弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人岩橋健作成の控訴趣意書に記載のとおりであるから、
これを引用する。 論旨は、原判決は、被告人に対し、前方注視、減速徐行の各義
務および自動二輪車が三差路を横断し終るのを待つて進行すべき義務の違反がある
として、本件事故につき被告人の業務上の過失を認めたが、被告人は前方注視義務
を怠つてはおらず、また、右のその余の注意義務は、原判決が本件交差点の範囲の
確定を誤つて別紙図面のイロヌチトヘホハニルイの各点を順次結んだ線内の道路部
分とし、A運転の自動二輪車の方が被告人運転の自動車より先に右の交差点内には
いつたと誤認した結果、被告人にこれを課したものであるが、交差点の範囲は、右
のうちイロヌリルイの各点を順次結んだ線内の道路部分であつて、被告人運転の自
動車の方が先に交差点内にはいつているから、右の注意義務を負担するのはAであ
つて、被告人ではなく、したがつて、被告人には過失はない。結局、原判決は交差
点の解釈について法令の適用を誤り、被告人の過失を認定した事実誤認の違法があ
る、というのである。
 <要旨>よつて所論にかんがみ、まず、本件交差点の範囲についてみるに、司法巡
査作成の実況見分調書、原裁判所の検証調書および当審における検証調書な
らびに証人Bに対する尋問調書によれば、本件事故現場付近の道路状況は、別紙図
面のとおりであつて、北から南に通ずる幅員約八・二メートルのアスフアルト舗装
された国道四二号線(以下新国道という。)が和歌山県有田郡a町大字bc番地先
において、徐々に南々西に彎轡曲し始める東外側に、新国道と一直線をなして南方
に向つて分岐する幅員約六・二メートルのアスフアルト舗装された県道(旧国道四
二号線の一部、以下旧国道という。)が接続して、鋭角をなしてY字型に交わる三
差路で、旧国道の東側線は彎曲し始める新国道の東側線にイ点において接し本来の
幅員による双方の道路は、Y字型のまたの基点リ点において分岐し、双方の道路に
よつて挾まれたまたの部分は、リ点から約三〇メートル前後のヘホを結ぶ線まです
みを切り取られ、さらにヘホの線と新国道の東側線および旧国道の西側線と交わる
すみもトヘを結ぶ線およびハホを結ぶ線によつてそれぞれ切り取られ、リトヘホハ
リの各点を順次結んだ線内は、アスフアルト舗装され、新旧国道の共通の道路とな
つていて、リト間の距離は四〇・五メートル、ヘホ間の距離は一〇・五メートルあ
るという特殊なY字型三差路となつており、新国道は北方からこの分岐点に向つ
て、また、旧国道は南方からこの分岐点に向つて、いずれも、ゆるやかな勾配をな
し、分岐点付近はその頂上となつていることが認められる。ところで、右に認定の
ような、幅員の広い幹線道路がこれと分岐する支線道路と鋭角をなして交差してい
るY字路において、その双方の道路の本来の幅員による内側の線の接点から各道路
の他の側線に下ろした垂線と分岐する支線道路の外側線が幹線道路の彎曲した側線
に接する点から幹線道路の他の側線に下ろした垂線とによつて囲まれる部分が道路
交通法にいわゆる交差点の範囲に属することは勿論、さらにY字のまたの部分のす
みを切り取つて道路としたことにより道路の幅員が拡張してある場合には、その拡
大してある部分とこれを挾む両側の道路とは右同法にいわゆる交差点に包含される
ものと解する。したがつて、本件においては、別紙図面のイロヌリルィの各点を順
次結んだ線内の道路部分と、ルニハホヘトチヌリルの各点を順次結んだ線内の道路
部分、すなわち右の両部分を合わせたイロチトヘホハニィの各点を順次結んだ線内
の道路部分が双方の道路の交わる部分であつて、右の交差点にあたる、と解すべき
である。
 そこで、すすんで被告人の過失の有無についての所論について判断するに、原判
決挙示の各証拠および当審における事実取調の結果によれば、被告人は、昭和四一
年一一月七日午前一〇時三〇分ごろ、普通乗用自動車を運転し、白浜方面に向つて
前記新国道を時速約五〇キロメートルで南進し、前記Y字型交差点付近にさしかか
つた際、同交差点の南方の旧国道から交差点にはいり新国道の北行車線に出ようと
して、時速約二〇キロメートルで被告人の方にやや斜めになつて、被告人の自動車
の方を見ないで交差点内を横断しようとしていたA(四五歳)運転の自動二輪車
を、約五四メートル前方に認め、同女の方で進路を譲つてくれるものと思つて、ク
ラクシヨンを鳴らしただけで同一速度のまま進行したところ、同女がなおも被告人
運転の自動車に気づかずに被告人の進路前方を斜めに横断しようとして進行して来
たので、右二輪車に約一七メートルに迫つて衝突の危険を感じ、ハンドルを右に切
りブレーキを踏んで急制動の措置をとつたが、間に合わず、交差点内の新国道のセ
ンターライン付近で、時速約二〇キロメートルの速度で進行して来た同女の自動二
輪車前部に自車前部を衝突させ、その結果、同女が原判示の入院加療約六ケ月を要
する頭蓋骨骨折兼骨盤骨折、左大腿打撲傷等の傷害を負つたこと、他方、Aは、旧
国道から交差点に出る際、旧国道側の交差点南端から約一〇メートル南方の地点か
ら約一六四メートル北方の新国道上を南進してくる被告人運転の自動車を認め、交
差点手前で、一寸、停止しかけたが、十分、交差点内を横断して同交差点内の新国
道の北行車線に出ることができると思つて交差点にはいり、時速約二〇キロメート
ルぐらいで別紙図面のガートレール3と4の間付近に向け、左方にのみ注意を払つ
て右前方に対する注視を欠いたまま、やや斜め横断の形で交差点を横断していたと
ころ、被告人運転の自動車と衝突し、前記傷害を負つたことが認められる。右認定
事実によると、被告人運転の自動車が本件交通整理の行なわれていない交差点には
いろうとした際には、既にA運転の自動二輪車が旧国道から交差点内にはいつて横
断しかけていたことがうかがわれるから、道路交通法三五条一項により、被告人と
してはA運転の自動二輪車の進行を妨げてはならないのであり、したがつて、この
ような場合、本件交差点の特殊性をも考慮すると、自動車運転者としては、減速徐
行して、自動二輪車が前記別紙図面リ点の手前で停止するのか、または、そのまま
横断してくるのか、その進行状況を注視し、停止する気配がなければ同車が交差点
を横断し終るのを待つて進行すべき業務上の注意義務があつたといわなければなら
ない。しかるに、被告人は約五四メートル前方に交差点を横断しかけているA運転
の自動二輪車を認めた際、同女が被告人運転の自動車に気づいていないのを認めな
がら、同女の方で進路を譲つてくれるものと軽信し、直ちに減速徐行してその進行
状況を見きわめることなく、単にクラクシヨンを鳴らしただけで時速約五〇キロメ
ートルのまま進行し、同女がなおも気がつかないで進行して来るので、約一七メー
トルに迫つて衝突の危険を感じ、急制動の措置をとつたというのであるから、右の
注意義務を尽したということはできず、この点において被告人に過失があつたと認
めざるをえない。なお、ここで、被害者Aの過失の有無について付言するに、被害
者は交差点への先入車両として、道路交通法三五条一項により、交差点を通行する
について優先権があることは前記のとおりであるが、もともと同法条は、交通整理
の行なわれていない交差点における車両等の優先順位を一般的に規定して、交差点
における車両等の交通の円滑を図ることを目的としているのであつて、車両等を運
転する者がこれを遵守しなければならないことはいうまでもないけれども、そうだ
からといつて、先入車両等の運転者にすべての注意義務を免除し、衝突事故を起こ
してもすべて責任がないとまで規定した趣旨とは考えられない。ことに、本件交差
点は、その東側線の長さが六八・六メートルもあるという変型Y字型交差点である
から、いずれの車両が交差点への先入車両であるか、相互に判明しにくいことが考
えられ、また、交差点の北端線については何の標示もなく、どこから交差点になる
のか一般にはわかりにくく、かつまた、新国道は幅員が明らかに広い優先道路であ
るという事情もあつて、当審証人Bの証言によれば、旧国道から北進し、交差点内
を進行して新国道の北行車線にはいろうとする車両は、新国道を南進または北進す
る車両があれば右交差点の中心(別紙図面リ点の手前)付近で停止して(先入車両
に停止すべき法規上の義務はない)その通過を待つて北行車線に向け進行している
のが実情であることが認められることなどに徴すると、被害者としては、交差点に
はいつてからのちも、新国道を南北進する車両の交通に注意を払い、その安全を確
認したうえで新国道の北行車線に向け進行し危険の発生を未然に防止すべき注意義
務があるものといわなければならない。しかるに、被害者は交差点にはいる前に被
告人運転の自動車を認めて十分交差点を横断できると軽信し、交差点内に進入後は
被告人運転の自動車に対する注視を全く欠いてそのまま横断中衝突したというので
あるから、右の注意義務を尽したものとはいえず、この点、被害者にも過失があつ
たといわなければならない。
 以上要するに、交差点の範囲の確定および被告人の過失の認定について、原判決
には所論のような法令適用の誤、事実誤認はないから、論旨は理由がない。
 よつて、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却し、当審の訴訟費用の負担免
除につき同法一八一条一項但書を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 竹沢喜代治 裁判官 尾鼻輝次 裁判官 知識融治)
別 紙
<記載内容は末尾1添付>

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