組合員の身分や組合員が従事する東京支店に関する法的
関係についての交渉議題であることが優に認められる。
以上によれば,本件団体交渉申入議題ⅠないしⅢは,本件組織再編後の
東京支店の従業員に関する労働条件その他の待遇や人事に関する事項とし
て,被告補助参加人との関係における義務的団体交渉事項であるというべ
きである。そうすると,原告は,同議題について,被告補助参加人との間
で個別に団体交渉に応じる義務がある。
イ原告の主張の検討
(ア)原告は,被告補助参加人は,組合本部の下部組織であるから,組合
全体の中での団体交渉権限の配分に従わなければならず,組合本部が
行う団体交渉と抵触する団体交渉を行ってはならないなど,無限定な
団体交渉権限が認められるものではなく,本件組織再編に関する事項
については,原告と組合本部との団体交渉において交渉議題とされて
おり,被告補助参加人独自の交渉議題であるとはいえないから,組合
の側で本件組織再編に関する事項についての団体交渉権限が組合本部
又は組合5支部のいずれに帰属するのかを明らかにしない以上,同事
項に関する団体交渉権限は組合本部にあり,支部である被告補助参加
人はこれを有していない旨主張する。
しかし,支部のような単位労働組合の下部組織についても,当該支
部限りの交渉事項に当たるものについては,組合本部の統制に服する
ものの,独自に団体交渉を行う権限があると解される。そして,本件
団体交渉申入議題ⅠないしⅢの内容は,上記アで説示したとおり,被
告補助参加人の組合員の身分や組合員が従事する東京支店に関する法
的関係を内容とする交渉議題である。そうすると,本件団体交渉申入
議題ⅠないしⅢは,東京支店に係る事項に限定した議題であり,被告
補助参加人限りの交渉事項であるということができる。他方,本件全
証拠によっても,本件団体交渉申入れがされた平成15年当時,組合
本部が原告に対し,本件組織再編に関する事項について団体交渉を申
し入れていたことをうかがわせる事情は認められず,その当時,原告
が,組合本部及び被告補助参加人との関係において,当該事項につい
て重複して団体交渉を求められる可能性が具体的に存在していたとは
いえない。また,組合の各支部からの団体交渉の申入れに関して,組
合本部が原告に対し,平成9年3月21日,それぞれの支部団交で誠
意を持って回答するよう要求していたこと(当事者間に争いがな
い。)に照らして,組合本部が被告補助参加人の団体交渉権限に制約
を加えていたとは考え難く,本件全証拠によっても,そのような事実
をうかがわせる事情は認められない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(イ)原告は,本件団体交渉申入議題ⅠないしⅢについて,被告補助参加
人が平成16年1月26日付け要望書により交渉議題から除外し,そ
れ以降,交渉議題として扱うよう求めていないことからしても,義務
的団体交渉事項ではない旨主張する。
前提事実(8)オ及び証拠(乙A24,129,乙B156)によれ
ば,上記要望書の提出は,被告補助参加人が,本件初審事件の平成1
5年12月15日開催の調査期日において,都労委から,被告補助参
加人が原告と支部団体交渉を開催することの障害となっている本件組
織再編に関する議題の取扱いについて検討するよう言われたことを受
けて行われたものであること,上記要望書の内容は,「東京都労働委
員会の調査を踏まえ東京支部団体交渉議題とは区別し本要望書を提出
します。」とした上で,別途,原告,新ネスレ日本及びネスレジャパ
ンアドミニストレーション株式会社に対し,本件団体交渉申入議題Ⅰ
ないしⅢと全く同じ内容の3項目の質問事項を挙げ,これについて文
書による回答を求めるものであることが認められる。上記要望書が以
上認定の経過により提出されたこと及びその記載内容に照らすと,被
告補助参加人が上記要望書を提出した趣旨は,その提出以降,本件団
体交渉申入議題ⅠないしⅢを交渉議題から除外することを意味するの
にとどまるものであり,それ以上に,本件団体交渉申入議題Ⅰないし
Ⅲを当初から交渉議題としないこととしたものと解することはできな
い。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(ウ)原告は,組合本部との団体交渉において,本件組織再編に伴う従業
員の身分,地位,労働条件等について応答しており,また,平成13
年1月23日付けマネージメントニュースにより,全従業員に対して
本件組織再編の説明を行うなどしているから,具体的な支障や疑問が
ないにもかかわらず,本件団体交渉申入れにおいて本件団体交渉申入
議題ⅠないしⅢを交渉議題とすることには,相応の理由がないと主張
する。
しかし,被告補助参加人が本件団体交渉申入議題ⅠないしⅢを交渉
議題とすることに相応の理由があることは,前記アで説示したところ
により認めることができる。原告の上記主張は,採用することができ
ない。
(2)ア前提事実(5)及び(8)によれば,被告補助参加人が原告に対して本件団
体交渉申入れをしてから平成16年2月3日までの間に,団体交渉開催
日が定まったのは,平成15年1月15日,同年7月4日,同年12月
10日及び平成16年2月3日の4回であり,そのうち団体交渉が実際
に開催されたのは,平成15年1月15日以外の3回であること,原告
は,上記4回の団体交渉開催日が定まった日の団体交渉に関して,いず
れも連名方式により団体交渉を行うことを申し入れていたこと,平成1
5年1月15日に予定された団体交渉は,被告補助参加人が,原告に対
し,原告の上記内容の申入れについて,支部団体交渉を拒否したものと
して抗議するとともに,同日の団体交渉に出席しない旨の書面を送付し
て,団体交渉開催場所に出向かなかったため,開催されなかったこと,
同年7月4日及び同年12月10日の各団体交渉は,それぞれ双方の交
渉員が出席して開催されたが,いずれも,被告補助参加人側が被告補助
参加人との単独の団体交渉を求めたのに対し,原告側が連名方式により
団体交渉を進めようとして,団体交渉の方式等をめぐるやり取りに終始
して実質的交渉に入らずに終了したこと,平成16年2月3日の団体交
渉では,原告側交渉員から,本件団体交渉申入議題ⅠないしⅢについて
具体的な回答がされずに終了したことが認められる。
上記認定事実によれば,平成15年1月15日の団体交渉については,
それが開催されなかったのは,原告が連名方式による団体交渉を申し入
れていたという事実があるものの,被告補助参加人側の欠席もその一因
であることにかんがみると,直ちに原告が被告補助参加人との団体交渉
を拒否したものということはできない。また,平成16年2月3日に開
催された団体交渉においては,本件団体交渉申入議題ⅠないしⅢは交渉
議題から外されていたのであるから(前記(1)イ(イ)),原告側交渉員が
本件団体交渉申入議題ⅠないしⅢについて具体的な回答をしなかったこ
とをもって,原告が同団体交渉において交渉議題に応答しなかったもの
ということはできない。しかしながら,平成15年7月4日及び同年1
2月10日に開催された団体交渉については,被告補助参加人が,同年
1月15日に予定された団体交渉について連名方式による団体交渉を拒
否することを明らかにしていた上,上記各団体交渉の場でも同様の態度
を示していたにもかかわらず,原告が連名方式による団体交渉を行うこ
とに固執したため,実質的な交渉に入ることができなかったものである
ことが認められる。この事実関係に,前記(1)アで説示したとおり,本件
団体交渉申入議題ⅠないしⅢは,被告補助参加人との関係において義務
的団体交渉事項であり,原告は同議題について被告補助参加人との間で
個別に団体交渉に応じる義務を負うことを併せ考えると,同年7月4日
及び同年12月10日に開催された団体交渉については,原告が被告補
助参加人との間の個別の団体交渉を実質的に拒否したものと評価するこ
とができる。
イ原告の主張について
(ア)原告は,本件団体交渉申入れにおける交渉議題は,組合本部及び組
合の他の支部からの団体交渉の申入れにおける交渉議題と重複するも
の又は重複して申入れがされる可能性のある交渉議題であったから,
原告は,組合本部及び組合5支部において交渉議題の調整,整理が行
われるまで,被告補助参加人からの団体交渉の申入れを拒否する正当
な理由がある旨主張する。
前提事実(6)によれば,本件団体交渉申入れと近接した時期に,組
合島田支部や組合霞ヶ浦支部からも原告に対して団体交渉が申し入れ
られていたことが認められ,この事実関係からすると,原告が組合本
部や組合5支部に対して議題や日程を調整,整理するよう求めたこと
には相応の理由があるということができる。しかし,本件団体交渉申
入議題ⅠないしⅢは,東京支店に係る事項に限定した議題であり,被
告補助参加人限りの交渉事項であると認められることは,前記(1)ア
で説示したとおりである。また,前提事実(6)によれば,組合島田支
部及び組合霞ヶ浦支部からの各団体交渉の申入れにおける交渉議題は,
それぞれの支部に係る事項を議題としたものであることが認められる。
これに対し,本件全証拠によっても,組合本部及び被告補助参加人以
外の組合の各支部において,本件団体交渉申入議題ⅠないしⅢと重複
する東京支店に係る事項を交渉議題に含む団体交渉の申入れをしてい
たことは認められず,また,原告が同議題について重複して団体交渉
を求められる可能性が具体的に存在していたことも認められない。
以上によれば,原告の上記主張は,その前提を欠くものとして,採
用することができない。
(イ)原告は,本件団体交渉申入れに係る団体交渉において交渉議題に入
らないまま終了したことについて,被告補助参加人が,出席を拒否し,
また,個別交渉にこだわって連名方式による団体交渉の申入れを問題
とする対応を続けたことによるものであり,原告が責任を問われる理
由はない旨主張する。
しかし,平成15年7月4日及び同年12月10日開催の団体交渉
における原告の対応が,被告補助参加人との間の個別の団体交渉を実
質的に拒否したものと評価されるものであることは,上記アで説示し
たとおりである。したがって,原告の上記主張は採用することができ
ない。
(3)以上によれば,本件団体交渉申入れ後最初の団体交渉開催予定日に団体
交渉が開催されなかったのは,直ちに原告がこれを拒否したことによるも
のとはいえないものの,その後2回開催された団体交渉については,被告
補助参加人が個別の団体交渉を一貫して求めていたのに対して,原告が連
名方式による団体交渉に固執したため,その間で東京支店に係る組織再編
に関する事項(本件団体交渉申入議題ⅠないしⅢ)について団体交渉が行
われなかったものであり,その状態は平成16年1月26日に被告補助参
加人が同事項を交渉議題から外すまで継続していたことが認められる。こ
の間の原告の上記対応は,連名方式による団体交渉でなければ被告補助参
加人との個別の団体交渉をしないというものであって,実質的に団体交渉
を拒否したものと評価できるものであるから,労働組合法7条2号の不当
労働行為に該当するというべきである。
2争点(2)(原告が,平成14年7月26日の団体交渉の際における被告補助
参加人側交渉員の団体交渉開催場所への移動時間につき賃金控除をしたのは,
労働組合法7条3号に該当する不当労働行為か。)
(1)前提事実(4)によれば,平成14年6月25日に開催された前事件の第
5回調査調書には,都労委の審査委員が原告及び被告補助参加人に確認し
た事項の一つとして,被告補助参加人側交渉員の団体交渉及び移動時間に
ついては賃金カットを行わない旨記載されていること,原告は,同年7月
26日開催の団体交渉の際における被告補助参加人側交渉員の団体交渉開
催場所への移動時間について賃金控除をしていることが認められる。
(2)原告は,前事件の原告側補佐人として出席したP1は,その第5回調査
期日において,組合員の団体交渉及び移動時間について賃金保証をするか
どうかを検討する旨の発言はしたが,当該保証をする旨の約束はしておら
ず,前事件の第5回調査調書の記載は誤りであること,P1は,前事件の
第7回調査期日において,当該保証を約束していないことを説明したと主
張し,本件初審事件及び本件再審査事件において提出されたP1の陳述書
(乙B153,159)並びに本件初審事件及び本件再審査事件における
P1の証人尋問調書(乙C2,4,6)中には,上記主張と同旨の陳述及
び供述部分がある。
しかし,証拠(乙A120,121,乙B154,159,乙C6)に
よれば,被告補助参加人は,原告に対し,平成14年8月28日付け「抗
議並びに要求書」と題する書面において,同年7月26日開催の原告と被
告補助参加人との団体交渉の際における被告補助参加人側交渉員の団体交
渉開催場所への移動時間につき原告が賃金控除をしたことについて,前事
件の調査の席上,原告は移動時間について賃金保証の対象となることを確
認し,その旨調査調書に記載されていることを取り上げて抗議しているこ
と,P1は,同年11月20日,前事件の第5回調査調書の写しを手に入
れ,その記載内容を確認しているが,P1を含め原告側からは,同調書の
記載が誤っている旨の指摘もその訂正の申出等もしていないことが認めら
れる。これに加え,証拠(乙B154)によれば,前事件の第6回調査期
日から前事件が取り下げられるまでの間に作成された調査調書及びあっせ
ん調書には,原告から賃金保証に関する検討結果の報告や賃金保証はしな
い旨の発言等がされたことをうかがわせる記載は全くないことが認められ
る。以上の事実関係に照らすと,P1の上記陳述及び供述部分は信用する
ことができない。
(3)以上によれば,原告は,前事件の第5回調査期日において,被告補助参
加人に対し,被告補助参加人側交渉員の団体交渉及び移動時間について賃
金控除をしないことを確認したものであり,遅くともその時点では,原告
と被告補助参加人との間に上記移動時間について賃金控除をしないことに
ついて合意が成立していたものと認めるのが相当である。そうすると,原
告が同調査期日後の平成14年7月26日に開催された団体交渉における
被告補助参加人側交渉員の団体交渉開催場所への移動時間について賃金控
除をしたのは,上記合意に違反する行為である。そして,原告が,当該賃
金控除を行うについて,被告補助参加人に対し,事前に説明したり,協議
を持ち掛けたりしたなどの事情がうかがえないことからすると,当該賃金
控除は,原告が一方的に上記合意を破って被告補助参加人側交渉員に経済
的打撃を与える行為であり,被告補助参加人の団体交渉行為を萎縮させる
ものであるといえるから,原告がした当該賃金控除は,労働組合法7条3
号の不当労働行為に該当するというべきである。
3前記1及び2によれば,中労委が本件命令においてした,①本件団体交渉申
入議題のうち東京支店に係る会社組織再編に関する事項について,同申入れか
ら平成16年1月26日までの間,原告の提案する団体交渉の方式に固執して
被告補助参加人との単独の団体交渉に実質的に応じなかったことが労働組合法
7条2号に該当する不当労働行為であるとした判断,②前事件において,団体
交渉開催場所への移動時間について控除しない旨述べたにもかかわらず,平成
14年7月26日に実施された原告と被告補助参加人との間の団体交渉が行わ
れた際に団体交渉開催場所への移動時間について被告補助参加人側交渉員の賃
金を控除したことが同条3号に該当する不当労働行為であるとした判断は,い
ずれも相当であり,原告が主張するような違法はない。そして,これに対する
救済方法として,本件命令の主文Ⅰ項1の内容の文書掲示を命じたことも相当
である。
第4結論
以上によれば,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主
文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第19部
裁判長裁判官青野洋士
裁判官渡邉和義
裁判官荒谷謙介

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