弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役八月及び罰金百万円に処する。
     右罰金を完納することができないときは金五千円を一日に換算した期間
被告人を労役場に留置する。
     訴訟費用のうち当審証人Aに対し昭和三十二年四月二十五日支給した分
を除き、その余は全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は弁護人信部高雄、同鬼倉典正共同作成名義の控訴趣意書に記載
されたとおりであるから、ここにこれを引用し、次のように判断する。
 原判示第二の事実(国家公務員法違反)に関する控訴趣意第一点(不法に公訴を
受理した違法)及び同第二点(審理不尽)について
 昭和二十九年十月八日付起訴状記載の国家公務員法違反の公訴事実によると、被
告人が秘扱文書である外務省経済局第二課発行の「B」昭和二十六年度上巻及び同
下巻各一冊をソ連人Cに交付してその内容を知らせ、以て職務上知ることのできた
秘密を漏らした旨を摘示するのみで、その秘密の具体的内<要旨第一>容を表示して
いないことは所論のとおりである。しかしながら国家公務員法第百条第一項にいわ
ゆる「秘密」とは、所論実質的秘密に属する事項ばかりてなく、国家が
一般に知られることを禁ずる旨を明示した事項を指<要旨第二>称するものと解すべ
く、国家公務員である職員に対し、その職務上の関係において配布された特定の文
書に、いわゆる秘扱の表示が附してある場合には、その受配公務員にお
いて当該文書の内容を一般に知らせることを禁ずる旨を国家機関が明示したものと
認めるのが相当である。ところで本件の「B」昭和二十六年度上巻及び同下巻に
は、いずれもその表紙の左肩に<記載内容は末尾1-(1)添付>と印刷表示して
あること押収の同文書によつて明白であり、右は国家機関である外務省の主管当局
が該文書をいわゆる秘扱のものと指定し、部外者にその内容を漏らすことを禁ずる
旨を明示しているものと認むべきであつて、この点は原審証人D、同E、同Fの各
証言等に徴しても疑を容れないところである。して見れば右文書につき特に国家機
関による秘扱の解除手続または同文書の全内容の公式発表がなされない限り、同文
書の内容はそれが実質的に秘扱に値すると否とにかかわらす、前示法条所定の秘密
に該るものというべく、従つて職務上同文書の配布を受けた国家公務員が、これを
故なく無断で部外者に交付し、その内容を一般人の知り得べき状態に置くときは、
職務上知り得た秘密を漏らしたものといわなければならない。論旨は国家公務員法
第百条第一項にいわゆる秘密とは実質的秘密を指称するのであるから、同法条項違
反の公訴事実には秘密の具体的内容及び程度を明示して訴因を特定する、ことを要
し、また裁判所としてもこの点の審理を尽くすべきであるとの見解に立脚して、原
審は訴因不特定のため無効たるべき所論公訴を不法に受理した違法があると共に、
所論秘密の具体的内容及び程度につき審理を尽くさない違法が存する旨主張するの
であるが、所論秘密の概念が前説示のように規定さるべきものである以上、論旨は
その前提において誤つているのであるから、いずれも採用するを得ない。
 (その余の判決理由は省略する)
 (裁判長判事 谷中董 判事 坂間孝司 判事 荒川省三)

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